Coolier - 新生・東方創想話

如何に秋静葉は絞首台に上ったか

2010/04/16 23:33:12
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妖怪の山の麓、此処には八百万の神がいる。

その八百万の神である、秋静葉と秋穣子の周りの空気は重かった。
季節は冬であり、彼女達の役目は終わってしまったからである。

秋では、元気であった穣子も暗い。
秋でも、静かであった静葉はもっと暗い。

穣子は溜息をつく。

「仕方がないと言えば仕方がないのだけど、今年も冬がやってきた…」

人間の里の収穫祭も終わり、穣子の出番は終わってしまったのである。
作物が育ち終わった時、豊穣の神である穣子はやる事がなくなってしまうのである。

つまり、冬は自分がもっとも必要とされない季節である。

ふと空を見ると、厄神様がくるくると回っていた。
この辺りに厄が溜まっている様である。

ふと山を見ると、崖の上に紅葉の神が立っていた。
何をするのかと思えば、急に崖から飛び降りた。

「───って何してんの!? お姉ちゃん!!」

穣子は紅葉の神であり、実の姉である静葉が崖から飛び降りたのを見ると同時に空を飛ぶ。
まさかの速さで、空を飛ぶ。
穣子は、自分がこれほどの速さで飛べるとは思わなかった。

静葉が地に落ちる前に、空中で受け止める。

「何、神様が身投げしてるのよ!」

秋姉妹は、普段さほど仲が良くはない。
穣子は、農作物の良さを姉に見せ優越感を得る。
静葉は、紅葉の美しさを妹に見せ優越感を得る。

秋には、秋の良いところを比べ合っている。
その時は、意見の合わない姉を邪険にしてしまう。

しかし、この様なことをすると心配である。

「………」
「え、何? 冬が来たから、終焉の象徴である紅葉の神も終焉を迎えるべきである?」

穣子は、この言葉に聞き覚えがあるような気がした。
それは、去年の冬のことである。
去年の静葉は、葉が散ってしまった木の枝に縄をくくり付け、首を吊ろうとしていた。
その時は、間一髪のところで木の枝が折れて助かった。

神がこの様な手段で死ねるかどうかはさておき、冬が来るたびに自殺しようとするのは止めて欲しかった。

「………」
「そうね、冬さえ来なければ…」

秋が来れば、秋も終わり冬が来る。
こればかりは、仕方ないことである。

「あー、どうして冬が来るのだろう。寒くて動物達も冬眠しちゃうし良いこと無いじゃない!」

良いことがないわけでは無いが、穣子はご立腹であった。
特に冬が悪いわけではない、ただの八つ当たりであることは穣子も理解している。

怒りの矛先が無い穣子に、静葉は驚くべきことを告げる。

「………」
「したらば、冬を来なくさせれば良い? お姉ちゃん、何言ってるの」

幻想郷には四季がある。
春夏秋冬と、当然やってくるものはやってくる。

「………」
「何時だったか春雪異変を思い出してみるべし? ああ、あの時の冬は長かったね」

確かに、春がなかなか来なかった年があった。
春の季節というのに雪が降り続き、花が咲くことは無かった異変である。

あの年は冬が長く、静葉の自殺未遂回数はダントツであった。
穣子でさえ、冬が終わらないのではないかと思い身投げを考えたほどである。

「………」
「あの時は、春度というものが奪われ春が来なかった。ならば、冬度を奪えば冬は来ぬ?
───お姉ちゃん、本当に冬度なんてあるの?」

穣子には冬度など聞き覚えが無かった。
しかし、春度があるならば、冬度もあっておかしくは無い。

「………」
「えーっと、春度があるならば、夏度もあり、秋度もある。当然、冬度というものもある?」

無理やりな気がしたが、妙な説得力があった。
静葉が言うには、冬度を奪えば秋に戻るか、早めに春が来るということになる。

「ふむふむ、試してみる価値はあるかもしれないね」

いつも冬は、憂鬱な気分を耐えてきた。
言わば、受け手である。
ならば、今年くらい攻め手に回っても良いのではないかと穣子は思う。

「………」
「では早速、冬度を奪いに行くぞ妹? ええっ! もう行くの!?」

こうして秋姉妹の、冬への挑戦が始まった。




「───で、お姉ちゃん、冬度ってどうやったら奪えるの?」

春度の場合は、桜点というアイテムがあった。
ならば、冬度のアイテムとは一体何なのか。

「………」
「ふむふむ、知らぬ? え、お姉ちゃんも知らないのならどうするのよ?」

「………」
「わからなかったら人に聞く? と、言っても誰が知ってるのかな」

穣子は冬に詳しい者について考える。
毎年、冬が来た時は大人しくしているので、冬について考えたことも無かった。
秋姉妹は、いきなり行き詰ってしまった。

しかし、穣子は良いアイデアが閃いた。

「そうだ! 良い事思い出したよ」
「………?」

「人間の里にね、妖怪や人物について書かれた幻想郷縁起という書物があるのよ。
それを見れば、冬に詳しい人物や妖怪が分かるかもしれないよ」
「………!」

幻想郷縁起とは、稗田家が編集している人物や妖怪について書かれた書物である。
人物や妖怪の特徴、特技、イラストなどが描かれている。

現在の稗田家の当主は、阿求という少女のはずである。
頼めば見せてもらえるかもしれない。

「………」
「ならば、我々の行き先は決まったな? そうね、人間の里に向かおうか」




こうして、秋姉妹は人間の里にやってきた。
里にやってきたものの稗田家の場所がわからなかった。
しかし里の者に聞けば、すぐに教えてもらった。

「………」
「さすが、妹は豊穣の神であるな。人々からの信仰故にすぐに信頼され場所を教えてもらった?
───お姉ちゃん、あまり関係ない気がするよ」

教えてもらった場所に行くと、すぐに稗田家を見つけることができた。
他の家に比べて、大きさの規模が違った。
庭園付きの立派な屋敷である。
家の者に当主に会いたいと言えば、すぐに客間に通してもらった。

「良かったね、アポなしでも通してもらったよ」

しばらく客間で待っていると、まだ幼い少女がやってきた。
少女といえど、どこか落ち着いた不思議な雰囲気を感じる少女である。

「お待たせ致しました、現稗田家当主の稗田阿求と申します」

阿求は礼儀正しく挨拶をする。

「豊穣の神の秋穣子です。こっちは姉で紅葉の神の秋静葉といいます」
「穣子様は存じておりますよ、収穫祭で良くお見かけしてます。静葉様は初見ですが」

「………」
「?」

穣子は静葉が言いたいことを通訳する。
静葉が伝えたいことを理解できるのは、妹である穣子くらいである。

「えっと、それは仕方があるまい、私は滅多に山から降りぬ」
「なるほど、静葉様の方は収穫祭には来られていなかったのですね」

お互いの自己紹介も終わり、秋姉妹は本題を切り出す。

「………」
「───っと、さて、本題を話そうか。阿求殿、幻想郷縁起を拝見させて頂きたい」
「幻想郷縁起ですか、失礼ですが目的を教えていただきたいです」

幻想郷縁起は人間の生活の安全を確保するために、妖怪について、妖怪退治の専門家について書かれたものである。
阿求が質問した理由は、八百万の神である秋姉妹には必要のない物のはずであるからである。

「………」
「冬に詳しい人物、もしくは妖怪について知りたい」
「………解りました、しばらくお待ちください」

そう言い残し、阿求は部屋から出て行く。

「お姉ちゃん、むしろあの子に聞けばすぐに解る様な気がするんだけど」
「………」
「聞くのも良いが、折角だから幻想郷縁起を見てみたいではないか? まあ、そうだね」

しばらく待っていると、阿求が戻ってくる。
その手には幻想郷縁起と思われる書物が見える。

「お待たせ致しました、どうぞご覧になってください」
「………」
「感謝する」

秋姉妹は幻想郷縁起を開き、目を通し始める。
最初に目に付いた氷精は、果たして冬に詳しいのだろうか。

「………」
「このチルノって妖精はどうだろうか? そうだね、氷精は冬に詳しそうだしね」

「基本的に妖精は、頭がそれほどよろしくないのでお勧めはしません。
特にその氷精は、妖精の中でも群を抜いております」

阿求からの申告に、秋姉妹はチルノに冬のことを聞くのは止めた。
さらに幻想郷縁起を読み進める。
妖怪の項目に差し掛かったとき、目的の妖怪を発見した。

「お姉ちゃん! こいつ………!」

静葉は何かを考えているようであった。

「………」
「妹よ、我々の次の目的が決まったな? ───って、どうするの?」

静葉は幻想郷縁起を閉じ、阿求に礼をした。
穣子も姉に習い礼をする。

「………」
「えっ! もう行くの!? それでは阿求さん、ありがとうね」
「はい、今度会うときは静葉様と穣子様のこと、詳しくお話を聞かせていただきたいです」

稗田家を後にした秋姉妹は、上空から人間の里を見下ろす。
穣子は、急に行動に移った静葉に質問する。

「お姉ちゃん、急にどうしたの? もう少しゆっくりしていっても良いじゃない?」

静葉は自分の推測を妹に告げる。

「………」

そのことに穣子も驚きを隠すことができない。
内容は衝撃的なことであった。

「冬の妖怪、レティ・ホワイトロック。彼女が来ることにより、冬が来る───?」







レティ・ホワイトロックは寒気を操る程度の能力を持っている。
冬のレティの能力は、侮れない物がある。
さらに冬の妖怪と言われている通り、冬にしかその姿を現さない。

レティは年に一度の冬を満喫していた。
寒気を操ることにより、雪を降らせることも可能である。
レティは、美しい雪が好きであった。

雪を降らせようと、寒気を操り始める。
すると声が聞こえてきた。

「お姉ちゃん、落ち着いて!」

声のする方向を見ると、紅葉の髪飾りをした少女が、葡萄の飾りをつけた帽子を被っている少女と言い争いをしていた。
レティは一体何事だろうと近づいてみる。

「………!」
「リリーホワイトという妖精が現れると春になるというではないか!
───確かに、あの妖精は春を運んできているとも言われているけど」

「………」
「ならば冬の妖怪が、冬を運んできていてもおかしくは無い
───って、あの妖精はあの妖精だからだよ!レティって妖怪は別に冬を運んできているわけではないよ!」

レティは、何やら自分のことを言い争いされていることに気づいた。
気になるので、少女二人に話しかけてみる。

「もしもし? 私の名前が聞こえたような気がしたんだけど」

声を掛けて、ようやく二人はこちらに気づいた。
レティに気づいた紅葉の髪飾りをした少女は、驚いたような素振りをする。
葡萄の帽子の少女が確認する。

「あー、レティ・ホワイトロックという名前で間違いないよね?」
「確かに私はそういう名前よ、貴方達は?」

レティは目の前の少女達に見覚えがなかった。
人間ではないことは解った。

「私は豊穣の神の秋穣子、こっちは姉でもある紅葉の神の秋静葉よ」
「へぇ、冬にはめずらしい神様だけど、何故私のことを?」

穣子は、今までの経緯を説明する。

「………」
「つまり冬の象徴である貴方を倒せば、冬は終わるという結論にたどりついた───ってさ」

「なるほど、別に私が来たから冬が来たわけじゃないわ。
冬が来たから私が来たの。だから私を倒しても、冬は終わらないわよ」
「ですよねー」

今までの話を聞く限りでは、冬度について調べているはずだったが、私のことを知って黒幕だと思ったらしい。

「………」
「ええっと、妙な疑いを掛けてすまなかった、したらば冬度について何か存じぬか」
「冬度ねぇ、考えたこともなかったわ。もしかしたら存在しないのかもしれないわね」

その言葉に、秋姉妹は気を落とした。
冬の妖怪ですら、冬度のことについて知らなかった。
つまり、冬度についての捜査は手詰まりであった。

「仕方ないね、お姉ちゃん。いつも通り冬が過ぎるのを待とう」

穣子の言葉に、静葉は力なく頷く。

「それでは、私達は帰るわ」

秋姉妹は落ち込んだ様子で立ち去る。
レティは、妖怪の山の麓に帰ろうとする秋姉妹に一言言う

「ああ、そういえば今年の冬は長いらしいわよ、頑張ってね」





「お姉ちゃん! 止めて、早まらないで!」

静葉は、台に上り首を吊ろうとしていた。
前回の経験を生かし、大木の立派な枝に縄をくくり付けている。
そして、どこから用意したのか台もある。

「………」
「冬が長いのならば、私は耐えられない。終焉の象徴である紅葉の神も終焉を迎えるべきである?
───それさっきも聞いたよ!」

穣子は必死になって止める。
首を吊ったくらいで八百万の神が死ぬとは思えないが、兎にも角にも止めて欲しかった。

ふと、台の上から見下ろすと厄神様がくるくると回っていた。




「なかなか面白い神様だったけど、せっかく来た冬を終わらせようとするなんてね」

レティは最後に嘘をついた。
こんなに素敵な冬を終わらせようと、冬度を探す神様に意地悪をした。

そのために、静葉が絞首台に上るはめになったのは知る由もない。
はじめまして、初投稿となります。
物騒なタイトルですが、多分物騒な話ではないかと思います。
あまりにも季節はずれな話ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

何かご意見、ご指摘があれば、よろしくお願いします。

4/17追記
コメントありがとうございます。
非常に参考になり、投稿して良かったと思いました。

確かに急に一人称視点になるのは違和感がありますね。
これからは気をつけたいと思います。

ビニールハウスの発想は無かった……!
にょけ
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コメント



0.530簡易評価
8.60名前が無い程度の能力削除
うーん……色々惜しい気がする
もっと一つ一つの場面を膨らませるなり切れ味を増すなりしたらグッと面白くなりそう
でもこの静葉はなんか可愛い
9.60名前が無い程度の能力削除
>私のことを知って黒幕だと思ったらしい。
今まで三人称視点で進んできたのにいきなり一人称視点になって混乱しました。
10.60コチドリ削除
穣子様はビニールハウスが幻想入りしたら、冬でもなんとかなりそうなのですが、
静葉様は、…うーん。
作者様は、僭越ながら作品を書き続けていけばどこかで必ず良い意味で化けると私は思います。
これからも頑張って下さい。
13.60名前が無い程度の能力削除
タイトルの「絞首台」で「静葉が絞首刑にされる」というミスリードを狙ったのでしょうか。
だとしたら冒頭の身投げで「絞首台→首つり?」と読めてしまいました。


精進なすってください。
16.80ずわいがに削除
自分で吊るのかよww
静葉様、あんた今輝いてるよ(ネタキャラ的な意味で