「きゃっ!」
突然吹いた強い風に私は帽子を押さえる。
「強い風ね。メリー、大丈夫?」
少し前を歩いていた蓮子が振り向く。
「ええ。蓮子、早くに行きましょ。」
私達は帽子が飛ばされる前にさっさと構内のカフェに向かった。
「中は暖かいわね。ってメリー、髪がすごいことになってるわよ。」
「え?蓮子はそうでもないのに。」
「私は違くてもメリーはすごいわ。」
一緒に歩いてきたのにそんなに違うのかしら?
「じゃあ、お手洗いで直してくるから蓮子は先に座ってて。」
「うわ…、本当にひどいわ…。」
蓮子の言う通り、私の髪は凄く乱れていた。
「枯葉も付いてるし…。」
私は誰も居ないのにぶつぶつ呟きながら枯葉を取り、髪を整えていく。
違和感に気付いたのはその時だ。
鏡に映る私。そう、それは私の筈なのだ。
でも私の顔は、こんな顔だったかしら。
私の帽子は、こんなだったかしら?
いや、私はこんな顔だったかも。こんな帽子だったかも。
それよりも、私はこんなドレスみたいな服だったかしら?
「貴方はだあれ?」
鏡に言ってみる。
「私は貴方であって、貴方じゃないの。」
返事が返ってきた。
夢かしら?
夢よね。きっとそう。起きれば私は立ったまま寝てたんだわ。
「これは夢じゃないわよ。いや、貴方は普段の生活も夢と現の境界のようなものよね。」
「それは言えてるわ。それじゃ、鏡の向こうの私じゃない私。」
「何かしら?」
鏡の向こうの私は楽しそうに微笑む。
「貴方は何なの?本当に私なの?」
「そう言ってしまえばそう。でも、そうとも限らない。」
「全然分からないわ…。じゃあ、貴方は何なの?人間?それとも何か別のもの?」
「自分かもしれないのにそんな質問をするの?分かったわ。私が何なのかね…。」
鏡の向こうの私の周りに境界が現れる。しかしそれはいつも見える境界とは違う。
境界の向こう側に見えるのは私を見ている無数の目。私を手招く無数の手。
気分が悪くなる。
「やっぱりこれが見えるのね…。」
「蓮子…。」
私は無意識のうちに彼女の名前を呼んでいた。
「大丈夫。とって食べたりはしないわ。だって、貴方は私だもの。」
鏡の向こうの私は悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「でも貴方のお友達、今名前を呼んだ彼女。彼女のことは大切にしなさい。でないと、いつか必ず後悔する日が来るわ。」
「蓮子を…?どうして…?」
「彼女を大切にしなければそれを知る日が来てしまう。だから、この言葉の意味が分からないように彼女を大切にしなさい。」
私が無言で頷くと、鏡の向こうの私は小さく笑った。
さっきまで感じていた違和感が無くなった。
そして、鏡の向こう側の私は本当の私を映している。
いつもの私の顔だし、いつもの私の帽子だし、いつもの私の服だ。
鏡に向かって手を振ってみる。鏡に映る私は手を振り返してくる。
「蓮子を大切にって何だったのかしら…?」
「おまたせ~。」
「遅いわよ。境界の向こう側にでも行っちゃった?」
蓮子の前には空になった皿が置かれていた。
「なんか立ったまま寝てたみたい。」
「ついに立ったまま寝れるようになったの?」
「ええ、羨ましいでしょ。ところで、隣良いかしら?」
「良いけど…、珍しいわね。メリーはいつも向かい側に座るのに…。」
不思議そうにする蓮子の横に座る。
向こう側の私、最初はこんな所からで良いかしら?
「別に、隣に座ってみたくなっただけよ。」
「何で座ってみたくなったのかが気になるわよ。」
「ただの気まぐれよ。この世にはどんな凄い人でも説明できないものがある。これもその一つよ。」
「メリーは自分の気まぐれを随分壮大に語るのね。」
「私の気まぐれは壮大だもの。」
これからに期待、という事で。
これからもがんばらせていただきます。
それにしてもCDか、いったいいつになったら…。
描写が少ないですが、いろいろ想像の余地もありました。
内容は面白かった。もっとどっしりしたのも読んでみたいかな。