嘘つきめ
とんだ性悪女だ
妖怪達に手を貸していたなんて
人間の皮をかぶった悪魔だ
でも心配いらない
俺たちには
人間には毘沙門天様が味方しているのだから
雷鳴轟く土砂降りの中
人々の話す声
対峙する二つの影
それを見届けんとする人々
「あなたの仲間である妖怪は全て封印しました。残るは聖白蓮、あなた一人だ」
「所詮、人と妖怪とはわかり合えなかったのですね。残念です」
「出来れば戦いたくはないのですが・・・・」
「こうなった以上・・・私は精一杯抵抗します。来い、寅丸星」
「仕方ないですね・・・。正義の前にひれ伏せ、聖白蓮」
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「姐さん!人間が・・・人間たちが攻めてきた」
一輪の知らせを聞いた白蓮はまるでこうなる事を知っていたかのように仏のような顔で聞いていた
聖白蓮が妖怪を匿っている事が人間にばれた
恐れていた事が起こってしまった
もう人々は白蓮が悪魔か、妖怪の類にしか思えないだろう
そうなると次にする事は決まっている
「それで、その軍の先頭は誰かしら?」
恐怖に怯えた民衆は
神にすがり付く
「寅丸・・・星です・・」
「そう・・・」
わかっていた事だ
「流石、私の星だわ。見事に自分の責務を全うしてくれている。あの子を選んで本当によかった・・・本当に」
「姐さん!今からでも遅くないわ!星にこっちに付いてもらって・・・」
「それは出来ないわ・・・いや、あの子もこっちには付かない・・・あの子は優秀だから」
「でも!」
一輪もわかっていた。
それでも白蓮が、
聖白蓮が頼めば寅丸星はこちらに味方するだろう・・・
いや、そもそも白蓮はそんなお願いはするはずはない・・・
星も人間が助けを求めるなら毘沙門天として立つだろう・・・
「さあ、参りましょうか一輪。こうなった以上、私たちは精一杯抵抗しましょう」
「・・・はい」
わかっていた。負け戦になると
聖は絶対に人間を傷付けないし、何より私たちでは寅丸星に適う筈が無い。
仕方が無いのだ
仕方が・・・無いのだ・・・・
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(何故こうなっている・・・)
(何故私は彼女に刃を向けている・・・)
(何故なぜ私は仲間を封印した・・・・)
(何故私は・・・毘沙門天の姿をしているのだろう・・・・)
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「 星 」
「聖!」
(ああ、あの日はいつだっけな・・・もうずいぶん昔な気がする)
「疲れたでしょ?お昼にしましょうか?」
「はい、今行きます」
(毘沙門天様の代行としての修行の日々は妖怪である私には難しい事ばかりだが)
(それでも新しい事を覚える事、人々に頼りにされだす事、そして何より)
「はい、それじゃあ頂きましょうか?」
「そうですね、頂きます!」
(私の成長を喜んでくれる聖の笑顔が一番嬉しかった)
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雨は吹き荒れ、雷はその激しさを増していた
傷ついた二人は尚荒々しく叫ぶ
「どうしました?毘沙門天の力と言うのはそんな程度ですか?これなら神に代わり私が人間を導くべきでしたね」
「聖白蓮、キサマァー」
「まだ吠える力がありましたか。それでも容赦はしませんよ」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお」
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「ねえ星」
「ん?なんですか?」
「もし私に何があっても・・・あなたには毘沙門天としての役目を全うして欲しいの」
「え?」
「これはあなたしかできない事なの。神として、毘沙門天として、ここを信仰する人達を導いてほしいの。私に何があっても・・・」
「聖・・・」
「お願い星。私と約束して。何があっても妖怪ではなく、毘沙門天として、人々の助けになってほしいの」
「・・・わかりました!約束します。ずっと毘沙門天様の代わりとして、立派に務めて見せます!」
「ありがとう。星・・・」
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(聖の期待に応えたかった)
(聖の為に生きたかった)
(聖とずっと一緒にいたかった)
(そのための約束なのに)
(どうしてこうなってしまったのだろう)
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「はぁ・・・はぁ・・・」
「グ、、、グフゥ・・・」
満身創痍
おそらく次の一撃で勝負は決するだろう
その一撃が二人の別れとなる
「聖白蓮。貴方を魔界に封印します」
(なんであんな約束してしまったのだろう)
「はぁ・・・はぁ・・・」
(なんでそんな約束など破ってしまわなかったのだろう)
「何か言い残す事はありますか・・・」
(なんで・・・)
轟音響く暗天の空
対峙する二人のやり取りを聴きとれる人間などいなかった
それでも人々はその神々しい毘沙門天の姿をその目に焼き付けようと必死だった
「・・・・・・・」
「・・・何も無いようですね。いざ!」
封印の術式は完成していた
それでも時間を作ったのは聖の声を聞きたいが為だった
しかし、なにも言わない白蓮に星は封印の術を放った
「・・・・星、あぃ」
「 ッ!」
雷が落ちた
聖白蓮が立っていた場所に雷が落ちた
その瞬間彼女は魔界に封印された
この地より遥か下
火の光届かぬ魔界へ
おお!ついにあの白蓮を封印したぞ!
やったぞ!毘沙門天様が勝ったのだ
見ろ!勝利の雄叫びだ!
我々も勝鬨を鳴らせ!
オー!
オー!
オー!
寅丸星は泣いた
(これでいいのよ星)
(貴方たちに出会えて・・・本当によかった)
(命蓮が死んでから)
(ただ老いて枯れていくだけの私の人生は生き返ったの)
(これでいいのよ)
(ありがとう。私の星)
たしかに聞こえたのだ
「愛していると」
大切だった
ずっと一緒にいたかった
愛していた
なのに彼女はいなくなってしまった
そしてこれからもずっと自分は毘沙門天の代わりとして彼女の敵である人々を導かねばならない
それが彼女との約束だった
その現実に星は
絶望したのだ
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何故自分は約束を守ったのだろう
何故彼女のもとに駆け付けなかったのだろう
何故私も魔界に行かなかったのだろう
彼女さえいれば魔界でも極楽だった
彼女さえいれば神であろうが妖怪であろうが関係なかった
彼女こそ自分の居場所だった
なのになぜ・・・・
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それから月日は流れた
人々を守ったというのにとっくに人の途絶えた寺
今更ながら自分はこんなもの為に彼女を封印してしまったのか・・・・
そう思うと後悔の念だけが募る日々だった
(もし、今叶うならば・・・)
(全てを敵に回してでも・・・)
(全てを投げ捨ててでも・・・)
(彼女のもとに駆けて行けたなら・・・)
「・・・うっ、ううううう」
ただ涙を流す日々だった
あの日までは
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もう後悔はしたくない
今度こそ
忘れ去られた場所の果てで
助けに行く
今度は仲間がいる
仲間全員で
迎えに行く
「聖・・・今度こそ守ります。私はあなたの毘沙門天になります」
もう間違えない
守るべき人は誰なのか
本当に大切な人は誰なのか
その瞳に
迷いはなかった
ただ展開がいろいろ急だったのでもう少し掘り下げてみても良かったのではと思います。