私、紅美鈴の朝は早い。
というか妖怪である私は別段寝る必要も無いわけだが。
というわけで昨日の晩から私は門の前に立っている。夏だというのに少し寒い。私はふとくしゃみをした。
すると東の空が明らんできた。もうすぐ朝日が昇る。
もう日の光が見えてもよさそうなのにまだ周囲は薄暗い。それもそのはずだろう。
私の周りには異常な霧が発生していた。なぜ異常かといえば見ればすぐにわかっただろう。
その霧は紅かったのだ。でもまあしかし、別段私は驚きもしなかった。私は原因を知っているのだから。
3日ほど前、レミリアお嬢様が従者全員を集めてこう言った。
「これから日の光を封じるわ」
従者全員が首をかしげているとお嬢様は自慢げに、
「いまからパチェの魔法を使って幻想郷中に紅い霧を撒くわ。そうすることによって私は日中でも気兼ねなく外に出られるのよ。どう?」
「良いのではないのでしょうか」
と咲夜さんは言った。私にも異論は無い。だが従者の中には異論を唱えるものもいた。詳しく話を聞くと
「そのようなことををしたら博麗の巫女にお嬢様は退治させられてしまいます。」
だそうだ。たしかに一理ある。私や咲夜さんが不安そうな顔でお嬢様を見た。するとお嬢様は
「安心しなさい。最近できたスペルカードルールってのを使おうと思うの。
このルールによると、相手を故意に殺してはならないと書いてあるわ。
ということは私たちがある程度のルールを守りさえすれば、その博麗の巫女とやらも私たちを退治まではしないってことよ」
納得はした。たしかにスペルカードルールをうまく使えばお嬢様が退治されることはないだろう。
が腑に落ちない点がひとつあった。博麗の巫女が来て私たちが負けたら私たちは博麗の巫女の言うことを聞かねばならない。
ということは、今からお嬢様がしようとすることは無駄になってしまうのでは無いだろうか?
まぁ聡明なお嬢様のことだ私の考えの及ばないことまで考えているに違いない。
そうこうしてるうちに今日に至る。
私は朝日が昇ったら太極拳をすることが日課となっている。これをすると私の体の中の気のめぐりが良くなるのだ。
30分ほどすると妖精メイドの一人が私を呼びにきた。おそらく朝食の時間がきたんだろう。
この館は珍しく従者が主人とともに食事をとる。従者といっても私と咲夜さんしか一緒に食事をとらないのだが。
「今日も外へ遊びに行こうかしら」
お嬢様がうれしそうに言う。
「今日も日の光はここに来ないし快適ね」
「しかし人間の里では気分を害している人が多くなっていると今日の天狗の新聞に書かれておりました。
明日、早くて今日、博麗の巫女が来ると思われます」
咲夜さんは緊張の面持ちだ。
「大丈夫よ、心配しなくても優秀なメイド長と門番が私を守ってくれるわ。それにパチェも助けてくれるだろうし、いざとなったらこの私じきじきに相手してやるわ」
お嬢様は不適に笑う。お嬢様のお言葉はとてもうれしかったが正直非常に不安だ。
咲夜さんも喜びと不安が入り混じった表情をしている。若干喜びの方が多いかな?
「まぁ、いざとなったら私と小悪魔も援護するわよ。もし敵が図書館の中に来たらだけど」
パチュリー様もこう言って下さった。がんばるしかないのかな?
朝食が終わると私は門に戻った。妖精メイドに異常が無かったかを確認し持ち場につく私。
妖精メイドは異常は無いと言っていた。だが、私はある異変に気づいた。先ほどまでこれほどまで妖精はいなかっただろう。
しかし今は目の前いっぱいに妖精がいた。何をしてるんだろう?また悪戯をしなければいいが。
そう警戒してると遠くの妖精たちが消えた。よーく目をこらすと紅白色の服を着た女の子がこちらに近づいてくる。
なんだなんだ?何であんな少女がこんなとこにいるんだ?気になったんで近くにいってみた。
うわっなんだよ。いきなり攻撃してきた。さてはこの少女が博麗の巫女かな?まさか、博麗の巫女は鬼より怖いとうわさだ。
まさかこんなかわいい女の子じゃないだろう。もっとごついんだろうな。
ここで面倒を起こしたらかなわないな。この子もスペルカードのことは知ってるだろう。
そうでなければ妖怪にちょっかいは出さないだろうし。
「何しに来たのですか?ここは子供が遊ぶようなところではありませんよ」
一応は丁寧に話しかけてみる。14、5歳くらいだろうか。もう危険かどうかは自分で判断できる年頃だろう。
「どきなさい!」
…。どうやらできないようだ。やれやれ。
「ここは吸血鬼が住まう神聖な館。何人たりともこの館には入れさせるわけにはいきません」
「吸血鬼が住んでいて神聖ね…。まぁいいわ。そこの妖怪、道を開けなさい。私はここの主に用があってきたのよ」
「どのような用でしょうか。私がお嬢様に伺っておきます。なにしろお嬢様は多忙なお方ですので」
「この霧を出したのはこの館の主なんでしょう!」
っ!!
少女はいきなり攻撃してきた。危ない危ない。いやそんなことよりもだ、
こんな少女がなぜ霧の発生源を知っている!?どうやらこの少女只者ではなさそうだ。
私は距離をとった。私はこれといって強い部分が無い。その代わりに特に弱点は無い。
近距離での格闘もできるが、相手の手の内がまだよくわからない今はとてもじゃないが危険だ。
ここは相手の出方を見るのが吉だろう。といっても何も手を出さないわけにもいかない。
ここは威力にかけるが通常弾で牽制しておこう。通常弾といっても妖精の比ではない密度の弾が少女に降り注ぐ。
無駄な弾が多いのは気にしないでほしい。そっちのほうがきれいでしょ?
しかし少女は平然とした顔でよけていた。うそでしょ?私は手加減なんかしていないのに。
「今度はこっちの番ね!」
そう言い放ち少女は弾幕を張ってくる。強い!弾の数も半端無く多いのに一撃一撃が重い。
これほどの相手だったとは。久々に胸躍る。
こうなれば子供だからといって手加減は無用だ。
「 スペルカード!華符『芳華絢爛』!」
スペル名を宣言しスペルカードを発動する!
今までの比じゃないような弾幕が周りに発生する!!
これで大丈夫だろう。私はそうたかをくくっていた。
それは誤りだったらしい…冗談でしょ?これもよけるの!?
少女はこれまた平然とした顔でよけていた。この程度の弾幕がどうしたのみたいな顔をしている。おーまいがー
そうこうしてるうちにすべてよけられてしまった。
「くそ、背水の陣だ!」
私は門の方へ逃げる。
「あんた一人で『陣』なのか?」
少女は余裕そうだ。くそっ。
門につくとすぐに少女が追いかけてきた。
「ついてくるなよ~」
一応言っておこう。なんかいわないといけない気がする。
「道案内ありがと~」
「あら、私についてきてもこっちには何もなくてよ」
「何もないところに逃げないでしょ?」
むちゃくちゃなことを言ってくる。
「うーん、逃げるときは逃げると思うけどなぁ」
「ちなみに、あなた、何者?」
さっき妖怪って言ってたくせに。
「えー、普通の人よ」
「さっき攻撃してきたでしょ?」
「それは、普通に攻撃したの。でもあんたが先に攻撃したのよ。あなたが、普通以外なのよ」
「私は巫女をしている普通の人よ」
驚いた。まさかこの少女があの鬼より怖い博麗の巫女なのか。まああの強さなら納得だが。
「それはよかった。たしか…
巫女は食べてもいい人類だって言い伝えが…」
適当に冗談を言っておこう。
「言い伝えるな!」
巫女ものりのりだ。案外いいやつなのかも?
そう思いつつ私は通常弾を放つ。これはさっきよりもっと濃いぞ?よけられるのか?
おぉ!少々苦しそうな顔をしたがこれまた平然としてるな。さすが博麗の巫女。
だが次はよけられるかな?
「スペルカード!虹符『彩虹の風鈴』!」
このスペルカードはパターンがわからないとよけるのは難しい。そしてあの咲夜さんでさえそのパターンに気づくのに3日かかった。さぁどう出る!
…。せめてスペル1枚は持って行きたかったな…。
私はあまりにも博麗の巫女を侮っていたらしい。まさか無傷だとはな…。
「美鈴さま!大丈夫でしょうか!援護します!」
悲観にくれていると妖精メイドたちが援護に駆けつけてくれた。ありがたい。
多勢に無勢だろうが、しょうがない。この巫女は規格外だ、私の手には負えない。
メイドたちのことを考えて通常弾にしておこう。残っている2つのカードは大勢でいるときには味方にあたってしまう危険性がある。
大勢での一斉攻撃。たしかに巫女の表情は曇った。だがそれだけだ。瞬く間に援護のメイドたちは倒されていく。そろそろ限界だろうか。
「お前たち!これ以上の援護はもういい!済まなかった!これ以上無駄死にするな!それに私のスペルカードはお前たちを巻き込んでしまう!」
「なに言っているんですか!私たちは大丈夫です!」
メイドたちは口々にこう言う。だがこうしてるうちにもどんどんメイドたちは倒されていく。
「お前たち!これは命令だ!館にもどれ!!館にもどってお嬢様たちの援護に回れ!繰り返す、これは命令だ!」
すごい形相でにらみつけるとメイドたちは撤退を始めた。その間に私は通常弾で巫女の気を引く。まったくこいつは化け物だろうか。
全員が撤退したのを確認すると私はスペルカードを発動した。
「スペルカード!彩符『彩雨』!」
これは不規則に弾が飛ぶスペルだ。不規則なので敵だけでなく援護している味方にも当たりやすいという難点がある。
だがこの不規則さならば!
…くそっ、だめか!ならば奥の手だ!!
「これが私の最後のスペルだ。スペルカード!彩符『極彩颱風』!」
ぱっと見ただけでは「彩雨」となんら変わらないだろう。だがこの密度は半端ない。見れば巫女も圧倒的な密度と不規則な弾の軌道に四苦八苦している。
これなら…。
「霊符『夢想封印』!」
巫女の掛け声とともに私の弾幕は消えうせ、全身にひどい痛みを感じた。ああ、これが巫女のスペルか。
私は呆然とするとともに理解した。さすがは博麗の巫女。攻撃がまったくみえなかった。
だがしかしその巫女のスペルを1枚持っていけたのだ。やることはやった。
倒れながらもそんなことを考えていると。
「さぁて、道案内してもらいますよ」
…鬼だ。
「済みません、お嬢様~」
スペルカードルールで負けたものは勝者の言うことを聞かねばならない。なので私は紅魔館まで案内せねばならない。紅魔館の扉の前に着く
「正直に言うと私は今お嬢様がどこにいるかわからない」
「はぁ?この館はそこまで広そうには見えないけど?」
「いずれわかる。そこで、おそらくお嬢様の居場所を知っているだろうお方の場所まで案内する。あとはそのお方から直接聞きなさい」
「いやに親切ね何かたくらんでるの?」
「そんなことはない。ただそのお方からただで聞きだせるとは思わない方がいい」
「なんで?」
「侵入者に館の主の居場所を普通の人がほいほい言うと思っているの?」
「いいえ」
「なら、そういうこと」
実際はお嬢様の居場所は把握していた。私の能力は気を操ることだ。特定の人の気を探ることなんて朝飯前だ。
だがあえて私は巫女を大図書館へつれてきた。パチュリー様なら何とかしてくれるだろうし、
それに朝の食事のとき、図書館に来たら援護するとおっしゃっていた。
ならば図書館に連れて行けば戦ってくれるだろう。喘息もちだが相当にお強い方だし。
「私の仕事はここまで」
図書館に着くと私は言った。
「なんでよ~。ケチ!」
「私はあなたに案内しろと言われただけ。どこまで案内しようと私の勝手でしょ?」
「…わかったわよ」
巫女はそう言いながら図書館へ入っていった。
ふぅー、体の節々が痛い。立ってるのがやっとだ。本当ならみんなの援護に行きたいところだが…、
これでは足手まといにしかならないだろう。
医務室に行って手当てをしたら援護に行こう。
私は予想以上にひどい怪我をしていたようだ。これでは館の援護に行けないではないか。
自分のふがいなさを実感したが、しかたがない。私は門番をつづけることにした。
いまはもう3時になるであろうか。本当なら私は今猛烈な眠気に襲われているはずだ。
だが今日は眠気などまったく感じない。いまはただただ館の中が心配だ。
館のことを心配しているうちに夜になった。そろそろお嬢様が二度寝から起きる時間だろう。
あの完璧で瀟洒な咲夜さんがついているけど心配だ。あの巫女は強すぎる。
でもさすがに心配しすぎだろう。咲夜さんには時を止めるという人にとっては強力すぎる力を持っている。
咲夜さんがいれば文字通り一騎当千だろうし、万が一、いや億が一負けたとしても、お嬢様がいる。
お嬢様は運命を操る力を持っている。何人たりとも運命には逆らえない。
紅い霧はなぜか夜にも出ている。昼間よりも薄いが。
今日は満月。南の月の光が紅い霧の中を通って紅く輝いている。
月の光は私たち妖怪の力を増大させてくれる。最高にハイってやつだ!
美しく、そして妖しく光る紅い月を見上げていると、徐々に紅が薄れているのに気づいた。
まさか…。血の気が引く音が聞こえてくるように感じた。月が紅いのはお嬢様が出した霧のおかげだ。
それが薄れていると言うことは…。そんな考えを頭を振って追い出す。
そんな馬鹿なことがあるか。お嬢様が負けるなんて。
ふと空を見上げると博麗の巫女が服がボロボロになりながらも神社に帰ろうと飛んでいく姿が見えた。
「っお嬢様ぁ!!」
私は駆け出した。体が痛いなんて関係ない。今はお嬢様の方が心配だ。
「あら美鈴。どうしたの?」
レミリアお嬢様はなぜかうれしそうにそう言った。傍目から見るとお嬢様はボロボロだが、それでもなぜかお嬢様はうれしそうだった。
「どうしたのではありませんよ。お嬢様のことが心配で心配で。で、大丈夫なのですか?」
「大丈夫よ」
ここは館の大食堂、パーティーなどがあるときにしかつかわない特別な食堂だ。
そしてそこには紅魔館に仕えているすべての従者たちがここにいた。
「お嬢様?」
「なに?」
「なぜ私たちは今日ここで食事をとるのでしょうか?あっ!わかりました!博麗の巫女に勝った祝いですね!」
それならわかる。が、
「霊夢には負けたわ」
あの巫女は霊夢というのか…。じゃなくて
「えええええええええええええええええええええ!?」
「そんなに大声出さないでよ。う~。耳が痛い・・・」
「ではなぜこのようなパーティーみたいなことを!?」
「パーティみたいじゃなくてパーティよ」
「余計納得ができません!」
「はぁ…。ねぇ美鈴、これは咲夜にしか話してないんだけど」
お嬢様は急に声を小さくした。
「この赤い霧の異変、今朝咲夜が言ったとおり人間の里にも十分被害が出たわ。もちろん死人はでてないけど。
霊夢は異変が解決したことを人間の里の人々にきっと伝えるでしょう。こうなった原因も含めて。
そうなれば、紅魔館の存在をより多くの人に知ってもらうことができるわ」
…。お嬢様が言いたいことはわかった。たぶんお嬢様は退屈だったのだろう。何百年生きていようがお嬢様はまだ子供だ。
寂しいと思うことも少なからずあったんだろう。たとえ私たち従者が何人いようとも。もしくはお嬢様も「お友達」というものがほしかったのかもしれない。こればかりは従者ではどうにもならない。
「やはりお嬢様は聡明です。こうなることまで考えておられるとは」
「くすっ、でしょ?」
「よく理解できました。しかし、妹様はどうなさるのですか?」
「え?……わっわすれてたぁ!」
「妹様はお嬢様にはなつかれておりますが他の方だと…」
「そうだった、そうだった~。美鈴~ど~しよ~(涙)」
「そんな、ど~しよ~(涙)といわれましても…。」
いつものカリスマがあるお嬢様もいいが、こっちの方のお嬢様はもっといいな。おっと忠誠心が。
「まったくだわ」
「って咲夜さん!?いったいいつの間に!?っていうか心の声読まないでくれませんか?」
「いいじゃない別に。出番少ないんだし」
「まぁそうですけど…。」
まぁいいか。お嬢様もうれしそうでなによりだ。私も久しぶりのパーティー楽しませてもらおう。
食事が済むとお嬢様はお休みになると言った。さてそろそろ私も門番の仕事に戻るとするか。
本当はお嬢様や咲夜さんに今日は休んでいいと言われたのだけれど、
結局門番の役目を果たせなかった上に休んでしまったら、お二人に申しわけないと半ば強引に頼んだ。
門に着くと東の空がかすかに明らんでいるのに気づいた。
私、紅美鈴の朝は早い。
今日もまた朝日が昇ろうとしている。
東方紅魔郷(三面)のダイジェストといった趣でしたが、いい感じに緊張感と脱力感があって東方らしさがでてました。そして、
>無駄な弾が多いのは気にしないでほしい。そっちのほうがきれいでしょ?
これぞ弾幕の真髄。
>10 なるほど・・・そうですね、その方がよさそうですね。よいご指摘ありがとうございます
霊夢はノリがいいのかw
「あ(ん)た一人で『陣』なのか?」
たぶんこうじゃないかと……
山場故に惜しい
美鈴らしさに、従者としての信頼感。
そして負けても計算通りなレミリアの聡明さが感じられる会話にらしさが出ていて、私的にはいい感じです。
美鈴編ということは他のキャラのも書かれるんでしょうかね、楽しみです。
実はこれで終わりにしようかと思ってたんですが…
アイデアが出たのと、こうして楽しみにしてくださっているということで
また他の編も書こうかなと思っています。
ちなみに次はパチェにしようと思っていますが…
いつになるか分からないのであまり期待しないでください