Coolier - 新生・東方創想話

博麗霊夢によろしく 遠回しな伝言と里帰り、あと雪解け 後編

2010/03/26 20:59:35
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冥界の主



真理歌ちゃんと一緒に顕界と冥界の境を超えると、
さらに天へ向けて続く石造りの階段がありました。
石段はうちの神社にあるものより何倍も広く、そして長く作られています。
この向こうに冥界を統べる西行寺幽々子嬢と、
真理歌ちゃんのお母さんがかつて住んでいたお屋敷、白玉楼があるはずです。

「真理歌ちゃん、どうする、戻る?」
「ううん、ここまで来たらお母さんに会って何があったか聞かなきゃ」
「じゃあ、行こっか」
「はい」

一歩石段を登ると、あちこちがひび割れだらけなのが見えます。
相当年月が経っているそうです。そのまま飛んでいっても良かったけれど、
神聖な雰囲気からか、歩いて行く事にしました。
空気はとても澄み切っていて、私たちの足音以外なにも音を立てるものはありません。
ただ若干幽霊の気配がしますが、冥界ともなれば当然のことです。
敵意らしい敵意は感じないのですが、念のため、スペルカードを起動状態にして進みます。
10分ほど歩くと、石段に比べて格段に真新しい門が見えてきました。
『ペンキ塗り立て注意』の張り紙が貼ってあります。

「あはは、純和風の建築なのに変なの」
「直してあるっていう事は、無人にはなってないみたいだね」

なんの邪魔もなく白玉楼へ足を踏み入れると、気ままに飛び回る幽霊たちの姿が見えるようになりました。
白い霊魂達が遠巻きにこちらを見ています。
真理歌ちゃんが目を閉じて一人の霊魂の前に立ち、
自分の半霊を触れさせ、意思の疎通を試みました。

「どう、幽霊さんは何て言ってる?」

真理歌ちゃんは半霊を霊魂から離し、霊魂に軽くお辞儀をしました。

「幽々子様を立ち直らせて、だって」
「どういうこと?」
「庭師が出て行ってから、幽々子さんは引き篭もって、冥界も荒れ放題になってしまった。
それで、旧地獄の者たちが管理しているようだけど、荷が重いみたい」

「旧地獄? 地霊殿かな?」
「お母さんも心配だし、お屋敷へ急ぎましょう」

ひときわ和風のお屋敷を見つけ、中に入ってみる事にしました。
屋根が崩れかかり、障子は破れ、女性のすすり泣く声が聞こえてきます。
一室の戸をそっと開けると、正座している真理歌ちゃんのお母さんと、
彼女の膝に頭を寄せて泣いている青い着物を着た女の子、
あるいは女の人の姿を目にしました。
女の人はしきりにお母さんの名前を呼び、お母さんはただただ頭を撫でています。
私たちと目が合ったお母さんがびっくりして小さく叫びました。

「あら、真理歌、ミカちゃん」

青い服を着た女の人もそのままの姿勢で頭を上げ、眼をこちらに向けました。

「ああ、あの子たちは、今の博麗、そして、あなたの娘ね」
「そうです、幽々子様」

やはり、この女性が西行寺幽々子その人なのでしょう。

「あの子たちを育てるため、あなたは……、いや、もう過ぎた事よ」と首を振りました。



ダミー幽々子?



白玉楼へと続く階段を登り切り、ようやく門の前へたどり着いたものの、
優夜さんは猫の姿を追ってどこかに行ってしまった。
すぐ戻るからここで待っていて欲しい、と言われたが、
冥界で独りぼっちというのは寂しいどころの話じゃない。
屋敷へと続く道沿いに、咲く直前の桜の木が並んでいる。
満開でないとはいえ、思わず息をのむ壮麗な景観が広がっている。

「ずいぶん寂しそうですね、私が話し相手になって差し上げましょう」

突如目の前から、ピンクのスカート、青い上着を着た、これまたピンクの髪の少女がこちらに舞い降りた。珍しい風体の女の子。
特に、胸のあたりにある目玉のようなアクセサリーが異彩を放っていた。
主である西行寺幽々子だろうか、しかし……。

「微妙に幽々子と違う、そんなジト目じゃない。フフ、確かにそうですね」

いきなり今僕が考えている事を喋った。もしや……。

「そう、覚妖怪の古明寺さとりです、今は冥界の信託統治を任されています、
君は……霧雨真琴、あの魔法使いの子孫ですね」

魔理沙とやりあった事があるのか。そして今回の異変との関係は?

「異変の犯人ですって? そうです、あの冬妖怪に頼んで雪を降らせてもらったんです、
今はもう雪を止めるように言ってあります。メッセンジャーとして十分使命を果たしてくれました」

「メッセンジャー? 母さんを呼ぶためですか? 
たかがそのためにあんなハタ迷惑な事を? 家がつぶれかけたんだぞ」
「じゃあ、ひと勝負しますか?」

相手が覚なら、弾幕よりも良い手がある。

「いくぞ、僕ら思春期男子のエロい妄想攻撃」

さとりさんの服の中のあれやこれやを想像し、恥ずかしがらせてやる、
女性で、しかも原作キャラ相手に失礼かもしれないが、これは戦いなのだ。
おそらく弾幕でボコるほうがよっぽど失礼だ、うんそうに違いない、でないと困る。
だが、さとりさんは動じない。苦笑してこちらを見ている。

「フフフ、ずいぶん控えめですね」

効かないだと。ではこれはどうだ。

「まあ可愛い、おとなし目ですね」

なん……だと。

「いやらしい妄想とは、こうやるんですよ」

想起『さとらせ攻撃』

彼女の胸にあった第3の目が見開き、その思念が脳に流れ込んでくる。

「そ、そんな行為がこの世にあったなんて」

鼻血が出た、両手で鼻を押さえるが、妄想が荒波となって僕の精神へ押し寄せる。
聞いた事がない。覚妖怪が逆に思考を直接伝えるなんて。

「愚かですね、この世に生れて幾年月、そういう攻撃への耐性がないとでも思ったのですか? 
人間が進歩するように、妖怪も進歩するのですよ」

思念をシャットアウトしようとしても、いやらしい思念が心の扉をバールのようなものでこじ開けてくる。
なされるがまま。僕はその場にへたり込んでしまう。そもそも、生きている時間が違いすぎたのだ。

「迂闊……だった」

-お兄ちゃん-

遠ざかる意識の中、真理歌が必死の顔でこっちへ駆け寄ってくるのが見えた。
すまん、真理歌、ミカ、母さん。あとついでに優夜さんも。



幽々子の本音



その光景を見て、私は座った状態で飛び上がりました。
あとを追ってくるであろう真琴を探しに行った真理歌ちゃんが、
ある妖怪の女の子と一緒に、血染めのシャツを着た真琴の肩を支えながら戻ってきたのです。

「真琴、いったいどうしたの」
「ミカ、大丈夫だ、鼻血が出ただけだから」

真琴を居間に寝かせ、容体をその女の子に尋ねます。覚の一族のようです。

「この子の命には別条ありません、ただ……」

その名もずばりさとりさんという妖怪は、事の顛末、真琴の想像攻撃と、さとりさんの反撃について語りました。

「それで、お兄ちゃ……兄はどんな想像をしていたんですか?」

真理歌ちゃんが小声でさとりさんに尋ねました。

「うふふ、耳を貸して御覧なさい、そこのミカさんも」
「や、やめろ」
「いいじゃない、減るもんじゃないし」

私は真琴を押しのけ、興味しんしんでその言葉に従います。
聞き終わる頃には、真理歌ちゃんの顔はすっかり赤くなっていました。

「お、お兄ちゃんって、最ッ低」 
「真理歌、これは誤解だ」
「不潔よ、帰ったら去勢魔法を研究するわ」
「まあまあ真理歌ちゃん、この年頃の男の子なら普通だし」
「ミカさんには関係ないわ、これは家庭の問題よ」
「ぐっ、(自分の妄想で)攻撃されているのは、僕の方だった」
「霧雨君、今あなたは『死にたい』と言う」
「し、死にたい……はっ」

「あ~あ、そのまま失血死しちゃえば良かったのに」

物騒な声に振り向くと、今までのやり取りを見ていた幽々子さんが薄笑いを浮かべていました。
心の底から凍りつくような、この笑みは一体どこから……?
それから彼女は、兄妹のお母さんのほうを振り向いて言いました。
次第に語気が責め立てる雰囲気になっていきます。

「ねえ、庭師のあなたが自分の幸せを取ってここから去った後、
私がどんな思いでいたかわかる?」
「それは……」
「わかるはずがないわ、私は亡霊だから、母親になる事すらできない。
あなたは私には到底味わえない幸福を楽しんでいる。
私が独りぼっちでいた時、あなたはこんな楽しい子孫たちに囲まれて暮らしていた。
ああ妬ましい、あの橋姫の気持ちがわかるわ」

そのまま弾幕を展開するのかと思いきや、一転して笑顔に戻りました。

「なーんちゃって、冗談よ、冗談。本気にしないで」 

舌を出して笑った。本当にそうなの?
あの表情はとても冗談には見えませんでした。
求聞史紀によれば、この人は亡くなってここへ来てからは、能力で人を殺すことはしないとあったけど本当か?

「幽々子、本当ですか」さとりさんも少し不安そうです。
「心を読めばわかるでしょう」
「まがりなりにも友人であるあなたに、そんな勝手なことをしたくありません」
「ねえみんな、こいつ、前に私の心を読んで発狂しかけたの」
「違います、あまりにも悲しく、いや、ここで言う事ではありませんね」

さとりさんは目を伏せます。

「さあ、久々に元気が出たから、また幽霊の管理を再開するわ、悪かったわね、さとり」
「正直、私たちでは幽霊を管理しきれなかったので、助かります。
やっぱり本来の主が必要ですね」
「でもその前に、リハビリを兼ねて、私たちと弾幕ごっこしましょう、子孫の方々」
「幽々子さんが……でも、私たちにかなうでしょうか」

いきなりの申し出に、私は心臓がドキドキします。
おそらく、彼女はここを去ったお母さんだけでなく、
きっかけになった真琴と真理歌ちゃんの事も憎んでいるのでしょう。

「あら、霊夢はこんな時も動じなかったわよ、初めて会った時、退治する気まんまんだったし」

霊夢さんはこんな人とも渡りあったんだ。なら私にだって。少しだけ勇気がわきました。

「……わかりました、応じましょう」
「負けてもあなたたちを殺しはしないから安心して、そのかわり、全力で来るのよ。
それこそ負けたら殺されるくらいのつもりで、ね」

そして彼女は、小声で、『事故の危険はあるけどね』とつづけたような気がします。
ちょっと怖いけれど、私も妖怪退治を生業とする者、毒を食らわば皿までです。



亡霊退治



結論から言って、西行寺幽々子は強い。
ミカと一対一で戦っていたが、どうみても劣勢だった。
ミカがひざをつき、絞り出すように言った。

「幽々子さん、すごい弾幕、私じゃ敵わないよ」
「ミカ、大丈夫?」
「ミカさん、しっかりして」

僕は治癒の魔法でミカの擦り傷を癒し、
真理歌はミカをかばうようにしてビームタケミツを握り、西行寺幽々子さんの前に立つ。

「うん、死ぬほどじゃないよ」

幽々子さんが挑発気味に僕らに呼び掛けた。

「ちょっと拍子抜け、霊夢はもっと骨があったわ」
「うう、やっぱり……」 

ミカはそのまま意気消沈している、信じられない。
いつも明るくて、僕より幻想の力に関して才能を持つ彼女が、こんなに落ち込んでいるなんて。

「こらこら、ふつうはそこで、『何だと~』って奮い立つものよ、それでも主人公?
期待はずれだわ、博麗とひさびさに弾幕ごっこできると思ったら、こんな弱い子だったの」
「ぐすっ、ごめんなさい」 

ミカの声に涙が交じっている。

「外界の映像神話に例えるなら、
『10年ぶりにクウガ復活と思ったら、五代さんじゃねえ。なにこのパチモン』
といった感じね」

ミカが泣き止んで、顔を幽々子さんに向けた。

「ちょっと待って下さい、小野寺さんだってまた違った魅力があるわ
それに、あなたにとっては新しい世代は未熟そのものに見えるのかもしれないけど、
だからと言ってそんな頭ごなしに否定しなくてもいいじゃない」

さっきとはうって変わって目に怒りが宿っていた。
自分より他人を馬鹿にされる事に怒るタイプだったのか?

「そう、その目よ、もう一度勝負する? 何ならみんなで同時にかかってきなさいな」

僕らは時々、三人で妖怪退治をするときのコンビネーションを練習している。
強い妖怪に対抗するには多数対1でないときつい事もある。
もちろん妖怪の賢者が定めたルールにのっとっての決闘なら、
純粋な強さよりも美しさを競い、負けても相手を殺してはならず、
妖怪もある程度ハンデをくれるが、
ミカの傷はそれほど重傷ではないにしろやり過ぎだ。
それに幽々子さんは勝負の前、確かにこう言った。

『事故の危険はあるけどね』

たぶん、あの人は母さんが白玉楼から去るきっかけになった僕らを憎んでいる。
たとえ殺す気はなくても、原作キャラとオリキャラの力は違う。
あちらにとっては軽く遊ぶつもりの弾幕でも、こちらにとっては致命傷につながるかも知れない。
だから、全力で向き合うしかない。

戦力はそこそこ弾幕を出せるミカと、弾幕はミカより下手だが、飛ぶスピードはまあまあ速い僕。剣の腕は同い年の子供でもかなり強いほうの真理歌。
あと約1名いた気もするがいないので戦力外、どこほっつき歩いているんだ。

「真琴、その場で、うんと魔力を込めてマスタースパークを撃って。
魔力をためている間、真理歌ちゃんはお兄さんのほうへ来る弾幕や死蝶をはじき落して。
私は幽々子さんを引き付けながら、神様をこの身に降ろしてみる」

「作戦会議は終わった? じゃあ試合再開といきましょう」

僕はその場に立ち止まって魔力を充電する。
幽々子さんが濃密なエネルギーの塊と死蝶の弾幕を振りまく。
真理歌がビームタケミツで弾幕をはじく。
しかし1発被弾してしまう。

「いたぁい」
「真理歌!」 
「お兄ちゃんは自分の魔法に集中して!」

真理歌は構わず弾幕や死蝶を叩き落とし続けている。
ミカは『その時』が来るまで幽々子さんの注意を必死にひきつけている。
スカートのような袴の裾がグレイズのためぼろぼろだ。

「代用霊夢、性転換パチモン魔理沙、そしてバッタもん庭師。やっぱこの辺が限界ね」
「何だよその言い方」

幽々子さんの嘲笑が聞こえた。少し腹が立ったが、このままでは確実に不利だ。
この人の弾幕はもう、弾幕というより迫り来る人生の試練そのもの。
真理歌が必死に攻撃をはじき、ミカも回避しながら神を降ろすための祝詞を唱えている。
わずかでも気を抜いたら押し負けそうだ。
それにこの構図、女の子達に守ってもらうなんて、僕は何て情けないんだ。

「お兄ちゃん、罪悪に思うなら自分の役割を全うしなさい」

僕の気持ちを察した真理歌が一喝した。
そうだ、僕はただかばってもらっているわけじゃない。
魔力が貯まるまでもう少し。真理歌の顔にも疲労と焦りが見えてくる。

「私とあの子の中を邪魔するなら、あなたたちも霊魂にしてあげる、
でも冥界には住まわせない、永遠にどこかをさまよう怨霊になりなさい」

死蝶の洪水は勢いを増す。本当にごっこなのか?

「あっ」

とうとう僕狙いの死蝶が真理歌の剣をすり抜け迫ってきた。

「お兄ちゃんよけて!」

無理だ、よけきれない。身構えるしかなかった。


執事秘儀『非殺人ドール辛口』


その時、一本のナイフが死蝶を貫く。
同時に、ナイフの雨が死蝶の群れを一時的に押し返した。

「優夜さん!」
「可愛い黒猫さんがいたんです、それで異変解決を忘れていました。真琴、ごめんなさい」
「サンキュー、執事さん」
「永遠亭の執事たるもの、このくらい出来なくてどうします、ってね」

約1名がやっと来やがった、遅いよ。でもたった今、魔力の充電が終わった。
ミニ八卦炉を幽々子さんのほうに向ける。溜められるだけの魔力を八卦炉に注ぎ、
耐圧限度まで増幅させる。

「二人とも、飛び退いて!」


魔砲『自己流ファイナルマスタースパーク』


反動で体が後方に押される。星の光が弾幕の壁に穴を穿つ。

「行けえ」



代用品の意地



二人は私の頼んだ通り、懸命に準備をしていました。
私は祝詞を唱えながら、ある時は灯篭や木に身を隠し、
またある時は針とお札を振りまき、彼女の気をそらします。

「あら、霊夢もどきの割にはやるようじゃない」

幽々子さんのさらに濃密な弾幕を見た瞬間、背筋が凍りつきました。
下にいる二人が見えにくくなります、あんな軽口をたたいたけれど、正直いつまでもつか。
怖い、死の予感が頭をよぎります。

「幽々子様、これはあくまでごっこ遊びのはず、これでは死んでしまいます」

お母さんが叫びました。

「これはあなたへのお仕置きでもあるの、帳尻がつかないのよ、
同じ悲しみを与えない限りはね」

振り絞るような声、やっぱりお母さんがいなくなって辛かったんだ。
だけど、なぜ私たちが死ななければならないの。
その時、不思議な事に怒りが恐怖心を少しだけ上回ったのです。

「行けえ」

弾幕に押しつぶされそうになる寸前、真琴の声がしました。
冥界の地面から空へ向けて、一筋の閃光が弾幕の渦を貫き、
幽々子さんの浮かんでいる場所まで一直線に結ぶトンネルができました。

「ミカさん。何があったのか知りませんけれど今です」優夜さん来てくれたんだ。
「ミカ、あとは任せたよ」
「ミカさん、自分を信じて」

私に力が宿ったような気がします。

「奮闘している所悪いけど、あなた達の未来はここで行き止まり」

私は前に見た特撮ヒーローを思い出し、自分を奮い立たせます。
それは巫女と同じように神の力を宿して戦うヒーローでした。
彼女の冷徹な宣告なんか無視してやる。

動き出してる未来は誰にも止められない。

私は地面に下り、神様を宿らせながらトンネルに向けて走りました。

その先にある可能性は、私たちだけのもの。

トンネルは次第に弾幕によって細くなり、かき消されようとしています。

秩序とか、使命とか、何かのためでもなく、挑む事、恐れてはいけない。

『当麻蹴速(たいまのけはや)、その脚力で、亡霊の妄念を蹴り飛ばし給え』
 
熱くなる、体、心。それにただ従う本能。

地を蹴り、幽々子さんへ向けて勢いよく飛翔。
トンネルがあった空間は瞬く間に小さくなり、再び弾幕が取って代わろうとしています。

強くなる、想い、願い。ただひたすらに、私の体は独り動く。

最後の祝詞を唱え終わり、あとは彼女のもとへ突っ込むだけ。

自分を信じて、明日へ……。

「おりゃー」

私は体を一回転させ、渾身の力を込めた蹴りを幽々子さんに見舞いました。
全身に衝撃が走り、私の意識はそこでフェードアウトしました。



弾幕降って冥界治まる



ミカが弾幕に突っ込んでいった後、空いっぱいに広がっていた弾幕が消えた。
真理歌は息を切らしながらその場にへたり込み、優夜さんも同様だった。
目の前では、母さんが気絶したミカを抱きかかえて幽々子さんと言葉を交わしている。

「なぜ余計な事をしたの?」 依然として余裕のある口調だった。
「子供達には死んでほしくありません、でも幽々子様をお守りするのも私の役目です」
「頭で考えるより、体が先に動いたのね、さすが貴方」
「それより、なぜあの蹴りを避けようとしなかったのですか、幽々子様なら簡単に……」
「だって、怪人はとどめのキックを黙って受けるものでしょ」

幽々子さんは扇子を口に当て、うふふと笑う。
負けても殺さないと言いながら、僕たちを殺すつもりで、
あるいは、死んでも仕方がないという勢いの弾幕を撃ってきて、
自分が倒されそうになった場合もそれを受け入れる。
少年漫画によくある熱いノリだけれども、実際にそれをやる人は痛い。

「幽々子。もしこの子たちが負けたら、本当に死なせるつもりだったのですか」

そばに来ていたさとりさんが尋ねる。幽々子さんは首を横に振った。

「だから最初も言ったように、殺すつもりなんて最初から無かったの。
物騒なセリフも、場をそれらしくするための演出よ、演出。
いちいち真に受けていたら、とてもじゃないけど幻想郷で生きていけないわ」

掴みどころのない人だ。

「ここに来たみなさん、本来死者でないものをこんな目に会わせてしまったのには、
信託統治を任されている私にも責任があります。でも、幽々子の気持ちもわかって欲しい。
このさとりフレームが助けになるでしょう」

さとりさんがT字型の金属棒のような物体を僕らに見せ、それを宙に放り投げた。
その物体は空中で静止すると、淡い光を放ち、僕らを包む。

「これは私の妖力を何百年もかけて封じたものです、私の能力を一時的に他人に与える事が出来ます」
「余計なことは止めて」

幽々子さんの投げた扇子が、さとりフレームに突き刺さり、地面に落ちて割れてしまった。

「もういいの、知らないほうが良い事もあるのよ、さとり。
これでだいたいリハビリは終わり、真琴、真理歌と言ったわね、お母さんはもう帰してあげる。でもたまには遊びに来て頂戴」
「わかりました、でもあんなごっこに見せかけた殺人未遂はもう御免ですよ」
「違うって。それからミカ、あなたの度胸も大したものよ、神降ろしまでしちゃって」

母さんの腕の中で、ミカはすでに目を覚ましていた。

「危険な……賭けだったよ」
「あの、マスター幽々子、差し出がましいようですが」 真理歌がかしこまって言う。
「何かしら?」
「あの、幽霊たちも、あなたの事を心配していました。けっして貴方は一人ぼっちだったわけではないと思います、だからその、落ち込まないで」

真理歌はここに来て、半霊を介して幽霊たちの話を聞いて回っていたらしい。

「そう、幽霊たちが、灯台もと暗しだったわけね」
「どうやら、私が出しゃばる必要はなかったようですね。みんなでお花見をしたら、施政権を幽々子に変換します。
ゾンビフェアリー隊も、第一お空挺団もみんな撤退します。
幽々子、今度は個人的に遊びに来ますね」
「歓迎するわ。それからみんな、偽物呼ばわりしてごめんなさい。
そしてありがとう、久々に熱くなっちゃった」

こうして僕の家に降り積もる雪も収まり、幽々子さんの心もいくらか晴れ、異変は終息したと見ていいと思う。

「お母さんは、どうなっちゃうの」 真理歌が不安そうに聞いた。

母さんは真理歌を抱きしめ、不安そうに幽々子さんの方を見た。

「確かに、あなたにもあなたの人生がある、行きなさい。私の方が大人気なかったわ」
「そんな、幽々子様のせいじゃありません、そのうち白玉楼へ戻るつもりでした、でも二人を育てるのに夢中になって……でも決して忘れたわけじゃありません」
「分かっているわ、でも私はもう大丈夫、ちょっと寂しいけれど、独りぼっちじゃないし、真剣に向き合ってくれるあなた達のような人もいるしね」

そう言って、みんなと、周りを漂う幽霊たちを仰ぎ見る。
幽霊たちも彼女が笑顔を取り戻した事を喜んでいる雰囲気だった。

「じゃあね、暇つぶしにちょくちょくそちらへも行くわ」

母さんは幽々子さんに何度も何度もお辞儀をして、僕らと一緒に白玉楼から家に帰った。
その後、僕は鼻血と魔力の出しすぎのため貧血気味になり、
アリスさんには後日改めて料理をふるまうことにした。



終わりはやっぱり宴会で



後で幽々子さんに聞いた話によると、
彼女の弾幕は、弾幕の強さ4段階うち2段階目『Normal』のもので、
かつての霊夢、魔理沙、咲夜さんは一人で対処できてしまったとの事。
ちょっと悔しいけれど、まあ人には向き不向きがあるから別にいいか。
のんびりでいいんだよ。

三日後、アリスの家で、真琴の料理をみんなで楽しむことになりました。
ここに集まったのは、あの場所にいた全員と、パチュリーさんと小悪魔さん、
それと雪かきに協力してくれた陰の功労者、真琴の友達の朝倉君です。

「真琴、お前魔法使いやめて主夫になったほうがいいんじゃね?」
「お兄ちゃん、これでスケベじゃなきゃ最高なんだけどなあ」
「お前、まだ引きずってんのかよ」
「えーと、下心なしに女性を愛せるようになる魔法はっと」
「パチュリーさんも本気にならないで下さい」

幽々子さんも屈託のない笑顔で食事と談笑を楽しんでいます。

「地上の宴会もいいわね、しばらく滞在しようっと」 
「幽々子様、冥界の管理はどうするんですか」
「そのあいだ、あなたがお願い。子供たちも連れて行っていいわ」
「ええ?」

あのサトリフレームが壊される直前、一瞬だけ垣間見た彼女の記憶。
寂しさ、絶望、色彩を失った風景。それを抱えて今まで生きてきたと知った時、
涙をこらえるのに難儀しました。
私たちは危ない目に会ったけれど、それがきっかけででこんな明るい表情ができるようになったのなら、きっと何かの意味があるのでしょう。

「は~るで~すよ~」 

リリーホワイトも今度こそ自信たっぷりに春の訪れを祝っています。
ご意見、ご感想お待ちしております。
小ネタいくつわかるかな。
とらねこ
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コメント



0.350簡易評価
4.10名前が無い程度の能力削除
オリキャラ出すのは自由だけど、やりすぎって感じするなー。
既存キャラの魅力を読ませるのも創想話では必要なのでは?書いてる本人は楽しいかも知れんけど、正直言って楽しめません。
5.60不動遊星削除
 読ませて頂きました。面白い作品をありがとうございます。
 面白いとは思うんですけど…… まあ悪くないですけど、作風が変わりすぎて就いて行き辛いですね。小ネタを絡めるのも結構ですが、メタフィクション部分が強すぎて作品の味を大きく損ねていると思います。これはこれで面白いと思うんですけど、ちょっとやりすぎな気もしますね。前編のコメントでも書きましたが、オールドファッションド・アイデアが行き過ぎていると感じます。作の内容自体は「嫌い」じゃないので60点にしておきましょう。メタフィクショナル・ラインが無ければもうちょっと差し上げてもいいんですけど……
11.10名前が無い程度の能力削除
オリキャラが判子に見える
14.70エル削除
個人的には好みなストーリ何ですが…中には、オリジナルを大切にする方々も居られる訳でして
もう少し煮詰めて、ご自身のブログやHPで公開又は、いわゆる同人誌として出版なさるってのは如何でしょうか?