紅魔館の奥底。
フランドールのためにあてがわれた部屋の前に、ひとりの(見た目だけは)うら若きメイドが佇む。
「妹様。いらっしゃるのでしょう?」
呼びかけも、扉のノックも、すでに3回ほど繰り返している。
しかし、部屋の主はなかなか返事をしてくれない。
「もう……一度お遊びに夢中になると、これなんだから」
十六夜咲夜は意を決すると、錠前が壊れたまま永年放置されたままの扉を、重々しく開いた。
X・Y・Z以外にもうひとつの座標軸が加わった、ただひたすらに広漠たる空間が、咲夜の目前に現れる。
悪魔の妹を退屈させることなく留めておくためには、このぐらい大規模な「手品」が必要なのだ。
しかしながら……それを片手間にこなし、さらに己の容姿を長期間に渡って凍結させたままでいるからこそ、このメイドは今なお館の重鎮として君臨しているのである。
「きゃっはははは! よおーし、これならどうだー!」
フランドールのはしゃぎ声と、それに追随する弾幕の展開音が発せられたのは、上下左右どこの方向からでもない。
それがどこから、どうやって咲夜の聴覚に届いているのかは、咲夜自身にもよく分かっていない。
「妹様ー! そろそろお時間ですよー!」
「んえ?」
ぴたり、騒音が止む。
「あら、もうパーティが始まるの?」
「そうです。そろそろ、こちらにお戻り下さいな」
「ちぇっ」
ほどなくして。
無限大の距離をひとっ跳びに、フランドールの幼い肢体がメイドの胸元に飛び込んできた。
霧の『異変』を通じてフラストレーション解消の「遊戯」を覚えたフランドールは、以降少しずつ素直になっていった。
紅魔館の住人を悩ませるほどの癇癪は、もう滅多なことでは起こさない。
「楽しかったですか?」
「うん! 遊び道具としては満点だったね。こんなに充実した地下室ライフ、初めてよ」
フランドールは言動のずれた娘ではあるが、嘘だけは口にしない。
彼女の相手をしばし勤めてくれた相手に、咲夜は心から感謝した。
「今夜でお別れするのが、もったいないぐらい。ねえ咲夜、何とかお姉さまに頼んで……」
「駄目ですよ、妹様。約束は約束……」
「そうそうそう。あんたの弾幕、破壊力はあってもワンパターンなんだもん」
こつん。
不意に現れた「人間の少女」が、フランドールの後頭部を小突いた。
「あいたっ! 何するのよっ!」
「ねえ、メイドさん」
涙目のフランドールを無視し、「少女」は咲夜を見上げる。
「こいつと遊ぶのも、もう飽きちゃった。帰ってもいい?」
ふてぶてしくも、懐かしさを感じる態度であった。
「いよーお吸血鬼の大将! えー葉桜の季節、いかがお過ごしでしょうか。
本日はお招きいただき光栄の至りで、んーと、あとはなんだ、んんんー……まあとにかく……ぱーてー、さいこー!」
潰れかけと思しき死神が、レミリアのグラスと自分の猪口とを無理矢理かち合わようとする。
「ありがとう。わざわざ冥界からもゲストが来てくれるなんて、光栄だわ」
「うへへへ、嬉しいこと言ってくれるじゃないのさ。いえーい、かんぱーい」
「ええ、乾杯」
どつっ、という不協和音。
(こんなグータラを監視役に送ってくるとは……あの世は余程の人材不足のようね)
(このぐらい大袈裟に酔ったフリをしておきゃ、流石に油断するだろ)
互いに思惑を悟られぬまま、ふたりは上機嫌に微笑みあった。
レミリアに挨拶を済ませた後も、赤ら顔の小町は大物たちの間をのらりくらり漂いつつ、それとなく状況を分析する。
(みんな、今日がどういう日であるか全く分かってないみたいだな。当たり前だけど)
閻魔が情報を秘匿している以上、それを見破る『能力』は、かなり限られる。
運命を「みる」というレミリアと、その限られた側近……ついでに小町以外には、恐らく予想すらつかないだろう。
(すいませんね、四季様。ほんの偶然ながら、書類の中身がちらりと見えちまったもんで)
映姫が処断しようとする人間は「博麗霊夢」で、その予定日は「本日」だ。
散々サボりとタカりに利用してきた存在が、世を去る。
信じたくないが、閻魔の仕事に間違いはない。
では、レミリアが発表したがっている「重大事項」とは、ずばり「霊夢の死」なのだろうか?
(全て想定内のまま終わってくれりゃ、こっちも安心なんだけどなあ)
「まったくですよねえ」
「のわっ!?」
いきなり古明地さとりが背中を突ついてきたせいで、小町は思わず猪口の中身を盛大にこぼしてしまった。
「あら、もったいない」
(迂闊。こいつも来てやがったのか)
「あんまり乗り気じゃなかったんだけど、妹にせがまれまして。しかし、しかし……」
さとりは意地悪く、目を細める。
「なんとまあ……こんな凄い秘密が『読める』とは、来た甲斐がありましたわ。ふっふふ、あの、心臓に毛どころか鋼のワイヤーが生えているような女も、とうとう……」
「しーっ!」
「ああっと、ごめんなさい。私ってば、昔から口が軽くて困りますの」
(そんなんだから、いつまで経っても嫌われ者なんだよ!)
「つまはじきにされる快感、ってものもあるんですよ」
(……ドMが。付き合ってられないね)
小町は顔をしかめ、さとりから離れようとする。
その背中に、ぽつり、抑揚のない言葉が投げかけられる。
「彼女にだけは、こんな倒錯的嗜好を持って欲しくなかったんですけどね」
「まったくさね」
それだけ言い捨て、小町はバルコニーに出る。
調子に乗って呑み過ぎたせいか、あるいは食えない地底妖怪に揺さぶられたせいか、少し外気に当たりたくなったのだ。
そして小町は、酔いが一気に吹き飛ぶほどの脅威を目撃することになる。
「あ……!」
落ち去る寸前の夕日を背中に受け、空飛ぶ狂気が一直線に突っ込んでくる。
小町の手から滑り落ちた猪口が、大理石の床に衝突して砕け散る。
パーティ開始より1時間後、ずっと姿を現さなかったレミリアがようやく檀上に現れる。
「さーて、宴もたけなわでありますが」
河童印のマイクを通じ、はきはきした呼びかけが会場に木霊する。
「そろそろ、本日のメインイベント! 幻想郷に新たな旋風を巻き起こす、驚異的なサプライズをお届け……」
「お嬢様、それは二重表現というものですわ。致命的な致命傷、みたいな」
「……うるさいねえ」
メイド長の小言を聞き流し、レミリアは再度、こちらへ一斉に好奇の視線を送ってきた歴々に向けて、厳かに口を開く。
「えー……私ども紅魔館は、本日この場をもちまして、皆様に『素敵』なお報せを……」
「大変だっ!」
今度は、死神の絶叫がスピーチを妨げた。
「何事よ。横から槍を投げるのは私だけで十分だわ」
「うまいこと言ってる場合じゃないぞ大将! それにみんなも! 今すぐ伏せ……」
小町が警告を発するよりも早く。
符・針・陰陽玉の嵐が、大広間に吹き荒れる。
落下してきたシャンデリアの下から、小町はやっとの思いで這い出した。
視界一面に、料理と酒と血とが散らばる惨状が広がる。
自分以外の者も、皆どこかしらを負傷し、苦痛に顔を歪めている。
「こんばんは箱入りお嬢様。ご機嫌、いかがだったかしら?」
「ぬぐぐ……どこまでも迷惑な奴だよ、お前は」
何もかもが台無しになったパーティ会場。
その中心には霊夢が立ち、足元に這いつくばるレミリアを悠々と見降ろしている。
「前に来た時も、思いっきり荒らしてやったはずだけど。いつのまに補修を済ませたのかしらね。しかも、豪勢なイベントを開く余裕まで」
「うちには、優秀なスタッフが揃っている。外部の協力者だって数え切れないわ。万年閑古鳥が鳴いてるような、どっかのお下劣神社とは格が違う」
「生意気な」
霊夢はレミリアの鼻柱に爪先を叩き込もうとしたが、足を振り上げた瞬間、鼓膜に「かちり」という音が聞こえてきた。
そして蹴ろうとした対象は、目前より消え失せる。
「ふう……あんたのところの主人は、しつけがなってないよねえ。え、メイド長?」
振り返れば、レミリアを抱きかかえた咲夜がすらりと立っている。
混じり気なしの敵意をこめて、霊夢を睨みつけている。
「色々とひっくり返った発言ですこと」
「あんたにゃ負ける。人間の理(ことわり)をひっくり返しやがって。ったく、いい年してミニスカ・ニーソだなんて、若作りもいいところね」
「うらやましい?」
「ええ、すっごく。その手品、私のためにも使ってくれれば拍手喝采なんだけど」
「あいにく、自分ひとりを取り繕うだけで精一杯なのよね。最も、お嬢様がそれを望むなら話は別ですけど」
咲夜に表情をうかがわれたレミリアは、霊夢に向かって「べー!」と舌を出すことで、返答に代えた。
「……と、いうわけ。さあ、分かったら早いところ帰ってもらえる? これから、お料理を作り直さないと」
レミリアを床に降ろした後、間髪を入れず、咲夜の手は銀色の刃を握る。
さらに咲夜の背後では、幻想郷を代表する強者たちが次々と起き上がり、こぞって薄昏い視線を霊夢へと注ぎ始める。
「幻想郷の新しい運命は、この館から始まった」
破れた帽子を被りなおし、レミリアが凄む。
「で、その運命に終止符が打たれるのもまた、ここ……だなんて、ちょっとロマンティックじゃない?」
霊夢の矮小な体躯に、これまで体験したほどがない「重み」が加えられる。
気圧された霊夢は、後ろに飛んでレミリアから距離を離す。
だが彼女たちは足並みを揃えてっゆっくり前進し、一歩一歩確実に、霊夢を追い詰めようとする。
かつん。
後ずさりする霊夢のかかとに、何か小さなものが当たった。
マイクだ。
「待って! ここで博麗の巫女より、ざざざざ、重大な発表があります」
投げ出された衝撃で部品が壊れかけているためか、マイク越しの霊夢の声は、時おり雑音が混じっていて聞き取りずらい。
「あんたら無頼の呑ん兵衛どもと知り合って、早や幾星霜。
ご覧の通り、私はすっかり老いさらばえてしまったわ。
最近ね、腰痛がひどいの。ヘルニアかしら。
手と足も、強張って思うように動かない。もしかしてリューマチ?
年をとるって、やあねえ」
「お望みなら、今すぐ楽にしてあげるけど? 苦しいんでしょ、すごく」
どこかしら哀れみを請うような響きに応えたのは、顔はにこやかだが目が笑っていない幽々子だ。
「そう……そうなのよ。私は、あんたたちに、私の苦しみを知ってもらいたい。
今朝起きて、まず最初に私が覚えたのは、吐き気。
驚異の的中率を誇る私の勘が、あってはならない事態を警告してきた。
だから私は、今、生まれて初めて、恐怖している。
あんたたちみたいな凶悪妖怪どもを前にして、今まで一歩も退くことのなかった、この私が……よ?
それは、なぜかと言えば」
「死ぬんでしょ、今日。心臓の病のせいで」
「お気の毒。ふふふ」
永琳が霊夢の言葉を先取りし、そして輝夜が残酷な笑みを浮かべる。
場に、動揺の波紋が発生する。
「宇宙人! 根暗な引きこもりが、のこのこと!」
「面白そうなイベントがあるって、噂に聞いたものだから。招待状とやらは持ってなかったけど、顔パスでOKだったわ」
「姫のような美人にとって、この世はお得に満ちていますわね」
「……なぜ、分かった?」
「ん?」
「どうやって、私の勘と同じ結論に到ったわけ?」
「以前に我が家へおいでになった時、あなたの顔色および呼吸のリズムを診させてもらった。
どちらも、予断を許さぬほど乱れに乱れていたわよねえ?
それだけのデータが有れば、命日の割り出しなど簡単にできる」
「あ、あんたは……この苦痛がどれほどのものか、承知していたくせに……私がどれだけの絶望に喘いでいたか、理解していたくせに……協力を断ったのか」
「しょうがないでしょ。なんとかに付ける薬は、絶無」
「貴様らぁ!」
霊夢は咆哮し、袖の中に残る全ての兵器を解放した。
「正直は正直でも、自分の欲望にのみ正直だなんて……感心しないよ!」
萃香が壁に打ち付けられる。
「いくらあがこうと、神は神! 人は人! その壁は絶対に乗り越えられないのさ!」
「神を敬わぬ巫女などっ! 神遊びの相手には決して選ばれないっ!」
神奈子が天井に、諏訪子が床にへばり付く。
「空元気で本心を隠したって無駄よ、人間。そう、胸が痛くて痛くて倒れそうなのね? 立っているだけで精一杯なのね?」
「無意識では、こんなことばかりしていては駄目だと理解しているはずなのに。意識の上では、虚勢を張ってばかり」
「そんな冷静な分析はさておき、はやく逃げましょうよー!」
古明地姉妹をマントの内に庇い続ける空も、そろそろ核熱バリアの限界が近い。
(なんてぇ茶番だ)
部屋の隅で、横転したテーブルの陰に隠れながら、小町は怒りとも悲しみともつかぬ感情に切歯した。
(死ぬって分かってるのに、無駄に足掻くんじゃないよ。
死ぬって分かってる奴を、そうやって必要以上に煽るんじゃないよ。
どいつもこいつも、救いようがない阿呆ばっかりだ……)
これまで霊夢が関わってきた『異変』の主犯たちが、次々に無力化していく。
「そこのお前! ついでに、お前も! みんな大嫌いだ! そらそら痛がれっ! もっと泣いて喚いて血を流せ!」
「……おい。そろそろ、気が済んだか?」
最後の最後まで霊夢の前に立っていたのは……魔理沙だ。
「終わり悪けりゃ全て悪し。死ぬほどがっかりだぜ、バカ霊夢」
「じゃあ死になよ、クズ魔理沙!」
霊夢は思う。
思えば、私の苦難はこいつのせいで始まったようなものだ。
ならば他の有象無象はさておき、こいつだけは確実に葬る必要が有る。
使える武器は、ほぼ撃ち尽くした。
残るは七個の陰陽玉と七枚の符のみだが……それだけあれば、十分だ。
私が使える最大の奥義を、こいつの余計な「命名」が加えた制限をとっぱらった上で、ブッ放す!
「無理すんなってば。顔、真っ青だぞ? どこの栄養不足な茄子かと勘違いするぐらい」
「私こそが、幻想郷の『法』だ。その私が……はあはあ、お前を不要な存在だと判断した。さあ、言い残すことはある?」
「おお、やっぱり博麗の力ってのは凄いもんだな。おしっこチビっちゃいそうな迫力だぜ。しかし、いくら術がヤバかろうと、術者自体がこんな調子では……」
二重の結界で、魔理沙の身動きを封じた。
あとは、憎悪を陰陽玉に乗せて炸裂させるだけだ。
「今のお前じゃ、蟻すら殺せないだろうなあ」
「ふっ、あんたは昔から、負け惜しみだけは一人前だよねぇ! でもやっぱり、『普通の魔法使い』は『素敵な巫女』に勝てないまま一生を終えるのよ」
「相手が勝ち誇った時、その相手は既に敗北している。もはや、私が手をくだすまでもないね」
「この期に及んでっ!」
どうして、あんたは、変わらないの?
傷付きながらも涼しげな魔理沙の面を、霊夢は永劫に目の前から消し去ろうとする。
「きゅっ、として」
割れる直前まで空気を詰められた風船のように、霊夢の力は張り詰めていた。
それが急速に、凍りつく。
「どかーん」
陰陽玉のひとつが、破裂した。
霊夢の力も心も、ひび割れる。
「こんばんは、腐った紅白饅頭」
いかにも「満を持しての登場だよっ!」と言いたげに、得意を満面に張り付かせて。
枠組みだけとなって大きく開け放たれている窓の外に、いつぞやを思い起こさせる真紅の月を背負って。
そいつは、いびつな翼を悠々とはためかせていた。
「フランドール!」
「コインも人望も尽きた……あなたはもう、二度とコンティニューできないのさ!」
「余計なことをっ!」
悔やまれる不注意のせいで、奥の手は破られた。
それでも、まだ魔女一匹と吸血幼女一匹をまとめて滅ぼすぐらいの技なら、繰り出すことができるだろう。
しかし霊夢は、結局、その目論見を達成できぬまま敗れ去ることになる。
「気をつけて、フラン。あの構え、『夢想封印』だわ」
「え……!?」
最初、フランドールがお得意の術を使って、二体に増えたのかと思った。
だが、フランの陰から現れた「少女」は、夜の闇中にあってなお際立つ黒髪を月光にたなびかせていた。
しかも「少女」は、博麗の巫女服に身を包んでいる。
それは今の霊夢が愛用しているような、平安以来の古式ではない。
あの、ここ百年間に幻想郷を生きた者なら誰で知っている、あの「腋巫女服」だ。
人の血の色をした服が、同色の月に溶け込み、「少女」の凛とした佇まいを、一層威厳あるものとして霊夢に見せつける。
驚愕に身をすくませているうち、霊夢謹製の陰陽玉が、またひとつ粉と散った。
「スペルカード攻略の極意は、先手必勝。スペル発動前に倒せば、天下泰平」
「それってつまり、ただのチートじゃないの? 反則よ反則!」
「ま、今回だけは事態が事態ってことで……よっ、はっ、とりゃ!」
「少女」が投げる針は、寸分違うことなく陰陽玉の「眼」を捉えていく。
「う、あ……や、やめ……」
全ての陰陽玉が砕けた時、霊夢の希望もまた、砕けた。
「あんた、だれ? まさか、わたし、を、ころす、つもり?」
真っ直ぐで純粋な殺意が、全身に絡み付いてくる。
今の霊夢は、五感の全てに痛みを抱えている。
「わたし、は、だいけっかい、の、しゅごしゃ。わたし、を、むりやり、ころせば、げんそうきょう、も、おわっちゃうよ?」
「あー、てすてすてす……」
弱々しい訴えを遮って、歪んだ音声が室内に反響する。
床に座り込む霊夢を取り囲んでいた一同と、それに「少女」は、穴だらけとなったステージに目を向けた。
「いささか予定よりも、ごごごごご、遅くなってしまいましたが、ぶぶぶぶぶ、改めまして重大発表をじじじじじ……あーもうっ!」
今度こそ完全に故障したマイクを放り捨て、レミリアは喉を奮わせる。
そして何事かを大声で叫び出したが、放心する霊夢の鼓膜に、それは全く届かない。
「レディース・アンド・キューティガールズ!
今しがた私の妹がエスコートしてきた者こそ、この地に新しく君臨する『博麗の巫女』です!
幻想郷史上最も早熟にして平等な、『異変』解決のエキスパートなのです!
さて……どっかの堕落ババアが発狂したせいで、我々は大きな痛手を負いました。
しかし、いつかこういう人災が起こる可能性を、ずっと以前より案じていた妖怪がいます。
……皆様ご存知の、八雲紫女史です。
彼女は十年ほど前、一種の『保険』として、最高の計算のもとに最良の人材を選出し、スキマの中に匿いました。
で、その秘密兵器に英才教育を施す場としては、好き好んで近寄る者のいない幻想郷の盲点……
すなわち紅魔館の地下を希望しました。
他ならぬ八雲女史の依頼、それに幻想郷の未来を守るための仕事とあっては、我々としても受けるにやぶさかではありません。
我々はまず博麗の分社を地下に設け、本社の神をこちらへも呼び寄せました。
さらに巫女候補の身柄も預かり、弾幕のスキルや酒の作法をはじめとする数々の英才を、その大器へと注ぎ込みました。
と、まあ……かくなる経緯がありまして。
博麗の力と伝統を受け継ぐにふさわしい巫女は、今夜、この場にて、完成いたしました!
彼女は見事に邪悪を打ち倒し、自分こそが巫女たるにふさわしい存在だと証明してくれたのです!
大結界を守る者としての資格、そして権威は、完全に委譲されたのです!
さあ皆様、この小さくとも『素敵な巫女』に、盛大な拍手を!
ついでに抱擁を!
あわよくばキス……あぐっ!」
特大陰陽玉の直撃を受け、レミリアは大きくのけぞる。
「うざったい。調子に乗らないでよね」
「ビューティフル」
顔面に玉をめりこませながらも、レミリアは賞賛に打つ手を休めない。
他の者たちも、飛び上がったり、奇声を発したり、互いに肩を組んだり、指笛を吹いたりして、思い思いに「巫女」を称えまくる。
「もう一度繰り返す。がっかりだぜ、霊夢よ」
服の上から胸を鷲づかみにし、荒い息を吐いている霊夢に向かって、冷気ただよう声が投げかけられる。
「せめてもの情けだ。死にたい場所を選べ。そこまで送って行ってやる」
「お願い魔理沙。たすけて」
血色を失った指が、灰色に薄汚れたエプロンを引く。
「謝るから。
今までのこと、ぜんぶ申し訳なかったって思ってるから。
これ、本当よ?
私が嘘をつかないってこと、知ってるでしょ?
疑うなら、そこの覚り妖怪にでも聞いてみるといい。
あなたは『普通じゃない大魔法使い』よ。
素晴らしい知恵と力を持っている。
そんなあなたなら、こんな老いぼれひとりの体なんてどうにでもなるでしょ?」
一度、手を払いのけられる。
それでも霊夢は、まだ魔理沙にすがりつこうとする。
「何が人間の『運命』よ、『法』よ『掟』よ!
そんなの馬鹿らしいって、あなたも思うでしょ思うからこそ若返って見せたんだ!
だから今すぐ魔法を見せて恋色の大魔法を。
お、お、そうだ、派手好きなあなたのために、すごくいいこと思いついた。
ここにいるみんなでね、一斉に月へ攻め入るのよ。
傲慢な月人ごときに遅れをとったこともあったけど、今のあなたなら絶対勝てるって。
弾幕はパワー、パワーは正義、それなら私たちが負けるわけがない。
ね、そうしようよ第三次月面戦争だよ。
あなたは思う存分力を試せるし、妖怪たちだって過去の恨みを晴らせるし、私だって例の『薬』が……」
スカートの裾を乱暴に払い、魔理沙は霊夢を拒絶した。
「なんかもう……一気に冷めたわ。うんざりだよ畜生、さっさと死んでくれ」
「なんで? こんなにも一生懸命、頼んでいるのに……」
「だから、だよ。媚びるとか、へりくだるとか、へつらうとか……私の隣に『在った』霊夢は、そんな言葉とは無縁だった」
「だ、だって……私、もう、お婆ちゃんだよ? 体も、心も、弱りきってるのよ」
「はん! どの口がそれを言うか!」
魔理沙はふわりと宙に浮き、引き際を知らぬ指の蠢きから逃れた。
「へへっ。お前なんぞと過ごしてきた自分の半生が、痛々しくてしょーがないや。くくくくっ」
くすくす。
くすくす。
陰湿な笑いが、そこかしこに聞こえてくる。
みんな、可笑しがっている。
この平和な地で、今後もずっと楽しく賑やかに『在る』者たちが、あっけなく『無くなる』者の醜態を指差して、嘲笑している。
ふふふ、なんとも情けない。
かかか、実に見苦しい。
ひひひ、目が腐りそうだ。
けけけ、生き恥とは、まさにこのこと。
「やめて……!」
ぽたり。
紅い絨毯に、涙の粒が染み付く。
「嗤わないで……
私は、ただ、みんなと、ううううう、一緒に、『在り』たかっただけなのに……
昔みたいに、弾幕で喧嘩して、お酒呑んで騒いで……
それだけで、十分なのに……」
げらげらげらげら。
ひときわ大きな哄笑が、窓の外から響いてきた。
「あーっはっはっはっは!
何それ、すごく受けるんですけど!
あんたみたいに小汚い年寄りが、身の程も知らずに!」
浮いている。
未練という名の重力も、老いる寂しさも知らず、これからまさに青春を謳歌せんとする「巫女」が。
(こいつを消せば……私はまだ「博麗」でいられる。みんなに認めてもらえる!)
咄嗟、そんな虚しい考えに憑かれ、最後の気力を振り絞って駆け出す。
「やだあっ! 私を『無いモノ』になんて、しないでよぉ!」
叫び、夜空へと飛び出す。
しかし、体が重い。
あまりにも重すぎる。
(あれ?)
「空を飛ぶ程度の方法」が思い出せず、焦っているうちに……
固い地面は、すぐそこまで迫っていた。
受け取った報告書は、風化し朽ち果てた金釘の如き書体で書き殴られていた。
「ごめんなさい、閻魔閣下。ご期待を裏切ってしまいました」
普段の太平楽とした態度が嘘のように、この小町は厳粛な顔つきをしている。
「とてもじゃないけど……あんな残酷な光景、最後まで見ているなんて、あたいにはできなかった」
「むべなる哉。やんぬる哉」
深々と下げた頭を定位置に戻すよう、映姫は小町に促す。
「あなたは、よくやってくれました。この報告書は、新たな巫女の登場までで終わっています。
まったく八雲紫め、毎度ながら小ざかしい細工を用意していたものです。
……が、ここまでは予想外の展開であっても、結末については、ありありと思い浮かべることができます。
あなたが報告するまでも、ありませんよ」
霊夢は、幻想郷の歴史上に類稀なほど、哀れな死を迎えることになるだろう。
誰にも惜しまれず、無限にして永遠の孤独を抱えたまま、三途を渡るのだろう。
小町には、それが許せない。
この仕事に就いて間もないわけではない。
哀れな末路の魂は、今まで数え切れぬほど見てきた。
それでも小町にとって、次に運ぶべき魂は、とりわけ重要なものになるのだ。
「そもそもは、あいつ自身が招いた破滅だってことは分かってます。だからって、こんな……」
「いけません小町、それ以上を口にしては」
「仕事サボって、ふらっと立ち寄るあたいを、霊夢はいつでも受け入れてくれました。
諸手を挙げて歓迎する事はないけど、邪険に追い出すこともない。
豪華なメシを奢ってくれることなんてないけど、二級茶なら気前良く振舞ってくれる。
みんな、いい思い出です。
あいつ自身はどう思っていたか知らないけど、あたいにとって、博麗霊夢の居る神社は……」
「小野塚小町! やめなさい!」
「でもっ!」
「私もあなたも、是非曲直庁の禄を食む者。互いに、職務には忠実でなければなりません」
厳しく言い放つ閻魔の目にも、かすかな涙粒が輝いている。
小町は言葉を呑み込んだ。
「ご苦労様でした小野塚君。早めに帰宅し、ゆっくり休みなさい。明日の早朝、恐らく川岸には……一個の痩せ細った魂が辿り着いているはずです。
それさえ法廷に届ければ、全てが決着します」
「……はっ。失礼します」
忸怩に歪む顔を隠さぬまま、小町は退出した。
映姫は眉間を数回、指先で揉んで、それから決済すべき最後の書類に押印した。
転生指示書。
霊夢の生涯に発生した全ての功罪、さらに喜怒哀楽を、何度も何度も慎重に『法』と照らし合わせた結果、ぎりぎり紙一重ではあるが、堕地獄だけは回避できた。
そこには、レミリアの発案による『協力』も大いに作用していた。
(あの子の不幸は、皆を幸せにしすぎたこと。その幸福の輪に、自分自身が加われなかったこと)
霊夢の来世には、無力にして平凡、かつ平穏無事な人生が用意されている。
地に激突し顔面がひしゃげる直前、ほんの僅かな延命を目的とするスキマが開いて、霊夢は座り慣れた縁側へと強制移送された。
そう言えば、肝心要の「管理者」だけは、パーティ会場に姿を見せていなかった。
「……紫。あなただけは私の味方だって、信じてた」
鼓動を重ねるほどに痛みが増す。
それに耐えかねた心臓が、生まれて以来続いてきたルーチンワークを次第に鈍らせていく。
「私、幻想郷とあなたのために、ずっと忠実だったでしょ? 本来ならとっくに『無いモノ』になっていたはずのものを、私はずっと守ってきたのよ」
腐りかけて軋む床板に横たわったまま、空を見上げる。
月も星も、明るい。
「その私自身が、このまま『無くなる』なんて……理不尽すぎるものね。さ、今すぐ『外』から白蓮を連れてきて。あのお人よしに協力してもらえば、きっと何とかなるわ」
喋るだけで、きつい。
霊夢の声は弱々しすぎて、すでに霊夢以外の誰にも聞こえない。
「どうしたの? あなたの巫女と神社が、危機に瀕しているわよ? ほんと、私もう、やばいんだけど。こうして息をしているだけで……ぜえぜえ……精一杯」
「あー、なんですって? 遺言なら、もう少し聞き取りやすく言ってもらえますかあ?」
人を舐めきった声。
恐る恐る顔を横に向ければ、射命丸文を先頭に、何体もの鴉天狗が境内を占拠していた。
「……どうして」
「おおー、こんな僻地で何時間も待っていた甲斐がありました! いいですねいいですねその醜すぎる表情! 大衆が喜ぶ素材っていったら、なんたってエロとグロが一番です」
「うんうん。この老骨に前者を求めるのは余程のマニアだけだろうけど、後者を満たす素材としては申し分ないね」
「こら、はたて。それに他のみんなも! これ、もともとは私の獲物よ? あんまりベタベタとピントを合わせないでくれる?」
「別にいーじゃん。みんなで手分けして、広く幻想郷中に知らせてやろうよ。汚物が汚物らしく消え去る、最後の瞬間をね」
霊夢は、がばりと起き上がった。
天狗たちが、一斉にフラッシュを焚く。
「……道具、だったんだ」
「はあ? ですから、言いいたいことがあるならもっと明瞭にどうぞ」
「私は、ヒトじゃない。モノだ。あんたらの暇つぶしとして、利用されるだけの存在だったのよ」
「おやおや、今さら気づいたんですか。どこまでも頭の悪い玩具ですねえ」
「利用価値がなくなれば、捨てられる。その労苦をねぎらうことなく、淡々と、無情に、事務的に」
「当然。ゴミはゴミ箱へ」
「呪うからな。この脆い箱庭自体をぶっ壊し、完全に『無いモノ』としてやる」
「ひゃー、おっかない。認知症が極まると、そこまで無謀な発言が飛び出るものですか!」
失笑の輪唱。
霊夢は口をつぐんで立ち上がると、いったん奥の間に消えた。
お次はどんな滑稽が飛び出すか、期待の視線が集中する中、霊夢は緩慢な動作で再度姿を現した。
手にしているのは、湯飲み。
「誰が何と言おうと、私は『巫女』よ。最後の瞬間まで」
「ほうほう、だから?」
「恐れろ」
そして霊夢は、末期の茶を飲み干す。
(くそ、まずいなあ)
そう感じたのと同時に、心肺が停止した。
「どういうことですか四季様!」
がらんとした法廷に、威勢のいい死神の声が響く。
「ぎゃん!」
連日の徹夜と心労が災いし、不覚にも深く居眠り中であった映姫は、電撃を受けたかのように裁判長席から腰を浮かせた。
「そんな騎士型モビルスーツのこたぁどうだっていいんです! 一体全体、どういうことですかこれは!」
「あ……?」
「もう昼メシ時ですよ? なのに、いくら待っても魂が来ない!」
映姫はずれ落ちていた官帽を被り直すと、慌てて腕時計を見た。
「こ、これはどうしたことか」
「だから、あたいはそれを問うているんです。せっかく、張り切って早起きしたのにさあ」
「まさか」
誰かが、魂の彼岸到達を阻止しているのだろうか。
「小町」
「なんでしょう」
「昨日の報告書に、間違いはありませんか?」
「うええ? 何よ何よ、よりによって、あたいのせいだって言うのかい!」
「い、いえいえいえ、決してそのような」
調子が狂う。
叱るのは得意でも、叱られるのは慣れていない。
「ただ、もしかしたら、様子のおかしい者……何か良からぬことを企んでいるような者が、いなかったかなーと思いまして」
「うんにゃ。どいつもこいつも、活き活きと霊夢をいたぶってましたよ。私憤まるだしで、ね」
「むう」
「みんな、ひとが変わっちまったみたいでした。普段はカラッと気持ちのいい連中なのに、あの時ばかりは、なんか別物っぽくて」
「むむむ……むっ?」
映姫の脳裏に、鋭い閃きが走る。
「ちょっと、失礼」
懐から浄玻璃の鏡を取り出し、かざす。
「やだなあ。まだ疑ってるんですかい? 流石のあたいでも、こういう仕事だけは真面目にやりますってば」
「それは承知してます。特別手当も出します。でも、一応の確認ってことで」
「ちぇ。心の狭い上司だなあ」
小町のぼやきを聞き流し、鏡面に目を凝らす。
そして浮かび上がる、昨夜の惨状。
聞こえてくる、「ババア早く死ね」の大合唱。
「何度見ても、イヤな光景ですねえ」
「しっ! 静かに」
レミリアが演説するシーンに、映姫は傾注する。
『今しがた私の妹がエスコートしてきた者こそ、この地に新しく君臨する『博麗の巫女』です!
幻想郷史上最も早熟にして平等な、『異変』解決のエキスパートなのです!』
『大結界を守る者としての資格、そして権威は、完全に委譲されたのです!』
リピート。
『大結界を守る者としての資格、そして権威は、完全に委譲されたのです!』
スロー再生。
『だいけっかいをぉ、まもるものとしてのぉ、しかくぅ、そしてけんいわぁ、かんぜんにいじょうされたのですぅ』
映姫は、胸の奥底からこみあげてくる可笑しさを堪えきれない。
「くっ、くくくくく……はーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
「し、四季様?」
「やられたーっ! ああもう、せっかく推敲に推敲を重ねて書いた判決文が無駄になってしまったじゃないか!」
「はあ?」
「八雲の狸め、チビ吸血鬼め! よくもヤマザナドゥたる私をたばかって……いや、それだけじゃない。言わば、幻想郷という場そのものが私を騙したんだっ!」
「どどど、どういうことで……」
「こんな手があるなら、もっと早いうち、被害が広がらないうちに使えばいいじゃないの! それをしなかったってことは……」
「つまり、どういうこと?」
「分からないのかサボリ魔めっ! えいっ!」
「きょんっ!」
悔悟の棒を用いた渾身の一撃が、小町の脳天を襲った。
しかし恨み言を奏する間もなく、爽快に破顔している映姫は、小町の手を引いて法廷より駆け出た。
「八丈島のこたぁどうだっていいんです! ほら、早く行きましょ?」
「どこへ!」
「神社ですよ! あいつら、きっと今頃うまい酒を呑んでるはず! どうせ今日の仕事は全部おじゃん、ならば私たちも相伴に預かるのみです」
霊夢は、自分の名が刻まれた小さな石碑を眺めていた。
長年、共に連れ添ってきた体は、今や肉を失い、軽い骨だけになって、この下に埋められている。
天を仰ぐ。
晴れ渡っている。
時刻は昼下がり。
手を見る。
じっと見る。
忌々しい皺は消えうせ、艶々すべすべ。
(やった)
ここ、神社の裏山の地形を、霊夢は知悉している。
道なき道をしばらく歩めば、ほどなくして、生前によく喉を潤した泉に行き当たった。
その水面に、容姿の全体像を映す。
スペルカードルール黎明期の自分が、そこに居た。
(やったぞ!)
死ぬ直前に強く強く強く強く強く強く強く願ったことが、叶った。
あとは、復讐を遂げるのみ。
霊夢は、飛ぶ。
憎しみを燃料として灯る鬼火を、身の回りに幾つも浮かばせながら、生意気な小娘に奪われた神社へと急ぐ。
あいつひとり殺すだけで、大結界は消失する。
そうなれば、どいつもこいつも一網打尽だ……
辿り着いた境内は、どうやら工事の得意な妖怪たちが頑張って腕を奮ったらしく、一夜にして完全に復旧していた。
荒れた箇所は癒され、失った部分は補填されている。
立ち並ぶ桜が、霊夢の駆け抜けた疾風に枝を揺らされ、花吹雪の大盤振る舞いを散らした。
「こらあああああああああああっ!」
縁側に怒鳴り込む。
予想通り、自分だけの指定席は、新しい「巫女」に奪われていた。
本来の主の復活だというのに、それでも何事もなかったのように、しずしずと茶を啜っている。
その隣に性懲りもなく尻を落ち着け、梅大福を頬張っているのは、魔理沙だ。
「あんたたち! 誰の許しを得て、そこを不法占拠してるのよ」
「許しがないからこそ、不法占拠なんだよ。て言うか」
「巫女」同様、魔理沙にも動揺の色は全く見られない。
「お前が此処に居ることこそ、『法』にスレスレの賭けだったんだけどな」
「な……?」
つい、と立ち上がった魔理沙に、霊夢は抱きしめられた。
実体を失い、あやふやな像でしかなくなった過去の幻影を、それでも魔理沙の腕は、しっかりと掴み取ったのだ。
今度はどのような心引き裂く台詞を投げつけられるか身構えていただけに、この不意打ちは、効いた。
思いもよらぬ展開に、あれほどいきり立っていたはずの殺意が揺らぎ、篭っていた熱も和らぐ。
「ちくしょー、やっぱ霊夢は可愛いなあ。年とってからの貫禄と気品も味わい深かったけど……やっぱ私たちの思い出に『在る』霊夢は、こうなんだよなあ」
「は、ひ、ふぇ? ちょ、何、私はあんたを地獄への道連れに……」
「今のお前の姿はさ。お前自身が期待した姿であると同時に、みんなが心の底で大事に保管し続けてきた共通イメージでもあるんだぜ?」
霊夢の勘も、頭の回転も、全盛期に近づきつつある。
だから霊夢は、その魔理沙の一言だけで、全てを悟った。
痛みに耐えていたのは、自分だけではなかったのだ。
自分は痛みに負けたが、他のみんなは、そうではなかった。
耐えて、耐えて、霊夢のために、出来うる限りの未来を切り拓いてくれた。
「痛かったよな? 辛かったよな? それをお前に強いたのは、幻想郷に住む者全員の意思だ。
さあ、これからは存分に怨念を燃やすがいいさ」
「私はひたすら、あんたたちを消そうと躍起になっていた。それなのに、あんたたちは……」
「へっ。私はただ、楽しく遊べる玩具に壊れて欲しくなかっただけだぜ」
ぽん。
軽く、胸を突き飛ばされる。
「ま、そういうわけで……出来うる限りの最良の手ではあったが、お前にとっては最低のおせっかいだったかもな。
しかし、それでも私たちは、絶対に謝らない。どうぞよろしくご了承下さい」
「ええ、そうね。こちらとしても、私をこんな惨めな姿にしてくれたあんたたちを、許すつもりはない。
生きていた時以上に、幻想郷を荒らしまわってやるつもりよ」
「こちら側へようこそ霊夢。来ちまったからには、今度こそ容赦しない」
「恨みと憎しみに血塗られた歴史が、幕を開けるのね!」
霊夢に向けられたミニ八卦炉に、魔力が集中する。
魔理沙は演技じみた声で、叫ぶ。
「往生際が悪い欲深ババアめ、六道に迷ったか! 今度の今度こそ成仏させてやるから、覚悟しろよっ!」
「大根」
小さな「巫女」の毒も何のその、恋色の光線が衒いなく発射される。
霊夢は久方ぶりに、グレイズの快感を味わう。
「ちょっ、いきなり何すんのよ!」
「あやややややややややや! 何ということでしょう!」
飛び上がった宙には、三文喜劇にふさわしい三文新聞記者が待ち構えていた。
「確かに引導を渡してやったはずの傲慢老婆が、我々に復讐を果たさんとしつこく蘇りました!
このような無恥は……ぐすっ……ゆ、許されるものじゃ……えぐえぐ」
「へえ。許さなきゃ、なんだっての?」
「うわーん! あんたの悪行の数々、これからも正義のペンで糾弾し続けてやるっ!」
そうして必死に鼻をすすりあげながらカメラを構える天狗を見て、神社の屋根瓦に寝そべっていた小鬼が一言。
「ピンぼけしすぎだろ、あれじゃ。ほんと、鴉って生き物は素直じゃないんだから。いひひひ」
萃香はへらへらと笑いつつ起き上がると、懐から盃を出した。
すぐ傍の紫は、やはり薄く笑いながら、瓢箪からの酌を受ける。
だが一口賞味しようとした瞬間、真横から延びてきた手が、盃をかっさらっていった。
「んぐんぐんぐ……ふう、酒虫濃度が高すぎるわね。鬼の酒ってのは、味わいが下品で困る」
「む! 失礼な!」
萃香は気色ばんだが、映姫は「ふん」と鼻で笑って、紫の手に盃を返した。
「幻想郷オールスターによる大芝居、とくと楽しませていただきました。いやはや、大した『賢者』も居たものです。むしろ『役者』に転職しては如何?」
「はてな。おっしゃる意味が分かりかねますわ」
「私の目をくらまし、かつ能天気すぎる巫女を徹底的に凹ませるためには、過剰なまでの冷酷さを装う必要があったのですね」
「装う? これはしたり、『非情に徹せよ』とおっしゃったのは他ならぬあなた自身ではありませんか」
「ふふっ、そういえばそうでしたね。さらに……」
八雲紫は、心の底から幻想郷を愛している。
神社を、巫女を、大切にしている。
彼女の『計算』は千変万化だが、導き出される答えは、常にひとつ。
出身門地、思想信条、年齢身分、何もかもが違う者たちが、「在れ」と願う未来を勝ち取るために、硬く結束した。
騙されたのが悔しくないと言えば嘘になるが、それでも今日の映姫は、この胡散臭いスキマが頼もしく思えて仕方がなかった。
「大きな恨みを解消できぬまま死んだ人間は、『怨霊』となって彷徨う。そういう『俗信』を有効とすることもまた、幻想郷の『法』です」
「ええ、全ては不可抗力だったのです。我々には、何の落ち度も矛盾もありません」
「おお白々しい。もはや説教する気も失せました」
そして映姫は、萃香の腰から瓢箪をひったくると、息が続かなくなるまで喉を鳴らし続けた。
「ぷはー」
「おいこら。私の酒は下品じゃなかったのかよ」
「だがそれがいい」
「ニヤリ」
「擬音を発音するな小町」
その時、流れ弾が映姫たちのところへ飛んできて、彼女たちもろとも屋根を吹き飛ばした。
「あーっ! 私の神社になんてことを!」
事態を静観していた「巫女」が、瞬間湯沸し器と化し、霊夢と魔理沙の間に割って入る。
それを契機に、瓦礫の下の萃香が密かに能力を発動させる。
「んんん? 誰の神社だって? 聞き捨てならな……うぐっ!
おおっと、今の一撃は効いたわ。
ああ痛い痛い恨めしい、この恨み晴らさで三途を渡れるものか。
ええそうよ、あんたたちが私にしでかしたことは、全部覚えている。
ひねもす纏わりついて、掃除の邪魔をした。
貴重なお供え物や賽銭を、ちょろまかした。
騒ぐだけ騒いで、宴会の後片付けは完全に人任せ!
うおおおおおおお思い出したらますます腹が立ってきた!
こりゃ、あと一億年かかっても精算できそうにないわね!
恨んでやるっ!
徹底的に恨んでやるぞー!」
続々と萃まる「ともだち」の全てに向けて、霊夢は高らかに宣戦布告をした。
ずっと『異変』から守ってきた楽園に、今度は己が『異変』の元凶として君臨する。
ああ、それはなんて残酷で、悲しくて、熱い涙にまみれた未来なんだろう。
「お、我が斥候鼠が戻ってきたよ」
「ほほう、で、その後は如何でしたか?」
「大事ない。結局、かの地は微塵も変わっちゃいない」
「良き哉。過ちは、誰にでも有るものです。しかし、それを正し、かつ赦す友とはまことに得がたいもの」
「うむ。南無三宝に匹敵する素晴らしい宝だな。このご時勢、私ですら探索には骨を折るよ」
「その貴重な輝きが満ちている限り、大結界は強固なままでありましょう」
「そして、かの地が平和であってくれるからこそ、私たちもこうして希望を忘れず末世に『在る』ことができる」
「ええ。それでは皆さん、航海を続けましょう。神社の宴に、再び胸を張って参加できる日を楽しみに……」
今回の『異変』は、実に異質だ。
何と言うか……真剣味に欠けているのである。
大体さあ、おぞましき怨霊を名乗るくせに、持ってる能力が「子どもにおたふく風邪を感染させる程度」って……どういうことよ!
百年ぐらい前ならまだしも、現在では人里の医学水準でも十分対処できてしまう程度の痛手だ。
またそれは、大人になってからよりも、幼いうちに罹患しておいたほうが、被害が少なくて済む病気でもある。
本来なら永遠亭の世話を借りなくてもなんとかなるんだけど、兎たちのリーダーが「病魔退散、ケーキの恨み」だとか何とか意味不明の言葉をつぶやきながら治療をやりたがるので、とりあえず任せておくことにした。
八雲紫は、「博麗霊夢」の全てを話し終わった後、こう付け加えた。
『あいつがどれだけ自分本位で恐ろしい奴か、これでご理解いただけたかしら?
生前の霊夢には、私たちですら散々手こずらされたわ。
果たして人間であるあなたに、彼女を調伏することができるかしらねうふふふ』
とは聞いたものの……
今、私の飛ぶ空は、雲ひとつ浮かぶことなく真っ青なまま。
大きな『異変』が起こった場合、いつもなら漂う瘴気に天候が影響され、あまつさえ興奮した妖精たちが色めきたって貧弱な弾幕を撃ってくるものだが、この空はどこまでも開放的だ。
おかげでPアイテムもボムも手に入らず、ボス戦を控えて一抹の不安が残る。
(まっ、この調子なら初期パワーでも楽勝だろうけどね)
実際のところ、「霊夢」とやらはロクな力を持っていないのではないか。
すでに幻想郷への恨みは薄れているものの、自分の存在意義を失わないよう、時々思い出したように小癪な「祟り」を振りまいているだけなのではないか。
そんな気がしてやまない。
(あのスキマに誠意を期待した私が馬鹿だったわ。大袈裟なホラばっかり吹いて)
さっさと終わらせ、さっさと帰って、あいつをサマーソルトの練習代にしてやろう……
「そこの巫女。なんか不穏なことを考えているようね」
高みを飛ぶ私の、そのまた頭上から、多数の鬼火と、ついでに「F」の字が刻印された正方形が舞い降りてくる。
勘の赴くまま適当に彷徨していたのだが、ようやく目的地に辿り着いたらしい。
「巫女が妖怪退治を念頭におくのは、常識よ。そうではなくて、ご先祖様?」
そう、咄嗟に強がったものの。
私は、心臓が急激に鼓動を早めるのを禁じえなかった。
「恨めしいわねえ、あんたの境遇」
服装も、年齢も、背丈も、顔つきも、私に酷似している。
私の勘が、胸の中で「WARNING!」のサインを明滅させる。
「惨めに死ぬしかなかった私と違い……あんたは努力次第で、輝かしい将来を得ることができる」
のんびりした口調ながら、発音する言葉のひとつひとつに、脊髄を揺るがすような「重み」がある。
博麗に似て、博麗ならざる者。
こいつは……強い!
「げに憎きは比那名居天子。あの不良娘も、今では入天管理局の長官だっけ? 出世したものよねえ」
さっき読んだ『縁起』にも、それは書かれていた。
恭・敬・恵・義の君子四道を修めた、あの天子お姉様にも、蓮っ葉な過去があったとは意外である。
まあ何にせよ、お姉様の努力および政治運動のお陰で、天界には「博麗枠」というものが(いささか強引に)出来上がってしまった。
巫女は代々、人一倍の気苦労を義務として背負わされる代わりに、昇天の権利を獲得したのだ。
もちろん、全ての巫女が無条件で天人になれるわけではない。
生前にきちんとした結果を残しておかなければ、閻魔の裁きによってダメ出しされる。
また立派な巫女であっても、そのような地位にこだわらず、せっかくの権利を蹴ってあっけらかんと転生していく者は数え切れない。
一度は天に住んでみても、無事すぎる生活に耐えかねて、再び三途を渡った例だってある。
そんなわけで、天子お姉様の計らいも十全に機能しているとは言えないのだが、それでも彼女は、
『この仕組みは、いわば保険なのよ。利用してもらえるかどうかは、あんまり重要じゃない。
それにハクレイ・イズ・フリーダムの原則は、いくら私とて揺るがすことができないからね』
と寛大に笑うばかりだ。
その笑顔を思い出すと、私にも立ち向かう勇気と元気が湧いてきた。
みんなから愛される博麗の伝統を、ここに絶やしてなるものか。
「ふふふ、持つべきものは『ともだち』よねえ」
「小賢しい。で、あんたはどうするつもりなの?」
「さてね。いざ、お迎えの際になってみないと分からないわ」
「おやおや。今まさに、あんたは私の手で殺されようとしているのに」
「馬鹿ねえ。ご老体にナウなヤングの相手が務まるかしら?」
……やっと、いつもの『異変』っぽくなってきた。
私が袖の中からスペルカードを掴みだすと、まるで鏡を見ているみたいに、相手も同じ動作をとった。
さあ、正念場だ。
後々のことなんて、後々に考えればいいんだ。
私は、今の私で「在る」ために、ただ目の前の元凶を撃つだけ!
「晴天に雲散しろ、『素敵な巫女』!」
「晴天に霧消しなさい、『不敵な怨霊』!」
華麗に、楽しく、残酷に。
澄み切った空の果てまで、激突音が響き渡る。
(了)
なんとなくそんな言葉が思いつきました。死にたくないってのは当然の思いだよなあ。
長めの作品でしたが、最後まで面白く読ませていただきました。
早苗は犠牲になったのだ……。
まるで魅魔さま(悪霊)みたいなもんになりましたな(笑)
悠久の時を経て、いつか霊夢も彼女のように、「復讐?ははは、もはやそんなのどうでもいいね」なんて言える絶大な存在になる日がくるんでしょうかね・・・
それにしても、あれだけかつてないまでに突き落とされながらも結局平和な郷に還ってきたのは、やはり無重力のなせる業か(笑)
誰も彼女をどん底まで貶めることなんて、できやしないんだね。
でも、晩節の暴れっぷりは非常に人間らしくて(むしろ人間とは思えない無敵さでw)私は良かったと思いますよ?
それまでが人間にしては泰然としすぎたのもあって、或意味反動かもしれませんが。
しかし、天子の更正&出世ぶりに仰天、
命蓮寺一派も幻想郷を忘れるだなんてこともなく達者そうで何より。
この混沌とした街にもいつかおいでくださるといいですねぇ。
ある種予定調和なわけですし。
ただまぁ…いくら目的のためとはいえあそこまでこき下ろすのはつらかったんだろうな…
でも結果として霊夢も凄く生き生きとしてるし、万事OKなのかも。死んでるけどね。
死ぬ直前、そして死んでから人間らしくなれたっていうのも皮肉なもので。
今の霊夢を魅魔さまが見たらどう思うのかなー?
そんなにシビアにしようとしなくてもいいじゃないですかZUNさん。
これくらい楽しくやらないと幻想郷じゃないですよ。
それにしてもしっかり騙されましたね映姫様w
あとおたふく風邪ナメんなー
恨みじゃなくて一人ぼっちで寂しいまま死んでったりもするだろうし・・・、
胸に残る嫌なモヤモヤは祓えないっすね。
ゆかりん卑怯すぐるでしょう?
けれど「現実」に悲しい結末がありふれているぶん、時々このぐらい伸び伸びした「虚構」が欲しくなるのも事実なわけで。
「俺の霊夢はこんなに無様じゃねえっ!」と思う気持ちは僅かながら残りますが、
作者様の描く物語の説得力に納得せざるを得ません。ちょっとくやしい。
それにしても、まさか創想話で、がきデカのギャグが見られるとは。
おもいっきり吹いてしまいました。ありがとうございます。
映姫様の器がでかい!
細かい不満はあるけど、それを補って余りある読み応えでした。
しかしイメージと違う鬼巫女でも文句は言わない。
投稿者が面白い話を書けば高位高得点御前次第だ。
関係無いけど、IGSのゲームは軒並み幻想入りしてると思う。
若く、夫と子を残したまま逝去するのは老醜を晒す霊夢との対比ですかね。
苦しめるだけ苦しめて怨霊すればいいという結論に妖怪たちのエゴを感じる。
良くも悪くも人間の卑しさを体現しきった霊夢がいい人に急変するのに違和感。
オリキャラもそこに居るだけに終わらすなら登場させないほうがよかったのでは。
死は泰然として受け止めるには大きすぎるものですよね。
それでも平常時の霊夢なら安らかに逝けたでしょうけど、それだけ魔理沙の若返りが衝撃的だったと。
いったん動揺しちゃうと立て直すには死は大きすぎますしね。説得力がある展開だったと思います。
その人としての醜さとかそういったものを、周りの妖怪たちが受け入れたのも真の友情っぽくて良かったです。強いていうなら早苗だけ居ないのが寂しいなあとは思いました。
まさに「この発想はなかった。」
救いはないんですか?
という思いでしたが、これはこれでいい
ちょっと雑多な印象を受けました。
面白かったとも面白くなかったともいい難いので今回は30点で。
のらくら浮遊する能天気な天才巫女を、凡俗に引き摺り下ろしてけちょんけちょんに陵辱しているだけですよね。自他ともに。
「囚われない」ことにすら囚われないというのも酷い詭弁だったかと。
別段霊夢が好きというわけではありませんが、この扱いにはさすがにちょっと引きました。
正直なところ、正当化された集団いじめのような印象を受けます。
やっていることは現実の学校などでよく行われている陰湿で過激なそれと大差ないですし。
人として生き、人として潔く死ぬことを良しとしていた霊夢が、
晩節の希望通り、最終的には幻想郷に繋ぎ止められ「在り続ける」ことができるようになったとはいえ、
それは本来の彼女が望んだ「在り」方だったといえるのか。
もっとも、本当は無意識のうちに「無いモノ」となることを恐れていたかもしれませんけども。人間の自然な感情として。
しかし、「在るモノ」が「無いモノ」にされてしまう際は抵抗を感じるほど辛いものですが、
本来「在り続ける」はずのないモノが「在り続けさせられる」のもまた、それ以上に残酷なことなのではないかと。
それも、後世にいたるまでずっと誰からも憎まれ蔑まれ、そして自分も形とはいえ憎み続ける存在意義のもと。
そんな「在り」方をすんなり受け入れる霊夢は実に悲しい、以前に違和感を感じざるを得ません。
誰も彼も、後世の者たちですら皆一様に霊夢を罵倒するばかり。
救いもなければ報われもしない。
ある意味「現実」と同じくらい非情で残酷な結末かもしれませんね。
ですが霊夢もさることながら、それ以上にたちが悪いのは魔理沙です。
霊夢を密かにライバル視して、地道な努力のもと自己研鑽に励んで生きてきたことは評価できますが、
追い抜いた、出し抜いた、それを自らのエゴにより過剰なまでに見せつけ、
それにより醜く変貌した霊夢を幻滅した興ざめしたなどと言っては見下し、
あまつさえ彼女と過ごしてきた自分の半生が、痛々しくてしょうがないなどと吐き捨てるまでするのは、正直どうかと思いました。人間性的な意味で(もはや人じゃないですが)。
それらを含める有象無象たちの仕打ちがすべて演技だとしてもやりすぎです。謝って許される冗談でもありません。
見た目少女ばかりとはいえ仮にもそれなりの年月を生きる成熟した存在なのですから、言っていいことと悪いことくらいはわきまえないと。
まあ、それもこれも正しく作者様のおっしゃる愛ゆえの「さでずむ衝動」の具現なのかもしれませんが。
以上のことから、
感情的に不必要に作者様を貶める為の低得点をつけては、本作で霊夢をなぶっていた有象無象たちのことも言えませんので、
誠に恐縮ではありますが点数は自重させていただきます。
その他、お話の書き方やまとめ方、文章の説得力や魅せ方などにつきましては、
他の方々のコメントや得点に見られるとおり、そして前述のような不快感を述べるのもにわかには躊躇われるくらいの技量と出来栄えだったと思います。
ですが逡巡の末あえて述べさせていただいた次第でございます。それもまあこちらのエゴ、フラストレーション解消のためでしかありませんけども。
ここらでようやく肯定的な感想になりますが(苦笑)、
それと早苗が一人早死にして、後の幻想郷に「在り続けられない」モノとなってしまったことについて、私からは特に異論はありません。
むしろ、前編でも述べられていたような、晩節を汚した及び長寿であった霊夢との好対照を実に良く体現しており、
そういう意味では本編で霊夢が派手に立ち回るほど、じわじわと存在感の生きてくるキャラだったように思います。
何といいますか、彼女のようなキャラが一人いないと、逆に霊夢の晩節の醜さへの説得力、
ないしは幻想郷全体の儚き「人間」としての意味合いが薄れる気もしますし、
人として儚く散ることを体現する人間も、霊夢とは別の意味で人間らしくていいじゃありませんか。
そのような感じで。
長文及びお目汚し失礼いたしました。
でもグレイズには注意ね。
霊夢も人間ですから死ぬのを怖がったっていいと思います。
ハッピーエンドにもっていってくれましたし、満点で。
勇気ある作品だと思うけど、よほど同じ趣味の人じゃないと後編まで読まないかな。
足掻いたっていいよね、人間だもの
ただ早苗さんと魔理沙の身勝手さがね…。
ま、霊夢は愛されてナンボだわな
ここまでやったなら最後まで「どん底に突き落とさ霊夢」で救いが無いほうが
突き抜けてたぶんまだマシだったなぁ
感想の終わりよくても悪いものは悪いに共感 酷い話だわコレ
ここまで人間の醜い面を剥き出しにした霊夢は、創想話では
あんまり見かけないと思います。
でも、こういうのもアリかな、と思わせるものがありました。
しかし無理やりハッピーエンドにするくらいなら
バッドエンドのほうがいい気がします・・・
手放しで「好き」とは言えない、しかし「印象に残る」作品であったことは間違いありませんね。
読み終わった後も、もうちょっとなんとかならなかったのか…という思いが捨てきれない。
けれど他の誰も書かなかった(書きたくなかった?)ような話を、あえて投下した挑発心だけは買う。
10点か満点か迷ったけど今回だけは気の迷いで。
これはさすがに納得できませんっていうか意味わかりません。
そんなこといったら「寿命」にだって囚われないんじゃないですか?
別にこの終わり方が悪いとは言いませんが(私は嫌いですが)説得力が足りません。もっとこの結果に納得の行く描写がほしいですね。強引すぎたかも。
でもこんな終わり方もいいのかもしれない……歴代の巫女の中でもとりわけ愛された霊夢だからこそ妖怪もその他も知恵とエゴを出し切ったんだろう
生き汚くたっていいじゃない、人間だもの!
怨霊にするという考えが唐突ではあったけど、作品に勢いがあり難なく読めたので100点を送りたい
常識やセオリーにとらわれない、こういうのがあるから二次創作はやめられない。