春、幻想郷にあるたくさんの桜の木はその自身に付ける花弁を散らせ、その美しさを辺りに振りまいていた。
ここ博麗神社の桜も他に負けじとたくさんの花弁を付け、たくさんの花弁を散らせその美しさをアピールしている。
そして、博麗神社の縁側に座る少女の二つの影。
そこの巫女“博麗霊夢”と人里にお使いに来ていた白玉楼の庭師“魂魄妖夢”だった。
「春ね…」
「ええ、そうですね」
「もうそろそろうるさい奴らがこの神社で宴会をしだすわ」
「でしょうね。心中お察しします。」
面倒この上ないと言わんばかりの顔をしている霊夢に妖夢は労いの言葉を贈った。
「…やっぱりあんたのとこでも?」
「ええ、幽々子様が今お花見を計画中です」
「もしかしてその袋って…」
と、霊夢は妖夢の隣にある彼女と同じぐらい大きい二つの袋を指差した。
「ええ、一つはその宴会で使う材料です」
「もう一つは?」
「白玉楼の三日分の食料です」
「…」
これが三日で消えてしまう白玉楼の財政はどうなっているのかとか、これだけの材料をどこに保管するのかとか色んな疑問がわいたが、とりあえず…
「あんたも大変ね…」
と言うのが精いっぱいだった。
「ええ、まあ従者ですからこのくらいは当たり前です」
と、若干日ごろの気苦労が見え隠れする妖夢を見ていると霊夢はちょっとほろりときた。
ここで、霊夢は一つ疑問に思った。
「そういえば…」
「なんですか?」
「なんで、あんたは幽々子の従者になったの?」
「え?」
「いや、あいつの世話とかも大変そうだし…辞めてしまいたいとか思わないのかなと…」
「私の祖父も幽々子様の従者でしたから、その孫の私も従者になる必要があるかと…」
「それは、あんたの家の都合でしょ。あんた自身はどう思っているの?」
…私自身?
「私は…」
と呟き少しの間があった。それを破ったのは霊夢だった。
「まあ、あんたがいいならそれでいいんだけどね」
「…はあ」
それから二人は最近のお互いのことを話した。時折飛び出す白玉楼での話をするたびに霊夢は目に涙を浮かべるのを我慢していた。
その一方で妖夢は、霊夢の聞いてきたことが胸の奥で渦を巻いていた。
なんで、あんたは幽々子の従者になったの?…なんで…?
結局夕方になるまで神社で世間話をしていたが、そろそろ夕飯の支度をしないといけないと思いその場を後にし、急いで白玉楼へと向かった。
その道中でもずっと、もやもやが消えずにいた。
「(私は今までずっとそんなこと思ったことがなかったし考えもしなかった。祖父がそうだったように、私もそうあるべきと思っていた。だけど、それは所詮自分に言いつける理由に過ぎない…なら、なぜ私は幽々子様の従者に…なんで…)」
「どうしたの?妖夢」
「え?あっ!!!幽々子様?!どうしてここに?!」
目の前には自分の主“西行寺幽々子”がそこにいた。
「どうしてって…白玉楼の主がその家の玄関にいたらおかしいかしら?」
「え?あっ!!!」
妖夢はいつの間にか白玉楼の玄関まで来ていた。そのことに本人は全く気が付いていなかった。
「もう。帰りが遅いから心配していたんだから。」
「すっすいません!」
「…何かあったの?」
妖夢をいつも傍で見ていた幽々子が妖夢のちょっとした表情の変化に気がつかないはずがなかった。
「い、いえなんでもないんです」
とは応えたもののやはり表情は変わらなかった。
「あら、そう?ならいいんだけど」
主に向かってなぜ私はあなたの従者になったのかなんて聞けるはずがなかった。
「すみません。私はこれから夕飯の支度にかかります」
「あ、妖夢。ちょっといいかしら?」
「はい、なんでしょう」
「ちょっとこっちに来て。見せたいものがあるの」
「でも、夕飯の支度をしないと…」
「いいから、いいから」
と言い妖夢の腕を掴み、歩きだした。
「え、ちょ?! 幽々子様~」
妖夢は引きずられる形で幽々子に連れて行かれた。
連れてこられたのは白玉楼の桜の木が咲き乱れる庭の中だった。そこは、幻想郷でも随一の桜の名所だが、白玉楼の中にあるのでそこに住んでいる者たち以外はめったに入る事がなく辺りは静かだった。その代わり、散る花弁によって辺り一面の桜吹雪となっていた。
「もう、どうしたんですか?」
「あれを見て」
と言って幽々子はあるところを指差した。
「あれって…」
そこには、桜の名所白玉楼の中でも一番大きくて古い桜の木が立っていた。
そしてその枝には…
「あ」
目を見張る程の美しい桜の花弁が咲き乱れていた。
「この桜の木…昨日はまだ咲いて…」
「そうなの。今日の昼に見てみたら全部のつぼみが咲いていたの。綺麗でしょう?」
「ええ…とっても…」
幽々子は掴んでいた妖夢の腕を離して桜の木に近づいた。
「早く妖夢に見せたくて…だから玄関で待っていたのよ」
と、幽々子はこちらを振り返った。そこには妖夢の大好きな幽々子の笑顔があった。
―――そうか。そうだったんだ…難しく考える必要なんてなかったんだ。
私は、この笑顔が好きだから…ずっと傍にいたいって思ったから―――
「妖夢?どうかしたの?」
「え?あっ…あの」
「悩みがあるのなら、私に言ってね。私はあなたの主なんだから」
「…はい、幽々子様」
胸の奥にあったもやもやはいつの間にか無くなっていた。
数日後
白玉楼ではお花見が開かれていた。
そこの従者である妖夢は次々と無くなるお酒や食べ物を台所から持って来ては空いた皿を片付けたりと、忙しいひと時を過ごしていた。
それに見かねた霊夢は妖夢を手伝っていた。霊夢が白玉楼の台所に入るとまず目についたのは巨大な箱だった。どうやらニトリに作ってもらったようで、開けると中はひんやりとしていた。これで白玉楼の謎が一つ解け、霊夢の中にある疑問の一つは解消された。
「まったく…あいつらときたらこっちの苦労も知らないで…」
「いいじゃないですか、せっかくのお花見なんですから」
と、妖夢はまるで終わりの見えない仕事を楽しんでいるかのような笑顔で応えた。
「それはそうだけど…ねえ」
「どうしました?」
ぶつぶつと文句を言う霊夢は妖夢に一言こう言った。
「よかったわね」
「え?」
「いや、なんでもない」
「はあ…ありがとうございました」
「…別にいいわよ。それよりここの手伝いをしたんだから、うちでやる時の手伝いは頼むわよ?」
「ええ、任せてください」
宴会会場から妖夢と霊夢を呼ぶ声が聞こえてきた。
「さて、そろそろ混じりましょうか」
「そうですね。行きましょうか。」
二人は宴会の荒波の中に入って行った。
宴会会場は幻想郷随一の桜の名所“白玉楼”その庭にある一番大きくて古い桜の木の下。
期待通りのラストに持って行ってくれますねw
幻想入りのお話、楽しみです!!
可愛い女の子が来てくれるとイイな~~、と勝手な願望を言ってみました。
次回作をお待ちしてます。
それをいつまでも見られる妖夢は幸せ者だなあ...。
とっても良い作品でした。