春はいろいろ起き出す頃、と昔から言うけれど。
暖かくなってきたからか、最近妖怪たちの動きも活発になってきた。何故妖怪と季節が関係あるのかと言われれば、そういう気分だからに違いない。妖怪は物質よりも精神、つまり神様で言う『信仰の力』のようなもので存在しているから。気分に引っ張られやすいというわけだ。
桜の花も見頃で、羽目を外した妖怪たちが無茶をする。それを退治するのが『博麗の巫女』。やりすぎた妖怪たちに、人間とは別なやり方で鉄槌を下すのは『八雲 紫』。そしてなにより、危険に遭遇しないように歴史の中から最適な方法を学ばせる書物を作るのが『稗田家』。そして稗田家が作成した書物を元に歴史を教える。
それが彼女の職業であった。
「うん、みんな。今日出した宿題はちゃんとやってくるんだぞ」
『えええええええええ』
嫌そうな子供たちの声が盛大に重なる。畳の上で正座して見た目だけは大人しくしているようには見えるが、一旦寺子屋を出てしまえば遊びたい盛りの子供に早代わり。寺子屋が終わったらすぐ道草して遊んでやろうと息巻くやんちゃ坊主が多い中で、いつもの倍近い量の宿題を出したものだから、非難轟々というわけだ。隣の子供と文句を言い合っているうちは中には長机の上に置かれた宿題を指先で詰まんで、まるで生ごみのように揺らすものや。その量を見ただけで泣き出しそうな者もいる。しかし彼女だって好きで子供たちに嫌がらせのような量の宿題を出すわけではない。
「今日は、目一杯遊んでも構わないが。明日は満月の日だろう? 寺子屋も休みだし、外出も好きに出来ない。それならゆっくり家の中で勉強をする。先生との約束だ」
青い、透き通るような美しい髪を揺らしながら。
『ね♪』っと小首を傾げつつ、指を一本立てた。すると一番前の男の子から『先生、似合わない』とか痛い指摘をされてしまう。ちょっぴり心が痛むのを我慢しながら、こほんっと咳払いして。彼女は姿勢を正す。
「じゃあ、今日はみんな気をつけて帰るように」
その後、日直が代表で立ち上がり。残りの生徒と一緒にさようならの挨拶をしてから、駆け出すように部屋を出て行った。驚くほど素早く消えてしまうものだから、思わず苦笑してしまうほど。忘れ物はないかと机の中や部屋の中を確認し、子供たちに後れるように外に出たら。瞳にいきなり日差しが突き刺さって目がくらんでしまう。なんとか手傘でそれを防ぎ、眩しさを紛らわせようと首を左右に振っていると。
「おや、何か困りごとですかな? 先生」
風を纏って、一人の天狗が降りてくる。人里へよく新聞を配りに来る鴉天狗の射命丸文だ。寺子屋の前で首を振っていたせいで何か事件があったかと思い、嗅ぎ付けてきたのだろう。ただ日の光に当てられただけだというのに。
「いや、なんでもないよ。立ちくらみのようなものさ」
普通なら照れ隠しするところを、彼女は堂々と答え『こんにちは』と文にお辞儀する。
「そうでしたか、子供たちが今日はやけに早く帰ったものだと思いまして。いつも昼を挟んで授業をしているでしょう?」
「確かにそうなんだが、今日は午前中に少しだけ。宿題を渡す程度かな」
「おやおや、春祭りの準備か何かでも?」
「いや、明日は満月だからね。今日くらいおもいっきり遊ばせてもいいかと思っただけだよ」
「あややや、妖怪として耳が痛いお話で」
肩を竦めながらぺろっと舌を出す。かくいう文も新聞で明日の危険性を訴えており、人間たちが里の外へ出ることを押さえ込もうとしていた。満月という妖を狂わせる要素と、桜の花の魔力。古来から人や妖怪を狂わせる二つの要素が揃うこの季節こそ、開放的になりそうな気持ちを引き締めて対処する必要がある。
「弾幕勝負に持ち込めるような、話の通じるヤツならいいんだが」
「私のように、ですかな?」
「ああ、文さんなら話し合いで済むだろう。それに弾幕勝負でも勝てる気がしないよ」
「おや、これは嬉しい。新聞二枚ほどサービスしておきましょうか?」
「同じ記事が二つあっても困るんだが……」
そうやって二人が会話を楽しんでいると。その横を鉢巻を付けた若者が通り過ぎていく。手には槍を持ち多少物々しいいでたちであるが、二人に気付くと微笑みながら会釈して去っていく。単なる気の良い若者か、それとも女ったらしなだけか。そんな男の若者よりも文は槍と鉢巻の方が気になったようで、通り過ぎたはずの男の前にあっという間に回り込み。ぱしゃりっとシャッターをきってから再び彼女の横に戻ってくる。
「ふむ、まだ若い青年ですな。そちらは自警団で対処を?」
「それは私にもわからないよ。私は子供に学問を教えるしか脳の無い人間だからね」
「……そう、ですか」
文は片目を閉じ、手帖の中に何かを書き込むと、一唸り。そして後ろに手を回して、何かを探るように上目遣いで問いかけた。
「噂、なんですがね? 満月を周期に現れて、人里に入り込もうとする正気を失った妖怪を追い払う者がいる、と。そんな馬鹿げた話を聞いた覚えがあったもので」
「それは確かに興味深い、しかしそれは単なる博麗の巫女の仕業ではないかな」
「そうなんですよね。私もそう思って裏を取ってみたんですが。なんとも不思議。忙しくて人里まで手が回らなかったこともあるらしいんですよ。しかし、そんな日にも人里にはその正体不明の人物が現れる」
「ふむ、じゃあ妖怪に対抗する別の誰かがいるということか」
「それで、そういう英雄みたいな方、ご存知じゃないかなと思った次第でして」
いつもの営業スマイルで表情を変えずにじっと見詰めて問いかける。
その様子からして、文は明らかに何かを掴んでいる。それでも決定的な何かが足りないから、問いかけているのだろう。その『何か』を知っていそうな相手に対して。それで情報が集まりそうなところを重点的に探っている。その上で寺子屋に来るというのなら大人から得られるような情報は仕入れ終わったということだろう。
「ん~、子供たちの噂話でもその謎解きに役立ちそうな情報はないかな。そういう英雄のような人物を知っていれば、我先にと自慢するだろうからね」
「ふむ、そうですか。少々期待したのですがね」
「稗田家にでも尋ねてみてはいかがかな」
「あやややや、実はあそこはあまり得意ではなくて……まあ、そうですな。たまには助力を願うとしましょうか」
そう言って、手帳でぺちっと頭を叩き。お邪魔しましたと言いながら、また空へと飛び上がっていく。あっという間に消え去ってしまうその速度に驚く、というより。
「……あの短さでよく飛べるものだな」
風で隠しているとはいっても、同じ女性としてその姿には頬を染めてしまう。
弾幕勝負で飛ぶこともある彼女であったが、そのときはちゃんと下に人がいないか確認してから飛び上がるというのに。
「こんど隠し方を教わってみようか、ふむ」
そうやって苦笑しながら文を見送って、彼女は寺子屋の門を閉めた。今日を含め、もう後二日間はここに来ることがない。たった二日だけのお休み、それだけだというのに子供たちの顔を思い浮かべると少し寂しくなってしまう。彼女は寺子屋が終わってからすぐ家に戻ってのんびりしようと決めていたのに、なんだかすぐに帰るのが勿体無い。歩を進めかけていた足を止め視界の中にある自宅と、人里のある一箇所を交互に見て、久しぶりに外食をしようかと鼻歌を混じりにくるりっと、青空のようなスカートを翻し人波の中へと消えていった。
◇ ◇ ◇
丸い、丸い、そんな月が空に昇る夜。
歴史書に書いてあったことから調べると、人間がそんな夜を心から安心して見上げられる時代があったらしい。彼女が生まれてからは、どうしても満月は妖怪が暴れる可能性が高まるということで畏れの象徴として見られがちだ。それも仕方ない。月の周期と妖怪が高揚する周期がほぼ同じで、月を見るだけで条件反射的に興奮してしまう種族だっているのだから。
狼男、というのだろうか。
妖怪に近い妖獣という部類にそんな種族がいる。月を見るだけで人間の姿から人ならざる者へと変化する。身体能力も向上し、時には人を襲うこともあるという。
「はっ!」
だから、彼女もその部類なんだろう。
満月の度にその姿を異形へと変え、その力を振るう。
人間とは思えない力で人里に迫っていた一体の、妖怪。そんな言葉を理解しない妖怪の頭を掴み。まるで手毬でも投げるかのように遥か彼方へと飛ばす。細腕とは思えない膂力で投げ飛ばされた妖怪はあっという間に見えなくなり、人里に入ろうとしていた妖怪たちはその光景に進行を止める。
「……悪いが、今日は通行止めだ。頭を冷やしてから来るといい」
二本の角を頭に生やし。
薄い緑色の髪を夜風にたなびかせ。
スカートから覗かせる尻尾を、くねらせる。
満月の光の下。人里を背に腕を組んで立つのは、見慣れない女性。
聖女のように凛々しく、獣のように雄々しく、見惚れるほど美しい妖獣。
「ガァッ!」
そんな獣に向かって、言葉を失った妖怪たちは吼える。人里を囲み、お互いにけん制し合いながら吼える。一番早く獲物にありつくのは私だと、競い合うように。美しい妖獣がその場に立ってから、もう一刻ほど経過しようとしているのに、その数は減るどころか段々と数を増し、今ではもう十体以上の妖怪が唾液を滴らせながら彼女を睨んでいる。
「食事にありつきたい。欲望を満たしたい。それはわかる。私だって同じ衝動を持つ者だ。それくらい理解できる、しかしだ!」
彼女が声を発したのをチャンスだと思ったのか。一体の妖怪が地面と触れ合いそうなほどの超低空から彼女に体をぶつけようとする。しかし彼女は冷静に体を屈め、膝でその体当たりを迎撃し。服を掴んで再び投げ捨てた。
今度は上ではなく。勢い良く、横投げで。
低空を飛ばされた妖怪は、その先にいた二体を巻き込み、地面を転がる。その後、特に外傷も無く起き上がる妖怪たちだったが、その痛みで我に返ったのかそそくさとその場から逃げていく。しかし一息付く間も無く、投げの直後に生まれた隙を付き、彼女の体にまた二体の妖怪が覆いかぶさる。作戦行動を取っているわけではない、ただ目の前の獲物を効率よく倒したいだけ。その本能が生んだ偶然の連携だった。
女性は慌てて両腕を上げてそれを受け止めようとするが。
それこそ、妖怪たちにとっては望むところ。
なぜなら――
……ガリッ
彼女は半人半妖。
暴走した妖怪たちにとって、その肉体の香りは食料そのものでしかない。
防御するために上げられた、細い食いつきやすい腕。
妖怪はその二の腕に喜んで牙を突き立てる。
「ぐっ! このっ!」
それでも伝説の妖獣の血を引く彼女の肉体は強固。
妖怪の牙は皮膚の浅いところまでしか届かず、肉を食らうことはできない。
しかし、噛り付く部分からは血が流れ、妖怪たちの口へと注ぎ込まれていく。そうやって獲物の味を確かめる好敵手を羨ましく思う他の妖怪たちも、次々と彼女の体へと群がっていく。
腕を自由に出来ず、しかも複数の敵が新たに間合いを詰めてくる。
上下左右、そして真正面。すべての視界に敵が存在し。
もう、残り数歩で。
その爪や、牙が届く。
自分の鮮血が満月の下を染める。
そんな映像が簡単に浮かびそうな、諦めるしかないようなその状況で。
彼女は、にやり、と笑う。
「助かった……」
そうつぶやいて、両腕に噛み付いた妖怪を振り回し。まずは左右から飛び掛ってきた妖怪へとぶつけ無理やり引き離した。だが、その動作の間に、左足と右肩に鈍い痛みが走る。右肩に噛み付いてきた妖怪が今度は急所である首筋を狙ってその鋭い爪を伸ばそうとするが、すでに両腕は自由の身。左腕で悠々とそれを受け止めると。
彼女は大きく身を捩る。
その隙に正面から新しい敵が向かってくるが。
もう、遅い。
体を捻り、頭を引き、瞳を細く尖らせて。
右肩に執着する妖怪の脳天に。
衝撃をぶちかます。
瞬間――
妖怪の目がぐるんっと裏返るように白くなり。
口から泡を吹いて、放心する。
何をされたか、妖怪はわからなかったかもしれない。けれど真相は単純。
彼女が、電光石火の頭突きを食らわせただけ。
しかしそれだけでは終わらない。
右肩から崩れ落ちる妖怪を気にすることなく、そのまま頭を自らの膝の高さくらいまで下げ。鋭い角を向かってきた妖怪の体の下に潜り込ませて。首と、背筋の力だけでその体を宙に浮かせる。無理やり地面から引き離された妖怪は、じたばたと四肢を動かし何とか空中でバランスを取るが。
もうそのときには、彼女の頭はおもいっきり後ろに引かれていて。
二回目の、衝撃音。
今度は正面に向かって弾き飛ばされ、その光景を呆然と眺めていた一体にぶつかって、止まる。
二度の空気を振るわせる轟音を身近に感じた、彼女の足に噛み付いていた妖怪は。
ふとももに噛み付いたまま恐る恐る見上げて。
「……お前も、味わいたいのかな?」
その一言で、慌てて口を外し。夜空へと飛んで消えていく。
他の妖怪も同様で、一斉に背を向け逃げ出していった。
「ほら。忘れ物だぞ!」
そんな小さな背に、気絶した妖怪を投げ付け無理やり連れて行かせる。放り投げても良かったが、無駄な体力を使うより省力で効果のある方を取っただけ。
なぜなら、さすがに今宵は――多過ぎる。
「……これが桜と満月の力ということなのか」
妖怪たちから受けた浅い傷はもう癒えつつある。
肉体もまだ十分動く。
服は……少々人に見られたくないような状況になりつつあるが。
戦闘を続けられるかといえば、余裕で首を縦に振ることができる。しかし、変化するようになって三ヶ月も経過していない彼女にとって。この数は初めての経験だった。その精神的疲労が、不安を掻き立てる。
「もう、来ないでくれればいいが……」
初めて自分が妖獣に変化したときの、恐怖や戸惑いもまだ彼女の中で燻っているような状況なのだ。もし協力者である稗田家がいなければ、一人で悩み続け、今頃は……
そんな暗い想像すら変化するたびに感じるのだ。
それでも、彼女は思う。
この姿を。妖獣であるこの能力をなんとか人里のために役立てたい。
そう思って、満月の夜だけは里を守らせて欲しいと、自警団に頼み込んで単独行動をしていた。
子供たちには、その姿を隠し、先生だけでいたいと願い。
大人たちには、その姿を他言しないように懇願し、半人妖獣である自分の必要性を里に示した。
それは追い出さないで欲しいと言う、彼女の小さな意思表示だったのかもしれない。
自分の身を犠牲にし。
暴走し、人里にやってくる会話すらできない妖怪たちに対抗するための、道具の一つ。
彼らの食料である、人間の血を餌に。
最高の番人として立ち塞がる。
けれどそれは、綱渡り。
自分の体に流れる血がどんな力を持っているのか、わからない。
身体能力を生かした攻撃のみしか有効手段のない彼女にとって、危険な賭け。
まだ三度の満月しか経験していない、未熟な妖獣。
人里で、生まれた。
野生を知らない、獣。
だから――
静かに、静かに上空から接近していた。
新たな敵影にも気がつかない。
「ぇ?」
彼女が気がついたときには、同じくらいの背丈の妖怪が空から舞い降り。
細い首を掴み、それと同時に腹部へと重い一撃。
肺から空気を無理やり追い出された直後に、吊り上げられる。
呼吸は、できない。
なんとかその妖怪を蹴り飛ばし。空へ逃げようと思っても、首を掴み手は外れない。
何度蹴っても、その妖怪は動じない。
さきほどの小物の妖怪とは違う。
圧倒的な力。
おそらく、知っているのだろう。
そうやって首を絞め続けるだけで、十分だということを。
食い込む手を外せなければ、彼女の命は終わるということを。
それだけで、段々と彼女の瞳から意思の光が消えて――
ただの食料と化す。
――はずだった。
はずだったのに。
彼女を握っていた妖怪の右腕の、肩から肘が。
一瞬して消失。
「……悪い、あんたより、私が先約でね」
いや、焼失した。
炎の渦が妖怪の周囲を覆ったかと思うと。
妖怪の腕が、灰となって消え去っていた。
その拍子に、開放された妖獣はどさりっと尻餅をつき、体を横にして激しく咳き込んだ。
「……列に割り込むのだけはやめてくれないか?」
それでも恨みがましそうに睨む妖怪に対し。
全身から炎を撒き散らし、去れと無言で睨む。
たったそれだけで、右腕を失った妖怪は地面に体を擦り付けながら逃げていった。
それを視界の隅に残したまま、その白い髪の少女は彼女に近づいていく。
「大丈夫? 一人で立てそう?」
心配そうに覗き込む、その月光に輝く白い髪の少女。
その姿は倒れている彼女よりもずいぶん子供っぽく見えるというのに、何故か言い知れない威厳のようなものを漂わせていた。
「あ、ありがとう。あなたが助けてくれたの?」
「そういうこと。助けたかったから、助けた。それだけかな」
そうやって微笑みながら手を差し出す。
彼女はそれを警戒しながらも掴んで、引き起こしてもらった。
その手は、炎を使った後だからだろうか。
彼女にはやけに温かく感じられた。
それと同時に、疑問が一つ浮かんでくる。
昨日の昼間、文が言っていたこと。
人里を守る、人間の話を。
「あの、もしかして……あなたは私より先に、人里を守っていた英雄という方では」
「英雄?」
「いや、鴉天狗の知り合いがそんなことを言っていてね」
「……いや、そんなかっこいい者じゃないよ。ちょっと人を待ってただけ。そのついでに守っていただけだから」
満月の夜に、人を待つ。
ありえないことなのに、この少女の強さを見せ付けられた後なら納得できるというもの。
「こんな夜に、待ち合わせか。無粋で申し訳ないが、一体いつから待っているんだ? もしかしたら今日はもう来ないかもしれないし」
「そうだね……いつから、かな」
そう質問された少女は、どこか悲しげに満月を見上げて。
ふぅっと息を吐く。
そして、微笑みながらこう返した。
「100年か、いや、それ以上か……、一体どれほど待ったんだろうね」
「……む、答えられないなら答えられないと正直に言ってくれないか。助けてもらってこういうのもなんだが、冗談で返すのは失礼だと思う」
「冗談、ね……うん、それがいい。そういうことにしとうかな」
はははっ、と。
声は楽しそうに、表情も楽しそうに、笑う。
けれど、何かが違う。
何故だかわからないが、彼女には、少女の瞳が愁いを帯びているように見えた。
だからそんな不思議な少女のことが気になって。
彼女は、知りたいと思った。
「あの、よかったら、良かったらでいいんだが。名を聞かせては――」
「藤原 妹紅、みんな妹紅って呼ぶよ」
「そうか、妹紅さんか。良い名だな」
褒められるとは思っていなかったのか、妹紅は恥ずかしそうに顔を背けた。
そして顔を赤らめ、何故か目を擦ってから。
こほんっと、咳払いをする。
その仕草からして、あまり人付き合いに慣れていないのかもしれない。
「では、遅ればせながら私も名乗らせてもらおう。私は、『上白沢 慧音』人里で寺子屋をさせてもらっているよ」
「うん、そうか。慧音か。うん…… いい名前」
「ありがとう、世辞でも嬉しいよ」
妹紅は、慧音の名前をかみ締めるように、もう一度繰り返す。
何かを確かめるように。
ゆっくりと、ゆっくりと。繰り返す。
「じゃあ、改めて、挨拶しようか。慧音、おかえ――」
「ん?」
「いや……、ちがう、か。慧音、はじめまして」
「ああ、妹紅、はじめまし――、え?」
はじめまして、初めて出会った人に。
出会ったことの感謝を込めて言うはずの言葉。
だから何もおかしなことなんてない。
おかしなことなんてないのに。
「あ、あはは、一体どうしたんだろうな。変だな……なんで……」
慧音の瞳から、何故か。
一筋の、涙がこぼれた。
最ッ高の、シチュエーションじゃないかこん畜生ッ!!
いつまでも仲良くしていってね!!
再会ネタふえろっ
これはいい寿命ネタ
数百年ぶりに再会して言いたかったことは色々あったはずなのに、
初めて会ったかのように振舞う妹紅の心中を考えたらもう涙が……
よかったよ慧音……!!二人の仲は永遠だ!!
『ね♪』っと小首を傾げつつ、指を一本立てたけーね先生にものっそ萌えた。
やばい、すごいよかったよ!
もちろん良い意味です
初めてのように振る舞う妹紅が切なくて…
ということは射命丸も何か知っていたのでは無いかな?
また妹紅と一緒に幸せに暮らして下さい!
恐ろしい破壊力だ。風邪で朦朧とする意識にとどめを刺された気分。
月夜に現れる謎のヒーロー!それはスーパーマン?バットマン?ウルトラマン?ノンノン
彼女こそ、人里を護る半獣、人間の味方、ハクタクマン!帰ってきたハクタクマン!!