射命丸文が取材と湯治(いろんな人物の逆鱗に触れたのが原因)を兼ねて地底の旧地獄へ行った時、核融合の力を操ると言われる妖怪鴉に話を聞く機会があった。
温泉の脱衣所で湿布や絆創膏を貼り替えているときにたまたま、霊烏路空という妖怪の少女に出会ったのだ。
彼女は神様から核融合の力を与えられたというが、今は必要な核物質が与えられておらず、どうやらエネルギー革命をもたらす計画は延期か中止になったと言う。
「う~ん、それでその核融合の力を再現できないんじゃ、信ぴょう性に欠けますねえ」
「ホントだって、それで例の巫女たちと喧嘩にもなったし、本来この力で地上を灼熱地獄に変える事もできたんだよ。まあ信じる信じないは勝手だけどね」
左手を腰に当ててイチゴミルクを飲みながら、その妖怪鴉は語った。
「証拠はないので、記事には出来かねます、まあ、『こういう面白い事を吹く妖怪がいる』という風になら書けますが。
「じゃあ、私それで有名人になれるかしら?」
「まあ、ちょっとした範囲なら」
「やったー。お燐やさとり様びっくりするだろうな」とガッツポーズ
「はあ、単純ですね、氷精さんみたい」
少し彼女の事を知っている者なら、証拠がないと記事にできないという彼女の言葉に驚くだろう。だが先ほど言ったように、いろいろ雑な記事を書きすぎて痛い目に会ったばかりなので、無難な記事を書くことに決めたのだ。
といっても、心から反省したかは怪しい。哨戒天狗のM・Iさんからのリークによれば、『今度はもっと巧妙にやる』と言っていたとかいないとか。
その日の取材は収穫なしか、せいぜい巷にこんなうわさ話があったという小記事にしかならないと思ったが、彼女の妙な提案が気になった。
「ねえ、あなた、眷族の鴉とか居るの?」
「ええ、鴉天狗ですから、結構たくさん、情報収集に役立っています」
「じゃあ、うちの地獄鴉たちとしばらく取り換えっこしない?」
「えっ、どうしてですか」
「ほかの世界の鴉の声も聞いてみたいの、ダメかなあ」
「それは……、いや面白そうですね、やってみましょう」
どうせ傷が癒えるまでは大人しくしようと思っていたのだ、こんな余興も悪くないかもしれない。二つ返事で文は承諾した。
「ちょっと、纏わりつかないで下さい」
地底と地上を結ぶ洞窟で眷族を取り換えっこした後、文は自分の体にまとわりつく地獄鴉達に閉口していた。
旧灼熱地獄にいた鴉たちは高温に慣れていたので、普通の気温である地上がとても寒く感じられたのだった。
「私は懐炉じゃありません」
鴉仲間だけあって、地獄鴉たちは文にも良く懐いてくれた。
しかしここでは極度の寒がり屋さんで、取材の役には立ちそうにない。
神社で霊夢に笑われた。
「なにそれ、同族で作った羽毛のジャケット?」
「そんなわけないじゃないですか、巫女のくせになんてブラックな」
「ブラックの度合いなら貴方の記事も相当なものでしょう? そのすり傷や打撲の原因になったし」
「霊夢さんには関係ありません、それよりも、最近何か事件でも起こりませんでしたか?」
霊夢は人差し指を立て、シニカルに微笑んだ。
「フルボッコ祭り。嘘八百を並べる記者に天誅が下った話。今思い出してもスカッとするわ。」
文の傷が疼く。
「いてて、嘘じゃありません、せいぜい2の事実に3の推測、5の創作を混ぜただけです」
「創作が一番多いじゃない、これに懲りたらもう少しまともな記事を書きなさい」
そう言いつつ、霊夢は文にも一杯の緑茶を差し出した。ほどよい熱さと風味だった。
「お空、地獄の温度が上昇し過ぎよ、早く何とかしなさい」
上着とスカートを脱いで団扇を仰ぐさとりの前で、空は縮こまっていた。
彼女の心を読み、さとりはため息をつく。
「はあ、鴉たちを地上の天狗と交換したの、だから熱を押さえる能力が減ったのね」
「ごめんなさい、温度調節ぐらい自分ひとりでできると思ったんです」
地獄の温度調節には空だけでなく、親しい地獄鴉たちの妖力も必要だった。
もちろん彼らは今地上にいる。
文から預かった鴉たちは勝手に旧地獄の繁華街を飛び回った後、空のいる地霊殿に戻り、自分の集めた情報を空に報告した。無論さとりもそれを知る事が出来る。
情報はどれも衝撃的だった。
『きっとあのバカガラスがのんきにさぼっているのよ、妬ましい』 P・Mさん(橋姫)
『この暑さで、感染症が広まりそう』 Y・Kさん(土蜘蛛)
『……』 K・Kさん (さとり)
『ゾンビフェアリーたちが臭い……』 おRさん(火焔猫)
『たまには全裸で過ごすのもいいねえ』 Y・Hさん(鬼)
「私のせいで、みんな怒ってる……」
空はさらにうなだれる。これが新聞に載ったら、悪い意味で有名人になってしまう。
「あと、鴉たちは茹で蛸ならぬ茹で桶を目撃していますね」
「さとりさま、私、地上に行ってきます、鴉たちを戻さなきゃ」
「お願いします、私は何とか炎を押さえてみます」
焦燥感に駆られ、空は涙目になりながら屋敷を飛び出した。
九天の滝にて、文は寒がる地獄鴉たちに暖をとらせてやろうと、枝を集めて、河童のライターと自分の風を吹かす能力でたき火を作っている。大きな火ができると、ようやく鴉たちは文から離れてくれた。
「あんまり記事になる事もなかったなあ」
湿布の張られた太ももを押さえる、まだ痣が残っていた。
岩場に寝転がり、記事探しを忘れてひとり考えた。
「記者、辞めよっかなあ、いやいや、この仕事やっぱり好きだし、今度はあまり多くを敵に回さず、かつ興味を持って読んでもらえる記事を書こう、そう、もっと巧妙にやらなきゃ」
地獄鴉たちは、まるで人間がたき火に当たるように、羽を火にかざして暖を取っていた。
その様が人間くさくて妙に愛らしい。その地獄鴉たちに呼びかけた。
「みんな、お家に帰りますよ」
地獄鴉たちは文の体にくっつき、地底を目指す。慣れるとこれも悪くないなと思った。
「文さ~ん、どこにいるの~」
飛び回りながら空は文を探した。文たち天狗は妖怪の山を拠点にしているが、そんな事は知らなかった。ただ時間が過ぎていく、焦りは増していった。
今旧地獄はどうなっているだろうか、温度が上昇し続け、地霊殿も焼け落ちてしまい、さとり様もお燐も焼け死んで行くのだろうか。お前のせいだ、あいつのせいだ、と自分を呪いながら。
彼女は空中で一人うずくまり、泣きじゃくる。
「私のせいで、そんなの、嫌だよ、絶対」
同時に彼女はある事に気づく。
「そうか、私が地上にしようとしたのは、こういう事だったんだ」
もう陽は傾いている。今更ながらに自分の浅はかな行動を後悔した。
とその時、誰かが自分の肩を叩いた。
「よっ、どうしたんだい、可愛い鴉さん」
驚いて振り向くと、無邪気な氷の妖精チルノがいた。無邪気な笑顔。
「何だか知らないけどさ、泣いてばかりいても人生面白くないよ、何が合ったか話してみなさいよ」
空は泣きやみ、今自分の置かれている状況を話す。
「……でね、何とかしないとみんなが、みんなが焼け死んじゃうの。みんな私のせいで……」
空は再び泣きだした。チルノは困っている。
「う~ん、良くわからんけど、罪の意識があるなら、今自分にやれる事をやった方がいいんじゃない?」
「自分にやれる事?」
「そ、動けば何かが変わるかもしれないし」
泣くのを忘れ、空は考える、何か自分にやれる事。やるべき事。考えるのは得意ではないが、それでも空は考える。
地獄の温度が上昇している、それを押さえなければならない、でもそれには熱を押さえる力を持った地獄烏たちの協力が不可欠。その鴉たちは見つからない、なら代わりの冷やす手段がいる、冷やす? そうか!
「あの、あなたって、氷の妖精でしょ?」
今まで直接の面識はなかったが、新聞で氷精の事は知っていた、その性格も。
「そうだけど、何で?」
「お願い、鴉たちが戻る間だけでいいの、旧地獄を冷やすのを手伝って頂戴」
「ええっ、でも大ちゃんが知らない人に付いて行っちゃだめだって言うし」
「いま貴方は私の事を知っている、そうでしょ」
「うん」 素直にうなずく。
「だからもう私は知らない人じゃない」
「そっか」 あっさり納得した。
そして最後の殺し文句を言う。
「それにあなたは幻想郷最強の妖精、怖いものなんてないわ」
「そう、あたいは最強、100人乗っても大丈夫!」
「じゃあ行きましょう」
空はチルノの手をひっぱり、旧地獄のある地底へと急いだ。
鴉たちを引き連れ、地底の洞窟を抜け、旧地獄のメインストリートに差し掛かる。
文はそこで違和感を覚えた。
旧地獄はいつも温かいのに、今は前に来た時より気温が少し下がっている、寒いと言うほどではないが、少し涼しい風が吹いていた。
「あやや、あれは?」
涼しい風の吹いてくる方を目指し、文は驚いた。
「これは、もしかすると、特ダネ記事になるかも」
チルノが冷気を旧地獄じゅうに放出している。高らかに笑いながら。
「あーっはっはっはっは。あたいったらここでも最強ね」
チルノの傍らに空がいた、文の身にくっついている鴉たちは、彼女を見つけると一斉に文の体を離れて飛んで行った。
「あっ、みんな帰ってきたんだ。チルノ、もういいわよ、今までありがとう」
「えっ、もういいの? もっとあたいの力を見せつけたいんだけど」
「これで十分、あなたのおかげで旧地獄は救われたわ」
「じゃあ、あんたはもう泣かないんだ」
「そうよ、チルノのおかげ」
そして文のもとには自分の鴉たちが戻ってくる。
「文さ~ん、色々あったけど、何とかなりました~。さあみんな、地獄の温度を元に戻すよー」
空は一礼して、地獄鴉に指示を与え、灼熱地獄の中心へ向かう。
文はさっそく今までの情報を鴉たちから聞き、チルノにインタビューを試みる。
「やっぱこれが一番ですね」 文は生き生きとしていた。
「お空、自分の失敗が原因とはいえ、良い判断でした」
普通の服装に戻ったさとりが空の頭をなでる。
「えへへ、すみませんでした」
「でもこれでわかったでしょう、あなたはこの地底で無くてはならない存在なのです、たまの外出もいいけれど、もっとあなたの役割を自覚するのです」
「はい、さとり様。お燐もごめんね」
博麗神社、霊夢は珍しく文が差し出した新聞を熱心に読んでいた。
チルノが地獄の危機一髪を救ったという。あのおバカな氷精が、という事でそれなりの部数が売れていた。
文の傷はすっかり再生し、また精力的に活動を再開した。
「へえ、チルノがそんな事を」
「はい、氷精の隠された能力をスッパ抜きました」
「でもこれ、もとはと言えば、あんた等が変な遊びをたくらんだからでしょ、美談のように書くけど、こういうのをマッチポンプと言うのよ、それに事の発端は隠しているじゃない」
「でも、嘘をつかず、誰も破滅させず、誰も怒らせず、かつ興味を持って読んでもらえる記事でしょ」
「はあ、巧妙になってきたわね」と霊夢は呆れる。
ちなみにその新聞には『新発見、鬼も風邪をひく』という記事もあり、これも多くの関心を引いた。
温泉の脱衣所で湿布や絆創膏を貼り替えているときにたまたま、霊烏路空という妖怪の少女に出会ったのだ。
彼女は神様から核融合の力を与えられたというが、今は必要な核物質が与えられておらず、どうやらエネルギー革命をもたらす計画は延期か中止になったと言う。
「う~ん、それでその核融合の力を再現できないんじゃ、信ぴょう性に欠けますねえ」
「ホントだって、それで例の巫女たちと喧嘩にもなったし、本来この力で地上を灼熱地獄に変える事もできたんだよ。まあ信じる信じないは勝手だけどね」
左手を腰に当ててイチゴミルクを飲みながら、その妖怪鴉は語った。
「証拠はないので、記事には出来かねます、まあ、『こういう面白い事を吹く妖怪がいる』という風になら書けますが。
「じゃあ、私それで有名人になれるかしら?」
「まあ、ちょっとした範囲なら」
「やったー。お燐やさとり様びっくりするだろうな」とガッツポーズ
「はあ、単純ですね、氷精さんみたい」
少し彼女の事を知っている者なら、証拠がないと記事にできないという彼女の言葉に驚くだろう。だが先ほど言ったように、いろいろ雑な記事を書きすぎて痛い目に会ったばかりなので、無難な記事を書くことに決めたのだ。
といっても、心から反省したかは怪しい。哨戒天狗のM・Iさんからのリークによれば、『今度はもっと巧妙にやる』と言っていたとかいないとか。
その日の取材は収穫なしか、せいぜい巷にこんなうわさ話があったという小記事にしかならないと思ったが、彼女の妙な提案が気になった。
「ねえ、あなた、眷族の鴉とか居るの?」
「ええ、鴉天狗ですから、結構たくさん、情報収集に役立っています」
「じゃあ、うちの地獄鴉たちとしばらく取り換えっこしない?」
「えっ、どうしてですか」
「ほかの世界の鴉の声も聞いてみたいの、ダメかなあ」
「それは……、いや面白そうですね、やってみましょう」
どうせ傷が癒えるまでは大人しくしようと思っていたのだ、こんな余興も悪くないかもしれない。二つ返事で文は承諾した。
「ちょっと、纏わりつかないで下さい」
地底と地上を結ぶ洞窟で眷族を取り換えっこした後、文は自分の体にまとわりつく地獄鴉達に閉口していた。
旧灼熱地獄にいた鴉たちは高温に慣れていたので、普通の気温である地上がとても寒く感じられたのだった。
「私は懐炉じゃありません」
鴉仲間だけあって、地獄鴉たちは文にも良く懐いてくれた。
しかしここでは極度の寒がり屋さんで、取材の役には立ちそうにない。
神社で霊夢に笑われた。
「なにそれ、同族で作った羽毛のジャケット?」
「そんなわけないじゃないですか、巫女のくせになんてブラックな」
「ブラックの度合いなら貴方の記事も相当なものでしょう? そのすり傷や打撲の原因になったし」
「霊夢さんには関係ありません、それよりも、最近何か事件でも起こりませんでしたか?」
霊夢は人差し指を立て、シニカルに微笑んだ。
「フルボッコ祭り。嘘八百を並べる記者に天誅が下った話。今思い出してもスカッとするわ。」
文の傷が疼く。
「いてて、嘘じゃありません、せいぜい2の事実に3の推測、5の創作を混ぜただけです」
「創作が一番多いじゃない、これに懲りたらもう少しまともな記事を書きなさい」
そう言いつつ、霊夢は文にも一杯の緑茶を差し出した。ほどよい熱さと風味だった。
「お空、地獄の温度が上昇し過ぎよ、早く何とかしなさい」
上着とスカートを脱いで団扇を仰ぐさとりの前で、空は縮こまっていた。
彼女の心を読み、さとりはため息をつく。
「はあ、鴉たちを地上の天狗と交換したの、だから熱を押さえる能力が減ったのね」
「ごめんなさい、温度調節ぐらい自分ひとりでできると思ったんです」
地獄の温度調節には空だけでなく、親しい地獄鴉たちの妖力も必要だった。
もちろん彼らは今地上にいる。
文から預かった鴉たちは勝手に旧地獄の繁華街を飛び回った後、空のいる地霊殿に戻り、自分の集めた情報を空に報告した。無論さとりもそれを知る事が出来る。
情報はどれも衝撃的だった。
『きっとあのバカガラスがのんきにさぼっているのよ、妬ましい』 P・Mさん(橋姫)
『この暑さで、感染症が広まりそう』 Y・Kさん(土蜘蛛)
『……』 K・Kさん (さとり)
『ゾンビフェアリーたちが臭い……』 おRさん(火焔猫)
『たまには全裸で過ごすのもいいねえ』 Y・Hさん(鬼)
「私のせいで、みんな怒ってる……」
空はさらにうなだれる。これが新聞に載ったら、悪い意味で有名人になってしまう。
「あと、鴉たちは茹で蛸ならぬ茹で桶を目撃していますね」
「さとりさま、私、地上に行ってきます、鴉たちを戻さなきゃ」
「お願いします、私は何とか炎を押さえてみます」
焦燥感に駆られ、空は涙目になりながら屋敷を飛び出した。
九天の滝にて、文は寒がる地獄鴉たちに暖をとらせてやろうと、枝を集めて、河童のライターと自分の風を吹かす能力でたき火を作っている。大きな火ができると、ようやく鴉たちは文から離れてくれた。
「あんまり記事になる事もなかったなあ」
湿布の張られた太ももを押さえる、まだ痣が残っていた。
岩場に寝転がり、記事探しを忘れてひとり考えた。
「記者、辞めよっかなあ、いやいや、この仕事やっぱり好きだし、今度はあまり多くを敵に回さず、かつ興味を持って読んでもらえる記事を書こう、そう、もっと巧妙にやらなきゃ」
地獄鴉たちは、まるで人間がたき火に当たるように、羽を火にかざして暖を取っていた。
その様が人間くさくて妙に愛らしい。その地獄鴉たちに呼びかけた。
「みんな、お家に帰りますよ」
地獄鴉たちは文の体にくっつき、地底を目指す。慣れるとこれも悪くないなと思った。
「文さ~ん、どこにいるの~」
飛び回りながら空は文を探した。文たち天狗は妖怪の山を拠点にしているが、そんな事は知らなかった。ただ時間が過ぎていく、焦りは増していった。
今旧地獄はどうなっているだろうか、温度が上昇し続け、地霊殿も焼け落ちてしまい、さとり様もお燐も焼け死んで行くのだろうか。お前のせいだ、あいつのせいだ、と自分を呪いながら。
彼女は空中で一人うずくまり、泣きじゃくる。
「私のせいで、そんなの、嫌だよ、絶対」
同時に彼女はある事に気づく。
「そうか、私が地上にしようとしたのは、こういう事だったんだ」
もう陽は傾いている。今更ながらに自分の浅はかな行動を後悔した。
とその時、誰かが自分の肩を叩いた。
「よっ、どうしたんだい、可愛い鴉さん」
驚いて振り向くと、無邪気な氷の妖精チルノがいた。無邪気な笑顔。
「何だか知らないけどさ、泣いてばかりいても人生面白くないよ、何が合ったか話してみなさいよ」
空は泣きやみ、今自分の置かれている状況を話す。
「……でね、何とかしないとみんなが、みんなが焼け死んじゃうの。みんな私のせいで……」
空は再び泣きだした。チルノは困っている。
「う~ん、良くわからんけど、罪の意識があるなら、今自分にやれる事をやった方がいいんじゃない?」
「自分にやれる事?」
「そ、動けば何かが変わるかもしれないし」
泣くのを忘れ、空は考える、何か自分にやれる事。やるべき事。考えるのは得意ではないが、それでも空は考える。
地獄の温度が上昇している、それを押さえなければならない、でもそれには熱を押さえる力を持った地獄烏たちの協力が不可欠。その鴉たちは見つからない、なら代わりの冷やす手段がいる、冷やす? そうか!
「あの、あなたって、氷の妖精でしょ?」
今まで直接の面識はなかったが、新聞で氷精の事は知っていた、その性格も。
「そうだけど、何で?」
「お願い、鴉たちが戻る間だけでいいの、旧地獄を冷やすのを手伝って頂戴」
「ええっ、でも大ちゃんが知らない人に付いて行っちゃだめだって言うし」
「いま貴方は私の事を知っている、そうでしょ」
「うん」 素直にうなずく。
「だからもう私は知らない人じゃない」
「そっか」 あっさり納得した。
そして最後の殺し文句を言う。
「それにあなたは幻想郷最強の妖精、怖いものなんてないわ」
「そう、あたいは最強、100人乗っても大丈夫!」
「じゃあ行きましょう」
空はチルノの手をひっぱり、旧地獄のある地底へと急いだ。
鴉たちを引き連れ、地底の洞窟を抜け、旧地獄のメインストリートに差し掛かる。
文はそこで違和感を覚えた。
旧地獄はいつも温かいのに、今は前に来た時より気温が少し下がっている、寒いと言うほどではないが、少し涼しい風が吹いていた。
「あやや、あれは?」
涼しい風の吹いてくる方を目指し、文は驚いた。
「これは、もしかすると、特ダネ記事になるかも」
チルノが冷気を旧地獄じゅうに放出している。高らかに笑いながら。
「あーっはっはっはっは。あたいったらここでも最強ね」
チルノの傍らに空がいた、文の身にくっついている鴉たちは、彼女を見つけると一斉に文の体を離れて飛んで行った。
「あっ、みんな帰ってきたんだ。チルノ、もういいわよ、今までありがとう」
「えっ、もういいの? もっとあたいの力を見せつけたいんだけど」
「これで十分、あなたのおかげで旧地獄は救われたわ」
「じゃあ、あんたはもう泣かないんだ」
「そうよ、チルノのおかげ」
そして文のもとには自分の鴉たちが戻ってくる。
「文さ~ん、色々あったけど、何とかなりました~。さあみんな、地獄の温度を元に戻すよー」
空は一礼して、地獄鴉に指示を与え、灼熱地獄の中心へ向かう。
文はさっそく今までの情報を鴉たちから聞き、チルノにインタビューを試みる。
「やっぱこれが一番ですね」 文は生き生きとしていた。
「お空、自分の失敗が原因とはいえ、良い判断でした」
普通の服装に戻ったさとりが空の頭をなでる。
「えへへ、すみませんでした」
「でもこれでわかったでしょう、あなたはこの地底で無くてはならない存在なのです、たまの外出もいいけれど、もっとあなたの役割を自覚するのです」
「はい、さとり様。お燐もごめんね」
博麗神社、霊夢は珍しく文が差し出した新聞を熱心に読んでいた。
チルノが地獄の危機一髪を救ったという。あのおバカな氷精が、という事でそれなりの部数が売れていた。
文の傷はすっかり再生し、また精力的に活動を再開した。
「へえ、チルノがそんな事を」
「はい、氷精の隠された能力をスッパ抜きました」
「でもこれ、もとはと言えば、あんた等が変な遊びをたくらんだからでしょ、美談のように書くけど、こういうのをマッチポンプと言うのよ、それに事の発端は隠しているじゃない」
「でも、嘘をつかず、誰も破滅させず、誰も怒らせず、かつ興味を持って読んでもらえる記事でしょ」
「はあ、巧妙になってきたわね」と霊夢は呆れる。
ちなみにその新聞には『新発見、鬼も風邪をひく』という記事もあり、これも多くの関心を引いた。
いい感じにハートフルなストーリーになってて面白かったです
あとチルノの声のかけ方がナンパみたいだ
ゾンビフェアリーはマジでヤバそうだなww
後書きで爆笑させられました、秀逸なオチですねー。