幻想郷の美しい夜空に、幾度と無くシャッター音が響き渡る。
今まさに、射命丸 文の圧迫取材が展開されているという証だ。
今宵、彼女のカメラの餌食に選ばれたのは、一羽の喧しい小鳥。
「撮影完了っと。おぉ、これはスズメガですかね~」
「もぉ、ちょっと待ってってばぁッ!」
夜雀、ミスティア・ローレライである。
文に飛び掛られて咄嗟に放ったスペル『天蛾の蠱道』は、
ものの見事に文の持っているカメラに収められていた。
「いきなり写真撮ったりして……なんのつもりよ!」
「平たく言えば取材です。あなたの弾幕も、良い記事になるかも知れませんし」
取材して損は無い。記事に起こすかどうかは、後から取捨選択すればいい。
まずは目の前にいる妖怪の実力を調べきろうと、文は改めてカメラを構える。
「まだやるのっ?」
「もちろんです!」
ミスティアは一方的な取材が続くと悟り、げんなりした表情を浮かべる。
が、その程度で引き下がる文ではない。
ニコニコと笑みを浮かべつつ、ミスティアの出方を窺い続けている。
流石というべきか、相手が小鳥であったとしても、その姿勢に油断は無い。
取材にあたっては常に全力を出す。
身体全体でそれを表現した文の威圧感は、凄まじいものがある。
相手が鴉天狗とあっては逃げられない。
ミスティアは諦めたようにスペルカードを取り出すと、綺麗な声で歌い始めた。
文はあえて、スペルが完全発動するまで手を出さない。
完全発動した状態で撮影を行ってこそ、価値のある写真が撮れるというもの。
歌声はやがて辺りに反響し、文の神経にじわじわと干渉を始めた。
「夜雀の歌……ちゃんと聞くと、思いのほか効きますね……!」
ミスティアの霊力の影響で、ぐんぐんと視界が奪われていく。
夜目が効かなくなった文の眼前は、あっという間に夜の闇に塗り潰された。
ここからは、文のカメラが火を吹く番である。
当たり前ながら、カメラによる撮影であれば鳥目の影響など受けない。
きちんとミスティアの位置を把握し、そちらへ向けてシャッターを切れば、
何の障害もなくスペルカードの耐久値を削り取れる筈。実に簡単な話だ。
「ふふん、それでは反撃させて……あ、あれっ?」
夜目が効かない中に迫り来る弾幕。
百戦錬磨の文にとって、それくらいは危なげなく回避出来るのだが。
「むぅ。参りましたね、これは……」
ミスティアの姿を追おうにも、夜目が効かないために目では探せない。
音で探ろうにも、歌声が辺り全体に反響していて出所など聞き分けられない。
本来ならば、弾幕を張って適当に攻撃しつつミスティアの動きを探るのが一番だ。
しかし、文は取材中においては自らの弾幕展開を禁止している。
写真に自分の弾幕が写り込み、使い物にならなくなるのを避けるためである。
この戦いはカメラ一本で成し遂げなければならない、そういう一戦だ。
残念ながら、撮影行為では歌声や鳥目を解除することもままならない。
「あはっ……なぁんだ、わたしの居場所、わかんないんだ!」
回避行動に専念し続ける文を見て、ミスティアが喉の奥で笑った。
視覚と聴覚が狂っている状態では、如何に鴉天狗といえども自由が利かないのだ。
ミスティアの言葉どおり、文はごく近くのモノしか把握出来ていない。
時折、当てずっぽうにカメラのシャッターを切ってはいるのだが、
そのいずれも正確にミスティアを捉えることは無かった。
例え向きが合っていたとしても、ピントのズレが著しければそれは撮影失敗だ。
撮影によって簡単な弾幕を消す事は出来ても、スペル展開に影響を与える事はない。
一応フラッシュも焚いてはいたのだが、それもミスティアを目視するには些か頼りなかった。
「そこでクルクル回ってると良いわ、じゃあねッ!」
ミスティアは最後の弾幕を一波だけ置き残して、さっさとその場を飛び去ってしまう。
歌声はまだまだ残響し続けていて、文の自由は制限されたままだ。
「えへへー。天狗を撒いただなんて、自慢できそうだなあ♪」
夜雀の歌に混じって遠く聞こえた、ミスティアの勝ち台詞。
残された弾幕を慎重に避けて回復を待ちながら、文は面白く無さそうに口を尖らせる。
取材対象にまんまと逃げられた。どこからどう見ても、立派な取材失敗であった。
§
「あーやー。なに? 夜雀に逃げられたんですって? んー?」
「五月蝿いわね。でも……確かに、夜雀を甘く見ていた私のミスかも」
「なんだ、随分としおらしいね。文の癖に」
「それどういう意味よ、はたて」
先の取材戦から少し、妖怪の山。
文に対して対抗新聞記者宣言をした姫海棠 はたては、ここぞとばかりに文に詰め寄った。
わざわざ文の自宅に顔を出してくるあたり、その対抗心は並みのものではない。
「ねぇ、文? アンタが撮れなかった夜雀、私が撮ってやるわ!」
もしも文が失敗した取材を、成功させることが出来たとしたならば。
それは、少なくともある面においては、はたての方が優れていることの証明にもなる。
相手より一つでも優れているところを示しておきたい。ライバル心の表れだ。
「取材対象を横取りしようとしないで」
冷ややかな視線を送ってくる文に怯まず、はたては意地悪な笑みを浮かべる。
「カメラ。河童に渡して何か改良中なんでしょ?」
「……そうだけど?」
そうなのだ。いま、文の手元にはカメラが無いのである。
取材は基本的には早い者勝ち。はたては勝ち誇ったように自分のカメラをちらつかせた。
「じゃあ文は、しばらく取材に出られないわねー。残念、残念」
「あぁ。はたての取材なんか失敗しちゃえばいいのに」
文句を言う文を置いて、早速出掛けようとするはたて。
その背中を、拗ねたように睨みつける文。
そんな二人が別れる直前。文は少しだけ声量を上げて、ぶっきらぼうに声を掛けた。
「はたて。舐めて掛かっちゃ駄目よ」
「ん? うん、分かった。いってきまーす」
「はい、いってらっしゃい」
§
「……また変な天狗がきた……」
夜空を気持ちよく飛んでいたミスティアは、
突如として目の前に立ちはだかった影に心底うんざりした様子でぼやいた。
はたては文がそうしたように、やはり油断なくミスティアを観察している。
「いちおう聞くけど。わたしを追いまわしに来たの?」
数日前の、文の圧迫取材を思い出しているのだろう。その表情は刺々しい。
しかし、はたては特に気にした様子も無く頷いて答えた。
「そうなるわ。あなたの事、カメラに収めさせてもらう!」
「天狗って……あぁもう! いいわ、あなたも鳥目にしてあげる!」
ミスティアが歌い始める。
はたても文と同じく『夜雀の歌』の展開が完了するまで、一切手を出さなかった。
奪われる視界。聴覚を侵す旋律。はたてが夜の闇に孤立する。
「成る程ねー。確かにこのままじゃ厳しいわね」
しかしはたては冷静だった。文が取材失敗した経緯もそれとなく聞いているし、
念写を活用して夜雀の放つ弾幕の特徴もある程度は事前に調べていたからだ。
しかしながら、やはり夜雀の位置を特定できないことには、直接撮影は難しい。
「どう? ふふふっ、こないだと同じね!」
ミスティアの勝利を確信した声が、歌声と共に反響して耳に届く。
はたては慌てない。慣れた手つきでカメラを操作し、すっと前方に向ける。
「この闇は鳥目の所為。なら、こうするまで!」
ぱっと、はたての手元から眩い光が発せられた。
やや範囲は狭いものの、カメラから伸びた一筋の光が周囲の闇を払う。
周りさえこうして明るければ、夜目が効かずともちゃんと見えるのだ。
カメラに備わったライト機能。河童の技術には感謝せねばなるまい。
はたては注意深く弾幕を避けながら、カメラを構えてぐるりと周囲を見回した。
「やん、眩しいー」
「夜雀、敗れたりッ! もらったっ」
ライトに照らされて眩しそうに目を細めたミスティア。
その姿を確認したその瞬間に、はたてはシャッターを切った。
「あぁっ! ま、まだまだよっ!」
撮影されたミスティアは、すぐさま暗闇へと身を隠した。
逃すまいと、はたてのライトがミスティアを追いかける。
しかし、厚めの弾幕が迫ってきた事で回避行動に移った際、
ライトが照らす範囲中からミスティアの姿が消えてしまう。
こうなってはもう一度、闇の中から相手を探さなければならない。
「くっ……どこ行ったのよ……」
流石にミスティアも、ライトを避けるように移動を繰り返すようになった。
弾幕の発生源からあたりをつけても、そこにいるのは使い魔ばかり。
ミスティア自身は歌と回避に集中しているようで、弾幕からの位置特定は困難だ。
「そんな細い光に二度も照らされてやるもんですか! っていうか明かりとか卑怯!」
「目眩ましは卑怯じゃないのかなー」
「わたしは歌っているだけよ。なになに、負け惜しみ?」
「なにをー!」
その後も暗闇相手に奮闘したはたてであったが、取材は失敗に終わった。
カメラの弱々しいライトだけでは、逃げ回るミスティアを捕捉しきれなかったのだ。
天狗を撒いた夜雀の噂を聞いて、はたてと文が悔しがる日も、そう遠くないのかも知れない。
§
「はーたーてー。返り討ちにあったそうじゃないの、んー?」
「五月蝿いなぁ。最初に負けた奴に言われたくないわよ」
「そうね。私は初戦で、はたてのは言わば二回戦目よねぇ」
「何が言いたいのよ、文」
先の取材戦から少し、再び妖怪の山。
文は前に自分がされたのと同じように、はたてに笑顔ですり寄った。
わざわざはたての自宅に顔を出してくるあたり、なかなかに嫌味である。
「だから言ったのよ、舐めて掛かるなって」
自分の敗戦はさておいて、咎めるように文が言った。
はたては面白くなさそうに文を見上げると、これ以上無いくらい不機嫌に呟く。
「ふんだ。私は文と違って写真撮れたわよ、一枚だけだけど」
「あら、そうだったの。でも、一枚だけじゃあねぇ」
はたての傍らにあった写真を手にとって、文は『ふむ』と唸る。
続けてはたてのカメラをさっと拾い上げると、まじまじと観察を始めた。
「ライト搭載してたのね、これ。目視が出来たのに逃げられたと」
明かり無しで対戦した文よりも、確かに遙かに有利な状況だった筈だ。
文の言葉の含みを敏感に感じ取って、はたては抗議の声をあげる。
「夜雀も、鳥頭の癖に馬鹿じゃなかったのよ。使い魔ばら撒いて逃げっぱなしでさ」
歌声からも、弾幕からも判断できない以上は、直接ライトを当てるしかない。
分かっていても、相手とてそれを嫌がるのだからそう簡単ではないのだ。
「そういや文、あんたカメラの改良終わったの?」
敗北について更に突っ込まれる前に、はたてが話題を逸らした。
文は別段気にした様子も無く頷いて、いつものカメラを見せる。
「ええ、この通り。はたて、笑って笑ってー」
「は? 何を……きゃッ!」
シャッター音と共に、カメラから眩い光が迸る。
突然の閃光に驚いたはたては、ビクリと身を竦ませて目を瞑った。
「お。可愛い」
「……お、じゃない。何するのよ馬鹿文」
凄まじい光に眩んだ目をごしごしと擦りながら、はたてがまた不機嫌になった。
文は悪びれず、嬉しそうにカメラを抱えて笑う。
「この通り、フラッシュに手を加えて貰ったの! これで夜雀もばんばん取材出来るでしょ!」
夜雀の取材は、やはり私が頂きね! などと言いつつ、勝利を確信した様子の文。
そんな文を前に、はたては呆れたように溜め息をつく。
「文さぁ。それ、シャッターと連動?」
「え? そうだけど?」
「アンタのそれって、ピント合わせ手動だし、連写は出来ないよね?」
「うん……そうだけど……」
「フラッシュで位置確認。これは良いわ。で、次にフィルム装填」
「…………」
「またフラッシュで位置確認。フィルム装填。位置確認。装填。確認。装填」
「あの、はたて。もう何も言わないで……」
はたての言うとおり、相手の位置を確認する為にシャッターを切るのでは、撮影は難しい。
撮影と撮影の間にフィルム装填を挟むため、相手には十分な移動の猶予がある。
強力なフラッシュを焚いて相手の位置が分かったところで、撮影成功には繋がらない。
先ほどまでの勢いはどこへやら、文が悲しそうにカメラをグニグニと弄り始めた。
カメラに手を加えるのだってタダじゃない。
勢い任せで不要な改造を施してしまった悲しみは、カメラを扱うはたてにも想像できた。
冷静に考えれば浅知恵にも程があるのだが、頭に血が上っていると気付きにくいものである。
はたては文の隣に移動すると、ポンポンと頭を優しく叩いて慰めにかかった。
「何かの役に立つこともあるって。多分だけど」
「そうかなぁ……今まで必要な場面なんて無かったわ、こんなの……」
文のぼやきに同意しそうになったものの、なんとか踏みとどまるはたて。
とはいえ、そこまで激しい閃光が必要になる場面などそうそう思い付かない。
文でさえ使い道が無いと嘆くくらいなのだから、取材経験の浅いはたてが知る筈もなく。
フラッシュの話を聞いて一瞬、ライトの強化も考えたはたてであったが、
その後の使い道が無いとなると、わざわざカメラを改造に出すのも気が引けてしまう。
しかし、しかしだ。
強化フラッシュを得た文、現状のはたて。共に夜雀の撮影が難しいとなると。
「ねぇ、文」
「……なに」
「このまま終わるつもり、無いわよね」
「そんなの。決まっているでしょうに」
「いきますかっ!」
「いきましょう!」
逃げられっぱなしでなるものか。
二人は同時に立ち上がると、カメラの調整をしながら夜空へ飛び出した。
§
「酷い! ズルい! 卑怯!」
三度、鴉天狗の取材対象として捕まったミスティアが、泣きそうな声で叫ぶ。
ミスティアの眼前には『夜雀の歌』を撮影し終えた、二羽の影があった。
「撮影成功。歌を歌う夜雀、綺麗に現像できるかな」
「うん、こっちのも綺麗に写ってるわ」
「あ。はたてのそれ、いいアングル。良いなぁ」
「文がさっき撮ってた弾、私の方には一枚もないのよねー」
二人ではたてのカメラを覗き込んで、きゃいきゃいと騒いでいる。
自分の怒りが無視されているミスティアは、わなわなと身体を震わせていた。
「こーらー! この鴉ども! 二人掛かりはずるいー!」
「いやぁ、すみません。あなたがあんまり強いので、こうするしかなかったんです」
良い笑顔で淀みなく切り返す文。はたても上機嫌で頷いたりしている。
鴉二羽による復讐取材。一方的に狙われたミスティアにとっては、災難でしかなかった。
ミスティアが、やけくそ気味に新たなスペル『ブラインドナイトバード』の宣言を開始する。
展開される霊力の波から見て、恐らくはミスティア最大の奥義だろう。
「鳥は鳥らしく、鳥目になってなさい!」
「それを鳥に言われるとは。新手のジョークかしら?」
「まぁ、夜雀が鳥とは限らないし。見た目は鳥だけど」
そんな事を言っている間に、二人はこれまで以上に深い闇へと取り込まれた。
鳥目の症状が極限まで悪化したということだろう、少し先も見通すことが出来ない。
「さっきと同じ要領よ」
「はいはい、了解了解」
互いに撮影準備を終えて、背中あわせになって同時にカメラを構える。
弾幕を確実に回避しながら、二人はさり気なく下へ下へと高度を下げた。
まず最初にシャッターを切ったのは、文の方である。
それは夜雀を直接狙うものではなく、ただ上へカメラを向けての空撮りだ。
二人を中心に河童特製の凄まじいフラッシュが瞬き、夜空を一瞬だけ明るく染め上げた。
「見つけたッ!」
はたてが夜空の中にミスティアを確認し、カメラを構えて追尾する。
ライトの光がミスティアに食らい付き、次いでシャッター音が響いた。
「うぅっ……ズルい~、ズルい~」
何とか光から逃れようとするミスティアだが、はたてがなおもライトで捕捉し続ける。
「文ぁッ! まだ巻き終わんないの、遅すぎよッ!」
「そっちのちゃちいカメラとは違うの! もう少し、もう少し……オッケー!」
二重の光に晒されて、また一枚、写真に収められる夜雀の姿。
ミスティアが抗議じみたことを喚いているが、二人の耳には入っていない。
「あっと……文、ごめーん! 見失ったー!」
「仕方ない、戻って! もう一度あぶりだすまでよ!」
再び背中合わせで上方、もしくは下方に進路を取り、フラッシュを焚く。
フラッシュで辺りが明るくなるのは一瞬だが、二人で見張れば高確率で発見できた。
その後は再び、はたてが追尾してライトで補足し続けるのだ。
以前、取材失敗の原因となった対象捕捉の問題が、文と組むことで解消したのである。
「はたて、こっち!」
「えっ、どっちっ?」
「こっち、こっち!」
ぐい、とはたての腕を引っ張り、カメラのライトをミスティアに向けさせる。
少し手間取ったが、逃げ回るミスティアがライトの中に浮かび上がった。
「さんきゅ、文!」
「逃がしちゃ駄目よ!」
はたての追尾が始まり、また幾度となくシャッターが切られる。
ミスティアは懸命に飛び回ったが、フラッシュとライトから逃げ切ることは出来なかった。
鴉天狗たちの回避技術はやはり高く、ミスティアが放つ弾幕そのものの回避は危なげない。
弾幕で押し切れず、鳥目による戦闘離脱も出来ないとなると、
ミスティアがこの鴉天狗たちに勝てる要因など、もはや残されていなかった。
「撮ったぁー!」
「おしまいッ!」
パシャリ、と二人同時にシャッターを切ったところで、ミスティアの抵抗が止んだ。
スペルの耐久値を超え『ブラインドナイトバード』が無力化したのである。
「文ぁ、お疲れ~ッ」
「ご苦労さま、はたてっ」
傍らから送られている可哀想な夜雀の視線などどこ吹く風だ。
パチン、と夜空に響き渡るハイタッチの音が、二人の喜びを如実に表していた。
§
二人掛かりで攻略した夜雀についての記事など、新聞に書くことは出来ない。
現像した写真を前にああだこうだと協議した結果、二人はそう結論付けた。
成果からみれば、これまでのどの取材よりも価値の無い写真が撮れたということだ。
しかし誰に文句をいう訳にもいかず。徒労を感じ、文とはたては力なく笑いあった。
「かんぱーい」
「いただきまーす」
文の勧めで、夜道の屋台にやってきた二人。
美味しいと評判の鰻を夕飯代わりに酒を煽り、互いを労った。
その中で、先の思わぬ苦戦が話題に上がるのは至極当然の流れであろう。
「いやぁしかし、鳥目ってのは面倒臭かったわね」
「ほんとほんと。こっちはカメラだっていうのに」
話をしている二人の前で、屋台の店主は引きつった笑顔を浮かべていた。
そんな店主……ミスティアに気付き、はたてが会話を止めて苦笑する。
「警戒しなくていいってば。今はただの客だし、もうアンタは撮り終わってるし」
「そぉ? でもなぁ、二人の顔見てると、なんかテンション下がるわ」
二人掛かりでの凶悪な取材に晒されたのだから無理もないだろう。
しかし、それほど根に持つ方でも無いらしい。
今の二人に害がないと分かると、ミスティアも次第に機嫌を直していった。
公私で私怨を持ち越さない人格者なのか、はたまた忘れっぽいだけか。
鴉天狗の二人は、心の中で『平和な子だなぁ』と同じ感想を抱いていた。
「そういやここ、焼き鳥反対してるんだっけ?」
怨恨の話に一区切り付いたところで、はたてがふとそんなことを尋ねた。
文は一つ頷くと、過去の取材を思い出して答えた。
「まぁ、店主が見ての通り鳥だから。その思想はある筈よ」
「ふぅん。良い傾向よね、焼き鳥は無くなっても困らないし」
はたてもまた鴉天狗ゆえか、焼き鳥反対に同調してみせる。
やがて良い事を思い付いたとばかりに手を打つと、身を乗り出してミスティアに話しかけた。
「ねぇねぇ、私にもここ、取材させてくれない?」
「え? うん、別にいいけど」
あっさりと頷くミスティア。二つ返事で取材に応じてくれてしまった。
「記事に使いたいから、写真も撮らせてもらって良い?」
「どうぞ。夜店の定番は八目鰻だって思い知らせてやってよ」
撮影許可まで貰えてしまった。はたてがくるりと振り返る。
「ねぇ文。最初からこうしてれば……」
「私が欲しかったのは弾幕込みの写真なの」
文は一度、この屋台を取材して記事を書いている。
改めて夜雀の屋台の取材をしたところで、目新しい記事にはなるまい。
だからこそ、躍起になって弾幕を避けにいっていたのだ。
文の撮りたかったものを把握して、はたては改めてミスティアを呼ぶ。
「ふーん……ねぇ、店主さん?」
「ん? なに?」
「記事に必要だから、あとでスペルカードも見せてもらえる? あ、鳥目抜きでね」
「えぇー? 仕方ないなぁ……ちゃんと集客効果とかあるんでしょうねぇ」
「あるある。何事もやらないよりやった方がいいってものよ」
「分かったわよ。お店閉めてから見せてあげる」
もう一度、文の方を見るはたて。
なんとも微妙な表情を浮かべた文が、はたてを見つめていた。
「あのさぁ、文」
「言わないで……悲しくなるから」
深い深い溜め息をつく文を生暖かい目で見ながら、お酒を一口。
はたては心の中で『いつかまた使えれば良いね。そのフラッシュ』と同情するのだった。
でも2対1はどうかと思うw
ところで文はたの協力取材、……これってシリーズになるんだよね?
早く続きを書く作業に戻るんだ!
こういう協力プレイが本家でも出来たらいいのに……。
無いのでしょう多分
仲良いですねぇ、そして可愛らしい。
みすちーは文花帖に出たら、厄介でしょうね。是非出演して欲しいですが。
流れるようにスラスラと読めました。面白かったです。
見落としがちですが、このような原作に沿った細やかな描写を忘れないことも
良い二次小説を成立させる要素の一つだと思います。
神主が忘れてるようなきがするw
みすちーは犠牲になったのだ
カメラいや~んでわたわたするみすちーが可愛過ぎるv