全ての始まりは、新聞記者である射命丸文の何気ない一言から。
「新聞も良いけど、他のメディア……例えばテレビ番組なんかも面白そうね」
◆ ◇ ◆
その夜、博麗神社の宴会場には見慣れない機械設備・河童謹製の特大ディスプレイが巨大な姿を現していた。
ディスプレイの傍らには司会者とゲスト達が集う長机が設置されており、ディスプレイに向かい合う形で設営された宴会場には暇な人妖達がひしめき合っている。
長机の左右を固めるのは"祝・第一回放送"やら"協賛・守矢神社"と記された花輪飾りが多数。
そして、特大ディスプレイの上部には妙に達筆な筆文字で"大改修!! 劇的ビフォーアフター"と記された、これまた巨大な看板が一枚。
外の世界風に表現をするならば、テレビ局のスタジオやライブイベントの会場とでも言うべきなのだろう。
文字通り、博麗神社は番組のスタジオへとその姿を変えていた。
宴会の参加者達――言い換えるならば、観客席からは賑やかな酒盛りの歓声が上がり、イベントの開始を待つ人妖の声も聞こえている。
お祭り好きで新しい物に目が無い幻想郷の住人の事。皆、今日のイベントを楽しみにしているのだ。
ガタン、と機械が動作する音が立つと同時に、スタジオ全体を照らしていた照明器具の電源が切られ、周囲が闇に閉ざされる。
イベントが始まった事を理解した観客達の視線がディスプレイのある方へと集まるのには、あまり時間はかからなかった。
そして、数秒ほど遅れてスポットライトが照らされると、ディスプレイの前に立った一人の少女の姿を闇の中に照らし出す。
観客席の視線が集中する中、スポットライトによって照らされた少女――本日の司会を務める鴉天狗は、マイクを片手にイベントの始まりを告げるのだった。
「さあ、いよいよ始まりました第一回"大改修!! 劇的ビフォーアフター"、司会は私鴉天狗の射命丸文で始めさせて頂きます!」
文の挨拶に応じる様にして、観客席からは盛大な拍手と弾幕の花火が巻き起こる。
運悪く被弾してしまった妖精や毛玉が弾け飛ぶのは、もはやご愛嬌と言った所だろうか。
観客席に降り注ぐPアイテムや点アイテムは、ちょっとした観客へのサービスである。
「うっひゃぁー!? 凄い盛り上がりですねー。ちょっとこれは予想外の盛り上がりで驚いちゃいました。
え、えーと、観客席の後の方まで、私の声は聞こえていますかー? 聞こえていたら手を挙げてくださーい!
……はい、ありがとうございます! それでは、これより本日の催し物を始めさせて頂きましょう!」
予想以上の盛り上がりに若干気圧されてしまう文だが、そこは流石に鴉天狗だけあってしたたかな物である。
ペースを乱す事も無く、着々と司会進行役の仕事を進めているのだった。
「さて、本日はこちら、"大改修!! 劇的ビフォーアフター"の第一回公開日なワケですが……
皆さん大丈夫ですかー? 間違えて別のイベントだと思って来ちゃったって人とか居ませんよねー?
幻想郷美少女コンテストじゃないですよー? まあ、今現在皆さんの目の前には美少女鴉天狗が一人居るワケですけどっ!
……あ、ごめん椛! わ、分かってるってばぁ! だからそんな顔しないでよー!
あーもう、ごめんってば。後でドッグフード奢ってあげるからーっ」
ちょっとしたジョークを挟むのも忘れずに、文は着々と司会進行を進めていた。
尤も、AD(アシスタント・ドッグ)にして部下を務める白狼天狗の犬走椛は面白くなさそうな顔をしていたのだが……まあ、それはそれであろう。
「さて、本日のイベントについてもう一度紹介をさせて頂きましょう。
ずばり、"大改修!! 劇的ビフォーアフター"とは幻想郷に点在する住宅の抱えるお悩みに対し、優れた建築ノウハウを持った技術者――匠が挑む様をご紹介する物です。
言葉を換えるならば、増改築、あるいはリフォームの様子をドキュメンタリー番組とでも言うべきでしょう。
続きまして、本日のイベントを盛り上げてくださるのはこちらの皆様です!」
文が手で示した先の長机には、四人の人妖が着席している。
一人目は会場となった博麗神社の主にして、異変解決の第一人者でもある巫女の博麗霊夢。
二人目は妖怪の賢者にして博麗大結界を管理する女性、八雲紫。
三人目は魔法の森に住む魔法使いの霧雨魔理沙。
そして、最後の四人目は地底都市の顔役にして、立派な一本の角を生やした鬼の星熊勇儀である。
皆、幻想郷の有名人や実力者ばかり。
鬼の勇儀が司会者から一番遠い席に座らされているのは、文なりの必死の抵抗だったのだろうか。
「本日のドキュメンタリー映像の中には、匠の意外な遊び心やギミックを皆さんと一緒に考えるコーナーが設けられています。
こちらゲストの皆様には、その際にアイデアを伺い、一緒にこのイベントを盛り上げたいと思います!
えー、それでは順番にお言葉を頂戴しましょう。まずは霊夢さんから」
ADの椛にマイクを手渡されると、一人目となった霊夢がその場に立ち上がって挨拶を述べる。
「えーと、今日はこうして会場にウチの神社を提供しているんだから全員お賽銭を入れて――」
「はい、次は紫さんお願いします!」
「おいこら天狗ゥ!?」
「私的なコメントには時間を与えませーん」
「はい、隙間妖怪の八雲紫です。本日はこうして素敵なイベントにお招き頂けた事を光栄に思いますわ。
我が家もそろそろボロが来ていますので、次の開催時には是非我が家のリフォームをお願いしようかしら。次は魔理沙ね」
「ういっす。魔法の森の霧雨魔理沙だ。私としては、家にどんな収納があるのかが楽しみだな。
私の家はコレクションが多くて収納に困る事があるから、テクニックを是非とも知りたい所だぜ。最後、勇儀どうぞっと」
「はいはいっと! えー、地底の鬼の星熊勇儀だ! 実は私も今回のリフォームに協力しているから、是非私の活躍を見てくれ!」
他の三人は、そつなく挨拶とコメントをこなしている。
その様子に霊夢は納得が出来ていなさそうだったが、そこはそれ。これはこれ。
椛が勇儀からマイクを回収したのを確認すると、再び文は仕事を再開。
「と言う事で、本日はこちらの四名の方々と番組を盛り上げます。
では、最初にリフォームをする事になった物件の紹介をしましょう。
にとりさん、映像をお願いしまーす!」
文の合図に合わせる様にしてディスプレイの電源が入れられる。
流れるのはプリズムリバー楽団の提供によるBGMと、協賛スポンサーのリスト。
そして、"落ち着いて信仰の出来ない家"と言う内容のテロップである。
「では、一緒に見てみましょう。"落ち着いて信仰の出来ない家"です」
◆ ◇ ◆
(ナレーション:妙に鼻声の八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「欝の音楽」)
人間の里の外れの空き地の一角に、その物件はありました。
一人の若き尼僧が治める、毘沙門天信仰の寺院・命蓮寺。
遊覧船と寺院の異なる顔を持ったこのお寺が抱える問題とは……?
『元は船だったのを無理やりに寺院にしたせいで、色々とトラブルが起こっているんです』
浮かない顔でスタッフにそう語ってくれたのは、命蓮寺の尼僧・聖白蓮さんでした。
日頃の彼女からは信じられないその様子に、スタッフの背には緊張が走ります。
『そうですね……色々と私の口から語るよりは、実際に見て頂くのが手っ取り早いでしょう』
白蓮さんに招かれる様にして命蓮寺にお邪魔したスタッフですが、玄関からいきなりのトラブルが――……
『わ、わわっ!? 何なんですかこの玄関は!』
何と、命蓮寺は信者さんを迎え入れる玄関口の段階から、欠陥を抱えていたのです。
玄関の扉を開けた瞬間、椛さんの視界に入ったのは妖怪ぬりかべ――ではなく、視界を覆い尽くしてしまう、巨大な壁でした。
実はこれ、壁ではなくて巨大な段差なのです。
これには、スタッフの椛さんも思わず吃驚。
履物を脱ぐ土間の部分と床の部分の落差が、およそ五メートル程はあるが為に、この様な事になってしまったとの事。
さながら、命蓮寺に入信したいと願う人々を門前払いにしてしまう、残酷な番人とでも言うべきでしょうか。
『実は……船を無理やりにお寺にしたせいで、構造上のしわ寄せが玄関に来てしまったらしくて……
私ならばこの段差を軽く飛び越える事も可能なのですが、やはり信者の方の中にはそれが無理な方も多くて』
何と言う事でしょう!
白蓮さんが説明をしている間にも、ザイルにロープ、カギ爪の付いた縄を抱えた命蓮寺の信者さん達が続々と集まっているではありませんか。
説法を聞きに来たと言うのに、これではまるで山登りに挑む登山家集団です。
これでは、まともに信仰をする事も出来そうにありません。
説法を聞きに来たと言うのに、その前に力尽きて仏様になってしまいそうではありませんか。
これには、思わず椛さんも苦笑いです。
『いきなり酷い関門ですね……』
『はい。この玄関のせいで、信者さんの三割が脱落されてしまって』
『七割が通過するってのが私には信じられません』
続いて、白蓮さんが案内をしてくれたのは命蓮寺の廊下です。
多数の部屋に繋がるこの廊下にも……実は、ある意外な欠陥が。
『えーっと、こちらのお部屋が――』
『――! 危ないっ!』
『え――きゃ、きゃぁぁっ!?』
不用意に扉を開けた椛さんを襲ったのは、部屋の中から勢い良く飛び出した巨大なアンカーでした。
白蓮さんが際どい所で椛さんを突き飛ばしたからこそ良かったものの、あと一瞬遅れていれば椛さんはその身を貫かれていたかもしれません。
『なっ、何なんですかこのアンカーは!』
『いえ……実は、船を無理やりお寺にしたせいで構造上のしわ寄せが来てしまったらしくて……
船の時の名残のアンカーが、至る所から飛び出す仕掛けに』
『罠じゃなくて構造上の欠陥だって事ですか!? って言うか、またしわ寄せか!』
『…………………………はい。そのせいで玄関で七割にまで減った信者さんが、この廊下で四割にまで減ってしまって……』
『死んだー!? 信者さん三割死んだー!?』
『……っ……ううっ……こんな事になるなら、こんにゃく製のアンカーに交換しておくべきでした……』
俯きながらそう呟く白蓮さんの瞳には、薄らと涙が浮かんでいました。
その身を赤黒く染め上げたアンカーは、今までに何人の不運な信者さんを貫いていたのでしょうか……
折角、玄関を通過したと言うのに、不用意に扉を開けてしまった事で失われる命があると言うのです。
これには、思わず椛さんも愕然です。
『えっと、いよいよ座間ですね。立派な毘沙門天像じゃないですかー。
流石は命蓮寺。こんなに立派な毘沙門天像なら、信者さんも――……ふにゃぁぁぁ!?』
なぁんと言う事でしょう!
白狼天狗であるはずの椛さんが、まるで猫の様な声を上げています。
ですが、椛さんが驚くのも無理はありません。
実は、先程まで毘沙門天像だと思い込んでいたのは、"外の世界から流れ着いたカーネ○サン○ース人形"だったのですから。
たおやかな微笑を座間に向けているカー○ルサ○ダースですが、これでは厳粛な雰囲気の座間には不釣合いです。
フライドチキンの神様であったとしても、毘沙門天の代役は専門外。
西行寺の亡霊嬢には丁度良いのかもしれませんが、ここは命蓮寺。から揚げ専門店ではないのです。
から揚げファンによる信仰は集まるかもしれませんが、命蓮寺の信仰が落ちるのは確定です。
『……実は、このお寺を作る時に資金繰りが厳しくて、一番価値があると思われた毘沙門天様の像を質屋に入れてしまって……』
『最低ですね貴女!』
『とりあえずそれっぽい人形を拾って取り繕ってはいるのですが……信者さんは皆さんとも怒ってしまわれて』
『当然でしょうが!』
『そのせいで、ここまでで四割に減った信者さんが、ついにゼロ割に…………!!』
『誰のせいだ! 誰の!』
『これも、構造上のしわ寄せで……』
『いやその理屈はおかしい!』
ぽろりと零れた白蓮さんの涙を、スタッフは忘れる事が出来ません。
このままでは、命蓮寺の信仰はやがて無くなってしまうのでしょう。
それでは、あまりにも白蓮さんが可哀想です。
――何としてでも、白蓮さんを救いたい――
その目的の為、ついに地底の匠が立ち上がります。
いざ、南無三。
◆ ◇ ◆
「いやぁ……なんともまあ、酷い家ですねぇ」
「うんうん。ウチの神社もそろそろボロが来ているけど、流石にここまで酷くはないわよ」
映像が終わった後にスタジオに響くのは、文と霊夢による辛辣なコメントだった。
命蓮寺が抱えている問題はあまりにも大きく、どうやって解決をすれば良いのかが分からない。
だからこそ呆気に取られてしまい、その様な言葉が出てしまったのだろう。
「でもまあ、きちんと解決したのでしょう? それならその映像も見せて欲しいわね。地底の匠とやらも気になる所ですし」
紫のコメントは、呆気に取られている二人を見かねて場を繋ぐ為。
けれども、言葉に含まれている感情は本心から来る物だった。
日頃は地底を忌み嫌う紫だが、知的好奇心には逆らえないのだ。
「そうだな。地底の連中で建築の心得があるとなると見当が付かない。私も気になるぜ」
「ククッ、作業を手伝った私は知っているんだけど、まあここは正々堂々映像で明かされるのを待つとしようか。抜け駆けは卑怯な行いだからな」
「オイオイ、焦らすなよーっ」
「じきに分かるさ。おい天狗。魔理沙もこうしているのだし、観客の皆さんもお待ちだろうよ。次の映像を早いトコ見せておくれ」
勇儀に命じられた瞬間、文の身体がびくりと震えていた。
やはり、鬼に話しかけられるのは抵抗があるのだろう。
早いうちに命令に従うに越した事は無い――そう考えた文は、すかさず映像の続きを再生すべく、合図を出す。
「そっ……それでは、魔理沙さんや勇儀さんも気になっているご様子なので映像の続きをお楽しみ下さい!
見所は、ずばり地底の匠の正体……そして、命蓮寺の住人の皆さんの望みです!」
◆ ◇ ◆
(ナレーション:妙に鼻声の八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「躍動の音楽」)
そんな、不便極まりないお寺を救う為に立ち上がったリフォームの匠。
『任せなさい。このお寺によって生み出された数多のトラウマは、この私が解決します』
そう力強く語ったのは、地霊殿の当主にして読心能力の持ち主である古明地さとりさんです。
リフォーム経験――ゼロ。
一日の肉体労働時間――ほぼゼロ。
所持している資格――無し。
体力に自信――無し。
けれども、やる気だけは満ち溢れている。
そんな、究極のインドア生活を楽しむ彼女を、ペットや地底都市の住人は"動けない大トラウマ博物館"と呼びます。
『とにかく、命蓮寺の抱えている問題は構造上の欠陥故の物。
それを一つ一つ取り除いてやれば自然と問題は解決するでしょう。
住宅によって与えられたトラウマを取り払うのは、トラウマの専門家の仕事ですよ』
『ははぁ成程。流石は地霊殿の主』
『……で、貴女、"あー、めんどくせぇなこの仕事。文さんも人使いが荒いんだから"って思っているでしょう?』
『いえ別にそんな!』
『"うげっ。これが読心の能力か。付き合いにくそうだなあ"と思っていますか……その通りですよ。ふふふっ』
匠の不適な笑みに、椛さんも驚きを隠せません。
その額には、一筋の冷や汗が輝いています。
『さとり様ー! 今回の作業では、あたい達もお手伝いをしますよー!』
『力仕事ならお任せ下さいです』
『お姉ちゃんはあまり身体を動かすのが得意じゃないからね。作業なんかは私達が担当するよ』
『へへへっ。久しぶりに鬼の力を発揮する時が来たかねぇ』
『……匠だなんて妬ましいわ……』
『おいおいパルスィ、今は妬んでいる場合じゃないでしょうに』
『……………………』
『って、キスメも何か言ってやれば良いのにさー』
さらに、匠のご家族やご友人も応援に駆け付けてくれました。
これには、思わず匠も笑顔になってしまいます。
『……ええ。皆の思いは十分私に伝わっています。頑張ってリフォームを成功させましょう』
こうして揃った命蓮寺リフォーム班。
依頼人の白蓮さんが出せる予算金額の上限は、763万円。
古着や不要な道具を道具屋やいかがわしいお店に売り込んで作った、なけなしのお金です。
失敗は、絶対に許されません。
果たして、この依頼の結末は――……
◆ ◇ ◆
「成程。さとりが今回の匠なんだな」
「意外な人選だけれども、心を読む能力の持ち主だからこそ出来るテクニックがあるのかもしれないわ。これは期待が出来そう」
「ふぅむ。地底の妖怪の中でも、一番の嫌われ者がねぇ……本当に出来るのかしら?」
「おい、そこの隙間。さとりは私の友人だ。それ以上、無礼な言葉は止めておくれ」
「これはこれは。失礼致しました」
ゲスト席がぴりぴりとした雰囲気に包まれるのを察知してか、霊夢がマイクを強引に奪い取る。
何だかんだで博麗神社の巫女は、無用な争いを拒むのだ。
「で、結局のところ命蓮寺が抱えている問題は三つと考えても良いのかしら」
「はい。霊夢さんの仰るとおり、命蓮寺は三つの課題を抱えています」
文が言葉に応じると同じくして、ディスプレイには箇条書きにされた三つの課題が映し出されていた。
・信者を拒む、欠陥の土間
・廊下のあちこちに仕掛けられた死の罠
・ようやくたどり着いた座間に鎮座する○ーネル・サンダー○人形
先程の映像に記録されていた、命蓮寺の抱える欠陥である。
「……何と言うか、お寺と言うよりはダンジョンとでも言うべきかもしれませんね」
「ああ、そんな気がするぜ。さしずめ最後の人形はダンジョンのお宝って所か」
「残念だけど命蓮寺にお宝は無いわよ。異変の時にあらかた家捜しはしたけど、何も無かったんだし」
「お宝どころか、熱心な信者の信仰を打ち砕く最悪の敵かもしれませんわ。おお、恐ろしい事」
「うーむ……信仰ってのは厄介な物だからねぇ。
例えばだけど、鬼の力を使えば一つ目と二つ目の課題はどうとでもなるさ。でも、心の問題は腕力じゃあどうしようもない。
ここで、さとり――じゃなくて匠の手腕が発揮されるんだろう」
「そう言う事でしょうね。心の問題は、心の専門家が解決すべし。
もしかすると、今回の匠は適材適所と言えるかもしれません。
……さて、それではいよいよリフォームの開始です! どの様にして匠がこの依頼に望んだのか、皆様ご覧下さい!」
◆ ◇ ◆
(ナレーション:妙に鼻声の八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「幻想の音楽」)
最初に匠が行ったのは、住人からの要望を聞く事でした。
住居とは、人が住んでこその住居。
目の前の問題を漫然と解決するだけではなく、そこに住む住人の事を考えてリフォームに挑む、匠の信念が伺えます。
『私の望みはですね』
『はい分かりました。毘沙門天の弟子の寅丸さんは整理の棚が欲しいと。次の方どうぞー』
『んっとね、私は』
『はいはい。正体不明を演出するメイク部屋ね。次、お願い』
『えっへん! わちきはだなー』
『あんたは命蓮寺の住人じゃないでしょう。次』
お話は、あっという間に終了。
読心能力を持つ匠だからこそ、迅速な要望の把握が可能なのです。
これには、依頼人も言葉を失っています。(文字通り、何も話さなくても通じますし)
『纏めると、整理棚とメイク部屋。ご主人のお仕置きルームとカレー調理室が欲しいと言う事ですね』
『あ、あら? えっと……星とぬえちゃんと、ナズーリンちゃんとムラサちゃんと……?』
『全員の要望は聞いたわよ』
『…………?』
一瞬、依頼人の顔が曇った気がしましたが、それはそれ。
そう言えばリフォーム費用を稼ぐ為にアルバイトをしている住人が居るらしいのですが……まあ、それについてはまた後でも良いでしょう。
早速、匠は纏めた要望をノートに記すと、仲間との作戦会議を始めます。
『結論から言うなら――おくうの砲撃で更地にして、そこに763万円でそれっぽい家を建てるのが一番早いわ』
『正々堂々とリフォームをせんかァ――――ッ!』
『はいさとり様ストップ! あと勇儀さんダメ! 殴っちゃダメですー!』
『結論から言うなら――命蓮寺の間取りを一度破壊して、そこに新しい部屋の構造を作るべきね』
顔に青あざを作った匠による、リフォームの計画。
それは、命蓮寺を一度基礎の段階にまで破壊し、その後に新たな家の構造を作ると言う物でした。
それにしても、何故匠は頬を擦っているのでしょう。
まるで、鬼にでも殴られた様です。
『許可は既に貰っているから、作業はいつでも始められるわ。
……でも、今日は止めておきましょう。明日、命蓮寺の住人の皆さんの前で行うべきね』
『さっすがさとりちゃん! きちんと住人にも立ち会って貰う事で、納得の出来るリフォームをしようって事なんだね!』
『いいえ? 自分が住んでいた家が目の前で破壊される瞬間、住人はどんな感情を抱くのかが気になっただけよ』
『テメェちょっと感染症にしてやろうかオイコラ一瞬だけでもさとりちゃんを良い妖怪だと思った私の純真を返せや』
『……妬ましいっ…………新しい家だなんて、今の段階から妬ましいっ……!』
『えへへへー。壁を壊したら白骨死体が出るとか、そんなどっきりハプニングが起こると嬉しいですにゃー』
『まあ、壊すのは得意だからさ。存分に鬼の力を発揮させて貰うよ』
仲の良いリフォームチームだからこそ出来る、住人を何よりも優先したリフォーム計画。
匠の繊細な心遣いが、ここにも表れているのです。
そして、翌日。
『…………いよいよ、命蓮寺が壊されるのですね』
『ううっ! 私の聖輦船ーっ、カッコ良く生まれ変わるんだぞー!』
『ぬぇぇぇぇん! ぬぇぇぇぇん!』
『破壊の後に創造を行うのもまた正義。これで命蓮寺がより良い寺になるのならば、リフォーム費用のアテに売り払った宝塔も本望でしょう』
『……おい。ご主人。今、何と言った?』
涙ながらに見守る住人達を前に、命蓮寺が破壊されています。
壁に雨あられと打ち込まれるのは、リフォームチームによる華やかな弾幕の数々。
ある者は核の炎を叩き込み、またある者は土を分解する病原菌を壁に打ち込みます。
中には、『妬まじいぃぃぃぃぃぃ!! 自機だなんて妬ましいぃぃぃぃ!!』と叫びながら藁人形を壁に打ち付けている作業員も居る様ですが、そう言うのは放置して問題はありません。
作業で出たガレキや泥は、猫車と桶のフル稼働で迅速に撤去。
力自慢の鬼と烏。
運搬役の火車と釣瓶落とし。
土壁の破壊を得意とする橋姫と土蜘蛛。
そして、作業を見守りながらキャッキャウフフのイチャイチャタイムを楽しんでいるさとり妖怪の姉妹。
気が付けば、命蓮寺は基礎や柱を剥き出しにした姿へとその外見を変えていました。
これもまた、リフォームチームの団結があっての事なのです。
『どうですか? こうして、住んでいた家が綺麗さっぱりとその姿を変えさせられると言うのは』
『……弟の名を』
『はいありがとうございます。弟の名を冠した寺だからこそ立派な姿になって欲しいと願いが芽生えたですか。ご期待に添えられる様にしますとも』
もはや、匠と依頼人の心は一つでした。
余計な言葉は必要ありません。
後は、匠がその心に応えるのみ。
『さて。それじゃあまずは、あの土間を解決するわよ!』
◆ ◇ ◆
「住居とは住人があってこその物。だからこそ、きちんと住人の要望を聞いてからリフォームに取り掛かるですか……」
「うん。良い心がけだと思うぜ。住居の何たるかをきちんと理解しているからこそ可能な、匠ならではのアプローチだな」
「流石は匠だ。作業を手伝った私も鼻が高いよ」
「ウチの神社も匠にリフォームをして貰おうかしら……もっとこう、信仰とお賽銭が集まる感じの神社に」
ゲストにも匠の心遣いは概ね好評。
中には、自分の家をリフォームして欲しいと言い出すゲストも居る状態である。
観客席からも賑やかな声や感嘆の声が上がっているからには、既に会場の心は一つとなっていると言えるだろう。
「さあ、要望確認と解体作業が終了し、いよいよリフォームの本番となったワケですが……まずはあの、高い高い土間のリフォームからです。
こちらに命蓮寺のミニチュアモデルを用意しましたので、皆様ご覧下さい」
文の指し示す方には、何百分の一かに縮小された解体前の命蓮寺のミニチュアモデルが一つ。
屋根が取り払われる事で、部屋等の全体構造が分かる様にされている。
玄関の土間は信者を追い払い、廊下のあちこちには鮮血の滴るアンカーが揺れ動き、最後の最後に待ち受けるのはカー○ルおじさん。
文が指示棒で玄関を示せば、背後のディスプレイにはその箇所のズームアップが映し出される。
「こちら、この土間が最初の関門です」
「高さ五メートルって事は、大体三階建ての建物くらいだよなあ?
つまり、今の命蓮寺は一階に入ろうとしたら階段もスロープも無しに三階に進まねばならんって事だ……
私達みたいに魔法や術で空を飛べるならともかく、普通の人間にはちょいとキツい部屋だぜ」
「解体作業で壁を取り払う事が出来たとしても、高低差までは解決出来ません。
事実、先程の解体作業終了時の映像を見ても、土間は相変わらずの断崖絶壁状態でした。天人娘の乳であっても、もう少しなだらかな物です」
「魔理沙さんと紫さんの仰るとおり、この土間は高低差を持っているが為、先程の解体作業を持ってしてもその険しさは依然として変わっていません。
では、匠はどの様にしてこの課題を解決したのでしょうか? 是非、ゲストの皆さんも、観客席の皆さんもお考えになって下さい!」
ゲスト席を立ち上がってミニチュアモデルの周囲に集ったゲスト達が、思い思いにアイデアを語り出す。
時には真面目な意見を。時にはふざけた意見を。
「壁を登りやすくする為のでっぱりを付けるってのは?」
「いやいや霊夢。それでは信者さんの体力が危ないと言う問題の解決になってはいないでしょうに」
「土間と床の段差を切り崩して階段にする……なんてのがやっぱり一般的な工夫なのかなー。
でも、あの匠がそんなありきたりな工事をするのかが問題だぜ。工事費用も上限がある事だし」
「ふふふっ。この工夫には作業を手伝った私もびっくらこいたからねぇ。匠は流石だと思ったよ」
「何なのかしらねぇ……賽銭箱を置いて足場を……いやいや、それじゃあ高さが足りないから……」
「お賽銭箱を足蹴にするのは止しなさいってば」
「いっそ普通の人間の信仰を突っ撥ねて、空を飛べる信者だけを受け入れるとか!」
「そりゃ本末転倒だぜ」
だが、結局答えは見つからないまま、映像の続きを映す時間になってしまった。
匠の工夫や、如何に。
◆ ◇ ◆
(ナレーション:そろそろ鼻声に慣れてきた八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「英知の音楽」)
『このリフォームを成功させるカギ……それは、これです』
そう言って匠が地底より運び出した物。
それは――土蜘蛛の伸縮性に飛んだ蜘蛛の糸で織られた、一つのトランポリンでした。
『信者の方々が命蓮寺に入る際、壁を乗り越えなければならなかったのがそもそもの問題。
ならば、乗り越える必要を無くしてしまえば良いのですよ。飛び越える事によって』
語りながら、匠はペットのお二方にトランポリンの設営を行わせています。
あっちへヨロヨロ、こっちへフラフラ。
危なっかしい猫と烏のトランポリン設置作業がどうにか終わる頃には、既に周囲は夜の闇に包まれていました。
『見本を見せてあげないとね。こいし、お願い』
『はーいっ!』
匠の妹さんは命じられるままにトランポリンの上に飛び乗ると、その場で軽く二度三度とジャンプ。
そして――……
『てやっ!』
可愛らしい声を上げると共に、全身のバネに力を入れて大きくジャンプ!
そのまま、着地をする猫の様にしなやかなステップで着地の衝撃を殺すと、なんとも簡単に命蓮寺の中に入ったではありませんか。
これには、匠もおもわずにっこり。(ジャンプの瞬間、妹さんのパンツが見えたからでしょう)
『お姉ちゃーん! こんな感じで大丈夫かなー?』
『完璧よー。あと、黒レースのパンツはまだまだ早いと思うわー』
『くたばれー!』
『こいしのパンツを喉に詰まらせて窒息死なら、いつでもウェルカムよー!』
なんとも仲睦まじい姉妹のやり取りに、リフォームチームも笑みが自然と零れてしまいます。
高い高い段差の前には、大きなトランポリンを設置する事でその課題を解決。
匠の斬新なアイデアが発揮された瞬間です。
堅苦しいお寺に入る前には、ほんの少しの運動と遊び心を提供してくれる。
玄関には、匠ならではの素晴しい工夫が施される事となりました。
『さて、次はアンカーの罠をどうにかしましょう』
妹さんと同じくトランポリンで跳ね上がると、匠は命蓮寺の内部へと入り込みます。
後に続くのはリフォームチームのメンバー達。
水色ストライプ。黒レースにガーターベルト。マエバリ。くまさん。褌。桶だから見えない。はいてない疑惑。以上、謎の呪文でした。
『さて、この命蓮寺のあちこちには死の罠が仕掛けられています。
これより、私達でそれら罠を全て解体。安全で住みやすい命蓮寺を作ります』
『うにゅっ! りょーかいですぅ!』
『安全設計だなんて妬ましいわ……』
『トラップと私との勝負さね! こいつは腕が鳴るよぉ!』
『危険な作業ですが、幸いにして壁を取り払った事で罠の発見は容易。ならば、後は破壊を行うのみ……始めましょう』
『『『『『『『了解っ!』』』』』』』
何と言う事でしょう!
数多のスペルカードが解き放たれるにつれて、命蓮寺の至る所で華やかな弾幕が花開き、アンカーが次々と破壊されているではないですか!
『三歩必殺ッ! でありゃぁぁぁッ!!』
『頼むよ、ゾンビフェアリー達!』
『うにゅー! 核爆発っ!』
『………………えっと、釣鐘落とし、なの…………』
『キャプチャーウェブでアンカーを捕らえて!』
『丑の刻参りィィィィィ!! 妬ましい、どいつもこいつも妬ましいィィィィィィ!!』
『……おーい、パルスィ、落ち着けー?』
リフォームチームのスペルカードが放たれる度に、命蓮寺の各地に仕掛けられていた死の罠が破壊されています。
『……んふふっ…………こいしのほっぺた、マシュマロみたいでやわらかい……♪』
『ふにゃぁぁ……お姉ちゃん、や、やだよぉ……カメラさんが、見てる……』
『良いじゃない。もっともっと、こいしの可愛い姿を見せてあげましょうよ。んっ、んーっ…………』
『…………んんっ………………おねーちゃんの唇も、柔らかいよぉ……はむっ……♪』
そして、それを横目にまたしてもイチャイチャちゅっちゅに励む匠姉妹の姿もありました。
かくして、命蓮寺のあちこちに仕掛けられたアンカーも無事撤去され、いよいよリフォームは折り返しを迎えたのです。
◆ ◇ ◆
「成程なあ。時には遊び心を、時には力ずくを……匠の技術には恐れ入るぜ」
「アンカー相手の解体作業は少しばかり骨が折れたけどね。鬼の力を存分に発揮する機会を提供してくれたんだ。匠には感謝しているよ」
「トランポリンかあ。博麗神社の境内にアスレチックを作ったら、参拝客とお賽銭も増えるかしら?」
「何にせよ、こうして土間と床の境界は取り払われたのです。後は部屋の構成と、毘沙門天像ですね」
まさかの力ずくと遊び心を前に、ゲスト達もただ感心するばかり。
観客席からもまた、匠の手腕を褒める声が上がっていた。
匠の技術、ここに極まれりである。
「では次の課題……リフォームに伴う部屋の構成へと移りましょう。
この命蓮寺には依頼人の白蓮さんを始めとして、多数の人妖が一つ屋根の下で生活をしています。
だからこそ、匠には各々の要望に応えつつリフォームを行う事が求められています」
「色々とあったっけ。収納だとかおしおき部屋だとか」
「どうやって予算の範囲内で納めるのかが楽しみだな」
「お金は大切だしね」
「と、言う事で次のシーンです! いよいよ部屋の間取りを決める事になったリフォームチーム。果たして、どうなるのやら?」
◆ ◇ ◆
(ナレーション:鼻声が板に付いた八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「躍動の音楽」)
『予算に限りがある以上、壁を始めとする仕切りに高価な素材は使えないわ。そこで、今回はこれを使います』
そう言って匠が持ち出したのは……何と、先程の解体作業で大量に発生した壁やアンカーの破片。
つまりは廃材でした。
『元はと言えば、これらは旧命蓮寺で住人の皆さんと共に日々を送っていた大切な素材ですからね。
これらの中から可能な限り再利用をする事によって予算を削減し、なおかつ懐かしい雰囲気を感じて貰いたいと思うの』
『流石はさとり様です!』
『ただし、解体作業の途中で使い物にならない状態になってしまった廃材もあるから、全てを再利用すると言うのは不可能だわ……
そこで、お燐。例の物を出して頂戴』
『はい! じゃじゃーんですっ!』
そう言ってお燐さんが猫車から取り出したのは……何と、新鮮な死体の数々でした。
これには、撮影を行っていたスタッフの椛さんも若干引いてしまいます。
ですが、これもまた地底育ちの匠ならではの工夫と言えましょう。
極限まで予算を削るからには、使える物はとことん使う。
それが、この匠の信念なのです。
『死体を壁の中に塗り隠すのは、古典的な建築技法。今回はそれに倣う事にしましょう』
『素材の死体はどんどん補給しますから、安心して下さい!』
匠とお燐さんの指示の元、命蓮寺のあちこちに死体が埋め込まれています。
船乗りのムラサさんが希望したカレーの調理室には、水死体を。
鼠のナズーリンさんが希望したご主人のお仕置きルームには、獣に襲われた死体を。
完全主義者の匠は、部屋の一つ一つにそれぞれ適した死体を選別しており、その瞳は真剣そのもの。
こうしている間にも、着々と部屋の間取りは形作られ、新たなる命蓮寺の姿が薄らと見えてきました。
『さとりちゃーん。収納スペースの設置が完了だよー』
そう言って、収納棚を指差すのはヤマメさんでした。
ヤマメさんの指差す先には……何と言う事でしょう!
伸縮性と粘着力に優れた土蜘蛛の糸によって丹念に作られた、何とも美しい収納棚の姿が。
限りあるスペースを限界まで活用する為に、立体的な構造を可能とする蜘蛛の糸を素材に選んだ匠の発想があっての事。
これなら、物を無くしてしまう癖のある住人の寅丸さんも安心です。
『拷問部屋……じゃなくてお仕置きルームも完璧よ。
……妬ましいわ。あんなに立派な三角木馬だなんて妬ましい』
『メイク部屋もどうにか完了さ。鏡台は巨大な大理石を鬼の力で削って作った一枚モノだから、幻想郷でも二つと無いだろうね』
『カレー調理室もオッケーだよー。巨大桶が問題だったんだけど、そこはキスメの持ってたスペア桶を提供して貰う事でクリア出来たし』
『ヤマメちゃんのお願いなら、良いかなって思って……えへへっ……』
その他の部屋もほぼ完璧。
残るはあの、カー○ルサン○ース人形です。
果たして、匠はどうやってこの難関を解決するのでしょうか?
『さあ、最後の仕上げね……お燐、例のブツをお願い』
『じゃじゃーん! お待たせしましたー!』
匠の合図でお燐さんが取り出した物。
それは――何と、質屋に売り払われていたと言う、あの毘沙門天像ではありませんか!
『いやー、質屋の主人を脅して取り戻す事が出来て、本当に良かったですー』
『うんうん。私とお燐で『ねぇ、おじさん……? この場で殺されて灼熱地獄の燃料になるか、それともその像を返すか……どっちか選ぼうね?』ってお願いしたらあっさり返してくれたもんね』
『こいし様の魅力あっての事ですよー』
『えへへっ。やっぱり、おしゃれをして行ったからかなあ?
血まみれの大鉈を片手に持っていたのが良かったのかも』
時には、暴力的な手段に出る事も厭わない。
これもまた、匠ならではの交渉術なのです。
『さて……これでどうにかこうにかリフォームも終了。後は、例の秘密ギミックを仕込んでお終いね』
手がけていたお仕事も、いよいよ大詰めです。
そして匠は懐から一枚のスペルカードを取り出すと――……
◆ ◇ ◆
「うーむ。リサイクルの極限だぜ……その徹底的な再利用主義には、私も頭が下がる思いだ」
「地底育ちの匠だからこそ、資源を最後の最後までムダにしない精神が養われているのでしょうねぇ。
私も妖怪の賢者として見習うべき物を感じました」
「確かに、地底は地上に比べると未だ発展途上さ。
だからこそ、資源を何よりも大切に考える精神が養われたんだろうね」
「予算は削ろうと思えば削れる。立派だと思うわ。だから誰かお賽せ」
「はい! と言う事でいよいよリフォームも完了し、残すは住人の皆さんが生まれ変わった命蓮寺をどう感じるかとなりました」
「オイコラ天狗ゥ!」
「リフォームが完成したとしても、それが住人にとって不便では意味がありません。
果たして、依頼人の感想は?
そして最後に匠が取り出していたスペルカードの正体とは!?
引き続き映像をお楽しみ下さい!」
◆ ◇ ◆
(ナレーション:これで鼻声もお終いかと思うと名残惜しい八坂神奈子)
(BGM:プリズムリバー楽団提供「感動の音楽」)
"落ち着いて信仰の出来ない家"とまで呼ばれた命蓮寺。
その命蓮寺は、ついに匠の手によって生まれ変わったのです。
信者さんを阻んでいたあの悪名高い玄関口には、トランポリンを設置する事で出入りを簡単にすると言う工夫を。
何人もの犠牲者の血を啜ったアンカー地獄は、地底の住人の総力を上げる事で撤去が完了。
毘沙門天像を買い戻すのではなく、強奪する事で予算を削減する匠の強引な所もまた可愛らしい工夫です。
解体作業で出た廃材の数々を再利用する事で再びあの懐かしい命蓮寺の雰囲気を感じる事が出来ると言うのもまた、匠の心憎い演出と言えるでしょう。
『……ドキドキしますね。生まれ変わった命蓮寺がどの様に信仰を集めてくれるのか、今から楽しみです』
そう言いながら扉を開けた依頼人の目の前に飛び込んできたのは……そう、あのトランポリンです。
これには、依頼人も思わず吃驚。
『あら……成程。そう言う事ですか。
確かに、これなら信者の方々が不要な苦労をする必要もなくなりますね』
そう言ってトランポリンの上で楽しそうに跳ねる依頼人の表情には、満面の笑みが溢れていました。あと黒のスケスケです。
続いて依頼人の目に飛び込んできたのは……そう、あの長い長い、命を奪われても文句の言えなかった廊下です。
ですが……何と言う事でしょう!
力任せにアンカーを撤去した事で、その心配ももはや皆無。
元の命蓮寺の廃材や死体を活用する事で、住人の要望に沿った生活スペースを提供する事に成功。
特に、お仕置きルームは防音性に優れた二重扉を使う事により、中で何が行われても外には声が一切漏れないと言う徹底っぷりです。
これには、その場に居合わせたナズーリンさんも含み笑い。
きっと、今宵はお仕置きルームに絶叫が響くのでしょう。
『凄いですよ! この巨大桶なら、100人分のカレーだって作れそうです!』
『こちらの蜘蛛の巣による棚も素晴しい。これなら、物を無くす心配も無くなりそうです』
『わーい! こんなに大きな鏡だったら、きっとお化粧も大成功だよ!』
他の住人の皆さんもまた、喜びの声を隠せません。
そして、依頼人があの座間へとたどり着くと……
そう。
そこには、かつて命蓮寺で信仰を集めていた、あの毘沙門天像の姿が。
さらには傍らにカー○ルサン○ース人形も堂々と鎮座しており、これからは二つの像が信仰を集める事になるのです。
これならば、から揚げ屋さんと毘沙門天の信者の方々による信仰心が命蓮寺にはもたらされるのでしょう。
依頼人が信仰心を集める事を望んでいるのだと知っていた、匠の素晴しい心遣いです。
『あら……? この毘沙門天様の像に、切れ込みが……
……あらまあ! 何と、こんな仕掛けがあったなんて!』
毘沙門天像の仕掛けに気付いた依頼人は、驚きの声を上げていました。
毘沙門天像の厳つい顔面に入れられた、一本の切れ込み線。
その切れ込みに指を添えて、観音開きとなった頭部を開くと……
何と言う事でしょう!
この毘沙門天像の頭部には、メロンパン入れの仕掛けが施されていたのです!
これには、依頼人や住人の皆さんも『へぇ~』の声を隠せません。
非常食の収納スペースをこっそり用意しておくのもまた、匠ならではの工夫なのです。
そして、匠が最後に依頼人達を案内したのは、住人達の為に匠が用意した秘密の部屋。
そこに依頼人達が一歩足を入れると……
『…………ぇ……? 嘘……みょう、れん……?』
何と、依頼人の頬には一筋の涙が。
実はこの部屋、匠が自身のスペルカードによって作り出した、『懐かしい景色を想起出来る部屋』だったのです。
かつての思い出に浸れる部屋があっても良いじゃないか――そんな、匠のちょっとした優しさがこの部屋には表われています。
『これって……平安京……!? 一千年前のあの風景がどうして!?』
『海……? え、え、えぇっ!? どうして、命蓮寺の中に海が!?』
『これは……かつての、私が治めていた寺……!? どうして……? だって、あの寺は荒れ果てて……』
『ご主人、これはきっと幻影だ。だが……どうしてだろうな。私の瞳に映る景色も感じられるニオイも肌に伝わる空気も、何もかもあの時の寺のままだ』
他の住人方々の瞳には、依頼人とはまた違った懐かしい景色が映っているのでしょう。
皆さん、言葉を失って想起した風景に夢中になっているのですから。
『……さとりさん、本当に……ありがとうございました』
『私は大した事をしていません。構造上の欠陥を抱えていた命蓮寺を、本来の姿に戻しただけなのですから。
……頑張って下さい。たまには、地底からひょっこり顔を見に来ますよ』
『はい! これからは一同、全力でこの新しい命蓮寺を盛り上げて行きます!』
こうして、今回のリフォームは無事終了。
費用も以下の通り、どうにか予算内に収まってくれて一安心です。
[命蓮寺リフォーム費用]
予算 763万円
工事費 0円
材料費 0円
建具・照明費 50万円
リフォームチームの打ち上げ代金 713万円(内、星熊勇儀氏の飲酒代が500万円)
合計 763万円(デザイン費含まず)
これからの命蓮寺は、遊び心と信仰心に満ちた、素晴しいお寺になってくれる事でしょう。
◆ ◇ ◆
「ブラボー! ブラボーだぜ!
私は感動した! 最後の想起部屋なんか最高だ!」
「素晴しいリフォームだわ。特に、工事費と材料費を極限まで抑えたのが素晴しいと思う」
「毘沙門天とカー○ルおじさんの境界を取り払った匠の手腕には、私も賞賛の言葉を送りましょう。
本当に、素晴しい物を見る事が出来ました」
「作業に関わった私も鼻が高いよ! これからの命蓮寺に期待だねぇ」
「ゲストの皆さんも観客席の皆さんも、匠の素晴しい手腕を大絶賛です!
かく言う私もまた、司会をしながら匠の腕前の素晴しさに感動してしまいました!」
映像が終わった後、会場は興奮の渦に包まれていた。
様々なギミックを賞賛する者。
次の機会があれば、是非リフォームをして欲しいと願う者。
命蓮寺を一度見てみようかと言う者。
どれもが、匠の腕前に酔いしれていたのだ。
「さて、それではイベント終了の挨拶を博麗霊夢さんより頂きましょう」
「素晴しいリフォームだったわ。皆もきっとそう思ったでしょうし、このまま勢いで賽銭箱に」
「はい、素晴しいご挨拶をありがとうございました!」
「おい最後の最後までこの調子かよ天狗ゥ!」
「それでは、最後に物販スペースのお知らせです。
イベント会場出口に併設されました物販スペースにて、本日上映した映像の再生装置と記録媒体。
さらには古明地姉妹が至る所でイチャイチャしていた様子を収めた記録映像『イケナイこめいじ ~お姉ちゃんのユビが、開いて……ふぁぁっ、心がぁ……』
トランポリンの使用シーンをスーパースローカメラで撮影した写真を集めた写真集『少女ローアングル』
そしてイベントの開催を記念したパンフレットの販売を行っております。
なお、全てを購入された方の中から先着10名の方には『こっそり古明地姉妹がお仕置きルームを使用していた際の盗撮映像』を記録した記録媒体も特典として差し上げます!
それでは、長々とお送り致しました"大改修!! 劇的ビフォーアフター"ですが、これにて終幕。
皆様、本当にお疲れ様でした!」
文の挨拶の後に巻き起こったのは、耳をつんざくばかりの拍手と歓声、そして物販スペースに殺到する男共の絶叫だった。
こうして第一回"大改修!! 劇的ビフォーアフター"は大成功でその幕を下ろす事となったのである。
尚、その後命蓮寺の住人が想起部屋中毒になってしまい、寝食を忘れて部屋に閉じこもった依頼人達がカラカラのミイラ寸前の状態で発見されたのは……また別の話。
鼻声の神奈子様が妙にツボに入りました(笑
どうしてくれるwww
あとくまさんについてkwsk。
一輪さん。その稼いだ金は自分で使っていいよ……(涙)
そういえば「ふぉあた」のどこかの家は欠陥住宅で訴えられてるとか……
あと写真集ください
皆がさわやかにトチ狂っている中、一人正気な一輪に合掌
悲劇的過ぎるw
面白かったーーwそれとAD(アシスタント・ドッグ)が自分的にはツボに来た!
笑いが止まりません。
中盤部分が冗長気味な気も。
でもメロンパン入れに関しては素直に爆笑ですw
あと古明地姉妹ちゅっちゅDVDこっそり俺にも売ってくだしあ。
後輩のアパートを勝手に小料理屋に改造する馬鹿動画を見ていたので
個人的タイムリーではあったものの
比較してしまうと、どうも乗り切れず
ギャグは小だしにせずドカンと行った方がよかったかも知れない
誰だよwww
てか古明地姉妹は自宅でしてくださいwww
それとDVDは観賞・保存・布教用で3枚ください
もう収集がつかねぇwww
あと、DVDは各種増産を希望する。
このために地の文がずっと楽しくて仕方なかった。卑怯だ。
D・V・D! D・V・D!
メロンパンで笑ったからちょっとだけ点数増やすよ
作品は企画物だからアレだな、最後まで読めなかった。
ナレーション(神奈子)に爆笑!
ところで、
『イケナイこめいじ ~お姉ちゃんのユビが、開いて……ふぁぁっ、心がぁ……』
と『少女ローアングル』は、どこで買えるのでしょうか?
一輪さん負けないで。
あとDVDを頂きましょうか