秋
山々ではさまざまな色の葉を枝にぶら下げ散らしていく姿は桜とは違うが、またこれも日本の風物詩と言える。
そして、農村では一番忙しい季節。一年の実りを心待ちにした人々が忙しそうに稲を刈り、果物を採る姿も日本の風物詩と言える。
ここ妖怪の山にて、ある二人の少女が紅葉が降り落ちる森の中で石に座り話をしている。
「どうやったら信仰って…集まるのかしら」
「穣子…その言葉今日だけで18回目よ」
ここは幻想郷…
人や妖精、妖怪に幽霊だけでなく神様も住むちょっと…いや、かなり変わった世界だ。
そんな世界で神として居座っている姉妹がいる
紅葉を司りし神“秋静葉”と豊穣を司りし神“秋穣子”
どちらも八百万の神の一柱なのだが、二人には大きな悩みがあった。
それは、先ほどの二人の会話から聞いて分かる通り、自分たちに対する人間の信仰が低いということだ。
「まったく、神様がそんなこと気にしていたら人間に笑われるわよ」
「でもどうせなら信仰は多ければ多いほど良いじゃない」
「…まあ、そうだけど」
最近は昔に比べると信仰は上がった方だ。
だが、やはり信仰は多ければ多いほどよい、というのが穣子の意見のようだ。
「でも、信仰を集めるとなると…具体的に何をしたらいいのかしら」
「私たちの存在を知らしめるとか」
「…どうやってよ」
穣子は難しそうな顔をしていたが、どうやら案が浮かんだらしく明るい顔になった。
「じゃあ、天狗に私たちの記事を書いてもらうとか」
「却下」
「え~なんでよ~」
神の無慈悲な答えにもう一方の神は不服そうな顔を見せた。
「あれにそんなことをしたらネタにされたあげく、おかしな着色されて終わりよ…せっかく増えてきた信仰を無駄にするだけになるわ」
「う~ん…そうかなぁ…」
と言ってはいるが、どうもまだ腑に落ちないようだ…
だが、またすぐに明るい顔に戻った。
その顔を見てなんだか嫌な予感がしてならない静葉はとりあえず様子を見ることにした。
「なら、キャンペーンでもしてみる?」
「…キャンペーン?」
「そうよ!それで私たちの信仰は鯉昇りよ!」
キャンペーンって何だとか、それって鰻昇りなんじゃ…とか色々思ったが、内容の方を聞いてみることにした。
「それって具体的に何をするの?」
「100回私たちの為に祈ってくれたらお米とお芋のプレゼント!」
「…それってどうやって把握しとくのよ」
「そこは…ほら私たちって神様だし」
妹のよく分からない自信に色々と突っ込みたくなる衝動を抑え、一番気になった点について聞いてみた。
「ところで穣子…“紅葉”は?」
…え?
「“紅葉”?」
「そうよ!秋と言えば“紅葉”でしょう?」
あの…静葉さん?
「“紅葉”の無い秋なんて秋じゃないわ!」
言わんとしてることは分かりますが…
「姉さん、結局のところは人間は物じゃないと釣れないのよ?」
「ふっ…分かって無いわね穣子…人間は本当に美しい物を見た時こそ、かけがえの無い物を得ることが出来るのよ」
あの…ナレーションが突っ込みッてどうなんですか?
「姉さんこそ分かって無いわ!秋と言えば“実り”!これしかないでしょう!」
「人々が求めているのは心の安息!“紅葉”により人々の心を癒す事こそ、真の秋の姿よ!」
あの…
「分かって無いのは姉さんじゃない!」
「何を言っているの!?分かって無いのは穣子!あなたの方よ!」
…ド――――――ン!!!!!m9
その時、どこからともなく大きな音がした。
驚いた二人は辺りを見回した後、顔を見合わせた。
「今の…何?」
「さあ…何かしらね…ところで、何の話をしてたかしら…」
「もう、忘れたの?私たちの信仰をどうやって集めるかでしょ」
妹の言葉に何か忘れているような気がしたが…思い出せない静葉だった。
「そう…だったわね…何か思いつく?」
「う~…ん」
このままでは変なことを言い出すと思っ…いや、確信した静葉は先に提案を出すことにした。
「私たちは神様なんだから、自分にしかできない物ってあるでしょ?」
「そうだけど…」
「なら、それをするしかないんだと思うけど」
というか…
実際のところは今まで通りで大丈夫という姉のメッセージを込めた提案なのだが…
どうやら、妹は別にとらえてしまったようで…
「そうね!なら今年はもっと頑張ってみるわ!」
どこかで見たような明るい顔をして答えた。
「…そう、まあ頑張りなさい」
その笑顔にどことなく不安を抱く静葉だった。
数日後
秋空に高速で飛び交う影があった。
「号外!号外だよ!」
烏天狗の“射命丸 文”だった。
どうやら号外を出すほどの事件でもあったようだが、彼女はどうでもいいようなことでも号外で出してしまうので正直当てにならない。
そして、それは幻想郷中に配られる。
当然のごとく秋静葉にも号外が落ちてきた。
その記事にはこう書いてあった。
『~人里の畑にて巨大な作物が!?~
人里の畑より大人と同じ位の大きさの野菜や果物が発見された。畑の持ち主に話を聞いたところ、今年は同じ様な作物が他の畑でも採れていると言う。何かの呪と言う者も出て来ており、今度博麗神社に御祓いに里の者全員で行くようだ。なお~』
それを見た瞬間犯人が誰なのか一発で分かった。
後ろから誰か走って来る音が聞こえる…
振り向くと穣子がとても良い笑顔で走ってくる。
その手には自分の持つ新聞と全く同じ様な紙質の物を持っていた…
静葉は溜息を吐くしか出来なかった。
神としての威厳が欠片も無いのがステキw
それに、言ってる事や、やってる事の間抜けさとスケールの小ささがたまらないw