Coolier - 新生・東方創想話

東方葬送花 ~弐~

2010/03/29 17:49:18
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「幽香っ! 遊びに来たよっ!」
森の奥から呼ぶ声が聞こえた。
振り返って姿を見る必要も全くない、幽香にとってその娘は日常の一部といってもいい存在。
捨てられた人の形の、成れの果て。
完全自立可動の奇跡。
鈴蘭の呪い。

メディスン・メランコリー

「あれぇ~・・・? どうしたの、幽香?」
ピョコピョコと軽快な足取りで近づいてきたメディスンは、幽香の傍まで来ると同時に体も表情も凍りつく。
「・・・なんで、人間の死体なんか抱えてるの?」
裁定者から説教されて幾分丸くなったものの、未だに自身を捨てた人間という種族に対して極度の嫌悪感を感じずにはいられない。
それが自身を動かす原因であり、原動力でもあったから・・・
その上同じく人間嫌いの花の妖が、その死体を大事そうに膝に乗せている光景は俄か以上に信じ難い。
「しかも死んだばっかのやつ。」
「・・・ええ、そうね。」
なんででしょうね、幽香はとぼける。
自分の中ではすでに答えは出ている。
単純で、それでも思いは重い。
今は、それに浸るも一興。
「・・・メディ、少し・・・頼まれてくれないかしら?」
「それに関係あるの?」
冷めた目で死体を指差す。
友人の頼みでも、大嫌いな人間に関することには極力関わりたくない。
例え世界を知れと言われていたとしても・・・
「フフ・・・、仕方ない子ね。」
言って、色鮮やかな花柄の風呂敷で包まれた何かをメディスンの目の前に差し出した。
何かが包まれていることは明白だが、見ただけでも質量がほとんどなさそうな中身。
「これを、あのなまぐさ船頭まで届けてくれない? 何も訊かずに・・・」
「やだぁっ! これってそれのでしょっ!?」
案の定拒否されたが、若すぎるせいで区別がまだできていない。
たとえまだ生まれて間もない妖怪でも、れっきとした妖怪である以上、風呂敷で見えなくても中身を看破できる。
口の端で微笑みを浮かべながらため息を吐き、亡骸を静かに丁寧に地面に横たえさせる。
それさえ不服そうに顔を歪めて見ているメディスンに釘を刺す。
「これはもうそれのものではないの。往き場なんてどこでもいいけど・・・」
「じゃあその辺に捨てとけばいいじゃない!」
幽香はクスクス笑った。
メディスンは不貞腐れた顔になる。
「あのサボり魔には一生懸命仕事してもらわないといけないのよ。この前みたいにこんなのがうようよ湧いて出てきて、スーさんの近くに集られるの、あなたも嫌でしょ?」
「むぅ~」
論破成功。
人を殺すより容易い。
「なんで幽香が持ってかないの?」
「私はこっちの処分。ここにあっても邪魔だからスキマ婆あたりにでも引き取ってもらうことにするわ。今からだと神社に居そうね。」
「面倒だし肥料にしちゃえば?」
「こんなの肥料にしたって花達にとって毒にしかならないわ。それに、ここに置いておくのも正直目障りだし、腐られると一層迷惑。」
そこまで言うと、幽香は靴のつま先で止めとばかりに死体を、さも汚らしそうに小突いた。
メディスンは嫌々ながらも風呂敷を受け取る。
「お願いね。帰ってきたら取って置きのお菓子をご馳走するわ。」
「うっ、うんっ! 急いで行ってくる!」
気分を良くしたのか、嬉々として歩いていこうとするメディスンに、もう一つだけ頼みごとをする。

「あっそうそうメディ、あのね・・・」


          ※


「ふあっ、はああぁ~~~~・・・、ああ、暇だねぇ。」
だらしなく大きな欠伸をして、小野塚小町はお気に入りの木陰で寝転んでいた。
いつもと変わらぬ日常の、最近になって少し目立ってきた異常。
幽霊の数が微妙に少ない。
誰かが何かしているわけでもなく、ただ自然と少なくなっている。
異変がないのにある異常。
只の船頭には関係ない。
といっても小町は只の船頭ではなく、三途の川の渡し守をしている死神で、彼岸に幽霊を送る仕事を生業にしている以上、この世とあの世の魂の循環に歪みが出ているかもしれないこの状況で、何の行動もしない死神も問題ではある。
「いやぁ最近幽霊がめっきり減って、やることないねぇ。いいことだぁいいことだぁ。」
多かろうが少なかろうが結局サボり癖は直らないのだが、今日は珍しく朝からきちんと出勤してきている。誰にも文句は言わせない。
とか思っていたら森のほうから頼んでもないのに客が来た気配がした。
「あぁっもう~! 何だって暇なときに限って来るかねぇ~。厄介事はナマケ巫女に任せりゃいいのに・・・」
木陰を惜しみながらやおら立ち上がると、同じ木に立て掛けていた相棒を担ぐ。
性根の曲がった小町を表すように、刃先がゆらゆら落ち着かない・・・
死神愛用の大鎌。
普通に近づいても面白くないから、ガサガサ音がするほうとは全く見当違いの方角へ一歩を踏み出す。
小町に距離なぞ関係ない。
この一歩は、元いる場所とこれから行きたい場所とを繋ぐための、文字通りのワンステップでしかない。
その一歩でいきなり客の目の前に顕れてやったら、意外と小さな子が小町に正面衝突した。
「むぐうぅっ⁉」
細く滑らかな金髪に赤い簡素なリボンを付けた、見知った子供。
尻餅をついても痛がることなくこちらを不満げに見上げている人形のような容姿。
あぁいや、実際元人形だ。
「ありゃっ? 珍しい。何しに来たんだメディスン?」
「もうっ、いきなり出てこないでよっ!」
「おぉっ、すまんすまん。」
助け起こそうと思って手を差し出すが、メディスンは自力で起き上がってしまった。
掴むもののなくなった手がなんともやるせない。
すぐさま引っ込めて、その手を自分の腰に添える。
「・・・んでっ? こんなところまで何しに来たんだい? 生憎だけどここにゃスーさんはいないよ。」
知らない人間や妖精が客だったら大抵自殺志願者だから、自分の仕事を増やしたくないがために説教するのも吝かではなかったのだが、知っている、しかも妖怪なら話は別だ。
無縁塚の立ち並ぶ彼岸の入り口には、彼岸へ渡る順番待ちをしている幽霊や欝を患った自殺志願者が吸い寄せられる、呪いのような雰囲気が漂っているのだが、妖怪のような強力な種族にはあまり効果を発揮しない。
「今日は幽香のお使い。用があるのはあなた・・・」
「あっはっは! あいつがあたいに用があるなんて本当に珍しい。明日にゃ彼岸に向日葵が咲きそうだ!」
「・・・これ。」
抱きかかえていた風呂敷を差し出す。
死神ゆえにその中身が呼吸ほど無意識に、はっきり認識できる。
つまりは仕事だ。
「やれやれだねぇ、書き入れ時にその他大勢の中に放り込んでくれりゃいいのに。あいつがあたいに仕事持ってくるなんて初めてじゃないか?」
いかにも面倒くさそうな表情を作って見ると、メディスンはメディスンで早く帰りたそうな顔をしていたのだが、何かまだ言い足りないもどかしさも表情に出ていた。
「んっ? まだなんかあるのかい?」
メディスンはほんの小さくため息を吐いて、幽香のもう一つのお願いを口にする。
「うん。幽香が、『それを今すぐきちんと彼岸に届けなさい。もし怠けて今すぐ送らなかったら、あなたが上司に説き殺される前に私が縊り殺してあ・げ・る♪』って!」
「あぁ~・・・うん、さっさとそれ寄越せっ!」
命惜しさに風呂敷を強引に奪い取る。
当然のことながら、その手には風呂敷一枚分の重さしか感じられない。
「・・・渡したよ。」
それだけポツリと言うと、何かから逃げるようにもと来た道に吸い込まれていった。
いや、次の目標に向かって猛進していくような素振りだった。
手の中には花柄の派手な風呂敷が残る。
中に入っているのは言わずもがな・・・
「さってと・・・、ご開帳っと・・・。」
人魂。魂魄。幽霊。
幻想郷においては、外の世界とはその世界法則を根本から異にする。外の世界では科学が宗教的な信仰に風穴を開け、高次元的な異種、妖怪や幽霊、妖精、神に至るまでその信仰は加速度的に失われていっている。典型的なのが、山に神社ごと移り来た神達だ。
しかし、結界の内側は外の世界で忘れ去られたものの行き着く理想の宮。人間はもちろん本来目に見えない幽霊や神霊、妖精の類にも実体が伴う。
外の世界と同じで、人間、人魂が圧倒的に多い幻想郷ではあるものの、人々の心は外よりずっと豊かなもので、信仰はずっと手に入りやすい。
故に実体がある、と言ってもいい。
風呂敷の中で縮こまっていたのもその例に漏れないものだ。
透き通っていてのっぺりした基本的な人魂だ。
「あいつがご丁寧に風呂敷包みで幽霊寄越すたぁ・・・、明後日には彼岸で桜吹雪が見れそうだ! あんたはあの妖怪に殺られたくちかい?」
小町は特に面倒臭さを隠そうともせずに、風呂敷を開いて幽霊を表に出そうとしたが、寸でのところで幽霊自ら止めに入った。
『・・・お待ちください。・・・このままで・・・、このままでお願いできないでしょうか?』
「?」
死神相手にただの人魂がお願い申すとは・・・
特に耳を傾けてやる義理もないのだが、やはりものすごく気になってしまう。
あの強大でおっかないフラワーマスターが、おそらく人魂になる前のこの人間に、何を思ったのか興味を持ってしまったのだ。
「あぁ~、うん、まぁ彼岸に着くまではこのままにしとくよ。こっからは業務事項になるんだが・・・、どっちがいい? あっさり最速ウォーキングコースとゆったりゆっくりクルージングコースがあるんだが・・・、もちろんクルージングのほうが割高だ♪」
人魂がお金を持つことは当然できないから、全く意味がないのだが、九割冗談で言ってみた。
『すみませんが、お金は持ち合わせておりません。』
クソ真面目に返してきた。
「・・・ぷっ、ククッ・・・」
少し吹いてしまったが、まぁあまり他の人魂と変わったところはない。
だから一層気になってしまう。
「あぁいや冗談だ。気になることがあるからゆっくり逝こう。」
『・・・はぁ』
小町は風呂敷包みの幽霊を片手に下げ、これといって目を引く花が一切生えていない雑草の群れを踏みしめていく。
さっきまで不規則な休憩時間をとっていたお気に入りの木を、申し訳程度に惜しみながら通り過ぎ、風景に溶け込んでしまって存在が薄れている無縁塚のすぐ横を颯爽と歩いていき、辺り一面に立ち込める川霧を差し引いても向こう岸を見て取ることのできない、巨大な川の端にまで来た。
三途の川。
この世とあの世を繋ぎ分かつ境界が、龍の如く悠然と横たわっている。
そんな大河の向こう岸を見渡すように、担いでいた大鎌をゆっくりゆったり腰だめに構えると、一息に虚空を切り開く。
形無き壁が取り払われ、川霧の奥から古びた桟橋と・・・
味気ない、それでいて歴史を感じさせる一艘の小舟が現れた。
ふぅ~いっ、と一仕事したというようなため息をつくと、桟橋をぎしぎしいわせながらそっけなく渡り、ひょいっと小舟の定位置まで大鎌を担いだまま跳躍して優雅に納まる。
中央に幽霊をそのまま置き、切れ味不明のぐねぐねした大鎌で切れないよう器用に係留していた縄を桟橋から外すと、舟に置いてあった細長い棒と大鎌とを、その場から一歩も動かずに取り替える。
棒は櫂。
普通の川ならこれを使って舟に命を吹き込むのだが、三途の川では漕ぐという行為に意味があるのかは定かではない。
形だけかもしれない櫂を持ち、
ゆっくりゆっくり・・・
静かに静かに・・・
時折ギィギィと時を経た音をあげながら・・・
舟は彼岸へ旅立つ男を乗せ逝く。
『・・・死神さん。』
男の霊は小町に声をかけてきた。死ぬ前と何ら変わらぬ低く、威厳があるのに慇懃無礼な声音。
「小町。あたいの名前は小野塚小町だ。お前さんが川を渡りきるまでの水先案内人さ。」
もう二度と遇わぬ魂に、己が名を告げる。
『小野塚さん・・・ですか。彼岸まで・・・よろしくお願いします。』
「ハハッ、ちょいとこそばゆいねぇ。小町でいいよ小町で。」
『はあ・・・、では、小町さんで・・・』
「まぁいいか。・・・お前さんは死神って奴を見るのは初めてかい?」
舟を漕ぎ漕ぎ、派手な花柄風呂敷の奇妙な幽霊と会話する。
幽霊と言葉を交し合うことができるのは死神や閻魔のように、それに係わる存在だけ。それ以外の生者の声を聞くことはできても、話を理解されることはない。
高位の幽霊の場合は例外となるが・・・。
『ええ、会うのは初めてです。今は花柄しか見えませんが・・・』
「そりゃ風呂敷に包まれてりゃ、それしか見えないだろうさ。何でそこから出ないんだ? 出られるだろうに・・・。」
実体の希薄な幽霊は特殊な術式を使わない限り万物をすり抜けられる。
風呂敷にその類の術式は綴られておらず、男は自由に抜け出せるはずだが、そうしようとは微塵も思っていないようだ。
いや、その如何に係わらず、幽霊は万物をすり抜けてしまう。
男の霊は確かに奇妙だ。
幽霊のくせに実体がある。
まるで確固とした自分を、自身で確かめたいと強く願っているような・・・
男は語る。
『はい、それは私の願いで・・・、あの方の願いでもあります・・・。』
それは男が交わす、最後の約束・・・


          ※


男は肉体を捨てた。
不自由だった身体がなくなり、どこへでも往くことができ、どんなものでも見えるはずなのに、男はどこへも往こうとしない。
行こうとしない。
逝こうとしない。
何も見ようとしない。
観ようとしない。
視ようとしない。
目蓋も重さも無い身体で・・・
「・・・そう・・・、あなたはやさしいのか、残酷なのか・・・。私は、あなたの願いを聴きましょう・・・。あなたの思いを聞き届けましょう。・・・あなたも、あなたの気持ちを忘れぬように・・・お願いしますわ・・・。」
『・・・』
男はあったものを失くし、失くしたものを得た身体で、コクリと頷く。
伝わったかどうかなど問うまでもない。
素早く風呂敷に包まれていくなか、男は彼女を近くに感じる。

視えはしない。

だが、温かい。

・・・ああ・・・、・・・花が在る・・・、・・・ここに・・・


          ※


「・・・あっ、そうだったそうだった。」
今思い出したように誤魔化しながら、本題を切り出す。
舟は往けども波は立たず。
髪は靡けど風は無い。
「お前さんの生き様を聞きたいんだ。渡し賃の代わりに、話してくれないかい?」
『・・・ええ、構いません・・・。味気の無い話ですが、よろしいですか?』
「いいとも・・・、・・・あたいの日課だ・・・。」
歯を見せながらニカッと笑いかける。
ただただ濃い川霧は岸を隠し、仄暗い水面は舟さえ映さない。
櫂が舟を滑らせているはずなのに、川をかく音さえ聞こえない。
音の無い世界で、いつの間にか蝋燭を乗せた白い紙舟が、舟の両側を挟んで並んでいた。
蝋燭は弱々しくも浪々と、朗々と燃える。
あの世へ至る航路を、道を指し示す。

男の霊は語る。
自らの生涯を言葉で綴る。
素気なく、脚色なく、ありふれた言葉で構成される、人間として平凡な生き様。

男の話に幻想はない。

・・・

「・・・へぇ~え、里の人間の中でも案外まともな生涯送ってるじゃないか。まぁ確かに仕事を最後までやり遂げられなかったことと意外に短命だったのは心残りだろうねぇ。」
だけどそれなら・・・
やはり奇妙だ。
「しっかしなぁ、それなら何で彼岸に渡るんだい? 未練がありそうなんだが?」
自縛霊になられると船頭の商売あがったりなのだが、強い思いが無い浮遊霊という部類になっているのも、厳しくもやさしいこの男には似つかわしくない。
この男なら、未練がないなら即成仏しそうなのだが・・・
未練ではない、強い意志を持つその幽霊は、薄くも中の見えない布に包まれ、そのくせすり抜けしないほどの存在を持っている。
「お前さん、・・・まさか生霊じゃないだろうね?」
生きてる人間を乗せているような錯覚に陥ってしまう。
『死んでいると思いますが・・・。妖怪がわざわざ生きている人間の魂を彼岸へ送るとは思いません。それをするぐらいならさっさと殺すのではないですか・・・?』
「う~む、それもそうだねぇ。そうなるとお前さんはやっぱり死んでるねぇ。」
『ええ、風見さんが絶ち切って下さいました、私の・・・心残りを・・・』
「・・・無理だったなぁ。あいつの機微もお前さんの機微もあたいにゃわからん。」
参ったと言わんばかりに櫂を持ってることも気にせず軽く万歳する。
部外者が察することのできない何かが、人間と妖怪の垣根を越えたとしか思えない。
しかも人間嫌いで有名な妖怪が、この男を少なからず理解した。
小さくはあるがそれは・・・ただの人間が起こし得た異変なのかもしれない。

舟は止まった。
これから先は万物の生命が逝き着き、流転する場所。
昇る前であり、落ちる前でもある・・・その岐路。
・・・彼岸。

「さあ着いた。貴重な話ご馳走様だ。」
櫂と大鎌を再び持ち替え、同じように桟橋に舟を結わえて、風呂敷を持つ。
『・・・お疲れ様です。』
未だに見ようとしない幽霊が、未だに下駄の端さえ見えぬ死神の労を労う。
「ハハッ、そう言われたのは久しぶりだねぇ。ありがとう。まぁ死神として当然のことさ。」
柄にも無いことを言って桟橋に降り立ち、朱塗りの灯篭が並ぶ道を逝く。
無縁塚の転がっていた三途の畔とは様相が全く異なり、そこは朱に染まった火の絶えぬ豪奢な灯篭が延々と続く石畳。
この先に待つ存在を讃えているようなその平坦を少し進んだところで、小町は足を止める。
川を渡る間はなかった風がそこではそよそよと吹いている。
「・・・さってと、もう抜け出してもいいよ。」
『はい、それでは・・・』
今まで実体があって風呂敷を膨らましていたのが嘘のようにするする抜け出してきた。

不自由な身体を脱ぎ捨て縛るものの無くなった男は、久しぶりに自らの目で最初で最後の景色を見る。
「・・・どうだい? 彼岸は。」
灯篭どころではない。
辺り一面全てが朱色。
光は灯篭から漏れる火の明かりしかなく、空はいつでも夜だというのに、その朱は自ら輝いているように一本一本が確かに見て取れる。

風に、一面の彼岸花がゆらゆら揺れていた。

『・・・あぁ・・・、・・・何と・・・何と、美しい・・・』

一切のばらつきの無い、満開の花々がそこにある。

男の霊体はゆらゆら揺れる。

・・・まるで道端に咲く花のように・・・

「・・・彼岸をそんな風に見る奴はほんとに珍しい。大抵自分が死んだことを受け入れるのにいっぱいいっぱいだからなぁ。」

男の横に並び立って共に一面の朱を見つめる。

ありふれた風景を眺めることが、これほど新鮮に思えたことはない。

この男のせいか、それとも誰かと眺めるのが久しぶりだったからか・・・

「そうだなぁ・・・、よっし! 四季様のところまで連れて行ってやるよ。今日は特別だぜ。」

『・・・いいのですか? お仕事は・・・』

「いいんだいいんだ、お前さんを送ったらさっさと店じまいするさ。」

『・・・私ももしかしたら、あなたのようになりたかったのかもしれませんね。本当にすごく、羨ましい限りです。』

「おいおい、今更帰るなんて言わないよな? 帰れないけどさ。」

『・・・ええ、言いません・・・。』

二人は連れ立って前に逝く。

花は相も変わらず揺れ動く。

          さらさらと・・・

                      ゆらゆらと・・・
東方葬送花続編です。

前投稿作品で修正点を御指摘下さった方、ありがとうございます。
できる限り修正したいと思います。

文章はすでにできていますが、私が怠けると投稿に時間がかかります。
誠に申し訳ありません。

これ以降増えるもの
→前回の項目は引き続きで、それ以外では、能力の拡大解釈・初期設定の改竄等、滅茶苦茶です。
めげずに読んでもらえると幸いなのですが・・・。
E-
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コメント



0.300簡易評価
3.100miyamo削除
彼岸の花を美しいと思うか…
つらい生涯を送ってきたんだろうな…
なんというか、深く考えさせられる話だったと思います。
弐ということは参もあるのでしょうか?期待して待っております
5.80不動遊星削除
面白く読ませて頂きました。ありがとうございます。とりあえず、続きを待っております。では。
6.80ずわいがに削除
花を見れた――それだけで男は幸せだったのね。