これは、霊夢達が花の異変を解決するために駆け回ってる頃かそれより60年前か60年後かはたまたもっと前か後かのお話
「慧音、見てみなよ。すごい桜だ。」
慧音の家で、外を見ていた妹紅が窓を開ける。
「本当だ。妹紅、少し散歩しないか?」
「いいね。行こう。」
外に出ると、そこは桜だけでなく様々な四季の花が咲き乱れていた。
「綺麗だな。」
「そうだね。」
花に見とれ、二人の会話は長く続かない。
「あれから60年も経つのか……。」
慧音は呟くように言う。
「あれ?」
「60年前も妹紅と一緒にこうして花を見たろ?」
「そうだっけ……?」
妹紅は頭をかく。
全然記憶に無い。
「本当に覚えてないのか?」
「悪いけど……。」
「そうか……、ならあの言葉も……。」
慧音はうつむく。
「あの言葉……。」
「いいんだ。忘れてくれ。」
その時の慧音の表情を妹紅は忘れることが出来なかった。
悲しそうな笑顔。
自分は慧音を傷つけてしまった。
大好きな、慧音を。
これは、妹紅にとって1番辛く、悲しいこと。
妹紅は言葉を覚えていない自分を責める。
翌日。
妹紅はいつもなら慧音の家に居るのだが、この日は1人、桜の木の下に寝転がり落ちてくる花びらを眺めていた。
60年前……
慧音と一緒に……
花を……
ん?いつかもこうやって桜の木の下で……
……慧音の膝の上
すごく温かかった……
酒にまだ弱くて……
生とか死についての考え方も今とは違って……
そして……
「思い出したっ!」
妹紅は飛び起きる。
近くで歌いながら飛んでいた鳥の妖怪が驚いていたがどうでもいい。
そうだ。あの『言葉』だ。
慧音の家まで走り出す。
何で忘れていたんだ。
そうだ!そうだよ!
60年前……あの時、桜の下で二人でお花見をしていたんだった。
酒もあったんだけど、私はまだ酒に弱くて、すぐ酔っちゃって、慧音の膝枕で寝かせてもらってたんだ。
桜の花びらと慧音の笑顔がずっと見れて、すごく幸せだった。
でも酔ってたから、慧音に生とか死とかについて話し始めたんだよな。
それで、不老不死になんてならなければよかったって言ったら、慧音に「もしそうだったら私と妹紅は会うことが出来なかったな。」って言われたんだよな。
そしたら私、なんだか分からないけど涙出てきちゃってまともに喋れないし、何も見えなくなって、慧音の服もびしょびしょにしちゃった。
泣き止んだ私に慧音こう言った。
「でも、今の妹紅は不老不死だ。私が死ぬまで、こんな日は一緒にお花見してくれるか?」
私はぐしゃぐしゃの顔で精一杯笑顔を浮かべて返事をした。
「もちろん!」
って。
そしてこう続けた。
「じゃあ、その時はこう言って誘うよ。」
「どんな風にだ?」
「 」
この言葉で慧音は笑ってくれた。
馬鹿みたいな言葉。
それを慧音はずっと覚えてくれていたんだ。
60年間、ずっと。
私も自分で言っといて覚えてないなんて無責任だな。
慧音の家の前に着いた。
「慧音!」
扉を開けて、靴を脱ぎ捨て、中に駆け込む。
「妹紅か……どうした?」
小さく息を吸う。
そして、60年ぶりに発する言葉。
くだらなくて、馬鹿みたいだけど私と慧音を繋ぐ言葉。
「桜より美しいそこのお姉さん。私と一緒にお花見でもいかがです?」
その言葉を聞いた慧音は一瞬ぽかんとしていたが、すぐに笑顔になる。
「ああ。もちろんだ。」
桜の木の下。
今度は慧音が妹紅に膝枕をしてもらっている。
「もこーのひざのうぇ……あったかい……。」
「慧音。さすがに飲み過ぎだぞ。」
慧音はもう酔って顔を真っ赤にしている。
「もこーがおもぃだしてくれたのが、ぅれしくてなぁ。」
「ごめんな。忘れてて。慧音は60年間覚えててくれたのに。」
「ぃぃんだ。それよりもこー。ちゅーしてくれ~ちゅー。」
慧音は手を伸ばして妹紅の頭を優しくつかんで、自分の顔に近づける。
「ちょっと!慧音、酔いすぎだぞ!うわっ!酒臭っ!」
妹紅は抵抗しようとするが慧音の力が強すぎて顔を元の位置まで戻すことが出来ない。
「もこー、ぃーじゃないかー。」
そう言いながら慧音はどんどん妹紅の顔を近づける。すごい力だ。
「もう……しょうがないな……。」
忘れていた分のお詫びってことで。
妹紅は首の込めていた力を抜いた。
par.4:「慧音に『もしそうだったら私と慧音は会うことが出来なかったな。』って言われた」
直接話法なら「私と妹紅」、間接話法なら「慧音に、もしそうだったら私と慧音は会う事ができなかったな、って言われた」じゃないでしょうか。
そこは慧音ではなく妹紅でした。
次の60年は忘れちゃダメよ?