「小悪魔の料理が食べたいわ」
私がいつものように紅茶を淹れていると、主人であるパチュリー様は唐突にそう言ってきた。
「……へ?」
私は一瞬その言葉の意味が理解できなかった。なぜなら、魔女であるパチュリー様は食事をとる
必要などないからだ。それに、料理の味であれば完全で瀟洒な咲夜さんに頼んだ方が遙かにいい。
何故パチュリー様が自分の手料理を食べたがるのか、その理由が全く分からなかった。
ついでに紅茶のカップを落とした。すっごい熱かった。
「何か召し上がりたいのでしたら咲夜さんに頼んだらどうですか?」
「咲夜の料理も確かにおいしいわ、けど、今はあなたの料理を食べたいのよ」
お世辞にも私の料理の腕はいいとは言えない。平均かそれ以下だと自負している。どう足掻いても
咲夜さんの様な料理はつくることができない。そんな自分の料理をパチュリー様に食べてもらうと
いうのはどうにも気が進まなかった。
「そもそも何で私なんですか?」
「あなたの料理を食べたことがないからよ」
「そうでしたっけ?」
確かに改めて思い返してみれば料理をつくって差し上げた記憶は全くなかった。もう使い魔になって随分
と経つが、私がパチュリー様にお出しするのは紅茶ぐらいしかなかった事に気づいた。だから私料理下手
なのかな…。
「あなたの料理の腕がどのくらいなのか楽しみだわ」
そういってパチュリー様はにやにやしながら私を見てきた。というか、もうつくることは決定事項なんで
すね…。あぁ、これは下手なものは出せないなぁ、なんて考えているとパチュリー様がとどめとばかりに
注文を追加してきた。
「あ、メニューは小悪魔の好きにしていいわ」
「その注文が一番やりにくいんですけど…」
「とりあえず食べられればいいわ、できるだけ早くしてね」
やっぱり食べる必要がないと味はどうでもよくなるんでしょうか、私としてはそっちの方が都合がいいん
ですけど…。
「じゃあ、厨房に行ってきますね」
「楽しみに待ってるわ」
少女移動中…
「さて、何をつくりましょうか」
とりあえず厨房にあった割烹着を着てメニューを考える。なんで割烹着があるのかということにつっこん
ではいけない。ちなみに咲夜さんも調理の際は割烹着着用だ。何の変哲もない割烹着だが咲夜さんが着る
と、とても瀟洒に見える。何故なんでしょう?
「パチュリー様のお好きな料理ってなんでしたっけ?」
とりあえずそう呟いてみるものの、返事はない。今は食事時ではないので、厨房には私一人だからだ。
仮に誰かいたとしても、この問いに答えられる者はいないだろう。
「まぁパチュリー様も好きにしていいとおっしゃいましたし、私の得意な料理を作りましょうか」
ちなみに私の得意料理はハンバーグだ。…ってなんですかその目は、さっき料理はあんまり得意じゃない
って言ったじゃないですか。正直、味に自信があるのはこれだけなんですよ。味に自信がないものをお
出しするわけにもいかないでしょう。
「まずは具材ですね~」
そう言ってパチュリー様お手製の魔法冷蔵庫の扉を開ける。ハンバーグに必要な合い挽き肉、たまねぎ、
卵、牛乳などは一通り入っていた。他にはトマトジュース、そして何故かナイフが入っていた。ナイフって
冷やしたら切れ味がよくなったりするんでしょうか。今度咲夜さんにそこはかとなく聞いてみよう。
「それにしても、本当に綺麗に片付いてますねー」
さすがは瀟洒な咲夜さん、シンクがピカピカに磨き上げられてます。光り輝いていて目が痛いです。
そして本来包丁を入れる場所にはナイフが入れられている。咲夜さん包丁使わないんですね…。
「ナイフじゃうまく切れないと思うんですけどね…」
まぁそこは瀟洒な咲夜さんのことだ。きっと曲芸のように華麗に切っているのだろう。しかし、これは
困ったことになった。私は包丁をうまく使えるかさえ怪しいのだ。そんな私がナイフを使って具材を
切るなどということはルナティックにも程があるというものだ。とにかく、ナイフでは調理ができないの
で、どこかに包丁がないかと探していると、白玉楼の庭師が使っているような日本刀が出てきた。
ここには普通の包丁はないのか。
仕方がないのでナイフでたまねぎを切った。すっごい切りにくかった。すごく涙がでた。
やっぱり咲夜さんはすごいなと思うと同時に、今度包丁を一本買ってこようと強く思った。
切ったたまねぎを炒めている間に合い挽き肉をよく捏ねる。捏ねた後は冷ましたたまねぎ、牛乳、卵、
パン粉を粘りけがでるまで混ぜ合わせる。その後捏ねたたねを小判状に固めて中央をくぼませる。
「さて、あとは焼くだけですね」
ちなみに火を使う料理の場合は、これもまたパチュリー様お手製の魔法コンロを使う。非常に便利なの
だが、火力が強すぎるのが玉に瑕だ。なにしろ強火でロイヤルフレア並の火力があるのだ。このコンロ
を完璧に使いこなせる人は咲夜さんしかいない。私が以前使った時は盛大に焦がしてしまった。フライ
パンが真っ赤になっていた。なので今回は限界まで弱火にして使うことにした。
まず両面を焼いて、そのあと蓋をしてじっくり焼く。
「そろそろいいですかね」
そう言って蓋を取ると、そこにはハンバーグ以外の何物でもない、小判状の肉塊が鎮座していた。
「うん、いつもよりうまく出来た気がします」
さて、あとはこれを皿に盛ってパチュリー様の元へお持ちしなければ。できるだけ早くしろとおっしゃって
ましたし。え?これだけかって?仕方ないじゃないですか。もう一時間ぐらい経っちゃったんですもん。
同時に他のものまで調理するなんて高等技術は私にはないんです。
少女移動中…
「パチュリー様、出来ましたよー」
そう言いながらトレイを持って図書館に入ると、パチュリー様の周りに本の山が出来ていた。たった一時
間で一体何冊読んだんですか…。
「あら小悪魔、遅かったわね、待ちくたびれたわ。」
本から顔を上げてそう言ってくるパチュリー様。さすがに時間をかけすぎたかな、と思う。もっと早い
時間で出来るものにすればよかったかもしれない。
「久しぶりに自分でつくったんですから大目に見てくださいよ」
「それにしても一時間は長かったわ。もっと咲夜みたいに早く出来ないのかしら?」
「無茶言わないでください。私時止めたりなんか出来ないんですから」
そう返しながら本の山をかき分けていく。五分ほど経って、ようやくパチュリー様の姿が見えた。
そしてまた五分ほどかき分けていき、やっとパチュリー様の元へたどり着いた。あとでこれを片付けなけ
ればならないのだと思うと、すごく憂鬱な気分になった。パチュリー様は動かないでも魔法で物を運べる
のだから、せめて十冊ごとに元の場所に戻してほしいと思う。まぁ駄目でしょうけど。
「それで、結局何をつくったのかしら?」
パチュリー様がものすごく期待のこもった目で見返してくる。あ、やっぱりもう一品ぐらいつくっとけば
よかったかも。しかし、時すでに遅し。私はハンバーグのみがのった皿をパチュリー様にお出しする。
「ハンバーグね。だいたい予想は出来ていたけれど、まさか付け合わせも無しに単品で出されるとは思い
もしなかったわ」
パチュリー様が若干眉をひそめてそう言われた。仕方ないじゃないですか。私あんまり料理得意じゃない
ですし、自分でつくるの久しぶりだったんですもん。
「まぁおいしければよしとするわ」
そう言ってハンバーグを口に運ぶパチュリー様。この時私は気が気ではなかった。なぜなら、もしも不味
かったのなら、アグニシャインかもしれないからだ。最悪、ロイヤルフレアかもしれない。火だるまに
なっている自分を想像して足をガクガクさせながら見ていると、パチュリー様の顔が若干笑顔になった。
「うん、いいんじゃない?おいしいと思うわよ?」
どうやらお口に合ったらしい。とりあえず火だるまは回避できたのでよかった。意外と料理の腕は落ちて
いなかったらしい。そうこうしているうちに、パチュリー様がハンバーグを食べ終わった。
「おいしかったわ。ごちそうさま、小悪魔」
「それはよかったです」
そう言ってパチュリー様が食べた皿を片付ける。するとパチュリー様が口を開いた。
「小悪魔」
「はい、何でしょう?」
パチュリー様がすごいにやにやしている。あ、これはやばいかも。
「次は小悪魔の創作料理が食べたいわ」
その後小悪魔はパチュリーの料理責めにあい、ストレスで一週間寝込んだ。
小悪魔の割烹着、スミマセン鼻血出そう!
想像したら軽く舞い上がれました
むう、私もこぁの手料理食べたいものです…
料理の腕がそこそこと言う所がなんていうかこぁらしいww
冷えたナイフ……僅かな温度差で生鮮素材の鮮度を損なわないようにとの徹底した配慮なのか?
楽しかったです。次回作にも期待します。
ついでに誤字報告などを。
「久しぶりに自分でつくったんですから多目に見てくださいよ」大目
あと凄く簡単な漢字がひらがなになってる部分が多いのがちょっと気になりました。
普通に良く出来た作品だと思いましたよ。
とても処女作だとは思えません。
次回作を期待しつつ、こぁの手料理を堪能させていただきます
>6 そうですか、麩ですか…。今度試してみます。
>8 小悪魔煮込み…… きっとおいしいに違いないでしょうね
>10 私も食べたいです!今から一緒に図書館に行きましょう!
>13 修正しました。もしかしたらまだあるかもしれません。
ナイフが冷蔵庫に入れたのは、作者の気まぐれですwww
>17 待て!独り占めは良くないと思うぞ!ということで、こぁは頂いていきますね
書きたいことを過分も不足も殆どなく書けているように思えます。
ただ、最後のオチが少々唐突かな、とも思います。
最後にサプライズ的なオチを表現したかったのかもしれませんが、
少々逸脱が過ぎるのではないでしょうか。
しかし、全体としては面白かったです。次も期待しています。
そして何より、紅魔館においてエプロンではなく割烹着を使ったのも非常に素晴らしいですね!