Coolier - 新生・東方創想話

囚われの文々。

2010/03/17 20:29:23
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「ふふふ……今日開催されると言う博麗神社の宴、じっくりと見させてもらいますよ」


 
 結界に区切られた大地の東の端。

 小高い山の頂にある神社を囲むように生える木々のうち、一際高い木の枝葉から顔を出す影があった。

 その影は背には黒の翼を持ち、手には写真機を持つ鴉天狗の少女だ。

 彼女の視線の先、神社の境内に歩み出る影があった。

 あくび交じりに現れたのは、手には箒を持ち、赤と白とを身に纏う巫女の少女だ。

 鴉天狗は彼女の登場と共に写真機を構え――


 ――背後より飛来した白と黒の魔法使いが駆る箒に激突されて宙を舞った。











 月が浮かび、星が瞬く夜空がある。

 その空を連れ添って行く影があった。

 先行するのは、背に大きな翼を供えた吸血鬼の少女。

 追随するのは、大きめのバケットを両手で持つ銀髪のメイドだ。

 吸血鬼が振り返らぬままに口を開き、

「咲夜、今日の肴はちゃんと持ってる? 落としたりしたら承知しないわよ」

 咲夜と呼ばれたメイドは、視界に入っていないことを承知で頷き、

「はい、お嬢様。しっかりと両手で持っていますよ」

 咲夜の応えに、吸血鬼は口の端を吊り上げて笑う。

「くくく……霊夢の驚く顔が目に浮かぶわ。『今度の宴会は肴かお酒持参よ!』なんて生意気なこと言って。――頬っぺた落とすがいいわ」

「あ、あの……お嬢様? 私のレパートリーだとワインにはあうかもしれませんが、酒の肴に適するかどうかは……」

 自信なさげに言葉を紡ぐ咲夜に対し、吸血鬼が肩越しに振り返って彼女に笑みを見せて、

「自信を持ちなさい、咲夜。貴女はこのレミリア・スカーレットが信頼する従者よ。その従者が作った肴が、私の期待を裏切るはずは無いわ」

 自身ありげに言葉を紡いで、レミリアと名乗った吸血鬼は前を向き直る。

 二人の視線の先には、小高い山の麓から続く石段と、その終着地点に佇む神社があった。

 境内には四隅に篝火が焚かれており、中央に酒樽や大皿があり、それらを囲むようにして輪が形成されつつある。

 宴会だ。

 人妖入り乱れる輪の中心に、赤と白の巫女が居る。

 その姿を確認して嬉々として震えるレミリアの後姿に、咲夜は眉尻を落として笑みを浮かべる。

 そして速度を上げた彼女に追従して、宴の輪の中へと飛び込んだ。











 音も無く宴の中心へと舞い降りた新たな二人の乱入者に対し、酔っ払い達からの拍手が巻き起こる。

 右手を挙げて、それらを制したレミリアは赤と白の巫女を見遣り、

「来て上げたわよ、霊夢。もちろん酒の肴も持参したわ。――泣いて悦ぶか、悦びのあまりに泣きなさい」

「ごめん、また余計な輩が来たと、心労のあまりに泣きそうだわ」

 肴コールで沸き立つ境内で、霊夢と呼ばれた巫女はため息混じりに肩を落とす。

「……あんたの所のほかの連中はどうしたの?」

「こないだ昼寝から起きてみたら、屋敷が穴だらけになっていたの。美鈴はその修復、パチェは図書館の整理をしてるわ」

 なぜかしらね? 、と首を傾げるレミリアを見て、後ろに控えていた咲夜は話題を変えさせるように手に持つバケットを掲げて見せた。

「それより……、この料理はどうしたらいいかしら?」

 そこに置けばいいの? 、と酒樽や皿が集まる箇所を顎で指し示す。

 そうね、と問われた霊夢は思案の後に、

「文! 新しい肴が来たから、皆に配って頂戴」

「ぎょ、御意!」

 言葉と共に一つの影が霊夢の脇に立つ。

 現れたのは鴉天狗の少女だ。

 文と呼ばれた彼女はお酌をしていたのか酒瓶を手に持ち、怪我をしているのか鼻には治療用の符を、反省させられているのか胸元には『反省中』と書かれた札を貼っている。

 疲れた表情の彼女は酒瓶を脇に置いてから前に出て、咲夜の顔を目にすると救いを得たかのように目を潤ませた。

「さく――」

「どうしたの霊夢、この鴉は。式でも使役することになったの?」
 
「違うわよ。うちの境内でうろちょろと悪そうなことしてたから、反省として勤労奉仕中なだけ。一夜限りの従者ってところね。ほら、文もぼさっとしてないで早く行きなさいよ、皆殺気立ってるわよ?」

「ぎょ、ぎょぃー……」

 言葉を遮られた文はめそめそと大げさに涙を流しながら、咲夜からバケットを受け取ると翼を羽ばたかせて給仕へと戻っていった。

 寂しそうに去っていく鴉天狗を見送る咲夜を余所に、レミリアは文が置いていった酒瓶を抱えて、

「そう……じゃあ今日は霊夢に勤労奉仕してもらおうかしら。この間、私の館で好き勝手してくれた反省として」

「あのねぇ……あれはあんたが身勝手に霧をばら撒いたからでしょ? まあいいわ、お酌ぐらいしてあげるから大人しく呑みなさいよ」

「ふふふ……咲夜、今日は無礼講よ。貴女も好きに飲みなさい?」

 と嬉しそうな彼女は呆れ顔の霊夢と共に、酔っ払いたちの輪へと消えていく。   

 一人残された咲夜が、どうしたものか、と立ち尽くしていると料理を配り終えた文が中身の少なくなったバケットを抱えて戻ってくる。

 彼女は咲夜が一人で居ることに気づくと、辺りをうかがう様に首を振ってから、尻尾を振る犬のように駆け寄ってきた。

「咲夜さん、この前の――」

「おーい、天狗ーっ。酒が無くなっちまったから持ってきてくれ。後、香霖がつぶれて泡吹いてるから水もー」

 潰れている道具屋の店主を膝に乗せた白と黒の魔法使いの元へ、水と酒を3秒で届けて彼女は戻ってくる。

「写真ですけど、ちょうど――」

「天狗ー、食べ物がみえないようー、手当たり次第に食べていいのー?」

 周囲の人妖が逃げ出した黒い球体の中へ、皿に乗せた食べ物を持って入っていった彼女は、何故か両手に歯形をつけて戻ってくる。

「持ってまして、後で――」

「天狗さんーっ。チルノちゃんが酔っ払って酒瓶の中身凍らせちゃって呑めないんですけど、どうにかなりませんー?」

 周辺の人妖を凍らせ始めた氷精を羽交い絞めにする妖精の元へ飛んで行き、凍った酒瓶を篝火にかざして解凍して彼女は戻ってくる。

「お見せ――」

「天狗さんーっ」

 解決して彼女は戻ってくる。

 息を切らせて肩を上下させる彼女を見て、咲夜が手を伸ばそうとした時、

「文ー。皆の使用済みの皿集めて、洗っておいてくれる? それ終わったらお札外してあんたも参加していいから」

「ぎょ……ぎょいー……」

 文は皿を集めて、神社の裏手へと消えていく。

 伸ばしかけた手を手持ち無沙汰にする咲夜だけが残された。











「ひどい、ひどい、ひどい! 皆ひどいですっ!」

 神社の裏手、巫女が住まう居住空間の台所で、文は愚痴を漏らしながら皿を浸け洗いする。

 水を張った桶の中で皿に付いた汚れを拭いつつ、

「そりゃ、私は今、反省の儀で勤労奉仕中ですけど」

 目尻に大粒の涙を溜めながら不平を漏らし、

「一口ぐらい、『ご一緒に』とか『あーん』とか、誘ってくれてもいいじゃないですかぁ!」

 ぐーっ、と腹のそこからくぐもった音が響く。

 腹から響いた音に、彼女は大きくため息を付いて肩を落とした。

「とほほほ……次からは潜入取材とかこそこそとしないで、堂々と参加するとしましょう……」

 決心を口にしながら文は胸に張られた『反省中』の札に視線をおろす。

「しかし……写真機を没収するか、勤労奉仕するかの二択を迫るなんて……本当に神に仕える巫女なんですかね、霊夢さんは」

「あの……」

 再度ため息を漏らした文は、背後から聞こえた声に全身の毛が逆立ち、3秒で直立から土下座の体勢に移行。

「ご、ごめんなさいごめんなさい、仕事サボっては……って、あれ?」

 顔を上げた彼女は、眼前に見えた足が霊夢のものではないことに気づいて体を起こす。

 そこに居たのは酒瓶と皿を持って、戸惑いの表情を浮かべる銀髪のメイドだった。

「さ、咲夜さん!?」

「あ、はい。驚かせちゃったかしら」

 名前を呼ばれた彼女は、手に持つ物を文に差し出して、

「差し入れ、なんだけど……」

 囁かれた言葉に文の表情は、驚きで強張ったものから、歓喜に緩んだものへと変化する。

「あ、いえ、でも、私今勤労奉仕中で……」

「大丈夫よ。時を止めてから抜け出してきたから、誰も私がここに来たことを知らないし……。お皿が洗い終わればいいんでしょう? お嬢様に仕えることに慣れすぎてて、適当にくつろぐのが性に合わないから、文さんが休憩する間に私が終わらせるわ」

 咲夜の言葉に、差し入れを受け取ることを躊躇していた文の瞳からぶわっと大粒の涙がこぼれる。

 文は両手で涙を拭った後、咲夜から酒瓶と皿を受け取って、

「いっ、いただきますっ」

 台所にあった椅子に腰掛けると、皿に盛られた料理を口にしだす。

 咲夜は、美味しい美味しい、と呟きながら食事をする文を見遣った後に、僅かに口端をあげながら桶に手を入れた。

 宴の喧騒が遠く聞こえる中、暫くの間、桶の中で皿が立てる硬質な音と文が食事する音だけが台所を満たす。

 先に口を開いたのは咲夜のほうで、

「ねぇ……何があったのかは知らないんだけど、貴方だったら霊夢さんに囚われずに逃げられたんじゃないの?」

 問われた文は酒瓶に直接口をつけて、嚥下した後に照れくさそうに頬を掻く。

「まあ……もちろん私達、鴉天狗は相手が博麗の巫女とはいえ、そう簡単に人間に囚われたりしませんが……」

 そうですね、と自身の中で考えをめぐらして、

「逃げて失うより、相対して得た方がいいかなって、多分そう思ったんです」

 多分? 、と首を傾げた咲夜に、ええ、多分です、と文は頷きを返す。

「ここまでこき使われるとは思いませんでしたからねー」

 文が苦笑交じりに呟くと、釣られるように咲夜が呼気を漏らすように笑った。

「可笑しな天狗ね、貴方は……。と、その怪我は……?」

 咲夜が桶から引き抜いた濡れた指先が指し示す先を、文は自分で触れて眉を潜めて、

「あややや……こないだ怪我して治りかけてたんですが、今日また同じ場所ぶつけまして――」

 伸ばされた咲夜の指先がその箇所に触れると、文は黒い羽を僅かに震わせて瞼を伏せる。

 その反応に咲夜が伸ばしていた腕を僅かに引いて、

「あ……ごめんなさい、痛かったかしら」

 反射的に瞼を伏せていた文は、首を横に振って、

「あ……いえ、ひやっこくて気持ちよくて……ちょっとびっくりしただけです」

 だから、と彼女は手に持っていた酒瓶を脇に置き、

「もっと……触ってもらえます?」

 自らが座る椅子に手を付いて、身を乗り出すように鼻を突き出した。

 求められた咲夜は躊躇の後に、濡れた指先で鼻に張られた符を濡らすように文を撫でる。

「痛かったら……ちゃんと言ってくださいよ」

「んっ……大丈夫ですよ、とっても気持ちいいです……」

 濡れた指先が、傷つき熱を持った鼻先をなぞり、染み入るように冷やしていく感覚に文は心地良さそうに吐息を漏らす。

 つい先ほどまで不平を漏らしていたことはとうに忘れたかのように。











 台所より扉一枚を隔てて外。

 扉に耳をつけて立つ霊夢が居た。

 お盆に酒瓶と肴を載せて手にもつ彼女の顔は、真紅に染まり震えていた。

「ちょ、ちょっと……なによ、苛めすぎてわるかったかなって差し入れ持ってきたのに。『痛かったかしら』とか『気持ちよくて』とか『もっと触って』とか! うちの台所であいつら何してるのよ!?」

 狼狽しながらも中の様子が気になる様子の彼女は扉から離れることが出来ず、

『咲夜さんは優しいですね……。『お嬢様』が傷ついた時もこうして触ってあげるんですか?』

『えっ……、あ、いえ、お嬢様はお強い方だから、きっと私がこうしたら怒るんじゃないかしら』

『そうなんですか……じゃあこうしてもらえてるのは私だけってことですね、ラッキーかな?』

 言葉だけでは、どうなっているのかわからず霊夢の鼓動は高鳴るばかりだ。

「ちょっと、霊夢ーっ、今日は付き合ってもらうっていったでしょ?」

 レミリアが腰にタックルするように背後から抱きついてくると、霊夢の心臓は大きく鼓動して危うくお盆を落としそうになる。

「ちょ、ちょっと……危ないでしょレミリア。静かに、静かにっ」

 お盆から片手を離し、口の前で人差し指を立てる霊夢に対し、レミリアは怪訝そうに首をかしげて、

「なーにーよー……、咲夜もどっか行っちゃったし――」

『よしっ、じゃあお礼に私も何処か触りますよ。咲夜さんの気持ちよくなれるところはどこですか?』

 扉の向こうから聞こえてくる言葉に体を強張らせた。

 霊夢は腰に巻きつくレミリアの腕が、次第に震えだすのを感じ、

「お、落ち着きなさいレミリア、これは何かの間違い――」

「わ・た・し・の……咲夜に何をしようとしてるのよーー!」

 静止の言葉を振り切って、レミリアは腕を振りかぶり台所へ続く扉を粉砕。

 文字通り粉々となった扉が晴れて行くと人影が二つ見えてくる。

 人影は重なり合うように台所の床に伏せていた。

 床に仰向けになる銀髪のメイドの上に、四つんばいの体勢の鴉天狗。

 実際は突然の破砕から鴉天狗が銀髪のメイドをかばう為に押し倒したのだが――



 ――台所の外に居た巫女と吸血鬼はそのような考えには至らない。





 何か繊維質のものがちぎれる音と共に博麗神社の台所は爆発した。
――その後、誤解が解けるまで1週間、鴉天狗は紅魔館に囚われたという。


色んなキャラを出すとにぎやかになるけどキャラを立たすのが難しい気がします。

最後まで読んでいただきまして誠にありがとうございました。
はちよん
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コメント



0.1770簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
いかんっ!いつの間にか一人でニヤニヤして読んでたよ。 反省中!
11.90名前が無い程度の能力削除
結構この二人の組み合わせ好きかもしれません。
次回作も期待してます!
12.90名前が無い程度の能力削除
カオスな宴になってるみたいだけど、そこら辺も詳しく見たかったかな。

声だけ聞いて勘違いのシチュエーションは王道だけどいいですねwww
20.100名前が無い程度の能力削除
この二人の組み合わせはあまり無いんで面白かったです!
26.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙の膝枕だと……羨ましすぎるぞ店主ウゥゥゥ!
そして霊夢が可愛いww
28.90名前が無い程度の能力削除
これはいい王道モノ
34.80ずわいがに削除
ええやないかええやないか!びじゅある的に意外と違和感無かったわ
43.100名前が無い程度の能力削除
こwれwはw

ニヤニヤが止まらなくなっちゃいましたw
文咲いいなぁー(ニヤニヤ