空に浮かぶ太陽はいつにも増してその輝きを強めていた。
溢れ出す太陽の恵みは大地に満遍なく降り注ぎ、湖面の照り返しの光が目を射る。
燦々と輝く日を傘を通して身に浴びながら私は歩みを進める。
両脇に立ち並ぶ木々は無造作に植えられている様に見えるが、どこか整理されている様に感じられる。
踏みしめる大地はやや乾いているのか普段より固い印象を持った。ちなみに私は歩いてはいるが、目的地はそこだ!
と明言はできない。まあ、行きたい場所が無い訳でもないのだが……
私の目指す先、それはこの辺りに漂っている香りの源。
柔らかな甘さの中に仕込まれた棘の様に微かに溶け合う酸味は香りをより印象深いものにしている。
その香りの濃厚な方へと私は行く。
芳香に誘われると言うのはまるで虫の様だなと思わず苦い笑いが漏れ出る。
やがて脇の木々はその数を減らし、その間隔も一定の距離を保つようになってきた。
その綺麗に整えられた道を辿って行けば、視界に赤より深い紅を帯びた屋敷が映った。
青い空に緑の木々の立ち並ぶ中に浮かぶ紅い色は異端ではあったが決して景観を損なっておらず
まるで絵画の一部を切り取ったかの様な風景は私に鮮烈な印象を抱かせるのには十分だった。
その館へ近付けば近付くほどに香りはより高まってくる。
きっと此処に香りを放っているものがあるのだろう。
そう思うと、私の足取りは自然と軽くなるのだった。
――やがて紅が視界を埋める。
それと同時に見えるのはやや大きな門。
門扉は簡素な造りだがそれが逆に後ろに見える屋敷と相まって落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
遠目から窺ったかぎりだが門の脇に誰かが立っている様だ。
さて、どうしたものか……
何か用事があって此処に来た訳ではないし、向こうも見ず知らずの人を用も無しに入れる事はしないだろうしなあ。
……こっそり入るかな。
悪いことをする訳でもないのだし、後ろめたさはさほど感じない。
それに、礼儀を通してたいそうな歓迎をされた方が気まずいと言うものだ。
外周に沿って門から離れ、やや低くなっていた塀を飛び越える。
塀の内側は綺麗に整えられた庭園だった。
塀の上に立った時に少し見えただけだが、植物の織り成すシンメトリーはなかなかに美しいものだった。
辺りを見渡すと色鮮やかな緑が目に優しい。綺麗な曲線を描く生け垣は切り揃えられたばかりなのだろうか?
青々とした濃密な匂いを放っていた。
だが、私の求める香りは刈りたての植物の匂いではないようだ。
さてと、中にも入れた事だし甘美な匂いの源泉を探しに行くとしようか。
――乱れなく切り揃えられた垣根の道をゆっくり楽しみながら進む。
自然なままの植物も良いものだが、人の手によって造形されたものも悪くはない。
どちらも異なった良さがあるものだ。中途半端は不恰好で嫌いだけど……
曲がった道を抜ければ、開けた場所に出た。
そこには一面の赤。沢山の紅い花弁の薔薇が咲き誇っていた。
どうやら甘い香りは此処から漂って来た様だ。
眼前の花達はどれ一つとして枯れたり萎れたものは無く、全てが華麗にその身を開いていた。
……やはり花は良いものだなあ。
甘い香りと艶やかな色彩に意識を染められる。
薔薇の赤は私を引き込み、自らの色に染めようとしているのだろうか?
そんな他愛の無い事を考えつつ、もう少しこの風景を楽しもうと思ったその時
「あなたは誰?」
そう声を掛けられたのだった。
軽やかに響く声は鈴を思わせる少女のそれ。
その音色に私の意識から靄が晴れ遠くまで澄み渡る。
この声は誰だろう?
声の主は私のいる場所と花壇を挟んで反対側の日陰になっている場所にいた。
しゃがんでいるところを見れば薔薇を眺めていたのだろうか?
目の前の人は脇に置いてあった日傘を差して私の方へと歩いて来る。
すっと立ち上がったその身体は私の胸に届くか怪しいところだろうか……
にわかに吹いた風が少女の髪を靡かせる。
黄金色の糸は日傘の下でも煌めいて見え、私を見据える彼女の目は深紅を宿し中に人成らざる眼光を秘めている。
風が植物の葉を揺らす音に混じって、少女が足を踏み出す度に鉱石の触れ合う様な高音が鳴る。
だが、その音がどこから出ているかは分からなかった。
私が観察をしている内に少女はそばにやって来た。
「誰?」
紅が私を捉える。何故か目を逸らす事が躊躇われた。
少女のあどけない瞳の中に潜む何かが、私の最奥部を見透かそうとしている様な気がしてならなかった。
無言のまま少女と見つめ合う。背筋に寒気が走り、嫌な汗が浮いてくる。
これはまずいな……理由は説明出来ないが、長年の私の勘がそう告げていた。
「……名乗る程の者ではないわ」
「本当にそう?」
少女は怪訝そうな表情をしてはいるが、不快感は感じなかった様だ。
「まあ、誰でもいいや……私と遊ばない?」
うっすらとした笑顔を少女は作るが、私はその目の奥に不穏な気配を確かに感じだのだった。
「そうね、話し相手位なら付き合ってあげなくもないわ……」
私の返事を聞くと穿つ様な視線は少しだが和らいだ。
「まあ、それでもいいや」
と少女は呟くと両の手を組んで難しい顔をする。
「うーん……とりあえず名前が無いとね。それじゃあ、紅白……はもう居るから……赤白!」
「……まあ、何でもいいわよ……」
安易なあだ名はいただけないが、どうやら彼女は満足したらしく嬉しそうに頬を吊り上げるのだった。
「それで赤白さんは何しに来たの?」
いつの間にか鋭い眼光は消え去り、変わりに外見相応の好奇心に満ち溢れた視線を投げかけてきた。
「何って言われても……そうね、強いて言うなら、薔薇を見に来たって所ね」
「あら、奇遇ね。私も薔薇を見ていたのよ」
一人可笑しそうに笑う少女。
うーん。私も笑っておいた方が良いのだろうか?
小さな子供と話す機会など、ほとんど無かったし、話す事を目的とされるとなんだか違和感を感じる。
それに何を話題にしたらいいかも分からないし……
「この時期に薔薇なんて珍しいから、ついつい勝手にお邪魔してしまったわ……悪かったかしら」
本当は黙っておきたかったが、話題が無いのだから仕方ない。
それに少々気になっていたのも事実だ。
すれば彼女は、悪戯しないなら誰も咎めないよ
と言って微笑を向けてきた。
「ところであなたは薔薇が好きなの?」
唐突な質問だと自分でも思ったが、せっかく流れを切って沈黙するのも気まずかったのでとりあえず尋ねてみる。
「ええ、好きよ。真紅の花びらも、触れるのも躊躇わせる棘も、脳を溶かす様な甘い香りも、どれも好き」
「そう、それは良かったわ」
話をもう少し詳しく聞いてみると、少女は薔薇に限らず花全般が好きなそうだ。
花が好きな人を見ると嬉しくなる。
何故って?
私も好きなのだ、花が。
同じ物を好きな人がいると嬉しいのが普通だろう。
「それにしても今日はいつにも増していい天気ね、花も喜んでいるわ」
今は昼過ぎ頃なのだろうか?
空に目を向ければ太陽の日差しはより強くなっていて日の位置は朝より高いところにある様な気がする。
「私、晴れって好きよ」
日傘を持ち直しつつ少女は呟く。
好きだと言っているのにどこか陰りのあるその言葉に私はなんだか引っ掛かるものを感じた。
「……どうして晴れが良いの?」
私の質問に少女は背を向ける。そして肩に預けた日傘の柄をクルクルと回しながら、ゆっくりと限りなく透き通った声を発した。
「お日様は本当の色を見してくれるから」
赤の中を風が通り過ぎる。夏の日射しに耐えられない弱った葉がひらりと舞い散り空へと吹き上げられて消えて行った。
「本当の色?」
「火の明かりは偽物、周りに赤を足してしまうから……魔法の灯火も駄目、力が弱くて闇に負けちゃう」
――だから太陽が一番
そう言って振り返る彼女の表情は笑っていると言うには変化が足りず無表情と言うには変化が大きい何とも言えない顔をしていた。
だが、その表情もすぐに消え去り場を覆っていたどこか物寂しい雰囲気も一転する。
「ねえ、あなたは何の花が好きなの?」
再び好奇心の色で上塗りした目を少女は私に向ける。
「そうねえ……ひまわりかしら、もちろん他の花も好きよ」
「ひまわり?」
私の言葉に少女は小首を傾げる。
「知らないの?」
「ううん。見たことあるよ」
少女はひまわりについて解説をする。
すらすらと流れる言葉は詰まる事がなかったが、それが逆に少女の感情も込められてはいないと私に感じた。
本当にこの子はひまわりを見たことがあるのだろうか?
思い浮かぶのは当然の疑問。
少し意地悪かもしれないけれど、確かめてみようか……
「……確かにそれがひまわりよ、けれど挿絵では本当のひまわりの黄色は分からない、違う?」
私の鎌をかけるために放った言葉に少女は黙る。
苦い表情をしながら俯くその姿を見るとやはり図星なのだろう。
「……うん、本当は本で読んだことあるだけなんだ」
嘘ついてごめんね。
そう言いながら少女は軽く頭を下げる。
私とそこまで過剰に反応されるとなんだか心苦しくなってくる。
どうやら、言うべきでない事だった様だ。
少女が気落ちしているのは誰の目にも明らかだろう。
……なんか、すごい罪悪感を感じる。
謝るべきか?
……いや、私が謝るのは違う気がする。
うーん。どうしたものかなあ?
「……そうだ、あなたひまわり見てみない?」
驚きの表情と共に顔を上げる少女。
どことなく嬉しそうに見えたのは私の気のせいではないだろう。
少女は、みんながどう、とか力が云々、と何やら言っているが満更でもないようで言葉の節々に明るい色が混じっていた。
幼子の喜ぶ顔は悪くないものだ。だから、私もついつい調子に乗ってしまうのも無理ない事だろう。
行くのか、行かないのかはっきりしない少女を抱え上げる。
「えっ、ちょっと!」
突然の事に驚いたのか、嫌がる様に少女は暴れる。
だが、私にとって幼子の一人位暴れたところでさして問題はなかったりする。
「あなたがちゃんと断らないのが悪いのよ?」
「じゃ、じゃあ……」
「おっと、残念ながら時間切れよ、もう選択権は無いわ」
私が言い聞かせると腕の中で暴れていた身体は大人しくなった。
結局この子も何だかんだ言いつつもひまわりを見てみたい。
そんなところだろう。
「素直なのは好きよ、日傘ちゃんと持っててね」
私の分の日傘も少女に渡せば、私に日が当たらない様に腕を伸ばす。
しかし、自分の分と私の分の日傘を差しているせいで私にしがみつけず落ちるんじゃないかと怖がって身体を震わせているせいで、私に日傘を差す意味はあまりないのだった。
その反応がどうにも私のツボを突いた様で口の端が吊り上がるのを感じながら、私は大きく跳躍するのだった。
――少女の手を取りながら小高い丘を登る。
なだらかな斜面はまるで緑の絵に具で塗られた様に淡い緑に覆われていて、日に暖められた地面が程良い熱気を放っている。
この丘からは太陽の畑を一望する事ができる。
太陽の畑に住んでいる私だからこそ知っている隠れた場所。
もちろんお気に入りの場所だ。
一歩ずつ土を踏みしめると人に踏み固められていない地面は柔らかく絨毯の様だった。
私がのんびりと歩いているとトントンと手を叩かれる。なんだろうと目をやれば少女が私に手を差し出しているではないか。
顔を少し赤くしながら伸ばされる少女の手をギュッと握り返してあげれば、向こうもしっかりと握り返してくるのだった。
でも少女も自分から手を握ったのが恥ずかしかったのか、私と目を合わせようとはしなかった。
やがて頂上が近付くと少女が私を引っ張る様な形になる。
先程までは私の横で一緒に歩いていたと言うのに……
「そんなに急ぐと転ぶわよ?」
目の前の少女が外見同様の精神年齢ならば転ばれると厄介だ。
幼い者は不測の事態に弱いものだ。ちょっとした事ですぐに泣く。
しかも泣かれると何故か私のせいではないのに私が悪い気がしてならないのだ。
「大丈夫、平気だって」
そう言って少女は私の手を放して駆け出そうとする。
すると案の定、一歩と持たずに石に躓くのだった。
「ほら、言ったそばから転んでるじゃない」
「むぅー、転んでない、ちょっとバランス崩しただけだって」
不満気な表情の少女に今度は私から手を差し出す。
「……仕方ないじゃない、こんな場所は歩き慣れてないんだから」
少女は口ではあれこれ言いながらも私の手を右手でしっかりと握り締めるのだった。それも飛びっきりの笑顔で。
――黄色の大地を見下ろす。
一面に広がる大輪の花たちは夏の香りでこの一帯を染め上げている。
私の隣の少女は輝く黄金色に目を細めている。
「どうかしら? ひまわりは」
「凄いね……凄いよ、うん……とっても」
これが本当の黄色なんだね
と少女は呟きながら自らの髪をしきりに撫でつけていた。
「もっと近くで見ましょう」
少女の手を取って次は私が少女の手を引っ張って行くのだった。
――黄色の海へと足を踏み入れる。
優しい芳香と柔らかい陽射しが心地良い。
波をかき分けて進んで行けば少しばかり開けた場所に出る。
ここは休憩には丁度良いので足を止める。
私は近くの落ち葉を集めてその上に腰を下ろす。
少女はそれを見届けると近くのひまわりへと駆け寄った。
ひまわりの花弁を摘んだり、茎をつついてみたりする少女の様子は滑稽ではあったが嘲笑よりも微笑みを誘うものだった。
「ねえ、なんでこの子達はみんな同じ方を見ているの?」
ふわふわとした声はどこか陽気を誘う。
ぼーっとしてしまった頭を一振り。
「ひまわりは太陽の方を向いているのよ、沢山光を浴びれる様にね」
へー、と少女は感心した様な声を出して再び、ひまわりを弄りにかかるのだった。
――ゆったりとした時間が流れて行く。
どこそこの花が綺麗だとか、そんな話を少女はさも笑い話でも聞いているかの様に楽しそうに聞いてくれるのだった。
やがて黄色に茜色が混じり始める頃になっても少女は飽きる事を知らぬのかひまわりを見つめていた。
私もそんな少女をのんびりと眺める。
永くを生きる私達の様な妖怪の多くは賑やかさを求める事が多いが、同じくらいに静かな安らぎを求める。
騒ぐのは楽しいが、どこか心が疲れる節がある。
だから、今みたいにのんびりとして心を休めるのだ。
次はどんな話を聞かせてあげようか?
そんな事を考えていれば私の背後に誰かの気配がした。
誰かは腰を下ろすと私に背中合わせに身体を預けてくる。
もちろん此処には私以外には一人しかいない。
その一人は小さな声で話しかけてきた。
反対方向への声は聞き取り辛かったが、この黄色いホールには二人ぼっち。
だから、さほど問題はなかった。
「私ね、分かるんだひまわりはかわいそうな花だって」
ひまわりの香りに包まれたこの場所に少女の呟きだけだ木霊する。
「……ひまわりはね、太陽を持ってないんだよ」
「あら? ひまわりは日に向かう葵、と書くのよ。言わなかったかしら」
太陽なら持っているじゃない?
そう続ける私の言葉に背中から微かに少女が身じろぎをするのが伝わってくる。
「きっと持ってないよ、だって他の花からは太陽の匂いがするのに……ひまわりにはそれがない」
私は静かに少女の話に耳を傾ける。
「人は無いものを欲しがる。ひまわりもきっと一緒。」
西からの日射しが私の身体を朱色に変える。
沈み行く太陽に手をかざしてみれば、光が私の中へと溶け入ってくる。
「あなたが此処を訪れたのもきっとひまわりが呼んだから」
……だって、あなたからは太陽の香りがするもの
少女はそこまで言うと深呼吸をする。吹き抜けて行く風がひまわりを揺らす音の中でも確かに聞き取れた。
「私が花に操られているって言いたいの?」
だとしたら、これほど滑稽な事もそうそうないだろう。
「そんな大層なものじゃないよ……人の言葉を借りて言えば 運命、かな」
運命……そっちの方がよほど大袈裟な気がするが……
「あなたは……ひまわりはかわいそうだって言うけど、私はそうは思わないわよ」
「どうして?」
短く言い切られた少女の言葉は、疑問以外に何か思うところがあるのかやけに淡白に聞こえた。
「簡単な事よ。無いからこそ分かるそれだけよ」
「あなたは私から太陽の匂いがするって言うけど、私には分からないわ。太陽を持っていないものにしか太陽の匂いは分からない」
少女の小さな息遣いがやけに大きく聞こえる。
「太陽の匂いを感じれるって幸せな事ね……羨ましいわ」
私の言葉に少女は何も言葉を返してはこない。
ただ、あなたは面白いね
と独り言のような感じで空に向かって一言呟くだけだった。
しばらくの沈黙の後、少女が立ち上がる気配がする。
「私もついつい太陽の匂いに誘われてしまったみたい……長居してしまったね」
少女に合わせて私も立ち上がる。
「今日は楽しかった、ありがとう」
少女は私と向き合うと控え目な笑みを浮かべた。
「それは良かったわ、一人で帰れるかしら?」
多分大丈夫、そう言って少女は右手を差し出してくる。握手のつもりだろうか?
手のひらを閉じられては握手のしようがないが。
一応私も手を伸ばしておく。
「これは今日のお礼」
握り締められた指がほどかれる。
中から現れるのは小さな球根。
少女の手で隠せてしまうほどの大きさしかなく。それを正常と言うのはいささかはばかられるだろう。
「随分と可愛らしい子ね……」
「薔薇の球根よ、枯れにくくするためにかけた魔法の副作用で小さくなっちゃってるけどね」
少女の話では球根の大きさこそ変わってはいるが普通の大きさまで成長するらしい。
「大事にしてあげてね」
「ええ、大切に育てるわ」
任せておけ、とばかりに笑顔を作ってやる。
私の笑顔に呼応して、少女も笑みを浮かべる。
私の力を使えば簡単に咲かせる事が出来るだろうが、それは野暮と言うものだろう。
私は手のひらの中にある球根をそっと握るのだった。
――西日が地平線へと落ちていく。
「それじゃあ、そろそろ行くね」
少女が背を向ける。すると、いつの間にかその背には羽のようなものが生えていた。
気の枝のような質感の翼に様々な色を宿した鉱石がぶら下がっている。
太陽の残り火に照らされた宝石が光を乱反射させながら辺りを彩る。
その光景に私は、ただただ見惚れるばかりだった。
その時、少女が あっ、そうだ と呟き身体を此方に向ける。
そして、背筋を正して一礼をしたかと思えば、私に尋ねてくるのだった。
「……赤白さん、また遊びに来てもいい?」
今までとは別人の様に芯の通った声だった。
「ええ、いいわよ。何なら迎えに行きましょうか?」
別に拒否する理由もないし、こちらとしては時間を潰せるので悪い提案ではない。
私の言葉に少女はひとしきり笑った後、お願いします と頭を下げるのだった。
「それじゃあ……その薔薇が咲いたら、また会いましょう」
黒が濃くなりゆく、光と闇の混じり合う空へと少女が飛び立つ。
白と黒の中に紅色と黄色が浮かぶ。
それは飛びながら私に手を振っている。
二色がすっかり消え去るまで、私は小さく手を振り返すのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
黄色が大地を埋め尽くしている。
混じり気の無いそこにはたった一つ紅い点がある。
背の高いひまわりに囲まれた一輪の薔薇。
その隣には同じ様に薔薇が咲いていた。日の光を浴びる黄色い薔薇が。
ふっと吹き抜けた一陣の風が、二輪の薔薇をそっと揺らした。
この組み合わせだと色々と血生臭くなるのではと思っていたけど
全然そんな事は無かったです!
物凄い和みました。
花を愛でることにかけても、
最強クラスなのでしょう。
こういう静かで穏やかな雰囲気大好きです。
持ってないからこそわかる、という言葉になんだか納得。
外は憂鬱な雨ですが物凄く穏やかで暖かい気分になりました。
黄金色の糸 の誤字ですか?
心の中が暖かくなった気がしました
穏やかな雰囲気で好きです。
…良い!
でっかい麦藁帽子を着用で。
そんな光景を幻視してしまいました。
文章もなんだか読みやすく、表現もあっさりとしてて情景がするする浮かんできます。
良いお話をありがとうございました。
そうなったときはすごいでしょうけど。
血なまぐさい二人のイメージとは裏腹ないい話でした。