Coolier - 新生・東方創想話

迷惑を翔る少女達

2010/04/02 14:17:35
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 あー、あー、本日は暗雲なり。
 こんな日はみんなの無駄に余った力が出せる、絶好の天気だ。
 そんなわけで、私ことぬえ・こいし・フランのお騒がせ三人組みで、いつものように博麗神社へイタズラと言う名の襲撃を仕掛ける。
 まあ、私達ならあんなグータラとお茶飲んでるだけの巫女を涙目にするなんて簡単だろう。
 そう能天気に考えてた。
 だけど、どうも本日の霊夢は機嫌が悪いようで、最初っからクライマックス、「夢想天生」をぶっ放して来た。
 かくれんぼ状態で攻撃を試みたこいしとフランだが、健闘虚しくピチュン。
 さっそうと戦略的撤退を試みた私も、残念ながらピチュン。
 適当に御札投げてるだけなのに、なんであんな強いんだあの巫女は。
 しかも、こっちの攻撃は当たらないと来る
 卑怯だぞ、卑怯。
 スペカのルールに異議を申し立てる。
 いや、それでも私達が弱かったわけじゃないんだよ。
 油断しなかったら絶対勝てたよ、うん。
 
 その後、負けた代償として、落ち葉だらけの境内の掃き掃除を手伝わされる。
 みんなでブーブー文句を漏らしたけど、敗者に拒否権は無いらしい。
 本当にひどい巫女だ。
 妖怪よりも勝手気まま。 

「「「後で絶対ギャフンと言わせてやるからね!」」」

 掃除が終わって、帰り際に三人で霊夢に宣言したら。

「はいはい、ギャフンギャフン。もう一つオマケにギャフンギャフン」
 
 凄いお言葉だよ。
 明らかにバカにしてる。
 そんなギャフンに何の価値があるんだまったく。
 
 あまりに悔しかったので、私達は口を大きく開いてあっかんべー。
 負け犬っぽい去り際だったが、それでも元気にあっかんべー。
 それを見た霊夢、追い返すように手を振りながら。

「今度はもっと静かに来なさいよ」

 と、軽い溜息を付きながら言う。
 私達に静かに来いって? それは無理な相談だよ。 
 騒がしくない人生なんて、つまいないじゃん

 気づいた頃にはすっかり夕方。
 さっきまで雲がかかって薄暗かった景色がさらに黒さを増してゆく。
 本来夜は私達、妖怪の時間帯なんだけど、神社で散々暴れた所為で眠くて瞼がトロトロと落ちてくる。
 弾幕ゴッコや掃除で服や体も地味に汚れてる。
 もう帰って寝ようかと思ったけど、

「せっかくだから、今日は私の家に泊まりなさいよ」
 
 と、フランに誘われる。
 断る理由も特に無いし、みんなで紅魔館に泊まる事に決定。

「二人とも眠そうだけど、本来夜は吸血鬼の時間。簡単には寝させないわよ」
 
 フランが威厳たっぷりに豪語する。
 こいしは「楽しみー」と暢気そうだが、私はなんだか嫌な予感がして背筋が凍った。
 紅魔館の夜で、何かが起こる……かもしれない。
 ここまでプロローグね。







紅魔館、フランの部屋にて。

「さて、料理も食べて大きいお風呂に入って、フランの部屋に来たわけだけど……」

 暖かそうな羽毛布団に包まって、死んでいるフランをチラッと見る。

スー スー。
       
     スヤスヤ。
          
         グー グー グー。


「もう寝てるじゃんかフラン! なぁにが吸血鬼の時間だ!」

 今の時刻は夜の十時って所かな。
 良い子は確かに寝る時間だけど、フランは悪の代名詞、吸血鬼じゃないか。
 ギリギリ羽があるから妖怪に見えるけど、無かったらただの幼女だよ。
 無防備に口から涎も垂らしてるし。 

「可愛い寝顔だねフランちゃん♪」
「ん、もう帰ってきたんだこいし」

 トイレに行ってたこいしが部屋に戻ってきた。
 スカートの裾が少し濡れているけど、あそこで手を拭いたのかな?
 本当に、子供っぽいんだからこいしは。

「ところで部屋の外で変な物影を見たんだけど。あれってぬえだったの?」
「いや、私はずっと部屋に居たよ。なに、もしかして怖くなったのこいし」

 からかうように、こいしの腹をグリグリと肘で突っつく。
 そしたらこいしが「むぅ、そんな事ないもん!」っとイジになったように顔を風船の様に膨らます。
 本当にこいしは弄ってて飽きない。

「はぁ、だけどこんなに早くフランが寝ちゃうなんて。叩き起こして上げようかな、まったく」
「やめなよぬえ。フランちゃんも昼間暴れて疲れちゃったんだよ」

 私がフランの羽にあるグミを引っ張ってやろうとしたら、こいしの右手に止められてしまった。
 そしてこいしは、髪形が崩れないくらいの優しい力で、フランの頭に手を添えた。

「よしよし、悪いぬえからは私が守ってあげるからねフランちゃん」

 枕を抱えスヤスヤと寝ているフランの頭を、こいしは宝物を触る様に丁寧に撫でる。
 娘を愛でる母みたいなこいしを見て、不覚にも感心しちゃったよ。
 いつもなら真っ先にフランの事を弄りだすのに。 
 私が悪者扱いされてるのが癪だけど。

「仕方ないなぁ。だけどイタズラくらいはしたい」

 何か無いかと私は辺りを探る。
 そしたらなんと、都合良く私のポケットに油性ペンが入っているではないか。
 きっとこれは神様からのプレゼントに違いない。
 これはやるしかないな、という事で私はガッシリとペンを握り締めた。

「フランの額に『肉』って入れるくらいは許されるよね」
「駄目だよぬえ。もうフランちゃんの額に文字を書く場所なんてないよ?」
「へ?」

 そう言ってこいしがフランの前髪をふわりと掻き揚げると、猫のような小さな額が姿を現した。
 この可愛い額が、今から私のラクガキ帳になるんだ。
 だけど、何かおかしいな。
 フランの額がすでに真っ黒だ。
 なんだろうこれ? と私は首を傾げる。
その黒いのが文字だと認識するのに、数秒の時が経過した。
 
「なんでフランの額にデカデカと『S』って書いてあるのかわかるこいし?」
「私が書いたんだよ。可愛いでしょこれ♪」

 一体いつの間に書いたんだ……。
 惚けた顔して恐ろしい娘だよまったく。

「全然可愛くないよ。むしろ女の子に『S』って悲惨すぎるよ。何か恨みでもあるのフランに?」
「スカーレットの『S』だけど、変だった?」
「なるほど、そっちか」
  
 私は納得した様に、ポンッと一回手を叩く。
 てっきり『S』ってサドの方かと思った。
 いや、どっちも間違ってないけど。
 フランはサディスティック星から来たお姫様だろうし。
 しかし、これフランが起きたら驚くだろうな。
 私が寝たら額に『H』って書かれるのか……。
 うん、寝たら駄目だ。
 まったく、迷惑な娘だよこいしは。
 

シュッシュッシュ。


パシッ。


「ところでぬえ、貴方ずいぶんと里で評判になっているらしいわね」
「お、やっときたか。そうだよ、今凄いんだからね私」
 
 話を切り出すこいしに、私は胸を張って答える。
 いやぁ、里の子供達を驚かして知名度を上げた甲斐があったよ。
 もっとも、あまりやりすぎると聖から熱烈な拳骨を貰う事になる。
 だから、「赤が欲しい」って言われたら唐辛子を、「青が欲しい」って言われたら、青じその入ったケーキを子供にプレゼントする程度に留めている。
 ただのイタズラだって?
 そんな事ないよ、みんな驚愕の顔で私を見つめるし。
 いやでも「これ意外と美味しいよ! ピリ辛、ピリ苦がケーキの甘さにマッチしてるよ! ワァンダフル!」って驚きは何か違うよなぁ。
 お腹満たされるの私じゃなくて子供だし。
 まぁしかし、これでこいしも私を見直すだろう。
 さぁ、早く私を褒めなさいこいし。

「まさか、ぬえがそんな妖怪だったとは思わなかったわー」

 だけど、こいしの見る眼は偉大な私を尊敬する眼差しではなく、なんだか汚いものを見ちゃった顔をしている。
 あるぇ~? 
 気のせい、だよね?
 もしかしてケーキ嫌いだったこいし?

「ぬえって変態だったのね。まさかショタコンだとは思わなかったわ」
「違うよっ! 全然違うよっ! どうしてそうなった!」

 「ぬえが怖いよー」っとワザとらしくブルブルと身を震わせるこいしに、私は檄を飛ばす。
 勢い余って口から唾が飛んだけど、そんなの気にして溜まるか。
 そしたら、こいしは寝ているフランを抱きかかえ、私から逃げるようにそそくさと壁へ後退していった。

「じゃあ、ぬえはロリコンだったのね。私やフランちゃんの事をそんなイヤらしい目で見るなんて……。怖いよぅ、襲われちゃうよぅ」
「違うからっ。変態でもないし、そんなイヤらしい目をした事ないから!」

 私が逃げるこいしに迫ると、大げさに「きゃ~」っと悲鳴を上げ出す。
 これで本当にこいしが怖がってくれるなら私も助かるんだが、こいつの顔はどうみても楽しそうだ。
 なにより私の腹がまったく満たされないよ!
 しかし、こいしは自分がロリって自覚はあるのか、と溜息。
 

シュシュシュ。


バシッ。 


「でも、ぬえは変態さんなんでしょ?」
「違うよ! 変態はあんただ!」
「でも、幼い子供にイタズラするのは、世間一般だと変態って言うんだよー?」
「うーむ……」

 どうすればいいんでしょうかこれは?
 普段は何を考えてるのかわからん癖に、こういう無駄な知識だけは持ってるんだから、とガックリ首を落とす。
 「イタズラじゃない! これはぬえのお仕事だ!」と両手を掲げ喉が張り裂けるくらい天に向かって叫びたかったが、 妙な頑固オヤジ精神を持つこいしには届かないだろう。
 こいしの耳に念仏。
 いや、聖の念仏は私も聞いててつまらないけどさ。
 ならば話を切り替えるしかない、と機転を利かせる。

「こいしは、誰かを驚かすって事しないの? 一応妖怪なんだからさぁ」
「何言ってるのぬえ? 今貴方にしてるじゃない?」

シュッシュッシュ。


バシッ!!!

「むぅ、痛いなぁ。なんでさっきから私の手をひっぱたくのぬえ?」
「むしろ、なんで貴方は私の眼を突き刺そうとしているんだよ」 
 
 「シュッシュッシュ」とさっきからこいしは二本の指を、私の眼球スレスレまで行ったり来たりを繰り返す。
 私の眼球に当たるか当たらないかの直前までを行ったり来たり。
 当然、危ないので私はこいしの掌を潰すように叩き落す。
 そのたびに、こいしは叩かれ赤くなった自分の手にフーフーと息を吹きかけ回復させる。
 手が痛いなら少しは懲りてくれよこいし。
 
「いつ当たるかわからない恐怖って良くないぬえ?」

 あどけない顔で私に質問するこいし。 
 やれやれ、それっていつかは当たるんじゃないか。
 そんなもの、良いわけないじゃん。

「そういうのを幼稚なイタズラって言うんだよ」
「ふーん、ぬえはそういう事言うんだ。うりゃ!」
 
シュッ!
 
ビシッ!

ぬぇっ!

 こいしの親指と人差し指が私の眼球に大 命 中!!
 
「痛っでぇぇぇええ! 何ずるんだこいじぃ!」
「ごめんねぬえ。無意識だから許して♪」
 
 なぁにが無意識だ。
 思いっきり「うりゃ!」って叫んだじゃないか。
 むぅいしぃきぃ~って言えば何でも許されると思うなよ!
 きっと私の眼球は痛みと怒りで真っ赤に充血してるに違いない。
こ れじゃあ赤マントじゃなくて赤目玉だよ。
 青目玉はどうやって用意すればいいんだよ。
 もう自分でも分けわかんなくなってきたよ。

「許さんこいし。一輪に教わった鉄拳をお見舞いしちゃる」

オラッ!

ヒョイッ

ゴンッ!

 私の音速をも超えたと思う剛拳は、こいしに軽く避けられてしまった。
 途中で急停止出来なかった私の拳は、そのまま冷たいコンクリートの壁へと激突。
 多分、怪力に定評があった気がする一輪なら壁ごと破壊するだろうが、私はパワータイプの妖怪ではない。頭脳派なんだ。
 つまり……、壁と熱いキスをしたコブシが凄い痛い。ジンジンするよぅ。
 もうこれ絶対に私の骨逝ったよ、ボッキボキだよ!
 目も痛いし拳も痛いし心も痛くなってきた。
 痛すぎてこのまま消えちゃいそうだよ。
 涙もジワリと出てきた。

「大丈夫ぬえ? フーフーしてあげるから泣かないで」
「……うん」
 
 私の拳を、こいしが心配そうに擦ってくれた。
 ほとんどお前の所為だ! とこいつに文句言ってやりたかった。
 けど、どうせそんな事を言っても無駄なのでやめておく。
 
「ふーふー。痛いの痛いの、ぬえの眼球に飛んで行けー!」
「やーめーろ!」

 眼球にこれ以上痛みが飛んできたら失神するわ。
 だけど、拳の痛みは本当に引いていった。
 こいしの口から出る柔らかい風が当たるたびに、手の痺れが薄れて行く。 
 本当に、痛みがどっかへ飛んでいった。
 こいしの息は、綿飴のようだ。
 ふんわりとして甘い。 

「ほら、これでも大丈夫だよぬえ♪」

 そしてこいしは、チラリと上目遣いで私を見る。
 その優しい笑みが一瞬聖のように見えて、不覚にもドキリッとしてしまった。 
 本当に不覚。

「どうしたのぬえ? まだ痛いの?」
「ん、もう痛くないよ。ありがとうこいし」

 子供っぽいと子供っぽいとばかり思ってだけど、そのときのこいしからは、包まれるような母性を感じて、心が少し安らいだ。
 自分の家に帰ってきたときに似た安堵感。
 こんな一面もあるんだなぁ、と心の中でこいしを褒める。
 しかし、安心したのもつかの間。
 こいしの指がピクリと動く。 

 シュッ!

 ビクッ!

 ニヤリッ

 またこいしに目をやられる!
 そう思ってたじろいだが、こいしは指を少し動かしただけだった。
 こいしが目を突くフリをしただけで私は驚いちゃったようだ。
 なんてこった。

「ぬぇ……」
「ほら、やっぱり怖いでしょ♪」 

 こいしの瞳が妖美に光る。
 イタズラが成功したときの、甘美にも似た表情。
 子供っぽくニタニタとこいしは、驚く私を見て笑う。

「はぁ、やっぱり子供だよ貴方は」

 独り言のように、私は呟く。
 こいしが手を動かしただけで「ビクッ」と目を閉じた私もどうかと思うけどね。
 情けなくて目から血が出そうだよ。
 あまりにも悔しかったので、とっびきりの嫌味をこいしに吐きかけてやろうと想った。
 だけど、こいしの気の抜けた顔を見て私から出たのは、嫌味でもなく悪口でもなく小さな溜息と苦笑いだけだった。

「本当に迷惑な娘だよこいしは」
「ん、うん」

 私がボソリと言うと、こいしが一瞬だけ不安そうな顔をした気がする。
 まぁ気のせいかな、こいしがそんな顔をするわけないよね。





うーん……。

      うーん……。

「ところで、なんかフランがうなされてるんだけど。なんか変な夢でも見てるんじゃないの?」
「えー、そんな事ないよー。可愛い寝顔じゃない」

 いやフラン唸ってるじゃん。額にも冷や汗がダム決壊の如く溢れ出てるし。
 でもおかしいなぁ私のお腹が全然満たされない。
 フランは恐怖を感じてないのかな?

うーん……。
 
    怖いよぉ……。

「ほらぁ、なんか怖い夢でも見てるんじゃないのフラン?」
「おっかしいなぁ、楽しい夢を見せたはずなんだけどなぁ」
「金縛りにでもなってるんじゃないのかこれ」
 
 私がポツリと言うと、こいしが「それは後で……」と静かに呟く。
 後でってなんだよ。
 一瞬見せたこいしのにんまりした悪い表情を私は見逃さなかったぞ。
 絶対何か良からぬ事を企んでるだろ。
  そう私が怪しんでると、フランがまたも苦しそうに寝言を話し出した。

  うーん……。
 
    まんじゅう怖いよぉ……。

       
 もう食べられないよぉ……。

「……なんか放っておいても大丈夫そうだね」
「でしょ♪ おまんじゅうが無限に沸く夢を見せたんだよ!」

 満腹そうに自分の小さなお腹を摩るフランを見て、こいしは仕事をやり遂げたような清清しい顔で、フランの頬をぷにぷにと突っつく。

「ぬえも見たい? まんじゅう食べ放題の夢?」

 私は無言で首を横に振る。
 そんな幻想郷が壊滅しそうな迷惑な夢は嫌だね。
 ヘンテコまんじゅうはロケットで月まで飛んで行ってしまえ。
 
「本当に、ロクでもない事しかやらないんだからこいしは」
「……うん」

 大きく息を吐きながら、私がこいしに向かって言う。
 するとこいしは、私から見えないくらい顔を伏せてしまった。
 おかしいなぁ、もっと反論があると思ったのに。
 「そうだよっ。ぬえにも良い夢見せてあげるよ!」とか言って意気揚々と私を失神させるくらいの事を、こいしはやるかと警戒してたのに。
 まさか、「うん」と一言呟くだけだとは。
 調子狂うなぁ。


 
ふぁ~。
 
    
   ふぁ~。

 
 こいしと私が同時に喉の奥が見えるくらいの大あくび。
 さすがに昼間暴れただけはあって疲れた。
 私のまぶたはもう限界らしい。

「んー、そろそろ私達も寝るか」
「なら私がぬえを寝かせて上げるよ♪」

 こいしが布団の中から、おいでおいでと悪魔の手招きをする。
 嫌な予感しかしない、こいしの事だから普通に寝かせてくれるとは思えん。

「遠慮するよ、私は自分の布団で寝るね」
「私と一緒に寝るのが嫌なの? ロリコンって事がバレちゃうから?」

 どうしてそうなった!
 だいたい私がロリコンだったら、とっくにこいしの布団へダイブしてるだろ。
 いや、やらないけどさ。

「ほら、こっちに来なってぬえ。一緒に寝たら暖かいよ♪」

 なおもこいしはおいでおいでと誘ってくる。
 うーむ、明らかに罠の臭いがプンプンする。
 このままこいしの布団に入ったら、朝起きたときに裸で発見されそうだ。
 けれど、ここで逃げたらまた後で馬鹿にされそうだしぃ。

「しょうがないなぁ。じゃあ一緒に寝るか」
「そうしよ、そうしよ。ほらぬえ、早くこっちにおいでよー」

 フランの隣に敷いてあるこいしの布団に、もぞもぞと入り込む。
 相変わらずフランは唸っているけど「今度はお茶が怖いよぉ~」と、くだらない寝言を発してるので放っておく事に決定。
 フランの顔がヤケに嬉しそうだけど、本当は起きてるんじゃないのかこいつ?
 こいしの布団に入った瞬間、ダブルアタックとか無いよね? 

「ようこそ我がこいしちゃんランドへ」

 私が布団に入ると、こいしが両腕を広げて嬉しそうに歓迎した。
 そのままギュ~ってハグされたけど、いつもの事なので今更驚きはしないよ。
 どうせ逃げられないだろうし……。
 ところで、

「このランドには、アトラクションがどこにも見当たらないけど。何か私を楽しませてよこいし」
「ならこいしちゃんランド名物、くすぐり地獄でも受ける?」

 そんなもん、もう受けて溜まるか。
 私がキッパリと断ると、こいしは「残念」と呟き自分の手を見つめる。

「本当に、迷惑な事しか考えないんだからこいしは」
「……」

 私が断定するように言うと、こいしは何も喋らなくなってしまった。
 何がしたいのだろうかこいしは?
 良くわからないよ。
 しかし、こいしと顔の距離が近いなぁ。
 枕も小さいせいか、こいしの鼻息が私の前髪をふわふわとなびかせる。
 別に、こいしが変態に目覚めて興奮してるわけじゃない。
 本当に狭いんだ。
 ちょっと離れてよ、そう言おうと思ったら、こいしが今まで見せた事の無い様な寂しい表情で、私に話しを切り出して来た。

「ねえぬえ、私の事……どう思う?」

 こいしが囁くように問いかける。
 豪く唐突な質問だね。
 それは私がロリコンだと、まだ疑っての事か。

「ねぇ、私の事、どう想う?」

 こいしの目が、真っ直ぐ私を射る。
 その顔からは、さっきのニヤけた笑みは消え、真剣そのものだった。
 ふざけているわけじゃ、無さそう。

「たまにね、怖くなっちゃうんだ。私のテンションって可笑しいのかなって。みんなに、迷惑かけてるんじゃないかなって」

 自分に問いかけるように、こいしはボソボソとしゃべりだす。
 こいしとの距離が近い所為で、その小さな声も私の耳にはハッキリと聞える。
 
「でもね、楽しくて止まらないんだよ。みんなといると、面白くてどうしても騒いじゃうんだよ。でもね、それでみんなが離れるのは、もう嫌だよ……。独りは寂しいよ。もう誰にも嫌われたくないよ……」

 自分の想いを一気に伝えたこいしが、私の体にそっと抱きつく。
 夜が怖くなって、母に寄り添う子供の様に。
 私が逃げられないような力強さではなく、本当に頼りない力で。 

「真っ白な世界で遊ぶ夢を見るのは、もう耐えられないよ。寝たらみんな居なくなると想うと、怖いんだよ」
「こいし……」

 次々と圧し掛かるようなこいしのコトバに、私は何も返す事が出来なかった。
 なんちゃってね。
 そんな事を想うほど、私はロマンチストでもしんみり主義者でも無い。
 そんな事をこいしが感じてたなんて、想ってたなんてくだらない。
 くだらないくだらない。本当にくだらない。
 こいしの言う事はくだらない戯言だよ。
 そんなくらだない事を考えるくらいなら、明日の朝食のメニューをわくわくと考えた方が何億倍もマシだ。

「迷惑かけてるよ充分。私の目はまだ少し痛いし、心も痛い。こいしはいっつも私に迷惑をかけてるよ」

 隠すことなく、私はこいしにハッキリと言った。
 「こいしは迷惑じゃないよ」なんて嘘は口が裂けても吐けるもんか。
 どれだけ今までやられてきた事か。 
 昨日だって、私の飲んでたお茶に辛子を入れられたし。
 二日前だって死ぬほどくすぐりを受けた。
 三日前には服を一気に脱がされた、しかも外で遊んでるときにだ! 
 一週間前には、後ろから羽をパクリと食べられて痛かったし。
 一ヶ月前だってフランと一緒に私を弄んだじゃないか。 
 その前だって、もっと前だってこいしは私に迷惑をかけてる!
 迷惑だ迷惑、こいしは私にとって凄い、凄い凄いこれ以上ないくらい最高に迷惑! 迷惑だよっ!

「そう、だよね。迷惑、だよね……、ごめん、ね。」
 
 こいしが私の胸に顔を伏せる。
 彼女の小さな嗚咽が、遮られて消えそうなくらい細くなった。
 
「ごめん、ね。本当に、ごめん、ぬえ。」

 それでも、私の耳には透き通るように伝わる。
 まるで、私の心に直接届くように。
 だからこそ、私もこいしの心に伝わるようにハッキリと宣言する。

「だから私はこいしの百倍、じゃあ足りないな。千倍貴方に迷惑をかけてあげるよ。こいしが悪ふざけをしたら私も仕返しする。そんなもんでしょ」

  私達って。
 お互いの傷を舐め合ってその場を誤魔化すような、ヌルい仲じゃないでしょ?
 そんな事を一人で思い悩むような、つまらない仲じゃないじゃん。
 それは、フランも、みんなきっと一緒だよ。
 騒がしくない人生なんて、死んでるのと一緒だって。 

「ぬえ……」
「イタズラは私の専売特許だ。甘ちゃんのこいしなんかに負けてられないよ」

 こいしがゆっくりと私を見る。
 今にも消えちゃいそうな顔をするこいしに、私はキザッぽく笑みを贈る。
 
「本当に私に迷惑をかけたいなら、あと数百年、いや数百万年は私に付きまとわないと駄目だね。まぁ、せいぜい頑張りなさいこいし」

 私が自分の偉大さをこいしに伝えると、さっきまでの寂しそうな顔は消え、またいつもの無邪気な笑みが戻ってきた。
 やれやれ、なんだかんだで子供なんだから。
 寂しがり屋さんなんだから。
 たまには年上らしく、こいしの頭を撫で撫でしてあげるか
 と、想ったけど私の腕がピクリとも動かない。
 それどころか、全身がまったく動かない。
 あれ? なんでだ? 

「ありがとうぬえ。じゃあ私はぬえの万倍迷惑をかけるね♪」

 まったく動けない私を、こいしはドッキリが成功したときに似た悦喜の表情を浮かべ見下ろす。  
 あれ、なんだこれ、なんだこれ。

「騙したなこいしぃ!」
「えへへ、こいしちゃんランド名物、泣き落とし。楽しかったでしょ。オマケに金縛りにかけといたよ。じっくり楽しんで行ってね」
「金縛りって寝ないと駄目じゃないの……?」
「んー、なんか頑張ったら出来ちゃった」

 いいのかそんな適当で。
 それに、さっきまでのが演技だなんてやられた!
 悔しいぃ!
 だけど、

「ねぇこいし、本当にさっきの演技だったの?」
「……うん、そうだよ。決まってるじゃない」

 こいしは言葉を喉に詰まらせる。
 笑っているけど、目は真っ直ぐこっちを見ていない。
 私は、ふとさっきまでこいしがうつ伏せていた自分の服に目をやる。
 そこは、なぜかびしょびしょに湿っていた。 
 予期しない、悲しい土砂降りが降ったかのように、びちょびちょに濡れていた。
 今のが演技か。
 よく言うよ。
 全部本当だったくせに。
 嘘なんて器用な事、不器用なこいしにはできないくせに。
 心が読めない私にだって、そんな簡単な事はわかるよ。
 知ってるこいし? 泣くって笑うより難しい、とても難しい感情なんだって。 
 つまらないと思って聞いてた聖の言葉も、今ならなんとなくわかる気がするよ。
 
「じゃあぬえ、このまま名物、弄り地獄を受けてもらうよ」

 こいしが触手のようにうねうねと指を動かす。
 さて、また私の負けか。
 なんてね。
 さっき言ったでしょこいし、イタズラは私の専売特許だって。

「んー、ありがたいけど。今回は私の勝ちだよこいし」
「へ?」

 背後からこいしの両腕を、何者かがガッチリと掴む。
 まぁ、私はその正体を知ってるけどね。
 すっかり油断していたこいしが、驚愕の顔で後ろを振り返る。
 するとそこには、

「あれ? なんでぬえが二人いるの?」
「いやぁ、最近私も分身の術を覚えてね。外で待機してもらったんだ。本当はフランに使うはずだったんだけどね。すぐ寝ちゃうんだもんあいつ」
 
 都市伝説、紫鏡。
 これで私のイタズラの幅がもっと広がるよ!
 いや、イタズラじゃなくてお仕事ね。

「さてこいし。私に万倍迷惑かけるんだっけ? なら私は億倍こいしを弄ってあげるよ」
「あちゃー、やられちゃったなぁ」

 子供っぽく舌を出し、残念とこいしは呟く。
 けど、何かの重みが取れたように肩を落とすこいしは、とても残念そうには見えなかった。
 こいしの体から悪い憑き物が取れたように、リラックスして微笑んでいる。 

「ところでさぁ。私を押さえ込んでるぬえと、金縛りになってるぬえ。どっちが本物なの?」
「どっちだと思う?」

 クイズのように問いかけると、迷うことなくこいしは動けない方の私と答える。
 もうちょっと悩めよ。
 正解なのが腹立たしい。

「ぬえはマゾだからねぇ。本人が外で待機してるわけないわー」
「勘違いしないでよこいし。主役の私が、物語の外で暇をしているわけにはかないでしょ?」

 臭いセリフを吐きながら笑って見せると、こいしも釣られて笑ってくれる。

「主役なんて調子に乗っちゃって。せいぜいぬえはスライムAが関の山よ」
「そのスライムAにやられるこいしもどうかと思うけどね」
「むぅー。次は確実に召し捕るからね」

 こいしが無念そうに口をすぼめる。
 その表情がアヒルっぽくてクスリと笑うと、こいしは怒ったように、下唇を前へと突き出した。
 悔しそうなこいしの顔は、本当に見ていて飽きないね。
 さて、私の体も金縛りが解けてだんだんと動いてきた。
 反撃開始と行きますか。
 
「ねぇぬえ。私に仕返しなんてやめて、このまま良い話で終わらない?」

 こいしが可愛らしく首を傾げる。
 
「終わらないよこいしちゃん♪」

 私はとびっきりの笑顔をこいしに贈る。
 目の前にあるご馳走をお預けできるほど、私は我慢強くないよ。

「精々次は頑張りなよこいし」

 くしゃくしゃと髪を掻き揚げるように、こいしの頭を撫でる。
 この軽いパーマは家系なのかな。
 お姉さんのさとりも、凄いもじゃもじゃだったしね。

「遠慮なく私達に迷惑をかけな、私は貴方の上を行くから」

 ついでに、こいしの目に溜まっている雫も、私の指で払ってあげるよ。 
 これからも、ずっとね。

「ありがとう、ぬえ」

 私に負けたのに嬉しそうな顔をするなよこいし。
 もっと悔しがってくれなきゃ面白くないじゃないの。
 まぁ、それが貴方らしいけどね。
 その何を考えてるのかわからないこいしの笑顔に、私は惹かれたんだからね。
 こいしが私達に何を見せてくれるのか、予測が出来なくて本当に楽しみだよ。
 ではこの刺激的で魅力的な世界に、感謝するように両手を合わせて、いただきます……。




シュッシュッシュッシュッシュ。


ビクンッビクンッビクンッ。


ぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっ。


ふぁ……。







うーん、今度はぬえとこいしちゃんが怖いよぉ~。

……なんてね、額の仕返しは、また後にするわ。
オマケの霊夢さんが怒ってた理由

文  「霊夢さん! 今日こそ私の新聞を取ってもらいますよ!」
はたて「いいえ霊夢、あんな捏造新聞より私の新聞を取りなさい!」
霊夢 「だーもうさっさと帰れ! この迷惑天狗共が!」
文  「何言ってるんです霊夢さん! 暇で虚しく下らない人生を送る貴方の為に」
はたて「刺激的な新聞を読ませてあげる。そんな私達の親切心が分からないのか!」
霊夢 「まったく、毎日がやかましくて嬉し泣きしそうよ。あんた達のおかげでね」


ここまで見てくださったみなさん、本当にありがとうございます。
ムラサキ
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コメント



0.1270簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
>てっきり『S』ってサドの方かと思った。
『封』獣ぬえということでSealのS、『サ』ブタレイニアンローズのこいしもSということで。
ExならぬS三人娘ですな。
8.90名前が無い程度の能力削除
まあフランちゃんの弾幕は超サドですねw

本当に正体不明なのは花子さん…
9.100奇声を発する程度の能力 in 携帯削除
この三人娘は本当に良いですな!
11.無評価ムラサキ削除
>>ぺ・四潤さん
いえ、誤字指摘本当に感謝してます。
むしろ毎度毎度誤字があって申し訳ないです…
最後のはあえて親指と人差し指にしました。
12.90ぺ・四潤削除
ふらんちゃんの羽のアレはグミだったのかーーー!!
途中のシュシュシュ。バシッ。って本当に何だろうと思ってた。目潰し想像しただけで痛たたたた。 
14.100名前が無い程度の能力削除
こいしちゃんもそろそろ分身が必要ですよね
20.100名前が無い程度の能力削除
序盤のフランちゃんが寝てるあたりのシーンだけでご飯3杯余裕なのは自分だけじゃないはず
23.100名前が無い程度の能力削除
三人娘は何百万年でもちゅっちゅし続けるべき!
24.80名前が無い程度の能力削除
ぬぇっぬぇっぬぇっぬぇっ。
25.100名前が無い程度の能力削除
あのこいしちゃんが弱い所を見せるとは……
ぬえちゃん(フランちゃんもだけど)の事を本当に大切に想ってるからこそですね。
この3人はいつまでも仲良くいるべき。
28.100名前が無い程度の能力削除
ぬえはどの作品でもいじられキャラが定着してるなw
32.100名前が無い程度の能力削除
暖かくていいなぁ
この三人はいつまでも仲良しでいるべき
33.80ずわいがに削除
俺はロリコンでもショタコンでもない。何故なら子供を愛でるのは俺の仕事だからだ!俺の意思じゃないんだ!
ん?いや、別に保育士とか先生ではねーよ。生まれついてのH EROさ。
34.無評価ムラサキ削除
遅れながらコメ返しをさせて貰います
>2さん
S三人娘、なにやら凄いネタが出来そうな娘達です
>8さん
あれは、ぬえちゃんのイタズラという事でw
>奇声を発する程度の能力 in 携帯さん
この娘達は本当にいい子たちです!
>ぺ・四潤さん
いろんな味がありますよ!
>14さん
こいしちゃんならいつか分身できると信じてます
>20さん
フランちゃんが寝てるだけでご飯すら要りません(キリッ
>23さん
何億年でもちゅっちゅ出来ますよね!
>24さん
ぬぇぬぇぬぇぬぇ
>25さん
大好きです。
みんな大切に想ってるからこその三人ですよね
>28さん
カッコイイぬえちゃんもありですよ!
>32さん
この三人ならいつまでも仲良く出来ます
>ずわいがにさん
カッコイイこと言ってると想ったらH EROでお茶吹いたじゃないですかw
40.100名前が無い程度の能力削除
イイネ