私が博麗の巫女となり、最初の異変を解決してからどれくらいの年月が過ぎたんだろう。
最近、そんなことばかり考えていた。
「ねえ」
目の前にいた奴に、声をかけた。
返事が返ってくることなど、ないはずなのに。
でも、なんだか誰かと急に話したくなったのだから、仕方がない。
「少し、無駄話に付き合ってもらうわよ」
わずかに首肯を返されたような、気がした。
あくまで気だが、博麗の直感とはバカにならない。
もしかしたら、ちょっとした気まぐれでも起こしてくれたのかもしれない。
「最初はやっぱり、あなたとの始まりからよね」
妙な連中に神社を壊されて、無我夢中で異界まで急いだのをよく覚えている。
「よく考えてみれば、神社壊されすぎじゃないかしら?」
お疲れ様、ありがとう。
そんな意味も込めて付近の床を撫でていると、チクリ、とした痛みを感じた。
「……今度、大掃除してあげるわ」
どうやら棘が飛び出ていたらしい。
しかし、改めて思い出してみれば、私はあの時ハイレベルな連中に勝利したのではないだろうか。
後に再会してしまった悪霊を除けば、天使に童子やら、地獄の月と修行もろくにしなかった頃の私にしてみれば、大健闘だったのではないか。
ああ、なんかすっごい目玉が多いやつもいたかしら。
「ま、それもこれもあなたのおかげかしらね……」
戦う手段が限られていたあの異変は、協力なくしては解決できなかっただろう。
そっと抱き上げ、そして抱きしめる。
「あなたがいなかったら今頃私は……いえ、なんでもないわ」
少し、鬱な方向に思考が傾いてしまったようだ。
「メルランの演奏でも今度聞いてみようかしらね」
気を紛らわすために拘束をゆるめて、次の異変の詳細を思い出すことにした。
神社が幽霊に占拠されて、最後に待っていた悪霊をとっちめた。
魔理沙とはじめて戦った。
玄爺がいなくても、飛べるようになった。
異世界から怪しい連中がやってきた。
夢幻世界との境界線に押し入った。
魔界に直接乗り込んで、神様をボコボコにした。
そして、また少し時が置かれ、新たな戦いが始まった。
「まずは、あのわがまま吸血鬼の紅霧異変」
夏だっていうのに寒いことにイラついてパッパと解決しに飛び出した。
紅霧の発信源は、すぐに特定できた。
血染めの館の主と、その従者たち。
妙にプライドの高いやつらだな、と最初は思った。
でも。
「レミリアはレミリアなりに、責任を果たそうとしているのかしらね」
そして、従者たちはレミリアを全力で支えているのだろう。
客人らしい、好き嫌いが激しい魔女でさえも、レミリアのことを気にかけていた。
それだけの魅力が、あいつにはあるということなんだろうけれど、時折無性に羨ましくなってしまう。
私には、それだけのことをしてくれる人たちはつい最近までいなかったのだから。
夏が終わり、冬も明ける頃、七度目の異変が起こった。
春泥棒が出没し、季節が停滞した。
敵だった咲夜が異変解決に向かっていたこともそうだが、白玉楼の主従に勝利した後に、妖怪の賢者と本気の勝負をすることになったのも予想外だった。
もしかしたら、アイツは本気じゃなかったのかもしれない。
だとしても。
「うあー! ムカツクっ!」
あまりの強さに、私は何度も撃墜されてしまった。
今でもあの弾幕は夢に見るくらいだ。
「今度永琳に胡蝶夢丸もらおうかしら……」
その薬師がその後の異変にも一枚噛んでいたり、その前に何度も宴会をする羽目になったり。
挙句の果てには永夜異変で紫と組むことになったりと、それからしばらくは散々な目にあったことを考えると、もしかするとあの隙間妖怪は疫病神なのかもしれない。
「なんて、ね」
私のことを、なんだかんだで心配してくれているのが、たまにまるわかりなアイツを、そこまで疑ったりすることなんてできない。
その照れ屋とのタッグで挑んだ永夜異変では、不老不死なんてものが本当に存在することに驚いた。
そしてそれを境に、私自身にもある異変が起き始める。
なぜだか急に、私の周りが騒がしくなりだした気がした。
そして、あなたはいつも私と共にあった。
「正直ね」
冬の忘れ物が今季最後の力で降らせたらしい粉雪を眺めながら、ちょっとした告白をすることにした。
それは、今までずっと言えなかったこと。
「騒がれるのは厄介だって言ったけど、本当は、嬉しかった。 それだけよ」
魔界と幻想郷のつながりをシャットアウトした後、急に博麗神社に来なくなった二人がいた。
悪霊や、夢幻館の主。
一気に私の世界が縮まったような感覚を、今でもよく覚えている。
あの二人との関係を、世間ではどういうのかは知らないけれど、少なくとも私にとっては知り合い以上の存在だったから。
それが、紅霧異変をきっかけに私の世界はどんどん開けていった。
花が咲き乱れた異変では、幽香との再開、そして生きている内に閻魔と対面するという二つの奇跡を体験した。
『信仰をもっと集めろ』なんてことを突然言われても、私は特には気にしなかった。
……流石に少しは努力したけどね。
その後、映姫の説教の意味を痛感することになることを知っていたら、もうちょっとがんばっていたんだけど。
「まさか幻想郷で最も重要な場所に、営業停止命令を出すやつがいたとは思わなかったわ」
妖怪の山に突如出現したもう一つの神社。
そこに祀られた二柱に仕える風祝には、色々な意味で刺激を受けた気がする。
まあ、だからといって調子に載ってもらっても困るわけだけど。
神社が三度目、四度目の倒壊を果たした天気がおかしくなっていた異変では、色々なやつと再戦した。
みんな、強くなっていた。
私たちが少しずつ進んでいることを実感して、嬉しかったような、寂しいような想いもあったが。
「地底の異変は本当にくたびれ儲けだったわね……」
再び束縛を強めて、当時の悔しさを想起する。
ああ、ダメ。
トラウマになってしまいそう。
さとりには、本当にきちんとペットに構ってほしい。
あと、妹にも向き合ってほしい。
もしかしたら私が気づいていないだけで、さとりは最初から、目をそらしていないのかもしれない。
むしろ、そらしているのは妹の方なのだろうか。
その後、早苗に負けたこともあった。
なんでも異変らしきものがあったらしく、それに気付なかったことで二重にダメージを受けてしまった。
「宝船を発見したのも、あの子が先だったし……ぼやぼやしてると追い抜かされるわね」
その恐ろしい子や、魔理沙とともに向かった宝船で、私は二度目の魔界来訪を果たした。
私も強くなった。
あなたは、ずっと変わらない。
「本当、毎日毎日疲れるわよ」
あなたと、お茶と神社だけだった世界。
私にはそれだけで十分だというのに。
粉雪を見て、おセンチな気分になってしまったのかもしれない。
無性に寂しくなってきた。
「なんでかなぁ……」
あなたを、強くきつく抱きしめ続ける。
「ごめん、私、やっぱりわがままね。 あなたがいるのに、物足りなくなっちゃう」
あなたと、私がいれば無敵だったはずなのに。
他には何もいらなかったというのに。
「誰か、来ないかな……」
広い世界は、どんどん私を欲張りにさせてしまうらしい。
来客を待つ私の足元に、あなたが転がった。
白と黒で構成された球体が、私に何かを訴えようと光を放っていた。
鍛えたり経験を積んだりで獲得できるものではない一種の才能だと思います。お大事に。
うん、いつでも一緒だったもんね。
それこそ最初ッから。
しかしどこぞの毘沙門天みたいになったら面白(ry
これは素晴らしい雰囲気の作品。
良いお話をありがとう。