※ある作品に出てくるキャラクターをそれとなく出しています。幻想郷には少女(ババァいねぇから)以外存在すら認めないと言う方は、お戻り頂いても構いませんが、そうでなければお付き合いくださいませ。
早朝。
まだ太陽の昇りきらないこの時間。微かに白っぽさが滲んでいる青い空の下で、私―――東風谷早苗は守矢神社の境内の掃き掃除に勤しんでいた。
もう春になるが、それでも早朝となると大分冷え込む。私は首に生地の薄いマフラーを巻いて、時折吹く風に身体をブルッと震わせながら、セッセと箒を左右に動かしていた。
最初は冷え込むだけの身体だったが、時間が経つに連れて日が昇り始めると、とたんに周りの気温が上昇したように感じられる。私は神社の中へと一旦戻りマフラーを外すと、少し寒さに硬くなった身体をほぐしてから、境内へと戻り掃き掃除を再開した。
しばらくして掃き掃除を終えると、今度は朝食の準備のため台所へと移動した。近くの川で釣れた川魚と山でとれた山菜を調理し、豪華とは言えないがそれでも充実した朝食を二人分、テーブルの上へと並べて行く。朝食の準備を終えると虫などが寄り付かないように簡単な結界を張って、「少し出かけます」と書き記したメモを置いた。
そして私は簡単に身支度を整えると、掃き掃除の終えた境内へ移動し、一度神社を振り返るとそのまま山奥へと歩いて行った。
――(少女移動中)――
しばらくして私は、山奥にあるそれほど大きくない湖へとやって来ていた。
周りを見渡すと、湖以外には所々にある石と木々しか見当たらない。早苗は近くにあった座れそうな石へと移動して、巫女服に皺が出来ないようその上にゆっくりと座った。そして暖かくなってきた風に身を委ねながら、ゆっくりを目を閉じて、ここに初めて来た日のことや、極最近のことを思い出していた。
私がここへと来る時は、いつも何かしら迷いを抱えてくる。最初にやって来たのは、博麗の巫女に負けた時。神奈子様を祀る巫女として………そして現神人として挑んだ勝負は、今までの努力が無駄だと言わんばかりの実力差でねじ伏せられた。
今まで自分は何をしてきたのか、何のために幻想郷に来たのか、普通の暮らしを捨て、友達を捨て、東風谷早苗という存在を幻想として―――そんな事を考えながら山の中を歩き続けていた時、私は今いる場所へと辿り着いたのである。
ここは、幻想郷に来る前に守矢神社のあった場所とよく似ていた。というより、守矢神社が外の世界から無くなって目の前にある湖になったと表現した方が正しいかもしれない。守矢神社も、人の寄り付かない様なこんな場所にひっそりと存在していたのである。今となっては、外の世界には存在していないだろうが。
だから私は何か迷いが出来た時、決まって誰も来ない時間帯にここへとやって来る。普段なら境内の掃き掃除も日が昇ってからするのだが、今日は溜め込んでいた悩みを整理しようとやって来たのだ。
そして今日………私は、博麗の巫女―――博麗霊夢さんに対して悩みを抱えていた。これは私がここに来ることになった原因であり、そして今の今まで解決出来ずにいる悩みなのである。
彼女の友人である白黒魔法使い―――霧雨魔理沙さんに、霊夢さんの巫女としての日々の努力について聞いたところ「………天才なんだよ、霊夢は。努力じゃ追いつけないもんもあるんだってことだ。認めたくないけどな」と言っていた。
だから、私はこの悩みが解けずにいる。普段は考えないようにしていたのだが、先日魔理沙さんと霊夢さんの弾幕勝負を見かけた時………私は何とも言えない喪失感にかられたのである。魔理沙さんの努力は私の耳にも良く聞こえてくる。そんな彼女を、霊夢さんはいとも簡単に負かせてしまったのだ。
それが何だか、私の今までの努力を否定されているようで………もしかすると、今回ここに来たのは迷いの整理ではなくて、自分の存在そのものが否定されるような気がして怖くなって逃げてきたのかもしれない
考えれば考えるほど悪い方向にしか行かないのは分かっているつもりだが、一度考え始めると中々止まってくれない。私は誰にも相談出来ない悩みを、どんどん胸の内に膨らませていった。
――(少女悩み中)――
ふと辺りを見渡すと、日が真上まで昇っていた。いろいろと考え疲れて少しの間眠ってしまっていたようである。私は石の上で眠ったせいか少し痛む箇所を気にしつつ、そのままゆっくり体勢を戻した。
そして、特に決定的な名案や気持ちの整理も出来無いままその場を離れようとした―――その時である。
「………?」
ふと視線を右に向けた時、森の中に一人の男性が立っているのが見えた。身長は高く、帽子に服が緑色、ズボンは青色という服装に整えられていて、少し濃いめのヒゲが特徴的だった。
妖力は特に感じられず、ただその男性はただの「人間」であることに、私はとても驚いていた。ここは妖怪の山、侵入者がいれば天狗が黙ってはいないし、何よりこんな山奥まで来れる人間など永遠亭の蓬莱人や私や霊夢さんの様な特別な巫女、それに魔理沙さんのような魔法使いだけだろう。
しかし、男性はその場で一人佇んでいる。ここからでは表情までは分からないが、何故か今の状況が呑み込めていないようだ。私は警戒心を払いながら、彼の元へとゆっくりと近づき―――彼がこちらに視線を向けた。
「………え?」
「………?」
私は突然彼がこちらを向いた事に驚いたが、彼は特に驚いた表情も見せなかった。その代わり少し困惑気味な表情を浮かべて、私に向けていた視線を横へとずらした。
私は彼の行動の意図が掴めなかったが、少しだけ彼の頬が赤らんでいる事が分かった。そして、自分の服へと目を移すと………少しだけ巫女服が肌けていた。寝ている時に、少し気崩れしてしまったのだろう。
私は慌てて服を着直すと、彼に向き直った。しかし彼は律儀にも身体を後ろへと向け、こちらを見てないことを精一杯アピールしているらしい。両手を上げて、降参のポーズまでしていた。
「………すみません。お心遣い感謝します」
「………」
そう言うと、彼はゆっくりとこちらを振り返った。私はゆっくりと近づくと―――何故だか、その顔に軽い既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような………でも直接会ったことが無いような気がする。そんな不思議な感じがした。
しかし、少し考えてみてもどうしても思い出せない。多分人里で会ったことがあるのだろうと自己完結し、私は彼に「どこから来たのか?」と質問した。すると彼は、少し迷った後に首を横に振った。それで私は、ふと私と同じ様な人間なのではないかと、何故か直感的に感じたのである。
「貴方は、記憶がありますか?」
「………」
彼は首を縦に振った。
「貴方は、ここがどこだか分かりますか?」
「………」
彼は首を横に振った。
「………ここは幻想郷。忘れられた者たちの住まう場所………ですかね。人里の方かと思ったのですが、きっと貴方は外の世界の方なのでしょう。そして、何かの拍子でここへとやって来たのだと思います」
「………」
彼は首を少しだけかしげた。
「………こうは言いたくないのですが、外の世界で忘れ去られるとこちらにやってくる事があります。それ以外のパターンもありますが、基本的には………」
「………」
彼は少し顔を伏せて、何かが分かったかのような表情で、自虐的に笑っていた。そして視線を斜め下に向けると、唐突に私に向けて―――というよりも、誰かに向けてつぶやき始めた。
―――彼はどうやら、ある王国に住んでいたらしい。
兄弟揃って仲良く暮らし、たまに現れる悪を倒し、時には敵と笑いあいながらパーティーをしたり………そんな生活をしていたようだ。
兄とはとても仲がよく、お互いがお互いを支え合って生きていたらしい。しかし、時間が経つに連れて彼の兄は王国の英雄となり、王国の姫とは世間も認める公認の仲。自分は彼の「弟」として、常にずっと後ろから輝き続ける兄を見ていたそうだ。彼は、自分が脇役となっても兄と一緒にいられるなら幸せだった。そして、兄もそう思っていると信じていた。
だからこそ、彼は緑の服を着続けていたらしい。兄は赤い服を好んでいたようで、兄弟を花に例えるなら「花弁」が兄、「葉」が弟。そのような兄を陰から支える立場でいられれば良かったのだと彼は言った。
しかし兄は王国の姫を捉えられ、遙か遠くまで一人で旅をしに行った。誰もが兄に期待し、時に罵り、憧れ、絶望していった。しかし、弟である自分には誰も関心を寄せなかった。むしろ、そこに存在していることすら気づかれ無くなっていた。
そして気づいた時には、彼は一人で旅をしていたらしい。どこでも指を指されず、誰からも話しかけられず―――気づいたら、今の場所にいたようだ。
私はそんな彼の話しを聞いて、彼とは本当に似ているなと感じた。彼が私なら、霊夢さんは彼の兄。霊夢さんを引き立てるために自分はいる。私はずっと、霊夢さん無しでは幻想郷で存在することが出来ない。そう、感じたのだ。
でも、彼は脇役でいることを望んでいた。それが私との決定的な違いである。私は霊夢さんに勝ちたいとずっと思い続けている。彼女よりも永延と下に居続けて、誰からも私のことを認められない。そんな自分の立ち位置を受け入れることなんて出来るわけがない。
「………」
私がそんな胸の内を晒すと、彼は少し困ったような笑顔を浮かべながら―――ゆっくりと私に、彼自身の考えを教えてくれた。
―――彼は、兄には勝てないと小さい頃から思っていたらしい。
それでも最初の頃は兄に勝ちたいという気持ちで必死に努力をしていたそうだ。しかし、何をするにしても兄には勝てず………そんなある日、ジャンプ力だけ兄には勝てたらしい。それを言った時の彼は本当に嬉しそうな顔をしていた。
しかし、ある日から兄は数ある道具を使いこなして空を飛ぶことも出来たらしい。無敵になることも出来れば、巨大化することも、小さくなることも、鋼の肉体にもなれたようだ。
彼は絶望した。それと同時に、諦めも心に生まれたらしい。だから彼は、兄に認められる様に頑張ろうと思った。兄の邪魔にはならないよう一歩下がった位置で協力をし、兄が困っているなら手を差し伸ばし、兄の成功を誰よりも喜んだ。それで充分だったそうだ。
しかし、兄は自分の側から離れてしまった。兄を超えることも、認めてもらうことも出来なかった。
「………」
私は、彼の言葉がとても強く、胸に突き刺さっていた。
一歩下がった位置で目の前に目標を見続ける。抜かせないなら、その立ち位置を受け入れる。もしかすると、魔理沙さんも霊夢さんのことをそういうふうに見ているのかもしれない。勝ちたいと言ってはいるが、霊夢さんの実力を誰よりも彼女は知っているのだ。
私がそんな事を考えていると、彼は初めて真面目な表情で「それでも悔いはない」とだけ言った。本当にすがすがしい顔で、でも何だか悲しそうな目をしながら。
「………じゃあ、なんで悲しそうな目をしているんですか?」
「………っ」
彼は少し驚いた表情をして、そしてすぐに元の困惑した表情をして私から視線をそらした。
だから私は、彼に視線を向けたまま胸の内を吐き出すように、言葉を投げかけた。
「確かに、越えられない壁はあります。どんなに努力しても、追いかけても、目標にしても………越えられない壁は確かにあるんです。でも、だからといって………その人の一部になったような考えをしてどうするんですか………っ! 貴方は貴方、お兄さんはお兄さんでしょう! お兄さんだけを見続けてどうするんですか!? 貴方は自分らしくなればいいんです!!」
「………」
「私だって………目標はあります。その人には努力だけじゃ勝てません。それでも、私は私だって………博麗霊夢じゃない、東風谷早苗という一人の生き物なんです! 彼女に勝てないから何だと言うんですか! 彼女よりも優れなくて何だと言うんですか!! 私は私、東風谷早苗であって博麗霊夢ではないんです!!」
「………」
―――ああ、分かってたんじゃないか。
私は彼に対して怒鳴っていたが、途中からは自分に対して怒鳴っていた。霊夢さんに勝つ必要なんて無い、私は東風谷早苗として有り続ければいいって、心の底では分かっていた。分かっていたのに―――努力がみのるとか、目の前にある霊夢さんだけを目標としていては 意味がない。魔理沙さんだって、努力してあんなに素晴らしい魔法使いになったじゃないか。
私がそういうと、彼は自らの両膝に顔を埋めていた。少し身体が震えているのは、寒いからではないだろう。少し日が沈んできているが―――いや、もしかすると本当に寒いだけなのかもしれない。彼の表情を見ることが出来ないのだから。
しばらくして、彼が顔を上げた。その目は赤く腫れ上がっていたが、私はあえて何も見ていないようにした。きっと私の目も赤く腫れているだろうから。
彼は立ち上がって、そのまま私に軽く頭を下げた。そして「ありがとう」と一言だけ残してその場を去っていった。
―――私の視線の先を、優雅なジャンプで駆け抜けながら。
――(それから数年後)――
私は自分の部屋であるものを探していた。
幻想郷に来てもうしばらく経つが、妖怪の山にもいろいろな知り合いが出来た。知り合いの一人に河城にとりという河童がいるのだが、彼女がゲーム機を見たいというので、部屋の奥にしまっておいた外の世界のものを引っ張り出しているのである。
実はにとりとは先程まで香霖堂に行っていて、そこにあったゲームカセットに興味を抱いたにとりが「早苗の家にある!? え、ホントに! 見せて見せて!」とせがんできた為、このような状況になっている。今度ゲーム機を見せると行ったら香霖堂店主も快くゲームカセットを貸してくれたので、久々のゲームに多少胸が踊っているのも否定はできない。
にとりが準備した発電機でテレビとゲーム機を起動すると、にとりが子供のように無邪気にはしゃいでいた。私は少し澄ました顔を作りながら、それでもニヤける口をそれとなく隠しながら借りたゲームカセットを並べて―――その一つに視線が止まった。
「これは………っ!?」
にとりは急に私が顔を強ばらせたことに驚いたが、すぐに察してくれたようで「それやりたいなら付けて良いよ」と言ってきた。
私ははやる気持ちを押さえてそれを一つのゲーム機にセットすると―――テレビ画面にいつかの「彼」が大きく映し出されていた。そして、タイトル画面にはこう書かれていた。
『ルイ◯ジマンション』
彼はどうやら私と会った後に、兄の弟ではなく一人の人間として自分を必死に探したに違いない。
そして彼は自分の道を見つけて、今は兄ではなく自分が中心に輝ける様になったのだ。
「………ありがとう」
私はそんな彼に感謝し、そして一つの目標がたった今不思議と沸き上がってきた。にとりは不思議そうな表情をしていたが、私が何だか嬉しそうな表情をしていたせいか、すぐに「じゃ、一緒にやろう!」と言ってくれた。
私は一度深呼吸をして、コントローラーを握り、そのゲームをプレイし始めた―――。
『私は東風谷早苗として、誰もが認める素晴らしい神様を目指します』
同じ緑の二番手繋がりですね
二番手というネタで弄られたり兄に嫉妬してるネタの多い弟が見方を変えるだけでこんなにかっこよくなるとは
早苗さんとルイー◯ネタって嫌いだけどwwwwwwwナニコレwwwwwwwwww
それから、早苗さんには伝えておきたい……
大丈夫だ!!
俺は霊夢より断然、早苗さんが好きだ!
かっ勘違いしないでよねっ!!
でも冷静に考えたらいくら幻想郷って言っても凄い違和感ある光景だよな。二次元キャラが目の前にいて会話してるのって。
『石の上で眠っちゃった→起きたらルイー○がいた→会話→別れ』
ここまで一連を全部夢の中での出来事にしてしまったほうが自然だったのかも。
昔に見て忘れかけてた記憶の奥底のルイー○が夢に現れ、そのときは誰だったか思い出せなかったんだけど、その後にとりと遊んでた拍子にゲームを見て彼のことを思い出したって感じのほうが。
ネタ設定→真面目になる
真面目設定→ネタになる
気のせいかな・・・
誤字修正しました。毎回もうホント定番過ぎてすみませんorz
夢の中って設定だと確かに違和感なかったかもしれないですねー、ですけど自分としては「◯イージはプレイヤーから忘れられてる」わけではなくて「ルイー◯の住む世界から忘れ去られかけていた」という解釈にしています。
出てきたル◯ージは、後者に当てはまるほうとなります。なので、違う世界で存在する3Dルイ◯ジになります。これ伏字意味ないな。
要は世界は複数あるって解釈ですね、分かりにくくて申し訳ないです。
ル◯ージってマ◯オよりも感情表現が豊かで親しみやすいんですよね。
天才もいいけれど努力によって身を支えながら頑張っている周りの人間の方が親近感は湧くかな
2Pカラーですか。
奇しくも
マ○オ=赤=霊夢
ル○ージ=緑=早苗
とりあえず、2828しつつ読んだ。秀逸すぎるwww
○緑の人気者
ルイー○マンションはCDだからカセットではなくソフトなんだった。
今更どうでもいいツッコミだけど。
アンタ天才だぜ。いや、『努力家』の方が良いのか。この場合はw
現神人ではないです
結局ルイージマンションも幻想入りしてんじゃ…w
俺は霊夢より早苗、マリオよりルイージの方が好きよ
ルイージがこうなったのは、だいたい吉田戦車の功罪だが……
人気の面じゃあ、どっちも負けてないと思うぜ。