「な、なんだってー!!」
手渡された「文々。新聞」号外を見るやいなや、八雲藍が仰天したのも無理はない。
【博麗霊夢と霧雨魔理沙の熱愛発覚】
【幻想郷人間界最凶(?)カップル誕生】
【博麗神社の巫女は結界管理より恋泥棒に夢中?】
【貧乏巫女と泥棒魔女の、明日なき愛の狂想曲】
無責任で煽情的な見出しが、否応なく興味を誘った。
「らんしゃまー、らんしゃまー、なによんでるんでしゅかー」
ちゃぶ台の前に座り九本の尻尾で自らの式・橙をあやしながら、藍は手元の記事に目を通す。
「ん? ああ、これはね、天狗の作った下劣なゴシップ紙だよ。ちぇんは読んだらダメだよ。眼の毒だからねー」
冥界にほど近く、ただ幻想郷のどことも言い難い、辺境の地に、八雲邸は人知れず存在していた。
その主、八雲紫は、口では「ビックリしたわー」と言いつつも、あくまで呑気に眠たげに、スキマの端に腰掛けてふわりと浮かんでいる。
「紫様、それで本人たちとは話を……?」
「ええ、たった今」
「本気……なのですか?」
「らしいわね……まあ、霊夢も人間だったってことでしょう」
手遊びに、ぱちぱちと扇を開閉しつつ、遠い目で幻想郷の賢者は二人の境遇に思いを馳せる。
「博麗の巫女という立場ゆえに、人とも妖とも深く関わらない霊夢。それを知り、ただ一人、友として分かち合う魔理沙。そこに友情以上のものが芽生えても、仕方がないでしょうね」
「らんしゃまー、らんしゃまー、ちぇんはらんしゃまとけっこんしますー!」
「んほおっ……ちぇんはかわいいなあっ」
橙があまりにも可愛いことを言うもので、藍は意味不明な奇声を上げてしまった。
「…………おほん、いや失礼。ちぇんにはまだ早いよ」
紫に若干冷たい眼で見られたので藍は咳払いをして居住まいを正す。
あらためて手元の紙面に目を落とすと、記事は、あの夕刻の霊夢の宣言を詳らかに追っていた。
ポイントは次の2点だ。
1.博麗の巫女、霊夢は霧雨魔理沙の妻になる。
2.巫女の職務を、子に継承させることを考えている。
「しかし、突然ですね……紫様に事前の相談もなく……」
「突然ってことはないわ。むしろ私は今の霊夢の世代で、よく考えてくれていたと思って、そっちの方がビックリしたわ」
「……と言いますと?」
「たとえ個人がどんなに優秀でも、人間の寿命は短い。次の世代へ繋いでいく『仕組み』が必要よ」
幻想郷にとって「博麗の巫女」は必要な「職務」である。
もちろん紫としても、霊夢がその「職務」を全うできないときは、代わりの人間を探すつもりではいた。だが、必要なときに必要なだけ、そう都合よく適性のある人間を探し出して来れるとは到底思っていない。
だから、有望な人材を、家系などの条件であらかじめ安定的に選出できれば、それに越したことはないのだ。
「人間の才能は遺伝によるものが大きいでしょう? 彼女が結婚して子を成すというのならば、私は歓迎。守矢神社もあるけれど、保険は多い方がいいもの」
あの秋、守矢神社が二柱神ごと移転してきた際、幻想郷の危機管理に対して過敏な紫が、一切の口出しをしなかった。
二柱の神を奉り、現人神を擁する守矢を受け入れることを、「保険」として認識したからだ。
妖怪の山に立つ守矢神社は、妖怪寄りの神社となるだろう。そして現人神・早苗は、人間と神の代弁者となる。守矢がうまく信仰を集めてくれれば、紫が介入せずとも、自然と人・妖のバランスを取ってくれて、結界管理の助けとなる。
「早苗は現人神というだけあって、私の見た限り、なかなかの霊格を持っている。人としての死後、それなりの神になる可能性が高いわ。でも、霊夢は、そんなモノに興味がない。人として生き、人として死ぬつもり」
――それはあの子らしいところなのだけどね。
紫は胸の中でひとりごちた。
「そうなったとき博麗の巫女が潰えない『仕組み』をうまく作りたかったの」
紫の思い通りに事が運べば、「霊夢の子孫」と「守矢三神」により、結界の管理体制が組まれることになるだろう。
「そういうことですか……」
「そういうこと。だから、私が、霊夢の結婚を反対する理由は何もありません」
「しかし、紫様、根本的な問題が! 相手は、魔理沙ですよ? 子が生まれるわけが……」
「らんしゃまー、らんしゃまー、こどもって、どうしたら、うまれるんでしゅか?」
「えっ」
「おんなどうしだと、こどもはうまれないんでしゅか?」
橙からの突然の質問攻めである。
「おとことおんなが、ひつようなんでしゅか? おとことおんなだと、どうしてうまれるんでしゅか?」
「……ちぇんは早く寝なさい!!」
藍は少し頬を赤らめながら、二人の会話に割り込もうとする橙を、寝室に連れていき、無理矢理床に就かせるのであった。
「ふぅ……」
橙を寝かしつけ、藍が居間へ戻って来たとき、紫は何かの分厚い本を開いて読んでいた。
「それは?」
答える代わりに紫は細指で本の表紙に触れる。
そっとスキマの上に浮かべ、本の内容が藍に見えるようにしたのだ。
パラ、パラ……。
本のページがめくれる。
藍の目に、人間の脳や神経、血管、骨格、内蔵の図が飛び込んできた。
「医学書ですか?」
「そう、外の世界は医学が進んでいて」
優雅だが邪悪な、妖しい笑みを湛えつつ、紫は言葉を紡ぐ。
「女を男にすることもできるわ、不完全ながら……ね」
神と妖怪と人の共存する幻想郷には、外の世界ほど高度な医学があるわけがない。
「そんなことが、この、幻想郷で出来る者など」
「いるでしょう? こういうことが得意な輩が……」
ただ一人、いた。
月世界の古代文明で医学薬学百般、たなごころにおさめ、魔術妖術を合成させればチート級の、おそるべき「月の頭脳」が。
「八意永琳? 月人が手を貸すとでも……」
「幻想郷のためよ。あの馬鹿姫君だって、この幻想郷という安息の地を失うのは、いたくお困りじゃなくって?」
紫は笑う。
ふっとスキマの中に分厚い本が消える。
「感謝なさい、この私、八雲紫がお膳立てしてあげているのだから」
紫は優雅な所作で再び愛用の扇を取り出した。
「さあ――」
――MMR(Masculinized Marisa & Reimu)<男性化魔理沙と霊夢>プロジェクト、ここに開始を宣言します!
「な、なんだってー!!」
突如何かの電波を受信したように藍が絶叫する。
「何よ、藍、そのリアクションは」
「いや、なんとなく、今回はこのリアクションで通さなきゃって思いまして」
「……?」
空気の読める藍である。
「まあいいわ。事ここに至っては魔理沙の覚悟次第。期待してるわ、魔理沙……」
片手を腰に添え、扇を広げ、優美に口元を隠しながら、目に不敵な笑みを光らせ言い放った、紫であった。
「美しく残酷に、その股間より生やせ!」
「紫様、紫様、それ決めポーズを取りながら言う台詞じゃありません」
「ゆかりしゃまー、ゆかりしゃまー、まりさがなにを、どこに、はやすんでしゅかー?」
「わあああ! 起きてこないで!! 早くちぇんは寝なさい!」
前途多難を感じる藍であった。
手渡された「文々。新聞」号外を見るやいなや、八雲藍が仰天したのも無理はない。
【博麗霊夢と霧雨魔理沙の熱愛発覚】
【幻想郷人間界最凶(?)カップル誕生】
【博麗神社の巫女は結界管理より恋泥棒に夢中?】
【貧乏巫女と泥棒魔女の、明日なき愛の狂想曲】
無責任で煽情的な見出しが、否応なく興味を誘った。
「らんしゃまー、らんしゃまー、なによんでるんでしゅかー」
ちゃぶ台の前に座り九本の尻尾で自らの式・橙をあやしながら、藍は手元の記事に目を通す。
「ん? ああ、これはね、天狗の作った下劣なゴシップ紙だよ。ちぇんは読んだらダメだよ。眼の毒だからねー」
冥界にほど近く、ただ幻想郷のどことも言い難い、辺境の地に、八雲邸は人知れず存在していた。
その主、八雲紫は、口では「ビックリしたわー」と言いつつも、あくまで呑気に眠たげに、スキマの端に腰掛けてふわりと浮かんでいる。
「紫様、それで本人たちとは話を……?」
「ええ、たった今」
「本気……なのですか?」
「らしいわね……まあ、霊夢も人間だったってことでしょう」
手遊びに、ぱちぱちと扇を開閉しつつ、遠い目で幻想郷の賢者は二人の境遇に思いを馳せる。
「博麗の巫女という立場ゆえに、人とも妖とも深く関わらない霊夢。それを知り、ただ一人、友として分かち合う魔理沙。そこに友情以上のものが芽生えても、仕方がないでしょうね」
「らんしゃまー、らんしゃまー、ちぇんはらんしゃまとけっこんしますー!」
「んほおっ……ちぇんはかわいいなあっ」
橙があまりにも可愛いことを言うもので、藍は意味不明な奇声を上げてしまった。
「…………おほん、いや失礼。ちぇんにはまだ早いよ」
紫に若干冷たい眼で見られたので藍は咳払いをして居住まいを正す。
あらためて手元の紙面に目を落とすと、記事は、あの夕刻の霊夢の宣言を詳らかに追っていた。
ポイントは次の2点だ。
1.博麗の巫女、霊夢は霧雨魔理沙の妻になる。
2.巫女の職務を、子に継承させることを考えている。
「しかし、突然ですね……紫様に事前の相談もなく……」
「突然ってことはないわ。むしろ私は今の霊夢の世代で、よく考えてくれていたと思って、そっちの方がビックリしたわ」
「……と言いますと?」
「たとえ個人がどんなに優秀でも、人間の寿命は短い。次の世代へ繋いでいく『仕組み』が必要よ」
幻想郷にとって「博麗の巫女」は必要な「職務」である。
もちろん紫としても、霊夢がその「職務」を全うできないときは、代わりの人間を探すつもりではいた。だが、必要なときに必要なだけ、そう都合よく適性のある人間を探し出して来れるとは到底思っていない。
だから、有望な人材を、家系などの条件であらかじめ安定的に選出できれば、それに越したことはないのだ。
「人間の才能は遺伝によるものが大きいでしょう? 彼女が結婚して子を成すというのならば、私は歓迎。守矢神社もあるけれど、保険は多い方がいいもの」
あの秋、守矢神社が二柱神ごと移転してきた際、幻想郷の危機管理に対して過敏な紫が、一切の口出しをしなかった。
二柱の神を奉り、現人神を擁する守矢を受け入れることを、「保険」として認識したからだ。
妖怪の山に立つ守矢神社は、妖怪寄りの神社となるだろう。そして現人神・早苗は、人間と神の代弁者となる。守矢がうまく信仰を集めてくれれば、紫が介入せずとも、自然と人・妖のバランスを取ってくれて、結界管理の助けとなる。
「早苗は現人神というだけあって、私の見た限り、なかなかの霊格を持っている。人としての死後、それなりの神になる可能性が高いわ。でも、霊夢は、そんなモノに興味がない。人として生き、人として死ぬつもり」
――それはあの子らしいところなのだけどね。
紫は胸の中でひとりごちた。
「そうなったとき博麗の巫女が潰えない『仕組み』をうまく作りたかったの」
紫の思い通りに事が運べば、「霊夢の子孫」と「守矢三神」により、結界の管理体制が組まれることになるだろう。
「そういうことですか……」
「そういうこと。だから、私が、霊夢の結婚を反対する理由は何もありません」
「しかし、紫様、根本的な問題が! 相手は、魔理沙ですよ? 子が生まれるわけが……」
「らんしゃまー、らんしゃまー、こどもって、どうしたら、うまれるんでしゅか?」
「えっ」
「おんなどうしだと、こどもはうまれないんでしゅか?」
橙からの突然の質問攻めである。
「おとことおんなが、ひつようなんでしゅか? おとことおんなだと、どうしてうまれるんでしゅか?」
「……ちぇんは早く寝なさい!!」
藍は少し頬を赤らめながら、二人の会話に割り込もうとする橙を、寝室に連れていき、無理矢理床に就かせるのであった。
「ふぅ……」
橙を寝かしつけ、藍が居間へ戻って来たとき、紫は何かの分厚い本を開いて読んでいた。
「それは?」
答える代わりに紫は細指で本の表紙に触れる。
そっとスキマの上に浮かべ、本の内容が藍に見えるようにしたのだ。
パラ、パラ……。
本のページがめくれる。
藍の目に、人間の脳や神経、血管、骨格、内蔵の図が飛び込んできた。
「医学書ですか?」
「そう、外の世界は医学が進んでいて」
優雅だが邪悪な、妖しい笑みを湛えつつ、紫は言葉を紡ぐ。
「女を男にすることもできるわ、不完全ながら……ね」
神と妖怪と人の共存する幻想郷には、外の世界ほど高度な医学があるわけがない。
「そんなことが、この、幻想郷で出来る者など」
「いるでしょう? こういうことが得意な輩が……」
ただ一人、いた。
月世界の古代文明で医学薬学百般、たなごころにおさめ、魔術妖術を合成させればチート級の、おそるべき「月の頭脳」が。
「八意永琳? 月人が手を貸すとでも……」
「幻想郷のためよ。あの馬鹿姫君だって、この幻想郷という安息の地を失うのは、いたくお困りじゃなくって?」
紫は笑う。
ふっとスキマの中に分厚い本が消える。
「感謝なさい、この私、八雲紫がお膳立てしてあげているのだから」
紫は優雅な所作で再び愛用の扇を取り出した。
「さあ――」
――MMR(Masculinized Marisa & Reimu)<男性化魔理沙と霊夢>プロジェクト、ここに開始を宣言します!
「な、なんだってー!!」
突如何かの電波を受信したように藍が絶叫する。
「何よ、藍、そのリアクションは」
「いや、なんとなく、今回はこのリアクションで通さなきゃって思いまして」
「……?」
空気の読める藍である。
「まあいいわ。事ここに至っては魔理沙の覚悟次第。期待してるわ、魔理沙……」
片手を腰に添え、扇を広げ、優美に口元を隠しながら、目に不敵な笑みを光らせ言い放った、紫であった。
「美しく残酷に、その股間より生やせ!」
「紫様、紫様、それ決めポーズを取りながら言う台詞じゃありません」
「ゆかりしゃまー、ゆかりしゃまー、まりさがなにを、どこに、はやすんでしゅかー?」
「わあああ! 起きてこないで!! 早くちぇんは寝なさい!」
前途多難を感じる藍であった。
続き書いてね!
でも、永琳に頼らなくても、ゆかりんが男と女の境界をチョチョイとイジれば解決じゃね?
でも話としてはこっちの方が面白そうだw
性転換自体も仕組みとして作ってしまえばいいわけだしな
続き楽しみにしてますww