一寸先は闇という言葉がある。
それは人生何があるか分からないという意味だが、その言葉が今の私にぴったりなものだった。
「私に、その赤子を育てろって?」
慧音の意図している事がいまいち分からず、私は思わず慧音が言った言葉をそのまま繰り返した。
慧音に呼ばれて慧音の自宅まで行ったのだが、家に入るなり開口一番の言葉がこれであった。いきなりの事で理解しろっというのが無理である。
「そうだ。この前の火事で家族を全員失っているんだ。だから、誰かこの子の親の代わりの育ててくれる人が必要なのだが、それをお前さんに頼みたいと言っている」
「だから、何で私がそんな事をやらなくちゃいけないんだ?親戚とかに任せればいいだろ」
「調べてみたんだが、親戚は誰一人いない。この子の家族は火事でほとんど死んでしまっている。家に住んでいなかった親族も、近年になって全員死去している。この子は正真正銘、天涯孤独な子供になってしまったんだ」
赤子の顔を見た。今は慧音の腕に抱かれて安らかに眠っているが、その寝顔からは酷い運命にさらされているというものは微塵にも感じられなかった。
もっとも、生後間もない赤子にその様な事が理解できるものではないのだろうが。
「引き受けてくれるな?」
「そいつが天涯孤独だって事は分かった。でもな、だからと言って何で私がそいつを育てなくちゃいけないんだ?」
「あの火事からこの子を救いだしたのは、お前さんだ。何か縁の様なものがあるんだと私は思った。だから、お前さんに頼んでいる」
確かに、あの火災現場からこの赤子を救い出したのは私だった。
慧音に用事があって人里を訪れていたが、火事が発生したという急報を受けて私と慧音は現場に急行した。私達が現場に着いた時には、もう手の施し様がないほど火の手は強まっていた。
私は迷わず火の中へと飛び込んだ。そもそも不死の体であるし、火を扱う術も使える。火が怖いと思った事は無い。
だが、私が入った時には既に手遅れだった。既に家全体が炎に包まれ、隣家にまでその火の手が伸びている状況だった。炎に包まれていない場所など、どこにもなかった。
生存者も期待できる状況ではなかったが、それでもと思い、風呂場等の水回りの場所を探してみた。そうしたら、濡れた布に包まれた赤子を一人見つけた。そして、赤子を包んだと思われる人間の遺骸も見つけた。その遺骸は炎に焼かれていて、性別までは判断できなかった。
その後、赤子を抱いて屋根をぶち抜いて脱出したのだが、その赤子が唯一の生存者となってしまった。
「引き受けてくれるな?」
再度、慧音が同意を求めてきた。恐らくは慧音の中では決めているのだろう。私がいくら断ろうとも、無駄な気配があった。
「…私は子供を育てた事は無いぞ?」
「それも分かっている。だけど、お前さんならきっとできるさ」
「途中で投げ出すかもしれないぞ?」
「それは無いな。私が何年お前さんを付き合っていると思っているんだ?」
結局、私は折れる事になった。何を言っても無駄だと悟ったからだ。これも、何年の慧音と付き合っている経験から導き出された結果だ。
「よっかった。引き受けてくれるんだな」
「…無理やり押しつけておいて、よく言うよ」
「まあそう腐るな。それに、私はお前さんが変われるいい機会だとも思っている。お前さんはあまり人と付き合おうとしないからな」
「私の様な人外の存在は、人の輪に混じらないほうがいいんだ」
「お前さんは人間だよ。ただ、死ねなくなっただけだ」
「それだけでも、十分化け物さ」
その後、必要な物や人の乳をどうすればいいのか等の話をした後、私は赤子を連れて家に戻る事にした。
-あれから4年後
どれだけという長い年月を生きてきたが、子供を育てた経験は一度も無かった。この数年は苦労の連続と言っても過言ではないだろう。ほとんど手探り状態で赤子と向き合っていた様なものだった。
だが、そんな苦労をしたせいか、赤子はすくすくと成長していった。今ではよちよちとだが歩けるようにもなり、私が家にいる間はいつも纏わりついてきた。
「もこう~、あそんで~」
「ああ、後でな。今はお前が破いた服を繕っているんだ」
「あそんで~」
「少し待ってろ」
子供を膝に載せながら、服の破れを繕う。少し前までかなりてきとうにしかできなかった裁縫だが、ここ数年でかなり上手にできるようになってきた。これも必要に迫られての事だった。
私の膝の上が気に入ったのか、子供が落ち着き始めた。しばらく私が裁縫をするのを眺めていたが、それが退屈になったのか、いつの間にかウトウトしていた。
「出てきなさい、妹紅!」
突然、家の外から大声を掛けられた。誰の声かは嫌になるほどよく分かったが、とりあえず無視を決め込む事にした。あいつの相手をするよりも、今は服の修繕の方が大事だった。
「う~、だれかきたの~?」
「気のせいだ。もう少しで終わるから、もうちょっと寝てるといい」
だが、しつこく私を呼ぶ声は続いた。罵詈雑言もかなり混じっていたが、次第に何を言いているのか分からないものへとなっていった。本人もそう自覚したのか、声の方も次第に小さくなっていった。
諦めてようやく帰ったのかと思ったのもつかの間、いきなり玄関の扉が勢いよく開けられ、怒り心頭といった感じの表情で乗り込んできた者がいた。
「ちょっと妹紅、いるんだったら返事くらいしなさいよ!家の前でいつまでも大声を出していた私が馬鹿みたいじゃない!」
「なんだよ輝夜、勝手に人の家に入ってくるなよ」
「あんたがいつまで経っても出てこないから、私が代わりに入って来たのよ!」
「どういう理屈だよ」
諦めて帰ってくれればなと思っている一方、たぶんこうなるだろうという予測が頭の片隅にあった。そして、その予測は残念ながら当たってしまった。
「さあ、妹紅。私と勝負しなさい」
「嫌だね。お前と遊んでいる暇は無い」
「またそれ?あんた最近付き合い悪すぎるわよ。この前もそうだったし、この前の前もそうだったし、この前の前の前もそうだったし、この前の前の前の前の…」
「私はこいつの面倒を見るので忙しいんだ。お気楽で暇を持て余している月の姫さんは兎とでも遊んでろ」
輝夜は私の膝に乗っかっている子供に初めて気がついた様子で、怒りの表情を納めてきょとんとしていた。そして、しばらく目を開け閉めするだけで沈黙していた。
「…なに、それ?」
「見れば分かるだろ。子供だ」
子供を指差す輝夜の指先が、震えだした。いや、輝夜の体全体が震えていると表現するのが正しい。輝夜は混乱した表情で、体を震わしていた。
「だ、誰との子供よ!」
「はあ!?」
「だから、誰との間の子供なのかって聞いているのよ!」
「おい、落ち着け!」
「み、みみ、認めないわ。わ、私は絶対認めないから。妹紅が誰かと結ばれるなんて、絶対に認めないから!」
「なにドサクサに紛れて勝手な事を言ってるんだ!」
何やら訳の分からない事を騒ぎ立て出した輝夜をなだめるのに、無駄に苦労する事になった。ようやく話を聞ける状態になった輝夜に事の経緯を説明し、なんとか誤解・曲解を解き、何とか落ち着かせるのに随分時間を要する事になった。
だが、輝夜は落ち着いても睨みつける様な眼差しで子供を見るのは止めなかった。
「ねえもこう~、あのひとだ~れ?」
「ああ、あいつは輝夜っていうんだ。まあ、行ってみれば腐れ縁ていう奴だが、見ての通り頭のネジが何本か抜けている。襲われない様に気をつけろよ」
いつもであれば何か言い返してくるのだが、今日の輝夜は私の挑発に乗ってこない。親の仇でも見るかの如く、子供を睨み続けるだけであった。
だが、そんな事はいざ知らず、子供は輝夜の元へとトテトテと歩いていき、じっと輝夜の顔を見上げた。
「かぐや?」
「ふん、なれなれしく呼ばないでくれるかしら。貴方みたいな子供に名前を呼ばれ筋合いはないわ」
あの子供はまだ言葉を覚え始めたばかりである。早口で言われた輝夜の憎まれ口を理解できなかったようだが、自分の問いに対しての肯定と捉えたようだ。何を思ったのか、ニパッと輝夜に笑いかけた。
「かぐや~!」
急に足を子供に抱きつかれ、流石の輝夜も狼狽したようだった。大慌てで引き離そうとするが、子供に対して力任せにする訳にもいかず、結局どうしていいか分からずにアタフタする様子がいかにも微笑ましいものだった。
「はは、どうやら懐かれた様だな」
「く、この、離しなさいって。もう、覚えていなさい。この私に抱きついてきた事、絶対に後悔させてあげるわ」
「なに子供相手に向きになっているんだよ。大人げない」
「五月蠅いわね。見てないで助けなさいよ」
「おいおい、助けなくちゃならない事態か?」
面白半分にしばらく輝夜の様子を見ていたが、最後まで輝夜は自分の調子を取り戻す事ができなかった。仕方がないのでジャレテいる子供を抱き上げ、輝夜を解放してやると、輝夜はよく分からない捨て台詞を吐いて家を飛び出して行った。
-あれから6年後
子供はすっかり立って歩けるようにもなり、また言葉もしっかり喋れるようになった。そして、最近になっていろんな物が珍しく映るのか、質問攻めにも合うようになった。
恐らくではあるが、順調に育っているのだと思う。
だが、どういう巡りあわせ合わせか、少し前から面倒な事になっていた。
「どうしたの、妹紅?溜息なんてついて」
「ほっときなさい。溜息をつくのが妹紅の趣味なのよ」
「それ本当なの、輝夜?」
私の悩みの種は、私の前で平然と嘘を子供に教えている輝夜だった。何故か最近よく来るようになり、子供とすっかり仲良くなっていた。
「なあ、何でお前がいるんだ?いや、何でお前がそいつと遊んでいるんだ?」
「あら、まさか私がこの子と仲良くしているのに嫉妬したの?」
「そうじゃない。確か、前に後悔させてやるなんて言っていなかったか?」
「忘れたわ。そんな前の事」
しれっとした顔で輝夜は答えた。
確かに初めの方は仇を見るかの如く遠くから子供を睨みつけていただけだったはずなのだが、私の目の届かない所で何かあったのか、いつの間にか打ち解けていた。そして、よく遊びに来るようになった。
そこまでは百歩譲って良かったのだが、
「そんな事よりも、もっとあの子に良い服を着せてあげたら?あの子だって女の子よ。おめかしくらいしたいと思っているわよ」
「そんな事は一度も言ってないぞ?」
「いつもボロボロな服を着ている妹紅に気をつかって言わないだけよ。心の中ではきっとそう思っているはずよ。それに、もっと本とか買って読んであげるべきよ。いい加減教育の事も考えなくちゃいけないわ」
「五月蠅いな。私はあの子が真っ直ぐに育ってくれればそれでいいんだ」
子供について、あれやこれやと言ってくるのが面倒だった。子供の事を大切に思ってくれるのはいいが、口出しをしてくるのは止めてほしかった。
「まったく、どうしてこう妹紅はがさつなのかしら」
「お前が変に気を回し過ぎているだけだ」
「ねえ、貴方。いっそうの事私の家に来ない?こんな家よりも広くて綺麗で、綺麗な服も着れるし、美味しい物も食べれるわよ」
呆れた輝夜が子供を勝手に引き込もうとするが、子供は黙って首を振った。
何故だか分からないが、私は子供に好かれていた。別段何か特別な事をした訳ではない。ただ、真っ直ぐに育つように見守って来ただけだ。
「まったく、妹紅の子も妹紅に似て頑固ね。せっかくもっと良い暮らしをさせてあげるって言っているのに」
「何度も言わせるな。あの子は別に私の子供じゃない」
「血が繋がって無くても、傍からみれば貴方達は立派な親子よ。それに、死んだ親の代わりに育てる事を承知で引き受けたんでしょう?」
「別にその事だったら、全てを納得して引き受けた訳じゃない。ただ、誰もやろうとしなかったから私が引き受けただけだ」
私は預かった子供を自分の子供として扱った事は無かった。子供にもその事は徹底させているし、私の事を母と呼ぶ事も禁じている。
何故親子の関係になろうとしないのか。血が繋がっていないから。腹を痛めて生んだ子供じゃないから。本当の親は別にいるから。理由をつけようと思えば、いくらでもつけれる。しかし、どれも違う様に思えた。
輝夜が何が言いたそうな表情で私を見ていたが、諦めて溜息をつくだけだった。
私はお前の母ではない。お前の本当の両親は別にいる。子供にそう伝えた時の、子供が見せた何とも言い表せない悲しそうな表情が、一瞬脳裏をよぎった。
-あれから8年後
石を拾い上げ、飛礫を放つ。飛礫は寸分狂わずに獲物に当たり、獲物は動かなくなった。
「妹紅、凄い!百発百中だね!」
「お前も練習すればこれぐらいできるようになるさ。まあ、私が先生だとあまり上達しないかもしれないけどな。せいぜい40歩離れた位置までが私の限界だから」
「そんな事は無いよ。妹紅は凄いよ」
私はよく飛礫で狩りをした。術や弾は力加減が難しく、間違えると仕留めそこなったり色々と吹きとばしたり燃やしたりしてしまうのだ。その為、大昔に覚えた技を今も有効に使っている。
仕留めた獲物はその日のおかずに加えたり、里で交換したりしている。
今は用事で里へ行く途中なので、そのまま持っていって後で何かと交換する事にした。里へは慧音に呼ばれての用事だった。
「もう少しで里に着くが、疲れてないか?」
「大丈夫だよ、妹紅。まだちゃんと歩けるよ」
その言葉通り、子供は平気な様子だった。まだ華奢な体ではあるが、見た目よりも体力があるのかもしれない。
里へ行く時は子供を連れていく時もあったが、最近では周辺で狩りをする時も付いてくるようになった。危ないので家で待っていろと何度も言ったが、頑として聞こうとしないので好きにさせていた。
また、子供にせがまれて色んな所へも行った。幻想郷は決して広い訳ではないので、飛んでいけばすぐに行ける様な場所でも、子供は何故か歩きたがる。その為、普段なら直ぐに行ける様な場所でも凄く時間がかかってしまい、場合によっては野宿する事もあった。
だが、この年頃の子どもは好奇心旺盛なのか、むしろ進んで野宿したがる事もあった。川で体を洗って、焚火をたいて暖を取り、その場で取った食材で適当に食事を済ませ、夜空を見上げながら二人よりそって寝るのが大好きな様である。
外を駆けずり回っているので体力がある事はいい事だと思っているが、輝夜はあまりいい顔をしなかった。もう少し知的になるべきだと言って口を尖らせているが、子供が望んでやっている事なのであまり強く言えないでいた。
もっとも、お嬢様育ちにとっては野営が我慢できるものではないので、一人除け者にされているのが嫌なだけなのかもしれない。
里に着いた私達は仕留めた獲物をいくらかの銭に変え、子供に少し分けてしばらく遊んでくるように言い伝えた。里に頻繁に来る事は無いので、子供にとっては珍しい物だらけなのだ。
子供が目を輝かせながら走っていく後姿を見届けたのち、慧音の家へと思う見た。出迎えた慧音は私を家の中へと通すと、直ぐにお茶を出してきた。
「相変わらず安物の茶葉を使っているな」
「妹紅に言われたくないな。今でも出涸らしを平然と客に出しているんだろ?」
「客だからといって特別扱いするつもりはないからな。それに、出涸らしだって悪いもんじゃないぞ?」
「博麗の巫女みたいな事を言うなよ。知っているか、出涸らしでも美味しく飲める方法を研究しているそうだぞ」
あの博麗に巫女ならやりかねないだろう。もっとも、出涸らしにかける情熱を別のところに使えばそんな事態にならないのだろうが。
「ところで、あの子はどうだ?」
「まあ、何とか真っ直ぐに育ってるよ。多少やんちゃで手を焼いているけどな」
「そうか。なあ、妹紅。そろそろ私が開いている寺子屋にあの子を通わせてみたらどうだと思っているんだが」
慧音の用事とはそれだった。私もそろそろその話が来る事だと思っていたので、別段驚きはしなかった。
「そうだな。いい加減、他の子供と遊ぶ事を覚えさせたほうが良いかもしれないな。普段の遊び相手が私の様な人外の存在か、竹林にいる動物だけってのもな」
「言っておくが、寺子屋は遊びの場じゃないぞ。そりゃあ皆で遊ぶ時もあるが、基本は勉強の場だぞ」
「勉強に関しては、輝夜が勝手に教えている。何でも勉強は淑女の嗜みだなんて言って、よく本読んで聞かせているよ」
お陰で私の家に大量の本が山積みとなっている。片付けようとすると輝夜がとにかく五月蠅いのだが、子供も輝夜の勉強を嫌ってはいなかったので自由にさせている。
「そうか、あの輝夜がな」
「どうせ自分と同じ精神年齢の奴を見つけて、仲良くしたがっているのさ」
「それを言うと、輝夜としょっちゅう諍いを起こしているお前も、子供と同レベルの精神年齢という事になるぞ?」
「私は輝夜に合わせてやっているだけさ」
そう言えば、最近輝夜と殺り合っていない事を思い出した。昔は顔を合わせる度に殺り合っていたものだが、最近はめっきりしなくなっていた。
-あれから11年後
家の外で子供が術の練習をするのを私は見守っていた。
最近になって強くなりたいと言い出したのがきっかけだったのだが、私はあまり人に教える事が上手ではないので、ちゃんと教えれているのか分からなくなる時があった。
「ほら、もっと体の力を抜いて。これじゃあ上手く制御できないわよ」
「う、うん。…こう?」
もっとも、頼まれてもいないのに輝夜が当然の様に練習に付き合っているので、子供は確実に力をつけていた。
「まったく、相手は里の子なんでしょう?こんな事をしなくても、私が何とかしてあげるのに」
「あのな、子供の喧嘩に私達が出て行ってどうするんだ」
「この子が怪我をするかと思うと心配なのよ」
「私はむしろ安心したけどな。私達の力に頼らず、自分で何とかしようとするんだ。男の子ならともかく、女の子でこういう気概を持つのはいい事だとおもうぞ」
何故強くなりたいのか。簡単に言ってしまえば、喧嘩に勝ちたいからだった。
慧音の寺子屋に通い出してから随分時間が経った。初めは行く事をもの凄く嫌がっていたが、私は無理に通わす事にした。私と離れる事を嫌がっていたのだが、いい加減他の子と交わる事を覚えなくてはいけないと思ったからだ。
だが、寺子屋に通い続けるうちに他の子とも打ち解け、今では毎日楽しそうに通っている。輝夜が事あるごとにぶつぶつ文句を言ってくるが、これで良かったと思っている。
子供は随分と里の事仲良くやっているようだが、全ての子供と仲良くなれた訳ではない。むしろ男の子相手に衝突する事もあった。
今までにも何度か喧嘩をした事があるそうだが、今度の相手は里のガキ大将で、流石に女の子にとって歩が悪かった。
そんな訳で、打倒ガキ大将の目標を掲げて現在猛特訓中という訳なのだが、
「妹紅もちゃんと術の一つや二つは覚えさせてあげなさいよ」
「子供同士の喧嘩だろ?」
「力で勝てない相手なんだから、技や術で補わなくてどうするのよ」
「相手を打ち負かすくらいなら、もっと簡単な方法があると思うんだがな」
「甘いわね、妹紅。やるからには、二度と歯向かって来れないぐらいに徹底的にやらなくちゃ駄目よ」
輝夜が存外に乗り気だった。危ない事はさせたくないと言いつつも、徹底的に鍛えるつもりだった。私が教えようと思っているのは、せいぜい喧嘩の仕方くらいだ。今は黙って輝夜の熱血ぶりを見守る事にした。
そんなこんなで輝夜の熱血指導が実ったのか、ガキ大将はめでたく討伐されたのだが、ある日ボロボロになって半ベソをかいて子供が帰って来た。
「おい、いったい誰にやられたんだ?」
「…よく分からない人」
話を聞くと、里で美味しそうな桃を分けてもらったのだが、突然見知らぬ者に横取りされたそうだ。子供は抵抗したそうだが、勝負にならなかったそうだ。
「その犯人の特徴をまとめると、髪が青くて高飛車で、付き人に総領主と呼ばれている。それで、最後の捨て台詞が、『悔しかったらいつでも掛かってきなさい』と言っていたのね」
「そういうトラブルの元のような馬鹿は、一人しかいないな」
天界に住むトラブルメーカーの不良娘。よく暇つぶしに幻想郷の住人と諍いを起こしては楽しんでいる困った奴である。
「…暇を持て余して今度は慧音にでも喧嘩を吹っ掛けたつもりなのかな」
「さあ?私はあの天人の事についてよく知らないけど、とりあえず私達を敵に回した事だけは事実ね」
私と輝夜は互いに顔を見ると、同時に腰を上げた。そして、互いに不敵な笑いを見せた。
「どこ行くの?」
怪我の手当てを終えて、ボロボロになった服を着替えた子供が聞いてくる。
「なあに、ちょっと野暮用を思い出してな。夕飯時までには帰ってくるよ」
「直ぐに帰ってくるから、貴方は大人しく待ってなさい。それにしても、子供の喧嘩には口を出さない主義だったんじゃないの?」
「相手が子供ならな。子供の様な精神年齢の馬鹿には、一度灸を据えてやらないとな」
私と輝夜は、そう言って家を後にした。
-あれから16年後
慧音が家を訪れていた。
いつも通り出涸らしを出して対応すると、慧音は苦笑してそれを飲んだ。相変わらずだなと言われたが、お前よりも長く生きた化け物がそう簡単に変わるかと言い返してやった。
それからしばらくの間、他愛もない世間話をした。里の事、昔の事、騒動を起こした奴の事、ボロ雑巾にされた天人の事。話の種にはこと尽きなかった。
「そう言えば知っているか。妹紅のところの娘、最近里では評判になっているんだぞ」
「ん?そうなのか?」
「ああ。狩りとか妖怪退治を請け負う連中の中で、若手では抜群の力を持っているんだ。多彩な技と術を持っていて、それでいてセンスも悪くない。何度若い男どもが挑戦してもまさに鎧袖一触といったかんじだな」
「ふうん、あいつがね」
私は茶を飲みながら、視線を庭先に移した。そこには、件の期待の新人が大の字になって地面に寝転がっていた。
「何やったんだ、妹紅?」
「なあに、稽古をつけてくれって言うから、相手になってやっただけさ。結局、私にただの一撃も加える事が出来なかったがな」
「おいおい、妹紅が本気になったらいくらなんでもかわいそうだろ。妹紅に撃ち込む前に、撃墜されているのが関の山だと思うぞ」
「なあに、あいつに好きなだけ撃ち込ませて私がそれを避けるという事をしていたんだ。まあ、私に当てる前に力尽きて伸びたがな」
最近、こうやって稽古に付き合う事が多くなった。輝夜とも稽古はしているが、どちらかというと術の修練という感じが強い。その為、実戦的な稽古は私がつけてやる事が多かった。
「うう…、何で当たらないの…?」
まだ伸びている状態で娘は呻いた。喋れる程度には回復したのだろうが、まだ起き上がるまでには時間がかかりそうだ。
「年季の違いだな。私はお前よりもずっと強い奴を何人も知っているし、何度も弾幕勝負をしている。それに、輝夜とはもう数え切れないほどガチで殺りあっているからな」
「やっぱり、経験の差か…」
「当たり前だ。術を沢山覚えれば勝てるほど、世の中甘くない。こういう勝負に、何をすれば勝てるというのは無い様にな」
確かに扱う技や術が多彩であれば、相手に合わせて使い分ける事ができるだろう。そうれすれば有利に事を進める事ができるだろうが、まだ相手を観察する目や状況判断能力が未熟だった。それに、技や術の種類が多くても、その一つ一つの練度が若干甘く、確実に使いこなせている訳ではなかった。
「やれやれ、妹紅先生は手厳しいな。それで、熱心な生徒になにかアドバイスは無いのか?」
「気合いと根性さえあれば、なんとかなるだろ」
「今あの子に必要なのは精神論じゃないだろ。もっとましなアドバイスは無いのか?」
実に重要な要因を説いたつもりだったが、慧音が半眼で却下してきた。また、地面にまだ倒れている不詳の弟子も期待を込めた表情で聞き耳を立てていた。
「間合いだ」
「間合い?」
「そうだ。相手が得意とする間合い。自分が得意とする間合い。他にも色んな間合いがあるかも知れんが、それらを理解する事が重要だ。そして、今のお前に足りていない者でもある」
「…精進します」
「忘れるなよ。勝負に必要なのは、間合いだ。あと、付け加えるとしたら、引かぬ心もだ」
私が言った言葉を噛みしめているのか、何度も口に出して呟いていた。だが、あの娘がそれを理解できるにはまだ時間がかかるだろう。
それこそ、何度も実戦を重ねて分かる事なのだ。
「まあ、今すぐ理解しろとは言わんよ。それより、そろそろ水浴びでもして着替えてこい。汗と泥だらけの格好でウロウロしていたら、輝夜がまた五月蠅い事を言い出すぞ」
「はあーい」
疲れ切った体を何とか起こし、娘は着替えを受け取ったら井戸の方へと重い足取りで向かって行った。
「やれやれ、お前の前では今話題の新人も形無しだな」
「当り前だ。だが、実際はたまにハッとさせられる時があるな。どうせ輝夜のいらん入れ知恵だろうが、確かに良いものはもっているな。まあ、せいぜい気長に鍛えるとするさ」
「六面ボスやExボスに鍛えられているんだ。話題にならない訳がないか」
輝夜が聞けば、当然の事だと言わんばかりに胸を反らす事だろう。私もついつい求められるがままに鍛錬に付き合っているが、どこまで彼女を強くするかは考えていなかった。
いずれは私を抜くだろうが。ふと、そんな事を考えてみた。そして、抜くだろうと思った。私の時間は止まっている様なものだが、彼女は常に前に歩き続けているのだ。
-あれから20年後
一つ、面倒な問題に直面していた。
「そろそろ、あの子の結婚の事を考えたやったらどうだ?」
それは慧音が娘の事を少し心配しての発言だった。
確かに、娘は成人の儀を終えている。もう立派な大人だ。そろそろ結婚を視野にいれてもいい頃である。
「結婚、か」
「そうだ。私達には縁の無かった話だが、あの子は普通の人間だ。あの子の為にも、そろそろちゃんと考えてやったらどうだ?」
結婚について、何も考えてこなかった訳ではない。まっとうな人間で娘がちゃんと選んだ相手なら、彼女の意志に任せようと考えていた。
しかしそう考える一方で、心の隅で何かモヤモヤとしたものが出てきて、どこか複雑な気分にもなっていた。この言い表しようのない感情を、自分でも驚いている。
「まあ、あいつがちゃんと選んだ相手なら、誰だっていいさ。あいつ自身の事だ、私達が口を出すべき問題じゃない」
「駄目よ、妹紅。ただでさえあの娘はいろんな連中から言い寄られて困っているんだから、しっかり考えてあげないと。何かの間違いって事もあるでしょうし、最近は表と裏ときっちり使い分けている輩もいるって聞いているわ。あの娘に変な虫がついたら大変よ」
確かに、彼女は里で人気があった。腕っ節に関しては、若手のみならず里で一位二位を争うほどまでに成長しているし、容姿も悪くない。それでいて礼節は身につけているし、誰とでも人当たりが良い。
そんな条件が揃っているので、男女問わず人気があるのだが、よく誘いの話が多くて困っていると漏らしていたのを思い出した。
「じゃあ、どうするって言うんだ?」
「私が出した条件をクリアできた人が結婚相手にふさわしいってのはどう?」
「それはお前が使っていた手段じゃないか」
「あら、私はいい方法だと思わよ。私が丹精込めて育て上げた娘が嫁ぐ相手なんだもの、これくらいの事ができる相手じゃないと駄目よ」
そう言う輝夜の表情は、何故か怖いほどの笑顔だった。そして、彼女が例で上げた条件を聞くと、私と慧音は揃って輝夜の案を却下した。
こんな条件を出された日には、娘は一生独身を貫くしかないからだ。
「あのな、輝夜。お前はよく口うるさい事を言うが、今度ばかりはあいつの意志に任せるべきだと思うぞ」
「じゃあ、あの子が連れてきた相手が、見た目が醜悪で、博打好きで借金抱えて、女癖が悪くて離婚歴があって他の女の子供を持っている、そんなまるで駄目男だけど心が優しいので選びましたってな奴だったらどうするのよ」
「あ、う、そ、それは、だな…」
会った三秒後に消し炭にしているだろう。そして慧音と輝夜を呼んで会議を開いて、娘をこってり絞り上げるだろう。
「ほらみなさい。やっぱり何らかの条件を出すべきよ」
「しかしな、そんな事をすればお前が馬鹿みたいな条件を出して門前払いするつもりだろ?」
「あら、私はそんな意地悪はしないわよ。あの子の夫になるには、せめて魔界に素手で殴りこめるような御仁じゃないとって思っているだけよ」
「その時点で十分無理だろ!」
「なら、私と永琳と妹紅のスペルカードを全部受けて、最後まで立っていられたらってのは?もちろん、命の保証は無いわ」
「保証しろよ!」
「あら、私の可愛いあの子を横取りする様なコソ泥、死んでも構わないわ。むしろ、死になさい。生まれてきた事を後悔させながら殺してあげる」
どんどん感情をどす黒くさせていく輝夜を、私達はとりあえずなだめる事にした。しかし、輝夜の心情が少しばかり理解できる自分に、ただただ溜息をつくしかなかった。
-あれから24年
めずらしく私は酷く落ち着かない気分になっていた。夜が更けても眠れず、あれこれと意味も無い事をボーと考えていた。
こんな状態になっている理由は、恐らく明日に控えている結婚式にあった。もちろん、私のではない。
ある日、男を連れて家に戻って来た。その男は特徴と言えるほど特徴はなく、ごく平凡な男と言えた。が、欠点らしき欠点も無かった。
私も輝夜も、初めは互いに顔を見合わせていた。それもそのはず、これといった特徴が無い男が相手だと言うからである。輝夜の採点基準はそもそも高すぎて話にならないが、私はとりあえず本人の意志を尊重するという態度をとっていた。その私でも、華が無さ過ぎると思った。
だが、話しているうちに私の見方は少し変わった。この男は華が無い分堅実で、真面目であったのだ。かといって酷く石頭という訳でもなく、思考もそれなりに柔軟だった。それに、何よりも真っ直ぐに生きている人間だった。
出会い方もまた、平凡なものだった。男は商家の生まれで、男自身は独立して自ら商いをしていた。片や商人、片や猟や妖怪退治を生業としている荒くれ者。あまり接点の無い二人だが、出会ったきっかけは偶然の様なものだった。
ある日、里の茶屋で偶然隣り合った席に座った事が出会いだという。お互い暇つぶしに簡単な世間話をしていたつもりだったが、いつの間にか意気投合していたようだ。そして、合う回を重ねる毎に互いに惹かれあっていった。
偶然の出会いなのだろうが、陳腐な言い方をすれば運命の出会いというものだろう。恋愛とは無縁の生き方をしてきた私にはよく分からない事だが、結びつくべき男と女の出会いというものはこんなものなのかもしれない。
輝夜は非常に難しい顔をしていた。私も口では本人達の意志を尊重すると言っていたが、心のどこかで酷く複雑な気分に襲われていた。
だが、結局幸せそうに笑いあう二人の姿を見て、私も輝夜も認める方向へと傾いた。
それから輝夜が無理難題を吹っ掛けたり、私も少しばかり力を試してみてついやり過ぎてしまったりと、本当に色々とあったが、それでもめげずに直向きに向かってくる姿勢に私は折れた。輝夜も最後まで文句を言っていたが、最後は勝手にしろと言って横を向いた。
そして、晴れて明日結婚の儀となるのだが、私は眠れずに一夜を過ごそうとしていた。
よく考えて、よく話し合って、その結果結婚を認めた。だが、それでも私の心の片隅にあるモヤモヤが完全に晴れた訳ではなかった。現にこうして今の私の心を蝕んでいる。
もう何度目になか分からない溜息をついた。横では新婦が寝ている。起こさない様に気を付けなければならなかった。
それからどれだけ時間が過ぎただろうか。一向に眠れる気配が無く、私は諦めて外の空気を吸う事にした。起こさない様に注意を払い、障子を開けて縁側へと出た。
竹林の合間から見える月を見上げながら、様々な事が胸に去来した。それも、全てがこの二十数年間の事ばかりである。
結局、口で格好良い事を言っているが、本心は真逆なのだろう。千年以上生きていて、こんなに感情を持て余すとは夢にも思わなかった。
どれぐらい夜風に当たり続けていた頃だろうか。後ろの方で動く気配があった。
「なんだ、お前も眠れないのか?」
「…うん」
娘が私の横に座った。その表情は、どこか照れくさそうな顔をしていた。
「この家で寝るのも、今日で最後なんだよね」
「こんな辛気臭い家でも、愛着があったのか?」
「そりゃ、ずっと住んでた家だから」
娘は、結婚したら里に移り住む事になっていた。新郎の家に住むのではなく、二人で用意した新築の家に住のだという。
その新築の家には、既に家財道具一式が用意されており、後は入居者を待つばかりとなっていた。
「やっぱり、妹紅はここに住み続けるんだよね」
「ああ。私の様な奴の居場所は、こんな場末が似合っているからな。それに、これからはお前達二人で協力し合って生きて行くんだろ。私はただの部外者で、邪魔者に過ぎないさ」
そんな事はない。そう娘は小さく呟いたが、私は聞かなかった事にした。何度言われようと、私の意志は変わる事は無い。それが分かっているので、娘も強くは言わなかった。
それからしばらくの間、また沈黙が辺りを支配した。何か話しかけるべきかと思ったが、話しかけるべき言葉が見つからなかった。それは娘も同じだろう。
「酒でも飲むか?」
「うん」
やっとの思いで出た言葉が、こんな言葉だった。だが、これでいいと思った。
私達が今求めていのは、言葉ではなく、こうして二人でいる時間なのだ。今更言葉は不要だった。
娘が一度家の中に入り、そして酒の瓶と杯を二つ持ってきた。
私は娘の杯に酒を注ぐ。娘も私の杯に酒を注いだ。
そして、静かに杯を重ねた。
-あれから29年
あの娘が結婚したら、また静かな日々へと戻るだろうと思っていた。
輝夜も意味も無く私の家を訪れる事も無くなり、逆に殺し合う為にお互い合う日々へと戻るだろうと思っていた。
だが、現実は予想を簡単に裏切ってくれた。
「ねえねえ、遊んでよ」
「遊んで妹紅」
私の周りには、四人の子供が纏わりついていた。そして、しきりに遊んでくれとせがまれているが、四人が一度に喋り出すので何を言っているのか判別つかなかった。
遊んでとせがまれるだけならまだいいのだが、やんちゃ盛りの為か頭から突進される事もある。しかし、こんな子供に手を上げる訳にもいかず、かと言って叱りつけても大人しくなるとは思えないので、ほとんど収拾がつかない状況となっていた。
「こーら、妹紅が困ってるでしょう。ちょっとは大人しくしなさい」
この四人の母親が子供達を叱りつける。この瞬間、一応皆大人しくなるが、また直ぐに騒ぎ出す。さっきからこれの繰り返しであった。
「ごめんさない、妹紅。この子達は貴方の事が大好きみたいで」
「見れば分かるさ。それに、お前もこれくらいの時はさんざん手を焼かせてくれたしな」
この四人の母親は、結婚した娘だった。二男二女の子宝に恵まれ、こうしてよく私の家に子供を連れて遊びに来ていた。そして、私は子供達にとって良い玩具になっていた。
「はあい、皆元気にしてた?」
私がもみくちゃにされていると、玄関が勢いよく開いて、輝夜が入って来た。手にはお土産らしき物もある。
娘の家族が来ていると、当然の様に輝夜がやって来た。何故お前までいちいち来るんだと言ってやった事があったが、子供達が可愛いからに決まっているとサラッと流された事があった。あれだけ反対しておいてと言い返してやると、もう忘れたときっぱり言われてしまった。
「あ、輝夜だ!」
「ぐや~!」
子供達が輝夜の姿を見かけると、我先にと輝夜に突進していった。当然その先の末路は、先ほどまでの私と同じである。
「こら、ぐやって呼ぶっ…」
変な名前の言われ方をして注意しようとしたが、頭からのタックルを腹に食らって息を詰まらせた。腹を抱えて蹲っていたが、そんな事はお構いなしに子供達が輝夜に取りついていた。
「おー、痛そうだな。だいじょうぶかー」
「お、おお、覚えていなさい、妹紅…」
何故か輝夜に恨まれた。そして、更に何か恨み事を私に言おうとしたのだろうが、後ろから子供達にのしかられてそれどころではなくなった。
輝夜も子供達に人気があり、恰好の玩具だった。
「お前は行かないのか?」
子供達の大多数が輝夜を玩具にしているなか、一人だけ私の膝の上にちょこんと座っている子供がいた。その子は、子供達の中で比較的おとなしい次女だった。
「ううん。妹紅のおひざがいい」
子供がギュッと体を寄せてきて、全身で私に甘えてきた。
子供達にもみくちゃにされている輝夜から目を離し、この子達の母親の方を見る。母親は、輝夜に取りつく子供達に叱責を飛ばしながらも、どこか顔が綻んでいた。
私の腕の中でウトウトしだした次女の顔を見る。子供達の中で、次女が一番母親に顔が似ていると思った。
-あれから38年後
急な上り坂が続いていた。道も整備されたものではなく、獣道である。少しでも注意を怠ると、足を取られかねなかった。
山道のなれた私でも辛いと感じるのだ。十歳そこそこの子供にとってはもっと辛いはずである。だが、私は一度も手をかそうとしなかった。
私が妖怪の山を登り始めてから、すでに二日が経っている。空を飛んでいけば頂上の守矢神社までそんなに時間はかからないところだが、歩いて登ろうとすれば話は別である。基本は妖怪しか住んでないので、人が歩いて上る様にはなっていなかった。
既に山の七割がたは徒破しているが、ここからがまた厳しい山道の連続となる。普通の親なら見るに見かねて手を差し伸べるところだろう。だが、私は今までと同じように手をかさなかった。
その日の夕方、少し早めの夕飯を取る事にした。ここから先は険しい難所である。視界が悪い時間帯に通るべき場所ではなかった。
火を起こし、そこら辺で撃ち落とした鳥を焼いて食べた。山を登っている時もそうだが、食事の時も私と子供の間に会話は無かった。そして、子供は腹が満たされると泥の様に眠った。
この十歳そこそこの子供は、あの娘の長男だった。私が記憶している限り、長男はこんな寡黙な子供ではなかった。誰とでもよく喋り、そして私とも親しく喋っていた。
だが、現に長男は寡黙で、暗さを持った眼差しをしていた。別に私が長男に嫌われた訳ではない。誰に対しても、心を閉じてしまっていた。
四人の子供達の中で、この長男が一番弱かった。恐らくは娘の夫の血を濃く受け継いでしまったのだろう。体が弱い代わりに、頭の回転は兄弟の中で誰よりも早かった。
それはそれで得意不得意というものでよかった。だが、あるきっかけでひ弱な自分にコンプレックスを抱く様になった。
それは数か月前に里で開かれた祭りの時だった。色んな人妖が集まり、そして色んな店が開かれていた。中には私の見知った連中も小銭稼ぎや、単にお祭り騒ぎに乗じる事を目的として店を開いていた。
その店の中で、例の手癖の悪い黒白の魔法使いが、同じく魔法の森に住む人形使いの魔法使いと一緒に魔法の見世物小屋を開いていた。そこでは簡単な魔法の紹介や、人形劇などが行われ、かなりの盛況だったという。
だが、その片割れが簡単な魔法で留めておけばよかったものを調子に乗って大技を見せようとして、盛大に失敗した。後で聞いた話だが、その日に覚えたばかりの召喚魔法を使って、大失敗をやらかしたそうだ。
その結果、祭り会場に謎の化け物が大量に湧いて出て来る事態となった。慧音は当然の事として私も輝夜も子供達に呼ばれて祭りを見に来ていたし、他に幻想郷で強い力を持っている連中もそれなりに来ていた。だが、大混乱している会場はもはや収拾がつかない状況で、なかなか事態の鎮圧ができなかった。
化け物を相手にしている私や輝夜、そして子供達の母親は当然近くにおらず、父親ともはぐれてしまった。そんな状況下で兄弟を守るのは自分の使命だとこの長男は思ったようだ。だが、逆に兄弟に守られて長男は震えているしかなかったのが現実だった。
この日を境に、明るかった長男は変わった。あれこれ自分で試行錯誤をしてみたようだがどれも上手くいかず、そんな不甲斐ない自分に嫌気をさして塞ぎ込むようになった。
そんな長男に、両親や他の兄弟(ついでに輝夜)は何とか手を差し伸べようとした。だが、微妙な年頃の為か、そのどれもを長男は拒んだ。
こういった悪い状態は放っておくとどんどん悪くなっていくもので、周囲の心配を余所に更に塞ぎ込むようになり、そして次第に心を閉ざしてしまった。
私はそんな状態の長男の姿に見かねて、山登りに引きずり出した。もちろん途方に暮れている母親の相談を受けてでもあるが、とにかくこれ以上悪くなる前に手を打っておきたかった。
だが、今私のしている事は山を登っているだけで、別段なにか特別な話をしている訳ではない。ただ、山を登り続けているだけだった。
翌日、日が昇り辺りが明るくなり始めた頃、長男は起き出した。この頃の子供は回復が早いのだろう。昨日までの疲労は微塵にも感じさせず、朝食に出した焼いた獣肉に勢いよく食らいついていた。
朝食が済めばまた山道である。ここから先はずっと厳しい道ばかりだ。流石に私も肩で息をしていた。長男は、もっと辛そうに息をしていた。
それでも、昼食まで一度も休まなかった。そして、昼食が終わったら直ぐに山登りを再開した。整えた息が、また荒くなってきた。そして、後ろからは獣の様な荒い息が聞こえてきた。
いったいどれぐらい登ていたのだろうか。時間の感覚など、とっくに無くなっていた。その為、視界が急に開けた時、日か既に傾き始めていた。
そして、ここが山頂でもあった。
「ここ、が、山頂…?」
「ああ、そうだ。ここが妖怪の山で一番高い所だ」
遠目に、守矢神社が見える。そして、その手前には一緒に移って来たという湖も見えた。
湖ごと無理やり移って来たという事で、山頂は随分と広い範囲で平たくなっていた。初めて来る者にとっては、ここが本当に山頂なのか疑いたくなるのも分からない話ではない。
私達は見晴らしのいい場所へと歩いていった。長男は相変わらず肩で荒い息をしていたが、周りを見て興味を覚えるぐらいには楽になってきたようだ。
「夕日が、綺麗だ…」
長男の表情は、憑き物が落ちた様な晴れた表情をしていた。山を登っている間は何も考えずに必死で歩き続けてきたのだ。この三日間は負の感情から解き放たれていたといってもいいだろうが、それだけではない。
「なんだ、やれたじゃないか」
「…?」
「私はあえて厳しい道ばかりを選んできた。大抵の奴は途中で根を上げるが、それでもお前はちゃんと登りきったじゃないか。もっと胸を張れ。誇っても良いんだぞ」
初めは何の事か分からに様子だったが、次第に長男の目が輝き始めた。そして、表情は喜びに満ちたものに変わっていった。
「僕、やれたんだね」
「そうだ。お前が途中でへばったら置いて行こうかと思ったが、現にこうして私と一緒に夕日を眺めているだろ?」
何か大きな事をやり遂げるという達成感が、長男の心を変えたのだ。そして、それは劣等感を抱いていた長男の心に、自信という光をもたらした。
「ありがとう、妹紅!」
「感謝される筋合いは無いな。私はただお前の前を歩いていただけだ。お前がお前自身の力で登ったんだ」
長男は、自分が変わる為に大きく飛びたかったのだ。だが、何を飛べばいいのか分からず、そのきっかけも掴めていなかった。だから私はそのきっかけを与えただけに過ぎなかった。
「俺、やれたんだ…」
小さく長男が呟く。僕が俺に変わっていたのを私は聞き逃さなかった。
翌日、長男を伴って紅魔館を訪れた。と言っても、館の中に入るのではなく、門にいる奴に用があった。
「はあ、稽古をつけてほしいんですか?」
「そうだ。そこにいるへなちょこに拳法を教えてやってほしい。見ての通り力も体力も無いへなちょこだが、根性だけは一人前だ。ちっとやそっとの事じゃ、根は上げないぞ」
「別に私じゃなくて、妹紅さんが鍛えて上げればいいじゃないですか。確かに私は拳法を修めていますが、力も術も妹紅さんの方が上でしょう?」
美鈴が疑問に思う事はもっともである。そもそも長男の母親をじっくり鍛え上げたのは私と輝夜である。彼女みたいに鍛え上げればいいと誰もが思うだろう。
「私が今のこいつに教えれるのは喧嘩のやりかたぐらいなものだが、そもそも運動神経がまるで駄目だ。教
えようにも教えようがない」
「それを私にどうにかしろって言うんですか?」
「体の動かし方の基礎から教えるって事は私にはできない。だが、拳法家のお前だったらそういうところから教えれるんじゃないかって思ってな」
「そりゃ、かたとか足運び等を教えるんですからできますけど…」
美鈴が渋い顔をするのも分からない話ではない。厄介事を押しつけられるだけで、彼女になんおメリットもないからだ。それに、上司の顔色もある。
「なあ、頼むよ。一日一時間でいいんだ。それに、お前暇だろ?」
「失礼な。私はちゃんと門番という仕事があります!それに、そんな事していたら咲夜さんに何て言われることか…」
「ああ、その点なら大丈夫だ。咲夜にはもう話はつけてある。」
長男を妖怪の山に連れて行く前に、既に咲夜には話をつけてあった。少し面倒な話になるかと思っていたが、案外簡単に了解を得られた事は今でも覚えている。
だが、そんな事前準備も、長男が前を向いていなければ何の意味もなかった。どつぼにはまった心では身に着くものも着かないだろうが、この三日間の苦労が実って事前準備は無駄に終わらずに済んだ。
「でも、門番の仕事がありますし…」
「安心しろ。お前がそいつに拳法を教えている間は、私が代わりに門番をする」
「え、妹紅さんがですか?」
「そいつを一人でこんな場所に置いて帰る訳にはいかないんだ。私だってそいつが稽古をしている間は暇なんだ」
それからもあれこれと文句を言う美鈴だったが、咲夜が認めている事もあって、結局引き受けてくれた。
それからしばらくの間、紅魔館に侵入しにくくなったと黒白の魔法使いがおおいに愚痴り続けていたという。
-あれから53年後
夢を見ていた。半世紀近くも前の酷く懐かしい夢だった。
小さな子供がいた。何をするにしろ、五月蠅く付きまとって来る子供だった。そして、何故かしつこく来るようになった輝夜がいた。
そもそも私の家は広くない。だから、三人もいれば狭く感じる事が多かった。だが、そんな窮屈感もいつのまにか悪くないと感じる様になった。
そして…
「…ぐ、お、重い」
とんでもなく窮屈な感じがして、思わず夢から覚めてしまった。否、窮屈とは生易しく、何か巨大なものに押しつぶされた感じと言った方がよかった。
その感覚は間違いではなかった。目が覚めると、まず身動きが全く取れない事に気がついた。そして、誰かに圧し掛かかられている事の気がついた。
「お、お前ら…いつのまに…」
5、6人の子供達が私を枕にして寝ていた。腕や腿に頭をのせている子供もいれば、腹部に頭をのせている子供もいる。頭だけではなく、上半身を覆いかぶさる様にうつ伏せになって寝ている子供までいた。
拘束されていない首だけを起こして自分が今おかれている状況を確認したが、もはや絶望的な状況だった。恐らくはこの状況は夜が明けるまで続くだろう。
思わず舌打ちをした。この様な状況になる事を、この家に寝泊まりする事になった時点で想定しておくべきだった。
この家は私の家ではなく、あの娘とその夫が住んでいる家だった。今日はあの娘の誕生日であり、毎年一族揃って誕生日を祝っていた。
私まで呼ぶ必要は無いと断っていたが、娘と夫、その子供達、そして今では孫達にもせがまれて、なんだかんだと言って毎年私も参加していた。もっとも、参加しているとは言っても、黙って酒を飲んでいるか、余興で笛を吹いたりするくらいだった。
今日の祝の席は深夜まで続いた。深夜まで何をしていたかと言えば、ただたんに酒宴が盛り上がっていただけの話だが、酒の飲めない年頃の子供連中を早々に寝かしつけ、後は大人の時間を皆酔い潰れるまで堪能していただけであった。
皆が酔い潰れて酒宴が終わった後、その後始末と言う事で自力で床まで行けない連中を布団まで運ぶと、こんな夜遅くに家まで帰るのが面倒になってこの家に泊まっていく事にした。そしてその選択をしたのが運の尽きだった。
もうすでに寝てしまっているので大丈夫だろうと甘く見ていたのだが、はたしてあの娘の孫達に押しつぶされる結果となった。一緒に寝たいと言うのは私としては構わないが、こういう状況だけは勘弁してほしかった。
結局、鶏が鳴き、日が昇ってしばらくするまで、私は潰されたままだった。当然、この様な状況下で眠れる訳も無く、家に帰った後は長時間昼寝をする事は既に決定事項となっていた。
孫達の拘束から解き放たれ、痛む手足をさすりながら居間へ行くと、目の下にクマを作た輝夜が茶を飲んでいた。
「よう、酷い顔だな」
「妹紅だって酷い顔よ。まるで岩に押しつぶされた夢を見て飛び起きた様な顔をしてるわ」
「何だ、お前のところにも行ったのか」
長男から四女まで、全員が子宝に恵まれていた。その為、あの娘の孫達は十人以上はいるのだが、昨晩はその半分が私の部屋に来て、後の半分が輝夜の部屋に行ったという事なのだろう。
ちなみに、輝夜も毎年呼ばれていた。
「なあ、庭に出て茶でも飲まないか?なんだか無性に広々とした青空の元に出たい気分なんだ」
「奇遇ね。私も背筋一杯自由に伸ばせれる広い空間に出たいと思っていたとこよ」
お互い、深い溜息をついた。こんな事がまだ続くかもしれないと思うと、溜息しか出なかった。
-あれから58年後
空は快晴だった。一点の雲も無く、サンサンと輝く太陽が照りつけていた。
だが、私達の表情は完全に真逆のものだった。
「家の中に入らないのか?」
慧音が庭で一人たたずんでいる私を見つけて近寄って来た。慧音はいつもの服装ではなく、黒一色の喪服を着ていた。
「家の中はあいつの家族や妻方の親族、それに友達や知り合いでごったがえしていて、とてもじゃないが入る気になれないな」
「だが、もうお経は始まっているんだろ?」
「別れだったら、もう済ませてきた。私がするべき事は、もう何も残っていないさ」
昨日の夕方、あいつの遺体の前で黙祷を捧げた。たったそれだけだが、それが私流の分かれのしかただった。
「それより、あっちの用事はすんだのか?」
「ああ、子供は無事意識を取り戻したよ。今は親が付き添っているから、私は急いで戻って来たという訳だ」
それだけを言うと、慧音は家の中へと消えていった。そして、また私は一人になった。
あの娘の次男が死んだ。天寿を全うした訳でもなく、また病気でもなく、事故だった。
昨日の夕方、夕飯に使う調味料が切れていたので、ちょっと近くの店まで買い出しに行った。だが、その帰りに川で溺れている子供を発見し、助けようとして川に飛び込んだ。そして、そのまま帰らぬ人となった。
次男は運動ができる癖に、泳げなかった。その為、小さい頃私が皆を川に連れて行っても、一人絶対に川へ近づこうとしなかった。
だが、そんな次男は優しい性格だった。子供が溺れているのを見て、水への恐怖よりも助けなくてはいけないという使命感が勝ったのだろう。だから無謀にも川へ飛び込み、そして溺れてしまった。
運が無かったと言えばそれまでだろう。今日も昨日も晴れているが、一昨日まで雨が降っていた。その為、川の水量は増え、危険な状況となっていた。そんな時にたまたま通りかかったら子供が溺れていて、そして周りには誰もいなかった。巡り合わせとしか言いようが無かった。
「だから、あれほど泳げるようになっておけって言ったのに…」
嫌がる次男を泳げるようにさせる為に、無理やり川に叩きこんだ事は何度かあった。泳げなければいつか後悔する事があると何度も行ったが、そんな事は絶対にないと言い張り、結局泳げるようにならなかった。
翌日の夕方、次男が埋葬された墓に行った。墓は里の墓場ではなく、次男が好きだった場所に造られた。
その場所は里から少し離れた位置にある小高い丘で、その昔私が次男を連れて幻想郷を歩きまわった時に発見した場所だった。春には桜が咲き誇り、里も一望できる事もあって、次男は直ぐにその場所を気に入った。
墓の前で手を合わせ、線香を上げようとした時、まだ火が残っている線香がある事に気がついた。どうやら、私の前に誰か来ていたようだ
腰を上げ、周りを見回してみた。少し離れた位置の大きな桜の木の元に、数人に人影を見かけた。次男の女房と、その子供達である。皆、背を向けて何かを見ていた。確かあの位置からは下の里がよく見えるはずたっだ。
私は声を掛けようとして、止めた。沈みゆく夕陽に、次男の女房と子供達が映し出されている。だが、その場にいるのは彼女達だけではないと私は思った。もう一人、次男がいる。少なくとも、彼女達にはそうだった。
家族揃って沈みゆく夕陽を見ている。そんな時間を私は邪魔する事はできなかった。
-あれから72年後
目を覚ますと、すでに日は昇っていた。普段はもう少し早く起きるのだが、昨日の夜更かしが効いたのかもしれない。この分では、既に朝食は終わっているかもしれない。
欠伸を噛み殺し、少しついた寝癖を適当にいじり、私は居間へと移動した。やはり朝食は終わってしまった様で、居間では食後のお茶を堪能している長男と長女、そして次女の姿があった。
「おはよう。私の分は残ってるか?」
「あ、おはようございます。大丈夫ですよ、ちゃんと取ってありますから。今準備をしますね」
長女がパタパタと居間から出て行った。残った長男と次女が私に挨拶をする。私は空いている場所に適当に腰をおろし、私の湯飲を探した。口を開けて寝ていたらしく、喉が酷く乾いていた。
「今日は随分寝過ごしましたね」
「昨日は随分と昔話に花を咲かせてしまってな。気が付いたら日付が代わっていた。お陰で朝寝坊と洒落こんでしまったが、起こしてくれてもよかったんじゃないのか?」
「起こしましたよ、何度も。何度呼びかけても、何度体を揺すっても起きないんですから、終いには諦めてしまいましたけどね。それに、母さんも寝たいだけ寝かせておけって言ってましたし」
「やれやれ、薄情な奴らめ。私はそんなに簡単に諦める様に育てだ覚えは無いぞ」
私が冗談交じりに苦言を呈すると、長男も次女も笑って受け流した。そして、次女が私の湯飲に茶を注ぎ、私はそれを飲んだ。ここら辺の空気は何年経っても変わらなかった。
ただ変わった事と言えば、長男と次女の席の間に、常に開いている席がある事だった。それは次男の席で、今でもその場所に誰も座る事はなった。
次男の事はもう何年も前の事で、この席の事についても既に見慣れたものになっていたが、違和感だけはいつまでも消えなかった。
「そう言えば、輝夜の奴はもう来たのか?」
「いえ、来てませんね。でも、昨日帰り際に何かビックリするような物を持ってくると言われていましたから、今日も多分来るとは思いますが」
「あいつそんな事言っていたのか。あいつの言うビックリする物が、ろくな物だった試しがないからな。変な物を持って来なければいいんだが」
たまにサプライズプレゼントと称して、輝夜は珍妙な物を持ってくる事があった。そのどれもが見た事のない珍しい物だったが、中には何らかの力が込められた物も含まれている事もあって、酷い目に合う事もあった。
他には香霖堂なんかで仕入れる事もある様で、その場合は大半が使用方法不明のガラクタばかりだった。それでも持ってきて皆を驚かしたり、感心させるという目的は達成されるのだが、目的が達成されて不要になったガラクタを私の家に置いて行くのは止めてほしかった。
ちなみに、その大半は香霖堂に再度売りつけたりしているが、たまに河童の連中にくれてやる事もある。
朝食を終えると、私は娘の部屋へと行った。娘の部屋は小ざっぱりとしており、整理整頓が行きとどいている。この辺は昔から何も変わっていなかった。
「よお、お前の方が先に起きるとはな。体力は年寄りに負ける事は無いと思ったんだがな」
「年を取るとだんだん早く起きる様になってしまうだけよ。この年になると、それだけが取り柄になっているようなものね」
それから私達は昨日の続きを始めた。思い出話と言うものはきりがないもので、一度話し始めると止まらなかった。私と娘は出会ってから70年以上経っている。話のネタなど、それこそ一日話しても足りないぐらいあった。
ひとりしきり談笑を続け、そろそろ昼飯にちょうどいい時間となった。喋っているだけでも腹は減るもので、私の腹は大きく唸りを上げた。その腹の音を聞いて娘は大笑いし、私も苦笑するしかなかった。
「ありがとう、妹紅」
私の腹の音が会話に一区切りをつけた。そして、互いにしばらく沈黙を守っていたが、娘の次の言葉は感謝の言葉だった。
「何の事だ?」
「この一週間、私のそばにいてくれた事よ」
さっきまでの楽しい空気は一変して、重たい空気が辺りに流れ始めた。私は思わず舌打ちをしたくなった。
「別に感謝される事は何もしていない。何をした訳でもなく、私はただこの家に厄介になっていただけだからな」
「あの人が逝って、心にぽっかり穴が空いてしまったわ。あの子達と孫達が必死になって私を励ましてくれたけど、それでも私の心はがらんどうのままだったわ」
娘の夫が、一週間前に死んだ。病気でもなく、怪我でもなく、事故でもなく、老衰だった。
もともと体力は無い方だった。それでも元気に今まで過ごしてきたが、少し前から目に見えて衰え出した。初めは少し体調でも崩したのかと思っただけだが、ほんの少しずつ、だが着実に彼の命の炎は萎んでいった。そして、気が付くとハッとするほど痩せていた。
そして、一週間前の朝、娘がいつもの様に夫を起こそうとしたが、ついに夫は起きる事は無かった。
「何て言えばいいのか分からないけど、あの時何か切れた感じがして、そしてひどく疲れた感じがしたわ」
娘の夫が死んだとの知らせを受け、私は直ぐに娘の元へ行った。そして、私は酷く憔悴しきった娘に驚いた。
外面だけを見れば、気丈に振るまって葬式の手はずを整えている様に見えた。だが、眼光にまったく力は無く、足取りも酷く鈍いもので、私は今までにこんな様子の娘を見た事は無かった。
「でも、妹紅がずっとそばにいてくれた。それだけで、本当に助かったわ」
「何か特別な事をつもりはないがな」
「別にそばにいてくれるだけでいい。そばにいてくれるだけで、妹紅の温もりが伝わって来たわ」
次男が死んだ時も、流石にかなりのショックを受けていた。だが、その時には最愛の夫がそばにいた。そして、互いに支えながら立ち直った。
だが、その夫が死んだ。今度は支える者がいなかった。子供達は孫達がいるが、どこか頑なところがある娘の性格からして、支える事はあっても支えてもらおうとはしないだろう。現に、気丈を装って、子供達や孫達を心の中まで踏み込ませなかった。
だが、娘には甘える相手が必要だった。だから私はこの一週間娘の家に寝泊まりし、寝食を共にした。
「だから、本当にありがとう、妹紅」
私を見つめる娘の目は、以前程ではないが力を帯びていた。
「…もう大丈夫か?」
「ええ、何とか。あの人がいないと思うと、今でも胸が張り裂けそうだけど、何とか裂け目を縫い繕う事ぐらいはできる様になったわ」
「一応、輝夜にも礼を言っておけよ。なんだかんだとやかましい事を騒ぎ立てていたけど、あいつもお前の事が心配だったんだ」
「分かってるわ。毎日のように来てくれて、年長者がシャキっとしていないくてどうするとか、淑女たるもの毅然としていなければならないとか、だから年下の相手じゃなければ駄目だって言ったのに、とか色々言っていたけど、いつも目は凄く心配そうにしていたから」
輝夜は輝夜で、あいつなりに娘を励まそうとしていた。だが、そもそも姫様育ちの輝夜が人に世話をしてもらう事はあっても、人の世話をする事は殆ど無かったと言っても過言ではないだろう。娘や子供達、その孫達の世話をしてはいたが、私達の感覚からすればつい最近になっての事だ。
そんな訳で空回りの多い輝夜の激励だったが、付き合いの長い娘にはちゃんと届いていたようだ。
「そっか。もう大丈夫か」
「心配を掛けてしまったわね。でも、まだ大丈夫じゃないって言ったら、もう少し甘えさせてくれるかしら?」
「馬鹿を言え。それよりも、昼飯を食いに行こう。今度はちゃんと遅れない様にしないとな」
私と娘は腰を上げ、居間の方へと向かった。娘のその足取りは、もう重くは無かった。
-あれから84年後
もう日が沈みかけていた。真っ赤な夕日が辺りを薄暗い赤色に映し出していた。何となく、今の気分を代弁している様な気がした。
私は静かに娘の部屋へと入った。娘は、蒲団の中で横になっていた。
「なんだ、起きていたのか」
「何となく、妹紅が来てくれる気がしたから」
私も、何となく娘に会いに行かなければならない気がした。だから、こうして私はこんな時間に娘の家を訪ねていた。
「少しは動いているのか?まったく動かないってのは、逆に体に悪いぞ」
「もう、健康に気を使う年でもありませんよ」
「そんな年だから健康に気を使うのさ。そうじゃないと、周りの連中が逆に気を使って大変だろ?」
それもそうね、と言って娘は笑った。ただ、その笑う顔はハッとするほど痩せ細っていた。
それからしばらくの間、私達の間には言葉は無かった。シーンと静まり返る部屋の中に、外の虫の音だけが響いていた。
娘が、顔だけをこちらに向けてきた。
「最近ね、よく昔の事を思い出すの。私が小さかった頃、よく妹紅に色んな所へ連れて行ってもらった事とか、輝夜に色んな事を教えてもらった事とか」
「なんだ、年を取って暇になると、昔の事しか思い出さないのか?」
「そんな事しかやる事がありませんから。でも、本当に楽しい思い出ばかりだわ。あの人の事とかあの子の事とか色々悲しい事もあったけど、私は幸せだったわ」
よせよ、そんな締めくくった様な話は。そう言ってやりたかったが、どうしてもその言葉が私の口から出せれなかった。
「ねえ、妹紅。貴方から見て、私はどうでした?」
「手間ばかり掛けさせられたが、真っ直ぐに育ったと思うよ。私の様な捻くれ者の傍にいて、よく真っ直ぐに育ったなとも思う」
「妹紅は口で言うほど捻くれていませんよ。確かに口は悪いけど、妹紅の背中はいつも真っ直ぐに伸びていたわ」
娘と、目が合った。私は思わず目を逸らしたくなったが、逸らしていい状況ではなかった。逸らせば、必ず後悔する事も分かっていた。
「色々と失敗したけれど、私は悔いの無い人生をおくれたと思うわ」
「それは何よりだ。お前、いつもやりたい放題やっていたからな」
「でも、一つだけ心残りがあるの。 私が逝ってしまったら、妹紅が凄く悲しむんじゃないかって。それだけが心残りなの」
私は一瞬、何と言っていいか分からなかった。
娘は寿命が尽きかけていた。そして、自分だけでは起き上がれないほど衰えていた。もう残された時間が無い事は、誰の目にも明らかだった。
そして今日、分かれの予感があった。だから私は娘の元へと来たのだが、いざとなると言葉が出てこなかった。
「馬鹿を言え。私がどれだけ長く生きてきたと思っているんだ。知っている人間が一人死んだくらいで、一々悲しんでいたらきりがない」
こんな事しか言えない自分に腹が立った。もっと、気の効いた言葉があるだろうと思うが、こんな言葉しか出て来なかった。
娘は、そうか、と小さく呟いただけで、またしばらく沈黙が辺りを支配した。
別れの時が迫っている。それが分かっていながら、何を言っていいのか分からなかった。
娘が、目を閉じた。そのまま二度と目を開かないのではないかと思いにかられ、止めろ、と思わず声を出したくなった。
「妹紅、今まで本当にありがとう。貴方のお陰で、私も、私の家族も、本当に楽しかったわ」
「私は散々な目に合ったがな。あれだけ人を玩具にして、実は嫌われているんじゃないかと疑ったくらいだよ」
「私も含めて、みんな妹紅の事が好きなのよ」
娘が、目を開いた。それだけでほっとした気分になったが、目の光は更に弱いものへとなっていた。
「ねえ、妹紅。貴方に謝らなくてはいけない事があるの」
「おいおい、こんな時にか。なんだ、言ってみろよ」
「今まで、妹紅を束縛し続けて御免なさい」
私は思わず歯ぎしりをした。逝くという別れの言葉よりも、この言葉が一番娘から聞きたくなかったからだ。
「本当は妹紅は自由奔放な人。確かに体の事や輝夜の事もあるけれど、それでも貴方は気ままに生きている事が似合っているわ。そんな貴方を、私は束縛し続けてきた。血の繋がっていない私をを育てる事によって、貴方は自由を失った」
「私は、別に」
「本当はもっと早くに妹紅から離れるべきだった。あの人と結婚した時が一番いいきっかけだったと今でも思うわ。でも、できなかった。妹紅のそばにもっといたい、妹紅にもっと甘えたいってどうしても思ってしまったの。あの子達には厳しい事を言ってきたけど、言っている本人がこんなに心が弱いんだもの、母親失格ね」
やめろ、そんな言葉を聞きたかった訳じゃない。何度もそう言って怒鳴りつけてやろうと思った。だが、かわりに何と言ってやればいいのか、分からなかった。
「だからね、妹紅。私が死んだら、私の事を忘れてほしいの。私の家族の事も含めて何もかも忘れて、自由に生きてほしい。そうすれば、貴方が私達のせいで悲しむ事も無くなるから」
娘が再び目を閉じた。言いたい事を全て言い尽くして、もう力が残っていないのだろう。
何かを言わなければならなかった。理屈とかそんな事を抜きにして、娘に私の全てをぶつけなければならなかった。今そうしなければ、恐らく一生私は私を許さないだろう。
「ふざけるな。お前を忘れろだと。散々手を焼かせてくれて、子供や孫の面倒まで見させておいて、今更忘れろだと」
言葉が見つからずに言うに言えなかった心の内を、憤怒と一緒に吐き出す。
そんな私の言葉を聞いて、娘は再び、ゆっくりと目を開けた。
「確かにお前は頑固で融通が効かなくて苦労した事が何度もあったし、やんちゃで言葉よりも先に手が出て面倒事はよく起こした。忘れてしまいたい記憶もあるくらいだ」
娘はじっと私を見つめている。私も娘の目を見返した。
「だがな、お前は卑怯な事は一度もしなかったし、嘘もつかなかった。里で育った連中より、お前は誰よりも真っ直ぐだった」
娘が息を飲んで私の次の言葉を待っていた。私も、次の言葉だけは言わなければならなかった。
「だから、お前は私の自慢の娘だ。血が繋がって無くても、お前は私の娘だ。自分の娘を忘れられる訳がないだろ」
お前は私の娘だ。この言葉はもう何十年も言えないでいた言葉だった。いや、言う事を私自身がどこか恐れていた言葉だった。
「お母さん…」
見ると、娘の目から涙が流れていた。
「よかった。やっと言えた。お母さんって、やっと言えた」
それは、娘の心の底から発せられた言葉だった。
「御免な、こんな情けない母親で。私も、母親失格だな」
私は娘の頬に手をやった。その手に、娘の手が伸びる。もう昔の面影をどこにも残していない、痩せ細った手だったが、その温かさは昔と何ら変わっていなかった。
「お母さん」
母という言葉を噛みしめる様に、娘は呟いた。何度も何度も呟いた。そして、その声は次第に小さくなっていった。
「お母さん…」
今度の呟きは、聞き取れないぐらいか細いものだった。
部屋から出ると、既に太陽は山の影へと隠れていた。まだほんのり明るいが、直ぐに暗闇が辺りを支配するようになるだろう。
「あの子は?」
部屋の外には、輝夜がいた。その目は既に赤かった。
「眠ったよ。子供の様に無邪気な笑顔で、眠りについた。きっとあの世でいい夢でも見ているんだろうよ」
輝夜は肩を落とすだけで、何も言わなかった。そして、黙って部屋の中へと入って行った。
しばらくして輝夜が部屋から出てきたが、入る時と同じように沈黙を保っていた。だが、輝夜の肩が微かに震えているのを私は見逃さなかった。
「今更だよな」
しばらく二人して庭先に目を向けていたが、何となく私は喋り出した。
「何が?」
「情けない話さ。今の今になって、お前は私の娘だって言う事ができた。たったそれだけを言うのに、何十年もかかったんだよ」
輝夜が、私の方に視線を向けた。その目は、まだ赤く腫れていた。
「怖かったんだろうな、私は。娘と呼ぶぐらい情の移った人間と、いつかは別れなければならない事が。だから私は適当な理由を作って母と呼ぶ事をあえて禁じてきたし、私達は親子じゃないって初めから宣言もしていた。赤の他人だったら死別してもまだ辛くないなんて、勝手な事を思ってさ」
「本当に馬鹿よね、妹紅は。傍から見れば、貴方達は立派な親子だったのに」
「ああ、本当に馬鹿だった。母と娘と呼び合っていなくても、あいつとの絆は本物以上だった。つまらない小細工をしたところで、この悲しみから逃れる事はできないのにな」
結局、私は逃げていたのだ。あの娘から背をそむけ続け、いずれ来るだろう悲しい現実を見ない様にしてきた。
私が心から面と向き合っていなかったのだ。あの娘も私の背中しか見れなかっただろう。死ぬ間際、私の背中が…、と言った事を思い出した。
「でも、悲しんでいるわりには、妹紅は泣かないのね」
「あのな、お嬢様育ちで永琳や鈴仙なんかと一緒にずっと暮らしてきたお前と一緒にするなよ。そりゃ山中に籠っていたけど、それでも人との付き合いは無かった訳じゃない。これでも、別れは何度も経験してきた事だ。それこそ、他人の為に流してやる涙が枯れ果てるくらいにな」
「そっか、こういう事も経験ってことね。私も、あとどれぐらい経験すれば、平然としていられるようになるのかしら」
「何度別れを経験したって、悲しくならない事があるものか。死んでいった奴らは残酷だ。私達にしっかり跡を残して行くんだからな。そのくせ当の本人はもう死んでいるんだから、文句の一つも言えない。できる事と言えば、悲しんでやる事ぐらいだ」
生きている者が、死んだ者に対してできる事など何もない。あえてできる事があるとすれば、忘れずにいてやる事だ。そして、悲しんだり偲んでやる事だった。
「あいつの次男も、あいつの旦那もそうだったが、本当に死んだ連中は勝手だ。心が重くなって仕方がない」
「そうね。今なら妹紅が人里離れて暮らしている理由がよく分かるわ。ちょっと人間を遠ざけている理由も」
「こんな悲しみを背負いたくなければ、初めから出会わなければいい。出会ってしまっても、深く関わらなければいい。そう思っていなければ、やってられなかったよ」
この不老不死者の宿命とでも言うべき業を、私は何度呪った事か。この道を選んだのは私だが、選んだ私ごと私は何度も呪った事があった。
日か完全に沈み、辺りは暗闇となった。だが、今日は満月がよく見えている。月明かりだけで十分輝夜の姿を視認する事ができた。
だが、会話は続かず、互いにまた沈黙が生まれた。
「あの娘の死に顔、とても綺麗だったわ」
夜空に昇る満月を見ながら、輝夜はポツリと言った。
「そうだな。最後まで笑っていた」
「妹紅は遅すぎたって言ったけど、でもちゃんと間に合ったじゃない。だからあの娘も笑顔で逝く事ができた」
「そうだな」
「なんか、悔しいわね」
そう言って輝夜は踵を返し、私に背を向けた。
「なんか無性に腹ただしくなってきたから、帰るわ。あの子達にも会って何か言おうかと思ったけど、そんな気分にもなれないから、よろしく伝えておいて」
「…次男坊の時みたいに、また何日か部屋に籠るのか?」
「五月蠅いわね、私が何をしようと勝手でしょう。落ち着いたら線香の一つでも上げに来るって伝えておいて」
そう言い捨てて、輝夜は立ち去った。そして、私は一人取り残された。
「結局、私に最後まで残るものは、輝夜ぐらいなものか」
命あるもの全て、いつか死ぬ。それは人間だけではない。寿命の長さは比べ物にならないが、妖怪もそうだ。そして、白沢の慧音もそうだろ。
慧音もいつかは死ぬ。今までそう考えない様にしてきたが、そろそろ向き合う必要があるかもしれない。
「あの、母さんは…」
気が付くと、長男が私のそばに来ていた。長男だけではない。長女も、次女も、その孫達も来ていた。皆、何かに導かれる様に部屋の前に集まっていた。
「…逝ったよ」
「そ、そうですか…」
「何をしょぼくれている。早く別れを済ませてこい。そうしたら通夜の準備だ」
「分かりました…」
「最後ぐらいシャキっとしろ、シャキっと。お前らがそんな調子だったら、あいつがおちおち死んでいられないだろうが」
私や家族の事を忘れろと言ったが、絶対に忘れてやるものかと思った。
お前の家族の面倒は、私が見てやる。だから安心して眠りにつけ。私は心の中で、娘に語りかけた。
里にある一族が住んでいた。いくつにも血統が分かれていて、辿るのも馬鹿らしくなるほどだったが、そんな彼らはある時期になると一つの場所に集まり、宴会を開いていた。
元々は誰かを偲ぶものだったそうだが、時が流れるにつれてその意味合いも薄れ、一族の交流会へとなっていった。
そんな大人数で開かれる大騒ぎの宴会に、常に一人の少女が参加していた。どれだけ月日が流れようがその容姿は変わらず、人間ではないと危ぶむ者がいるかもしれない。だが、彼らは一様に少女の事を慕っており、いつも少女は輪の中心にいた。
そして、もう一人。どこかのお姫様の様な少女も必ず参加していた。先述の少女と仲が悪いのか、よく喧嘩を始めようとするが、皆彼女の事も慕っていた。
そんな彼女達はやはり子供達にも好かれており、よくもみくちゃにされていた。二人はなんだかんだと言って悪態をついたが、それでも子供達の好きな様にさせていた。
この光景は、今も昔も変わらない光景だった。そして、これからも変わらないだろう。
別れがあったりと、とても惹きつけられました。
最後の娘との会話で「お母さん」と呼んでくれたこと、妹紅の心情など、悲しいこともありましたが素晴らしいお話でした。
脱字の報告です。
>痩せ細った手だったが、その温かさは昔と何ら変わていなかった。
『変わって』かと。
>>「忘れるなよ。勝負に必要なのは、間合いだ。あと、付け加えるとしたら、引かぬ心もだ」
この台詞は某ナムコゲーからの引用ですかね
目から何かが溢れてくるよ…
誤字報告
>そこら辺で撃ち落とした取り
そこら辺で撃ち落とした鳥
涙腺が刺激された。
不躾ですが誤字、脱字などが目立ったので、一度見直してみてはいかがでしょうか?
慧音の思惑通り、一人の孤児を育てることで妹紅は変わったのですね。
久しぶりに良いものが読めて嬉しかったです。
誤字報告
>そして、また私は一人になた。
→一人になった。
読んであの娘のそういった一部を見た気がします。
そして娘は日が沈んで道が消えるまで突っ走ってくれたと思います。
最後に
長く勝手なこと書いてすいませんでした。
受け継がれる血と絆って、これも一つの永遠だと思うのですよ。
そんな永遠を見つめ続ける永遠の少女たちの物語。素晴らしいお話でした。
あなたの幻想郷はとても、とっても暖かいですね
よかった、かと
それでも、敢えて点数を付けるなら、100点減点して900点!!!
素晴らしかっです。
すばらしい作品でした
うん、いい話だ
よくぞ書ききって下さった。素晴らしい。
時間は止められないけれど、別れは重いものだけど、それでもやっぱり人間の傍に居続けたい妹紅と輝夜は、本当に優しい心を持っていると思います。
物語性はとても良かったです。こういう話は好きですね。満足です。
他の方も言ってますが、誤字の多さがちょっと気になりました
「別れ」のはずが「分かれ」になってる所が二箇所あったり、「博麗の巫女」のはずが「博麗に巫女」になってたり
妹紅や輝夜にとってのこの一族は
ゆかりんや萃香にとっての幻想郷みたいなものなんだろうなあ
よくを言えば娘の成長にもっと焦点を当ててほしかったり、
…長編になってしまそうですが
すばらしい。
冒頭から悲しい終わりになる予感がしていましたが、
決して悲しいだけではない結末が、心に響きました。
それと輝夜がすごく生き生きしていて、見ていて楽しかったです。
ただ、誤字がちょっと多いですねえ。
せっかくの話がもったいない。書ききるだけでも相当な気力が必要なのはわかりますが、
あと少しだけ推敲にも力を入れてほしいかった。
私が何年お前さんを付き合っていると思っているんだ? → お前さん「と」、あるいは「に」
よっかった → よかった
いっそうの事私の家に来ない? → いっその事(いっそうという古い言い方もあるのでしょうか)
そして、今のお前に足りていない者でもある → 物
彼女になんおメリットもないからだ → 何の(なんの)メリットも
血の繋がっていない私をを育てる事によって、貴方は自由を失った → 「を」が一つ多い
なんか無性に腹ただしくなってきたから → 腹「だた」しく