Coolier - 新生・東方創想話

花呪霊、2

2010/03/17 17:46:43
最終更新
サイズ
9.08KB
ページ数
1
閲覧数
883
評価数
2/8
POINT
390
Rate
9.22

分類タグ

http://coolier.sytes.net:8080/sosowa/ssw_l/?mode=read&key=1268649533&log=0 (花呪霊、1)



注意。続きものです。初めてご覧になる方は、上記URLから前に戻られる事をお薦めします。







ーーーーーーーーー



その日も私はいつものように神社に来て、いつものようにあんたと他愛もない話をしていた。



なんかおかしな神社が山の上に建っただとか、霊夢もこれでついに命運尽きたかとか、そういう他愛もない話。



あんたはそれを笑いながら聞いて、話し、また笑った。いつも通りの笑みで。いつも通りの切り返しで。



幻想郷は秋が過ぎ、冬を迎えたときだった。あんなに綺麗だった紅葉も枯れ、無惨に地面に落ちている。



人間の里ではそろそろ収穫祭が行われる頃だろう。人間のする事はよくわからない。神が力を出せば、作物が実るのは当たり前の事。そんな当たり前の事でなんで毎年毎年火を炊き太鼓を叩き踊るのだろうか。一種の奇怪な儀式のようにも思える。



そんなことも笑い話に交えながら、私達はいつものように談話に興じた。すっかり冷たくなった大気を暴れ回る風が、私の肌を乱暴に撫でた。



「今日もいい日和だった。―またな」



夕方。あんたはお決まりの台詞をいつもの笑顔で言い、帰路に着く私を見送った。



「ええ。―またね」



私は淡い色をした空を見つめ、そう言った。泣きたくなかった。逃げるように帰り道を急いだ。



なにか言いそうだったあんたを認めたくなくて



あんたの右手の指先。日に日に青白くなっていくそこが―…透けていたことを、認めたくなくて



いつも通りの日だった。私はそれを壊したくなかった。



永く生きてきた体が、自然と変化を拒んだのだろう。



あんたと過ごした毎日はとても楽しかった。あんたが笑うと私まで頬が緩んだし、あんたが悲しそうな顔をすると私まで恐怖を感じた。



だから私はあんたに言わなかった。告白しなかった。ずっと、時間が許す限りこのままでいたかった。



結果として、私は過ちを犯した。



―次の日。神社を訪れるとそこにはあんたの姿はなく―巫女も、あんたのことを覚えていなかった。



ただあんたがいつもかぶっていた帽子だけ、絶望する私の眼前_縁側にぽつりとたたずんでいた。



ーーーーーーー



私は、間違えていた。



私は臆病だった。



あんたのその笑顔に漬け込んで、ぬくぬくと平和な日々を享受していた。



襲ってきたのは、圧倒的な絶望。私はあんたを失った。ただ自分を護るために。どうなってしまうかわからない恐怖にひるんだ私を、護るために。



何度も考えてきたことだった。あんたがいなくなった喪失感を、何度も想像してきた。そのたびに私はどうしようもなく叫びたくなり、あんたにすがった。



―私が、ここにいるから。



あんたはそう言った。何度も何度も、私が泣きつくたび、そう言った。



―だから泣かないで。あんたは強いだろう?



強くない。私は強い妖怪なんじゃない。ただ恐れ、無様に生き延びただけだ。



もうない。もうないんだ。あんたの優しい手が。私を撫でてくれる、その手が。いつも私を見つめてくれる、優しい瞳が。



…嗚呼、



馬鹿なことをした。馬鹿なことをした。私はあんたを殺したも同然だ。一番愛してたあんたを。望んでもないのに。ただ漠然とした不安に呑まれ見捨てたんだ。



もうあんたを覚えている者は誰もいない。あんたと同郷の妖怪どもも、みんなあんたを忘れていた。―いつも来ていた、子分はどうだかしらない。けれど最近は顔を見せていなかった。どうせ彼女もあんたを忘れているのだろう。



私は自分を責め、しばらく身を隠して暮らした。冬に咲く花は少ない。―あんなに大好きだった山茶花も、見たいとは思えなかった。



門番が私を心配してときどき食事を持ってきてくれる以外、私は孤独だった。



ただ悲しんでいた。



あんたはもういない。もういないんだ。神社の縁側。そこでいつもひなたぼっこをしていた愛嬌のあるシルエットには、もう会えない。



衝動的に枕を壁に向けて投げる。私はこれから、どうすればいいんだろう。閻魔にも忠告されていることだし、そろそろ死んでみてもいいかもしれない。淡い青も、鮮やかな朱も讃えていない単調な曇天のもと、一輪の花も添えず死んでみるのも、また一興かもしれない。



そんな自虐的なことを考えていると―ふと、思い出した。



―そろそろあれが見ごろだろう?黄色くて立派な、太陽の畑に咲いている



あんたが前言ってた言葉。もう、記憶でしか触れることのかなわない声。



向日葵。



あんたはそれだけ、覚えていた。



無数にある花のなかで、たったひとつ、向日葵だけ覚えていた。



……



私は、立ち上がった。



やることは、ひとつしかなかった。



ーーーーーーー

その冬、幻想郷を襲った異変は後に『呪花異変』と呼ばれ、語り継がれることとなる。





数ある異変のなかで、唯一本気の乱闘があった異変。



花を操ることのできる妖怪、風見幽香が発端で、彼女の咲かせた向日葵が幻想郷中を覆い、ある時は家屋を押し潰した。





勿論これにも博麗神社巫女である博麗霊夢が解決へ乗り出したのだが、何故かいつも彼女とともに異変解決に臨んでいる霧雨魔理沙の姿は見られなかった。



しかし、幽香は本気であった。彼女の力は人間である霊夢を凌駕したし、なにより彼女は邪魔をする者に容赦なく攻撃を仕掛けていった。



この異変により出た死者は数十名。怪我人はその倍にも及ぶ。



最後には幻想郷の結界を守る賢者、八雲紫氏まででてき、幽香はこちらとあちらの狭間においやられることになった。



結果として彼女は、我々一般の妖怪が決して感じることのできない苦痛を、さらに凝縮され味わうことになったのだが―この異変は既に解決しており、現在事件の傷痕はほととんど残っていない。



解決の原因はあやふやで、風見幽香氏が謝罪したのは確かだがその要因は明らかになっていない。一部始終を見ていた紫氏も、言葉を濁すばかりだ。



幽香氏が境界においやられ痛みに苦しんだそのとき、なにが起きたのか。知るものは、本人のみかもしれない。



(葉月某日。とある天狗の供述)

ーーーーーーー

私は必死だった。



あんたの存在を知らしめてやりたかった。



あんたを忘れたくなかった。



だから咲かせた。怒りなのか悲しみなのか、最早わからない感情で。冬という厳しい季節に、常夏が似合う花を。



邪魔する奴は片っ端から攻撃した。力に任せに向日葵を咲かせた。



巫女がやってこようが、吸血鬼が来ようが、亡霊が来ようが関係なかった。私はただ残酷までも明るい向日葵を神社に、冥界に、湖に、森に咲かせた。



後悔はしなかった、はずだ。恐怖に臆した、馬鹿な妖怪なのだから、馬鹿なことをして死のう。そんなことまで考えていた。



私はあんたを愛し、暴力を奮った。



無理矢理花を咲かせ、幾人もの人間を投げ飛ばした。八つ裂きにしたものもいる





脳裏を過っていたのは、ただの激情。あんたに注ぐはずだったたくさんの愛と、あんたを失ったことで感じた怒りと悲しみ。全てがごちゃまぜになって、鉛のような様子を見せている。



重い。重苦しい。だけどやめなかった。ついにスキマを操る妖怪がでてきて、とうとうかと思ったけれど、そんなに動揺しなかった。



「あなたは、禁を犯した」



妖怪は、無表情のまま口を開いた。



「強力な妖怪もパワーバランスを考え、スペルカードによる決闘に参加すべきだ。―あなたも、この考えに賛同していた筈。それなのに―」



妖怪は突然腕を回し、私の周りの空間に切れ目をつくった。なんともいえない光が洩れ、私はそこに吸い込まれた。



上半身はこちら。下半身はあちら。



歪みから生じる痛みが体を襲うのに、そう時間はかからなかった。



痛い。



そう思いつつ、私は攻撃をやめなかった。



「なんで―」



スキマ妖怪が息を呑むのがわかる。なんで、こうも必死なのか。



彼女の周りには、無数の黄色。無数の怨念。呪いのように隆々と咲く向日葵。



みたか。こんなに咲かせてやった。だから安心して消えてくれ。死んでくれ。花はこれからも供える。あんたのために。あんたのためだけに。



腸がちぎれる音を聞いた。万事休すだ。妖怪が顔をしかめたのが、ぼんやりとわかった。嗤いたいのなら嗤えば良いのに、その顔はどこか哀しそうだった。



「‥まぁいいわ。あなたのやったことはここを壊しかねないことです。よってあなたを裁きます」



妖怪が片腕をあげようとした。



_嗚呼、死ぬのか。



私は依然として攻撃をやめないまま、ただそう悟った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「なぁ、これでいいのか?」



「ええ。いい筈よ。‥まさか巫女と魔法使いが共同して魔法を使うなんて思っても見なかったわ」



数刻前。魔法の森、霧雨魔法店。



ただでさえ散らかっている店内は現在、黒に荒らされていた。



黒の絵の具で床はおろか壁も、天井までも巻き込んで一つの大きな円を描いている。よく見ればなにかの文様を形作っているのがよくわかるが、一見するとただの落書きにしか見えないだろう。



そんな円の中心にいる二人の少女は、お互いの絵の具で汚れた顔を見て会話を続けた。



「にしても‥こんなことになってしまうとはな。私の師匠を忘れるだなんて、霊夢も人が悪いぜ」



「‥悪かったわね‥。まぁ、あんたが居てくれて助かったわ。まさか引きこもってこんなことしてるとは知らなかったけど」



「パチュリーのやつがいっぱい本を貸してくれたんだ。独学だから自信が無いが、お前の力が必要なのは明確だ」



魔理沙にそう促され、霊夢は静かに頷いた。



「ええ。これ以上被害を増やさない為にも_あいつを蘇らせてみせる」
本当は昨日更新する予定だったのですが、リモートサーバーに接続できず今日更新と言う形になりました。昨日楽しみにしていた方がもしいらっしゃたのならもうすみませんとしか言えないです‥orz



なにはともあれ、つぎで完結です。そちらもよろしくお願いします。初めてで勝手しらない点が多いですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
ムラカミ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.240簡易評価
4.70名前が無い程度の能力削除
みまさまをわすれるなんてとんでもない!
というかゆうかりん夢幻館に住んでるんですか、門番って頭にチョココロネぶら下げたあの人ですよね?
6.無評価ムラカミ(作者です)削除
はい。一応この二次創作では夢幻館に住んでいる設定です。門番は勿論エリーちゃんです。

なんかいろいろごちゃまぜにしちゃってますが‥(汗)

評価ありがとうございました!
7.80ずわいがに削除
面白かったです。
行き場を失った感情をぶつけ、魅魔のために本気の異変を起こし、封じられる……切ないッス。