それではごゆっくり、と本棚の影に消えていくフランを見送ると、溜息と共に小悪魔は頤に右手を当てた。眼前には小悪魔のあずかり知らぬ本が、否、本棚が、いつの間にやらそびえ立っていたからだ。
紅魔館の図書館に不意に本が増えている、という現象には割と慣れていたが、本棚ごと増えるという現象は小悪魔をして珍しいと言わせるものだ。
「まあ、気がつけば本が減っている、という現象にも最近は慣れてしまいましたが」
自嘲気味に呟く小悪魔の左手はうっすらと光を発していた。光は不自然なまでに青白く、館内の闇をキャンパスに二度、三度と複雑な図形を描いた。
何時も通りの手順で何時も通りの結果を得るために、その本が主を害さぬものかを調べるために、幾重にも図形を重ねる。
描かれた図形から立ち上る光は、舐めるようにして本棚を這い、本の中へと潜り込んでいく。トラップ確認と魔力反応調査は、小悪魔の額にうっすらと汗が滲んだ頃、終わりを告げた。
「ご苦労様」
小悪魔が安堵の溜息を吐くよりも先に、机で本を書いていた主がその労をねぎらった。
「で、その本棚、どうかしら?」
「は、はい。いたって普通の本だけです。また本棚も極々普通の本で、一切魔力を持っていません」
「痕跡、或いはその欠片も?」
「はい」
小悪魔の報告にふむ、とパチュリーは頷くと頤に右手を当てる。左手では先ほどまで紙の上を走らせていたペンがくるり、くるりと回されていた。
と、パチュリーの横からくつくつと笑う声が響いた。
「まったくパチェも素直じゃないなあ」
「レミィ、考え事をしてるの。静かにしてくれないかしら」
「探査そのものに対する対抗措置を考慮して障壁を張ろうとしておいて、そこまでそっけなくする必要もないと思うけど」
にやにやと笑いながらそう言って紅茶を啜るレミリアに対して、
「何かあってティーカップが割れると咲夜が可哀想でしょ?」
「カップを守るだけならそこまで範囲を広げなくても良いだろう?」
「距離は大した問題じゃないからね。ついでよついで。あと、そのにやにや笑い、腹が立つからやめなさい。まるで魔理沙よ」
そこで一旦区切ると、じろりとレミリアに視線を動かし、
「それとも次からは貴女は外しておいた方が良いのかしら?」
「降参、降参。確かにカップが割れると咲夜が大変だからな」
カップをソーサに丁寧に置くと、両手を挙げて降参を示す。が、顔はあくまで笑みを貼り付けていた。
その様子にパチュリーは口を開き掛け、諦めたように頭を振る。
「レミィも大分魔理沙に毒されてきたわね」
「毒されてきたとは随分だな」
「あら、昔はゴシップなんて低俗だ、って歯牙にもかけなかったのに、今じゃ新聞が届いたら、いの一番に捲るじゃない」
「噂話は淑女の嗜みだからな」
しれっと答えるレミリアに、パチュリーは呆れたと肩を竦めて返事をした。と、レミリアとパチュリーの声だけが響いていた館内に一つの音が加わる。
ぼむ、と叩き付けるようにして閉じられた本の音。それは本棚に収められていた本の内容を検分していた小悪魔が立てた音だった。
「小悪魔、本は丁寧に扱いなさいと何時も言っているでしょ」
溜息のように声を出すパチュリー。が、くるりと振り返った小悪魔の顔色を見て息を詰まらせる。なぜなら、その顔が火で炙ったかのように真っ赤だったからだ。
「パチュリー様! この本を燃やしましょう、というか本棚ごと燃やすべきです!」
◆
「魔女の書館で焚書のススメとは珍しいなあ」
酷薄な笑いを浮かべるレミリア。が、小悪魔はそれに返事をすることなく、手にしていた本を本棚に叩き込むと、パチュリーの机へと詰め寄る。
あまりの小悪魔の行動に一瞬パチュリーは目を丸くしたものの、溜息を吐くと書きかけの頁にしおりを挟むと丁寧に本を閉じ、脇へと避ける。
その空いたスペースへと小悪魔は力一杯両手を叩き付けると、
「今すぐ、直ちに、速やかに、ちぎり、やぶり、くべて、燃やしましょう、盛大に、あの本棚ごと」
一息にそう、まくし立てた。が、パチュリーはその言葉に対し、すっとコップを差し出す。
「ちょっとは落ち着いたらどうなの?」
「あ。はい」
並々と注がれた水を零さないよう、小悪魔はそっと両手で受け取ると、こくり、こくり、とコップの水を飲み干した。
そして一息吐いたことで頭に昇った血が落ち着いたのか、ぽすりと椅子にへたり込んだ。小悪魔は顔を俯かせ両手でさらに覆ったが、僅かに覗かせた顔色は、レミリアの位置からでもはっきりと分かるほどに赤いものだった。
ふうん、とレミリアは呟く。
「何を、されるおつもりですか?」
レミリアがソファから腰を上げようとしたのを、制するような小悪魔の問いに、レミリアは鼻で笑って返す。
「お前にそこまでの反応をさせる本というのに興味が湧いてな。物珍しさに読もうと思うんだが?」
「レミィも大概物好きよね」
「なに、パチェほどじゃないさ。鼠を餌付けしようとするパチェほどじゃ、な」
レミリアとパチュリーの軽口を流すようにして、小悪魔は呻くように、
「あれは、あれはいくらなんでも読むどころか、ここに置くような本ではありません」
未だに直視したくないと手で顔を覆ったままで、本棚を指差した。さすがにその様子にレミリアとパチュリーは顔を見合わせた。
パチュリーが確認するように問う。
「……そんなに酷いのかしら? 例えばレミィの日記みたいに」
「酷いのではなく、凄いのです」
「日記の件は後でゆっくりと聞くとして、凄いんなら、問題無いじゃないか」
「レミリア様、僭越ながら」
「ん。くどいな」
話は済んだと小悪魔の静止を無視し本棚へと歩を進めるレミリアに対し、小悪魔は、
「おしべとめしべの先に進めないのであれば、それは控えられたほうが宜しいかと」
真顔で告げた。
が、レミリアは胸を張るように、パチュリーと小悪魔からすれば背を反らすようにして、答えた。
「おしべとめしべは卒業したわ」
「では、おしべとめしべの進化系は?」
小悪魔は重ねて問う。その言葉に今度はレミリアの反応が変わる。白磁のような肌が首筋からじんわりと朱に染まっていく。そして、それに合わせて反り返っていたハズの背が逆へとしなっていった。
「お、おち……」
もごもごと口の中で言葉を転がすレミリア。に、対し小悪魔は、
「はりぃ! はりぃ! はりぃあっぷ!」
「だ、だから、お、お、おち」
こっちへと両腕をかき抱くゼスチャーを二回三回と続け、
「おしべとめしべ、って進化するものだったかしら?」
直後、パチュリーの呆れ声によって我に返ったレミリアにより、宙に綺麗な弧を描いた。
◆
「あいたたたたた」
「普通は痛いとか感じることが無いんだが?」
「ティーカップが割れると思ったんでつい、ね」
仏頂面のレミリアに対して、パチュリーはにべもなくそう告げる。それに対して、レミリアは、ぬるくなった紅茶を呷るようにして飲み干し、ガチャリとソーサーへと置くと、
「そこまで言うなら我慢しよう。私も大人だ。だが、凄いと言われて、見もせずにそうですか、と引き下がれると思うか?」
まったくもって引き下がる気のない口調で、小悪魔に告げる。
「まあ、確かに。本の管理そのものは貴女に任せてるから破棄の判断はそれでいいけど、なにが凄いか位は話のネタに教えてあげて頂戴。ここでひっくり返って駄々をこねられても埃が立つだけだから」
レミリアを見ながら、パチュリーは冷めた声で小悪魔に促す。しばし、悩んだ後、小悪魔が出した答えは、
「『今宵のベッドは、お嬢ちゃんのトラウマになるよ』位でしょうか」
ぽかん、としたレミリアとパチュリーを余所に、小悪魔は頭を振ると、
「いえ、それとも、『一つや二つ…体位は、そんなに少ないと思って』? いえいえ、ここはやはり『子作りごっこね。それは私の得意分野だわ』ですね」
ぐっ、と両の手を握り、どうです、と会心の笑顔を向けた。
レミリアはゆっくりと頷くと、
「返せ! 色々と格好良かった何かを返せ! というか今すぐ全方位土下座しなさい、このあんぽんたん! すかぽんたん! たんたかたん!」
小悪魔へと一息に叫ぶ。一気に言葉を吐き出した反動でぜいぜいと肩で息をするレミリアの肩をパチュリーは優しく叩く。
「ぎゃおー、たべちゃうぞー」
いっそ清々しいまでの棒読みに、レミリアはがっくりと椅子に座り込む。ちょっとは落ち着いたかしら、と無表情に告げる親友を恨めしそうにして見上げ、そして小悪魔へと頭をめぐらせる。
「で、結局何が凄いのよ」
「いえ、申しました通り、卑猥と劣情と何かが限界突破しておりまして」
「そ、もうなんでもいいわ。でもその本棚ごとっていうのはどうなんだ? 見れば悪くない品、ここに置かなくても咲夜や美鈴の部屋にでも置けばいいじゃないか」
ぱたぱたと手を振る小悪魔に対して、投げやりな返事をしつつも、しかし、しっかりと棚の価値を見抜いたレミリアは、小悪魔の方針に対して疑問を呈する。
が、小悪魔は沈痛な面持ちで、
「シリーズものでして、この本棚の上から下までぎっしりと」
「なら、本だけ引き抜いて燃やせばいいだろう」
「表紙がアウトです。具体的には、『有頂天の境地で全ての痴態をさらけ出せ!』、といったところでして」
「もうお前喋るな」
なんでこんなのが知識人の端くれを名乗っているんだと頭を抱えるレミリアに、今度こそ同情の意味でパチュリーが肩に手を置いた。そしてのろのろと面を上げると、
「そもそも、何で処分することに拘っているんだ?」
その問いに小悪魔はつとめて真面目な顔をすると、ちらりとパチュリーの顔を伺った。レミリアも釣られるようにして顔を上げ、頭上の親友を見る。
パチュリーが続きを促すために首を立てに振ったのを見て、ゆっくりと小悪魔は答えた。
「まかり間違って持って行かれて、パチュリー様を誤解されては困りますので」
「誤解、ってどう誤解されるのよ」
パチュリーが思わず言い返す。レミリアは、誰がの問いをしなかったパチュリーの慌て振りをそっと胸にしまい、
「むっつりだ、って」
しれっと答えた小悪魔のセリフに盛大に吹き出した。
直後、レミリアは机に熱い口吻をする羽目となった。
◆
「あいたたたたた」
「次回からは聖書で叩いた方がいいかしら?」
「喜劇に笑いで答えるのは客の勤めだと思うけど」
叩かれた頭をさすりながらのレミリアの返事に、パチュリーは頭を振り気を取り直すようにして告げる。
「棚が勿体ないなら、妹様の気分転換用のオモチャとして本を使うことにするわ。ぼろぼろになったら竈にでもくべさせるから。後で棚は咲夜の部屋にでも置いておくわ。それでこの件は終わり」
いやいや、とレミリアは手を振る。
「何よ? ひょっとして、レミィったらそういうのに興味のあるお年頃なのかしら? そうなら咲夜には黙ってあげるから、好きなだけ持って行くといいわ」
無表情に目頭を押さえるパチュリーに、
「箱入りの妹に、小悪魔ですら赤面するような本と接触するような機会を作ろうとする友人の思考回路が理解出来ないんだが……」
呆れ声でレミリアは答える。パチュリーはさらりと冗談よ、と告げると
「まあ、流石にここで燃やすのも面倒だから、美鈴に後で庭まで運んで貰って燃やすとするわ」
処分方針を決める。と、そこへ、
「お呼びですか?」
「なんだ、お前居たのか?」
門前にいるはずの美鈴が姿を現した。
「今日は珍しく魔理沙が門を潜ろうとしていまして、そのお知らせに」
その言葉に、パチュリーがぎょっとした表情を浮かべると、
「ちょ、ちょっと、魔理沙が?」
「はい。他にもアリスさんや早苗さんもご一緒で」
「く、しょうがない。一旦そこの本棚、そう、その本棚を奥の書斎にレミィと一緒に運び込んでおいて。門には私が直接出向くから」
そう言い置くや否や、小悪魔と共にパチュリーは扉の外へと飛び出していった。あまりのパチュリーの慌て振りに美鈴はぽかんとした表情を浮かべる。
扉の向こうへと消えていった親友を苦笑と共にレミリアは見送ると、さてと言って美鈴に向き直った。肩には『カリスマ強化月間』と書かれた襷が掛かっていたが、その仕草はあくまで優雅だった。
「仕方ない、親友の頼みだ。ほら、美鈴。いつまでも惚けた顔をせずに、さっさとこいつをあそこに放り込むぞ。ただし中の本が落ちないように慎重にな」
レミリアの言葉に、美鈴がはっとした感じで頭を振ると、レミリアの指示通り本棚を運ぶべく、本棚へと向き直る。
が本棚を見て、あれ? と声を上げる。
「どうした?」
問うレミリアに対して、美鈴は首を捻りながらも本棚を持ち上げた。
「いえ、なんで咲夜さんの部屋の本棚がここにあるのか、と思いまして」
紅魔館の図書館に不意に本が増えている、という現象には割と慣れていたが、本棚ごと増えるという現象は小悪魔をして珍しいと言わせるものだ。
「まあ、気がつけば本が減っている、という現象にも最近は慣れてしまいましたが」
自嘲気味に呟く小悪魔の左手はうっすらと光を発していた。光は不自然なまでに青白く、館内の闇をキャンパスに二度、三度と複雑な図形を描いた。
何時も通りの手順で何時も通りの結果を得るために、その本が主を害さぬものかを調べるために、幾重にも図形を重ねる。
描かれた図形から立ち上る光は、舐めるようにして本棚を這い、本の中へと潜り込んでいく。トラップ確認と魔力反応調査は、小悪魔の額にうっすらと汗が滲んだ頃、終わりを告げた。
「ご苦労様」
小悪魔が安堵の溜息を吐くよりも先に、机で本を書いていた主がその労をねぎらった。
「で、その本棚、どうかしら?」
「は、はい。いたって普通の本だけです。また本棚も極々普通の本で、一切魔力を持っていません」
「痕跡、或いはその欠片も?」
「はい」
小悪魔の報告にふむ、とパチュリーは頷くと頤に右手を当てる。左手では先ほどまで紙の上を走らせていたペンがくるり、くるりと回されていた。
と、パチュリーの横からくつくつと笑う声が響いた。
「まったくパチェも素直じゃないなあ」
「レミィ、考え事をしてるの。静かにしてくれないかしら」
「探査そのものに対する対抗措置を考慮して障壁を張ろうとしておいて、そこまでそっけなくする必要もないと思うけど」
にやにやと笑いながらそう言って紅茶を啜るレミリアに対して、
「何かあってティーカップが割れると咲夜が可哀想でしょ?」
「カップを守るだけならそこまで範囲を広げなくても良いだろう?」
「距離は大した問題じゃないからね。ついでよついで。あと、そのにやにや笑い、腹が立つからやめなさい。まるで魔理沙よ」
そこで一旦区切ると、じろりとレミリアに視線を動かし、
「それとも次からは貴女は外しておいた方が良いのかしら?」
「降参、降参。確かにカップが割れると咲夜が大変だからな」
カップをソーサに丁寧に置くと、両手を挙げて降参を示す。が、顔はあくまで笑みを貼り付けていた。
その様子にパチュリーは口を開き掛け、諦めたように頭を振る。
「レミィも大分魔理沙に毒されてきたわね」
「毒されてきたとは随分だな」
「あら、昔はゴシップなんて低俗だ、って歯牙にもかけなかったのに、今じゃ新聞が届いたら、いの一番に捲るじゃない」
「噂話は淑女の嗜みだからな」
しれっと答えるレミリアに、パチュリーは呆れたと肩を竦めて返事をした。と、レミリアとパチュリーの声だけが響いていた館内に一つの音が加わる。
ぼむ、と叩き付けるようにして閉じられた本の音。それは本棚に収められていた本の内容を検分していた小悪魔が立てた音だった。
「小悪魔、本は丁寧に扱いなさいと何時も言っているでしょ」
溜息のように声を出すパチュリー。が、くるりと振り返った小悪魔の顔色を見て息を詰まらせる。なぜなら、その顔が火で炙ったかのように真っ赤だったからだ。
「パチュリー様! この本を燃やしましょう、というか本棚ごと燃やすべきです!」
◆
「魔女の書館で焚書のススメとは珍しいなあ」
酷薄な笑いを浮かべるレミリア。が、小悪魔はそれに返事をすることなく、手にしていた本を本棚に叩き込むと、パチュリーの机へと詰め寄る。
あまりの小悪魔の行動に一瞬パチュリーは目を丸くしたものの、溜息を吐くと書きかけの頁にしおりを挟むと丁寧に本を閉じ、脇へと避ける。
その空いたスペースへと小悪魔は力一杯両手を叩き付けると、
「今すぐ、直ちに、速やかに、ちぎり、やぶり、くべて、燃やしましょう、盛大に、あの本棚ごと」
一息にそう、まくし立てた。が、パチュリーはその言葉に対し、すっとコップを差し出す。
「ちょっとは落ち着いたらどうなの?」
「あ。はい」
並々と注がれた水を零さないよう、小悪魔はそっと両手で受け取ると、こくり、こくり、とコップの水を飲み干した。
そして一息吐いたことで頭に昇った血が落ち着いたのか、ぽすりと椅子にへたり込んだ。小悪魔は顔を俯かせ両手でさらに覆ったが、僅かに覗かせた顔色は、レミリアの位置からでもはっきりと分かるほどに赤いものだった。
ふうん、とレミリアは呟く。
「何を、されるおつもりですか?」
レミリアがソファから腰を上げようとしたのを、制するような小悪魔の問いに、レミリアは鼻で笑って返す。
「お前にそこまでの反応をさせる本というのに興味が湧いてな。物珍しさに読もうと思うんだが?」
「レミィも大概物好きよね」
「なに、パチェほどじゃないさ。鼠を餌付けしようとするパチェほどじゃ、な」
レミリアとパチュリーの軽口を流すようにして、小悪魔は呻くように、
「あれは、あれはいくらなんでも読むどころか、ここに置くような本ではありません」
未だに直視したくないと手で顔を覆ったままで、本棚を指差した。さすがにその様子にレミリアとパチュリーは顔を見合わせた。
パチュリーが確認するように問う。
「……そんなに酷いのかしら? 例えばレミィの日記みたいに」
「酷いのではなく、凄いのです」
「日記の件は後でゆっくりと聞くとして、凄いんなら、問題無いじゃないか」
「レミリア様、僭越ながら」
「ん。くどいな」
話は済んだと小悪魔の静止を無視し本棚へと歩を進めるレミリアに対し、小悪魔は、
「おしべとめしべの先に進めないのであれば、それは控えられたほうが宜しいかと」
真顔で告げた。
が、レミリアは胸を張るように、パチュリーと小悪魔からすれば背を反らすようにして、答えた。
「おしべとめしべは卒業したわ」
「では、おしべとめしべの進化系は?」
小悪魔は重ねて問う。その言葉に今度はレミリアの反応が変わる。白磁のような肌が首筋からじんわりと朱に染まっていく。そして、それに合わせて反り返っていたハズの背が逆へとしなっていった。
「お、おち……」
もごもごと口の中で言葉を転がすレミリア。に、対し小悪魔は、
「はりぃ! はりぃ! はりぃあっぷ!」
「だ、だから、お、お、おち」
こっちへと両腕をかき抱くゼスチャーを二回三回と続け、
「おしべとめしべ、って進化するものだったかしら?」
直後、パチュリーの呆れ声によって我に返ったレミリアにより、宙に綺麗な弧を描いた。
◆
「あいたたたたた」
「普通は痛いとか感じることが無いんだが?」
「ティーカップが割れると思ったんでつい、ね」
仏頂面のレミリアに対して、パチュリーはにべもなくそう告げる。それに対して、レミリアは、ぬるくなった紅茶を呷るようにして飲み干し、ガチャリとソーサーへと置くと、
「そこまで言うなら我慢しよう。私も大人だ。だが、凄いと言われて、見もせずにそうですか、と引き下がれると思うか?」
まったくもって引き下がる気のない口調で、小悪魔に告げる。
「まあ、確かに。本の管理そのものは貴女に任せてるから破棄の判断はそれでいいけど、なにが凄いか位は話のネタに教えてあげて頂戴。ここでひっくり返って駄々をこねられても埃が立つだけだから」
レミリアを見ながら、パチュリーは冷めた声で小悪魔に促す。しばし、悩んだ後、小悪魔が出した答えは、
「『今宵のベッドは、お嬢ちゃんのトラウマになるよ』位でしょうか」
ぽかん、としたレミリアとパチュリーを余所に、小悪魔は頭を振ると、
「いえ、それとも、『一つや二つ…体位は、そんなに少ないと思って』? いえいえ、ここはやはり『子作りごっこね。それは私の得意分野だわ』ですね」
ぐっ、と両の手を握り、どうです、と会心の笑顔を向けた。
レミリアはゆっくりと頷くと、
「返せ! 色々と格好良かった何かを返せ! というか今すぐ全方位土下座しなさい、このあんぽんたん! すかぽんたん! たんたかたん!」
小悪魔へと一息に叫ぶ。一気に言葉を吐き出した反動でぜいぜいと肩で息をするレミリアの肩をパチュリーは優しく叩く。
「ぎゃおー、たべちゃうぞー」
いっそ清々しいまでの棒読みに、レミリアはがっくりと椅子に座り込む。ちょっとは落ち着いたかしら、と無表情に告げる親友を恨めしそうにして見上げ、そして小悪魔へと頭をめぐらせる。
「で、結局何が凄いのよ」
「いえ、申しました通り、卑猥と劣情と何かが限界突破しておりまして」
「そ、もうなんでもいいわ。でもその本棚ごとっていうのはどうなんだ? 見れば悪くない品、ここに置かなくても咲夜や美鈴の部屋にでも置けばいいじゃないか」
ぱたぱたと手を振る小悪魔に対して、投げやりな返事をしつつも、しかし、しっかりと棚の価値を見抜いたレミリアは、小悪魔の方針に対して疑問を呈する。
が、小悪魔は沈痛な面持ちで、
「シリーズものでして、この本棚の上から下までぎっしりと」
「なら、本だけ引き抜いて燃やせばいいだろう」
「表紙がアウトです。具体的には、『有頂天の境地で全ての痴態をさらけ出せ!』、といったところでして」
「もうお前喋るな」
なんでこんなのが知識人の端くれを名乗っているんだと頭を抱えるレミリアに、今度こそ同情の意味でパチュリーが肩に手を置いた。そしてのろのろと面を上げると、
「そもそも、何で処分することに拘っているんだ?」
その問いに小悪魔はつとめて真面目な顔をすると、ちらりとパチュリーの顔を伺った。レミリアも釣られるようにして顔を上げ、頭上の親友を見る。
パチュリーが続きを促すために首を立てに振ったのを見て、ゆっくりと小悪魔は答えた。
「まかり間違って持って行かれて、パチュリー様を誤解されては困りますので」
「誤解、ってどう誤解されるのよ」
パチュリーが思わず言い返す。レミリアは、誰がの問いをしなかったパチュリーの慌て振りをそっと胸にしまい、
「むっつりだ、って」
しれっと答えた小悪魔のセリフに盛大に吹き出した。
直後、レミリアは机に熱い口吻をする羽目となった。
◆
「あいたたたたた」
「次回からは聖書で叩いた方がいいかしら?」
「喜劇に笑いで答えるのは客の勤めだと思うけど」
叩かれた頭をさすりながらのレミリアの返事に、パチュリーは頭を振り気を取り直すようにして告げる。
「棚が勿体ないなら、妹様の気分転換用のオモチャとして本を使うことにするわ。ぼろぼろになったら竈にでもくべさせるから。後で棚は咲夜の部屋にでも置いておくわ。それでこの件は終わり」
いやいや、とレミリアは手を振る。
「何よ? ひょっとして、レミィったらそういうのに興味のあるお年頃なのかしら? そうなら咲夜には黙ってあげるから、好きなだけ持って行くといいわ」
無表情に目頭を押さえるパチュリーに、
「箱入りの妹に、小悪魔ですら赤面するような本と接触するような機会を作ろうとする友人の思考回路が理解出来ないんだが……」
呆れ声でレミリアは答える。パチュリーはさらりと冗談よ、と告げると
「まあ、流石にここで燃やすのも面倒だから、美鈴に後で庭まで運んで貰って燃やすとするわ」
処分方針を決める。と、そこへ、
「お呼びですか?」
「なんだ、お前居たのか?」
門前にいるはずの美鈴が姿を現した。
「今日は珍しく魔理沙が門を潜ろうとしていまして、そのお知らせに」
その言葉に、パチュリーがぎょっとした表情を浮かべると、
「ちょ、ちょっと、魔理沙が?」
「はい。他にもアリスさんや早苗さんもご一緒で」
「く、しょうがない。一旦そこの本棚、そう、その本棚を奥の書斎にレミィと一緒に運び込んでおいて。門には私が直接出向くから」
そう言い置くや否や、小悪魔と共にパチュリーは扉の外へと飛び出していった。あまりのパチュリーの慌て振りに美鈴はぽかんとした表情を浮かべる。
扉の向こうへと消えていった親友を苦笑と共にレミリアは見送ると、さてと言って美鈴に向き直った。肩には『カリスマ強化月間』と書かれた襷が掛かっていたが、その仕草はあくまで優雅だった。
「仕方ない、親友の頼みだ。ほら、美鈴。いつまでも惚けた顔をせずに、さっさとこいつをあそこに放り込むぞ。ただし中の本が落ちないように慎重にな」
レミリアの言葉に、美鈴がはっとした感じで頭を振ると、レミリアの指示通り本棚を運ぶべく、本棚へと向き直る。
が本棚を見て、あれ? と声を上げる。
「どうした?」
問うレミリアに対して、美鈴は首を捻りながらも本棚を持ち上げた。
「いえ、なんで咲夜さんの部屋の本棚がここにあるのか、と思いまして」
また本棚も極々普通の【本】で→【本棚】
あと、
誰がの問いをしなかったパチュリーの慌て振りをそっと胸にしまい、
この部分の意味を汲み取れませんでした。
らしさが出ていて、雰囲気が良かったです。
ちとオチが弱かった気がするのは私だけかな?
ここの小悪魔は可愛いなぁ←
中身確認して「ボフンッ」ってなる小悪魔…
おーぅ←
カリスマ強化週間てww
咲夜さんおそろしやー
純情小悪魔可愛いなww
俺的設定は小悪魔はサキュバスだから本だけでそんな恥ずかしがっていいのかとか思ったり。
でもあんまり攻め立てるとスイッチ入っちゃったり
赤面する小悪魔、可愛いなぁ!
どもってるお嬢様もステキだ!
溜息と共に小悪魔は頤に
の読み方がわからなくて止めた。
冒頭から無意味に読みづらい字を使って読み手の集中力を切らすなんて、
もう、何を考えてるのかわかりませんね。
読む価値無しと勝手に判断させて頂きますね。
「著者:フランドール」オチを予想してたんだけど、そうきたかww
それにしてもレミさんカッコカワイイv
純情こあが可愛くてニヤニヤしました。
咲夜さんの部屋を見てみたいw
>>29
マジレスすると、「ため息をついて右手を」って文なんだから読み取れるはず
>>作者様
誤字かワザとかはわからないけれど、固有名詞を除き、常用漢字以外を使うのは控えるべきかと。
小悪魔カワユス
>>29
本当に価値がないのはたかが1つ読めない漢字があるからって読むのを止めたあんただよ。読み飛ばすことを知らないのか?