時の流れというものは誰もが決して避けることのできない運命そのものを定めていると言える。
一日一日を何気なく過ごしている時もあれば、明日を楽しみにする時があったり、昨日と言う日を後悔したりもする。
未来と呼べるものは誰にでも予知できるものではなく、過去と言う存在は決して戻ることがない。時計の針が今も刻々と時を刻み続けている中で、こうした動きが何度も行われているのだ。そして、やがて時の流れは、静かに残酷な世界へと人を導いて行く。
時計の針は、そんな人を束縛している存在ともいえる。時計と言う存在があまりにも正確すぎるからこそ、人は時間と言う存在に追われるようになるのである。
時間に左右される生き方はあまり好まない僕であったが、今日のこの午後の日は、その時計と言う物の傍で暮らす時間を味わおうとしていた。
僕はつい先ほど玄関前に飾った時計を見つめた。木製で出来た古ぼけたあの時計は「鳩時計」と呼ばれており、時計の長針が12の時を刻むごとに、長針の差す真上の扉から、鳩が飛び出し、時間を告げると僕の能力で判明した。
僕はその時計を一番見やすいと思う場所にかけ、そっと時計の針が12の時を刻むのを待っていた。この時計にどういう仕掛けが施され、どんな風にそれが起動するのか、密かに楽しみにしていたのだ。まぁ、それだけ今日は暇だということもあるのだが・・・・・・
時計の針と言うものは本当に不思議なものだ。変わることのない時の流れの速さを、こんなにも遅く錯覚させることが出来るなんて・・・・・・
今まで僕は、時間に左右されない生き方をしてきた。もちろん、いつ頃にどこに行かなくてはならないか、そう言う決まりごとはきちんとしていたが、何時何分に着く、といった正確な時刻を定めたことはなかったのだ。
考えてみれば、魔理沙達はいつも何時頃にここを訪れるのだろうか。いつもは勘でそろそろ来るかな、と言った時に良く来ることがあったが、時間で定めるとしたら、一体いつ頃訪れるのだろうか・・・・・・と言っても、今は5時10分前、それも午後の方だから、もう大分暗くなってきている頃だ。流石にこんな時間帯には、客1人も来ないであろう。
僕は黙って残りの10分間の一時を紅茶を飲んで過ごそうとしてみた。あと10分でこの時計の仕掛けが動くのだ。一体どんなふうになるのだろうか。そういった期待に満ち溢れていた、そんな時だった。
カランカラン
玄関の中から、誰かが入ってきた。こんな時間に珍しいな・・・・・・
「あぁ、いらっしゃい」
僕はそう言って玄関前を向いた。そして、そこにいた人物に見覚えがあったことに気づく。いや、見覚えがあって当然だ。だってそこにいたのは・・・・・・
「咲夜?」
紅魔館のメイドをしている少女、十六夜咲夜だったからである。
「・・・・・・こんばんは、霖之助さん」
どこか外の暗さに似た表情で、しかも僕から微妙に目線をそらしながら、咲夜がそう挨拶した。
「あ、あぁ、こんばんは。どうかしたのか?」
いくら細かいことはあまり気にしない主義の僕でも、流石に今日の咲夜の様子は少し気になった。いつもよりもどこかおかしい。だいたい、主人のレミリアもいないのに、こんな時間に此処を訪れたことなんて、今までになかったはずだ。しかし咲夜は、
「・・・・・・ちょっと、お嬢様に急用を頼まれて、此処に来ましたの」
と、そう言いながら僕に背を向け、棚の上にズラリと並べてある商品を見渡した。
「そ、そうなのか・・・・・・紅魔館のメイドも大変だな」
とはいえ、こんな遅くに買い物を頼むほど、理不尽な命令を下す主人だっただろうか・・・・・・まぁ、我が儘そうなところは否定しないが・・・・・・
「まぁ、店の方はまだ空いているから、ゆっくり見て行ってくれ。今日は特別に、
割引券でも作ってあげるからさ」
どこか違和感を覚えた僕は、とりあえず少しでも気の効いた行為でもするべきかと思い、テーブルの上に置いてある、札程の大きさのメモ帳を取り出し、それを3枚ほど破って自分の名前と店名のサインを描いた。割引券なんて、どこで思いついたんだか、自分でも分からなかったが、明らかに元気のない咲夜を見ると、どうも放っておけないような気がしたのだ。
ふと咲夜の方を振り向く。すると、こちらからは後ろ姿しか見えないが、咲夜が右手で目頭を押さえているように見えたのだ。
「咲夜・・・・・・?」
今まで我慢していたのだろうか。我慢できなくなったかのように、咲夜は涙声を発し、それが次第に大きくなるのが聞こえた。
咲夜は、流れ落ちる慌てて拭い、今更ながら必死に泣いているのを隠そうとしていた。だが、溜まっていた涙は制御しきれずに溢れ出てしまい、背後を向いていながらも隠しきれない域にまで達していた。此処まで来ると流石の僕でも気づく。それ以前に気づかない奴などいないだろう。
「あー・・・・・・何か、困ってることでもあるのなら、聞いてあげるけど。
そんなところで泣かれても、何も解決しなそうだしさ」
気づいてしまった以上、僕がやるべきことは決まっている。決まり切っている。言葉に詰まりながらも、僕は一旦手を止めて、咲夜に近づき、そう訊いた。すると咲夜は、ゆっくりとこちらの方を振り向いた。そこには先日見せてくれた明るい笑みを浮かべる咲夜ではなく、哀しみに心を操られ、僕に助けでも求めているかのように泣き続ける咲夜の姿があった。咲夜は静かに僕の傍まで来ると、手を取るかのように弱弱しく僕にすがりついた。
この時の僕は、時間を忘れていた。鳩時計ですらその時間を教えてくれなかったのだ。
「時間を操る能力が使えなくなった?」
長い間の沈黙に心を落ち着かせてから、咲夜が呟いた。一先ず僕は、ゆっくりと話が出来るように店を閉めて、咲夜を僕の部屋に招き入れていた。
咲夜の能力と言えば、決して逆らうことのできない時間の流れを止めたり、早くしたり出来る能力だ。その強力な能力は空間を操るに等しく、事実上彼女が仕えている紅魔館の内部もその力でかなり広がったりしているという。
「それって、何時頃くらいからなんだ?」
「・・・・・・朝目覚めてから。いつもよりも紅魔館が狭く感じていて、嫌な予感がしていたので、試しに紅魔館の外で能力を使ってみたんですが・・・・・・時の流れを止めるどころか、遅くすることも出来なくなって・・・・・・自分でもどうしてなのか分からなくて、それで・・・・・・」
そのことが悔しくてたまらなかったのか、咲夜の涙は枯れることを知らずに流れ続けた。ハンカチで拭いたばかりの涙の通り道が、また新しく出来あがる。
「こんなことがお嬢様に知られたら、私、どうしたらいいか分からなくて・・・・・・
多分紅魔館内部がおかしくなっていることにはもう気付かれてるでしょうが、
力が無くなったことを知られたら、私、私・・・・・・!」
咲夜の声が涙の色に染まり始める。涙の量も一層増してくるように思えた。一番の不安なところは、きっとそこなのだろう。
「なるほどね・・・・・・事情は分かった。でも、僕はそんなに君の主人とは深く知りあってはいないけど・・・・・・けど、レミリアは、その、時間を操る能力が使えなくなったからって、咲夜を紅魔館から追い出すような無責任な主人じゃないってことは分かる。そんなことで使い捨てるわけがない。それは、君の方がよっぽど深く理解しているんじゃないのか?」
当たり前のことを当たり前にしか言えない僕だったが、そんな言葉がどういう訳か咲夜に届いたようだった。確かに自分ならそれくらい分かっているはずだったと、思うかのように・・・・・・
「それに、上手くは言えないけど、咲夜には時間を止める能力以外にも、もっと凄くて、その、魅力的なところはあるんじゃないか? 色んなところで優れているんだから、メイド長として働けてるわけなんだし・・・・・・だから、その・・・・・・確かに、自分の持っていた大切な物が無くなったりしたらショックなのは分かるよ。だけど、咲夜にはまだ他にもいいところが沢山あるんじゃないか?」
「良いところ・・・・・・?」
咲夜の涙腺に中断宣言が下り始める。同時に咲夜は、何かを思い始めた。
僕にはそれが何なのか分からなかったが、この時咲夜は、レミリアと、紅魔館の人達と過ごした日々を改めて振り返っていたのだ。時間を止める能力を使わなくたって、レミリアは笑顔で傍にいてくれた。いつだって笑って過ごしてくれていた。ずっと、一緒に・・・・・・
時間を操ることが出来なくなったことで、自慢のナイフ投げの能力も落ちてしまうかもしれないが、それでも主人を護りたいと思う意思に変りはない。紅魔館のメイド長たるもの、不足している部分を補うだけの力はあるはずだ。失った物1つがあまりにも大きすぎて、咲夜にはそれが見えていなかったようだった。
それは、なんとなく僕にも分かる気がした。もし二度とその能力が帰ってこなかったら、どうするだろうか。時の流れは、時間を操る咲夜でも戻すことが出来ない。例え運命を操れても、既に起きてしまったことを無かったことになど、出来るのだろうか。
時の流れと言うのは酷く残酷だ。何の余興もなしに、それは形を変える、それは姿を消す、それは突然現れる。僕たちは、そんな変化の流れを観察している者にすぎないのかもしれない。だからこそ、こんなにも辛くなってしまうのだろう。
咲夜はそんな時の流れの苦しみを受けながらも、改めて知った事実に対し、咲夜は瞳を深く閉じながら、思うように泣き続けた。涙はにわか雨のように流れながらも一向に止まることはない。
本当ならきたい時は時間を止めて泣きたかったのだろう。けれども、時の流れを操れなくなり、かといってこの苦しみを誰かに伝えざるを言えない状態だったのだろう。本当は誰にも見せたくない表情を、咲夜は僕に見せてくれた。これは僕を頼ってくれたのだろうか。
上手く言葉を出すことの出来ない僕に・・・・・・
「・・・・・・今日はもう遅い。いくら咲夜でも、こんな夜道を歩くのは危険だ。今日のところは、此処に止まって行くといい。紅魔館には、帰りづらいだろうしな」
それが賢明な判断だと僕は思った。女の子1人を同じ屋根の下に泊めるのはいささか抵抗があったが、
こんなに本泣きの子を放っておくことの方が数倍の抵抗があるように思えた。
「え? だけど・・・・・・」
流石の咲夜も抵抗があるように思えた。だけど僕は、
「こうして此処に来てくれたのには、理由があってのことなのだろう? だったら、少しくらいお安い御用さ。
別に金は取ったりしないさ。隣の部屋にベットを用意してあるからさ。商品用だが、今回は特別に使ってくれ」
そう半ば強引に強制して、速やかに立ち上がった。
「それじゃあ僕は、店の中の片づけでもしておくから、今日のところはゆっくりしていてくれ・・・・・・」
そう言い残して僕は部屋を出た。呼び止めようと手を伸ばす咲夜の姿が僅かに目に浮かんだが、僕は見なかったことにした。此処まで来たんだから、今更遠慮する必要はないはずさ。
店の中に戻って明りをつけた僕は、ふと鳩時計を見上げた。もう7時20分か・・・・・・こうして見ると時の流れが速く感じるな・・・・・・
・・・・・・? そういえばこの時計、ちゃんと時刻を知らせてくれただろうか?
咲夜が此処に来たことに夢中で気付かなかったが、明らかにこの時計は針以外は起動していなかった。
故障でもしていたのだろうか。僕は一旦時計を壁から下ろそうと近づいて・・・・・・
「ん?」
棚に並べてある商品の中に、見覚えのない商品が置いてあった。それはハンターケース型をした、懐中時計のようなものだった。
こんなものを此処に置いた記憶もないし、こんな型の懐中時計なんて物を手に入れた覚えもない。僕はその懐中時計を手に取った。確かこの辺りは、最初に咲夜が立っていた場所であった。
・・・・・・と言うことは、これは咲夜の物だろうか。何となく僕は、その懐中時計の蓋を空けて中身を見た。時計は、短針が6の時を、長針が16分の時を刻んだ状態で止まっていた。
616・・・・・・666が「獣の数字」と言われているが、異読でこの数字も「獣の数字」として扱われているということを、どこかで耳にした気がする。
どういう訳か時計はその数字を刻んだまま、動かない。鳩時計の長針が5の数字を刻もうとする中で、一向にこちらの時計の針は動く気配がなかった。壊れているのだろうか・・・・・・?
いつから壊れているのだろうか。ついさっきだろうか、それとも朝ぐらいからだろうか・・・・・・朝・・・・・・そういえば、咲夜が時間を操る力を失ったのも朝だったと聞いていたな。
「・・・・・・」
確か、ハンターケース型ではないが、これに似たような懐中時計がどこかにあったはずだ。僕はそれを探して店内を歩き回った。
時計の針は8時よりも後の時間を刻んでいた。気付けば8時を過ぎていたと感じるような状態にありながらも、僕は一旦咲夜のことが気になり、一旦店を出た。
「咲夜・・・・・・?」
僕は自分の部屋に戻って咲夜を呼んだ。部屋の中にはいない。隣の部屋に移っただろうか・・・・・・だとしたら、きっと今頃は眠っている頃だろう。そっとしておくべきだ。咲夜の頭の中には、これからのことでいっぱいのはずだろうし。
このまま能力が戻らなかったりしたら、咲夜はどうするのだろうか? いや、それはきっと、彼女自身が一番知りたいと思っていることなのではないだろうか。
「・・・・・・・・・・・・」
僕には何をしてやれるのだろうか。こんなことは専門外だ。僕の持つ知識じゃきっと何の役にも立てない。ならせめて、この懐中時計でも直してやるべきだろう。勝手に人の物を取り扱うのも良くない気がするが、さっき見つけた懐中時計とこの時計の構造は恐らく同じはず。こちらも特に専門と言う訳ではないのだが、この手の物ならきっと僕でも直せるだろう。だからこそ、直してから渡すべきだと思った。何をしてやるべきか分からない僕に出来るせめてもの行動だ。これくらいはしてやるべきだ・・・・・・
・・・・・・・・・・・・気が付けば朝になっていて、僕はいつの間にか、机に突っ伏した状態で寝てしまったようだった。鳩時計の針は寝覚めの悪いことに6時16分を指していた。
僕は耳心地の悪い雨の音に目を覚まされていた。外を見ると、昨日の咲夜のように、空も泣いているようだった。
・・・・・・どこか窓を開けっ放しにしていないだろうか? 気になって僕は立ち上がり、開けたままの窓がないかを確認しようとして・・・・・・
「痛ッ・・・・・・!?」
首の後ろ側に鈍痛が走るのを感じ、思わず僕はそこを手で抑え込んだ。寝違えたのだろうか・・・・・・こんな体制で寝てしまったのだから当然だろう。こうなると今日は一日中この痛みに悩まされることになる。雨も降って気分が落ち着かないというのに、困ったものだ・・・・・・とりあえず、湿布でも探して貼っておかないと・・・・・・少なくとも幾分かは痛みが軽くなるはずだ。
「あの、霖之助さん」
ふいに僕はそう呼び止められ、声のする方を振り向いた。そこには咲夜が、昨日よりは幾分か落ち着いた表情で僕の方を向いて立っていた。僕と同じく、この耳心地の悪い騒音のような雨の音に目を覚まされたのだろうか。
「咲夜・・・・・・もう、大丈夫かい?」
「えぇ、おかげさまで・・・・・・あっ・・・・・・!?」
お礼を言おうとこちらに近づいて来て、咲夜は足元に置いてある物に気付き、慌てて足を止めた。
「これは・・・・・・」
足元に置いてあるのは、僕のお気に入りの品『だった』物と、とあるメイド長さんが置いて行った鑑定書の入った箱であった。中身を確認したままで蓋が開けっ放しになっている。
・・・・・・例の懐中時計がなかなか見つからなかった為、念の為こんなところまで探していたのだ。
絶対そんなところにあるわけない、そういう先入観に囚われては絶対に目的の物は見つからないだろうと思ったから・・・・・・そんなところまで探してようやく時計を見つけた時は、もうかなり時間が経っていたから、片づけはまだ済ませていなかったんだよな・・・・・・
「あぁ、それなら今片づけるところだから。とりあえず足元には気をつけてくれ、色々とごちゃごちゃとしちゃってるし」
例の鑑定書とやらに関してはもう諦めている。時間は元には戻れないのだ。だからなるべく触れないようにして、僕はその箱を取りに来た。そして、何も中身のことになど触れないようにして、箱に蓋をして、それを持って行った。
「あの・・・・・・霖之助さん」
今になってあの時のことを気にし始めたのか、申し訳なさそうな声で咲夜が僕の名前を呼ぶ。
「・・・・・・どうか、したのかい?」
僕は箱を目立たない隅の方に戻しながら訊いた。
「・・・・・・私、色々と霖之助さんに迷惑をかけてしまっているみたいで・・・・・・その、御免なさい・・・・・・」
鑑定書の件も考えて上手く言葉が出せないのか、しどろもどろになりながら咲夜が頭を下げた。
「・・・・・・迷惑なんてことはないさ。困った時は助け合うのが常識だと思うし・・・・・・それに、僕のところに来てくれたのは、正直嬉しかったと思うけど」
「え?」
「少なくとも・・・・・・これは誇張しているかもしれないが・・・・・・咲夜は僕を頼って来てくれたんだよな?
こんな人里離れたところにまで来てくれたんだし・・・・・・僕は、その、誰かに頼りにされるってことはあまりなかったけど・・・・・・けど、そういうのも、悪くないと思うような気がしたんだ。だから、気にすることはないと思う・・・・・・」
相変わらず上手く言葉が出てこない。こういう時は僕の蘊蓄も何の役にも立てない。だが、これは、これでも僕の正直な気持ちだと、思う・・・・・・
それを聞いて咲夜は、言葉に詰まり、そっと僕から目を逸らした。また涙目になりそうになるのを必死に抑えるのが手に取るように分かった。
「そうだ、これ・・・・・・」
このまま行くとまた咲夜が泣くんじゃないかと思い、僕はハンターケース型の懐中時計を持ち、咲夜に渡した。
「これは・・・・・・?」
「昨日、店の中に置いてあったんだ。何か、壊れて針が止まってたから、直しておいたよ」
「え・・・・・・? あ、有り難う」
何故か頬を赤らめながら、咲夜が懐中時計を受け取った。まぁ、万が一直す時に壊してしまった、なんてことがないように、同じ型の懐中時計を分解して中身を確認した、なんてことは言わないでおこう。分解して原型を留めれなくなった懐中時計を見たら、咲夜はきっと気を遣うだろうし。
咲夜はそっと懐中時計の蓋を空けた。中では止まっていたはずの時計の針が、正確な時の流れを刻んでいるのが見えた。それを見て、咲夜はどこか安心したような表情になった。
その時だった。咲夜の身体に、淡い水色の光がときめいているのが見えたのだ。何だ・・・・・・? 一体どうしたのだろうか?
僕は眼と眼鏡に特に異常をきたしている訳じゃないので、幻か何かということはないだろう。光は優しく咲夜を包み込むと、咲夜の身体に入り込むように弱弱しくなり、やがて消えて無くなった。咲夜は懐中時計を持ったまま両手を組んで、それを受け入れるかのように瞳を閉じた。
「・・・・・・咲夜?」
大丈夫なのだろうか。心配になって訊いてみると、咲夜はそっと目を空けて、驚いた表情で自分の両手を見つめた。
「咲夜?」
「力が」
「え?」
「私の力が、戻っている・・・・・・!?」
「え・・・・・・!?」
戻った? 時間を操る能力が? ということは、今の光は・・・・・・
「本当、なのか?」
念の為訊いてみると、咲夜は元気強く頷いた。どうやら本当のようだ。
「それは良かったじゃないか、力が戻ったなんて!」
普段あまり笑うことのない僕でも、このことに関しては素直に喜んだ。一体何が原因なのだろうか。その懐中時計のせいだったのだろうか?
いや、もし咲夜の力の源がその懐中時計にあるんだとしたら、咲夜も原因が分かると思うのだが・・・・・・とりあえず、此処は深く追求する必要はないだろう。咲夜の力が戻った、このことを素直に喜ぶべきだろう。
「有り難う御座います、霖之助さん」
感謝の気持ちを込めて、咲夜が僕にお礼を言って頭を下げた。
「いや、僕は何も・・・・・・」
ただ懐中時計を直しただけだし・・・・・・照れくさそうになりながらそう言うも、咲夜は首を横に振った。
「霖之助さんのおかげで立ち直ることが出来たんだし、それに、一度力を失った私に大切なことを教えて下さいました、そのことには感謝するべきです」
「そ、そうか・・・・・・」
そう言うものなのだろうか。でもまぁ、そう言ってくれるのなら、商品の1つを苦労して見つけて、加えて分解までした甲斐があったというものである。此処までの苦労は無駄に終わらずに済んだようである。
「本当に有り難う御座いました。では、私は一度、紅魔館に戻ります。お礼は後ほど改めて伺いますね」
そう言って咲夜は、一昨日来てくれた時のように微笑んだ。泣くところを見たのは初めてだが、咲夜には笑顔が一番似合っているな。
「あ、そうだ」
帰ろうと一旦背中を向けた咲夜が、もう一度僕の方を振り向く。そして、
「時計を直してくれて、有り難う」
そう言って右手の人差指を立てたその時だった。瞬きをするかのような一瞬の間に、咲夜はその場から姿を消した。
「・・・・・・!?」
突然のことだったので、僕は驚いて思わず辺りを見渡した。だが、その場には咲夜はいなかった。
どうやら、本当に力を戻したらしいな・・・・・・でも、何もこんな風にして帰らなくてもいいのに・・・・・・まぁ、いつもの咲夜に戻ったのなら何よりだと思い、僕は店の片付けに取り掛かろうとした。その時だ。
ポッポー、ポッポー
と、突然背後から鳥の鳴き声が聞こえてきたのだ。何だと思って振り向くと、そこには今まで12の時を刻んでも動かなかった鳩時計の仕掛けが起動していたのだ。12の時を指す針の上から、小さな扉が開くと同時に鳩が飛び出す。
今まで動かなかったのに何で突然・・・・・・それに、良く見ると、さっき見た時よりも少し下の方に時計がかかっているようにも見えた。一体どうして・・・・・・色々気になりはしたが、僕はとりあえず、扉から出てきた鳩を見つめた。そして気付いた。出てきた鳩の種類は銀鳩というもので、手品とかで良くタネに使用される鳩であったということに・・・・・・
前にも一回消して出し直しとかやってたよね?
名前一緒だし、『・・・・・・』の使い方も同じだし、何回も同じ作品上げてるし…
まあ、行間が空いたから読みやすくはなっていますけど、それ以前に書き手としての意識とか、読んでもらうとはどういう事かを考えたほうがいいと思います。
既に投稿したものを編集せずに残すと、後から何も知らない人が読みに来たときに困惑しますよ?
ここに読みに来る人たちは、あなたの作品の添削をしに来ているわけではないんですよ?
自分の都合ばかり考えないほうが良いのではないでしょうか。
せっかく話の内容は良いのに、それ以外のところで読み手がうんざりしてしまうような形になっているのが残念ですね…
これは文章の決まり事です。それ以前に使いすぎなので、三点リーダを使うのを控えてはどうでしょうか。
あと、削除されない限り消す必要はないでしょう。はっきり言って、読者が一番うんざりするのは評価した作品を消されることなんですよね。
貴方も低評価を苦にしたか、何度も作品を消しているようですが。
送る→評価されない→削除のループをするくらいなら、少なくとも自分で完璧だと思えるまで読書を重ね、書くことを重ね、その上で投稿したほうがよいのでは。
辛い言い方をすると、三点リーダの使い方などは書くことを少しでも学ぼうとした人間なら絶対に間違えないことですし、その基本すら知らずにアドバイスをもらっても役に立たせられないと思います。
誤字報告。
「本当ならきたい時は時間を止めて泣きたかったのだろう。」
→泣きたい時?
咲夜は、流れ落ちる慌てて拭い、今更ながら必死に泣いているのを隠そうとしていた。」
→流れ落ちる涙を慌てて拭い?