過去作とつながっていますが……。
※ナズーリンが小さくなって、星白夫婦が親代わり※
これだけ理解していただければ、楽しめると思います。
痛い痛い痛い。
「引っ張るなああぁぁぁ……」
羽がもげる!
ああん、もげちゃううううううう!
「なにこれー! 姉ちゃんのこれなにー?」
「かっこいい!」
うん、自分でも割と気に入ってる羽なんだ、だから!
「離して! お願いだから!」
「ちぇっ」
「ケチー」
私の羽には思い切り力が加えられていたらしく、手を放された瞬間、ゴムのように弾み。
「ぎゃー!」
背中に直撃。
「この、イタズラっ子めぇぇぇぇ……」
「変な姉ちゃんが怒ったー!」
キャーキャーワーワー。
そうして騒ぐ子どもたちを見て、羽が皺になってないか確認して、大きく息を吐き出す。
ああ、子どもは苦手だよ……。
どうして私、ぬえが子どもの世話なんかをしているのか。
きっかけは朝のことだった。
「さて、今日こそ講釈を開きましょう!」
「う?」
二日続けて寺を閉めた原因を膝に載せた聖は、とても張り切っていた。
ナズーリンに万歳させてニコニコしているその様は、もう女の子というか。
うん、余計なことは言わないでおこう。
「あの、聖」
最近なんだか大人しくなった村紗が、疑問を口にした。
それが私の苦難につながるとも知らずに。
「ナズーリンの仕事、どうするんですか?」
「あら、そういえば……」
講釈の時忙しいのは、当然星と聖だけではない。
一輪は受付、村紗は警備。
私は聖の手伝いだ。
「ナズーリンは……子どもの面倒を見てたんだっけ?」
理由は簡単。
迷子になったとしてもすぐに見つけ出せるからだ。
ただ、そのナズーリンは今。
「?」
聖の膝の上で、全員の視線を受けて不思議そうに首を傾げていた。
「むしろ、ナズーリンの面倒を見る人が必要じゃない……」
面倒がまた増えたと、嘆息する一輪。
ちなみに村紗はナズーリンに嫉妬してか、ハンカチを噛んでいた。
「できれば私がナズの面倒を見たいんですが……」
父、もとい星が恐る恐る一輪の方を見る。
聖なら賛成するかもしれないけれど。
「ダメに決まってるじゃないですか」
「ですよね……」
子連れ毘沙門天では、威厳も何もないだろう。
ニヤニヤしてお客さんにひかれるのがオチだ。
「あ、じゃあ私が」
「姐さんも……」
あれ、一輪が泣いてる?
母、じゃなくて聖もダメだろう。
ニヤニヤして以下略。
「お二人とも重要なポジションなんですから、自重してください!」
「あら……」
「ごめんなさい……」
親バカコンビは当てにならないようだ。
「というか、ナズーリンも子どもたちも一遍に面倒見れば?」
そう言ってしまったのが運の尽き。
アレよアレよと言う間に言いだしっぺの法則で、託児係に就任してしまったわけだよ。
まさに、口は災いの元。
「ナズーリンも割と仲良くしてるみたいだし、何も心配はなさそうだけどね……」
子どもたちを預かっている部屋の隅っこの方を見る。
「ナズちゃん、この耳なにー?」
「?」
「かわいー」
「んー……!」
「ああ、あんまり耳引っ張ってやりなさんな」
外見が同い年くらいの子どもたちに弄ばれているようだ。
強い子なのか泣かないようだが、あまり放っておくのもかわいそうだろうし。
「はあ……」
本日何度目かわからないため息をつく。
妖怪は子ども好きなんじゃないかって?
まあ、食べる分にはそうかもしれないけど。
私は正直、相手するのも食べるのもいやなんだよ。
やんちゃだし、ものを知らないくせに。
昔から子どもを襲っては妙な機転を効かされて、撃退されてきた。
子どもの肉を好んで食らう同族もいたけど、どっかの誰かに調伏されたっていうしね。
人間は子どもを守るためなら、修羅にだってなるらしい。
「バカバカバカー!」
「貧乏巫女ー!」
「おー……」
「こらそこケンカするな! 壁にいたずら書きされたら怒られるってば! って漏らすなああああああ!」
こんな憎たらしい奴らを保護してどうするのやら。
ああ、着替えがここにあるって言ったっけ……。
「ほれ、着替えな」
「うん」
漏らしても平然としてるし。
泰然自若ってこういうやつのことを言うのか。
雑巾雑巾……ないな。
「仕方ない、どこかから持ってくるか……。 みんな大人しく待ってなよー!?」
決して狭くはない命蓮寺で迷子にでもなられたら面倒だ。
ナズーリンはあの通りだし、探すとなれば骨だろう。
「はーい!」
返事だけはいいんだけどなあ!
「はあああああ」
子どもたちからわずかに解放される、このわずかな時間をかみしめるように呼吸する。
絶対に母親になんかなりたくないって、心底思う。
どうして生涯を振り回されなきゃいけないのか。
「本当に人間っていうやつらはよくわからないよ」
私には、母親がいない。
鵺という妖怪は人の恐怖心から生まれた妖怪だ。
私の最初の記憶も、気付いたらそこにいた、というものだったりする。
親子の情なんてさっぱりわからない。
理解したいとも思わない。
それほどに、子どもに撃退されたのはトラウマになっている。
「氾濫した川に流されたり、丸太に潰されたり……いい思い出がないわー」
小さくたって、人間は人間だ。
むしろ抑制が効かない分性質が悪い。
無邪気な悪意と、攻撃性。
「あー……とっとと講釈終わらないかしら」
「おや、ぬえ。 サボリですか?」
人聞きの悪いことを言ったのは、警備にやってきたらしい水蜜だった。
どうして室内でアンカー持ってるのだろうか。
有事の際にはこの狭い場所で振り回す気なのだろうか。
「雑巾取りに来ただけー……」
「随分、お疲れのようで?」
「他人事だからって、気楽そうでいいねぇ」
つい嫌味っぽくなってしまうが、水蜜はそれを気にするほど心はせまくない。
ほら、なんだかんだで笑ってるし。
「そりゃ他人事だしね。 私も正直子どもの相手は遠慮願いたいですよ」
「あれ、そうなの?」
あんな性格なもんだからてっきり、水蜜も子ども好きだと思っていたのに。
「食料以外の意味で子どもが好きな妖怪なんて、多くないですよ」
「それもそうだろうけどさー」
「でも……」
そう断ってから、水蜜は再び警備のために歩き出し、口を開く。
「アレだけ多いと別ですが、子どもも案外かわいいもんですよ。 特に自分のはね」
「ん? 自分のはって……え!?」
「あっはっはっは。 まあ、ぬえは優しいし、その内わかりますよー」
「ちょっ、待ちなさいよ水蜜! どういう意味よそれ……とそれも!」
答えの代りに親指を立てられた。
なにそれ、またグッドネームってこと!?
私が動揺している内に、水蜜は廊下の角に消えてしまった。
「子ども作ればわかるって言ったってさー……」
水蜜はそんなこと言ってない気もするけれど、そう言ったも同然だろう。
雑巾を探し当てた私は託児部屋に帰りながら、水蜜の言葉の意味を考え続けた。
「まず、相手がいないよ……」
この世に誕生してから恋なんてしたことはない。
知り合いに男性もいない。
あ、雲山はノーカン。
「どっかに正体不明の色男でも落ちてないかしらねー……」
恋人と仲睦まじく過ごす自分を想像して、また一つ腑に落ちない点が増えた。
「子どもができたら、夫婦関係とかどうなるんだろう」
別に、子どもと夫を平等に愛する自信がないとかそういうわけじゃない。
ただ夫との時間が減るのは、損なんじゃないかと思っただけだ。
いつの間にか、結婚する気になった私が託児部屋に戻ると、またうるさい声が聞こえてきた。
ただし、今度は今までとは質の違うものだった。
「んー! んー!」
「なんだこいつ、鼠かよ!?」
「うわ、バッチぃ!」
預かった子どもたちの中でも、悪目立ちする悪ガキ二人が、ナズーリンにちょっかいをかけていた。
ただ、なんだろう。
鼠そのものに対して、恨みでもあるのか。
いじり方が尋常じゃない。
「なんだこの尻尾!」
「こいつら泥棒なんだぜ!」
感度の高いらしい尻尾を無理やり引っ張るわ、蹴るわ殴るわ。
あれ、これ苛めってやつ?
「ちょ、こらやめなさい!」
割って入って止めようとするも。
「だってこいつら米を食い荒らすんだって父ちゃんが言ってた」
「病気も持ってくるんだぞ!」
「う、この……」
生意気にも、頭を使って反論してくる。
かわいいなんてうそでしょ、水蜜。
やっぱり子どもなんて、うるさくてバカで、容赦がなくて面倒くさいだけだ。
少しばかりボロボロになったナズーリンが走り寄ってきた。
ちょっぴり涙目になっているだけな辺り、やっぱり強い子らしい。
「アンタたち。 ナズーリンは確かに鼠だけど、絶対に泥棒なんてしないよ!」
「えー」
「だって鼠だろー」
ダメだ。
弱い者いじめというわけはなく、区別がつけられないだけなんだろうけど。
「とにかくいじめちゃだめなんだってば」
「なんだよ、鼠に味方するのかよ」
「あっち行こうぜ」
「部屋から出るんじゃないよ!」
どうやら興が冷めたらしく、大人しく去ってくれた。
ナズーリンに怪我がないか、慌ててよく調べる。
かすり傷だらけで、大したことはないようだ。
「はあ、災難だったね、ナズーリン」
「……う、うー……!」
「ん?」
緊張が切れたのか、ナズーリンの目に大粒の涙が浮かんだ。
あ、ヤバいと思った時にはもう遅かった。
「ううぅうー……!」
声の大洪水。
そう言った方が正しいかもしれない。
他の子がもらい泣きしないように、あわてて抱きしめてやる。
「あーもう、ほら泣かない。 星が心配するでしょ……」
幸いまだ、泣いてる奴はいないが、泣きやんでくれるに越したことはない。
「うん、そうだね、悔しかったんだよね。 ほら、もう苛めないから、ね」
「う、うー、っく、ひっく」
私の服が伸びるくらいに肩をしっかりと掴んで、ようやく顔をぐしゃぐしゃにして涙を止めようとする。
まあ、知り合いの子みたいなもんだからかもしれないけれど。
ナズーリンは、可愛いかもしれない。
「やーい、泣き虫毛虫ー!」
ああいう子どもはごめんだけどね!
ようやく講釈が終わり、親御さんたちが続々と託児部屋を訪れ、子どもを引き取っていった。
小便垂れの母親は息子の頭を叩いてお礼を言いながら、落書き小僧の父親は必死に謝りながらと、彼らは色々な顔をして去っていく。
悪ガキ兄弟の両親はやはり米屋らしく、鼠退治をしたという子どもたちに流石に強くは言えないのか、ナズーリンに飴だけあげて、謝って帰っていった。
「もう悪さするなよ鼠ー!」
「むぅ……!」
最後にはナズーリンも仕返しとばかりに二人を必死に睨んでいたが、大した効果はなかったようだ。
兄弟は意気揚々と託児部屋から去っていった。
まあ当然、ナズーリンの怪我には星と聖もすぐに気付いたわけで。
「ナズちゃん大丈夫!? 痛くない!?」
「転んだのですか!? ああ、それともいじめられたとか!?」
「ん……」
想像していた通りの心配をしてくれた。
あんたたちもう結婚しちゃえばいいのに。
「そうか、蹴り返してやったんですね」
「ん!」
嘘をつけ。
散々泣いてたくせに……。
名誉のために黙ってやるけどさ。
「でも、ケンカはダメよ」
絆創膏を貼った傷を撫でながら、聖がナズを嗜める。
「やっぱり仲良しが一番だもの」
「そうですね……でも、よくやりましたよ、ナズ」
「……」
星に髪がぐしゃぐしゃにされるぐらいに頭を撫でられてご満悦のナズーリンを見ながら、私は考える。
(本当に、人妖の平等なんて実現できるのかな……)
今日の悪ガキなんかを見ていると、到底不可能なようにも思えてくる。
元人間の聖には悪いが、人間は醜悪な本能の持ち主だと、私は思う。
その最たる例が子どもだとも。
ああいうのを何度も見てきたはずの聖は、どうして人妖の平等が可能だなんて思うのだろうか。
「聖」
「はぁい?」
「あのさ……」
疑問を口にしようとしたけれど、できなかった。
この程度の疑問、彼女も散々考え続けたんだろう。
そして、その結果今の聖が、命蓮寺がある。
そう考えるなら、私の疑問は大したものじゃないはずだ。
「なんでもない」
「……? 変なぬえちゃんね」
「ん!」
「もう変でいいよ……」
「白蓮様ー! 毘沙門天様ー!」
羽に手を伸ばしてきたナズーリンとじゃれつこうとした時、入口の方から今日最も印象深かった声が聞こえてきた。
悪ガキどもの、両親の米屋夫婦だ。
一輪に案内されて居間にやってきた彼らは、顔面蒼白だった。
「ああ、毘沙門天様お助けください!」
「一体何があったのですか?」
「それが、それが!」
「はい、まずは落ち着いて……ゆっくりと、話してください」
星が米屋から要件を聞き出そうとし、聖がそれをフォローする。
本当に、夫婦みたいだ。
「実は……」
それなりに冷静さを取り戻したらしい米屋夫婦が言うには、あの兄弟が突然いなくなったらしい。
「今日、そちらのお嬢さんを、その……退治した、とかで」
「ああ、いえ……子供のやることですし」
『ナズ』の事となると見境がなくなる星も、ここまで憔悴しきった二人に起こる気にはなれないようだ。
米屋は誠意が足りないと思ったのか、土下座までし始めた。
「本当に申し訳ありませんでした! ですが、どうか、どうかあのバカ二人を探すのをお手伝いしてくれませんか!」
「気が大きくなったみたいで、里の外に出たかもしれなくて! 夜は凶暴な妖怪ばかり出るのに……!」
どうやら、ここまでは慧音に送ってもらったらしい。
その彼女は、命蓮寺につくなり竹林に向かったようだ。
「わかりました、ですから頭を上げてください」
「ありがとう! ありがとうございます!」
星がもういいって言っているのに、米屋は何度も頭を下げている。
あの悪ガキ二人も、大人になったらこうなるのだろうか。
そう考えると、人間はやはり寂しい。
「って、何を考えてるんだ私は……」
「ぬえ?」
「う?」
子どもに慣れきってしまったことに苦悩する私を、星とナズーリンが不思議そうに見ていた。
いや、違う。
ナズーリンは私を見ていない。
外を、暗闇を見つめている。
胸元が、光っているように見えた。
「ん!」
胸のペンデュラムが青い光を放った直後、ナズーリンはとてつもない速度で命蓮寺を出ていってしまった。
流石は、小さくなっても毘沙門天の弟子と言ったところか。
呆然とする私と米屋。
「ナズ!」
「ナズちゃん!」
叫んでも、動かなかった星と聖は偉いと思う。
ここで二人が行ってしまっては、米屋も途方に暮れてしまうだろうから。
「ぬえ! ナズを、お願いします!」
「ぬえちゃん!」
「あーもう、わかったわよ!」
だからって、正体不明がウリの私に探せって、無茶を言わないでよね。
探すけどさ!
ようやく寒気も去った夜空を飛翔すれば、あの青い光を見つけることは容易かった。
「博麗神社の方向……?」
なんか埋蔵金でも見つかったのだろうか。
そうなんだとすれば、霊夢は大喜びなんだろうけど、あいにくそれどころじゃない。
「すごい妖気……」
人里から博麗神社へ至る道には、妖怪が数多くいると聞いたが、これほどとは思いもしなかった。
素早さこそ健在とはいえ、普段よりも何割も力が落ちているナズーリンでは、低級妖怪相手でも大怪我しかねない。
(その前に、見つけなきゃ!)
私の、大事な仲間。
ただそれ以上に、あの泣き虫を守ってあげなければという気持ちの方が、何倍も強かったのが不思議だった。
これが、母親の心情なのだろうか。
しばらく飛んでいると、ようやく覚えのある小さな妖気を感知した。
暗闇に慣れてきた目をよくこらせば、すぐにナズーリンは見つかった。
だが。
「アレって……」
悪ガキ兄弟か。
まさか、子ども二人だけであの道を通ってきたのか。
大した度胸だが、妖怪退治以外に使い道はないのだろうか。
そんな思いはすぐに吹き飛んだ。
妖怪が、彼らのすぐ近くにいた。
子どもたちは脅えているようで、ナズはその前に立って両手を広げていた。
「え、なんで……そんな奴らを守ってるのよ」
その二人にはあんなにいじめられたのに。
すぐにでもナズーリンに寄っていきたかったが、少し興味が湧いたので、近寄って様子を見てみることにした。
姿と気配を正体不明にし、ゆっくりと近づいていく。
その内に、声が聞こえてきた。
「あなたは、食べられる鼠?」
「んーん」
妖怪は、今のナズーリンよりも少しばかり年上に見える姿をしていた。
白髪に、青いリボンが独特の不気味さを感じさせる。
「じゃあ、どいて」
「ひっ!」
「く、来るなっ!」
妖怪が一歩近づくごとに、兄弟の震えが増していく。
ざまあみろ、という気分には、なぜかなれなかった。
(……私まで、おかしくなったの?)
今にも飛び出したくなる。
飛び出して、あの妖怪を吹き飛ばしたくなる。
あの三人を、守るために。
(なんで、ナズーリンだけ助ければいいのに)
そのまま知らんぷりすればいいのに。
アレだけ、子どもは苦手だって思ってたのに。
「ん!」
「あれ?」
ナズーリンが後ずさり、動かない意思を示していた。
妖怪の顔が不機嫌なものに変わる。
「むー、邪魔!」
「……!」
予想以上に、妖怪の腕力は強いらしい。
ナズーリンは地に叩きつけられた。
「久しぶりの食事かなー……」
「あ、ああああああ……」
兄弟は、足をがくがくさせて後ろへと下がっていく。
だが妖怪にどんどんと距離を詰められていく。
突然、妖怪の姿が見えなくなった。
(転んだ……?)
足をひっかけたらしいナズーリンは、倒れたまま満足そうな顔をしていた。
起き上った妖怪は、もう我慢の限界に達したようだ。
「なんで邪魔するのー!」
ドスン、と足でナズーリンの背中を踏みつける。
とてつもない力らしく、小さな体が少し弾む。
「……ぁ」
「あぁ?」
「ごしゅじんと、ままがいってた……」
あの子は、まさか。
まさか聖と星の理想を、理解していたのか。
人と妖怪が手を取り合うために必要なことを。
だからあの時も、あえて手を出さなかった。
だから、こうして二人を守るのか。
「ママだかなんだか知らないから、邪魔っしないでっ!」
ナズーリンを思い切り蹴り飛ばした妖怪は、とどめを刺すつもりのようだ。
殺傷力の高そうな爪がどんどん伸びていく。
もう見ていられなくなって、飛び出そうとした私は、さらに現れた二つの影に目を疑った。
あの悪ガキが、鼠を心底恨んだ兄弟がナズーリンを守るように、妖怪の前に立ちふさがった。
「……なに? 食べられに来たの?」
「ち、ちがう!」
「鼠にまもられたままなんて、くやしいだけだ!」
(……意地っ張りめ)
やっぱり、区別がつかないだけだったのか。
「なんで? 妖怪なんて退治してやるって言ってたじゃん」
「と、父ちゃんがさっき!」
「弱い者いじめなんかするなって言った!」
「だから強いやつを倒すんだ!」
「バーカ」
ああ、本当に大馬鹿だ。
突然妖怪の背後に現れた私を見る、大間抜けな驚き顔二つ。
やっぱり子どもはバカで、しょうもないが。
多少は見るところ、あるのかしらね。
「なにを呆けて……」
「はーい、後ろをご覧ください」
「!?」
ようやく私に気付いたみたいだけど、もう遅いわ。
あなたの小さな泣きぼくろがわかるくらい近いところにいたというのに、気付かないなんてね。
「あ、ん、た……!?」
どうやら驚きすぎて声が出ないようだ。
いいねえ、その顔。
「驚かせ甲斐があるよ、本当。 残念なのはアンタが妖怪だってことと……」
悪ガキ二人がナズーリンをひきずって離れようとしているのを確認した私は、三又の槍を取り出して刀のように構える。
そして、大きく振りかぶる。
「アンタがウチのガキどもに手を出したってこと、だ、よ!」
「ぶっ……!?」
妖怪の脇腹にクリーンヒットした槍をさらに横に薙ぐ。
「あああああああああああ!」
「ま、運が悪かったってことで、ね!」
「ぎにゃああああああああああああ!?」
ホームラン。
そのまま妖怪は夜空の彼方へ吹き飛んで行った。
ご愁傷さん。
「さて、と」
顔を向けると、兄弟はビクッと体を震わせた。
まあ、そりゃ怒りますけどね。
「んー……どうしよっかなー」
一歩一歩、さっきの妖怪みたいに近づいていく。
ナズーリン、そんな目で睨まないでってば。
大したことはしないよ。
「とりあえず、何心配かけてんの!」
「あだ!?」
「ぶ!?」
頭にダブル拳骨。
名付けてぬえ流げんこつスマッシュ。
そのままグリグリへ移行する。
「こんなところまで来て! 迷惑までかけて!」
「あだだだだだだだ」
「ごめん! ごめんなーさーいー!」
まあ、でも。
「ナズーリンを守ったのは、よくやった!」
流石にこの状態から頭を撫でるのは酷なので、両腕に抱きしめるだけで済ませる。
これには兄弟も驚いたようで、目を白黒させている。
いいね、その顔。
「アンタらが原因とはいえ、がんばったね」
そう、声をかけてやると、二人の目は黒で固定されて。
あ、ヤバ、と思った瞬間にはやっぱり遅くて。
声の大洪水が、起こった。
しかも当社比二倍。
「ほら、怖かったのはわかったから! ナズーリンも手当てしなきゃならないから、離して、ね!?」
結局そう言わなければ、服を掴んだ手を離してくれなかったんじゃないかと思う。
その後、応急手当を施した後ナズーリンを背負った私と共に命蓮寺に戻った兄弟は、やはり父親に拳骨されて、でも笑顔で帰って行った。
ああ、当然ナズーリンも、一輪に拳骨された。
また泣き出さないかヒヤヒヤしたが、少しばかり強くなったみたいで。
我慢して、星に褒められていたよ。
ちゃんと事情を説明すれば、聖にも。
そして数日後、再び講釈の日がやってきたのだけれど。
どうして、私の上にナズーリンが載っているのだろう。
「む!」
「ナズすげー!」
「羽の姉ちゃんを倒したー!」
「アンタらねえ……」
すっかり仲良くなったのは良いけどさあ……。
「暴れるなっつーに!」
「姉ちゃんがまた怒ったぞー!」
「ん!?」
そして、追いかけっこが始まる。
「この、絶対拳骨してやる!」
「だー、ナズ助けろー!」
「ん!」
「おおう!?」
相も変わらずうるさい託児部屋。
変わったことと言えば、私も一緒になって笑えるようになったことくらいか。
あと、ナズーリンが大分やんちゃになりました。
また足をひっかけられましたよ。
ええ、本日二度目ですよ……。
「だあ!?」
そのままバランスを崩し、再び腹を下にして地に伏せる私。
その上に乗ってくるナズーリンと、悪ガキ二人。
「つえー!」
「ネズは俺らの『りいだあ』だな!」
「?」
「俺らの中で一番えらいんだぞ!」
「姉ちゃんよりえらいんだぞ!」
「……」
あの、ナズーリン、どうして私を見降ろしてるんでしょうか。
降りてくださいませんか?
「むん!」
「ポーズを、とるなー!」
キャーキャーだのぎゃあぎゃあだの。
前よりはだいぶ可愛いって思えるようにはなったけど。
でも!
「やっぱり、子どもは苦手だ……」
「ん?」
うん、特にアンタみたいなやんちゃなやつね。
子供ができると逆に一緒に居られる時間が増えるのですよ。
ということなので、ぬえ……私でよければどうでしょうか?
ロリっ気刺激されて、本当に可愛いですわw
次回作期待してまってます!