このお話は同作品集内の霊夢編、早苗編、咲夜編、魔理沙編と同じシリーズですが、今回に限り他のシリーズを読まなくても大丈夫となっております。
ですが、出来ることなら同シリーズの作品も読んでいただけるとありがたいです。
今から100年ほど前の世界
私は御阿礼の子である阿弥と親友だった。
彼女とはほんの些細なきっかけで仲良くなり、次第に会うようになった。
ある、良く晴れた日のことだった。
「こんなところを一人で歩いていると攫われますよ。お嬢さん。」
人里から離れた畦道を彼女はたった一人で歩いていた。
この頃はまだ、博麗大結界も完成しておらず、人間にとって妖怪はただの畏怖の対象でしかなかった時代だった。
「あなたは…鴉天狗かしら?あなた、私を攫ってくださらない?」
「は!?」
「ちょうどいい研究材料を探していたのよ。鴉天狗の生態なんてなかなか見れないわ。」
目を輝かせてこちらを見てくるが、生憎のところ私はいくらかわいい女の子でも人を攫うことはしない。
だが少し引っかかる単語があった。
「研究材料?」
「ええ、幻想郷縁起にはまだ空白の部分が多すぎるもの。」
幻想郷縁起?確か人間の作っている妖怪辞典のようなものと聞いたが…
「なるほど。察するにあなたは御阿礼の子ですね?」
「おや?稗田のことを知っているのですか?そういえば自己紹介がまだでしたね。私は阿弥。稗田阿弥と言います。」
「あやや。奇遇ですね。私は文。射命丸文と申します。」
「よろしくね、文さん。」
「ええ、よろしくね、阿弥。」
きっかけとしてはこんなものだった。
「あら?あれは阿弥さんじゃないですか。」
ある日、雲ひとつ無い秋の空を飛んでいたら見覚えのある人影が目に入った。
そして彼女に向かって急降下し、ちょうどお姫様抱っこのような形で彼女を抱えあげた。
「だから言ったでしょう?こんなところを一人でうろついていたら攫われますよって。」
「ここに来ればまたあなたと出会えるような気がしたものですから。」
正直、呆れた。何ともおかしな人間だ。
「それで文さん、どこに連れて行ってくださるのですか?」
「う~ん、そうですね…まあ、行けばわかりますよ。」
彼女が息苦しくならないように工夫して飛びながら妖怪の山を目指す。
「阿弥さん、もう少しで着きますので私が良いと言うまで目を閉じていてください。」
彼女はコクリとうなずいてからしっかりと目を閉じた。
地面の上に彼女を降ろし、
「阿弥さん、着きましたよ。目を開けてみてください。」
その言葉の通り、彼女はゆっくりと目を開く。
「わぁ…」
それ以上彼女は何も言えずに、ただ大きく開いた口を小さな手のひらで抑えていた。
「どうです?気に入ってもらえましたか?」
私が彼女を連れてきたのは妖怪の山の人里からは見ることの出来ない向こう側だった。
しかも、周囲は全て真っ赤な紅葉で染め上げられている。
地面もまた赤い絨毯が敷き詰められたようになっている。
「どうです?人里からは決して見ることの出来ない妖怪の山の裏側です。」
「凄い…こんなに一面の紅葉、初めて見ました…」
私は何も余計なことを言わずに彼女に自由に見て回らせた。
「でもここは妖怪の山でしょう?危険じゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。私がここにいる限り他の天狗も河童も近づきませんよ。」
「文さんって意外に凄いんですね…」
感嘆されたがつまり私、甘く見られてたのね…
「じゃあ、次に行きましょうか。」
そう言って妖怪の山で最も大きい滝や池のほとりの祠などをひとしきり案内して、そろそろ日も暮れようかという頃
「それじゃあ最後です。ちょっと飛ばなくてはいけないのでしっかりつかまっていてくださいね。」
そう言って目指したのは…
「幻想郷の夕暮れです。」
「綺麗…」
妖怪の山の山頂から眺める日の入りだ。
もはや彼女に多くの言葉は要らないだろう。
「どうです?楽しんでいただけましたか?」
「ええ…文さん、ありがとうございます。」
そして彼女を家まで送ってその日は別れた。
それからと言うもの、私達はたまに会って他愛も無い話などをしたりした。
ただ、御阿礼の子である彼女は他の人間と違って長くて30歳までしか生きることが出来ず、
しかもそのほとんどを幻想郷縁起に費やさなければならないという悲しい運命を背負っていた。
彼女と会う機会は少なかったため、ある日こんな事を聞いてみた。
「ねえ阿弥、あなたは他人から自分の生きる意味を押し付けられてるけど、それで本当にいいの?」
と彼女の決して普通の女の子とは言えない運命を嘆くように聞くと、
「押し付けたのは別の私よ。それに、私のやっていることは幻想郷で人間と妖怪が良い関係を築くのにきっと役に立つはずよ。」
「でも、そのせいで30歳までしか生きられないじゃない!!」
親友とはいえ取材対象に大声を出してしまった私をなだめるように
「そうね…『彼女』からは生きている事が罪とか言われるわ。でも、私はこの運命から逃げる気にはならないわ。
だって…あなたのように心優しい妖怪まで人間からは恐れられるんですもの。私はこの寂しい現実を良くしたいのよ。」
と希望を語ってくれた。
それにね、
「私は死んでも、次の私はまたあなたに会えるわ。だから文、その時まで覚えていてね。」
思えば、私がここまで心を開いたのは人妖含めて彼女だけかもしれない。
「わかったわ、阿弥。たとえあなたが忘れても私はずっと覚えているわ。」
「約束よ、文。」
「ええ、約束ね阿弥。」
これが私と彼女が交わした約束だった。
その後、阿弥は幻想郷縁起の執筆に取りかかり、最期の時まで会うことが出来なかった。
彼女の最期の時
「ねえ、阿弥。あなたはこれで満足なの?」
「今さら言うことじゃないわ、文。私は自分の運命を全う出来たわ。知らずに死ぬ人間よりは良いと思うわ。」
「そうかしら?」
私は彼女の人生を否定するつもりはなかったが、
「でも阿弥。自分の人生を自分の好きなように生きれないなら私は意味が無いと思うわ。」
私がこんなことを言ってしまうのはきっと彼女との別れを認めたくないからだろう…
「それは、あなたの意見でしょう?私は十分に好きなことをして生きたわ。」
「心残りがあるとしたら、私の幻想郷縁起で幻想郷が変わるところが見れないくらいね…」
「それだけじゃないわね?私はあなたと過ごした時間は多くないけど、十分にあなたのことを見てきたつもりよ。」
「…ねえ、文?約束、守ってよね…」
「ええ、もちろんよ…だから、心配しないで…」
「今までありがとう、文。来世でも、友達でいてよね…」
「当たり前よ…」
「じゃあね、文。」
そう言って彼女は息を引き取った。
眠るように、晴れやかに、笑顔で…
彼女の笑顔を崩してはいけないと思い、ずっとこらえていたものが溢れ出す。
「阿弥、私にはあなたのような生き方は出来ないわ。他人に生き方を決められるなんて、ごめんよ…」
でも、それが彼女の短い生で導き出した答えなのだ。
「人間、か…妖怪と違って儚く、悲しいものね…」
今思えば、この時だろう。人間と妖怪、どちらが恵まれているか。そう、考えたのは…
今から数十年前の世界
今の御阿礼の子の稗田阿求は幻想郷縁起も書き終わり、その生は、もう長くなかった。
私は、彼女との約束を果たす為にあの頃とほとんど変わらない稗田家を訪れた。
「ねぇ、阿求さん。昔、私と約束したこと覚えてる?」
「あなたと?今の私はあなたと約束はしてないわ。きっと前の私でしょう?」
「その通りです。先代の阿弥さんと私は約束しました。でも、そんなことは、もう、どうでもいいです…」
やっぱり彼女は転生前の記憶は幻想郷縁起のことしか無いのね…
魂が同じだけで彼女は、阿弥とは別人なのだから…
「でも…」
と彼女は口を開く。
「あなたと友達だったことは覚えているわ!!」
と言った彼女の笑顔は、阿弥の笑顔にそっくりな満面の笑みだった。
「あれ!?文、どうしたの?」
そう言われてから気付いた私は、頬につたう涙を拭った。
「何でもないわ。ありがとう。阿弥…」
そう言って空を見上げる私を阿求は不思議そうに眺めていた。
(決められた運命をまっすぐに走る。か、それも一つの答えなのね…覚えていてくれてありがとう。阿弥…)
ですが、出来ることなら同シリーズの作品も読んでいただけるとありがたいです。
今から100年ほど前の世界
私は御阿礼の子である阿弥と親友だった。
彼女とはほんの些細なきっかけで仲良くなり、次第に会うようになった。
ある、良く晴れた日のことだった。
「こんなところを一人で歩いていると攫われますよ。お嬢さん。」
人里から離れた畦道を彼女はたった一人で歩いていた。
この頃はまだ、博麗大結界も完成しておらず、人間にとって妖怪はただの畏怖の対象でしかなかった時代だった。
「あなたは…鴉天狗かしら?あなた、私を攫ってくださらない?」
「は!?」
「ちょうどいい研究材料を探していたのよ。鴉天狗の生態なんてなかなか見れないわ。」
目を輝かせてこちらを見てくるが、生憎のところ私はいくらかわいい女の子でも人を攫うことはしない。
だが少し引っかかる単語があった。
「研究材料?」
「ええ、幻想郷縁起にはまだ空白の部分が多すぎるもの。」
幻想郷縁起?確か人間の作っている妖怪辞典のようなものと聞いたが…
「なるほど。察するにあなたは御阿礼の子ですね?」
「おや?稗田のことを知っているのですか?そういえば自己紹介がまだでしたね。私は阿弥。稗田阿弥と言います。」
「あやや。奇遇ですね。私は文。射命丸文と申します。」
「よろしくね、文さん。」
「ええ、よろしくね、阿弥。」
きっかけとしてはこんなものだった。
「あら?あれは阿弥さんじゃないですか。」
ある日、雲ひとつ無い秋の空を飛んでいたら見覚えのある人影が目に入った。
そして彼女に向かって急降下し、ちょうどお姫様抱っこのような形で彼女を抱えあげた。
「だから言ったでしょう?こんなところを一人でうろついていたら攫われますよって。」
「ここに来ればまたあなたと出会えるような気がしたものですから。」
正直、呆れた。何ともおかしな人間だ。
「それで文さん、どこに連れて行ってくださるのですか?」
「う~ん、そうですね…まあ、行けばわかりますよ。」
彼女が息苦しくならないように工夫して飛びながら妖怪の山を目指す。
「阿弥さん、もう少しで着きますので私が良いと言うまで目を閉じていてください。」
彼女はコクリとうなずいてからしっかりと目を閉じた。
地面の上に彼女を降ろし、
「阿弥さん、着きましたよ。目を開けてみてください。」
その言葉の通り、彼女はゆっくりと目を開く。
「わぁ…」
それ以上彼女は何も言えずに、ただ大きく開いた口を小さな手のひらで抑えていた。
「どうです?気に入ってもらえましたか?」
私が彼女を連れてきたのは妖怪の山の人里からは見ることの出来ない向こう側だった。
しかも、周囲は全て真っ赤な紅葉で染め上げられている。
地面もまた赤い絨毯が敷き詰められたようになっている。
「どうです?人里からは決して見ることの出来ない妖怪の山の裏側です。」
「凄い…こんなに一面の紅葉、初めて見ました…」
私は何も余計なことを言わずに彼女に自由に見て回らせた。
「でもここは妖怪の山でしょう?危険じゃないんですか?」
「大丈夫ですよ。私がここにいる限り他の天狗も河童も近づきませんよ。」
「文さんって意外に凄いんですね…」
感嘆されたがつまり私、甘く見られてたのね…
「じゃあ、次に行きましょうか。」
そう言って妖怪の山で最も大きい滝や池のほとりの祠などをひとしきり案内して、そろそろ日も暮れようかという頃
「それじゃあ最後です。ちょっと飛ばなくてはいけないのでしっかりつかまっていてくださいね。」
そう言って目指したのは…
「幻想郷の夕暮れです。」
「綺麗…」
妖怪の山の山頂から眺める日の入りだ。
もはや彼女に多くの言葉は要らないだろう。
「どうです?楽しんでいただけましたか?」
「ええ…文さん、ありがとうございます。」
そして彼女を家まで送ってその日は別れた。
それからと言うもの、私達はたまに会って他愛も無い話などをしたりした。
ただ、御阿礼の子である彼女は他の人間と違って長くて30歳までしか生きることが出来ず、
しかもそのほとんどを幻想郷縁起に費やさなければならないという悲しい運命を背負っていた。
彼女と会う機会は少なかったため、ある日こんな事を聞いてみた。
「ねえ阿弥、あなたは他人から自分の生きる意味を押し付けられてるけど、それで本当にいいの?」
と彼女の決して普通の女の子とは言えない運命を嘆くように聞くと、
「押し付けたのは別の私よ。それに、私のやっていることは幻想郷で人間と妖怪が良い関係を築くのにきっと役に立つはずよ。」
「でも、そのせいで30歳までしか生きられないじゃない!!」
親友とはいえ取材対象に大声を出してしまった私をなだめるように
「そうね…『彼女』からは生きている事が罪とか言われるわ。でも、私はこの運命から逃げる気にはならないわ。
だって…あなたのように心優しい妖怪まで人間からは恐れられるんですもの。私はこの寂しい現実を良くしたいのよ。」
と希望を語ってくれた。
それにね、
「私は死んでも、次の私はまたあなたに会えるわ。だから文、その時まで覚えていてね。」
思えば、私がここまで心を開いたのは人妖含めて彼女だけかもしれない。
「わかったわ、阿弥。たとえあなたが忘れても私はずっと覚えているわ。」
「約束よ、文。」
「ええ、約束ね阿弥。」
これが私と彼女が交わした約束だった。
その後、阿弥は幻想郷縁起の執筆に取りかかり、最期の時まで会うことが出来なかった。
彼女の最期の時
「ねえ、阿弥。あなたはこれで満足なの?」
「今さら言うことじゃないわ、文。私は自分の運命を全う出来たわ。知らずに死ぬ人間よりは良いと思うわ。」
「そうかしら?」
私は彼女の人生を否定するつもりはなかったが、
「でも阿弥。自分の人生を自分の好きなように生きれないなら私は意味が無いと思うわ。」
私がこんなことを言ってしまうのはきっと彼女との別れを認めたくないからだろう…
「それは、あなたの意見でしょう?私は十分に好きなことをして生きたわ。」
「心残りがあるとしたら、私の幻想郷縁起で幻想郷が変わるところが見れないくらいね…」
「それだけじゃないわね?私はあなたと過ごした時間は多くないけど、十分にあなたのことを見てきたつもりよ。」
「…ねえ、文?約束、守ってよね…」
「ええ、もちろんよ…だから、心配しないで…」
「今までありがとう、文。来世でも、友達でいてよね…」
「当たり前よ…」
「じゃあね、文。」
そう言って彼女は息を引き取った。
眠るように、晴れやかに、笑顔で…
彼女の笑顔を崩してはいけないと思い、ずっとこらえていたものが溢れ出す。
「阿弥、私にはあなたのような生き方は出来ないわ。他人に生き方を決められるなんて、ごめんよ…」
でも、それが彼女の短い生で導き出した答えなのだ。
「人間、か…妖怪と違って儚く、悲しいものね…」
今思えば、この時だろう。人間と妖怪、どちらが恵まれているか。そう、考えたのは…
今から数十年前の世界
今の御阿礼の子の稗田阿求は幻想郷縁起も書き終わり、その生は、もう長くなかった。
私は、彼女との約束を果たす為にあの頃とほとんど変わらない稗田家を訪れた。
「ねぇ、阿求さん。昔、私と約束したこと覚えてる?」
「あなたと?今の私はあなたと約束はしてないわ。きっと前の私でしょう?」
「その通りです。先代の阿弥さんと私は約束しました。でも、そんなことは、もう、どうでもいいです…」
やっぱり彼女は転生前の記憶は幻想郷縁起のことしか無いのね…
魂が同じだけで彼女は、阿弥とは別人なのだから…
「でも…」
と彼女は口を開く。
「あなたと友達だったことは覚えているわ!!」
と言った彼女の笑顔は、阿弥の笑顔にそっくりな満面の笑みだった。
「あれ!?文、どうしたの?」
そう言われてから気付いた私は、頬につたう涙を拭った。
「何でもないわ。ありがとう。阿弥…」
そう言って空を見上げる私を阿求は不思議そうに眺めていた。
(決められた運命をまっすぐに走る。か、それも一つの答えなのね…覚えていてくれてありがとう。阿弥…)
やや急展開なのが残念です。
地の文が薄く、描写も弱いです。
僭越ながら例を挙げますと、例えばこの部分。
>しかも、周囲は全て真っ赤な紅葉で染め上げられている。
地面もまた赤い絨毯が敷き詰められたようになっている。
こんなに情景描写の素材が豊富な場面はそうないです。これの三倍四倍ふくらませることができたと思うので、そういうチャンスを逃さずに豊かな描写を心掛けるとよいのではないでしょうか。
儚いからこそ,未来を信じるし,儚いからこそ,他人の苦しみがわかる,儚いからこそ,次の世代に託したくなります.(最後のがわかるようになったのは年をとってしまったから!?)
阿弥の話はいいですね.
作者様は学生さん?なのに,こんなにUPしてお時間は大丈夫なのですか?などと余計な事が気になってしまいます.
とにかくSSは楽しくなければ.ご無理なさらないでくださいね.言語学には,楽しくないと,学習効果が上がらないという有名な研究結果があるそうです.
やればできるじゃんっ!今までの作者様の作品に比べて、明らかに肩の力が抜けた感じの良い文章に
なっている。貴方の表現したい射命丸文と、実際の文章に描き起こした射命丸文との距離がどんどん
近づいている気がします。
本編の続きも楽しみですが、新聞記者ではない文の物語も心待ちにしています。
会話分が多すぎるのが原因でしょうか。地の文や描写を増やすともっとよくなると思います
でもその魂は確かに同じなのね