本作は嘘々話に投稿した「例えばこんな嘘のコト」の続編になります。
―――今日は仕返しをしよう。
今朝、大学へ行く前に何気なく思いついた。
私と蓮子は本日も何事も無く大学での講義を終え、私の家で夕食をとり、少しばかりのお酒を飲んだ。
彼女に今夜も泊まっていかないかと提案すると、
「お酒も飲んじゃったしね。お言葉に甘えちゃおうかな」
まるで最初からそうするつもりでいたかのような軽い返事をした。
夕飯の片付けも終えて、私が先にお風呂へ入った後、蓮子が浴室へと向かっていった。
しばらくシャワーを浴びる音が響いていたが、程なくしてこの寝室にまで浴室からの鼻歌が聞こえてくる。浴槽に入って上機嫌になったのだろう。
壁の時計を確認すると、十一時五十分を指したところだ。
もう時期上がってくるであろう友人を今か今かと待っていると、
「ふぁ~、良いお湯だった~」
ガシガシと髪をタオルで拭きながら、寝間着に身を包んだ蓮子がやってくる。
絶妙のタイミングだ。
「ねぇ蓮子。少し話があるんだけど、いい?」
「……どうしたのよメリー?」
「大事な話なの」
如何にも真剣な雰囲気を装って言う。
「……いいけど」
チラリ、と窓の外に目をやってから、
「先に飲み物が欲しいわ。喉が渇いちゃった」
失念していた。
お風呂上がりの飲み物の用意を忘れるなんて。
時計を見て余裕があるのを確認してから、
「ち、ちょっと待ってて」
言って、急いで冷蔵庫のあるキッチンへと向かう。
「慌てなくていいよー」
と、蓮子の声が聞こえてくるが、そういう訳にはいかない。今日を過ぎては意味がなくなってしまう。
食器棚から適当なグラスを取って、そこへ緑茶を注いで持って行く。
寝室では深夜と同じように蓮子が絨毯の上で正座しながら待っていた。
「そんなに慌てなくてもよかったのに」
言いながら澄ました顔でグラスを受け取る。
「えぇ、ち、ちょっと慌てるフリをしてみたの」
流石に苦しい言い訳かとも思ったが、彼女は「ふぅん」と理解したのかしていないのかわからない返事をして、グラスの緑茶を飲み干した。
「もういいかしら?」
「ん……うん、いいよ」
その返事を聞いてから、私は深夜蓮子がそうしたように彼女の手を握り、真剣な眼差しで見詰めて、
「実はね―――」
握る手にほんの少し力を込めて、
「私、マエリベリー・ハーンは―――
―――あなたが好きです」
たっぷり時間を掛けて言った。
時計を確認すると、その長針は十二時の二分前で止まっていた。
してやったりと、彼女の表情を窺う。
深夜の私と同じように呆れたような顔を―――していなかった。
笑っていた。それもニヤニヤと。
そして私から視線を逸らし、窓の向こう側を見て、
「……十二時三分」
耳を疑うような事を口走った。
「え?! で、でも時計は……」
「わたしと時計のどっちを信じるの? わたしの眼の事はよく知ってるでしょ? それに」
彼女は胸元に手を入れて何かを取り出す。
「コレが無ければ時計は時間を刻めない」
その手の平にあったのは電池だ。
私は改めて時計を確認する。
長針も短針も、秒針すら動いていなかった。
「……いつ抜いたの?」
「さっきよ。メリーがお茶を持ってきてくれる時」
「……なんで、わかったの?」
「あれだけソワソワしてれば気付くなって方が難しいわよ」
そんなに解りやすい行動をしていたのかと考え込んでいると、
「さてメリー? わたしもう一回あなたの大事な話が聞きたいわ」
握っていたままの手を、グイ、と引っ張られる。
「ち、ちょっと蓮子!」
「なぁに? メリー」
甘い声を出す彼女に、ってこれでは昨夜のままではないか。
「ほぉ~らメリー。も一回聞かせてくれないとこうしちゃうぞぉ~」
どうすると言うのだこの四月馬鹿め。
「や、ちょっと、解るでしょう! 嘘よウソウソ! 昨日の仕返しをしたかっただけなのになんでこうなるのよぉ~!」
私の顔に頬擦りをする蓮子を引っ剥がし、
「もういい! 寝るっ!」
私は「よいではないか~」とか言ってる痴れ者から離れ、脱兎の如くベッドへ潜り込んだ―――
~~~~~~
―――しばらくして彼女は寝息を立て始めた。
窓の外、夜空に輝く星を見る。
「もう二時か……通りで眠いハズだわ」
わたしはワインを注いだグラスを傾けながら、一人呟く。
「冷静なように見えてどこか抜けてるのよね」
ベッドで眠る彼女を見ながら思う。
「……まぁそこが可愛いんだけどねぇ」
思い返してみてつい、クスクス、と笑いが漏れてしまう。
もう寝よう。
そう思い、ワインを一気に飲み干して、わたしもベッドへと向かう。
昨夜に続いて今夜まで悪い事をした。まぁ今夜のは彼女から仕掛けてきたんだからノーカンだ。という事にしておこう。
スヤスヤ。と規則正しい寝息を聞きながら、わたしも同じベッドへと入る。
少しからかいすぎたようだ。
今夜も彼女は向かい合って眠ってくれないらしい―――
―――今日は仕返しをしよう。
今朝、大学へ行く前に何気なく思いついた。
私と蓮子は本日も何事も無く大学での講義を終え、私の家で夕食をとり、少しばかりのお酒を飲んだ。
彼女に今夜も泊まっていかないかと提案すると、
「お酒も飲んじゃったしね。お言葉に甘えちゃおうかな」
まるで最初からそうするつもりでいたかのような軽い返事をした。
夕飯の片付けも終えて、私が先にお風呂へ入った後、蓮子が浴室へと向かっていった。
しばらくシャワーを浴びる音が響いていたが、程なくしてこの寝室にまで浴室からの鼻歌が聞こえてくる。浴槽に入って上機嫌になったのだろう。
壁の時計を確認すると、十一時五十分を指したところだ。
もう時期上がってくるであろう友人を今か今かと待っていると、
「ふぁ~、良いお湯だった~」
ガシガシと髪をタオルで拭きながら、寝間着に身を包んだ蓮子がやってくる。
絶妙のタイミングだ。
「ねぇ蓮子。少し話があるんだけど、いい?」
「……どうしたのよメリー?」
「大事な話なの」
如何にも真剣な雰囲気を装って言う。
「……いいけど」
チラリ、と窓の外に目をやってから、
「先に飲み物が欲しいわ。喉が渇いちゃった」
失念していた。
お風呂上がりの飲み物の用意を忘れるなんて。
時計を見て余裕があるのを確認してから、
「ち、ちょっと待ってて」
言って、急いで冷蔵庫のあるキッチンへと向かう。
「慌てなくていいよー」
と、蓮子の声が聞こえてくるが、そういう訳にはいかない。今日を過ぎては意味がなくなってしまう。
食器棚から適当なグラスを取って、そこへ緑茶を注いで持って行く。
寝室では深夜と同じように蓮子が絨毯の上で正座しながら待っていた。
「そんなに慌てなくてもよかったのに」
言いながら澄ました顔でグラスを受け取る。
「えぇ、ち、ちょっと慌てるフリをしてみたの」
流石に苦しい言い訳かとも思ったが、彼女は「ふぅん」と理解したのかしていないのかわからない返事をして、グラスの緑茶を飲み干した。
「もういいかしら?」
「ん……うん、いいよ」
その返事を聞いてから、私は深夜蓮子がそうしたように彼女の手を握り、真剣な眼差しで見詰めて、
「実はね―――」
握る手にほんの少し力を込めて、
「私、マエリベリー・ハーンは―――
―――あなたが好きです」
たっぷり時間を掛けて言った。
時計を確認すると、その長針は十二時の二分前で止まっていた。
してやったりと、彼女の表情を窺う。
深夜の私と同じように呆れたような顔を―――していなかった。
笑っていた。それもニヤニヤと。
そして私から視線を逸らし、窓の向こう側を見て、
「……十二時三分」
耳を疑うような事を口走った。
「え?! で、でも時計は……」
「わたしと時計のどっちを信じるの? わたしの眼の事はよく知ってるでしょ? それに」
彼女は胸元に手を入れて何かを取り出す。
「コレが無ければ時計は時間を刻めない」
その手の平にあったのは電池だ。
私は改めて時計を確認する。
長針も短針も、秒針すら動いていなかった。
「……いつ抜いたの?」
「さっきよ。メリーがお茶を持ってきてくれる時」
「……なんで、わかったの?」
「あれだけソワソワしてれば気付くなって方が難しいわよ」
そんなに解りやすい行動をしていたのかと考え込んでいると、
「さてメリー? わたしもう一回あなたの大事な話が聞きたいわ」
握っていたままの手を、グイ、と引っ張られる。
「ち、ちょっと蓮子!」
「なぁに? メリー」
甘い声を出す彼女に、ってこれでは昨夜のままではないか。
「ほぉ~らメリー。も一回聞かせてくれないとこうしちゃうぞぉ~」
どうすると言うのだこの四月馬鹿め。
「や、ちょっと、解るでしょう! 嘘よウソウソ! 昨日の仕返しをしたかっただけなのになんでこうなるのよぉ~!」
私の顔に頬擦りをする蓮子を引っ剥がし、
「もういい! 寝るっ!」
私は「よいではないか~」とか言ってる痴れ者から離れ、脱兎の如くベッドへ潜り込んだ―――
~~~~~~
―――しばらくして彼女は寝息を立て始めた。
窓の外、夜空に輝く星を見る。
「もう二時か……通りで眠いハズだわ」
わたしはワインを注いだグラスを傾けながら、一人呟く。
「冷静なように見えてどこか抜けてるのよね」
ベッドで眠る彼女を見ながら思う。
「……まぁそこが可愛いんだけどねぇ」
思い返してみてつい、クスクス、と笑いが漏れてしまう。
もう寝よう。
そう思い、ワインを一気に飲み干して、わたしもベッドへと向かう。
昨夜に続いて今夜まで悪い事をした。まぁ今夜のは彼女から仕掛けてきたんだからノーカンだ。という事にしておこう。
スヤスヤ。と規則正しい寝息を聞きながら、わたしも同じベッドへと入る。
少しからかいすぎたようだ。
今夜も彼女は向かい合って眠ってくれないらしい―――
メリーかわいいよメリー。