昼の人間の里。
周りは買い物をしにきたと思われる人たちでごった返している。
その中に私、鈴仙・優曇華院・イナバはいた。
「えーと、あとは味噌と醤油と…」
私は店を見て回る。
…お、安い味噌と醤油発見。
「すみません、この味噌と醤油ください」
「あいよー!」
店のおじさんが威勢のいい返事をして味噌と醤油を渡してくれた。
代金を払い、里を後にしようとした時、見覚えのある人影が見えた。
緑色の服にふわふわと横を漂っている白い物体。
「妖夢じゃない」
「あ、鈴仙さん」
私が声をかけると魂魄妖夢はぺこりとお辞儀をした。
彼女の腕には手提げのバッグがかかっている。
バッグからは大根が顔を出していた。
どうやら彼女も買い物に来ていたらしい。
「買い物が終わって帰るところかしら?」
「ええ。鈴仙さんも帰るところですか?」
「そうよ」
「だったら途中まで一緒に帰りませんか?」
「私は別に構わないわよ」
私がそう返すと妖夢はわかりました、と言って横に並ぶ。
彼女とはよく話したりするほどには仲がいい。
…まあ彼女との会話の半分くらいは主人の愚痴だったりするんだけど。
私たちはいつものように主人の愚痴を言いあったり、世間話をしながら帰路に着いた。
「最近は剣術の稽古に付き合ってくれる人がいなくて困ってるんですよ…」
「そうなの? 妖夢くらいの強さだったら稽古なんていらないと思うのだけど」
「何を言うんです! 毎日努力してこそ強くなれるんですよ!」
「ごめんごめん、謝るからそこまで怒らないでくれる?」
苦笑しながら私は謝った。
…そうか、継続は力なりって言葉があったわね。
「あ、いえ、こちらこそ興奮しすぎました」
「別にいいわよ」
謝る妖夢に私はそう答える。
「そうですか…それにしてもいい稽古の相手、いませんかねぇ」
「うーん…思いつかないわね」
そもそも幻想郷に剣を使う人なんてこの子くらいしかいないから相手をしてくれる人なんて私には思いつかない。
「あー!」
妖夢がいきなり叫ぶ。
「な、何よいきなり! びっくりしたじゃない…」
「たしか鈴仙さんって元月の軍人でしたよね?」
「え、ええ。確かにそうだけれど」
嫌な予感がする…
「だったら相当お強いんですよね!」
「まあ、月にいたころは部隊の中でも評価はよかったけど。」
「そうなんですか! 私決めました! 鈴仙さん、私の相手になってください!」
嫌な予感的中。
「ええええ!?」
「…駄目ですか?」
うっ…そんな泣きそうな目で私を見ないで…
…しょうがない。
「わかったわ、相手になってあげる」
ふぅ、とため息をついてから妖夢の稽古相手になることを承諾する。
「ありがとうございます! それでは明日とかあいてます?」
「一応あいてるわよ」
「それなら明日の昼くらいに白玉楼に来てください! 私待ってますから!」
そこまで言うと彼女は走り去って行った…
きっと急いで帰って明日の準備をするつもりなのだろう。
…はぁ、あんまり乗り気じゃないんだけどなぁ。
次の日の昼、私は白玉楼に向かっていた。
永遠亭から白玉楼まではそこまでは離れてはいない。
数十分くらい歩くと白玉楼の門が見えてきた。
「こんにちはー!」
中に向かってそう叫びながら門をくぐる。
「あ、鈴仙さん。お待ちしていました」
庭ではすでに汗をかきながら竹刀を振っている妖夢がいた。
「あの、ものすごく汗かいているけど、いったいいつから素振りを…?」
「えーと、朝から…ですかね?」
マジで。
つまり何時間も素振りしていたってこと?
「鈴仙さんとお手合わせできることを考えていると体が勝手に動いてしまって…」
「すごいわよ、あなた…」
私は呆れた。
「そうですか?」
呆れる私と対照的に妖夢は笑顔を返す。
「それよりも、早く手合わせをお願いします!」
「…少し休んだら?」
「いえ、休んだらせっかく暖まった体が冷えてしまいます!」
「そうですか…」
この子、いろいろと凄いわ…
「とりあえず、これをどうぞ」
妖夢は私に竹刀を手渡した。
…実は竹刀よりナイフのほうが使い慣れていたりするのだけど、こんなところにナイフはないでしょうね。
「全力で来てくださいね」
「わかってるわ。というか全力を出さないと負けちゃうだろうし」
…それにしても彼女、ふらふらしてない?
「さて…行きますよ…」
とりあえず気にせずに竹刀を構えた。
「たぁぁっ…!」
一気に距離を詰めた妖夢だが彼女の竹刀が私を捉えることはなかった。
なぜなら彼女は…
「よ、妖夢さん!?」
駆け出してすぐにばたりと倒れてしまったからだ。
「大変…! 彼女を急いで寝かせないと!」
私は彼女を持ち上げて屋敷の中へと急いだ。
急いで布団を敷いて彼女を寝かしてやる。
汗で濡れた服も取り替えたほうがいいのだが、さすがにそこまでするのは気が引けた。
仕方がないので上に布団をかけておく。
「あとは…」
私は洗面所に行って適当なタオルを濡らして絞る。
濡れタオルを妖夢のところまで持ってくると彼女の頭に乗せてやる。
あとはこのまま寝かせておけばよくなるはずだ。
「あ、鈴仙…さん…」
「…気がついた?」
「私、いったい何が…?」
「いきなり倒れたのよ。まったく、あなたは頑張りすぎよ」
「す、すみません…ご迷惑かけます…」
「多分休憩もしないでずっと竹刀ばっか振っていたんでしょ?」
「う…」
図星だったようだ。
「どうやら大当たりのようね…」
「はい…」
「休憩も取らないでずっと竹刀を振るなんて…無茶よ」
「すみません…」
それにしても…彼女をずっとここで一人にさせておくのもかわいそうね。
ここの主人が帰ってきても…面倒を見てくれるかどうか。
「妖夢、今日幽々子さんはどうしたの?」
「幽々子様は紫様のところに行くといっていました…今日は帰ってこないとか…」
…しょうがない。
「あなたが元気になるまで私があなたの面倒を見てあげるわ」
「え、でも…迷惑になりませんか…?」
「いいのいいの、たまには人に甘えることも大事よ」
「じ、じゃあお願いします…」
見たところかなり苦しそうだ。
しばらくゆっくりさせたほうがいいかもしれない。
私は静かに部屋を出た。
私は台所の確認する。
「とりあえずお粥あたりがいいかな」
米はたくさん余っているようだ。
そろそろ夕食の時間帯なので早速調理に取り掛かる。
「早くよくなればいいのだけれど…」
そんなことを呟きながら米を研いで水を入れる。
「後は火にかけてしばらく待てば…」
私はお粥が出来上がるのを待ちながら前に風邪を引いたときのことを思い出していた。
「あの時はみんな優しかったなぁ」
師匠は私のためにお粥を作ってくれたり、姫様は早く良くなってねと言ってくれた。
普段はいたずらばかりするてゐも私の看病をしてくれた。
看病されるということはそれほどに大事だと思われている証拠なんだとその時思ったわね…
そんなことを思い出していると釜から湯気が噴出していた。
「出来たわね」
火を消して中を覗き込むとおいしそうなお粥が出来上がっていた。
「これをお皿に移して…」
小さめのお皿にお粥を移すと妖夢のところへと持っていく。
「喜んでくれるといいのだけれど…」
妖夢が寝ている部屋に静かに入る。
妖夢はまだ起きているようだ。
「さ、お粥が出来たわよ」
「あ、ありがとうございます」
私はスプーンでお粥をすくって妖夢の口へと運ぶ。
「どうかしら?」
「とてもおいしいです」
「ふふ、ありがとう」
それから驚いたことに妖夢は皿に入れたお粥を食べきった挙句にお代わりを求めた。
よほどお腹が空いていたのかな?
「よく食べるわねえ…」
「いえ、実は昼から何も食べてなくて…」
妖夢は苦笑した。
「それに鈴仙さんが作ったものだから…」
「へっ?」
「いや、何でもありません」
今私が作ったものだからって言ったわよね…?
…深く気にすることはやめよう。
「それじゃあ後はゆっくり寝なさいね」
「はい、わかりました」
私は皿を持って部屋を出た。
さてと、食事の後片付けをしなくちゃ。
寝る時間が近づいたので私は妖夢の部屋に入る。
部屋に入ると押入れから布団を出した。
「え、鈴仙…さん? いったい何を?」
「あなたに何かあったときにすぐ対処できるように同じ部屋で寝るのよ。駄目かしら?」
「いえ、むしろありがたいですよ」
「そう、それじゃあ何かあったら気軽に起こしてくれて構わないからね」
私は自分の分の布団を敷きながら会話する。
「ふう、敷き終わったわ。妖夢もゆっくり寝なさいね」
「は、はい…」
「それじゃあ、おやすみなさいね」
私はそう言って部屋の明かりを消すと布団に潜り込んで目を閉じる。
睡魔はすぐにやってきた。
そのまま私は眠り込んだ。
「まさか鈴仙さんと同じ部屋で寝るとは…」
私はちらりと横を見ながらそんなことを呟いた。
かっこよくて優しい鈴仙さん。
今日は自分のためにこうやって看病までしてくれている。
…鈴仙さんの寝顔を見て言うといつの間にか体が動いていた。
少しだけ体が痛むが、我慢できないほどではない。
私は布団から出てゆっくりと鈴仙さんに近づいていく。
「…鈴仙さん。少しだけなら…いいよね?」
私は唇を近づけて…そのまま鈴仙さんの唇にくっつけた。
「!?」
唇をくっつけると鈴仙さんは目を見開いて驚いた。
「よ、妖夢!? いったい何を!?」
「あ、あの、すみません! 鈴仙さんの寝顔を見ていたら体が勝手に・・・!」
「…びっくりしたわよ」
いつの間にか落ち着きを取り戻している鈴仙さん。
「いいわ」
「え?」
「病気は移したら治る…とかいうしね! 一緒の布団で寝ましょ!」
鈴仙さんは顔を真っ赤にしながら言った。
「…はい、それじゃあ失礼します」
私は笑いながら鈴仙さんの布団に潜り込んだ。
「あの…お邪魔じゃなかったですか?」
赤くなりながらもそう尋ねてみた。
「…別にそうでもないわ」
その言葉が終わると同時に後ろから抱きしめられた。
「れっ、鈴仙さんっ!?」
驚きのあまり声が裏返ってしまう。
「私がしたいからしてるの…駄目?」
「え、あの、その…」
私は何も考えられなくなってしまった。
「そうだ、さっきの続きする?」
「さっきの…?」
何のことかと思って振り返ると、私の唇がふさがれた。
「ん…!」
「…これでおあいこね」
彼女はふふふ、と笑った。
「は、恥ずかしいです…」
そう言って目をそらすともっと強く抱きしめられた。
彼女の体温が伝わってくる。
「私はこのまま寝るけど、あなたはもっと好きなことしてもいいのよ?」
「もうっ! やめてくださいよっ!」
真っ赤になって怒った。
そんな私を見て彼女は笑う。
「冗談よ。それじゃあ、お休み」
「あの、今日だけは寝ないで過ごしませんか?」
私の言葉に鈴仙さんはキョトンとした顔をした。
「妖夢がそういうなら…」
鈴仙さんは赤くなった顔でそう呟いた。
「決まりですね」
私は微笑む。
それから私たちは外が明るくなるまで起きていた。
「ほんとに大丈夫?」
「ええ、もう元気ですから」
妖夢は玄関まで私を見送りに来てくれた。
「たぶん、一緒に寝て病気が移ったからじゃないですかね?」
「だったら今度は私が面倒を見てもらう番よね?」
「もし鈴仙さんが倒れたら次は私が看病しに行きますよ」
私たちは顔を見合わせて笑った。
「それじゃあね、今度は永遠亭に遊びに来てよ」
「ええ、行きます。」
「あ、それと」
「え?」
今まで忘れていたが、今思い出した。
「今度こそあなたと稽古をするからね!」
「…はい! 今度は体調を万全にしておきます!」
「それじゃあね」
私はそう言って妖夢に背を向けた。
しばらくして後ろを振り返ると妖夢はまだ私を見ていてくれていた。
「よし、これから妖夢に負けないように特訓よ!」
そう言ってから私は永遠亭に向かって駆け出した。
次もこんなことになるんだったらいいのになあ、と私は走りながら少し思った。
自分はこういうお話は好きです。
ただ、動機付けが不十分で少し不自然に感じる所が多々あったのが残念。
後、こういう話で何度も人物の視点変更すると心情表現が安っぽくなってしまう気がします。
まぁ、素人の感想ですが。ではでは、次回作に期待。
妖夢が倒れるのは良いとしても理由が不自然な気がする、普通は友人が稽古に付き合ってくれるのに、しかもわざわざ白玉楼まで足を運んでもらっているのに、その前に一人でフラフラになるまで稽古して、肝心な時に一合も打ち合う事も出来ないなんて本末転倒です、何よりも相手に失礼だし、そもそも妖夢がそんな事するとは思えないんですよ。
何だか、妖夢の真面目さが見当違いの方向を向いてしまってるような違和感が大きいです。
それと、やはり展開が早いです。
それを除けば、今作もとても良い味してると思います、以前の作品でも感じましたが、甘い雰囲気やセリフは凄く素敵です、心理描写やそこに至る経緯を、もう少し詳しく伝えてくれれば見違えような作品になるかと。
長文失礼しました、色々書いてしまいましたが、自分的には貴方の作品はかなり好きなので毎回楽しみにさせてもらっています!
次作を楽しみに待ってます。
少しずつ直していければ・・・と思っています。
また、毎回楽しみにしていると言うコメント、ありがとうございます!
まさに感激の極みです。
こちらとしても書く意欲がわいてきます^^
これからもよろしくお願いします!
今回も、作品通して悪くないと思います。看病を通じた二人のソフトな恋愛表現とスキンシップの表現などを見る感じでは、表現力は問題になる程ではないと思います。
でも、確かに粗い気はしますがね。ここでいう「粗い」というのは恐らく、この二人に着目した理由付けが薄い事によるのだと思いますよ。事件が始まる前に心情描写をちらっと入れてみるとかすると良いと思いますよ。
ただ、心情描写がもう少し入っていれば良かった・・・と思います。
おや?急に熱が出てきた・・・
もっと登場人物の心情を表現できるように頑張って生きたいです!
何テンパってんだよ二人ともぉ!