Coolier - 新生・東方創想話

思い出の作り方

2010/03/24 02:27:41
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 少女は鞄に弁当箱を入れると何かを確かめるように両手の人差し指と親指でひし形を作り、そこから鞄を覗く。
 どこか気に入らなかったのか、弁当箱を取り出し、今度は違う角度で入れもう一度確認する。
 奇妙極まる行動が繰り広げられている此処は、地霊殿の古明地こいしの部屋である。
 もちろん繰り広げているのは部屋の主、古明地こいしだ。
 そんな彼女に声を掛けるか掛けまいか部屋の前でさとりが立ち尽くしている。
 散々困った挙句、こいしがこちらに気づく様子もないので、さとりは自分から声を掛けることにした。
「こいし、何をしているのですか?」
「あ、お姉ちゃん。何って準備だよ?」
 準備と言ってもさとりが用意した弁当箱を持つだけである。
 それなのに、どうして鞄に入れる必要があるのか、鞄への入れ方に拘るのかは、さとりには解らなかった。
 解らなかったので聞いた。
「何故、鞄に入れる必要があるのですか?」
「うん?だって、お姉ちゃんとお出かけだよ?私の心だけじゃ思い出をつめきれないわ。だから、鞄を持ってくのよ。もちろん、スペースを空けるための研究も欠かしてないわ」
「そう」
 と、表面上は冷静に返しているが、内心小躍りしているさとりは、嬉しさを隠し切れずに言う。
「なら、私が鞄を持ちましょう。こいしはお弁当箱を持って下さい」
「うん」
 素直に意見に従って、こいしの右手には弁当箱が、さとりの左手には鞄が、空いたお互いの手は繋ぎ、全てが納まるべく所に納まったので、心と鞄に思い出をつめこみに2人の少女は地上に出かけた。

 ある日河童が空を見ていると、天狗が巫女のスカートの中を撮影していた。
 気づいた巫女が怒り、弾幕を張られ、天狗が綺麗にぴちゅーんと散った。
 その光景を見て河童の脳にとあるアイディアが飛来した。
 空で花を咲かせたらさぞかし綺麗だろう。
 と、こうして出来たのが花火である。
 自己満足できるほどの物は出来たが、河童はこう考えるようになった。
 どうせなら、たくさんの人にこれを見せびらかしたい。
 と、そうして開かれたのが今日の花火大会である。
 妖怪と人間の交流を深めるため、という名目で開催してみれば、埋め尽くすほどの人と妖怪が集まった。
 もっとも、それは建前で本音はただの自慢なのだが、さきほどから打ち上げられている花火への反応を見ると、それも難なく達成されそうだ。
 そんなお祭り好きな人妖の間を縫うように古明地姉妹が歩く。
 地底ならさとりを見た妖怪が騒ぎ、モーゼの十戒の如く道が出来るのだが、地上の人妖はさとりの事を知らないのか、目にはいったとしても反応がない。
 或いは、こいしの能力のお陰なのか、ともかく普通に参加できる事に、さとりは少しだけ笑む。
 さとりの笑顔を見てこいしも笑う。
 2人で笑いあいながら、落ち着いて見れる所を探していると、前から見知った顔がやってくる。
「おや?こんな事に参加するなんて珍しいな。」
 そう言って声を掛けてきたのは体操服と星印の角が印象的な鬼、星熊勇儀だった。
 既に酔いつぶれているのか小脇に橋姫を抱えている。
「ええ、こいしがどうしてもと言うものですから」
「えへへー」
 と、強くこいしが寄りかかる。
「はいはい。まったく、こいつが起きてれば妬ましいって言うこと間違いないな」
 と、軽く橋姫を持ち上げる。
「そんなことより、お前たちはどこで見るんだ?」
 惚気はお終いとばかりに、勇儀が聞いてくる。
「それなのですが、今探しているところです」
「そうか、だったら私たちのところに来ないか?」
 待ってましたと言わんばかりに、勇儀は誘う。
 さとりが覚りでなかったのなら、この誘いにのっていたのだろうが、さとりは覚りなので返答に詰まる。
 そんな躊躇いを見抜いてか、勇儀が告げる。
「大丈夫だ、いつものメンバーだから」
 それなら、と安心してこいしを見やると、こいしも頷く。
「なら、少しだけお邪魔させてもらうわ」
「おう。さ、こっちだ」
 善は急げと勇儀は歩き出す。さとりとこいしもその後に続く。
 沢山の人を避け、どこをどう歩いたのかも分からなくなってきた時、目の前の勇儀が止まる。
「着いたぞ」
 勇儀が履物を脱いで広く敷かれたシートにあがっていく。
 今まで勇儀の背中しか見えなかったが、いなくなったので視界が広がる。
 シートの上には巫女や魔法使い、鬼や天狗など、空が異変を起こしたときに知り合った者ばかりがいた。
 酒豪に定評のある鬼と天狗は酒の飲み比べをし、戻ってきた勇儀もそれに加わる。
 巫女と魔法使いは、酒をちびりと飲み、花火を見ながら談笑している。
 こいしは巫女を認めるとそちらの方へ駆けて行く。
 手持ち無沙汰になったさとりはどうしようかと考えていると、鬼や天狗が飲み比べに誘ってきた。
 地霊殿の主が――なんて、挑発されてはのるしかないだろう。
 味合わずに飲むなんて――。
 と、さとりは思うが、自分の嗜好よりも、面白そうだという興味の方が勝ったので、飲み比べに興じることにした。

 思い思いの時間を過ごしていると、こいしのお腹がぐーと鳴った。
 早々に、やはりハイペースで飲むのは合わないと、白旗を揚げていたさとりは耳聡くもその音を聞いていた。
「こいし、お腹は空きましたか?」
 さとりに聞かれ恥ずかしかったのか、小石は意地をはる。
「ま、まだ大丈夫だよ」
 それを聞き、今度はさとりのお腹がぐーと鳴る。
「私は空きました。どうです?そろそろご飯を食べませんか?」
「もう、しょうがないなぁお姉ちゃんは」
 そう言って手に持っている弁当箱を差し出そうとしたが、少し考えた後、こいしは言う。
「ねえ、どうせならもっといい場所で食べようよ!」
「いい場所ですか?」
「うん、私だけの秘密の場所があるの」
「そうですね。なら、そこに行きましょうか」
 了承の意を聞くや、早々にさとりの手を取ってこいしは走り出す。
 そんなこいしに引っ張られながらも、さとりは快く受け入れてくれた面々に礼を述べる。
 それを聞き、こいしも礼を述べる。
 少しの間だが、楽しんだ面々に見送られ、さとりとこいしは秘密の場所へと向かった。

 人気のない所をずんずん進み、小高い丘の上には1本の大木。
 そこがこいしの秘密の場所だった。
 こいしが悩む時、落ち込む時、いろいろな時にここを訪れる。
 そんな事をさとりは知らないが、こいしの秘密を知る。
 些細な事だが、さとりにはそれが、何よりも嬉しかった。
 だからだろうか、いつもの固い表情は無く、その顔は笑顔に見える。
「いい所ですね」
「でしょ!2人だけの秘密だからね。」
「ええ、解りました」
 しばらくその木の下に立ち、景色を楽しむ。
 遮る物は何も無いので、まだ続いている花火も見えた。
 ぐーと、2人のお腹が鳴った。
 互いに照れ笑いし、こいしが弁当箱を差し出す。
「食べよっか」
「ええ」
 受け取ってさとりは木の幹に背を預け座る。
 こいしもそれに倣う。
 さとりが包みを開き重大なことに気づく。
「あ」
「どうしたの?」
「箸が一膳しかありません」
「そっかーそれはたいへんだねー」
 こいしがどこか棒読みに反応する。
 それもその筈、箸を1膳減らしたのはこいしだからだ。
「なら、こうすればいいのよお姉ちゃん。ほら、あーん。」
 さとりから箸を引っ手繰り、こいしが嬉々として提案する。
「あ、あーん」
 さとりは恥ずかしそうに、それでもどこか嬉しそうに、頬を染めながら応じる。
「どう?おいしい?」
「ええ、おいしいです」
 感想を述べた後、今度はさとりが箸を引っ手繰り、こいしに食べさせる。
「こいし、ほら、あーん」
「あーん」
 こいしの方は恥ずかしさなんてなく、嬉しさだけで応じる。
「おいしいですか?」
「おいしいわ!」
 そんなやり取りを弁当箱が空になるまで続けた2人は、今度は花火を見始める。
 夜空に咲く火の花、一瞬だけだが心に強く自分を残す。
「人間みたいだわ」
 こいしがぽつりと言う。
「人間ですか?」
 鸚鵡返しにさとりが聞く。
「ええ、あの大きいのは、きっと沢山の人に影響を与えて生きたの。あの、ぱらぱらと小さいのは惨めだけども、何の取り得も無くても、それでも生きたの」
 あれは、あれは、と花火の解説を始めるこいし。
 そんな話をされても、地上と行き来することが出来る今でも地霊殿に居座るさとりにはピンと来ない。
 それでも、こいしが自分の見てきたものを語るのが嬉しくて、さとりはうんうんと頷いて聞く。
 こいしの説明が終わる頃、さとりは尋ねる。
「沢山の人を見てきたのですね」
「うん。いい人もいたわ。悪い人もいたの」
「まだ、怖いですか」
「うん……ちょっとね」
 でもね、と続けようとしたこいしの話を遮ったのはさとりだった。
 今頃酔いが回ってきたのか、こてん、とこいしの膝に落ちて、くうくぅ、と寝息をたて始める。
「もう、しょうがないなぁお姉ちゃんは」
 満更でもない様子で、むしろ嬉しそうにさとりの頭を撫でる。
 花火も最後の物なのか一際大きなものが上がる。
 人妖の歓声がここまで聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。
 続く花火は無く、どうやら終わったらしい。
 此処に人なんて最初からいないのに、どこか空気が寂しくなった気がする。
 そんな誰もいない丘の上でこいしは独白を、さっきの続きを口にする。
「でもね、お姉ちゃん。人間は怖いけど、妖怪も怖いけど、もしも、もしも瞳がもう1度開くなら、私は今度は受け入れるわ。だって、隣にお姉ちゃんがいてくれるもの」
 言い終えて、一息つくとさとりの持っている鞄に目がいく。
 忘れていたよ、と1人ごちて開けっ放しの鞄のチャックを閉める。
 今日の思い出が逃げないようにと強く、ぎゅっと。
お読みいただきありがとうございました。
ゆきたに
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コメント



0.1570簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
ほのぼのとした雰囲気からシリアスに。
こういうの好きですよ
4.100名前が無い程度の能力削除
姉妹の空気がたまらない。
5.100名前が無い程度の能力削除
この二人は喧嘩してもずっと仲が良さそうです。

兄弟姉妹ってのは不思議なもので
紐もなく自然と無意識に二人三脚ができるくらい
不思議と通じあえるんです
たとえ覚りの能力が使えなくとも
8.100名前が無い程度の能力削除
いい話なのにどこか切ない
それが古明地姉妹
幸せな雰囲気が素敵でした
13.100名前が無い程度の能力削除
さとり好き!
16.無評価名前が無い程度の能力削除
セリフの最後は句点いらなかった気がします
19.無評価ゆきたに削除
>16さん
ご指摘ありがとうございます。修正いたしました。
20.100名前が無い程度の能力削除
素敵な雰囲気でした。
幸せなそうな古明地姉妹を有難うございました。
23.100名前が無い程度の能力削除
思い出を鞄に詰め込む表現がいいね
25.100名前が無い程度の能力削除
最初の鞄のやり取りから、すっかり引き込まれました…。何と言いますか、感嘆がため息となって出てくる感じです。

ところで文さん、その写真って実はまだ同じようなのあったりします?w
34.100名前が無い程度の能力削除
これは良い話。
37.90ずわいがに削除
ストレートに良い話、というか綺麗な話でした。平和って癒しね。
みょんな理由からの花火大会と、そこに赴いた姉妹。ちゃんと楽しめたようで何よりです。

弁当の角度……まぁ、俺も大概はおおざっぱですが、たまに変なところで神経質だったりしますね;ww
38.100miyamo削除
なんだろう…2828がとまらんかった。
でも花火のくだりはちょっと考えさせられたな。
やっぱ兄弟姉妹ってものは仲がよいのが一番ですな。
うちは仲が悪くって…
40.100名前が無い程度の能力削除
よくも俺のストライクゾーンのド真ん中をぶち抜いてくれましたね
とても素敵な作品でした
48.100非現実世界に棲む者削除
和やかなさとこいをありがとうございました。