いつも通りお昼のシエスタを堪能していた私は、鋭い痛みを感じて目を開けた。
「あなたね~、いつになったらその居眠り癖は直るの?」
どうやらまた咲夜さんに見つかってしまったらしい。
いつも寝る場所は見つからないように工夫しているつもりなのだが、
なぜか咲夜さんには見つかってしまうのだ。なぜだろう…?
「なにを言っているんですか?咲夜さん。これは居眠りじゃないですよ」
私は頭に刺さったナイフを抜き取りつつ、一応は反論をしてみる。
まぁ無駄だろうが。自分の体がナイフで串刺しになるかどうか、やってみる価値はある!
「居眠りじゃなかったらいったい何なのよ?」
おお。意外なことに、咲夜さんは私の話(言い訳)を聞いてくれるようだ。
「もちろん、シエスタです」
シュッ!!グサッ!
「あぅ!」
やっぱり無理があったようだ。
ちなみに咲夜さん。私が耐えられるのは一日につきナイフ15本までですよ。知ってますよね。
今はギリギリ耐えていますけど、これ以上はたとえ妖怪の私でもレッドゾーンです。
「まぁ百歩譲って門の前で寝るのはまだいいでしょう」
「ほんとですか!ひゃっほ~い!!」
シュッ!!グサッグサッグサッ!
だっだから咲夜さん…。それ以上は…。
「まだ!!いいでしょう!」
「そっそうですか…」
いっいかん、目の前が霞んできた。
「私が怒ってるのは、なんで門番が門の前からいなくなっているのかってことよ!」
「そっそれは…す…みま…せ」
バッタン!
「えっ?美鈴?美鈴!?」
咲夜さんの声が急に遠くから聞こえるようになった。何でだろう?
あっ母さん。こんなとこにいたの?てっきり死んだものかと。えっ?死んでる?
はっはっはっ冗談言わないでよ。じゃあ母さんと話してる私はなんなの?ハッハッハッハ…
ハッ!
「ここはダレ?私はドコ?」
「なに古いネタしてるのよ」
気がつくと、そこは紅魔館の医療室だった。隣には咲夜さんがいる。どうやら咲夜さんが運んでくれたらしい。
後ろではこの部屋の担当をしている妖精が心配そうにこちらを伺っている。
頭がズキズキと痛むが、幸いにも致命傷にはならなかったようだ。ふ~、よかったよかった。
でも咲夜さん?前にも言いましたよね?15本以上はマジでやばいんでやめてくださいって。
しかもご丁寧にすべて頭に向かって。
「咲夜さん…。もうすこし手加減していただけませんか?」
「自業自得よ」
それもそうだが。なにも殺そうとしなくても。
「ところで、咲夜さんはなんで私のところに来たのですか?」
普段ならあの時間帯に咲夜さんは門に来ないはず。だから私はゆっくりと午後のシエスタを楽しんでいたのに。
「あぁそうそう、忘れるところだったわ。お嬢様がお呼びよ。すぐに行ったほうがいいわ」
お嬢様が?何の用だろう。
「だいぶ時間がたったからお嬢様、痺れを切らせていらっしゃるんじゃない?」
…その原因をつくった人には言われたくないな。とにもかくにも、まずはお嬢様の所へ参らねば。
「遅い」
お嬢様のお部屋へ参ると、お嬢様はひどく不機嫌そうに言った。
お嬢様はご立腹のようだ。それもそのはず。
聞けばお嬢様は、咲夜さんが私を呼びに行ってる間、一刻半以上も待たされたようだ。
「咲夜、人一人連れてくるのにいつまでかかってるの?もっと早くなさい」
「申し訳ございません、お嬢様」
「…もういいわ。ところで美鈴」
「はい、なんでしょうか」
いったい私はなぜ呼ばれたのか、心当たりを探しつつお嬢様に返事をした。
もしや、私がシエスタをしたことを咎めるつもりだろか。
…間違いない。それ以外に心当たりが無い。
まいったな~。これで解雇とかはやめていただきたい。
「…解雇は勘弁してください」
「はぁ?」
どうやら違ったらしい。は~、よかった~。
でもじゃあいったい何なんだろう?
「美鈴、あなたがなにを考えているか知らないけどひとつ頼みがあるの。聞いてくれないかしら」
「なんでしょう、私に出来ることならなんなりと」
しかし本来ならば、お嬢様の願いはメイド長である咲夜さんが叶えるはずである。
はて?いったいお嬢様は私になにを望むと言うのだろうか。
「本当?助かるわ。じゃあお願い」
「? なにをですか?」
首を傾げる私にお嬢様はこう答えた。
「美鈴、あなたが淹れた紅茶が飲みたいわ」
というわけで、私はいま博麗神社へ向かっているところだ。
なぜ博麗神社へ向かっているのかというと、お嬢様が喜びそうな茶葉を探すためである。
本当ならば、紅魔館にある紅茶でもよいかと思ったのだが…。
お嬢様が、
「いつも飲んでいるあれじゃあ面白くもなんとも無いから、なんか他の茶葉で淹れて」
とおっしゃったため、こうして茶葉を探しているのだ。
しかし、なぜ私がお嬢様に紅茶を淹れねばならないのだ?
紅茶を淹れてもらうなら咲夜さんのほうが私よりも100倍はうまく出来る。
う~む…またお嬢様はなにか企んでいらっしゃるのだろうか。
まぁ、深く考えるのは止めよう。お嬢様は幼い姿をしてはいる。
だが、500年という長い年月を生きているだけあって聡明な頭脳を持っていらっしゃる。
いつもはわがままや悪戯もするが、今日は真剣な目をしていた。
ふざけてはいない…と思う。
「あら?あなたがここに来るなんて珍しいわね」
そうこうしている間に博麗神社に到着した。
「いえ、たいした用ではないですが。すこしご助言を承りたくて」
「ふ~ん。どうしたの?」
「霊夢さんはお嬢様と仲がいいですよね?お嬢様のお好きな茶葉の種類をなにかしりま…」
シュゥン!
…なぜか知らないが霊夢さんがすごい速さで神社の方へ走っていった。
シュゥン!
あっ、また戻ってきた。
「え、えーと、こほん。わッワタシハ、コウチャノチャバノシュルイナンテシラナイワヨ~」
…なんという棒読み。ある意味で才能を感じる。
しかも紙を持ちながらセリフを言うなんて…。なにを企んでいるんだ?
「霊夢さん、何で紙を持ちながら喋っているんですか?」
「べっべつにレミリアに頼まれたとかそっそんなんじゃないからね!
それにもし頼みを聞いてくれたら三日間夕食に招待するとか、
頼みに来たときにお賽銭を50円も入れてくれたなんてことも無いから!」
…。思いっきり買収されているではないか。それでも神に仕える巫女か?それに50円って。
っていうかお嬢様、あなたはいったいなにをしていらっしゃるのですか?
まぁいいか。いつもお嬢様が来ている博麗神社ならば何か知っていると思って来ただけだ。
まさかお嬢様が先手を打ってるとは思わなかったが。
それでも、ここに何も情報が無いと分かっただけでもいいか。
「あ~そうそう。マリサノトコロニイケバ~。ナニカジョウホウガアルカモヨ~」
そんなセリフまで棒読みで読まんでもよかろうに。
魔理沙さんのところか、全然思いつきもしなかった。
てかお嬢様も、私に言いたいことなら直接言えばいいのに。
「紅茶の茶葉の種類か…知らないぜ☆」
「…話は変わりますけど、その手に持ってる紙は何ですか」
「ん?ばれた?」
「ばれるも何もさっきからあからさまに手に持ってるじゃないですか」
「そうか?それもそうだな」
魔理沙さんのところへ着くと、案の定魔理沙さんも紙を持っていた。
っていうか魔理沙さん?人の頼みごと聞く前に自分の家を片付けませんか?
「んなこたいいんだよ。こちとら魔道書がかかってんだからな。にっしっし
追記、なんか中国の妖怪だから祁門紅茶(キーマン・コウチャ)がいいんじゃない?
と書いてあるぜ」
「なんですか?祁門紅茶って」
「中国原産で三大銘茶のひとつ。『蘭の香り』に喩えられる微かなスモーキーさを漂わせ、
味わいは渋みが少なく糖蜜のような甘さを持っている。らしいぜ」
「へーそうなんですか。知りませんでした」
「おいおい、お前さんは一応中国の妖怪なんだろう」
「館ではあまり紅茶は飲まないんですよ、普段は門の前に立ってますから」
「門の前で”寝ている”の間違いじゃないのか?」
「うるさいですね。えーと…祁門紅茶でしたっけ?」
そんな紅茶聞いたこともない。本当にあるんだろうか。
「まぁ紅茶屋に行けばあるんじゃないか?」
「そうですね。ありがとうございました」
そう言い残し私は魔理沙さんの家を後にした。
さて、私はお得意の紅茶屋さんに着いた。
「おや?美鈴さんじゃないか。どうしたんだい?珍しい」
実は私は紅茶屋の店長と顔見知りなのだ。
咲夜さんが大量に購入した茶葉を紅魔館に届けに来るときによく話をする。
若いながらもおおらかな性格をしており、人当たりも良くてとてもいい人だ。
「いえ、ちょっとお嬢様にお出しする茶葉を探しているんです」
「それは大変だね。さて、お探しの茶葉は祁門紅茶でいいかい?」
「そうです…。ってなんで分かったんですか!?まだ何も言ってないのに」
「へ?あっ!い、いやぁ、なに、君が祁門紅茶の方を見ていたからもしかしたらと思ってね。じゃあ、ちょっと待ってて」
そう言い店長は店の奥に入っていった。
あの店長、なかなかやる。実はさとりだったりして。
でも、店先にいっぱい茶葉があるのになんで店の中に入っていったんだろう?
「やぁ、待たせたね!ちょうど新しい茶葉が入荷したんだ」
店長が帰ってきた。なるほど、それで店の中に入ったのか。
手には袋が提げられている。
「あっ、ありがとうございます」
私はそう言い、店長にお金を払う。
「いやいや、いつもひいきにしてくれてありがとう」
よし、これで目当ての物は手に入った。あとは紅魔館に帰るだけだ。
「いい従者を持って、あのお嬢さんも幸せだな」
「えっ?何か言いました?」
風でよく聞こえなかった。
「いやいや、君んとこのお嬢さんによろしく言っといてくれ」
「はい、わかりました」
私は紅魔館への道を急いだ。
「遅い」
「そういわれましても…。いろいろと探し回ってたんですよ」
紅魔館に帰ってみるとちょうどお嬢様が二度寝から目覚めたところだったようだ。
服はきちんと着込んではいるが寝癖がすこし残っている。
実は咲夜さんが寝癖をわざと残したのだろうか。だとしたらなかなかいいセンスをしている。
普段見せないお嬢様を見るのもなかなか良いものだ。
「ところで何を買ってきたの?」
…知ってるくせに。
「祁門紅茶です」
「あぁあれね、あれは美味しいわ。よく選んできたわね」
だからそれはあなたが指示したんでしょう。
「では、紅茶を淹れてきます」
「ええ、楽しみにしてるわ」
とは言っても、私は紅茶の淹れ方なぞ良く知らない。
はて、どうしたものかとだだっ広いキッチンの中を右往左往していると
馬鹿でっかい冷蔵庫にメモがはさんであるのに気がついた。
"祁門紅茶の淹れ方”
…出来すぎだ!まぁ助かりますが。
とりあえずはこのメモの通りに淹れれば失敗することは無いだろう。
30分ほどたっただろうか?やっとできた。
ひとつ分かったことは、紅茶ってものすごくめんどくさいものだということだ。
おそらくまたお嬢様はご立腹だろう。
「ご苦労、美鈴。待ちかねたわ」
お嬢様は思いのほかうれしそうだった。私はお嬢様に淹れたての紅茶を出す。
お嬢様はうれしそうにカップを持ち、そして味わうようにゆっくり飲んだ。
「うん、おいしいわ」
ふ~、安心した。大変だったが、お嬢様の笑顔を見れて良かった。
咲夜さんはいつもこんな気持ちを味わっているのだろうか。
だとしたらすこしうらやましい気持ちもする。
「ふ~おいしかったわ。美鈴」
どうやら飲み終わったようだ。満足そうな顔をしている。
「まぁ、咲夜には及ばないけど」
それは当たり前である。いつも淹れている人に敵うわけが無い。
が…、
「ありがとう、美鈴。あとでお礼をするわ」
こんなお嬢様の笑顔をみれるならばまたやってみてもいいな。
…今日の夕食は異様に豪華だ。
しかも何でか知らないが私のだけ異様に多いのだ。
従者が主よりも良い食事をとるのはどうかと思ったが、
「べつにいいのよ」
とお嬢様が言ったので言い返せなくなってしまった。
食事が終わり自室へ戻ることになった。
さりげなく食事に霊夢さんがいたけどまぁ別にいいだろう。
いつもならば門番をしに戻るのだが、
週に一度は睡眠をとっても良いことになっている。
というか今日は寝ろとお嬢様に言われた。
しょうがないので寝ることにする。
「って、うわっ!!」
自室に戻ると部屋が花束でいっぱいになっていた。
なんだなんだ?なんでこんなにいっぱい花束があるんだ!?
よく見ると1つ1つの花束の中にはメッセージカードが入っている。
”美鈴さん、紅魔館に来て200年おめでとうございます”
メッセージカードにはこう書かれていた。
そうか、すっかり忘れていた。今日は―
「あなたが紅魔館に来て200年目の日よ」
うわぁっ!!?
「咲夜さん!?いったいいつの間に!?」
「いつからって、さっきからいたわよ」
咲夜さんは紅茶を持ちながらドアの前にたたずんでいた。
この香りは…
「祁門紅茶よ」
…やはりそうか、祁門紅茶。
咲夜さんが淹れたものは香りも違うな。
「あなたにお茶を淹れたわ。どうぞ」
咲夜さんが?私に?
予想もしていなかった言葉が咲夜さんの口から出てきた。
「お嬢様が淹れなさいって」
お嬢様が!?これまた予想していなかった。
咲夜さんから手渡された紅茶はとても美味しそうだった。
一口飲んでみる。これはおいしい。
中国の妖怪だからだろうか、どうやら私の口に合うようだ。
「おいしいです。咲夜さん。本当にありがとうございます」
「ふふっ、どういたしまして」
咲夜さんは微笑んだ。
「でもお礼を言うならお嬢様に言いなさい」
「お嬢様に、ですか…?」
「ええ、お嬢様は3ヶ月以上も前からこのことを計画なさってたのよ」
3ヶ月も前から?お嬢様が私のためにこんなことをしてるなんて知らなかっ た。
「おそらく、お嬢様が祁門紅茶を買ってくるように指示したのも
美鈴が中国の妖怪だからじゃない?」
「え?咲夜さんお嬢様が祁門紅茶を買うように指示したこと知ってるんですか?」
「ええ、お嬢様が相談しに来たわ。あなたは紅茶に詳しいから、って」
「そんな…。でしたら、直接言ってくださったらいいのに…」
「お嬢様はそういうところ不器用なのよ。
それに他の従者の手前、 美鈴だけ特別扱いしてはならないと思ったんじゃない?」
「そう…ですか…」
お嬢様がそこまで私のことを考えて下さっているなんて知らなかった。
なんだか目頭が熱くなってくる。
「あっそうそう、お嬢様があなたのベッドと枕を新しいベッドと安眠枕にしたと言っていたわ
それと、それはプレゼントだと美鈴に言っておいてほしいとも」
「ぐすっ、ざっざぐやざ~ん」
「なっなんで泣いてるの!?」
「わっ私、うれじくって、うれじぐって…」
「まっまぁ明日お嬢様にお礼をいえば?」
「そっそうします!」
咲夜さんが部屋を出た後、涙を拭き、部屋を片付けた。
さて、お嬢様がくれた、ふかふかの新しいベッドで寝るか。
ベッドに寝転ぶと枕の中に紙が入ってることに気づいた。
何だろう?枕を開けて確かめると
”美鈴、頼りない私なんかに200年もつくしてくれてありがとう。
あなたとあえて本当に良かったわ”
それはお嬢様の手書きのメッセージカードだった。
…おっお嬢様あああああああ!!!!!
また涙が止まらなくなってしまった。
私は泣きながら部屋を飛び出した。
「どうしたの!?美鈴!?涙で顔がボロボロよ?」
お嬢様は驚いた顔をした。
私は急いで顔をぬぐう、
「お嬢様!」
「なっ何?」
これだけは今お嬢様に直接言っておこう。
「私も」
今の私の気持ちを、笑顔で。
「私もお嬢様と会えてよかったです!!」
お嬢様は一瞬だけポカンとした顔をしたがすぐに元に戻って、
「今後もよろしくね、美鈴」
こう言ってくださった。
私、紅美鈴は世界一の幸せ者です!!
ついに一万作品かぁ。miyamoさん、おめでとうございます! あと、今まで数々の作品を書いてくださった作者の皆様、ほんとに尊敬してます!これからもすばらしい作品をお待ちしてます!
なのでもう一回最初から読み直してしまったよw
いい話で良かったです。
そしてつんでれいむw
あと何杯っていえばおk?
それはもしかして、タイトルのことでしょうか?
すみません、このタイトルは紅魔郷の魔理沙のセリフを思い出して
これは使える!と思って使っただけです。
なのであまり深く考えていません。
1、2,3っと数えられないので0じゃぁだめですかね。
もしそれでも気になるようでしたらタイトルはすこし変えますが。
とりあえず、良い話でした
本来の10000作品目おめでとう
良い話でした。三か月前からって結構な愛されめーりんww
これからも誠心誠意仕えよ美鈴!
ということだけ、少し気になりました。
気になるところと言えば…
・美鈴主観の地の文を、もう少し堅く書いても良かったかも?
・なぜ明らかに緑茶党の霊夢のところへ行ったw図書館か人里かアリスなら自然かも
・美鈴の設定上、さすがに祁門紅茶は知ってるような…
ネタは好きです、でも読みにくかったです
もうちょっと簡潔に書いてもよかった気がします
miyamoさん独自のキャラ感を出せればよかったかと思います。
疑問点やおかしな点は次の作品以降に反映できるようさらに努力を重ねて行こうと思います
最後の、お嬢様からの手紙が良かったです。胸が暖かくなりました。