ああ、光を失えたらどれだけ楽なのだろう。
お姉ちゃん、大好き。
殺したいほどに大好き。
ギュっとしたい。
キュッとしたい。
首絞めたい。
死体になっても、鴉についばませたくない。
ふわふわ、いい匂い。
「お姉ちゃん、大好きだよ」
「そうですか」
そっけない。
大好きって言ってくれないの?
「頭が重いです」
「お姉ちゃん」
大好きなのに、大好きじゃないんだ。
どうしてこっち見てくれないの?
ねえ、ねえ!
今日も地上はいい天気だったよ?
こっち見てよ、お話してよ。
「お姉ちゃん、地上に行こうよ」
「遠慮しておきます」
その目が邪魔だから?
じゃあ、いらないや。
ひっぱっちゃえ。
「こいし」
なんで邪魔するの?
ツヤツヤ。
真っ白。
左手ほしいな。
ねえ、なんで私も見てくれないの?
「いらないじゃん、そんなの」
ほらほら、閉じたらこんなにいい気分。
「それでもないよりマシなんです」
赤い管。
ドクンドクン。
やだ、見つめないでってば、ドキドキしちゃうわ。
「お姉ちゃん、こっち見ないでよ。 照れちゃう」
「そうですか」
でも、こっち見てよ。
二つのおめめで見てよ。
その目玉は嫌いなの。
ああ、もういいや。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
えぐってしまおうかしら。
お姉ちゃん、大好き。
ぽかぽか、柔らか。
お姉ちゃんの膝枕は私が独り占め。
「こいし」
ぶくぶくまるまるで、まっかっか。
見ないでよ、目玉。
取っちゃおうかな。
「お姉ちゃん、これ取っちゃうよ」
「血が出ますよ」
血は大好き。
ブシュブシュと噴きだすのがとってもキレイ。
あは。
でもお姉ちゃんの血は嫌い。
どうしてだっけ。
ペットの血は平気なのに。
いっか。
「お姉ちゃん、耳掃除して」
「ちょっと今手が離せないです」
今私は猛烈にお姉ちゃんに私の中をまさぐってほしいのに。
私の奥を見てほしい。
汚い部分も、綺麗な部分も全部見て。
ふわふわ。
「こいしの頭を撫でるのに、非力なお姉ちゃんは精いっぱいなのです」
それは難しい問題だ。
さらけ出すのもいいけれど、撫で撫でも捨てがたい。
「耳掃除しながら撫で撫でして」
「私は観音様じゃないし、たくさんのことはできないわ」
「そっか」
観音様はいっぱいお手手があるもんね。
仏様を見たいな。
「そういえば舟幽霊たちがお寺を開いたそうですね」
お寺か。
行ってこようかな。
虎と鼠をペットにしたら、お姉ちゃん喜んでくれるかな。
「お姉ちゃん、お土産は何がいい?」
ペット?
木魚?
お坊さんの首?
観音様の腕をいっぱい?
「こいしが元気に帰ってきてくれれば、それだけでお姉ちゃんは嬉しいですよ」
「そっか」
つまんない。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
一度、味わってみようか。
暗闇を。
「こいし」
メラメラ。
暖炉の前はいつでもぽかぽか。
お姉ちゃんのおかげ。
大好き。
「晩御飯は何が食べたいですか」
晩御飯。
栄養補給はバランスを考えろってお医者様が言ってた。
でも私は大好きなものを食べたい気分なの。
「お姉ちゃん」
「はい?」
「お姉ちゃんが食べたいな」
リンにカルシウムにたんぱく質。
脂肪はなさそうだけど、体にはよさそう。
大好きなものが一番体にいいもん。
「残念ながら、お姉ちゃんというメニューは私の頭にはありませんね」
「えー」
残念。
じゃあ。
「ハンバーグ」
「私のお肉は使いませんよ」
ちぇっ。
お姉ちゃん暖かいのに冷たいや。
どっちかにしてほしい。
「こいし、あまりつつかないでください。 くすぐったいです」
「柔らかいね、お姉ちゃんは」
ふあふあ。
お姉ちゃんに抱きつくと、いつも幸せ。
話しても、幸せ。
ご飯も、大好き。
でも、一つだけ妹は不満なの。
「ねえ、お姉ちゃんわかる?」
「わかりませんね」
そっか。
つまんない。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
あ、ハンバーグ食べ損ねた。
痛い。
痛い痛い痛い!
でも、耐えきればきっと、楽になれる。
「お姉ちゃん」
「なんですか、こいし」
やっぱり、いらない。
その真っ赤な瞳は、不要だよ。
「目、閉じちゃいなよ」
「閉じたら、見えなくなります」
見えなくていいじゃん。
今日もお空は元気。
お燐も元気。
「こいし様、あの」
「お燐もいらないよね」
「いえ、その」
「お燐、ごめんなさい。 少し下がっててくれないかしら」
お仕事だもんね。
大事大事。
「がんばってね」
「は、はい……ほら、お空行くよ」
「さとり様……」
「そんな心配そうな顔しないで大丈夫ですよ」
どうして、空は見るの。
私は見てくれないの?
「こいし、いらっしゃい」
見てくれないのは嫌だけど、ギュッとされるのは好き。
ふわふわ。
固い目が邪魔。
「私はね、あなたを守りたいの」
なんで?
なんで私のためにお姉ちゃんが嫌な思いしなきゃいけないの。
おかしいよ。
「いいえ、守りたかった」
何か変わった?
守りたい、守りたかった。
無意識だからわかんない。
「もう、そんな必要はないのかもしれないわね」
「お姉ちゃん?」
やだ。
なんか、嫌だ。
お姉ちゃん、お姉ちゃん。
どこを見てるの。
ねえ!
こっちを、見て。
「ねえ、霊夢と魔理沙は好きかしら?」
「好きだよ」
お姉ちゃんには遠く及ばないけど、嫌いじゃない。
霊夢は面白いし、魔理沙は面白いことをしてくれる。
二人とも強い。
「お空も、お燐もいるから平気よね」
「お姉ちゃん、怖いの?」
ガタガタ、揺れる。
また悪い人たちが来るのかな。
私たちに攻撃してくるのかな。
許さない。
お姉ちゃんの血を見るのは、私だけだよ。
「ねえ、こいしは私のこと大好きなのよね」
「そうだよ」
今さら何を聞くの?
こんなにも好きなのに。
閉じ込めたいくらい、消したくなるくらい大好き。
独占したい。
箱。
大きな箱を探してこようかな。
「いってきます」
「こいし」
なぁに。
まだ何か用事?
「……」
お姉ちゃん?
「いってらっしゃい」
今日は笑ってくれないの?
ねえ、笑ってよ。
怖いの?
いやな奴がいるのかな。
「お姉ちゃんは、私が守ってあげるよ」
「……」
「もう私たちを殺そうとする奴なんかいないけど、でも私が守ってあげるもん」
だから、笑ってよ。
「そう、ですか」
うん。
あ。
「いってらっしゃい、こいし。 愛してる」
ようやくこっちを見てくれた。
チューしてくれた。
えへ、えへへ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
チューし返した。
えへへ。
もう、心配はないわ。
遊び相手がいる、守ってくれるペットがいる。
話し相手もいる。
大丈夫よね?
ごめんね、こいし。
あなたも強くなってくれたから、私が弱くなっても大丈夫よね。
私のことは、放っておいていいから。
あなたは、あなたの幸せのために。
私は邪魔になってしまうから。
あなたの足かせになる。
あなたがもっと、遠くへ行けるように。
「~~~~~~」
声にならない声だ、と自分で思えるくらいに変な声が出た。
熱い。
痛い。
熱い!
ああ、でももう片方。
もう片方、残ってる。
指を、突き立てる。
忘れ物。
お気に入りの帽子を、忘れちゃった。
見当たらないや。
お姉ちゃんなら、知ってるかな。
「お姉ちゃん、いる?」
いない。
さっきまで一緒にいた部屋なのに。
お姉ちゃんの臭いは、する。
「こっちかな?」
ダイニング。
トイレ。
お燐のところにも、お空のところにもいない。
ペットたちの寝床にもいないや。
お買いもの?
やだ、どこにいるのお姉ちゃん。
どこにも行ってないよね。
「あ、お姉ちゃんの匂い」
お姉ちゃんの寝室。
温かい匂いのはずなのに、なんだかおかしい。
素敵な匂いが混ざってる。
「お燐! お空! 鍵、鍵持ってきて!」
なんだろう。
ずっと、感じたかったけど、感じたくなかった匂い。
そんな感じ。
お姉ちゃんの寝室には鍵がかかってて、張り紙がしてあった。
『放っておいて、構いません』
「さとり様!?」
気が動転したお空がドアを吹き飛ばそうとする。
やっちゃえ。
邪魔をするものは全部吹き飛ばせ。
「落ち着いてお空! あ、合ったこの鍵です!」
鍵の山から取り出したのは、冷たい金色の鍵。
差し込んで、回す。
「さとり様!」
「お姉ちゃん!」
「さとり様! 血の匂いがしま、す……」
ブシュブシュ、素敵。
素敵だけど、やだ、見たくない。
吐き気がする。
なにこれ。
「あら、三人とも」
歌うような声。
ああ、楽になれたんだね。
でも、どうして。
どうして気付けなかったんだろう。
「おかえりなさい、お昼は、何作ろうかしら」
お姉ちゃん、もう夕方だよ。
ああ、どうして相談してくれなかったの。
苦しいって。
辛いって。
「あは、こいし。 あなたの言うとおりだったわ。 楽ね、これ」
「うん、そうだね」
お姉ちゃんの真っ赤な目は固く閉ざされて、私みたい。
でも、目は私と違う。
両目が、お姉ちゃんのきれいな目が。
つぶれて、真っ赤な血が出てて。
「こいし、これで私も一緒ね」
違う。
違うよ、お姉ちゃん。
「こいし?」
「お姉ちゃん、愛してる」
違うけど、守ってあげるよ。
見えないことを選んだ弱いお姉ちゃんを守ってあげる。
お空も、お燐も泣いてるけど、きっと気持ちは一緒。
「お姉ちゃんは、私たちのこと愛してる?」
「ええ、愛してるわ」
ああ、なんて。
なんて見たくないひどい笑顔。
さとり様の綺麗なお眼々が!
でも面白かったです
けど、良い感じの狂気があってよかったです。
愛が重い?責任が重い?
何が重い?
ああ、彼女たちに幸があらん事を!
怖いけどステキ。