長時間閉じていた目をゆっくりと開ける。
まず視界に入った物は、今自分が両手で抱きしめている人形の頭頂部。そしてゆっくりと人形を自分の目先まで持ってくると、その人形の全体像が見えてきた。暗がりで良くは見えないが、日中も寝室に飾っているため、その朧気な形だけで色彩すら思い描くことが出来た。
しかし、それでも人形見たさに僅かな光を求めて身体をベットの中でゆっくりと身体を反転させた。そうすると窓から漏れていた月明かりが目に入ってきて、思わずその眩しさから目を閉じてしまう。
少し目をこすった後、月明かりに人形を照らしてみた。それでも色までははっきりと見ることは出来ないが、それでも人形の目や口、髪の形や服の構造まで全てがしっかりと浮かび上がった。
それを何だか見つめていると、何だか安心感が身体を包み、そして急激に緊張感がやってきた。今目の前にある人形は私の想い人をモチーフにした形をしている―――否、まるで想い人と全く同じ形をしている。友人である人形使いが作ってくれた、私のために世界で一つだけの人形である。
小さい頃は恋心などでは無かった。最初は父の知人として、次は血縁のない兄として、そして一番の頼れる友人として、そして今は恋する私の想い人として―――。
気づいたときは分からない。もしかすると、初めから私は彼のことを心の底から好いていたのかもしれない。
そう思いを馳せていると、暗がりの世界に慣れた目が壁にかけられたカレンダーへと止まった。日付の一つには私らしくないハートマークが付けられていて、その日は明日………いや、日付が変わっているから今日のことを示している。即ち、私―――霧雨魔理沙が、想い人である森近霖之助へと告白を決意した日である。
それを意識すると、更に高鳴っていた胸が自分のものとは思えないほどに鳴り始めた。まるでマスタースパークだ、と自分の想いの強さを弾幕に表したスペルカードが頭を過ぎった。
そう考えていると、今まで激しく高鳴っていた胸が不思議と落ち着いてきた。よくよく考えてみると、あのスペルカードは彼………霖之助が作ってくれたマジックアイテムの強さを、私の力で純粋に体現したものである。彼への全てへの想いの強さが今の胸の高鳴りなら、これほど心地の良い物はない―――そう思えてくるから不思議である。だから私は、落ち着いてきたその高鳴った胸の鳴るリズムを感じながら、ゆっくりと手にある彼の人形をそっと抱きしめた。
気付くと、私は実家の一室に立っていた。
良くは分からないが、もしかしたらこれは夢かもしれないと私は思った。普段なら夢を夢と気付くことも難しいのだが、不思議と「これは夢」だと頭に直接語りかけられた感じがしたのである。
周りを見回してみると、どうやらここは私の部屋らしい。周りには古めかしい鏡付きのタンスや勉強机、そして自分より一回り大きなぬいぐるみに溢れたベットが置かれていた。そこで不思議に思ったのであるが、何故だか部屋が記憶の中にあるものよりも大きく見えたのである。気になってタンスの方へと目を向けると、そこに映ったのは―――本来の自分の背丈の半分ほどしか無い、小さくなった霧雨魔理沙だった。
―――コンッ、コンッ。
小さくなった事に飛び跳ねて驚きそうになった時、突然部屋のドアからノックの音がした。更に驚いてしまったせいか、飛び跳ねながら「きゃあっ」と声を上げてしまった。
そのままドアが開けられ、部屋に入ってきたのは銀髪の青年。夢をみる前まで恋焦がれて想い続けていた森近霖之助である。彼は少し困ったような笑顔を浮かべると、私の前へと真っ直ぐ歩いてきた。そして、そのまま屈み込んで私の目線の高さまで合わせて「こんにちは」と声をかけてくれた。嬉しさと恥ずかしさから何も言えなくなってしまった私を見て、彼は困った笑顔を更に困らせて、私のことをそのまま抱き上げてくれた。
一瞬私の顔と彼の顔とがこれまでに無いほど接近し、恥ずかしさから彼の顔が見れなくなってしまった。しかし、そのまま彼が器用に私を肩車した時………彼と私とが初めて会った日であることを思い出した。彼との思い出を忘れるはずが無い。
確かこの日は、彼が私の両親に勧められて部屋まで会いに来たはずである。彼は子供の扱いに慣れていなかったようで、その後別の機会にこの日のことを聞くと「香霖堂から人里へ来たとき、娘を肩車している父親を見かけたからやってみた」と言っていたのを覚えている。
私は当時初めて見た彼に驚いたが、小さな頃に父親が肩車をしてくれたことを思い出して、驚きが一気に喜びへと変わっていった。そして、そのままもっと高くなろうと背を伸ばして天井に頭をぶつけてしまった。あまりの痛さに涙が出てきたが、それでもあまりの嬉しさに笑顔が消えることはなかった。
気づいた時、私は少し成長した霧雨魔理沙になっていた。
この頃私は少しだけ魔法のことに興味を持ち始めていて、部屋にこもってはいろいろな書物を調べて勉強していた。父親は魔法のことが好きでは無いことを知っていたので、あくまで気付かれない程度に勉強を始めていた。
普段なら部屋にこもって本を読むかしているのだが、この日は彼が来ると聞いていたのでお菓子を買いに小さなお店へと出向いていた。そこにはいろいろなクッキーや茶葉が置いてあり、彼は緑茶と和菓子を好んでいると前に聞いたので、彼が喜んでくれる顔を想像しながらゆっくりを吟味していった。そして中々決まらない私を見ていた店の主人が「サービスしてあげるよ」と言って、私の予算では買えない程の量のお菓子と茶葉を渡してくれた。何故かと聞いてみると「だって、大事な人に上げたいんだろう?」と言ってきた。私はなんで分かったのかが気になったが、それ以上に「大事な人」という言葉が頭の中に残っていた。後に分かったことだが、人里では彼と私が兄妹のように仲が良いことを知ってる人が多かったらしい。
そして予定よりも大きな袋を抱えて歩いていると、軽く男の人にぶつかってしまった。男は私を見ると舌打ちをして睨んできた。普段悪戯をすると父親が怒ってくるが、今以上に憎しみを含んだ視線を向けられたことは無かった。私は恐怖心からその場から動けずにいると、目の前に男がその手を私の袋へと伸ばして「これは慰謝料だからもらうぞ」と言って取りだそうとした。
とても泣きたかった。店の主人に対しての申し訳なさと、「大事な人」と言われた彼へのプレゼントが持っていかれそうになっているのだから。そして男がお菓子を一掴み取ろうとしたとき―――男が突然、空中に浮いた。
私がその状況を黙って見ていると、男の後ろに誰か立っているのが見えた。その人がどうやら男を後ろから掴み上げているのだと理解するのに、少し時間を費やした。普通の人間が、片腕で男を持ち上げるなんて話を聞いたことが無いからである。
その人は聞き覚えのある声で「次に僕の妹分を泣かせたら………わかってるんだろうな?」と、とても静かな声で男へと告げた。男はさっきまで睨んでいた目に恐怖を一杯に浮かべて、その場から走って逃げ出した。
私は、さっきまで睨んでいた男よりも怖い人が目の前にいるのだと思っていたのだが、もう一度前を見るとそこには彼―――霖之助が立っていた。どうやらまだ霧雨家に行ったわけではないようで、その手には私の好きな洋菓子の入った袋を下げていた。私は心の底から安堵して思わず泣いてしまったが、彼が私の荷物を手にとると、私の前にかがんで背を向けてくれた。私は素直にその背中に乗ると「ありがとう」と一言だけ呟いて、後は背負ってくれる彼に身を預けて目を閉じた。
その後話を聞きつけたらしい父親が私たちに話を聞いたときに、彼が妖怪と人間のハーフなのだと知った。そして私はこの時、彼みたいに強い人間になりたいと思ったのである。
その瞬間、目の前には香霖堂があった。
どうやら霧雨の実家から家出した日なのだと、手に持っている旅行鞄を見て知ることが出来た。確かこの日は、魔法の勉強のために家を出たはいいが、寝る場所も何もなくて途方に暮れていた時だったはずだ。私は妖怪に襲われるかもしれないという恐怖感から、前に何度か訪れたことのある香霖堂へと足を運んだのである。
私は静かにドアを開けると、そこにはカウンターで読書をしている霖之助が座っていた。彼は私の方を見ると驚いた表情をして「魔理沙が泊まりにくるなんて珍しいね?」と言い出した。私は彼に家出をした経緯を話すと、私に「魔理沙の好きにするといい」と言ってくれた。
私は何だか急に泣き出しそうになって、しかし、目に浮かんだ涙を必死に零さないように努力した。前に彼に助けられた時のような、弱い自分から少しは成長したのだと、彼に知らせたかったのである。
その日からしばらく、彼は香霖堂に私を住まわせてくれた。この頃彼は霧雨の家には滅多に顔を出さなくなっていたし、香霖堂で研究ばかりの日々を送っていたそうだ。なので、私は同じ家に住みながらも彼との時間の共有は少なかった。彼は食事をそこまで必要としなかったし、私も少しでも早く魔法を使えるようにと勉強していたからである。
そんなある日、私が初歩的な魔法を使えるようになった頃、彼が私に家を準備してくれた。少し離れたところに集団で住めそうな一軒家を建ててくれたのである。最初は申し訳なさに否定的になってしまったが「君の力になってあげたいんだ」と言われて甘えることにした。そして、これと同時に八卦炉を貰ったのである。妖怪に襲われても大丈夫なようにと、彼が私のために作ってくれたマジックアイテムである。
次に気がつくと、私は香霖堂にいた。
さっきまでと違うのは、霖之助の雰囲気もそうだが、私自身の身体つきでもある。確かこの頃は異変が頻繁に起こっていた頃である。紅い霧が発生したり、春が来なかったり、月が隠れたり―――本当に飽きない日々だったと思う。
私は香霖堂にある品物に座ると、彼はいつもいい顔をしない。この頃は私が小さい頃見せてくれた、困った笑顔も、私のために怒ってくれた顔も、私の力になってくれると言った時のような安心するような表情は見せてくれなくなっていた。私はいつ彼に嫌われるのだろうと毎日不安になりながら床についていたのを覚えている。異変解決は、博麗霊夢に対する挑戦状であり、不安を消すための行動でもあった。
そんなある日、私は不意をつかれて妖怪から殺されかけたことがある。知能の低い妖怪で、スペルカードルールを認識していなかったようだ。私だって襲われたことは何度かあったが、その日は妙に体調が優れなかったのを覚えている。
あまりの怖さに私は思わず涙を流してしまった。強くなれなかった自分を恥じると同時に、彼に今まで必要以上に甘え続けてしまったことを後悔していた。きっと彼は私がいなくなって喜ぶのだろう、そう考えると不思議と涙の量が更に増えた。
しかし、気がつくと私を襲った妖怪は傷だらけで倒れていて、その後ろには彼が刀を持って佇んでいた。一瞬何のことだか分からなくなったが、彼は私の元まで歩いてくると頬を叩いた。彼は驚く私を見て「君を泣かせた奴は僕は許さない。けれど、泣かないと決めた君が泣いたから僕はあえて君を叱ろう」と言ったのだ。私は必死に涙を堪えたが、それでも止めることは出来なかった。だからせめて、彼に涙が見られないようにと必死に彼の胸へと顔を埋めて………声をひそめて涙を流した。彼は優しく、私の背中を撫で続けてくれた。
そして私は、この日から彼のことを「霖之助」と読んでいる。彼と対等でずっといたいと思ったから、呼び方から変えたのである。
目が覚めると、外から小鳥のさえずりが聞こえてきた。
どうやら長い夢を見ていたようで、朧気ながら思い出すことも出来た。小さい頃から大きくなるまでの霖之助との思い出で、そのひとつひとつが私に取ってかけがえの無い思い出だったはずだ。
自分の身体を見てみると、霖之助の見た目ぐらいの女性の身体へとなっていた。昔のように彼の後ろを必死に歩く少女ではなく、今なら人里を仲良く歩いたら恋人と間違えられるだろう。これから告白するのだと考えると、そうなるのなら嬉しいのだが。
私は身支度を整えると、友人である人形使いであるアリスの家へと向かった。化粧を頼むためである。
家につくとアリスは少しだけ嫌そうな顔をしたが、私が化粧をお願いすると何かを察したらしい。彼女は髪の毛から何まで人形を扱うかのようにセットしてくれると「頑張ってね」とだけ言って私を送り出してくれた。
私はなるべくゆっくりと箒に乗って香霖堂へと向かっていくと、遠くに朝日が見えた。その眩しさに目を細めるが、閉じずにその光景を見続けていた。
私は香霖堂の前へと着くと一つ深呼吸をしてドアを開けて入った。すると彼はいつも通りカウンターに座って読書をしていた。彼は少し私に目を向ける、少し驚いた表情をして「君が化粧なんて珍しいね」と言ってきた。私は似あうかどうかを聞いてみると「馬子にも衣装………といいたいが、もうそんな年じゃないな。君もすっかり美人さんだ」と言ってくれた。私はあまりの嬉しさに一瞬涙が出そうになったが、それ以上に喜びを表現するために精一杯の笑顔を浮かべた。そして、昔とは違う、準備された私専用のイスに丁寧に腰掛けると私は彼に向かって、座った。心に迷いはない。だから、私は彼に向かって自分の思いをそのまま伝えた―――。
私は今、彼と一緒に大きな花畑へと来ている。私は特にここに思い出はないのだが、彼はこの花の散る季節が一番美しいのだと言った。私は自分と花、どっちが美しいのか問いただしたくなったが彼はきっと花だと言うのだろう。彼に取って私は少なくとも「恋人」ではなく「妹」という存在なのだから―――。
そう考えていると、又涙が溢れてきた。もう数年前の話ではあるが、彼への告白が失敗に終わった傷はまだ癒えていない。失敗と言っても返事待ちではあるが、きっとこれからも、私は彼のことを想い続けて生きていくのだろう。彼が他の好きな人が出来てもこれは変わらないと思う。
そうすると、彼はいきなり私の背後に回って両足の間に頭をいれると、そのまま持ち上げて肩車をしてくれた。私は突然の行動に顔が真っ赤になったが、彼は昔のような困った笑顔ではなく、真剣な表情で前を向いていた。だから、私も彼の負担にならないようにおとなしく普段と違う大きな広い世界を見つめ続けていた。
しばらく経つと、彼は無言で私を下に降ろした。私も無言で彼の横へと戻ると、彼は何も言わずに前を見続けた。私も、少しだけ子供扱いされて悔しい思いを感じたが、彼と同じように前を見た。
すると、突然花が一斉に空へと飛んでいった。花畑にある花が一斉に散っていく姿は、まるでどこを探しても見つからない、世界でもっとも美しい弾幕のようだった。しばらくその光景を見続けていると、彼が私に「………この散っていく花のように、僕も過去の先入観は捨てるべきかもしれない」と言い出した。
彼の言いたいことは分からないが、きっと彼に取っては重要なことなのだろうと思ったので、私は静かに彼の言葉を待った。そして花が散り終わった後―――彼はこう言った。
「君を妹とみるのは、この花が散ると同時にやめようと思う。僕に取って君は、今も昔も大切な家族だからね―――長く待たせてごめん」
私は歩く。
歩き続ける彼の横を歩く。
昔のような、兄妹と思われる距離感ではない。
そこにはもう、一線を引いた距離はない。
彼の手と私の手は、心と心も繋がっている。
だから私は歩き続ける。
今も昔もこれからも、彼と一緒に生きる道を―――。
10点減らしちゃう!!
パッチェさんの出番はまだですか?w(黙
Ω ΩΩ<な、なんだってー!?
魔理沙がアタックする日を決めてまで告白しようと思った経緯は何でしょうね。
人形はアリスに作ってもらったにしても、その辺りの相談は全然相談してなかったようですし。
でもアリスは薄々気づいていて、快く送り出してくれた辺りが凄く心地いい。
『人妖のハーフだから本当は普通の人間よりも力が強いけど、争い事が嫌いだから普段は大人しくしている』みたいな霖之助が格好いいです。
この魔理沙は物腰が柔らかくなって綺麗なお姉さんなんだろうなーって思いました。
品物に座ると霖之助がいい顔をしなかったり、いつの間にか専用の椅子ができてるあたり、商品が傷むのが嫌ではなく、綺麗な娘が商品に座ってるのがみっともないからと言う意味なんだろうな。
表現が少しおかしいところがあったり数行の中に頻繁に同じ言い回しがあったりしたところが少し気にはなりましたけど、綺麗なお話をありがとうございました。
まぁ、死亡フラグ的なタイトルですね。死亡させませんg(ry
ちなみに別に読者むけってわけじゃ・・・いや、死亡してくださいヾ('A`)ノ(ぁ
文章でおかしいところってのは、何だか自分で書いてて気づかないみたいですね。
やっぱり「こういう風景だ」って自分で決めて書いてると、書き終わった後読み返してもそういうイメージがついてるせいか表現の曖昧な部分に気付けないみたいです、お恥ずかしい。
誤字が多いのは打ち間違えと普通に間違えてるかのどちらかです。漢字とか未だに分からないので、少し勉強しながらやりたいと思います、はい。
>>ぺ・四潤様
いつもいつも本当に・・・ああ、もう頭が上がりませんorz
もうほんと、こういう苦労をかけさせないようもう頑張ります('A`;)
かなりわかりにくいですが、恋心を自覚してからの時間経過から告白に至ったといった感じです。
今までに何度か告白しようとして、それでも一歩踏み切れなかったから自分でそのポイントを示したって形になります。そこあたりの内容がないのは、一度書こうとしたのですがどうにも「告白」をメインにすると強引に入れた形になってしまうので、カットさせてもらいました。
まあ、いい内容が思いつかなかった作者の不甲斐なさと解釈して頂ければ(汗
魔理沙がめっちゃかわいい…
まさに俺にとっての桃源郷、楽園ではないか!
たのむ!俺も中にいr(うわなにをするはなせ
そこが少しわかりにくかった気がします。
綺麗になった魔理沙…是であります!
でもバリバリ死亡フラグwなんで少しマイナス
とはいえハッピーエンドで良かった