もう九月に入ろうとしているというのに、残暑は意固地に居座ったままだった。
時折振る雨もお湿り程度で、とてもでないが渇水を回復できる量ではなかった。
妖怪の山のずっと奥の沢でも渇水は深刻なレベルに達しつつあり、その日その日の生活に必要な水さえ確保が難しくなってきていた。
「まったく、どうしようもないわね今年は!」
「干し神様になっちゃうよ! ねぇにとり、そう思わないかい?」
山の神が二人、揃いも揃って愚痴を垂れている。河城にとりはウン、ウンと適当に頷きながら、プラスドライバーを握る手をもくもくと動かしていた。
「今年は全然ダメね! 頼みの綱の雨も全然降らないし、これじゃあ干上がるのを待ってるみたいじゃない! 諏訪子ぉ、何とかならないのぉ?」
「私はカエルじゃないって言ってるだろ」
「ほら鳴いてみ。ゲーコゲコゲーコゲコ」
「殴るか?」
四六時中、こんな調子であった。あんたたちは神様だろう、文句言いなさんなと嗜めていたのは最初のうちだけで、そのうち研究にも支障が出るレベルでやかましくなってきた。
こんな三文コントを近くでやられていたのではたまらない。
ため息をついて、にとりは分解していた携帯電話を組み立てなおした。どこか静かな場所が欲しかった。
どこか小さな沢にでも潜りこんでみるとするか。沢水ので冷やしたきゅうりでも齧りながら、じっくり機械と向き合うのもいいかもしれない。
わざと誰にも何も言わずに出てゆこうと決めていた。このまま数日間、行方不明になってみるのも悪くない。
にとりはお気に入りのリュックサックにありったけのキャンプ道具を詰めて、さっさと妖怪の山を飛び出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
行き先未定の旅だった。
ミンミンゼミのけたたましい鳴き声をバックに、妖怪の山の中腹を横切る。
途中、獣道でツキノワグマらしき獣と出会ったが、クマは面倒くさそうにこちらを一瞥し、すたすたと去っていった。
暑いのはお互い様、余計なことはするな……そう告げられたらしい。律儀とも、人間臭いとも言えるクマの挙動に苦笑が漏れた。
慣れない山道を四苦八苦して横断すると、どっと汗が出ていた。
袖を捲り上げた作業服はべっとりと濡れていて、頭がぼーっとしてくる。脱水症状にならないのが不思議なくらいだ。
山道を降れば沢があるだろうと辺りをつけて、にとりは妖怪の山を降る。
生い茂るクマザサに足をとられないよう気をつけて進むと、どこかから沢音が聞こえてきた。
沢が近いらしい。夢中で藪を掻き分けると、木立の隙間に滔々とした流れが見えた。
目の前の横たわる川は、幅二メートル、深さは一メートル近くある。
よたよたと川石に腰を下ろして、リュックサックを川辺に置いた。
猫の額ほどだが川原もあり、テントを張れば数日は過ごせそうだった。
川に手を差し込んでみると、心地よい冷たさが全身を癒した。ふーっとため息が漏れた。
石を適当に動かして、縦横五十センチ程の水溜りを作ってみる。持ってきたきゅうりをここに浸けておけば、沢水が天然の冷蔵庫になる算段だ。リュックを開けて、持参した数十本のきゅうりを浸けておく。
これでよし。ほくそ笑んでから、にとりは大きな川石の上に立って川面を覗き込んでみた。
目の前に横たわる流れは緑色に輝き、太陽光をたっぷりと吸い込んでいる。サッと奔ったのはイワナの魚影だろう。それもでかい、尺をゆうに超えた丸太ん棒みたいな奴だ。
よし、いっちょ遊んでやる事にするか。
にとりは汗に濡れた作業服を脱いで、川に飛び込んだ。
飛び込んでみると、改めて沢水の冷たさに驚いた。
水中を見回してみると、深みに沈んだ石の影に数匹の魚影があった。河童の姿に驚いて隠れたつもりだろう。
そうはいくかと内心ほくそ笑んで、にとりは水を蹴った。
石の影に手を突っ込み、右手でイワナを掴み上げた。暴れるイワナの動きは強く、うっかりすれば逃げられてしまいそうだ。
にとりは鰓蓋に指を突っ込んで、水面まで強引に引き上げた。
川原にぶち上げたイワナは、恨めしそうにこちらを睨みつけてくる。尺をちょっと超えているだろうか、鼻が曲がった、なかなか貫禄ある貌つきをしている。今日の夕飯に、嬉しいおかずが増えた。
にとりはクマザサの葉でイワナを包むと、もう一度だけ川へ飛び込んだ。
川魚は、二、三匹捕まえて焼き干しにしておけば、明日でも食べることが出来る。
しばらく川の中を捜索してから、息継ぎをしに水面に戻る。また水を蹴り、川へと沈み込んでゆく。
一匹、二匹とイワナを捕まえて、にとりは水面へと浮上した。
止めていた息を吐き出した瞬間、にとりは川原に人影がいるのを見つけた。
何事かとこちらを向いた顔に驚きが走る。
「……今日は誰もいないと思ったもので」
そう言った男は、顔中を皺だらけにしてはにかんでみせた。
やけに痩せこけた男だった。白髪頭を隠す鍔つきの帽子に、浅黒い肌。年の頃は還暦を越えて少しというところだろうか。
何故か気後れがして、にとりも「……どうも」と頭を下げる。
見たところ、幻想郷の人間ではないだろう。男が手に持っているのは見たこともないような釣竿で、オレンジ色の太い糸が巻かれた糸巻きのようなものが竿尻についている。あんな太い糸に騙されるマヌケな魚がいるとも思えなかったが、にとりは黙って川原に上がった。
「おじさん、どうしてこんなところに?」
「いやぁ、僕は確か川原で昼寝していたとはずなんだけど……」
そう言って、男は辺りをきょろきょろと見回した。
どこかで釣りをしている最中にここへやってきてしまったらしい。面食らうのも当然だろう。
「おじさん、ここにはおっかないのがたくさんいる。早いところ帰ったほうがいい」
警告のつもりで言ったのだが、男は「それはそうだろうね」と頷いた。
「そうれはそう……って、おじさん、誰かに見られたのかい?」
「いや、さっきツキノワグマに出遭ったんだ。ここのクマは人を恐れないらしくて、逃げてくれないんでだいぶ焦ったけれどね……」
「……そういう意味じゃないんだけどなぁ」
え? と訊ね返されても、一体どうやって説明してやればいいのか。
にとりも一応妖怪のはしくれなので、男を喰らおうと思えば喰らうことも出来る。
まぁ、博麗の巫女にどやされるのでその選択肢は採りようがないのだけれど。明日の朝あたり、博麗神社に連れて行ってやればいいか。
にとりは男の横を通り過ぎて、イワナを川原に投げた。
びちびちと跳ね回るイワナを見て、男は目を丸くした。
「おっ、ずいぶんな型だな。お嬢ちゃんが捕ったのかい?」
「お嬢ちゃんねぇ……ま、隠す必要もないね」
適当に言葉を濁すと、にとりは水に漬けてあったきゅうりを取り上げて、一本を男に差し出した。
「食べなよ」
「いいのかい?」
「遠慮するこたないさ……ほら、うまいよ?」
きゅうりを齧ると、みずみずしい香りが口いっぱいに広がった。
謙遜しなさんな。にとりが目で言うと、男はきゅうりを受け取って豪快にかじりついた。
「こりゃなかなかうまい。子供の頃を思い出した」
「へぇ、こんな洒落た食い方したことあるの?」
「そりゃそうさ。あの当時は食べるものなんかなくてね――」
そこで男は押し黙ってしまった。言ってしまった自分を責めているように、ぎゅっと眉間に皺を寄せる。
言いたくないことがあるのだろうと察して、にとりは話題を変える事にした。
「おじさん。今日はどこに泊まるんだい? 生憎だけど、ここはおじさんがいたところからだいぶ遠いと思うんだけど」
「え? ……あぁ、そうだなぁ。困ったことに持ってきた荷物が見つからないんだ。道に上がろうにも迷っちゃったみたいで。ここには大昔に来たことがあるはずなんだけど、すっかり様変わりしちゃったらしいな」
外の世界ではそんなものだろう。何もかもが目を回すほどのスピードで変転してゆく。
男が今立っている場所は、本当に男がいた場所とは違うところなのだが、それすら判断がつかないに違いない。
「じゃあさ、こうしようじゃないか」
「え?」
「交換条件。私はテント持ってきてるから、一晩泊めてやってもいい」
「いいのかい?」
「そうなんでも謙遜するもんじゃないぜ。いい奴話が分かる奴だって娑婆にはごまんといるのさ。……まぁその代わりといっちゃナンだけど」
にとりは男の腰からぶら提げられているものを指差した。え? という風に男は自分の腰に視線を落とした。
「それ、そうそうそのラジオ。そのラジオ、私に貸してくれないかな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
プラスドライバーでカバーのネジを締めると、にとりは選局のつまみを弄ってみた。
妙な引っ掛かりが解消され、選局を示すバーが右いっぱいにまで動いた。
「ほら、直ったよ」
ラジオを手渡すと、男は「凄いなあ、もう壊れたかと思ってたのに」と感嘆してみせた。無論、電源スイッチを入れてみたところで入る電波などないが、それでも男が外の世界に戻ったときには元通りに使えるようになっていることだろう。
「何から何まで悪いなぁ。テントまで貸してもらった上にラジオまで直してもらって。これじゃあ悪いよ」
「いや、珍しい型のラジオだったんでね」にとりは苦笑した。「私は機械弄りが好きなんだ。弄らせてもらった分、感謝ってことでいいよ」というと、男は尊敬の目でにとりを見た。
「こんな年代物のラジオ、もう修理することもないかと思ってクマ避けに持ってきたんだけど。まさか直るものだとは思わなかった」
「あのなぁ、モノってのは直せば使えるようになるんだよ」
にとりは呆れ半分で言った。どうしてこうも、外の世界の人間はモノに無頓着なのだろう。
まだ使えるモノ、まだ直せるモノでも、ちょっと異常が起こればすぐ諦めてしまう。
あんな高度な機械技術を持ちながら勿体無い。贅沢を通り越して不実だとも思う。
詮無いことだとは思いつつにとりがぼやくと、男は苦笑して頭を掻いた。
「いやはや、恐れ入った。ところで、お嬢ちゃんは何者なんだい? 見たところそんなに歳を取ってるようにも見えないのに」
「まぁ、この際だから言っちゃうけれど」にとりはドライバーをリュックに仕舞いつつ言った。
「私はおじさんとはすこーし違う生き物でね。おじさんたちの世界からはとっくにいなくなったはずの種族さ。見ててわからなかったかい?」
そう言って、にとりは男から視線を外し、川原に浮かべたきゅうりを顎でしゃくった。
何を言ってるんだというように怪訝な表情をしていた男の顔が、にわかに真剣になった。
「……まさか、そんな馬鹿な。すると、お嬢ちゃんは――」
「絵本ぐらいでなら、見たことあるだろ?」
よろよろとテントの床に座り込んだ男は、「そうか、まだいたのか……」と何かを納得したように頷いた。
「なんだよ、急に」とにとりが怪訝な顔を向けると、男は少しだけ顔を俯けた。
「いや……なんでもない。ただ、ちょっと感動した」
「感動だって?」
「やっぱり、僕が子供の頃に見たのは間違いなかった」
話が皆目わからなくなった。にとりが「それはどういうことで――」と問おうとすると、男は首を振った。
「言わなくてもいい。これで僕は満足だ」
顔を上げた男は、泣き笑いのような表情でにとりを見上げた。
「お嬢ちゃん……いや、河童さん。君は僕に素晴らしいことをしてくれた。代わりといっちゃなんだが、僕からもお礼をさせてくれ」
そう言って、男はそそくさとテントから出て行った。
「なんだってんだ、急に……」と呟いたにとりの声を、ヒグラシの鳴き声が半ば掻き消した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一時間ほど経過したときだった。にとりが焚き火をかき回していたときだった。
おーい、という声がして、男が踊るように走ってくるのが見えた。
「おじさん、どうしたんだよ急に」
男は膝に手をついて息を整えた。その中にゼイゼイと嫌な音が混じるのが気になったが、男は気にする様子もなく汗まみれの顔を上げた。
「いや、悪かった……勘が鈍ってしまってね。これだけ釣るのに時間がかかったんだ」
ほら、と男は手にした網を示した。
中を見て驚いた。網の中には、型ぞろいのイワナがうじゃうじゃとうごめいていた。
数の方は十数匹もいるだろうか。青白いぬめりを放つイワナは、どれもが丸々と太っている。
「……これ、おじさんが全部釣ったのかい?」
さすがのにとりも絶句する程の数だった。河童ですら、一時間でこれほどの数を仕留める奴は少数だろう。
男は微笑を返事にして、そのままへたり込むように川原に座った。
「いやぁ、久しぶりに疲れたよ。何せ、河童が相手だと粗相も出来なくてね」
「これをどうやって、あの竿で……」
男が背中に担いだ竿を見た。仕掛けは変わっていない。にとりの視線に気づいて、男は苦笑した。
「これはフライって奴だ。毛鉤を飛ばして魚を釣るのさ」
「すると……あぁ、なるほどなぁ」
糸がやたらと太いのにもそれで合点が行く。あの太い糸は糸の重みで毛鉤をリリースするためのもの。
エンジニアのくせにそんなことも気づかなかったのかと、苦笑したい気分だった。
「負けたよ、おじさん。外の世界の人間もなかなか捨てたもんじゃないらしい。食べるんだろ、これ?」
にとりが言うと、男は少年の顔でうんうんと頷いて見せた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ、河童さん」
テントの向こうで、男の声が聞こえた。すでに日はとっぷりと暮れていて、せせらぎの音だけが聞こえてくる。
構わずテントを使えと言うのを、男は頑なに固辞した。河童のすることを邪魔したくないというのがその理由らしかったが、まぁなんともよく分からない理由ではある。
にとりは携帯電話を分解していた手を止めずに「なんだい」と返す。
「僕はさ、子供の頃に河童を見たことがあるんだ」
「へぇ、まだ外に居座ってる同胞がいるのか。我慢強い奴もいたもんだ」
「いや……残念だけど、もういないだろう。なにせ六十年も昔の話だ」
妖怪にとっては瞬きするほどの時間でも、人間にとってはその一瞬は何にも代え難い時間なのだろう。
相応の年季を偲ばせる男の声が、せせらぎの音と交じり合う。
「昔、戦争があってね。僕は北国の田舎に預けられた。ちょうど近くの釣りに行くときだったな。お気に入りのポイントについて、今日は何を釣ろうかなんて考えてたときだった。人の気配を感じて振り返ったら、凄いのがいたんだよ」
そこで男はもったいぶったように一呼吸置いた。
「初めは、近所の悪たれ童が僕を驚かそうとしてるのかと思った。けれどそいつは、僕の顔を見てニターッと笑ったのさ。腰が抜けるほど驚いて、僕は僕を預かってくれていた叔父の家に逃げ帰った。河童を見たって言っても、誰も信じてくれなかったけどね」
くくく、という低い笑い声が聞こえた。その後、男がどうなったのかは想像するほかない。
とんでもない嘘つきだと、拳骨でも喰らったのかもしれない。外の世界では、河童とは既にその程度の存在でしかないのだ。
「そんなことも忘れかけた辺りに戦争が終わって、僕は故郷へ帰った。それから東京に就職して、金の卵って持ち上げられて……それなりに幸せだったよ。このラジオも、初任給で買ったんだ。好きな人が出来て結婚することも出来たし、それなりのお金も手に入れた。家だって建てれたし、車も買った」
トウキョウ、キンノタマゴ、ショニンキュウ……頭の中で反芻しつつ、前後の文脈からおおよその意味を推測する。
男の声は最初のそれよりも低くなっていた。集中して聞いていなければ、せせらぎの音にかき消されてしまいそうだった。
「四十年間、本当に休みなく働いたのさ。そして何が残ったと思う?」
急に問いかけられて、にとりは顔を上げた。
返答しようとして果たせず、にとりが無言を返事にすると、男は「何も、さ」と呟いた。
「何も残らなかったんだよ。車は三台目になっていたし、家も最初より幾分か広くなった。余生を過ごすには充分なだけの蓄えだって出来ていた。けれど、家には誰もいなくなっていた」
ドライバーを握る手が強張り、にとりはテントに映った男の影を見つめた。
「僕から離れていったんじゃない。僕が取り落としてしまったのさ。きっと、いろんなものを落としてきてしまったのだと思う……。落としてから気づくなんて馬鹿馬鹿しいことだけど」
たった四十年。人間と言うものはそんな短い間に、自分が築いてきた全てのものを失うことが出来るものか。
人間がなぜ、ああも簡単に道具を壊してしまうのか、分かったような気がした。
寝袋に横になった男の陰は、自嘲するように言った。
「そこからは畳み掛けるようにさ、悪いことが続いた。何もなくなって、考えることと言ったら子供の頃のことばかりさ。僕は人と同じ生き方をしてきたつもりだったけど、結果は違うものになってしまった。そう考えたら、無性に河で遊びたくなってね……まさか河童と再会するとは思ってなかったけれど……」
そこで男は言葉を区切り、壊れた排水溝のような音を立てて咳き込んだ。
たっぷり一分近くも呼吸を荒げて、男は何かが吹っ切れたように言った。
「けれど、今日ここに来てわかった。このラジオとこの竿だけは取り落とさなかった。僕の手から全てがなくなったわけじゃないとわかったら、それでもいいかなと思えたんだ。ここにきて、それがわかった。感謝してるよ、河童さん……」
「おじさん……」
思わぬところで言われた礼に戸惑うより、生気なくしおれた声で為された懺悔の重さだけが胸に圧し掛かった。
それ以上聞くに堪えず、にとりはやんわりと続きを制した。
「もう寝よう。明日は早い。私がちゃんとおじさんの世界に戻してあげるからさ、寝ておかないとキツいぞ」
にとりはそう言って、弄っていた機械を置いてランタンの火を消した。
「あぁ、そうだな……。悪い、いろいろ話してしまって」
「構わないさ。……それに、イワナ、ありがとうな」
言ってはみたものの、自分でもなんと言ったらいいものかわからなかった。
骨と皮だけの男の風貌、呼吸に混じる嫌な音。そして「悔いはない」という言葉――。様々な言葉がにとりの頭の中で渦を巻いていた。
男が寝袋にもぐりこむ音が聞こえて、にとりもテントの中で仰向けになった。
「おやすみ、河童さん」
そんな声が、やけにか細く聞こえた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の朝、鳥の鳴く声で目が覚めた。
頭をかきむしりつつ身体を起こすと、人の気配が消えていた。
どきりとして、テントを飛び出した。朝露に濡れる寝袋の中には誰もいなくなっていた。
にとりは全てを察した。あれはそういうものだったのだ。
どこかで予期してもいたことだった。昨日だけで、男の全てを見たような気がしたのだ。
寝袋の傍には、あのラジオがあった。それは男の人生全ての決算書であったかのように、ぽつんと残されていた。
竿は持っていってしまったらしい。今頃、ここではないどこかで釣りをしているのだろう。
ラジオを手にとってみる。あちこちへこみ、塗装も剥げている。ボロボロのラジオが、昨日よりも重く感じられた。
おじさん、これ私が使っていいんだよな?
そう訊いてみると、返事の変わりに森がざわめいた。空は今にも泣き出しそうな灰色になっていた。
内容に関して欲を言えば、いきなり消えずに2,3日一緒に過ごしてから消えるって感じでも良かったかな。
こういう終わり方も悪くないけど、ちょっと自分には消化不良気味。
>形態手電話
携帯電話なのでは?
そしてこのラジオはいずれ
人間がああも、なぜ簡単に物を壊す~~の部分がとても良かったです。
あと、私的にはスポポビッチよりもステポポビッチの方が、語感が良いと思います。
……何言ってんだ?俺。
二柱あんま関係なかったけど、いい話でした。
疎開先での河童との出会いというのもなんだかノスタルジック。
ヤムーじゃだめだったんですか……
心地良い寂しさ。良かったです。
ありがちだけど、いいよなあこういうの。
この時期定年を迎えた人を大分見送りましたが、仕事以外にも充実した人生を送れるよう心がけようと思いました。
ところで内容と作者名が合ってねえwww
沢でのにとりライフの描写は厚くて読み応えあった
全体的にはボリューム不足かもとも思う
おじさんの苦労話とその間、疎開先の河童がいかにおじさんの支えになったか描かれていれば
丁度良いくらいではなかったろうか
すっと読める物語というのも楽しいけれど
にとりと男の不思議な出会い。男は色んなものを落としてきたようですが、最後に良いものを拾いましたね。そしてにとりも……良い拾いものだったことでしょう。