Coolier - 新生・東方創想話

東方暴走狂

2010/03/26 21:26:21
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八雲藍は尻尾が九つ、そしてその一つ一つが、かなりの大きさである、
彼女を見たときの第一印象は「尻尾」である事がほとんどだ、
困ったもので、彼女が休んでいると誰かれ構わずその尻尾に触れようとし、顔をうずめようとする、
そのたびにこそばゆい思いをしているのだが、尻尾に触れた者のほとんどが満足げな表情をしているので無碍にもできない



その尻尾が、あんなことになるとは思いもしなかったのだ、少なくとも、あの時には



八雲藍は、夕飯の材料を買う為に人里を訪れていた。
人里といえど、妖怪や魑魅魍魎の類も闊歩しているが、彼らは比較的おとなしく、
人間が危害を加えようとしたり、余程の無礼を働くなどしない限りは無害といっても良かった。


八雲藍もそんな中の一人である、彼女はよく人里を訪れては買い物をするし、
測量や結界の調査のついでなど、よく寄っては豆腐屋に行き油揚げを買う事もある、
幸せそうな顔をして豆腐屋を後にする彼女の姿はよく目撃されており、
いかに強大な力を持つ妖獣であっても、ハラが減ればメシを食うし、それの好みもあるものだと言われていた。


そして、八雲藍にとってはいつもどおりの買い物をいつもどおりに済ませただけなのだが、
その日は、前日までの結界の調査や測量などによる疲れが溜まっていたので、妖怪でもよく立ち寄る茶屋で一休みをしていた時のことだった。


気が抜けていた瞬間、ぞわぞわぞわっ!と尻尾に違和感を感じた

「ひゃぅ!」

唐突に声を出してしまった。いつも誰かが近づけば気付いた筈なのだが、音もなく、妖気すら感じることは無かった。
それ以前に完全に無防備な状態であった事もあるのだが、それがなおさら予期せぬ感触に驚愕し、全身が身震いした。

尻尾の中に入り込んだ誰かは、もぞもぞと動いている
「ひゃ、あ、うん、はう!」
その度に声が漏れる、周囲の妖怪や人間が何事かと彼女を凝視する、

「あぅ、こ、こら、やめないか!」
と、叱るも尻尾の中から離れないぞとばかりに、中の主は出てこない、
正体を確かめようと後ろを振り向くも、自分の尻尾が邪魔をして確認すら行えない、ぐるっと回っても尻尾も同時に回るので意味が無い

(いかん!腰が抜けそうだ!)

膝がすでに笑っていた。が、唐突に尻尾の中から感触が消えた。
尻尾の中に入っていたのは、人間の子供だった。
そしてその子供の襟首を掴んでいるのは、寺子屋の先生、上白沢慧音だった。
「何事かと思ってきてみれば・・・」そう言ってため息をつくが、すぐに真面目な顔になり、
「すまない、ウチの寺子が無礼をしたようだ」
と、頭を下げられた。
人間の子供だったのか、人間の子供が忍び足で近づいてきたのならば、魔力も妖気も感じない、
おまけに気が抜けていたので気付こう筈も無い訳である、
「あ、あ、いや、なに、子供のしたことだ、気にしないでくれ・・・」
まだ、動揺は収まってはいなかった。言葉もしどろもどろになってしまう
「今回は分別のある人だったからよかったようなものを・・・ 危険な妖怪だったら命が危ないんだぞ?」
だが、怒られてるほうの子供は、悪びれた様子もなく
「暖かそうだったんだから、いいじゃんか」
慧音の表情が一遍し、空気が凍りついた。
「言ってもわからない子は・・・ お仕置きするしかなさそうだな」
すると、不遜な態度をとっていた子供が、怯えた表情で
「あああああああごめんなさい!ごめんなさい!狐のお姉さんもごめんなさい!もうしません!もうしませんからああああああぁぁあ!」
まるでこの世の終わりが来たとばかりに、その子供は泣きじゃくった。
「ま、まぁ・・・上白沢、ほどほどにしておいてやってはくれないか、私の尻尾はもうしょうがない、そういうものなんだよ・・・
それはそれとして、妖怪にも危ない奴がいるからそう簡単に近づいたらいけないぞ」
と、慧音をたしなめつつも、子供へのフォローを欠かさないあたり、藍の優しさが伺えたが


「ありがとう!気をつけるよ!お姉さんの尻尾あったかくて、ふわふわして・・・




洗ってない犬の匂いがしたよ!」




(ピキッ!!!)
藍のコメカミに、青筋が浮かんだ


「上白沢、仕置きは強めに頼む」
「心得た」


その日、寺子屋から子供の絶叫が聞こえたそうだ

「お尻が痛だあああああああい!ンッギボヂィィィィィィ!!」

といったものだったらしいが、真偽の程はなぞである


そして、八雲藍は帰宅をして、台所に買ってきた食材を置くなり、自室に直行した。
(そんなにも匂いが獣っぽいのか・・・?)

しかし、自分の匂いなんてものはあまり気付かないもの、ましてや自分の尻尾なぞ匂いは嗅ぎづらい
(こうして、こうすれば・・・)
背中を極限まで反って、尻尾の匂いを嗅ごうとするが、後頭部が尻尾に埋まるだけで何ら意味が無い
しばらく首を回したり、色々と試行錯誤を試みたが、無駄な努力だった。

「やっぱり洗うしか無いか」
式神にとって水は大敵である、その為、体を洗うときはいつも濡れた布で体を擦る程度にしか行えなく、
耐水の法を使うのは本末転倒であり、水に入っても体が水に触れないことには洗ったことにはならない

意を決した彼女は、タライを用意し、井戸へ向かった。
そして、タライに水を張り、式服を脱ぎ、サラシとフンドシ姿になり
体が濡れないように注意しながら、ゆっくりと尻尾をタライの水につけた。

「んっ・・・ これなら・・・ 耐えられる・・・」
少しずつ尻尾を動かし、ざぶざぶと洗い、タライの水を変えてはまた洗うという事を繰り返す。
最初の頃濁っていたタライの水も、しばらく繰り返しているうちに洗っても汚れなくなっていった。

(やっぱり汚れていたのか、定期的にやらないとだめなようだな・・・)
などと思いながら、ざぶざぶと洗っている最中

「藍さまーーーーーーーーー!」

と、自分を呼ぶ声、彼女の式神でもある橙のものだった。
橙もまた、藍の尻尾をお気に入りにしている者の一人だった。藍も橙や主人である八雲紫が自分の尻尾に触れているときは、
心地よさすら感じているのだが、今は別


尻尾が濡れている→橙がソレに触る→式神に水は厳禁→橙ヤバイ→藍もヤバイ→紫がヤバイ→幻想郷がヤバイ→地球ヤバイ


冷静な藍らしくもない、思考の飛躍だったが彼女自身突然の事で必死になりすぎていた。
橙は今にも、藍に飛びつきそうな体制に見える

「ダメだ!橙!今は・・・ぁぁっ!」

大量の水を使っていた為、足場が滑りやすくなっていた。
尻尾に触らせまいと思い、体制を変えようと思った際に、壮絶に足が滑った。
だが、橙は藍に飛びついてきている、藍は足が滑り、おまけに尻尾の重さがいつもとは違う為バランスが取れず、見事なまでの高速一回転をした。


ビッタァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!


その結果、水を含んで重量のある尻尾が、橙の全身をしたたかに打ちつけた。
「ンニャ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!」
橙は突然の衝撃に、訳も分からないまま、地面を転がった。

「しまった!大丈夫か橙!」

藍は橙に駆けったが、どうも橙の様子がおかしかった。呆けたような表情のまま、藍を見つめている
「だ、大丈夫か橙・・・」
じわりと、橙の目尻に涙が浮かんだ
「ち、橙・・・?」
「ごめんなさい・・・ ごめんなさい藍さま・・・」
「え?」
「役に立たない式でごめんなさい・・・ 叩かれるほど藍様が怒ってたなんて知らなくて・・・ ごめんなさい!ごめんなさい!」
橙は壮大な勘違いをしていた。自分の主の不興を買ったのだと思い込んでしまい、わんわんと泣き出してしまった。

「違う、違うんだ橙、これは」
「濡れた尻尾で叩かれるほど・・・ えぐっ、怒ってるなんて・・・知りませんでした・・・ うにゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!!」

藍の釈明も、橙の耳には全く入ってこなかった。
橙にとってショックは大きかったが、それ以上に藍もショックを受けていた。

(橙に・・・ 嫌われた・・・っ? 泣かせてしまった・・・?)
「うにゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!も、もう、式ではいられ゛ヒック、まぜぇえぇぇん!」

橙は、立ち上がるなり、全速力で泣きながら逃げてしまった。

「待って!お願いだから待って橙!」
そして、藍も駆け出した。下着姿で裸足のまま
「あなた達、騒がしいわ・・・・・よ、って、ちょっと、え?」
それを見ていた彼女達の主人、八雲紫もこの騒々しさに昼寝を中断された。

寝巻きのまま、井戸に様子を見に行ったのだが
その瞬間目に飛び込んできたのは、号泣して鼻水を垂らしながら走る式の式と、下着姿のまま、それをあわてて追いかける自分の式
何が起こったのかと思ったが、流石に聡明で知られる紫も結論は出なかった。

「ちょっと!藍!待ちなさい!下着のまま・・・」
「ちぇえええええええええええええええええええええええん!待つんだちぇええええええええええええええええん!」
「聞いちゃいない・・・!」

このまま、自分の式達があんな不恰好な状態で走り回ってるのを、誰かに見られたら・・・ 

「いけない!」

するとすぐに、紫はスキマを生み出しそこに入る、出てくる頃には寝巻きから普段の彼女の格好になっていた。
なぜか右手は広げた上体で顔を覆い、左腕は下に向けてピンと伸ばし、手を広げるという奇妙なポーズをとっていた。

原理はわからないがとにかく早着替えをしたということらしい、だが、相当慌てていたのか、
いつもかぶっているモブキャップではなく、ドロワーズを頭に被っていた。奇妙なポーズはスキマから出てくるときの彼女の癖である、

当の本人はそんな事には気付かずに、藍の式服を掴むと、全力疾走で二人の後を追った。

「うにゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!ごめ゛ん゛な゛ざぁ゛ぃ゛!うにゃぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!」
「待つんだちぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええん!!!」
「二人とも待ちなさい!いいから!待ちなさいって言ってるでしょう!」

三人とも、飛ぶことすら忘れて地面を土煙を巻き上げながら疾走している、
やはり人ならざる能力を持つ者達である、その速度は目でやっと追える程度のものだった。
山の中を、山の麓を、人里の中を、竹林の中を、森を、どこかの館の中を
静止しようとする者達を豪快に弾き飛ばしながら彼女達は、走り続けた。

どこまでも どこまでも


場所は戻り、マヨヒガにある一件の平屋、
そこに、八雲一家は住んでいた。
「わかったか・・・橙、私がおまえを嫌いになる筈なんてないだろう」
「はい・・・藍さま、ごめんなさい、紫さまも、申し訳ありませんでした。」
そこには、居間で正座をさせられている橙と、藍の姿があった。
それをにらみつけているのは、主人である八雲紫
「全く・・・ 二人とももう少し冷静になりなさい、恥ずかしいったらありゃしないわよ、まったく」
「まったく・・・お恥ずかしいです・・・」

あのあと三人は、全速力で幻想郷中を走りまわり、皆の体力が尽きたところで、お互いの誤解を解くということになった。
そして、お互いのこっけいな姿を見て、一通り笑い終わったあと、三人そろって家路についた。
そして反省しあい、今後はちゃんと慌てずに冷静になる事、と 主人の紫に釘を刺され、この場は不問となった。
紫自身、ドロワーズをかぶったまま走り回っていたのは計算外だった。自分も慌てていたのがバレてしまってはしょうがない、
皆が皆、反省しあって、八雲一家の絆はより磐石なものとなった。

マヨヒガは今日も平和だった。

が、

一連を騒ぎを止めに入った巫女や、魔法使いは見事に弾き飛ばされ、腕や足を折る重傷を負った。
人里でも、一部の畑が踏み荒らされ農作物に重大な被害が出た上に、家畜が暴れるなどの騒動になった。
魔法の森は木がなぎ倒され、人形のいる屋敷も倒壊の憂き目にあった。
紅魔館も、天上が吹き飛びそうになり、山の神社に至っては、御柱が見事に全部吹き飛ばされており、
付近の河童や天狗にも甚大な被害が出た。
彼岸では前人未到の「船なし三途の川走り渡り」なる記録が生また。
閻魔の審判も初の中断が記録された。「八雲入り」と閻魔帳に記録されたのは後にも先にもこの一件のみである、

後に、暴走狂 と言われる異変であった。

暴走狂による被害者達が、怒りに目をギラつかせマヨヒガに集結するという話があるが、
お後は次の お楽しみ



マヨヒガは、とりあえず・・・ 平和だった。
初投稿です。よろしくおねがいします。
拙い内容ですが読んでいただければ幸いです。


ご感想ありがとうございます。
誤字の修正を行いました
ご指摘ありがとうございます。
KONG
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コメント



0.880簡易評価
4.100名前が無い程度の能力削除
10.90名前が無い程度の能力削除
好きですね。洗ってない犬のくだりがツボに。

誤字が
合羽→河童
13.100名前が無い程度の能力削除
慧音先生、お仕置きってまさか、必殺の頭突きをも超える伝説の超絶奥義のアレですか!? 
子供のお尻になんて事をwww
21.80ずわいがに削除
紫さん、ジョジョっぽいポーズは必要だったんですか?ww

九尾、これ最強!その奥にある尻、これ最高!!
23.90冬。削除
>なぜか右手は広げた上体で顔を覆い、左腕は下に向けてピンと伸ばし、手を広げるという奇妙なポーズをとっていた。
上体ではなく、状態でしょうか?
>紅魔館も、天上が吹き飛びそうになり、山の神社に至っては。
天井ですかね?誤字報告です。
紫の登場シーンは格好良いですw
27.無評価⑨なす削除
橙ヤバい→からのコンボがwwwやべっつぼったwww