強くならなくちゃって焦ってるのかもしれない。
そう思いながら、晩ご飯を頬張っている私の顔を覗き込むようにして藍様は見る。
「…どうかした?何か面白くない事でもあったの?」
そう問いかける藍様の表情はどこか不安げ。
藍様も紫様も、私が何人いても足りないくらい強い。
そんな二人の下にいるから、こんなに焦りが出るのだろうか。
「いいえ、なんでもないですよ?」
そう言って、私は苦し紛れの笑顔を作る。
「本当にか?ご飯がおいしくないとかそんなことでもない?」
優しさが身に沁みる。
本当に、私の主人が藍様で良かったと思うと共に、少々優しすぎるとも思った。
だから、こんなに切ない気持ちになるんだろうか。
「なんでもありませんよ。いつも通り、ご飯も美味しいです」
「そうか?」
少し不安の表情も混じっているが、藍様がにこっと笑う。
その様子を紫様は黙って見ているだけだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
明くる日のこと。
「猫じゃ狐に敵わないんですかね?」
突然の問いかけに、藍様は目を丸くして驚いている。
「そんなこと無いさ、窮鼠猫を噛むって…いや、それは追いつめられた時だから例えが悪いか」
そう笑っているのは藍様だけで、私はじっと見つめるだけ。
「…そうだな、それは最初は苦悩があるだろうけど、努力すれば報われる。天人がいい例だ。必死に修行し、身を尽くす程の努力があったから天人になれるんだ。橙も挫折せずに頑張れば狐にだって敵うさ」
そう言って笑って見せる。
「そう、ですか」
私の予想していた答え、予想していた笑み。
励ますように向けられたその笑顔が、私には眩しかった。
橙という、明るい色の私の名前には似合わない顔。
藍という、暗めの色の名前には似合わない笑顔。
すぐにマイナスに考える私はダメな子なのかもしれないと、またマイナスな思考が浮かぶ。
いつものように笑顔で、「頑張ります」と返せばよかったのに。
「でも、藍様は最初からすごく強かったんでしょう?」
「え?」
尾の数は強さを示し、その尾の数が増えたわけでなく、元から九本。
力も強く、頭も良く、美しく、かっこいい。
だから紫様に選ばれたのだろう。
それに比べて私は…
「とりあえず式神を打ってみたのが猫の私だっただけですよね?だって、賢い藍様がそんな弱い猫を選ぶはずがないでしょうし」
「橙、何を言ってるんだ。そんなはずがないだろう?」
「じゃあ、何故でしょう?」
そう問いかけると、藍様は答えるのに詰まってしまった。
ほら、やっぱりそうだったんだ。
私は、俯き、ただ立ち尽くす藍様の横を通り過ぎ、部屋を出た。
部屋を出て、そのまま玄関へと進む。
何だか気分が落ち着かなくて、何処までも走っていきたい気分だった。
そして、私は家を飛び出した。
出ていく時に感じた、紫様の視線も振り払って。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
少しばかり雨が降ってきた。
雨と同時に、私の頬に熱い涙が溢れてきた。
走り、家が遠ざかっていく程に、涙が止まらなかった。
今ここが何処なんてわからない。
だから、思いっきり泣き叫んで、何処に向けていいかわからない感情を空へと開け放った。
今私がどんな顔をしているのだろうか。
きっと涙でぐしゃぐしゃで、不細工な顔になっているんだろう。
でも、それでもいい。
ただ、泣いていたかった。
悔しい 悔しいけどどうしようもない。
努力しても実らない、このやるせない気持ちが、私の涙をより一層溢れさせる。
「橙」
不意にかけられた声に肩がビクンと跳ねあがる。
恐る恐る後ろを振り返ると、息を荒げている藍様の姿があった。
濡れた九つの尻尾は、元気がないように小さく見えた。
「橙」
もう一度そう名前を呼ぶと、静かにこちらへと歩み寄ってくる。
泣いている姿を見られた。
とても恥ずかしいけど、それでも涙が止まらなかった。
そんな私は、抱きしめられた。
突然の事で驚いたけど、私は藍様の胸の中に顔を埋めた。
「ごめん、橙」
「…うん」
「私は、明るく、元気な子が式神として欲しかった。だから大きな瞳で、私をじっと見ていた橙を選んだ。…しかし、私や紫様という存在が、橙の心を変えていた事に気付けなかった。ごめんよ」
「…うん」
ただ短く、私は、「うん」としか答えなかった。
何故だかはわからない、ただ藍様の声をもっと聞きたかったからかもしれない。
「私も、最初から九尾であったとはいえ、苦労はしていたんだよ。努力があるから強くなれる。幻想郷の強い人は、影で努力をしているから強いんだよ」
「…うん」
気づけば、雨が止んでいた。
私の心の雨も止み、涙も止まっていたことに気がついた。
「一緒に帰ろうか、橙。寒いだろう?」
「はい、藍様」
藍様の手を、ぎゅっと握って、帰路につく。
ふと空を見上げれば、虹が出ている。
「あ」
私は思わず声を上げる。
「どうした?橙」
「いいえ、なんでもありませんよ」
藍様は首を傾げて、そして笑った。
見つめる先、藍の隣には、明るい橙がそこにはあったから。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「これでいいのかい?」
「えぇ、ありがとう」
山の神の協力を得て、何とか虹を作ることに成功した紫はふぅ、と一息。
「大変だねぇ、お前さんも」
笑いながらそういう神奈子に紫は苦笑いをし、答えた。
「えぇ、本当に手間のかかる式神ですわ」
そんな、紫の表情はとても優しい笑顔だった。
そう思いながら、晩ご飯を頬張っている私の顔を覗き込むようにして藍様は見る。
「…どうかした?何か面白くない事でもあったの?」
そう問いかける藍様の表情はどこか不安げ。
藍様も紫様も、私が何人いても足りないくらい強い。
そんな二人の下にいるから、こんなに焦りが出るのだろうか。
「いいえ、なんでもないですよ?」
そう言って、私は苦し紛れの笑顔を作る。
「本当にか?ご飯がおいしくないとかそんなことでもない?」
優しさが身に沁みる。
本当に、私の主人が藍様で良かったと思うと共に、少々優しすぎるとも思った。
だから、こんなに切ない気持ちになるんだろうか。
「なんでもありませんよ。いつも通り、ご飯も美味しいです」
「そうか?」
少し不安の表情も混じっているが、藍様がにこっと笑う。
その様子を紫様は黙って見ているだけだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
明くる日のこと。
「猫じゃ狐に敵わないんですかね?」
突然の問いかけに、藍様は目を丸くして驚いている。
「そんなこと無いさ、窮鼠猫を噛むって…いや、それは追いつめられた時だから例えが悪いか」
そう笑っているのは藍様だけで、私はじっと見つめるだけ。
「…そうだな、それは最初は苦悩があるだろうけど、努力すれば報われる。天人がいい例だ。必死に修行し、身を尽くす程の努力があったから天人になれるんだ。橙も挫折せずに頑張れば狐にだって敵うさ」
そう言って笑って見せる。
「そう、ですか」
私の予想していた答え、予想していた笑み。
励ますように向けられたその笑顔が、私には眩しかった。
橙という、明るい色の私の名前には似合わない顔。
藍という、暗めの色の名前には似合わない笑顔。
すぐにマイナスに考える私はダメな子なのかもしれないと、またマイナスな思考が浮かぶ。
いつものように笑顔で、「頑張ります」と返せばよかったのに。
「でも、藍様は最初からすごく強かったんでしょう?」
「え?」
尾の数は強さを示し、その尾の数が増えたわけでなく、元から九本。
力も強く、頭も良く、美しく、かっこいい。
だから紫様に選ばれたのだろう。
それに比べて私は…
「とりあえず式神を打ってみたのが猫の私だっただけですよね?だって、賢い藍様がそんな弱い猫を選ぶはずがないでしょうし」
「橙、何を言ってるんだ。そんなはずがないだろう?」
「じゃあ、何故でしょう?」
そう問いかけると、藍様は答えるのに詰まってしまった。
ほら、やっぱりそうだったんだ。
私は、俯き、ただ立ち尽くす藍様の横を通り過ぎ、部屋を出た。
部屋を出て、そのまま玄関へと進む。
何だか気分が落ち着かなくて、何処までも走っていきたい気分だった。
そして、私は家を飛び出した。
出ていく時に感じた、紫様の視線も振り払って。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
少しばかり雨が降ってきた。
雨と同時に、私の頬に熱い涙が溢れてきた。
走り、家が遠ざかっていく程に、涙が止まらなかった。
今ここが何処なんてわからない。
だから、思いっきり泣き叫んで、何処に向けていいかわからない感情を空へと開け放った。
今私がどんな顔をしているのだろうか。
きっと涙でぐしゃぐしゃで、不細工な顔になっているんだろう。
でも、それでもいい。
ただ、泣いていたかった。
悔しい 悔しいけどどうしようもない。
努力しても実らない、このやるせない気持ちが、私の涙をより一層溢れさせる。
「橙」
不意にかけられた声に肩がビクンと跳ねあがる。
恐る恐る後ろを振り返ると、息を荒げている藍様の姿があった。
濡れた九つの尻尾は、元気がないように小さく見えた。
「橙」
もう一度そう名前を呼ぶと、静かにこちらへと歩み寄ってくる。
泣いている姿を見られた。
とても恥ずかしいけど、それでも涙が止まらなかった。
そんな私は、抱きしめられた。
突然の事で驚いたけど、私は藍様の胸の中に顔を埋めた。
「ごめん、橙」
「…うん」
「私は、明るく、元気な子が式神として欲しかった。だから大きな瞳で、私をじっと見ていた橙を選んだ。…しかし、私や紫様という存在が、橙の心を変えていた事に気付けなかった。ごめんよ」
「…うん」
ただ短く、私は、「うん」としか答えなかった。
何故だかはわからない、ただ藍様の声をもっと聞きたかったからかもしれない。
「私も、最初から九尾であったとはいえ、苦労はしていたんだよ。努力があるから強くなれる。幻想郷の強い人は、影で努力をしているから強いんだよ」
「…うん」
気づけば、雨が止んでいた。
私の心の雨も止み、涙も止まっていたことに気がついた。
「一緒に帰ろうか、橙。寒いだろう?」
「はい、藍様」
藍様の手を、ぎゅっと握って、帰路につく。
ふと空を見上げれば、虹が出ている。
「あ」
私は思わず声を上げる。
「どうした?橙」
「いいえ、なんでもありませんよ」
藍様は首を傾げて、そして笑った。
見つめる先、藍の隣には、明るい橙がそこにはあったから。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「これでいいのかい?」
「えぇ、ありがとう」
山の神の協力を得て、何とか虹を作ることに成功した紫はふぅ、と一息。
「大変だねぇ、お前さんも」
笑いながらそういう神奈子に紫は苦笑いをし、答えた。
「えぇ、本当に手間のかかる式神ですわ」
そんな、紫の表情はとても優しい笑顔だった。
評価ありがとうございます!
紫は今回表に出さなくて正解だった…のかな?
静かに式神を見守るお母さんみたいな存在ですね~
評価ありがとうございます!
そうですね…自分の書く短編って本当に短いんですよね。
これでも個人的には頑張った方なので…ダメですね。
長く書けるように努力します!!
ウヨキョクセツありつつも、仲のよろしい八雲一家、ごちそうさまでした。
橙を応援したくなります。
橙はきっと立派な式神になれるよ!
評価ありがとうございます!
思考が大人っぽいのに対し、行動は子供っぽかった橙ですが、雰囲気が良いといわれて嬉しい限りです
八雲一家の絆は幻想郷一?
>18
評価ありがとうございます!
八雲一家はいろんな顔をもっていると思うので、書いているのが面白いです
>19
評価ありがとうございます!
優しさにもいろんな優しさがあるんですねぇ…
大人っぽい橙もみてみたいものです。
力の強さだけじゃ真の強者ではないと…
>強くならなくちゃって焦ってるのかもしれない。
橙がなぜこの考えに至ったのかっていう経緯が自分は欲しかった。まぁ藍がちょこっと言ってるっぽいけど。
藍様の苦労した話や、「明るく、元気な子が式神」が欲しくなった話や、橙が出てった後の藍と紫の会話などがあってもいいと思う。
特に苦労話と「明るく~」の話は、橙に話してやるべき内容なのでは?と思う。
一行目のような考えを持ってた割にはあっさりと納得しすぎじゃない?
また、何故紫が虹を作ろうとしたのか?というか何故虹なのか?っていう考えも欲しかった。
まぁ短編だからそんなことを書く必要なんてないけどねww
でも、こういう話ならもっとその辺りを膨らませられると思うんだけどなぁ。ちょっともったいない。
評価ありがとうございます!
なんだかんだって紫は皆のことを考えている気がします。
>25
評価ありがとうございます!
確かに…もっと語るべきであった場所が抜けているような気がしますし、だから短くなってしまったんだなぁとも思います。
短すぎて薄い短編になってしまいましたね…。
頑張って次に生かしていきたいと思います!
最初から最後にかけてあまり長くないのにいい感じに心情が変化していてよかったです、
評価ありがとうございます!
長くない中でいかにうまく伝えることが出来るか…。出来たらいいのになぁ。
足りない部分も多々あるので、こういう点を無くしていきたいものです。
評価ありがとうございます!
自分は特に、八雲家のほのぼのが大好きです~
それで評価を頂けたことは非常に嬉しい限りです
努力せずに成功するやつはいないよ
評価ありがとうございます。
努力せずに成功するやつのことを秀才って言うんでしょうね。
努力して成功していくのが天才なんだと勝手に思ってます。