灼熱地獄跡に燃料を運んでる時に、はじめて見た。
うにゅ。金色の髪がきれい。
でも、むすっとした怖い顔。
さとりさまと同じくらいかな、私よりずっと背が高い妖怪。
私より小さいのなんて見たことないけど。私妖精と同じくらいだし。
お客さんかな。地霊殿にお客さんなんて珍しいな。旧都の鬼がたまに訪ねてくるくらいなのに。
「ねぇお燐、お燐」
「ん? なんだいお空」
「今のだれ?」
猫車で燃料を運んでるお燐に問う。
お燐は去りゆく人を見て唸った。
「ああ、橋姫か――地霊殿の外の、さとり様の協力者って奴かな。旧地獄の外れの管理を委託されてんのさ。
手っ取り早く言やぁ監視員だね。地上に通じる穴の番人やってんだよ」
「むずかしくてわかんないよ。仲間なの?」
「んー? あー……そうだね。あたいらの仲間だよ」
仲間。仲間か。敵じゃないんだ。
「橋姫の方は、どう思ってんだか知らないけどね」
「うにゅ……」
よくわかんない。敵じゃないのに仲間と思ってないの? いやな奴なのかな。
さとりさまよりも大きなお燐を見上げる。
「そう不安そうな顔すんない。きっと戦うことはないからさ」
ぐりぐりと頭をなでられる。
戦う……私は弱いから、役に立てない。
お燐が戦ってる後ろで逃げ回ることくらいしかできない。
やだな、私ももっと強かったらよかったのに。
お燐や、こいしさまみたいに強かったらよかったのに。
なにかできないかな。敵の弱点さがすとか。
さっきの奴の弱点さがそうかな。
きれいだったけど悪い奴なら戦いにソナエなきゃ。お燐がよく言ってたし。
えーと、敵を知りオノレヲシレバひゃくせんあやうカラズ? だっけ? カラス?
「あ、そうそう。さとり様のご命令だよ」
ぽんと手を打ちお燐はしゃがんで私を見る。
「橋姫、水橋パルスィにゃ近づくなってさ」
はしひめ――みずはし、パルスィ。
きけんな妖怪なんだ。さとりさまが禁じるくらい、悪い奴なんだ。
私も役に立たなきゃ。戦いにソナエなきゃ。
禁じられたこと程みりょく的なものはない――って言ったのはさとりさまだったかな、お燐だったかな。
こいしさまだったかも。あんまり憶えてない。そんなのどうでもいいか。
私は別にみりょく的だからってわけじゃないんだし。
後をつけてみた。
悪い奴みずはしパルスィを追っかけて弱点をさがす。
お燐が言ってた。す、すと、すとっきんぐみっしょん? とかいうやつだ。
相手に気付かれないように追っかけて色んなことをさぐるんだ。
ずいぶん遠くまで行くな……なんだっけ? お燐がどこがどうとか言ってたような。
旧都より遠いとは思わなかった。ここどこだろう……帰れるかな……
む。橋だ。どこだかわかんないけど橋で足を止めた。ここがあいつの住処か。
橋にもたれて溜息ついてる。なにやってんだろ。
「……人に化けたら? 地霊殿ではそうしていたでしょう?」
「えっ」
思ってたよりこわくない声で話しかけられた。
バレてた。
すとっきんぐみっしょんしっぱい。
「う~……」
警戒しながら変化する。石投げれたり、いざ戦いとなったらこっちの姿の方が便利だ。
投げれそうな石……う、あんまりない。でっかくて投げれそうもないのばっか。
ど、どうしよう……
「あらかわいいカラスちゃんね。美味しそうだわ」
「ひっ」
岩の陰にかくれる。
え、と――たしか、はしひめ? 橋姫。橋姫って鬼の仲間だ!
くったんだ。こいつ私の仲間くったんだ。ばりばりと頭から!
やっぱこいつ悪い奴だ! どうしようどうしよう。石もないし、戦えない。
さとりさまにダメだって言われたのに追いかけたからバチがあたったんだ。
「……っく、くっ」
うにゅ? 笑ってる。
肩を震わせて、顔を隠して――
「……だましたな!?」
「くっく……ご、ごめんなさい。そんな素直に引っ掛かるなんて」
「ごめんですむか! ごめんなさいしてもさとりさまはゲンコツぐりぐりやめないんだから!」
「あら、さとりも結構やるわね。こんなちっちゃい子に」
ちっちゃ……! うぅ~……いいかえせない……こいつ、お燐ほどじゃないけど大きい……
「それで? さとりのとこのカラスちゃんが何の用かしら」
「カラスじゃない! さとりさまにもらったりっぱな名前があるのよ!」
「へぇ、どう書くの?」
「それはれいう、書く?」
書くって、それは――うつほは、そ、空って書いて……
「え、ええと……」
しゃがみこんで地面に書く。
れい……ええと、雨書いて……下は、えーと。なんかごちゃごちゃしたのが。う、うは書ける。鳥だ。
じ、じ、じ……み――みちって意味の字で……字? ちがうこれみちって意味じゃない。
『雫島じ空』
「しずくしまじそら?」
「れいうじうつほ!」
叫ぶと橋姫はれいうじうつほれいうじうつほと繰り返す。
「あー……と。れいうじ、霊烏路空、ね、多分」
私が書いたのの横にすらすらと書いた。霊烏路空。
「そう! これよこれ!」
「……さとりらしい名前だわ」
こいつすごい! 見もしないで私の名前当てた! って。
「うにゅ。さとりさとりって、なんでさとりさまを呼び捨てなのよ」
なれなれしい奴。いつの間にか私の横にしゃがみこんでるし。
問われて、橋姫はなんでか困ったような顔をした。
「それは――そうね。私は、さとりの友達だから」
「ともだち? 敵じゃないの? 仲間なの?」
あれ。そういえばお燐が……仲間だって言ってた、ような。
むむむ?
「敵になりたくはないわ。さとりの怖さはよく知ってるもの」
……なんかはっきりとしないなー。まあ、敵じゃないならいいか。ともだちは敵じゃない。
あれ。じゃあ私のやってることむだなんじゃ。
「ころころ表情の変わる子ね」
んあ、なんか見られてる。
「うー……えーと、なんだっけ。名前、えーと」
「まさか自分の名前忘れたの?」
「ちがうわよ! 今書いてたじゃん! 今のこと忘れるか!」
「書いたの私だけど」
「そうだった!」
今のこと忘れちゃった! う? また笑ってる。
「面白い子ねぇ。私の名前を忘れちゃったの? 水橋パルスィよ」
「みずはし……ぱるすぃ?」
「こう書くの」
私の名前の横に「水橋パルスィ」と書かれた。
「みずはしぱるすぃ」
うにゅう。なんだろう。りふじんさを感じる。
私の名前よりすうだん憶えやすい。
「ううう」
「あんまり唸らないでよ」
「だって」
だって――なんだっけ? あ、そうだ。さとりさまが近づくなって言ってたんだ。
? なんでともだちに近づくななんて言うんだろう?
むむむ……?
「ええと、うつほ?」
「む?」
「おまんじゅう食べる?」
「たべる!」
いい奴だ! おいしい!
「やっぱり、難しそうな顔してるのは似合わないわねぇ」
お気楽にしてる方がかわいいわよ、とくすくす笑った。
もぐもぐ。
……お燐が変な顔してたからどんな怖い奴かと思ってたけど、やさしい。
さとりさまがなんであんなこと言ったのかわかんない。
ただのやさしくて、きれいな人だ。
「……なに?」
緑の、宝石みたいな目もきれい。
「パルスィはやさしくてきれいだね」
「……どうかしらね。お菓子で釣って食べちゃおうとしてるのかもしれないわよ」
「えっ」
「ふふ、冗談よ冗談」
ありがとうね。
小さい声でパルスィは言った。
「からかったお詫びにおまんじゅうもう一個あげるわ」
「ありがとう!」
このおまんじゅうおいしい。もぐもぐ。
「さいしょ怖い顔してたからパルスィはもっといじわるだと思ってた」
「あら、ひどいわね。まぁ――そんなに優しくもないけどね」
「そうなの? だってやさしいじゃない」
「獣はそんなに嫌いじゃないの。花の次に好き」
うにゅ? けもの――って私のことか。
やっぱよくわかんないけど、嫌われてないならそれでいいや。
「――それを食べたら帰りなさい。ここには怖い怪物が出るから」
「かいぶつ?」
急に立ち上がって、変なことを言いだした。
怖いってどう怖いんだろう。旧都の一本角みたいに強いのかな。
あたりを見回す。なんにもいないけど……
「緑色の目をした見えない怪物。私はそいつをここに封じてるのよ」
うぇ!? 見えないって、今もいるの!?
「お、おっかないね」
「ええ。とても怖いわ。あなたなんて一口で食べられちゃうわよ」
お燐が言ってたさとりさまの協力者って……そんな怖い怪物を封じるお役目なんだ。
パルスィ、強そうに見えないのにそんなのの相手してるんだ……
「ねぇ、パルスィも怖いの?」
「怖いわね。あれは、絶対に出してはいけない怪物だもの」
やっぱり怖いんだ。お役目があるパルスィでも、怪物は怖いんだ。
「それじゃあさ」
「うん?」
「私がいっしょにみはってあげるよ!」
あ――れ。きょとんとされちゃってる。
うれしくなかったのかな。
余計なこと、言っちゃったのかな。
さとりさまが言ってた、手助けされるのを嫌うぷらいどの高い奴、なのかな。パルスィ。
「あのさ、ほら、ひとりで怪物みはってるから怖いから、ふたりならさ」
きらわれちゃうかな。きらわれちゃうかな……
「だから、ふたりなら怪物だってやっつけれるかもしれないし」
どうしよう、どうしよう。
「怖い夢見て、ねむれないときもお燐やさとりさまがいっしょに寝てくれれば平気だし」
「――――」
「うにゅ」
うー……? あたま、なでられてる。
「優しい子ね、あなたは」
なぜか、パルスィは――悲しそうに笑っていた。
え……? 私、悪いことしたのかな。でも、笑ってる。
「そろそろ帰りなさい――って言っても帰れないか。送ってあげる」
「か、かえれ……ない、かも」
ここは地霊殿から遠過ぎる。私のナワバリのずっと外。うー。
ん? 何考えてたんだっけ。
手を引かれる。パルスィは、悲しそうな顔のまま。
「ねぇパルスィ」
ぎゅっと、強く握り返す。
「また来るからね」
「あら……大変だわ。その度に地霊殿まで送らなきゃいけなくなっちゃう」
「ぬあ! 私そこまでほうこうおんちじゃないよ! そのうち憶えられるよ!」
「どうかしらねぇ」
ぬぬぬ。いまにみてろ。
「ぜったいまた来てやるんだからね!」
今日は灼熱地獄跡ちょーしいいなー。やることないや。
火力が弱くもなく強くもなく。見てるだけでひまだなー。
「お空、さとり様がお呼びだよ」
「うにゅ? わかった」
今日の仕事はもういいのかな。お燐と交代しておやしきの中に向かう。
さとりさまは――部屋かな?
こんこん。
「さとりさまー、しつれいしますー」
「入りなさい」
大きくて重いとびらをあける。
さとりさまはいつものように椅子に腰かけて私を待っていた。
「なんのご用でしょうか?」
なんかしたっけ。なんもしてないよ?
うにゅう。
「怒る為に呼んだのではありませんよ」
「それではなんでしょう?」
むう。こっち見てないのに心読まれた。器用だなぁさとりさま。
「別に器用というほどでは……ああいえ、今日は……話し相手になってもらおうかと思いまして」
「はなしあいて? ですか? でも私、お燐みたいに色んな事知ってるわけじゃないですよ」
お燐は――昔は地上で色々やってたらしいけど、私は地獄の生まれだし、ここから出たことないし。
日本中を飛び回ってたってお燐とは比べ物にならない。さとりさまに聞かせるような話は……
「武勇伝を聞きたいとか、そういうことではありません。ただお喋りしましょう」
「え、あー……はい」
めずらしい、というか初めてじゃないだろうか。初めてかな? ちょっと自信ない。
「あなたは忘れっぽいですからね……」
「あう、憶えるどりょくは、してますけど……」
「これからも頑張り続けてくださいね。心配はしていませんが――大事なことはちゃんと憶えていますし」
「うにゅ」
そうかな? そうだったらいいな。
「お空、こちらにいらっしゃい。髪を梳いてあげます」
だっこだ!
さとりさまの膝に飛び乗る。ちょっと落ちそうになったけどさとりさまが支えてくれた。
髪にくしが通る。うにゅう。くすぐったい。
「ちゃんとお風呂に入っているようですね。感心です」
「……お風呂減らしちゃダメですか? 100までつかるのを半分とか」
「だめです。それは許可しません」
うう。さとりさまのがんこもの。
「頑固ではありません。人型をとっているのですから身嗜みです」
むうー。お風呂は嫌いじゃないけどたまに入れればそれでいいのに。毛づくろいだってしてるし。
でも髪をすかれるのきもちいいな。パルスィにもやってほしいや。
「…………」
あ、痛い。髪ひっぱられた。
「こいしは今日も帰ってきませんでしたね」
「……探しに行きますか?」
さとりさまの妹さま、こいしさま。よくふらっと出てってそのまま帰ってこない。
たまにお燐や私が探しに行ってるんだけど……たいていは見つからない。
「構いません。近頃はあまり出歩いていませんでしたからね。あの子にも羽を伸ばす時間は必要です」
はねを伸ばす? こいしさまには羽なんて生えてないのに。
探さなくていいのかー……ついでにパルスィに会いに行けると思ったのになぁ。
いやちゃんとこいしさまも探すけどさ。
「よく出かけると思ったら、パルスィのところに行っていたのですか」
びっくり。
「うにゅ。さとりさまはなんでもお見通しですね」
「私の眼は千里眼ではありませんよ。あなたの心がパルスィで満たされているからわかるのです」
「……言いつけをやぶってごめんなさい」
ちかづくなって、さとりさまには言われてた。
でも私は何度も――もう何回かわかんないくらいパルスィのところに行っている。
「興味本位だったら怒りますけどね。ふふ、私の言いつけをまだ憶えていたことに驚きました」
「うにゅ。私だってそこまで忘れっぽくありませんよう」
「ふふ、すいませんでした。まぁ、もう怒りませんよ。仲良くなっているようですし。
言ってしまえば――手遅れですからね」
「てお……?」
なんだろう。それは、あまりよくない言葉だった気がする。
ちかづくなもそうだけど、ともだちに使う言葉じゃない気が、する。
「――そうですか。彼女はまだ私を友達と言ってくれるのですね」
「さとりさま?」
ふりかえろうとしたけど、ぎゅってされてできなかった。
さとりさま――どんな顔をしてるんだろう。
「彼女は私の友人です。そうですね――たった一人の親友と、言える人です」
「……うにゅ? でも、ともだちなのに、あまり……会いませんね?」
「私と、彼女は……友だからこそ、会えないのですよ。お空」
痛いくらいに、ぎゅってされる。
さとりさまは、かなしんでるようだった。
「古明地さとりと水橋パルスィは、人々の心への恐れから生まれた妖怪。
同類だから、同族ではないけれど同類だから、誰より互いのことを理解しています。
そして理解しているから……傍に居られないと、知っているんです」
私は、心を読めないけれど――さとりさまがかなしいって、声からもわかった。
「彼女は……心の中でも醜く辛い嫉妬心を司る妖怪です。私と同じように、群れの中では暮らせません。
いいえ、あるいは――私以上に、誰かと関わることが出来ないのかもしれない。
友人である私にも決して近づいてはくれないのですから」
「……さとりさま……?」
「お空――いえ、霊烏路空。出来ることなら……どうか、あの子を怖がらないであげてください」
ぎゅってされてて……さいごまで、さとりさまがどんな顔をしてるのか、見えなかった。
「どうか――あの子を嫌わないで」
私は今日もパルスィのところへ走っていた。
今日は、おみやげもある。きっとパルスィはよろこんでくれる。
まだかなまだかな。早くパルスィに会いたいな。
飛べばもっと早くつくけど、おみやげがこわれちゃうかもしれない。だから走る。
封印されたおっきな船の前を通って、旧都の横を通り過ぎて――もうすぐ。
橋が見える寸前で、足が止まった。
「――?」
旧都の方から、いやなけはいがする。
ん、これちがう。けはいっていうか――風。いやな風が、旧都の方から流れてくる。
やだな……この風。さとりさまをきらう奴らが吹かす風とおんなじだ。
気持ち悪くて、飛びたくない風だ。
「うわっ!?」
じひびきが、なにあれ! 旧都からけむりが上がってる!
火事……じゃない、燃えてるけむりじゃない。つちけむりだ。
それに今のじひびき、じしんじゃなくて妖気が……あの怖い妖気は、一本角だ。
一本角が旧都であばれてる。
怖い……早くパルスィのところに行こう。
さとりさまをきらう奴らのとこなんかどうでもいい。
――ん。さとりさま。
このあいだ言われたことを、思い出した。
「……さとりさま、なんであんなにかなしそうだったんだろ」
パルスィに会うことは止められなかった。だけど、とてもかなしそうだった。
思い出す。さとりさまの言葉を思い出す。
いろいろ忘れちゃったけど憶えてる分だけ思い出す。
さとりさまは、パルスィは自分と同じだって言ってた。
同じ――さとりさまは、いろんな妖怪からきらわれてる。
なんでかわかんない。さとりさまはあんなにやさしいのにみんなからきらわれてる。
パルスィも、いつ会ってもひとりぼっちだった。同じなら……パルスィも、きらわれてるのかな。
パルスィだって、さとりさまと同じくらいやさしいのに。きれいで、やさしくて、いい人なのに。
だから……さとりさまは、きらわないでって言ったのかな。
「言われなくたって、パルスィをきらいになったりしないよ」
私はパルスィのこと好きだもん。お役目がなかったら地霊殿に来てほしいくらい好きだもん。
さとりさまの心配はあれよ、とりこしぐろーってやつよ。
「あら、空」
「うにゅ」
うしろから声をかけられた。
ふりむけばほほえむパルスィの姿。
「パルスィ!」
かけよる。抱きつきたかったけどおみやげが壊れちゃうからがまんする。
「そろそろ来る頃だろうと思って、おまんじゅう買ってきたわ」
言ってパルスィは紙袋を見せてくれた。あのときのおまんじゅうだ!
「ありがとうぱる」
――え?
「あの、ぱる――すぃ? け、ケガしてる。ちがでてるよ」
「あ――」
紙袋を持つ手が、青くなって、そこから、血が……まるで、ぶたれたみたいなあとが。
おまんじゅう――買ってきたって、どこで? そんなの、旧都でしか買えない。
じゃあ、さっきのいやな風は、まさか。
「これは、あのね、転んじゃって」
「うそだ」
私は、頭が悪いってよく言われるけど、そこまでバカじゃない。
「だれにやられたのパルスィ!?」
パルスィが無理して笑ってることくらいわかる。
「……やっぱり、子供は嘘を見抜くのが早いわね」
苦笑――した。
「旧都で買い物した帰りにね――石を投げられたの」
びくりと、体がふるえた。
はじめて会った時、私も……石を投げようとした。
当たったら、こんなに痛そうなんだ。こんなに――いけないことだったんだ。
パルスィは……そんなことを、されたんだ。
「――――っ」
「空っ!」
走り出そうとした私をパルスィがつかまえた。
「放してよ! 旧都の奴らにしかえしするんだ!」
「ダメよ! 落ちつきなさい、仕返しならもう済んでるから!」
え――? すんでる? 終わってるってこと?
「あのね、その……勇儀が、偶然通りかかって、怒ってくれたの。だからもういいのよ」
「ゆうぎ……?」
「あ、と――旧都の、四天王。一本角の鬼よ」
一本角。さっきのじひびきはそれだったんだ。
「とても怖い鬼。あいつに怒られた上にあなたに怒られるなんてかわいそうでしょ?」
「でも、でも――ひどいよ。なんでパルスィがいじめられるの」
声がふるえる。ゆるせない。パルスィがこんなひどいことされるなんてゆるせないよ。
「しょうがないのよ」
「そんな!」
「私、嫌われてるから」
きらわれて、る?
それだけで、それだけで石を投げられるの?
さとりさまだって――きらわれてるけど、そんなことされなかった。
さとりさまについて旧都に行くと、鬼のたいしょうかく以外はみんな逃げたのに。
……ちがうんだ。パルスィとさとりさまは、にてるけど、ちがう。
パルスィは――きらわれてるんだ。怖がられてるんじゃなくて、きらわれてるんだ。
「ぅ――うぇ……」
「なんで空が泣くのよ。大丈夫。慣れてるし……勇儀やさとりはよくしてくれる。
おまんじゅう屋のおじさんもちゃんと売ってくれるから、ね?」
うそだ。うそだ――きらわれて、平気なはずない。
私は、だれかにきらわれたらって考えるだけで――こんなに怖いのに。
「――パルスィ」
「うん?」
やだよ。
私、パルスィがひとりぼっちだなんて、やだよ。
「パルスィ、私、パルスィの仲間だから。ぜったい、パルスィをひとりになんかさせないから」
さとりさまみたいに、私がいっしょにいるから。
だから、そんな風にかなしそうに笑わないで。
「パルスィ……?」
見上げる。パルスィは、笑っても――泣いてもいなかった。
いつもの、さとりさまみたいに、むひょうじょう。
ただ――ふるえる手をおさえていた。
「――ぁ――」
「……?」
「ありがとう、空」
「う、うん」
笑ってる。やさしい笑顔。
いつものパルスィなのに、なんで私は……怖いと、おもったんだろう。
「おまんじゅう食べましょう。まだあったかいわよ」
「あ、そうだ」
おみやげ、忘れてた。
これをあげれば、くちだけじゃないってわかってくれるかも。
服の中にかくしてたものを出してパルスィの手をひっぱる。
「パルスィ、これあげる」
ひっぱった手の上に私が作った花冠をのせた。
「私とパルスィが仲間だってあかしだよ!」
「え、え? あ、ありがとう――でも、花なんてどこで?」
「地霊殿の近く! よくわかんないけど花が咲くところがあるの!」
さとりさまが作り方をおしえてくれた花冠。
パルスィは花が好きだって言ってたし、きっとよろこんでくれる。
「いつかいっしょに行こうね。すっごくきれいなところなんだよ」
「空……」
困ったように、うれしそうに、パルスィは笑ってくれた。
「ありがとう。でも、私の頭に乗せるにはちょっと小さいわね」
「うにゅ。あれ、あれ?」
やっぱパルスィの前で作らなきゃだめだったかな。見て作んないと大きさわかんない。
「うー……つ、作り直してくる」
「いいわよ。――ほら」
パルスィは手に花冠を通した。
「こうすればぴったり。冠じゃなくて腕輪だけど、似合うかしら」
「……うん! にあうよ!」
よかった。パルスィよろこんでくれた。
だけど、急に――パルスィは、苦しそうにうずくまった。
「パルスィ?」
「――なんでも、ないわ」
「な、なんでもなくないよ。顔が青いよ。だいじょうぶ?」
「っ……へい、き。大丈夫だから――もう、帰りなさい。さとりが心配するわよ」
「で、も……」
「大丈夫。あなたが心配してくれるから、きっとすぐに治るわ」
「え……う……うにゅ……」
「ごめんね。今日は、遊べないみたい。おまんじゅう持って帰って……さとりと食べて」
紙袋をわたされる。あったかい。あったかいのに、さむい。
どうしたんだろうパルスィ。花冠よろこんでくれたのに、なんで急に。
「一人で帰れる?」
うなづく。もう何度も遊びにきてるんだから、とうぜんだ。
何回も前からきかれなかったのに……どうして今日はきくんだろう。
忘れちゃったの? なにか、おかしいよパルスィ。
「――ねぇ空」
「え?」
「花冠、ありがとう。嬉しかったわ」
うんって、返事をしようとした。でもできない。
パルスィが笑ってる。
とてもつらそうに、さびしそうに――笑ってた。
「できれば――もう、ここには来ないでね」
そのまま橋の方へ行っちゃう。
止めたかったのに声が出なかった。
なんでそんなこと言うのかって、さけびたかった。
いみが、わからないよ。パルスィ。
パルスィは一度もふりむいてくれなかった。
あれから……数日がすぎた。
パルスィのところに遊びに行きたいのに、行けない。
なんでパルスィはあんなこと言ったんだろう。
私……なにか、いけないことしちゃったのかな。
きらわれちゃった――のかな。
「お空! なにやってんだい天窓開けなっ!」
「え? あ。わわわ!」
中庭がものすごいことになってた。
あわててくさりをひっぱって滑車を回し天窓を開く。
びゅうって音がして熱気が外に出てく。
呆れ顔のお燐に頭をはたかれた。
「あっつー……サボってんじゃないよ。もう」
「ご、ごめん。ちょっとぼーってしちゃってた」
私は暑いの平気だから気がつかなかった。
……お燐も火の中平気なくせになんで暑いの弱いんだろう。
「ここんとこ、ずっと上の空だね」
「え」
「お空、最近橋姫んとこに通ってんだって?」
「あぅ、もうバレた?」
「バレバレさね。仕事はちゃんとしてるからいいけどさ」
今日はダメだったけどねってくぎをさされる。
うにゅう。
「――やめときなよお空」
「……なんのこと?」
「ありゃおまえにゃ荷が勝ち過ぎる。手に負える女じゃないよ」
お燐は返事をしないでどんどん進める。
……わかってる。パルスィのことだ。でも、手におえないって、なにさ。
パルスィは仲間なんだ。私の花冠を受け取ってくれたんだ。
「もう会わない方がいい」
「……っ!」
お燐の顔に、パルスィの、あの寂しそうな笑顔が、かさなる。
「なんでお燐までそんなこと言うのさ! なんで会っちゃ」
「まで?」
うでをつかまれる。
「あたい『まで』ってどういうことだい。話しなお空」
「え、あう、うにゅ」
「誤魔化すのはなしだよ。ちゃんと話しな」
おこられてるみたいで、怖い。
お燐は……こういうとき、ぜったいにゆるしてくれない。
私がいたずらしたときとか、すごく怖い……
「……パルスィにも、言われた」
正直に答える。でも、でも――そんなのかんけいないよ。
パルスィは私の、仲間なんだ。会うななんて、言われるすじあい、ないもん。
「――そうかい。橋姫が……思ってたより、聡明だ」
お燐の声は、かなしそうだった。
「さとり様もだけど――本当に、報われない」
……いみ、わかんないよ。お燐。
なに言ってるのよ? なんでそんな、ぜんぶ終わっちゃったみたいな顔すんのさ。
「お空、いいかい? 橋姫が言ってたことに間違いはない。もうやめといた方がいいんだよ。
きっと、橋姫は限界を感じてあんたを突き放したんだ。橋姫の厚意を無駄にしちゃいけない」
「な、なに言ってるのよ……げんかいって? なんでそんなこと……!」
「それは……」
「ほら! 言えないじゃない! そんなわかんないことでダメなんてやだよ!」
「わかんないとか、そういう話じゃなくて」
お燐は目を閉じて、私の頭をなでた。
「お空……あたいらは、妖怪なんだよ」
「それが、なによ」
「誰もが、決して我慢できない重荷を背負ってる。どれだけまともでいようとしても無理なことがある。
あんたは空を飛ぶなって言われたら飛ばないでいられるかい? 肉を喰うなって言われても無理だろう?
そういうもんを、橋姫も背負ってる。橋姫は優しいから、我慢する為にお空を突き放したんだよ」
がまんって……パルスィが? パルスィのどこにそんながまんしなきゃいけないのがあるの?
それじゃ、まるでパルスィが悪いことするみたいじゃない。
そんなはずない。やさしいパルスィがそんなことするはずない。
「お空」
ぐっと肩をつかまれた。
「橋姫の優しさを壊しちゃダメだ」
「――っ!」
「お空! 待ちなお空っ!」
お燐の手をふりはらって走り出す。
そんなのうそだ。パルスィは仲間なんだ。
お燐はかんちがいしてるだけだよ。お燐は頭がいいから考えすぎただけだよ。
パルスィが――そんなこと、するもんか。
私がしょうめいしてやる。パルスィに会えばわかるよ。
パルスィはいい人だもん。私の、好きな人だもん。
大きな船の前を通って、旧都を通り過ぎて――橋へ。
雪がふってきた。冷たくて走りにくい。だからって、止まってられない。
雪をかきわけるように走る。一秒でも早く、パルスィのところへ。
パルスィ、パルスィ――
ぞくりと、した。
――妖気?
冷たくて、熱い。痛い。
なにこれ。強さなら、お燐やさとりさまの方がずっと上なのに、怖い。
こんな怖い妖気――感じたこと、ない。
ここはもう、パルスィの橋の近くなのに。
怖い。怖いよ……旧都の一本角だってこんなに怖くなかった。
「パルスィ……」
怖いよ――パルスィ、早く出てきてよ。怖いよ。
「パルスィっ」
返事がない。パルスィの姿も見えない。
どこにいるの? いつもは、橋の上で待っててくれたのに。
出てきてよ。お燐が言ってたことなんてまちがいだって、言ってよ。
「パルスィ!」
「空」
橋の上に、パルスィがいた。
でも、ちがう。
橋の上にいるパルスィから怖い妖気が出てる。
私の知ってるパルスィじゃ――ない。
「ここには来ないで。そう言ったでしょ」
雪の向こうにいるパルスィは冷たい声で言った。
睨んで――私を、睨んで、いる。
「二度と会いたくない。あなたなんて妬ましくもない。嫌いよ」
「ぱ、パルスィ?」
「私はこの世界の全てが嫌いなの。私を拒むこの世の全てが憎いの。それにはあなたも含まれる。
私の本性を知れば手の平返して蔑み追い払うような奴ら。大嫌いなのよ」
せ、世界……? なんで? どうしてパルスィはいきなりこんなことを言うの?
なん、で? なんで? 私、何かきらわれるようなことしちゃったの?
わかんないよ。わかんないよパルスィ……!
冷たい緑の目を見返す。
こんな――わかんないままおわかれなんて、いやだ。
追い返すなら、私をなっとくさせてよ!
強く、パルスィを、睨む。
雪をはさんで――睨み合う。
緑の目がゆれる。
目をそらしたのは、パルスィだった。
「霊烏路空。もうここに来るな」
「うそつかないでよ!」
じっとパルスィを見て、わかった。
パルスィはうそをついている。
私になにかかくしている。
「パルスィ、ほんとはそんなこと思ってない! わかるもん! 無理して言ってる!
うそはダメなのよ! さとりさまに怒られるんだから!」
「私は――本気よ。嘘じゃない」
「うそだよ! だって、だってパルスィ」
じっと、パルスィの手を、見る。
「私があげた花冠、捨ててない」
パルスィは――もう枯れちゃった花冠をまだ、手首につけていた。
「……空……っ」
雪を無視して走り出す。
パルスィをつかまえて、ちゃんと話せば
「ぱる」
「来ちゃダメっ!」
びくりと足が止まった。
それは、うそじゃ――なかったから。
今日、はじめて聞く、パルスィの本当の言葉だったから。
「…………お願いだから、これ以上私の傍に来ないで」
しぼり出すような声だった。
パルスィはとても……つらそうだった。
「な、なんで、パルスィ」
「――空、ごめんね。私、もう――ダメなの」
「なにが、なにがダメなのよ! パルスィは私の仲間だもん! 私、きらいになんかならないよ!
だって、私は、パルスィが……!」
「空」
パルスィは、いつかのようにつらそうに、さびしそうに、笑っていた。
「いつか――話したわね。緑色の目をした、見えない怪物。あれはね――私のことなの」
「……え?」
「私はね、あなたとは違うの。暗い暗い、怨念を纏う妖怪なのよ。だから……あなたを、傷つけちゃう」
にぎりしめた手を、パルスィは強くおさえる。
「私は嫉妬を司る妖怪。これ以上あなたを好きになったら、きっともう手放せなくなる。
あなたが誰かと話すことにも嫉妬して、あなたが誰かと会うことにも嫉妬して。
あなたを縛り付けて二度と飛べないよう羽を毟ってしまう。そんなの、嫌なの」
そんなの、そんなの――かまわない。
「あなたが――私より、ずっとずっと強ければ……大丈夫だったかもしれないわね」
私はそんなのよりパルスィに会えないほうがいやだ。
パルスィになら何をされたっていいのに。
でも、きっと――私がゆるしても、パルスィは自分をゆるせない。
パルスィはやさしいから、私をきずつけることをゆるせないんだ。
「ごめんね。ごめんね空。私が弱いから……ごめんね」
緑色の目から、涙がこぼれる。
「最初から突き放してればよかったのに、わたし、弱いから――あなたに甘えちゃった」
「――パルスィ」
「ごめんね……ごめんね――」
けっきょく、なにも――言えなかった。
あやまり続けるパルスィに、なにも言えなかった。
今もなんて言えばよかったのか、どうすればよかったのかわからない。
こうして、ただ帰ることしか、できない。
私がもっと強かったら。
私の体がもっと大きかったら。
お燐みたいに、強くて大人だったら――よかったのに。
「…………なんで私は子供なんだろう」
こんな体、いやだ。こんな弱くて小さいだけの体なんていらない。
強くなりたい。
パルスィのそばにいても平気なくらい強くなりたい。
私が強かったら、パルスィは泣かなくてよかったのに。
さとりさまだって、守れるのに。
ずっと……パルスィのそばに、いられたのに。
つよく――なりたいよ。
「――どうしたね? しょぼくれた顔してるじゃないかお嬢ちゃん」
いつのまにか、目の前にかみさまがいた。
はじめて会うのにかみさまだってわかる。
すごく強いって――わかる。
「……かみさま?」
「ああ。八坂神奈子という。地上で山の神をやってるよ」
やさか……さま。
「あ――あの、私は、れいうじ、うつほです」
「うつほ。うつほ――空か。ふぅん、いい名だ。私には馴染み深い。しかし、地の底でソラとはね。
色々と期待……いや、希望かな? 名をつけた奴の想いが窺い知れるね」
「あの……?」
かみさまなんてはじめて見た。なんでこんなところにいるんだろう。
さとりさまのお客さんなのかな。
だったら、案内しなきゃ。
どうせ、私はもう……地霊殿に帰るしか、できないんだから。
「それで」
「わぷ」
「空はなんで泣いてんだい? 私でよけりゃ話してみな」
ぐりぐりとらんぼうに頭をなでられる。
らんぼうで、痛いのに……さとりさまになでられてる時みたいに、安心する。
「……わたし」
安心したから。
気がぬけちゃったから――答えてしまう。
「つよくなりたいんです」
パルスィのこと、思い出して……泣いてしまう。
「わたしは、子供のままじゃいやなんです」
強くなりたい。
泣いてるだけの子供じゃいたくない。
お燐みたいに。
一本角みたいに。
だれかを守れるくらいの力が、ほしい。
もうなんにもなくしたくないよ。
こんなちっちゃい手じゃ、なんにもつかめないよ。
こんな私なんて――きらいだ。
「……はん、私は運命論者じゃないが、こいつは、この出会いは必然なのかもしれないね。
元より強い火車の猫を誘うつもりだったが……地獄鴉か。悪くない。火よりも烏繋がりの方が馴染みやすい。
属性よりも器か――猫なら烏を喰うのも容易いと考えたが、馴染みの良さで考えるなら……ふむ」
やさかさまは、するどい目をさらにするどくして、私を見てた。
すっと手をふる。
すると手の先に光が出て、その中から――三本足のカラスを取り出した。
「空。おまえが望むのなら力をくれてやろう」
「ちから……? つよく、なれるんですか?」
「ああ、きっとこの地底の誰より強くなれるだろう。これは神の力だ。
全てを生み全てを灼く神の火だ。太陽の力だよ」
「――たい、よう」
昔、お燐が教えてくれた。
地上にはものすごく熱くて大きな丸いのがあるって。
時には妖怪の命さえもうばうほどに大きな力があるって。
「太陽」
「ただし、この力に慣れたら私に協力してもらうよ。タダじゃあない。それから――」
ずっと笑っていたやさかさまは笑みを消す。
真面目な顔で、私に問いかける。
「私はフェアだから言っておくけどね。力を得た者は須らく変わってしまうよ。
今のあなたと同じじゃいられない。絶対に何かが変わってしまう。
それでもいいのかい?」
「いい」
迷いなどしない。
誰よりも強くなれるのなら。
この地底でいちばん強くなれるのなら――なんだってしてやる。
パルスィのそばに行けるのなら、何をうしなってもかまわない。
たとえこのつばさをもがれようと――たえてみせる。
「私は弱い自分がいやだから。強く、なりたいから」
「……いい覚悟だ。ならば空。太陽の力、八咫烏の神威をその身に受けよ」
やさかさまは、三本足のカラスを私の胸に――――――
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」
気付けば、灼熱地獄跡に居た。
楽しい。
楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。
腕を振るうだけで岩が煮え滾り爆発する。
「あは、あはははははは」
腕――長い腕。
自分の目でも見るのが大変なくらいに大きな体。
さとりさまよりもお燐よりもずっとずっと大きな体。
いつか見た、旧都の一本角の鬼よりもずっと大きな体。
「凄い、力が漲るよ。溢れ出してもまだ底が見えやしないよ」
左足の周囲を原子核が回り右足を融解する岩が包んでいる。
そして右手に全てを制御する、八咫烏の象徴たる第三の足。
この世全てを分解し融合する太陽の力。
原初にして終焉たる太陽神の神威。
如何なる敵にも負けぬ――絶対的な暴力。
「この大きな体なら、さとり様もパルスィも守れる。弱い自分に嘆くこともない」
それだけじゃ、ない。
守れるだけじゃ――ない。
これだけの力があれば、攻撃にだって転じられる。
転じ……? 否。違う。これは、その為の力だった。
「この力なら――――さとり様や、パルスィを迫害した奴らを焼き尽くせる。
一人残らず焼き尽くして地上を灼熱地獄に変えてやれるわ」
誰だか忘れてしまったけれど、この力をくれた人は言っていた。
この地底の誰より強くなれるって。
だったら――世界で一番強くにだって、なれるよ。
「この長い手なら」
「パルスィに、届く」
「ひ――はは、あはは」
待っててね。パルスィ。
「あははははははは」
世界を焼き尽くすのを待っててね。
「あはははははははははははは」
あなたが嫌う世界を焼き尽くすから。
あなたをいじめる世界を消し炭にしてやるから。
全部終わったら迎えに行くから。
また花冠を作ってあげるから。
無尽の荒野でおしゃべりしよう。
楽しいかな。楽しいよね。
だってパルスィの嫌うモノがなくなってる。
きっとパルスィは笑ってくれる。
また優しく笑ってくれる。
さとり様みたいに私を抱っこしてくれる。
私がんばるよパルスィ。
あなたの為にもっと強くなるよ。
だから世界を焼き滅ぼすよ。
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」
またあそぼうね
パルスィ
悲しいねえ。ああ悲しい。誰よりも純粋な子だったのに。誰よりも純粋な子ゆえに。
ラストの衝撃に負けたよ。
で、この瞬間に船長が飛び立っていったのかなと思うと……。
なんというか言葉にできない。
これは凄い、名作だ!
こんないい作品をありがとう!
でも楽しませて頂きました…。
その誰かを救うにはいったい何が必要なのか。
勇儀のやったような無償の愛と立ち上がる心を持って欲しいと願う驕りか。
幽香のやったような誰かに飼われる境遇と変われなくとも受け入れてくれる世界か。
さとりのやったような互いを気遣うが故に互いに距離をおく相哀れみか。
お空のやったような大切なもの以外すべてを滅ぼそうという究極の子供の我が儘か。
いずれにしても、がらんどうなパルスィの心に何かを響かせるのは容易ではないが、それでも皆彼女が好きで、救けたいと思うからこそ、強く叫べるのだと感じた。
コメントでの評価は初めてですが、初期のころから愛読させていただいてます。
これからも素晴らしい作品を楽しみに応援しています。
報われない、救われない、因果、などのテーマを扱っているのにすらすら文を読んでしまいます。
優しい奴が悲しむ世界にしちゃあ、いけないなぁ。
そうすりゃ、世界は焼き尽くさなければならないほど残酷でもないと気づけるかもしれない。
今のところは悲劇だけど、これで終わりじゃないと信じている。
だけど、力を得た者が元に戻れないなんて事は無い筈だし、
より良い自分に変わることもできるかもしれない。
そう信じる事もまた強さなんだろうなあ。
なんか救いの無いはなしのようで…?
神 奈 子 様 マ ジ ぱ ね ぇ ッ ス
これはなんとも言えない……
出来れば続きにも期待
退治されて冷静になったら良い方向にも向かえるかもしれませんね
そこをとても上手く書き出されているように思いました。
面白かったです。良いお話をありがとうございました。
良いお話をありがとうございました。
今回は原作で救いが有る可能性が有るからこそ許容できました。もしそうでなければ評価は大きく異なっていたと思います。
聖輦船の描写が有るのも良かったです。空が核の力を得た事で結果的に村紗達が地上に出れたというのも皮肉が効いていて物悲しくなりました。
わかっていると衝撃度が薄いね。
これはまあ序章的な物語の宿命みたいなものだけど。
そういやチルノのSSを読んでる時も思うんだけど、
みんな空をそんなアホの子にしなくてもいいと思うんだけどな。
しかし、悲しい。あんなに純真だったのに、
その道から踏み外してしまうなんて・・・
いや、逆か。
純真だから、残酷なことも平気なんだろうな
でもなぜだろう、この作品大好きだ
ラストに深い悲しみとやるせなさを覚えました。
いつか幸せになるといいね
誰がこんなことになることを望んだというのか。
純粋で純真な空と、悩み苦しむパルスィ、二人が救われると思ってたのに。