Coolier - 新生・東方創想話

見ないのは、楽。

2010/04/12 15:23:29
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 ああ、光を失えたらどれだけ楽なのだろう。



 お姉ちゃん、大好き。
 殺したいほどに大好き。
 ギュっとしたい。
 キュッとしたい。
 首絞めたい。
 死体になっても、鴉についばませたくない。
 ふわふわ、いい匂い。

「お姉ちゃん、大好きだよ」
「そうですか」

 そっけない。
 大好きって言ってくれないの?

「頭が重いです」
「お姉ちゃん」

 大好きなのに、大好きじゃないんだ。
 どうしてこっち見てくれないの?
 ねえ、ねえ!
 今日も地上はいい天気だったよ?
 こっち見てよ、お話してよ。

「お姉ちゃん、地上に行こうよ」
「遠慮しておきます」

 その目が邪魔だから?
 じゃあ、いらないや。
 ひっぱっちゃえ。

「こいし」

 なんで邪魔するの?
 ツヤツヤ。
 真っ白。
 左手ほしいな。
 ねえ、なんで私も見てくれないの?

「いらないじゃん、そんなの」

 ほらほら、閉じたらこんなにいい気分。

「それでもないよりマシなんです」

 赤い管。
 ドクンドクン。
 やだ、見つめないでってば、ドキドキしちゃうわ。

「お姉ちゃん、こっち見ないでよ。 照れちゃう」
「そうですか」

 でも、こっち見てよ。
 二つのおめめで見てよ。
 その目玉は嫌いなの。
 ああ、もういいや。

「いってきます」
「いってらっしゃい」



 えぐってしまおうかしら。



 お姉ちゃん、大好き。
 ぽかぽか、柔らか。
 お姉ちゃんの膝枕は私が独り占め。

「こいし」

 ぶくぶくまるまるで、まっかっか。
 見ないでよ、目玉。
 取っちゃおうかな。

「お姉ちゃん、これ取っちゃうよ」
「血が出ますよ」

 血は大好き。
 ブシュブシュと噴きだすのがとってもキレイ。
 あは。
 でもお姉ちゃんの血は嫌い。
 どうしてだっけ。
 ペットの血は平気なのに。
 いっか。

「お姉ちゃん、耳掃除して」
「ちょっと今手が離せないです」

 今私は猛烈にお姉ちゃんに私の中をまさぐってほしいのに。
 私の奥を見てほしい。
 汚い部分も、綺麗な部分も全部見て。
 ふわふわ。

「こいしの頭を撫でるのに、非力なお姉ちゃんは精いっぱいなのです」

 それは難しい問題だ。
 さらけ出すのもいいけれど、撫で撫でも捨てがたい。

「耳掃除しながら撫で撫でして」
「私は観音様じゃないし、たくさんのことはできないわ」
「そっか」

 観音様はいっぱいお手手があるもんね。
 仏様を見たいな。

「そういえば舟幽霊たちがお寺を開いたそうですね」

 お寺か。
 行ってこようかな。
 虎と鼠をペットにしたら、お姉ちゃん喜んでくれるかな。

「お姉ちゃん、お土産は何がいい?」

 ペット?
 木魚?
 お坊さんの首?
 観音様の腕をいっぱい?

「こいしが元気に帰ってきてくれれば、それだけでお姉ちゃんは嬉しいですよ」
「そっか」

 つまんない。

「いってきます」
「いってらっしゃい」



 一度、味わってみようか。
 暗闇を。



「こいし」

 メラメラ。
 暖炉の前はいつでもぽかぽか。
 お姉ちゃんのおかげ。
 大好き。

「晩御飯は何が食べたいですか」

 晩御飯。
 栄養補給はバランスを考えろってお医者様が言ってた。
 でも私は大好きなものを食べたい気分なの。

「お姉ちゃん」
「はい?」
「お姉ちゃんが食べたいな」

 リンにカルシウムにたんぱく質。
 脂肪はなさそうだけど、体にはよさそう。
 大好きなものが一番体にいいもん。

「残念ながら、お姉ちゃんというメニューは私の頭にはありませんね」
「えー」

 残念。
 じゃあ。

「ハンバーグ」
「私のお肉は使いませんよ」

 ちぇっ。
 お姉ちゃん暖かいのに冷たいや。
 どっちかにしてほしい。

「こいし、あまりつつかないでください。 くすぐったいです」
「柔らかいね、お姉ちゃんは」

 ふあふあ。
 お姉ちゃんに抱きつくと、いつも幸せ。
 話しても、幸せ。
 ご飯も、大好き。
 でも、一つだけ妹は不満なの。

「ねえ、お姉ちゃんわかる?」
「わかりませんね」

 そっか。
 つまんない。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 あ、ハンバーグ食べ損ねた。



 痛い。
 痛い痛い痛い!
 でも、耐えきればきっと、楽になれる。



「お姉ちゃん」
「なんですか、こいし」

 やっぱり、いらない。
 その真っ赤な瞳は、不要だよ。

「目、閉じちゃいなよ」
「閉じたら、見えなくなります」

 見えなくていいじゃん。
 今日もお空は元気。
 お燐も元気。

「こいし様、あの」
「お燐もいらないよね」
「いえ、その」
「お燐、ごめんなさい。 少し下がっててくれないかしら」

 お仕事だもんね。
 大事大事。

「がんばってね」
「は、はい……ほら、お空行くよ」
「さとり様……」
「そんな心配そうな顔しないで大丈夫ですよ」

 どうして、空は見るの。
 私は見てくれないの?

「こいし、いらっしゃい」

 見てくれないのは嫌だけど、ギュッとされるのは好き。
 ふわふわ。
 固い目が邪魔。

「私はね、あなたを守りたいの」

 なんで?
 なんで私のためにお姉ちゃんが嫌な思いしなきゃいけないの。
 おかしいよ。

「いいえ、守りたかった」

 何か変わった?
 守りたい、守りたかった。
 無意識だからわかんない。

「もう、そんな必要はないのかもしれないわね」
「お姉ちゃん?」

 やだ。
 なんか、嫌だ。
 お姉ちゃん、お姉ちゃん。
 どこを見てるの。
 ねえ!
 こっちを、見て。

「ねえ、霊夢と魔理沙は好きかしら?」
「好きだよ」

 お姉ちゃんには遠く及ばないけど、嫌いじゃない。
 霊夢は面白いし、魔理沙は面白いことをしてくれる。
 二人とも強い。

「お空も、お燐もいるから平気よね」
「お姉ちゃん、怖いの?」

 ガタガタ、揺れる。
 また悪い人たちが来るのかな。
 私たちに攻撃してくるのかな。
 許さない。
 お姉ちゃんの血を見るのは、私だけだよ。

「ねえ、こいしは私のこと大好きなのよね」
「そうだよ」

 今さら何を聞くの?
 こんなにも好きなのに。
 閉じ込めたいくらい、消したくなるくらい大好き。
 独占したい。
 箱。
 大きな箱を探してこようかな。

「いってきます」
「こいし」

 なぁに。
 まだ何か用事?

「……」

 お姉ちゃん?

「いってらっしゃい」

 今日は笑ってくれないの?
 ねえ、笑ってよ。
 怖いの?
 いやな奴がいるのかな。

「お姉ちゃんは、私が守ってあげるよ」
「……」
「もう私たちを殺そうとする奴なんかいないけど、でも私が守ってあげるもん」

 だから、笑ってよ。

「そう、ですか」

 うん。
 あ。

「いってらっしゃい、こいし。 愛してる」

 ようやくこっちを見てくれた。
 チューしてくれた。
 えへ、えへへ。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 チューし返した。
 えへへ。



 もう、心配はないわ。

 遊び相手がいる、守ってくれるペットがいる。
 話し相手もいる。
 大丈夫よね?
 ごめんね、こいし。
 あなたも強くなってくれたから、私が弱くなっても大丈夫よね。

 私のことは、放っておいていいから。
 あなたは、あなたの幸せのために。
 私は邪魔になってしまうから。
 あなたの足かせになる。
 あなたがもっと、遠くへ行けるように。

「~~~~~~」

 声にならない声だ、と自分で思えるくらいに変な声が出た。
 熱い。
 痛い。
 熱い!
 ああ、でももう片方。
 もう片方、残ってる。
 指を、突き立てる。



 忘れ物。
 お気に入りの帽子を、忘れちゃった。
 見当たらないや。
 お姉ちゃんなら、知ってるかな。

「お姉ちゃん、いる?」

 いない。
 さっきまで一緒にいた部屋なのに。
 お姉ちゃんの臭いは、する。

「こっちかな?」

 ダイニング。
 トイレ。
 お燐のところにも、お空のところにもいない。
 ペットたちの寝床にもいないや。
 お買いもの?
 やだ、どこにいるのお姉ちゃん。
 どこにも行ってないよね。

「あ、お姉ちゃんの匂い」

 お姉ちゃんの寝室。
 温かい匂いのはずなのに、なんだかおかしい。
 素敵な匂いが混ざってる。

「お燐! お空! 鍵、鍵持ってきて!」

 なんだろう。
 ずっと、感じたかったけど、感じたくなかった匂い。
 そんな感じ。
 お姉ちゃんの寝室には鍵がかかってて、張り紙がしてあった。

『放っておいて、構いません』

「さとり様!?」

 気が動転したお空がドアを吹き飛ばそうとする。
 やっちゃえ。
 邪魔をするものは全部吹き飛ばせ。

「落ち着いてお空! あ、合ったこの鍵です!」

 鍵の山から取り出したのは、冷たい金色の鍵。
 差し込んで、回す。

「さとり様!」
「お姉ちゃん!」
「さとり様! 血の匂いがしま、す……」

 ブシュブシュ、素敵。
 素敵だけど、やだ、見たくない。
 吐き気がする。
 なにこれ。

「あら、三人とも」

 歌うような声。
 ああ、楽になれたんだね。
 でも、どうして。
 どうして気付けなかったんだろう。

「おかえりなさい、お昼は、何作ろうかしら」

 お姉ちゃん、もう夕方だよ。
 ああ、どうして相談してくれなかったの。
 苦しいって。
 辛いって。

「あは、こいし。 あなたの言うとおりだったわ。 楽ね、これ」
「うん、そうだね」

 お姉ちゃんの真っ赤な目は固く閉ざされて、私みたい。
 でも、目は私と違う。
 両目が、お姉ちゃんのきれいな目が。
 つぶれて、真っ赤な血が出てて。

「こいし、これで私も一緒ね」

 違う。
 違うよ、お姉ちゃん。

「こいし?」
「お姉ちゃん、愛してる」

 違うけど、守ってあげるよ。
 見えないことを選んだ弱いお姉ちゃんを守ってあげる。
 お空も、お燐も泣いてるけど、きっと気持ちは一緒。

「お姉ちゃんは、私たちのこと愛してる?」
「ええ、愛してるわ」

 ああ、なんて。
 なんて見たくないひどい笑顔。
 自分の中の無意識ってこういうことかな、と言うお話と。
 もしもさとりが弱ければ、と言うお話。

 こんな結末は、多分これだけで充分。

 では、お付き合いありがとうございました。
リーオ
http://lieolieohumansong.blog76.fc2.com/
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コメント



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5.90喚く削除
あわわわわ
さとり様の綺麗なお眼々が!
でも面白かったです
6.80名前が無い程度の能力削除
さとり視点の話があれば、補正も聞いて良さそう
8.90名前が無い程度の能力削除
さとり様の目がぁ
10.100奇声を発する程度の能力削除
怖かった…
けど、良い感じの狂気があってよかったです。
23.90名前が無い程度の能力削除
なんて重い話・・・
愛が重い?責任が重い?
何が重い?

ああ、彼女たちに幸があらん事を!
27.70ずわいがに削除
目を閉じるのと眼を閉じるの、どっちも逃げたことに変わりはないのね。
29.100名前が無い程度の能力削除
わぁお、これは凄いですね。
怖いけどステキ。
33.100星ネズミ削除
悟りなんて種族に生まれたら、こうなってしまうのも仕方がないことなのかもしれないな…この先逃げてしまった二人は、どうやって生きていくんだろうか…幸せになれるのだろうか…