『前作はこちら』
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「っていう運命が見えたからプリン食べさせて」
「駄目です」
「ちっ!」
レミリアは咲夜に聞こえるように大きく舌打ちし、そっぽを向く、
幾万はあるこれからの運命の中から特に劇的な運命を御拝聴させたというのに、
プリンを食べさせてもらえなかったのだから、その怒りは当然とも言える。
「ですがお嬢様」
「何よ?」
「杏仁豆腐でしたらこちらに」
「なっ!?」
杏仁豆腐、その言葉を聞いた瞬間にレミリアは椅子から全力で飛び退いた、
その脚力で床は爆ぜ、巻き上がった塵の向こうで咲夜は微笑んでいた。
「咲夜、貴様……」
「杏仁豆腐を愛でる会副会長、十六夜咲夜と申します、以後宜しくお願いいたしますわ」
咲夜はそっとスカートをつまみ上げ、杏仁豆腐が盛られた器を頭の上に乗せて一礼。
「私を裏切ったの!?」
「いいえ、私は最初から杏仁豆腐派です、誰にも追求されませんでしたけど」
「くっ……プリンを作るものが杏仁豆腐派などと誰が思う!」
レミリアの怒声が室内に響く、しかし咲夜はそれを受けてなお微笑んだ。
「では逆にお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「……言いなさい」
「お嬢様が今までプリンだと思っていたものは、はたして本当にプリンだったのでしょうか?」
「っ!?」
その問いを聞いて、レミリアの顔はみるみる青ざめてゆく、
目は段々と虚ろになり、先程までの怒気もどこかに消えてしまっていた。
「まさか……私が今までプリンだと思っていたのは……」
「さて、何だったのでしょうか?」
「う、嘘でしょ?」
「杏仁豆腐とプリンの見分け、お嬢様にはお付きになりますか?」
「嘘! そんなの嘘よ! 嘘だといってよ咲夜! 咲夜ぁ……!」
「嘘です」
「……えっ?」
すでに涙目になりながら見つめてくるレミリアに、
咲夜は心の奥底からほとばしる感情を必死で抑えつつ、飄々と返答する。
「お嬢様がプリンをご所望したのであれば、私が作るのは何があってもプリンです、
確かに私は杏仁豆腐を愛でる会副会長、ですがそれ以前にお嬢様の忠実なしもべですわ」
「ば、馬鹿! 驚かさないでよ!」
「申し訳ございません、お嬢様が可愛くてつい」
「咲夜!」
「あっ、お嬢様……」
レミリアはぽろぽろと涙をこぼしながら、咲夜の柔らかな胸へと飛び込む。
「咲夜の馬鹿……ぐすっ、罰として早くプリンを用意しなさい」
「それは駄目です、といいたい所ですが……今回だけですよ?」
咲夜はレミリアと視線を合わせて一度だけウインクすると、
そっとスプーンとプリンを取り出して、レミリアに一口食べさせる。
「あはっ……愛してるわ、咲夜」
「私もです、お嬢様」
ようやく笑顔が戻ったレミリアを膝の上に乗せて、プリンをその口へと運ぶ、
それはとてもとても微笑ましい主従の姿であった。
しかし、物語は風雲急を告げる。
「美鈴、来週のプリンの防衛スケジュールだけど……美鈴?」
紅魔館プリン貯蔵室、その室内に足を踏み入れたパチュリーは驚くべきものを見た。
「め、美鈴!? これは一体何があったの……!」
そこには全身に杏仁豆腐を浴びた姿で、地面に倒れ伏している美鈴がいたのだ。
「一体誰がこんな事を……!」
志を共にした仲間の無残な姿に、パチュリーは怒りをあらわにする、
そして犯人の捜索を始めた彼女が咲夜に到達するのは必然であった。
「レミィ、これはどういうことかしら?」
「ち、違うわ! 咲夜は杏仁豆腐派だけど! 私の従者で……」
「黙りなさい!」
それは三時のおやつ時、ついにパチュリーは見てしまったのだ、
プリンを食べるレミリアの横で、杏仁豆腐を食べている咲夜の姿を。
「咲夜! あなたが美鈴をあんな目に合わせたのね!」
「美鈴に何かあったのですか?」
「とぼけるつもり? だったらついてきなさい! レミィ、あなたもよ!」
そしてレミリアと咲夜もまた、美鈴の悲惨な姿を目にすることとなる。
「美鈴!?」
「この物体は……間違いありません、杏仁豆腐……です」
レミリアが美鈴を揺り動かす隣で、咲夜はその物体を確認し、途方にくれる。
「紅魔館で杏仁豆腐派は十六夜咲夜ただ一人、これがどういうことか、分かるわよね?」
「ち、違います、私は何もしていません!」
「咲夜……」
「信じてくださいお嬢様! 私は決してこのようなことは!」
「レミィ! 騙されては駄目よ! 私とどっちを信じるの!」
咲夜とパチュリーの間で、二人の視線をその身に浴びるレミリア、
やがて耐えきれなくなってきたのか、表情が少しずつ泣き顔へと変わっていく。
「だって咲夜は杏仁豆腐派だけど、私の従者で……ううー……」
美鈴を抱えたまま、うつむいて震え始めるレミリア、
咲夜はそれを見かねて、口を開く。
「わかりました、ここは私が犯人となりましょう」
「あら、観念したみたいね」
「やったかやってないかと問われれば、やっていない、としかお答えすることが出来ません。
ですがこれ以上お嬢様を追い込むわけにもいきません……パチュリー様、私の捕縛をお願いします」
「……分かったわ」
「だ、駄目よ! 咲夜は違う! 違うんだから!」
「落ち着いてくださいお嬢様、ここは一旦パチュリー様にお任せしましょう」
「咲夜……!」
咲夜はわめくレミリアをなだめ、パチュリーの前に立つ、
パチュリーが指を二度三度と振ると、魔法で出来た縄が咲夜を縛る。
「しばらく隔離させてもらうわ、いいわね?」
「はい」
パチュリーに連れられて部屋の外へ出て行く咲夜、
ドナドナの音楽と共に遠ざかっていくその姿をみて、レミリアは己の無力さを嘆く。
「美鈴が! 美鈴が悪いのよ! こんな簡単にやられたりなんかするからぁー!!」
「おふっ! うぐっ! げふっ!!」
レミリアの細い手に振り回され、杏仁豆腐を飛び散らかしながら、
美鈴の身体は幾十回も地面に叩きつけられたという。
レミリアの恨みは深い、詳しく語るならば、パチュリーの書斎に乗り込み、
パチュリーのテーブルの上で体育座りをしながら、正面から睨み続ける程に深い。
「……いい加減機嫌を直しなさい」
「じー」
「私だって咲夜が本当に犯人だとは思っていないわ」
「じー」
「でも現状では咲夜しか容疑者がいないし、万が一また事件が起きたときに、
咲夜を犯行に関与出来ない状況にしておかないと、無罪の証明ができないでしょう?」
「……ぐすん」
頭を抱え込んで、羽だけで無言の抗議を送るレミリア、
それを受け取りつつも、パチュリーの返答は溜息だけだった。
「ねえパチェ」
「何?」
「真犯人見つけたら……咲夜は犯人じゃないのよね?」
「そうね」
「……探してくる」
「そんな簡単に見つかる訳ないでしょう」
立ち上がりかけたレミリアだが、パチュリーの言葉でまた座る、
そしてパチュリーは再度溜息をつきながら本を閉じた。
「これでまた犯行が起きれば、まず私と貴方が容疑者から外れる、
被害者の美鈴も同様、隔離してある咲夜も同様、妹様ならそもそもあの程度じゃすまない」
「……どういうこと?」
「外部の者の犯行だと確定するのよ、勿論外で犯行が起きてもね」
「何も起きなかったときは?」
「レミィの手で咲夜にお仕置きよ、何をするかは任せるわ」
「いや、咲夜は犯人じゃないもん」
ぷっぷくぷーと頬を膨らませ、パチュリーを睨むレミリア、
しかし先程までの深い恨みはもう感じ取れない。
「ねぇパチェ、真犯人が見つかればいいのよね」
「……でっちあげは駄目よ?」
「しないわよ、真犯人か……」
「私達の手で見つけられればいいけど、美鈴を容易に仕留める相手にそれは危険すぎるのよ」
「パチュリーの気持ちもわかるわよ、でもねぇ……あ、パチェ」
ふと、レミリアが指で机をいじりながらパチュリーに問いかける。
「杏仁豆腐って、どこの料理?」
「中国よ、杏仁豆腐は中国から伝わ……」
その時、二人の頭に電撃が走った。
「まさか……真犯人は美鈴!?」
「落ち着きなさい、美鈴がこんな事をする理由は……いえ、まさか……!」
「そんな事はどうでもいい! はやく美鈴のところに行くわよ!」
「待ってレミィ! いくのは咲夜の所よ! 咲夜が危険だわ!」
「咲夜が!?」
書斎を飛び出し、一直線に咲夜の元へと向かう二人、
そしてパチュリーの予感は的中した。
「ああ、これは随分と早いお出ましで」
「お嬢様!」
「咲夜! ……美鈴!」
咲夜が閉じ込められていた部屋の前に美鈴は立っていた、
捕縛されたままの咲夜をその両腕で抱えながら。
「まさか被害者が犯人だったなんて……やってくれたわね美鈴」
「そんなに睨まないでくださいよパチュリー様、ただ倒れてただけじゃないですか」
「美鈴……今すぐ咲夜を降ろしなさい、でないと穴と言う穴にプリンを詰め込むわよ?」
「おお怖い怖い、ですが咲夜さんは私の腕の中、手出しすればただじゃすみませんよ?」
「くっ……!」
両手両足を拘束された状態でお姫様抱っこ状態の咲夜、
うかつに手を出せば、その身体が杏仁豆腐によって汚されることになるだろう。
「美鈴、あなたの目的は一体何なの? 私をさらってどうするつもり?」
「決まってるじゃないですか、勧誘ですよ」
「勧誘……?」
「はっ! 美鈴、まさか貴方は!」
その一言にパチュリーは美鈴の正体に感づく、
そして美鈴も隠す気はないのか、不敵な笑みとともに正体を名乗る。
「そうです、私の真の姿は……スイーツタイムを守る会副会長、紅美鈴!!」
と同時に地面が爆散し、土煙の向こうに美鈴と咲夜の姿が消えた。
「なんてこと! 美鈴がスイーツタイムを守る会の副会長だったなんて!」
「喋ってる暇はないわパチェ! 早く後を追うわよ!」
初速から全開で美鈴の後を追うレミリア、
パチュリーが追いついてこれない事を知っていても、
その速度は一切緩めずに全速力で飛び続ける。
「降ろしなさい美鈴!」
「駄目です、咲夜さんにはこれから本部まで来ていただくのですから」
お姫様抱っこの状態のまま、美鈴を強く睨みつける咲夜、
二人にはすでに外に通じる門が見えてきていた。
「美鈴」
「何です?」
「どうして私を狙ったの?」
「咲夜さんには、そのスイーツタイムを守る資格があるからですよ」
「資格?」
「ええ、杏仁豆腐派でありながら、プリン派であるお嬢様を受け入れるその共存の心、
それこそがスイーツタイムを守る者に何よりも必要なものなんです」
スイーツタイムを守る会、この幻想郷において唯一複数のスイーツを信仰する会である。
「スイーツを食べるときはですね、誰にも邪魔されず、自由で、
なんというか救われてなければ駄目なんですよ、皆で楽しく、豊かに……」
「……美鈴」
「このような手段に出た事は謝ります、ですがお嬢様方にも分かっていただきたかった、
スイーツは争う為のものではないと、争っていてはこのような事しか起きないのだと」
「それでも……貴方のした事は許されることじゃないわ」
「……でしょうね、罰は甘んじて受け入れます、ですがせめて咲夜さんに我が会の説明だけでも」
「はっ!? 美鈴! 上!」
「えっ――」
ほんの少しだけ会話をかわして、少しだけ理解しあう咲夜と美鈴、
しかし、無情にも紅い閃光が二人がいたところをなぎ払った。
「咲夜ーっ!!」
外までもう少しという所で巻き上がる土煙、
遅れて追いついたレミリアはその中から必死に咲夜を探す。
「お嬢……様……」
「咲夜! 大丈夫なの!?」
「私は大丈夫です……ですが、美鈴が……」
「そうよ、美鈴はどこ!?」
「美鈴が私をかばって……」
咲夜が手を伸ばした先に美鈴はいた、
無残にもその身の大部分に重症を負った姿で。
「アハハハハハハハハハ!!」
「この声は……!」
天井の方から甲高い笑い声が聞こえてくる、
徐々に晴れていく土煙の向こうに、大きく色鮮やかな羽が映し出される。
「あなたが……やったのね!」
「ええそうよ、私がやったの、この私……」
それは新たなる戦いの始まりの合図。
「スイーツを奪う会副会長! フランドール・スカーレットがね!」
『一体いつからこの対立は始まっていたのか、姉妹の仲を引き裂くスイーツへの思い、
プリンによって保たれていた平和は崩れさり、新たなる勢力が台頭を始める、
次回「日本人なら白玉ぜんざいを食べるべき」こうご期待』
.
「スイーツを食べるときはですね、誰にも邪魔されず、自由で、
なんというか救われてなければ駄目なんですよ、皆で楽しく、豊かに……」
この言葉に不覚にも目頭が熱くなった。
フランドールがいちばんフリーダムだな!
がーんだな…出鼻をくじかれた
え、次回は白玉楼じゃないの?
キャラメルプリン派はおらんのか!?
確かにミルクプリンはよいものだ
これは巫女が動いてもいいレベル
会長は何処へwwwwww
これが有名な終わる終わる詐欺ですね、わかります。
どうでもいいけど、子供んころ好きなお菓子水無月って書いたら誰も知らなかったなぁ
抹茶プリン、略してチャップリンでも食べようじゃないか。和洋折衷なスイーツだし
牛乳寒天もおいしいよー
そうだと言ってくださいお願いします
それなら私は、どこ入ろうかな~。
二度有ることは三度……次回有るよね?
でも、そういいながら俺たちの予想を裏切ってくれたんだ…
だから今度も、いいや必ず…
俺はもちろん杏仁豆腐派ですょ。
元々好きな杏仁豆腐。それが神奈子様と咲夜さんの存在によって揺るぎないものとなっております。