非常に唐突な話ではあるのだが、十六夜咲夜は嘆息していた。
ことの始まりは夕食時のことだ。一体何の気まぐれなのやら、彼女の敬う主、レミリア・スカーレットはたまには皆で食事をしようと言い出したのだ。
メイドとしてあろうとする咲夜は最初こそ遠慮していたのだが、主直々に強制参加と言われれば断るわけにも行かず。
結局、彼女は内心で渋々とため息をついてから、表面上は穏やかにかしこまりましたと返答したのであった。
そういうわけで、今現在食堂に集まったいつものメンバーで机を囲み、和やかに始まるかと思った食事会だったのであるが―――ところがぎっちょん、そうは問屋がおろさなかった。
「……お姉様、何ソレ」
「何って、マッヨネィ~ズ」
妹のフランドールの言葉もなんのその、レミリア・スカーレットは何食わぬ顔でカツ丼(レミリアのリクエスト)にマヨネーズをぶちまけていた。
ぶりゅぶりゅ容器から飛び出すクリーム色のあんちきしょうはまるで山の如し、ひねり出されるマヨはすでに容器の倍近い高さにまで盛り付けられている。
すでに三つのマヨネーズを丸ごとぶちまけると言う暴挙に、咲夜は開いた口がふさがらない。
「あ~らお姉様、レディともあろうものがそんな犬のクソのような食事をなさるとは思いませんでしたわ」
「フラン、レディがクソなんて言葉を使うものじゃないわ。ていうか、あなた人の事いえないじゃない」
「お姉様のマヨネーズよりましだわ」
「だからってトマトケチャップってどうなのよ」
どっちもどっちだよ、というツッコミが喉までせりあがったが、かろうじて飲み込んだ。だって彼女は瀟洒なんだもの。
ちなみに、レミリアに指摘されたフランの丼には姉と同じ高さの赤い山が形成されていたりする。
見るに耐えなかった。今ここで自らの目を潰せたらどれほど幸せなことだろうかと、咲夜はわりと本格的にその案を実行しそうだった。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください」
「だって、美鈴!! お姉様のあれどう考えても量がおかしいもん!! もうあれカツ丼じゃなくてマヨ丼だもん!!」
「何を言っているのフラン。マヨネーズは大体のものに合うように出来ているのよ」
「お二人とも、不肖な私からの意見としては、何事も程々が一番です」
お前が言うなと、この場で吐き出せたらなんと楽だろうか。
ちらりと美鈴のカツ丼に視線を向ければ、そこには丼から溢れ出る豆板醤にまみれた地獄が形成されていた。
あぁ、地獄の釜ってあんな感じなのかしらねーと咲夜がぼんやり考えていると、小さくため息をついてパチュリーが言葉をつむぎだす。
「三人とも、食事のときぐらい静かにするべきよ。それに、私は美鈴の意見に賛成ね。何事も適量が大事と言うことよ」
卵を二十個もカツ丼にぶちまけて、軽く卵白の海になってる丼を平然と食べている魔女が何を言うか。
心の中でツッコミを入れるだけならタダなので遠慮なく不満をぶちまける。
とにかく、人が作った料理をお前たちは何だと思っていやがるのか。どいつもこいつも料理の味を殺すようなことしやがってからに。
胸中で毒づく咲夜だが、皆はまさか彼女がこのように愚痴をこぼしているとは思うまい。
何しろ表面上はとても穏やかな笑顔なのである。この瀟洒なメイド長は。
「あはは、パチュリー様が言っても説得力無いですよー」
カツ丼をわさびソフトクリームに仕立て上げていく小悪魔が、にこやか笑顔で言葉にする。
彼女のカツ丼の隣には今日何本目かすらも判らないチューブの束が無残に転がっていたり。
お前が言うな。お前が言うな。お・ま・え・が・言・う・な!!
大事なことなので三回同じ事を心の中で思う咲夜さん。心なしか口の端がひくつき始めたのは気のせいではあるまい。
もはやアレはカツ丼などではない。丼の上に乗っかった巨大なソフトクリームではないか。わさびだけど。
ぶんっと、あまりの現実に耐え切れなくなって咲夜は天井を仰いだ。
自分が誠心誠意作った食事が、個人の好みで蹂躙されていくさまは、なんと残酷な光景か。
自分は間違っていたのだろうか? 皆においしい料理を食べてほしいと思うのは間違いであったのか?
ソレに何より、自分の料理の腕よりも、皆の健康が心配だった。もうなんかいろんな意味で。
溢れ出そうになった涙を何とか押しとどめる。ここで泣いてはみなが何事かと思うだろう。
心配させるわけにも行かず、涙をこらえていた咲夜の目に、不意に誰かの姿が映りこんだ。
―――しっかりなさい、咲夜。あなたが諦めたら、誰が彼女たちを救うと言うのです。諦めたら、……そこで試合終了ですよ。
にっこりと、その人物は微笑んでいる。慈愛にも似た慈悲の心を持って、諭すような言葉。
ソレが、どれだけ咲夜にとって救いとなったか。
「しょ、諸葛藍先生……」
半ば呆然とつむがれた言葉は、しかし他のみなには耳に入ることもなく溶けて消えた。
八雲藍……もとい諸葛藍はぐっと親指を立てると、割烹着姿に着替えてフライパンを握って台所に立つ。
威風堂々、と言う言葉がある。その姿はまさしくそう表現するにふさわしく、諸葛藍はフッとニヒルに笑みを浮かべ。
―――ゆくぞ、主よ。胃袋の異常は十分か!?
その背中が、そう語っているような気がして、咲夜は思わず息を呑んだ。
わずか一瞬。割烹着を身にまとい、料理に心血を注ぐ九尾の姿が見えたのは、些細な刹那の時間。
なんてことの無い、取るに足らない幻視。しかし、彼女たちはお互い家事をするものとして、確かにつながったのだ。
わずかな奇跡。そのわずかなつながりが、再び咲夜の闘志をよみがえらせた。
(そうよ。なにを弱気になっていたのよ十六夜咲夜。みんなの偏食を治せるぐらいの料理を作れなくて、なにが完璧瀟洒なメイド長を名乗れるって言うのよ)
そうだ、何を弱気になっていたと言うのかと、咲夜は自分自身を叱咤する。
再び現実に視線を向ければ、未だにマヨがどーのとケチャップがどーの、卵がどーのわさびが豆板醤がと言い合っていた。
けれど、今の咲夜は晴れやかであった。今は無理であろうとも、いつかは皆の健康のために今よりもっとおいしい料理を作るのだと誓いを立てて。
咲夜は微笑ましく思いながら、愛しいと思う家族同然のみなに視線を向ける。
道は困難かもしれない。けれど、絶対に諦めない。だって彼女は瀟洒だから。
新たな誓いを胸に秘め、咲夜は笑顔のままに今日10個目となるピーナッツクリームをカツ丼の中にかき入れるのだった。
ことの始まりは夕食時のことだ。一体何の気まぐれなのやら、彼女の敬う主、レミリア・スカーレットはたまには皆で食事をしようと言い出したのだ。
メイドとしてあろうとする咲夜は最初こそ遠慮していたのだが、主直々に強制参加と言われれば断るわけにも行かず。
結局、彼女は内心で渋々とため息をついてから、表面上は穏やかにかしこまりましたと返答したのであった。
そういうわけで、今現在食堂に集まったいつものメンバーで机を囲み、和やかに始まるかと思った食事会だったのであるが―――ところがぎっちょん、そうは問屋がおろさなかった。
「……お姉様、何ソレ」
「何って、マッヨネィ~ズ」
妹のフランドールの言葉もなんのその、レミリア・スカーレットは何食わぬ顔でカツ丼(レミリアのリクエスト)にマヨネーズをぶちまけていた。
ぶりゅぶりゅ容器から飛び出すクリーム色のあんちきしょうはまるで山の如し、ひねり出されるマヨはすでに容器の倍近い高さにまで盛り付けられている。
すでに三つのマヨネーズを丸ごとぶちまけると言う暴挙に、咲夜は開いた口がふさがらない。
「あ~らお姉様、レディともあろうものがそんな犬のクソのような食事をなさるとは思いませんでしたわ」
「フラン、レディがクソなんて言葉を使うものじゃないわ。ていうか、あなた人の事いえないじゃない」
「お姉様のマヨネーズよりましだわ」
「だからってトマトケチャップってどうなのよ」
どっちもどっちだよ、というツッコミが喉までせりあがったが、かろうじて飲み込んだ。だって彼女は瀟洒なんだもの。
ちなみに、レミリアに指摘されたフランの丼には姉と同じ高さの赤い山が形成されていたりする。
見るに耐えなかった。今ここで自らの目を潰せたらどれほど幸せなことだろうかと、咲夜はわりと本格的にその案を実行しそうだった。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください」
「だって、美鈴!! お姉様のあれどう考えても量がおかしいもん!! もうあれカツ丼じゃなくてマヨ丼だもん!!」
「何を言っているのフラン。マヨネーズは大体のものに合うように出来ているのよ」
「お二人とも、不肖な私からの意見としては、何事も程々が一番です」
お前が言うなと、この場で吐き出せたらなんと楽だろうか。
ちらりと美鈴のカツ丼に視線を向ければ、そこには丼から溢れ出る豆板醤にまみれた地獄が形成されていた。
あぁ、地獄の釜ってあんな感じなのかしらねーと咲夜がぼんやり考えていると、小さくため息をついてパチュリーが言葉をつむぎだす。
「三人とも、食事のときぐらい静かにするべきよ。それに、私は美鈴の意見に賛成ね。何事も適量が大事と言うことよ」
卵を二十個もカツ丼にぶちまけて、軽く卵白の海になってる丼を平然と食べている魔女が何を言うか。
心の中でツッコミを入れるだけならタダなので遠慮なく不満をぶちまける。
とにかく、人が作った料理をお前たちは何だと思っていやがるのか。どいつもこいつも料理の味を殺すようなことしやがってからに。
胸中で毒づく咲夜だが、皆はまさか彼女がこのように愚痴をこぼしているとは思うまい。
何しろ表面上はとても穏やかな笑顔なのである。この瀟洒なメイド長は。
「あはは、パチュリー様が言っても説得力無いですよー」
カツ丼をわさびソフトクリームに仕立て上げていく小悪魔が、にこやか笑顔で言葉にする。
彼女のカツ丼の隣には今日何本目かすらも判らないチューブの束が無残に転がっていたり。
お前が言うな。お前が言うな。お・ま・え・が・言・う・な!!
大事なことなので三回同じ事を心の中で思う咲夜さん。心なしか口の端がひくつき始めたのは気のせいではあるまい。
もはやアレはカツ丼などではない。丼の上に乗っかった巨大なソフトクリームではないか。わさびだけど。
ぶんっと、あまりの現実に耐え切れなくなって咲夜は天井を仰いだ。
自分が誠心誠意作った食事が、個人の好みで蹂躙されていくさまは、なんと残酷な光景か。
自分は間違っていたのだろうか? 皆においしい料理を食べてほしいと思うのは間違いであったのか?
ソレに何より、自分の料理の腕よりも、皆の健康が心配だった。もうなんかいろんな意味で。
溢れ出そうになった涙を何とか押しとどめる。ここで泣いてはみなが何事かと思うだろう。
心配させるわけにも行かず、涙をこらえていた咲夜の目に、不意に誰かの姿が映りこんだ。
―――しっかりなさい、咲夜。あなたが諦めたら、誰が彼女たちを救うと言うのです。諦めたら、……そこで試合終了ですよ。
にっこりと、その人物は微笑んでいる。慈愛にも似た慈悲の心を持って、諭すような言葉。
ソレが、どれだけ咲夜にとって救いとなったか。
「しょ、諸葛藍先生……」
半ば呆然とつむがれた言葉は、しかし他のみなには耳に入ることもなく溶けて消えた。
八雲藍……もとい諸葛藍はぐっと親指を立てると、割烹着姿に着替えてフライパンを握って台所に立つ。
威風堂々、と言う言葉がある。その姿はまさしくそう表現するにふさわしく、諸葛藍はフッとニヒルに笑みを浮かべ。
―――ゆくぞ、主よ。胃袋の異常は十分か!?
その背中が、そう語っているような気がして、咲夜は思わず息を呑んだ。
わずか一瞬。割烹着を身にまとい、料理に心血を注ぐ九尾の姿が見えたのは、些細な刹那の時間。
なんてことの無い、取るに足らない幻視。しかし、彼女たちはお互い家事をするものとして、確かにつながったのだ。
わずかな奇跡。そのわずかなつながりが、再び咲夜の闘志をよみがえらせた。
(そうよ。なにを弱気になっていたのよ十六夜咲夜。みんなの偏食を治せるぐらいの料理を作れなくて、なにが完璧瀟洒なメイド長を名乗れるって言うのよ)
そうだ、何を弱気になっていたと言うのかと、咲夜は自分自身を叱咤する。
再び現実に視線を向ければ、未だにマヨがどーのとケチャップがどーの、卵がどーのわさびが豆板醤がと言い合っていた。
けれど、今の咲夜は晴れやかであった。今は無理であろうとも、いつかは皆の健康のために今よりもっとおいしい料理を作るのだと誓いを立てて。
咲夜は微笑ましく思いながら、愛しいと思う家族同然のみなに視線を向ける。
道は困難かもしれない。けれど、絶対に諦めない。だって彼女は瀟洒だから。
新たな誓いを胸に秘め、咲夜は笑顔のままに今日10個目となるピーナッツクリームをカツ丼の中にかき入れるのだった。
って言いたかったのに……
お前が一番最悪だwww
あまりというか、それらのカツ丼は食べたくないですねぇ…。
味覚障害 ←いまここ!
↓
貧血
↓
免疫力の低下
↓
精神へ影響 ←アウト♪
みなさん急いで牛肉食べて!肩ロース!
亜鉛摂取してっ!
とここまで書いてから、たまごも亜鉛がそこそこ含まれてるのを知った
アルェー?
貴方の書く紅魔館の住人は、『フラン』が最後の良心(アルェー?)でしたが、その最後の良心ですら壊れたぞwどうしてくれる!!!(笑)
つーかわさびって……。パチュリーが一番健康的……なの……か……?
まだ美鈴が一番ましかな,味はともかく
もう…なんかもう…応援してた自分が…なんかもう…ね?
しっかし、なんにでも乗っけるのかなぁ、激味をwww
が、藍とつながったりして面白かった。
100点
お 前 が 言 う な w
とても楽しく
読ませていただきました
貴方の書くフランがどんどん進化していく!!!
人間である咲夜さんの健康が心配だよ……
異論は認めない!
人気投票篇を東方キャラで描いたら面白そう、
とか思ってしまった自分にとってはまさにツボでした。
カツ丼にマヨネーズも豆板醤も合いますが、量はほどほどに・・・・・・
自分は銀魂が大好きなもので、どうしてもね。
っていうか咲夜さん、ピーナッツクリームはないわ。他はともかく、それだけはない。
パッチェさん大丈夫か?
いや基礎がしっかりしてるからその上で味付けしたいってことなのかも分からんね。
とっても美味しそうでした!w
くらいはよんでいたものの、ピーナッツクリームとは予想の遥かナナメ上
だったwww
キャベツを想像していたのだが
マヨと胃袋の~の元ネタはわかったが、他にも何かあるのではないかと気になるところ。
しかしこの紅魔館、一日の食費は一体どれほどになるのだろうか
パッチェさんとは生涯の友になれそうだ
藍!割烹着!合わせて“割烹着姿の藍”!これはやヴぁしッ!!
だが咲夜さんのだけは駄目だ、つかムリw
わかります。