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東方幻葬郷 第弐話 ~早苗編~

2010/04/17 22:20:04
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この物語は同作品集内にある東方幻葬郷~霊夢編~の続編となっております。
霊夢編を読んでいない方は先にそちらを読むことを推奨します。


今から数十年前の世界


今、私は取材のために守矢神社にいる。
守矢神社から見える妖怪の山は一面の紅で染められていた。
相変わらず眺めがいい。
「こんにちは~、文々。新聞です。」
「あら、文さん。こんにちは。今日は新聞の取材ですか?」
「えぇ、最近は面白い異変も無いもので。」
と笑いながら私は言った。
「もう、異変を解決するのは霊夢さんと魔理沙さんだけじゃ無いんですよ。」
と早苗も笑って返してくれた。
「そういえば、早苗さんは外の世界では普通の人間だったんですよね?その時の面白い話とかありますか?」
「そうですね。昔の私は普通の人間だったのであまり面白い話は無いですね…ごめんなさい。」
「外の世界での家族の話とかは?」
「………」
(もしかして、何か問題でもあったのかしら?)
「私は小さい妹がいたんですが…小さい頃に神隠しといいますか、失踪してしまいまして…幻想郷に来て、もしかしたら少しは手がかりが掴めるかとは思ってるんですが…」
(く、暗い…まさかここまで暗い話をされるとは…この射命丸文も予想してませんでしたよ…)
「もし妹さんと会えたらどうします?」
「あの子はまだ小さかったから私のことなんて覚えていないでしょうね…それでも姉妹だからきっとどこかでつながってると思うわ。」
きっとそうですね、と私は言い、本題を切り出した。
「そういえば、早苗さんは人間と妖怪のどちらが恵まれてると思いますか?」
やっぱり誰もが悩むようで答えるまで三十秒はかかって早苗は口を開いた。
「私は…人間だと思います。」
「そう…ですか。霊夢さんも同じ答えにたどり着きましたよ。」
すると何かを一瞬ほど後に
「そうですか…霊夢さんが…」
「早苗さんもきっと妖怪になろうとは思わないでしょうね。」
「私は妖怪も十分に恵まれてると思いますが、一生が短い分だけ人生を充実させることに必死になる人間が好きなんです。」
と笑って言った後、再び黙り込んだ。
(まただ…何だろう、この違和感…)
霊夢の時にもあった違和感が再び私を襲う。
だがそれも何者かの操作があったかのように一瞬で消え去る。
「早苗さん、ありがとうございました。咲夜さんや魔理沙さんにも聞いてみますね。」


現在


博麗霊夢の葬儀が終わり、リリーホワイトが春を告げるころ、妖怪の山を始め、幻想郷は再び悲しみに包まれることになった。
最初に異変が起きたのは守矢神社の神様の一柱、洩矢諏訪子にだった。
神様である彼女が風邪をひいて寝込んでしまったのだ。
その報せを聞いて私も守矢神社へ向かう。
心配に思った東風谷早苗が永琳を呼んできたところ、
「存在そのものが弱まっていますね…たぶんそのうち神奈子様にも異変がでると思います。それと、早苗さん。あなたは…」
そこまで行って後悔したような表情をしたがすでに遅かった。
「わかっています。自分のことですから…」
と、早苗は永琳に告げた。
私は、諏訪子様が寝込んだ時点で嫌な予感はしていたが、時が経つにつれてそれが不安に変わり始めた。

それからと言うもの、守矢神社は徐々に荒れ果てていった。
とうとう神奈子様も寝込み、早苗が面倒をみているが、二人の容態は回復することがなく、早苗も倒れてしまった。
その報せを聞いた私は風よりも早く、音に近い速さで守矢神社にたどり着いた。
「早苗さん?諏訪子様?神奈子様?入りますよ!!」
すると、床に伏している諏訪子様と神奈子様は様子がおかしかった。
体が少し透けて、向こう側が見えるのだ。
「あぁ、文さん。聞いたのね…最後になるかもしれないから、良く聞いて…」
「そんな…早苗さんまで…」
「私は良いのよ…だけど、あなたに黙っていたことがあったから聞いてほしくて。」
と言って早苗さんは語り始めた。
もはや、床から起き上がれないくらいに衰弱しきっているが言葉はしっかりしている。
「昔、あなたが神社に取材に来たとき、私の妹の話をしたでしょう?あの時は話さなかったけど、私の妹、あの子が幻想郷に来て、博麗霊夢になったのよ…」
立て続けに色々なことが起きたせいで頭の整理がつかない。
(ええっと…霊夢さんと早苗さんはもともと姉妹で、神隠しにあった早苗さんの妹が霊夢さん?)
「………」
「そう、だったんですか…なぜ今まで話さなかったのですか!!」
怒りに任せて早苗さんに向かってきつい言葉をかけてしまう。
「霊夢さんは気付いてたんですよ!!外の世界で自分が誰だったか、なぜ早苗さんがこの幻想郷に来たかを!!」
「あなたは霊夢さんに言わなかった。霊夢さんはあなたに言えなかった。一度離れ離れになった姉妹の二人が再開したのにすれ違ったまま死ぬなんて、そんな悲しい話がありますか!?」
気付かないうちにだいぶ大きな声を出していたようだ。
「だから私はジャーナリストであることを捨ててあなたに話しました。」
見ると、早苗さんは霊夢さんの葬儀の時よりも大粒の涙を流していた。
「ごめんね…ごめんね、霊夢。お姉ちゃんが黙っていたせいで寂しい思いをさせたね…」
そして彼女は今までためていたものが決壊したかのように涙を流した。

彼女がある程度は落ち着いたであろう頃に一つの質問をした。
「最後にもう一度だけ質問させて下さい。私たちから見ればほんの短い時間、ただし、あなたたちにとっては長い間、あなたたちはすれ違ったままでしたが、それでも人間の方が妖怪より恵まれてると思いますか?」
我ながら残酷なことを聞いてしまった。
こんなことを言った後にまだ人間の方が恵まれてると答える人間はそういないだろう。
しかし、早苗さんの答えは完全に予想外の答えだった。
「それに関しては妖怪でも人間でも変わらないと思うの…たとえ永い時を生きる妖怪でも互いに言い出すことが出来なければ意味は無いわ。」
「だから、私の答えは前と変わらないわ。人間の方が恵まれてると思うの。だって、私は、今まで必死に生きてきて、美しく最期を迎えられるのだもの。だから文さんも、そんなに悲しまないで。」
言われてから私は自分が大粒の涙をとめどなく流していることに気が付いた。
「それと、文さん。お願いがあるんだけど、聞いてもらっていい?」
「諏訪子様と神奈子様のことですか?」
「えぇ、普通、神様は信仰を集められなくなったら消滅するわ。だから今、神奈子様たちは消えかかっているの。信仰が薄れているから。」
「どうするんですか?」
信仰なんて簡単に集められるものではない。
「あら、文さん。私の能力を忘れてません?」
「あっ…『奇跡を起こす程度の能力』でしたね。」
「そう、だいぶ昔に気付いたんだけど、この能力で大きな奇跡を起こすためには大きな代償が必要なの…」
そこまで聞いて、早苗さんの隣の諏訪子様が苦しさを堪えて口を開く。
「早苗…私たちのことはいいから、自分の体を…今の私たち二人分でもお前一人くらい何とかなるだろ…」
「いいんです…私は人間ですから、どうせ、もう長くありません…」
「早苗さん、諦めないで下さい…あなたまでそんなことを言うんですか…これだから人間は…」
「人間だからですよ。妖怪よりも寿命の短い人間だから、最期まで後悔の無いように生きたいんです。」
「だから、そろそろお別れですね…諏訪子様、神奈子様、そして文さん。今までありがとうございました…」

そう言って東風谷早苗は息を引き取った。
彼女の死に顔もまた、安らかで悔いの無いような笑顔だった…
「早苗さん…人間って生き物はどこまで自分勝手なんだ!!なんであなたたちは残される人たちのことを考えずに自分の考えを貫いて死んでいくんだ!!」
私は大粒の涙を流しながらやり場の無い怒りを口にだす。
「それは勘違いよ、射命丸文。」
いつの間にか起き上がっていた八坂神奈子と洩矢諏訪子が言う。
「早苗は決して自分勝手で死んだわけではなかったわ。あれは人間のさがみたいなものよ…」
と神奈子が言う。
「その事はあなたが一番知っているでしょう?早苗が言っていたように彼女は必死に生きて美しく死んでいった。それが答えじゃないかしら?」
と諏訪子も言った。
「そうですね…早苗さんもきっと後悔は無いんでしょうね…早苗さんも霊夢さんも最後まで、人間らしく、人間のままで人生を全うして逝きました。」

その日もまた、幻想郷に悲しみが溢れた。
「早苗、お前まで私を置いて逝くのか…」
立て続けに友人二人を亡くした魔理沙がポツリとこぼす。
守矢神社で宴会が開かれることはあまり無いが、この日は霊夢に倣って宴会を開いた。
私はやっぱり酒を飲む気にならずあの事を考えていた。
(早苗さんと霊夢さんが姉妹だった。霊夢さんは紫に連れてこられた。そして早苗さんも幻想郷に来ることになった。)
以前のように椛が酒を持ってきてくれるが、私はその誘いを断って立ち上がった。
いてもたってもいられなくなり、私は紫の元に行くことにした。
「文様、どこにいくんですか?」
と椛が涙目になるが気にとめていられない。
「八雲紫の家よ!!」
「じゃあこれを使ってください。」
と言って椛は私に何かを投げた。
「これは、突風「猿田彦の先導」?ありがとう、椛。これならいつもより速く飛べるわ。」
自分の出せる最高速度で真夜中の八雲邸を目指した。
幻想郷最速であることがこれほどまでに役に立ったことは無かった。
八雲邸の門を叩くと、藍が出迎えてくれた。
「紫様がお待ちですのでお上がりください。」
(あぁ、やっぱり八雲紫にはお見通しなんだな…)
予想はしていたがすべてを見透かされているような恐怖が身を包む。

通された部屋にはすでに紫が待っていた。
「ずいぶんと遅かったわね。私の睡眠時間を減らすとはいい度胸してるじゃない。」
笑いの無い笑顔で紫が軽く威圧してくるが、そんなことではジャーナリストはつとまらない。
「まあいいわ、ここに来たということは、早苗はあなたには話したのね。」
彼女はいったいどこまて知っているのかもはや恐怖どころの話ではない。
「まずは霊夢さんのことです。霊夢さんはあなたに幻想郷に連れてこられたと言っていましたが?」
「それに関しては霊夢の言っていた通りよ。まだ幼かった霊夢を連れてきて博麗の巫女にしたのよ。どうせ早苗のことも聞くんでしょう?話はそれからよ。」
主導権を紫に握られて話を進めにくいがそんなことは今はどうでもいい。
「早苗さんは外の世界で信仰を集められなくなったから幻想郷に来たと言ってましたが?」
「それが真実だとでも思ってたの?」
と不敵な笑みを浮かべる。
「どういう、意味ですか?」
「ふふふ、あなた、私を甘く見てない?私が能力を駆使すれば神を餓死させかけるくらい簡単よ。」
「あなたは何が目的なんですか!?」
このさい相手が八雲紫であろうと関係ない。
「そうね…文、あなた、妹はいる?」
突拍子も無いことを言い出した。
「妹ですか?700歳ほど離れた妹が一人いますが…それが何か?」
「はあ、あなた本当に鈍いわね。まあいいわ。その妹が急に連れ去られたらどうする?」
「そりゃあ、血眼になってでも探しますよ。心配ですから。」
そこまで言ってやっと気付いた。妙なところで本当に鈍いのね…私。
「気付いたようね。そう、それが早苗の置かれた状況よ。」
「それじゃあ、その連れ去られた妹はどういう状況だと思う?」
「そりゃあ、心細くて泣きじゃくっているでしょうけど…」
「そう、霊夢も幻想郷に来たばかりの頃は私を頼って泣いてばかりいたわ。」
「それでも根は明るい子だったからすぐに慣れたようだったけど、やっぱり家族が恋しかったようね。」
「霊夢さんも友達はすごく多かったんですけど…」
「所詮は友達よ。家族の愛情にはかなわないわ。」
そうか…だから紫は早苗が幻想郷に来るように仕組んだのだ。
「私らしくないと思うでしょうけど、霊夢が寂しそうにしてるのを見るのがつらかったのよ…」
ふう、と一息ついて目の前の飲み物の入った透明な容器の蓋を開ける。
ペットボトルとか言う容器に入った飲み物は外の世界で仕入れて来たらしい。
私も口に含んでみることにした。
「うわっ!?何ですかこれ?」
口に含んだ途端に痺れるような感覚を覚えた私を紫はいたずらが成功した子どものように笑う。
「ふふ、驚いたようね。それはコーラと言う外の世界では若者の定番の飲み物よ。」
初めて口に入れた時は驚いたが、後味は…
「すごく甘い…」
もう一口飲んでみる。
やはり痺れるような感覚は無くならないが何とも不思議な味だ。若者が好むのもわかる気がする。
改めて部屋を見渡すと見たことのない物が大量に置かれていた。
「すごい…こんな道具、香霖堂でも見たこと無い…」
「当たり前よ。彼は拾ってくるだけでしょう?私は直接仕入れてるのよ。」
部屋の中には火が無くても周りを照らせる道具や、今の正確な時刻を知ることの出来る道具など役にたつ道具のほか、
「これは一体何のための道具だろうか?」
と言うような四角い箱などがあった。
彼女が言うには
「電気が使えればもっと楽なのに…」
と言うが、その電気が良くわからない。
「幻想郷は科学を捨てた場所だからしょうがないわね…」
と諦めたようだった。

これ以上の収穫は無いと思った私は
「ありがとうございました。」
と言い、席を立とうとした。
「そう、それだけで良いのね。」
(それだけ?他にも何かあるのだろうか…)
と思ったが思い当たることは無い。
「あなたがこの世界の人間の真実に近付いたとき、もう一度私のところへ来るでしょう。」
と予言めいた言葉を言い、紫は眠りに落ちた。
(私はまだ真実に近付いてないのか?)
そう思いながら、藍に挨拶をして八雲邸を後にした。

早苗の葬儀もまた、悲しみに包まれたものだった。
私は未だに霊夢と早苗の事実は口外していない。
いや、する必要は無いだろう。
早苗も霊夢も、一人の人間として愛され、慕われ、死んでいったのだから…
まずは霊夢編にコメントしていただいた皆様ありがとうございます。
そしてここまで駄文を読んでくださった皆様ありがとうございます。
一度書き始めたからには完結してあげないと物語がかわいそうだったもので…
実はまだ続きます。
伏線を回収しきっていませんのでしばらくお付き合いくださるとありがたいです。
誤字脱字は多分無いと思いますが発見されたら報告をお願いします。
次回は咲夜編の予定です。
それでは、またあとがきでお会いできたら嬉しいです…

指摘のあったところを修正しました。
コチドリ様、ありがとうございました。
勿忘草
[email protected]
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コメント



0.600簡易評価
2.90みなも削除
続きを書いてくださってありがとうございます.

この人はきっと物語を描くのが好きなのだなあと読んでいて思いました.
人間なんてものは,大体が,自分の望むだけいいことをできたりかけたりすることは少ないです.みんな,壁にぶち当たります.だから,次はさらに素敵な文章が書けると信じて頑張ってください.

私は勿忘草さんの作品,なかなかに好きです.
4.50名前が無い程度の能力削除
二次創作らしい話でした
続きを期待しています
10.50コチドリ削除
物語全体の感想を書くのは完結してからとして、一つ気になった所を。
早苗は外の世界に居た頃から人間であると同時に、現人神・風祝だったはずなので、
逆に幻想郷入りしてやっと、ある意味普通の存在になれたのではないかと。

「必死になるの人間が」→必死になる人間が、ですかね。
11.無評価名前が無い程度の能力削除
題材自体は好みなので続けて欲しいです。
ですが、文章はまだまだこなれてない感じが。
場面転換とか。
一番違和感があったのが敬称ですかね。
永琳が諏訪子に「様」つけるとか。
もうちょっと推敲して欲しいかも。
12.無評価勿忘草削除
指摘されてから気付いたのですが、修正方法がわかりません…
大変申し訳ないのですが教えてください…
13.無評価コチドリ削除
指摘した者の義務として修正方法をお教えしたいのは山々なのですが、
何分、私もコメ付に関しては新参者ですのでわからないのです。
ここはひとつ、サイトの管理者様にメールで問い合わせてみてはいかがでしょう。
うわぁ、すんげぇ無責任だ。ごめんなさい。
17.100名前が無い程度の能力削除
まだ粗いですがなかなか興味深い話ですね
18.70ずわいがに削除
神奈子様と諏訪子が急に倒れてしまったことについてもちょっと詳しい説明が欲しいですね
文も怒ったり落ち着いたりが唐突で、霊夢が死んで情緒不安定気味だとしても少々違和感がありました

霊夢と早苗が姉妹、この発想は面白いです
早苗までいなくなってしまって、まさか…