「妹様、ツインテールにしてみませんか?」
とある午後の昼下がり、いつものように紅魔館で私が読書をしていると、わが紅魔館が誇るトラブルメイカーの小悪魔がそんな提案を持ち出してきた。
「……なんで?」
「いえ、ロリっ子といえばツインテールかなぁと思いまして」
「誰がロリっ子!!? いや、確かにそのとおりだけれども!!?」
失敬なと思いつつも、まったく持ってそのとおりなんでそれ以上の反論が出来ずに思わず肯定してしまう私。
だって、495年間ずっとこの体系なのだ。悲しくなるぐらい成長しないこの体が恨めしい。
いや、吸血鬼なんだから仕方ないと言えばそうなのかもしれないけどさぁ、幽香とか永琳とは言わないからせめてアリスぐらいには成長してほしいわけよ。
この前、そのことを咲夜に相談したらものすごい勢いで小さいことの良さを力説されたけど、アレはとりあえず思考の隅に追いやっておいて。
「でもまぁ、髪形を変えるのは結構いいかもしれないね。幸い、私は髪が結べるぐらいには長いし」
「サイドポニーですからね、妹様って」
「うん、結構お気に入りの髪型なんだ、これ」
そう言葉にしながら、横で結った髪をくるくると指で弄る。
そんな私の様子を見て、微笑ましそうに笑顔を浮かべる小悪魔の視線がなんだかこそばゆい。
照れているのが覚られないように、何気なく視線を本に戻したけれど、彼女のことだからソレもお見通しなのかもしれない。
「むむ、では髪形を弄るのはちょっとやめたほうがいいですかね?」
「何言ってるのよ、いつもは遠慮なしに実行するくせに。たまには別の髪型になるのも悪くないし、好きに弄れば?」
「……そこはかとなく私の認識に対して問い詰めたい気もしましたが、妹様がそうおっしゃるのならば遠慮はしません!!
魔界で『ヘアーメイクデストロイヤー』の異名を取った私の実力、今ここでご覧に入れましょうぞ!!」
「なんかいきなり不安になったんだけど!!? 何なのその意味不明かつ不吉な異名!!?」
「心配要りません。お嬢様の『永遠に幼き紅い月』とかあれと似たようなもんですから」
「なおのこと安心できないって!!? 何、小悪魔向こうでなにやらかしたのさ!!?」
ぐるんっと後ろを振り向こうとした私の肩を押さえ、にこやかな笑顔で私の不安に答える小悪魔だが、その笑顔がどうにも信用なら無いわけで。
「心の広い神様の頭がアフロになりました」
「何があったの神様ァァァァァァァァァァァ!!?」
駄目だ!! こいつに髪を弄らせるのを任せたら私の髪型が大変なことになる!! もう修正なんかきかないくらいに大変なことになってしまう!!
やばい、マジでやばいよ!! もしも神様みたいにアフロなんかにされたらお嫁にいけなくなっちゃう!!
どうしよう、本当にどうしよう!! アフロにされたら竜宮の使いにダンスの弟子入りをするべきかな!!?
そんな風にみっともなく混乱していた私を落ち着かせるためか、わしゃわしゃと頭を撫でてくる小悪魔。
ムッとして彼女を睨みつけてみれば、どこか飄々と笑う彼女の姿がある。
「心配なさらずとも、今はそんなに壊滅的な腕じゃありませんよ。ずっと子供の頃のことですから、今はそれなりの腕なんですよ、私」
「……本当でしょうね?」
「もちろんです。今の私の技術なら坊主の人をポニーテールにするぐらい朝飯前です!」
「うん、ごめん。別の意味で不安になるんだけど、それ」
というか、物理的に不可能でしょうソレ。どう頑張ったら坊主をポニーテールに出来ると言うのか。
……いやまぁ、小悪魔だったら本当に出来そうだからある意味怖いものがあるんだけど。
はぁっと、小さくため息をひとつこぼす。自分でやっていいと言った事だし、今更撤回するのもなんだか気が引ける。
それに、小悪魔って基本的に嘘をつかない性格だから、その点だけは信用できると言ってもいい。
……でも、本当のことを語っていながら相手をだますのがうまいのも、この小悪魔なんだけれど。
「それじゃ、妹様のこと弄らせていただきますね。優しく、愛撫するように、誠心誠意こめて」
「あー、はいはい。好きにすれば」
「ありゃ? こういう風に言えば動じると思ったんですけど」
「いつまでも同じ手でうろたえると思ったら大間違いよ、小悪魔。それじゃ、あなたの言うように優しく、愛撫するように弄ってもらえないかしら?」
クスクスと妖艶に笑ってやれば、小悪魔は「いやー、一本とられました」なんて朗らかに笑った。
こっちだって、いつまでも小悪魔にやられっぱなしでいるわけじゃないのだ。たまにはこうやって意趣返ししたって罰は当たらないだろう。
そう思っていた矢先。
『あ』
私と小悪魔二人して、ドアの前で硬直してる人物を見つけて思わず間の抜けた声をひとつ。
その人物は今先ほど入ってきたらしく、その顔は恐ろしいほどに真っ赤に染めて今にも湯気が出そうな勢いだ。
さて、今更隠す必要も無いので言うけれども、今入ってきたレミリア・スカーレットお姉様が、口をパクパクと開閉させて陸に上がった魚のよう。
「ご、ごごごごごごごごごゆっくりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ちょっ!!? お姉様、待っ―――」
そして案の定と言うべきか、お姉様は真っ赤な顔のまま私の制止の声も振り切って凄まじいスピードで走り去っていった。
うん、確認しないでもわかる。アレは絶ッッ対に勘違いされた!!?
バタンと閉められる扉。その音にまぎれて「フランが大人の階段をぉぉぉぉぉぉ!!?」なんて叫びが耳に届くわけで。
「ではでは、いざ妹様をツインテールにするために!!」
「……あ、お姉さまはスルーするんだ」
「ほら、お嬢様の勘違いって今に始まったことじゃありませんし」
ソレはそれで微妙にお姉様に対して失礼じゃなかろうかと思ったけれど、まぁ後でちゃんと説明すればいいかと適当に納得。
第一、ここには他にもパチュリーもいるわけで、とうの魔女は私たちの会話に参加するわけでもなく、黙々と本を読みふけっている。
証言者がこの場にいるのだから、最悪パチュリーにお姉様を説得してもらえばいい。
そんな風に思っていると、彼女を見ていたことに気が付いたのか魔女が視線を上げる。
結果、自然とお互いの視線が絡み合い―――
「……何、3Pがお望み?」
そして私は彼女の言葉で、一気に不安のどん底に叩き落されるのであった。
駄目だ、この魔女信用できないわ。
▼
さて、帽子をはずして髪を解き、小悪魔になされるがままに髪を弄られる私。
その間、暇で仕方がなかったわけなのだけれど、私の暇つぶしのためにか小悪魔は他愛の無い話をして気分を紛らわせてくれた。
小悪魔は上機嫌に鼻歌交じりに髪を弄り、優しく繊細に私の髪を扱ってくれる。
慣れたような、鮮やかで手早い指捌きだったと思う。下手な人だと不快にさせると言う話をどこかで聞いたことがあるけれど、彼女はそんな気持ちには全然させない。
むしろ、心地良いとすら思える指捌きに、私はたまらず睡魔に誘われそうになること早数回。
そうして、私の髪を弄り終えた小悪魔は、意気揚々と言った様子で私に手鏡を差し出してくれた。
「わぁ、思っていた以上に上手に出来てる」
「うふふ、これでも髪の扱いには慣れてますからね」
私の感嘆の言葉に、小悪魔は満足そうに微笑んで言葉を返してくる。
サイドに結われた二つの髪の房、いつもとは違う自身の髪型に、私は新鮮さを感じながら顔を左右に揺らして鏡で見える自分の姿を確かめていた。
予想以上に上手な出来に、素直に彼女を褒め称えてあげたい気分になる。最初は不安で仕方が無かったのだけれど、これはちょっとした美容院でもやっていけるんじゃないだろうか。
ソレぐらい、彼女が結ってくれた髪はすばらしい出来上がりだった。
すっかり上機嫌になった私は、そこでふと、ひとつの妙案を思いついてにっこりと笑う。
「そうだ、小悪魔も私が結ってあげる!!」
「……へ?」
振り返りながらそう言葉にすれば、彼女にしては珍しく間の抜けた声をひとつ。
そんな彼女を見やり、私は上機嫌な笑顔のまま椅子から立ち上がると、今まで座っていた椅子に彼女を無理やり座らせた。
途端、わたわたと慌てだす小悪魔だったけれど、あいにくと彼女は吸血鬼の腕力から逃れられるほど力が強くないので微塵も動かないわけなのです。
「い、妹様!!? 私は別にいいですってば!!?」
「いいじゃない、たまには私がこういうことをしても。何を恥ずかしがってるんだか」
「だ、だって……まさか、妹様が私の髪を結ってくれるなんて思わなかったですから」
「うぅ、不意打ちですよー」なんて恨みがましい視線をこちらに向けながら、顔を紅く染めて抗議してくる小悪魔だけれど、私は知らぬ存ぜぬのにっこり笑顔。
それにしても、そっか。小悪魔って不意打ちに弱かったのね。思わぬ弱点を発見で、嬉しいというかなんというか。
でも―――うん、こういった風に弱点があったほうが親近感がもてるし、それに何より、ほほを紅く染めてる小悪魔にはいつもの余裕がなくてなんだか可愛らしかった。
「じゃ、私は一番得意なサイドポニーにしてみようかな。小悪魔って髪長いから、重心がよっちゃうけどそこは我慢してね」
「はう……、よろしくお願いします」
まるで借りてきた猫のようにすっかりおとなしくなった小悪魔を見て、なんだか彼女の新たな一面を見た気がしてソレが嬉しい。
こんなに可愛らしい小悪魔を見るの、私は初めてかもしれない。
いつもは余裕綽々で、こっちのことをいいように振り回している小悪魔が、今はおとなしく私に髪を結われていて、なんだか外見相応の女の子みたい。
さらさらの彼女の髪を梳かしながら、ゆっくりと片側に髪を集めていく。
「そういえばさ、小悪魔は何で私のことこんなにも気にかけてくれるの? 小悪魔もさ、私の噂を知らないわけじゃなかったでしょうに」
それは、何気ない言葉。けれども、私にとっては前々から知りたかった疑問でもある。
幽閉され地下に閉じ込められていた時、紅茶や食事を進んで持ってきてくれるのはいつも彼女だった。
私のことを怖がらずに、いつも笑顔で接してくれた彼女のことを、今も良く覚えている。
狂気の妹、ありとあらゆるものを破壊する能力を持った悪魔。そんな風に館のみんなからも恐れられていた私に、彼女は代わらぬ笑顔で接してくれたのだ。
まぁ、それからこの子と長い付き合いになるとは、露にも思わなかったわけなんだけれど。
魔法少女やったり、変な夢を見る安眠枕持たされたり、地下迷宮もぐらされたり、お姉様が巨大化したり……、駄目だ、思い出したら胃が痛くなってきた。
「それはですね、……うーん、内緒です」
「む、教えてくれないの?」
「や、だってその……本人の前で言うのは恥ずかしいです」
……うん、なんだこの可愛い小悪魔。偽者じゃないでしょうね?
そう思った私は悪く無いと思う。普段のコイツの悪戯を知っている人は快くうなずいてくれることだと私は信じてる。
ソレはさておき、消え入りそうな彼女の言葉に苦笑して、「そっか」とソレだけを言葉にした私はそれ以上聞かなかった。
そんな私を不思議に思ったのだろう。彼女は不思議そうな表情で、私に言葉を投げかけてくる。
「えっと、聞かないんですか?」
「本人を前にして言うのはさ、恥ずかしいんでしょう? なら、無理には聞かないわ。それに―――あのときの小悪魔には本当に感謝してるから、それでいいかなって」
言葉をつむぐと同時に、結い上げた髪をゴムでまとめる。
鏡に映ったサイドポニーの小悪魔は、表情が未だに赤いこともあって非常に可愛らしかった。
それに、満足のいく出来上がりに私は満面の笑みをこぼして見せると、彼女はどこか気恥ずかしそうだ。
「だからさ、これからもよろしくね。小悪魔」
そんな彼女に、私はありのままの本心を伝えて、彼女の前に回りこむと、今までの意趣返しも含めておでこにキスをしてやる。
その途端、ボンッと音が出そうなぐらいに顔を真っ赤にした小悪魔が、あうあうと恥ずかしそう。
ふふ、普段散々弄られているんだから、コレぐらいの仕返しをやったって彼女も文句は言うまい。
後ろで魔女が盛大なため息を付いていた気がするけれど、それはこの際無視する方向で。
小悪魔の様子がおかしくて、私はたまらずクスクスと笑う。すると、彼女もだんだん調子が戻ってきたのか、それでも顔を赤くしたまま満面の笑みを浮かべて。
「私こそ、よろしくお願いします妹様」
どこか嬉しそうにそう言葉にして、そして私たちはお互いに笑いあった。
とある午後の昼下がり、いつものように紅魔館で私が読書をしていると、わが紅魔館が誇るトラブルメイカーの小悪魔がそんな提案を持ち出してきた。
「……なんで?」
「いえ、ロリっ子といえばツインテールかなぁと思いまして」
「誰がロリっ子!!? いや、確かにそのとおりだけれども!!?」
失敬なと思いつつも、まったく持ってそのとおりなんでそれ以上の反論が出来ずに思わず肯定してしまう私。
だって、495年間ずっとこの体系なのだ。悲しくなるぐらい成長しないこの体が恨めしい。
いや、吸血鬼なんだから仕方ないと言えばそうなのかもしれないけどさぁ、幽香とか永琳とは言わないからせめてアリスぐらいには成長してほしいわけよ。
この前、そのことを咲夜に相談したらものすごい勢いで小さいことの良さを力説されたけど、アレはとりあえず思考の隅に追いやっておいて。
「でもまぁ、髪形を変えるのは結構いいかもしれないね。幸い、私は髪が結べるぐらいには長いし」
「サイドポニーですからね、妹様って」
「うん、結構お気に入りの髪型なんだ、これ」
そう言葉にしながら、横で結った髪をくるくると指で弄る。
そんな私の様子を見て、微笑ましそうに笑顔を浮かべる小悪魔の視線がなんだかこそばゆい。
照れているのが覚られないように、何気なく視線を本に戻したけれど、彼女のことだからソレもお見通しなのかもしれない。
「むむ、では髪形を弄るのはちょっとやめたほうがいいですかね?」
「何言ってるのよ、いつもは遠慮なしに実行するくせに。たまには別の髪型になるのも悪くないし、好きに弄れば?」
「……そこはかとなく私の認識に対して問い詰めたい気もしましたが、妹様がそうおっしゃるのならば遠慮はしません!!
魔界で『ヘアーメイクデストロイヤー』の異名を取った私の実力、今ここでご覧に入れましょうぞ!!」
「なんかいきなり不安になったんだけど!!? 何なのその意味不明かつ不吉な異名!!?」
「心配要りません。お嬢様の『永遠に幼き紅い月』とかあれと似たようなもんですから」
「なおのこと安心できないって!!? 何、小悪魔向こうでなにやらかしたのさ!!?」
ぐるんっと後ろを振り向こうとした私の肩を押さえ、にこやかな笑顔で私の不安に答える小悪魔だが、その笑顔がどうにも信用なら無いわけで。
「心の広い神様の頭がアフロになりました」
「何があったの神様ァァァァァァァァァァァ!!?」
駄目だ!! こいつに髪を弄らせるのを任せたら私の髪型が大変なことになる!! もう修正なんかきかないくらいに大変なことになってしまう!!
やばい、マジでやばいよ!! もしも神様みたいにアフロなんかにされたらお嫁にいけなくなっちゃう!!
どうしよう、本当にどうしよう!! アフロにされたら竜宮の使いにダンスの弟子入りをするべきかな!!?
そんな風にみっともなく混乱していた私を落ち着かせるためか、わしゃわしゃと頭を撫でてくる小悪魔。
ムッとして彼女を睨みつけてみれば、どこか飄々と笑う彼女の姿がある。
「心配なさらずとも、今はそんなに壊滅的な腕じゃありませんよ。ずっと子供の頃のことですから、今はそれなりの腕なんですよ、私」
「……本当でしょうね?」
「もちろんです。今の私の技術なら坊主の人をポニーテールにするぐらい朝飯前です!」
「うん、ごめん。別の意味で不安になるんだけど、それ」
というか、物理的に不可能でしょうソレ。どう頑張ったら坊主をポニーテールに出来ると言うのか。
……いやまぁ、小悪魔だったら本当に出来そうだからある意味怖いものがあるんだけど。
はぁっと、小さくため息をひとつこぼす。自分でやっていいと言った事だし、今更撤回するのもなんだか気が引ける。
それに、小悪魔って基本的に嘘をつかない性格だから、その点だけは信用できると言ってもいい。
……でも、本当のことを語っていながら相手をだますのがうまいのも、この小悪魔なんだけれど。
「それじゃ、妹様のこと弄らせていただきますね。優しく、愛撫するように、誠心誠意こめて」
「あー、はいはい。好きにすれば」
「ありゃ? こういう風に言えば動じると思ったんですけど」
「いつまでも同じ手でうろたえると思ったら大間違いよ、小悪魔。それじゃ、あなたの言うように優しく、愛撫するように弄ってもらえないかしら?」
クスクスと妖艶に笑ってやれば、小悪魔は「いやー、一本とられました」なんて朗らかに笑った。
こっちだって、いつまでも小悪魔にやられっぱなしでいるわけじゃないのだ。たまにはこうやって意趣返ししたって罰は当たらないだろう。
そう思っていた矢先。
『あ』
私と小悪魔二人して、ドアの前で硬直してる人物を見つけて思わず間の抜けた声をひとつ。
その人物は今先ほど入ってきたらしく、その顔は恐ろしいほどに真っ赤に染めて今にも湯気が出そうな勢いだ。
さて、今更隠す必要も無いので言うけれども、今入ってきたレミリア・スカーレットお姉様が、口をパクパクと開閉させて陸に上がった魚のよう。
「ご、ごごごごごごごごごゆっくりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ちょっ!!? お姉様、待っ―――」
そして案の定と言うべきか、お姉様は真っ赤な顔のまま私の制止の声も振り切って凄まじいスピードで走り去っていった。
うん、確認しないでもわかる。アレは絶ッッ対に勘違いされた!!?
バタンと閉められる扉。その音にまぎれて「フランが大人の階段をぉぉぉぉぉぉ!!?」なんて叫びが耳に届くわけで。
「ではでは、いざ妹様をツインテールにするために!!」
「……あ、お姉さまはスルーするんだ」
「ほら、お嬢様の勘違いって今に始まったことじゃありませんし」
ソレはそれで微妙にお姉様に対して失礼じゃなかろうかと思ったけれど、まぁ後でちゃんと説明すればいいかと適当に納得。
第一、ここには他にもパチュリーもいるわけで、とうの魔女は私たちの会話に参加するわけでもなく、黙々と本を読みふけっている。
証言者がこの場にいるのだから、最悪パチュリーにお姉様を説得してもらえばいい。
そんな風に思っていると、彼女を見ていたことに気が付いたのか魔女が視線を上げる。
結果、自然とお互いの視線が絡み合い―――
「……何、3Pがお望み?」
そして私は彼女の言葉で、一気に不安のどん底に叩き落されるのであった。
駄目だ、この魔女信用できないわ。
▼
さて、帽子をはずして髪を解き、小悪魔になされるがままに髪を弄られる私。
その間、暇で仕方がなかったわけなのだけれど、私の暇つぶしのためにか小悪魔は他愛の無い話をして気分を紛らわせてくれた。
小悪魔は上機嫌に鼻歌交じりに髪を弄り、優しく繊細に私の髪を扱ってくれる。
慣れたような、鮮やかで手早い指捌きだったと思う。下手な人だと不快にさせると言う話をどこかで聞いたことがあるけれど、彼女はそんな気持ちには全然させない。
むしろ、心地良いとすら思える指捌きに、私はたまらず睡魔に誘われそうになること早数回。
そうして、私の髪を弄り終えた小悪魔は、意気揚々と言った様子で私に手鏡を差し出してくれた。
「わぁ、思っていた以上に上手に出来てる」
「うふふ、これでも髪の扱いには慣れてますからね」
私の感嘆の言葉に、小悪魔は満足そうに微笑んで言葉を返してくる。
サイドに結われた二つの髪の房、いつもとは違う自身の髪型に、私は新鮮さを感じながら顔を左右に揺らして鏡で見える自分の姿を確かめていた。
予想以上に上手な出来に、素直に彼女を褒め称えてあげたい気分になる。最初は不安で仕方が無かったのだけれど、これはちょっとした美容院でもやっていけるんじゃないだろうか。
ソレぐらい、彼女が結ってくれた髪はすばらしい出来上がりだった。
すっかり上機嫌になった私は、そこでふと、ひとつの妙案を思いついてにっこりと笑う。
「そうだ、小悪魔も私が結ってあげる!!」
「……へ?」
振り返りながらそう言葉にすれば、彼女にしては珍しく間の抜けた声をひとつ。
そんな彼女を見やり、私は上機嫌な笑顔のまま椅子から立ち上がると、今まで座っていた椅子に彼女を無理やり座らせた。
途端、わたわたと慌てだす小悪魔だったけれど、あいにくと彼女は吸血鬼の腕力から逃れられるほど力が強くないので微塵も動かないわけなのです。
「い、妹様!!? 私は別にいいですってば!!?」
「いいじゃない、たまには私がこういうことをしても。何を恥ずかしがってるんだか」
「だ、だって……まさか、妹様が私の髪を結ってくれるなんて思わなかったですから」
「うぅ、不意打ちですよー」なんて恨みがましい視線をこちらに向けながら、顔を紅く染めて抗議してくる小悪魔だけれど、私は知らぬ存ぜぬのにっこり笑顔。
それにしても、そっか。小悪魔って不意打ちに弱かったのね。思わぬ弱点を発見で、嬉しいというかなんというか。
でも―――うん、こういった風に弱点があったほうが親近感がもてるし、それに何より、ほほを紅く染めてる小悪魔にはいつもの余裕がなくてなんだか可愛らしかった。
「じゃ、私は一番得意なサイドポニーにしてみようかな。小悪魔って髪長いから、重心がよっちゃうけどそこは我慢してね」
「はう……、よろしくお願いします」
まるで借りてきた猫のようにすっかりおとなしくなった小悪魔を見て、なんだか彼女の新たな一面を見た気がしてソレが嬉しい。
こんなに可愛らしい小悪魔を見るの、私は初めてかもしれない。
いつもは余裕綽々で、こっちのことをいいように振り回している小悪魔が、今はおとなしく私に髪を結われていて、なんだか外見相応の女の子みたい。
さらさらの彼女の髪を梳かしながら、ゆっくりと片側に髪を集めていく。
「そういえばさ、小悪魔は何で私のことこんなにも気にかけてくれるの? 小悪魔もさ、私の噂を知らないわけじゃなかったでしょうに」
それは、何気ない言葉。けれども、私にとっては前々から知りたかった疑問でもある。
幽閉され地下に閉じ込められていた時、紅茶や食事を進んで持ってきてくれるのはいつも彼女だった。
私のことを怖がらずに、いつも笑顔で接してくれた彼女のことを、今も良く覚えている。
狂気の妹、ありとあらゆるものを破壊する能力を持った悪魔。そんな風に館のみんなからも恐れられていた私に、彼女は代わらぬ笑顔で接してくれたのだ。
まぁ、それからこの子と長い付き合いになるとは、露にも思わなかったわけなんだけれど。
魔法少女やったり、変な夢を見る安眠枕持たされたり、地下迷宮もぐらされたり、お姉様が巨大化したり……、駄目だ、思い出したら胃が痛くなってきた。
「それはですね、……うーん、内緒です」
「む、教えてくれないの?」
「や、だってその……本人の前で言うのは恥ずかしいです」
……うん、なんだこの可愛い小悪魔。偽者じゃないでしょうね?
そう思った私は悪く無いと思う。普段のコイツの悪戯を知っている人は快くうなずいてくれることだと私は信じてる。
ソレはさておき、消え入りそうな彼女の言葉に苦笑して、「そっか」とソレだけを言葉にした私はそれ以上聞かなかった。
そんな私を不思議に思ったのだろう。彼女は不思議そうな表情で、私に言葉を投げかけてくる。
「えっと、聞かないんですか?」
「本人を前にして言うのはさ、恥ずかしいんでしょう? なら、無理には聞かないわ。それに―――あのときの小悪魔には本当に感謝してるから、それでいいかなって」
言葉をつむぐと同時に、結い上げた髪をゴムでまとめる。
鏡に映ったサイドポニーの小悪魔は、表情が未だに赤いこともあって非常に可愛らしかった。
それに、満足のいく出来上がりに私は満面の笑みをこぼして見せると、彼女はどこか気恥ずかしそうだ。
「だからさ、これからもよろしくね。小悪魔」
そんな彼女に、私はありのままの本心を伝えて、彼女の前に回りこむと、今までの意趣返しも含めておでこにキスをしてやる。
その途端、ボンッと音が出そうなぐらいに顔を真っ赤にした小悪魔が、あうあうと恥ずかしそう。
ふふ、普段散々弄られているんだから、コレぐらいの仕返しをやったって彼女も文句は言うまい。
後ろで魔女が盛大なため息を付いていた気がするけれど、それはこの際無視する方向で。
小悪魔の様子がおかしくて、私はたまらずクスクスと笑う。すると、彼女もだんだん調子が戻ってきたのか、それでも顔を赤くしたまま満面の笑みを浮かべて。
「私こそ、よろしくお願いします妹様」
どこか嬉しそうにそう言葉にして、そして私たちはお互いに笑いあった。
お嬢様、カリスマ減りすぎです。
パチュリー、問題発言ですよ、乙女として!
小悪魔!は、相変わらずか(汗)
つーかこの紅魔館、まともなのフランだけなの~?
そして、今回の話は十分友情の範疇だと思います。
つまり、おもしろかったです。
まともなツッコミはフランしかいないよこの紅魔館
あ……五、七、五になった。
「魔法少女やったり~」 同じ世界なのかwww 嘘だこの小悪魔偽者だwww
ツインテールにしたらますますマジ狩るフランに似合いすぎるだろww
誤字報告です。
「495年間ずっとこの体系なのだ。」体型
「彼女は代わらぬ笑顔で接してくれたのだ。」変わらぬ
そう考えると小悪魔が可愛く見えてきた!
……あれ?ええ話や、なんで?