「ふぁ~、よく寝たわ」
レミリアがベットの上で、喉の奥が見えるまで大あくび。
髪は寝ぐせでボサボサ、寝起きで目もまだ完全には開いてない。
眠そうにパチパチとまばたきを繰り返し、そしてキョロキョロと辺りを見渡す。
「まったく、主人の起床時に居ないなんて駄目な奴……」
誰も居ないのを確認したレミリアは大きく溜息を付く。
そしてまたキョロキョロと辺りを見渡す、
「うげ、寝坊しちゃったのかしら」
と、驚嘆の声を上げる、
壁に掛かってる時計の針は、すでに正午を指していた。
もう完全にお昼の時間帯。
「誰も主人を起こしに来ないなんて、どういう事よ……」
レミリアはさらに呆れて、大きく息を吐き出す。
そしてまた、自分の周りをチラチラと見渡すと、布団や服が引っ張られて乱れた跡がある。
一応、誰かが起こしには来ていたようだ。
「……くそぉダメイドめ。仕方ない、パチェの所にでも行こうかな。あいつはどこにもいかないだろうし」
チッ、と悪態を付くように、レミリアは舌打ちし、「う~ん」と大きく背筋を伸ばした。
そして、寝ぐせでいろんな方向に爆発してる髪を軽くセットし、テクテクとパチュリーのいる図書館へと歩いていった。
「本当に咲夜は駄目なメイドだよ」
レミリアが、目の前で黙々と鎮座するパチュリーにさっそく愚痴を漏らす。
ここは紅魔館の埃っぽい図書館。
机の上には、淹れられたばかりの紅茶が美味しそうに湯気を立てている。
「ちょっとパチェ。私の話聞いてるの? さっきから顔を下に向けてるけど」
「はいはい、聞いてるわよ」
パチュリーはレミリアに目を合わせようとせず、持っている本をゆっくりと捲っていく。
一応、レミリアの話を耳に入れているようだが、本を眺める方が大切なようである。
「たまに紅茶に変なものを入れて苦くしちゃうし。主人の飲み物をなんだと思っていたのかしら。それに比べて貴方のは司書は優秀だわ」
「駄目よ、小悪魔は私のなんだから」
「安心しなさい、友達の彼女を奪ったりはしないわ。何されるか分かったもんじゃないしね」
レミリアはおちょくるように笑い、紅茶を一口飲んだ。
ほどよい苦さがレミリアの口に広がっていく。
「それに比べて咲夜は、主人の寝顔を愉しそうに見に来たし、ベタベタと暑苦しく擦り寄って来たし」
「貴方たちのノロケ話なんて、聞きたくないわよ」
「あら、羨ましいの?」
「そんなわけないでしょまったく」
ニヤニヤとするレミリアに対し、パチュリーは相変わらず無表情で本を眺め続ける。
が、次の瞬間パチュリーは溜息を付き、ゆっくりと口を開きだす。
「しかし咲夜らしいわね。本当に面白い人間」
「笑い事じゃないよ、勝手に時を止めて私の部屋に入って来た事もあるんだからね」
レミリアは咲夜が自分の部屋に何故か居て、しかもグッと親指を立ててたときの事を思い出し、
「あの時の咲夜の清清しいまでの笑顔は忘れられないよ」
と一言呟き、軽く口を歪め苦笑の表情を作った。
パチュリーもその時の咲夜の顔を想像し顔を緩める。
そしてレミリアはまた、あのメイドへの愚痴を吐き出す。
「霊夢や魔理沙にボムをプレゼントした事もあったっけ。永遠亭に乗り込んだときは最弱だったし」
「本当に、あのときの咲夜はやる気なかったわね。なんでか知ってるの?」
「満月でギンギンになってる私を見たいとか、変な事言ってたんだよねあいつ……」
レミリアが呟くと、今まで淡々としてたパチュリーがクスリと笑い出す。
ギンギンになったレミリアなんて、想像も出来ない。
そう言いたげに、パチュリーはクスクスと静かに笑った。
「鬼が来たときの咲夜は、結構強かったんだけどねぇ。人間の癖に格闘センスあるからなあいつ」
レミリアは、魔女の嘲笑を無視して、さらに愚痴を続けた。
萃香が来たときの事を思い出したパチュリーは、レミリアに一言告げる。
「『ヒャッハー! あの駄目主人に下克上できるぜ!』って楽しそうにしてたわよ咲夜」
「本当にそんな事言ってたのあいつ?」
「嘘よ、安心して。『ヒーハー!日頃の鬱憤を晴らすぞ!セクハラもやりたい放題!』とは言ってたけど」
パチュリーの嘘か本当かわからない言葉に、レミリアは怪訝な顔をした。
咲夜なら言いそうって疑える所が、また怖い所である。
パチュリーも、顔色を特に変えないから、言ってる事が嘘か本当かわからない。
これ以上聞いても無駄だと感じたレミリアは、さらに愚痴を続けた。
「あのアホ天人が襲来した時は、なぜか夕飯が鰻ばっかりになって大変だったなぁ」
「無駄に暴走してたわよね、あのときの咲夜」
「パチェも充分暴走してたけどね。犯人勘違いして赤っ恥掻いてたし」
「うるさいっ」
パチュリーはギラりと睨み殺すように、レミリアに視線を浴びせた。
しかしレミリアは特に萎縮はせず、馬鹿にするようにケラケラと笑うだけだった。
そして、ふと感傷に耽るように天井を眺める。
「今頃は咲夜は、美鈴と一緒に楽しんでるんだろうね。ああ、妬ましいよ」
「貴方もいきたかったのレミィ?」
「ふん、そんわけないでしょ。ぐっすり眠れて満足してるよ」
とレミリアは言ったが、時折目をパチパチとまばたきをさせている。
やせ我慢なのをわかってるパチュリーだったが、レミリアの事を馬鹿にはしなかった。
そしてまた本をゆったりと眺める。
「フランも咲夜のいう事は、まだ聞くのよね。私の言う事はまったく聞かない癖に」
「信頼度の差ね、仕方ないわ」
「ふん、愛されてるからいいんだよ」
淡々と咲夜との差を告げるパチュリー。
それに対してレミリアは、キッパリと言い訳をするだけであった。
「まぁなんにせよ。主人に気を遣わない、駄目なメイドだよ咲夜は」
さらに愚痴を吐き続けるレミリアに、パチュリーは本を見るのをやめて顔を上げた。
そして、一言質問を告げる。
「それで? なんで今日は私の所に来たの?」
「単なる暇つぶしだよ」
「まったく、暇なのは自分の所為じゃない」
「そうだけどさぁ」
パチュリーが責めるように言うと、レミリアがションボリと顔を伏せる。
そして、頼みごとをするように呟く。
「友達なら、私の暇つぶしくらい付き合ってくれてもいいだろ」
「今日は予定があったんじゃないの?」
「いや、うん……。うるさいよパチェ」
レミリアが口を濁らす。
続きの言葉を喋るのを、躊躇っている様子である。
パチュリーも特にそれ以上詮索する事はなく、
「自分が悪いんじゃないの」
と、一言嫌味を発するだけだった。
レミリアも、そんなパチュリーの言葉に反論はしなかった。
代わりに、自分の話を、
「……昨日の夜ね、眠れなかったんだよ私」
と誰に言うでもなく、独り言のように呟いた。
パチュリーも、横槍を入れるようなマネはせず、じっとレミリアを見つめる。
「今日は何をしようかとか、みんなと何を楽しもうかとか。そんな事をと考えてたら、寝付けなかったのよね」
そのレミリアの独り言のような語りを、パチュリーは黙って聞いていた。
そして、一言尋ねる。
「置いてかれて寂しいのレミィ?」
「……」
パチュリーの問いに、レミリアは何も答えない。
代わりに、つまらなそうな顔をするだけだった。
「素直じゃないんだからまったく」
「ふん、パチェと話してるだけで楽しいよ」
「お世辞として受け取っておくわ」
パチュリーが呆れたように小さく息を吐く。
すると、レミリアは子供の様に不貞腐れる。
「咲夜の奴、私を裏切るんだもの」
「裏切ったわけじゃないわよ。貴方が全部悪い」
相変わらず咲夜の所為にする友人に、パチュリーはキツイ言葉を浴びせた。
するとレミリアは寂しそうに俯いてしまった。
そんな夜の王を見て、パチュリーは天井を眺めながら一言呟く、
「咲夜もこの太陽が照り付ける空で、きっと美鈴と一緒に笑っているわよ」
パチュリーは持っていたアルバムを閉じてさらに嫌味を続けるが、やっぱりレミリアは何も喋らなかった。
代わりに、目が潤みだす、
「ちくしょう、ちくしょうぅ」
涙が頬を伝わり、テーブルへと落ちていった。
そしてレミリアは拳を握り締め、悔しさをかみ締めた。
パチュリーは、そんな友人の姿を黙ってみている。
「私を置いて勝手にいきやがって……」
今は紅魔館にいない咲夜達へ、レミリアはただただ、空に向かって愚痴を漏らすだけだった。
「私を置いて、みんなで天界にピクニックなんか行きやがってあんにゃろうめ!」
「だっていくら叩いても起きないんだもの貴方。夜更かしなんかするから悪い」
「ピクニックの前夜は寝付けないって約束ごとでしょうが。あのダメイドめ、ちゃんと私を起してよっ。ちくしょー!」
「子供なんだからレミィは。フランはキチンと起きたというのに」
「うるさいよっ。みんな裏切り者だっ! ぎゃおー! ぎゃおー! ぎゃおー!」
「まぁまぁ、咲夜がくれたアルバムでも見て落ち着きなさい」
「私の寝顔じゃないかこれ! 写真撮ってる暇があるならちゃんと起こせあのダメイド! あ、くそフランの奴ピースしやがって、あいつもちゃんと姉を敬うって事を――」
誤字報告本当にありがとうございます
修正させて頂きました
これはひどすぎる……。
いつも本当に誤字報告すいません。
修正させていただきます。
親指たてるメイド長、むしろ清々しい!!
しかし咲夜さんフリーダムすぎるwww
スマキにして引きずって行かれなかっただけよかったんじゃないのか? この咲夜さんならやりそうだ。
直りきってないやつ残しときますね。
「淡々の咲夜との差を告げるパチュリー。」淡々と
あとがきで「あいつ今頃パチュリーの愚痴を漏らしてるだろうな~」パチュリーに愚痴を
誤字報告本当にありがとうございます。
修正させていただきます。
うぐ、騙せなかったようですね。無念です。
妖々夢であんだけ強かったのにおかしいと思ってたんだ。
安心した。
天界のピクニック楽しそうでいいなw
ほのぼのオチで一安心した。