Coolier - 新生・東方創想話

ちょっとした看病のおはなし

2010/03/17 04:16:45
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 これは、二人の話。
 ふたりの
 おはなし

 ※

 昼。幻想郷の昼。昼の幻想郷。
 昼間。神社の昼間。昼の神社に、紅白の巫女が一人。
 夏は昼間の日差し。少少厳しいものがある。彼女も其れからは逃れられず。休憩と云う名の怠惰を貪っている。

 一人の巫女は、傍らに箒を置く。落ち葉掃きの途中を演出したいのだ。残念なことに、季節は夏だ。
 今日も巫女は一人。神社で一人茶を飲み、茶請けに手を伸ばす。
 手は空を切った。

 果てさて、何ゆえ手は空を掴んだ──思う紅白、視線を巡らせる。
 其処に茶請けは無い。代わりに少女が腰掛けている。金髪と紫の少女。
 茶請けは既に腹の中か──嘆息する。怒りが腹底から生まれる。

 喉を駆け上がった怒りが口から飛び出した。

「私のお茶請けは何処に?」

 巫女は怒る。答えは自明。

「あらら、非道い。私はお茶請けの精ですわ」

 少女は笑う。意味は不明。

「何を巫山戯た事を。妖怪の賢者が、人の御菓子を盗み食いとは随分落ちぶれた」

 非道い──賢者は再度笑う。
 何を云おうと、のらりくらりと逃げられる。巫女は怒りを嚥下した。
 少女が立つ。巫女は睨む。

 少女が宙を歩く。
 巫女が空に浮く。
 弾幕ごっこ。

 光弾が舞う。残滓は軌跡。否、軌跡が残滓を生む。其れが印すは空の文目。
 巫女は絵画の中を抜ける。隙間を縫い、時には引き付ける事で間隙をつくる。
 いつものこと。彼女達にはいつものことだ。そして巫女が勝つ事も。いつものこと。

 の筈だった。

 落下する。紅白の影。
 巫女が
 墜落

 ※

 巫女が覚醒する。神社の内部。彼女の自宅。
 顔を覗き込むのは少女。神妙な顔。心配そうな顔とも云う。
 珍しい──。

 なんだか頭がぼうっとする──巫女の思考に霞が掛かる。
 上手く声が出せない。いや出せる。出せるが上手く出せないだけ。
 必然的に甘えるような声になる。弱い声とも云う。ぅん──矢張り上手く声が出ない。

「珍しいわね、貴女が当たるなんて」
「むぅ──確かにそうね」

 巫女が弾に当たる事など滅多にない。なら彼女は調子が悪いのだ。
 異常。通常ではない。巫女も、少女も、其れを感じ取っている。
 ふふ──少女が笑う。

「今日は付きっ切りで看病してあげようかしら」
「ええ、気持ち悪い」

 夏風邪かしらね──さらりと流して少女は云った。
 巫女の額に手が重ねられる。雪白の手套越しの手。冷たい、と巫女は感受した。
 何故か心が落ち着いた。心がふわふわとする。頭がくらくらとする。

 ──どうやら少し、風邪っぽい。巫女は漠然とそう考えた。
 少女が己の額に手を当てている。自分の体温と比べているのだ。
 ん、と巫女が云うと、額から手が離される。其の手の冷たさに、恋恋たる想いを抱いてしまう。

「少し熱っぽいわねぇ。もう少し寝てなさい」

 少女は云うが、其処は巫女とて強がる。
 別に、大丈夫よ──立ち上がる。今や立ち上がるのにも一苦労を強いられる。
 身体の重心が一定しない。ついに巫女は転ぶ。

 少女が抱きとめた。

「危ないわね。寝てなさいなと云っているのに」

 そう云って、巫女の頭を己の膝上に置いた。

「止めてよ、恥ずかしい」

 巫女は逃げようとするものの、其処は病人の力。健康体である少女の力からは逃れられず。
 諦めて身を預けた。巫女の顔を覗き込むのは、人形の様な、白磁の肌をした、整った顔。
 口元は嬉しそうな笑みを浮かべていた。楽しんでいるのかな──巫女は何と無く考えた。

 善い匂いがする。少女の香りだろうか。落ち着く香りだ。瞼が重くなる。
 こんなことが、何時かあったような
 錯覚

 ※

「お水」
「はいはい」

 喉が熱い──全身が熱くて寒い。
 苦笑と共に少女が巫女に水を飲ませる。
 身体の熱は少し和らいだ。

 ※

「はい、あーんしなさい」
「むぅ──」

 巫女の口元に、少女の作った粥が運ばれる。
 身体の内側から温まった。

 ※

「後はぐっすり寝て、英気を養いなさい」
「ん」

 少女の手が、巫女の髪を掻きあげる。
 心が少し、拠り所を得た。

 ※

 巫女はふう、と目覚めた。既に新しい日が昇っていた。
 彼女の傍らには少女が居た。巫女に寄り添うような、母親のような姿で眠りこけていた。
 紅白は目を細めた。そして昨日の記憶を掘り起こし、見る見るうちに顔が朱に染まる。

 まるで赤ちゃんじゃない──言葉にしてみると、恥じらいは一層強くなる。
 すっかり調子は元に戻っていた。気だるさも無く、昨日の身の重さが嘘のようであった。
 しかし恥じらいに身悶えると云う症状を発症してしまった。其のうちに治まる。

 甘い声を上げて、少女が目覚めた。寝ぼけ眼で、しかし巫女を手探りで探している。
 巫女の転がり回る音が騒騒しい事もある。否、其れが原因だ。
 彼女は蒲団に巫女が居ないことに気が付く。
 顔が青くなる。
 直ぐに巫女が転がり回っている事に気付く。
 頬が安寧の朱を帯びた。

「何を転がっているのよ」
「否、人生を巻き戻せるかなーと」
「そいつは結構な事ね。博麗の巫女も変人ねえ」

 矢張り口をつくのは憎まれ口。其れが彼女等の普段どおり。いつもの日常、常識の側。
 日日は動く。其の常識も、日常も姿を変えて行く。留まり続けるものなど無い。
 それでも、

「ありがと──ね」

 この日常は、
 この友人は、
 この世界は、

 何時までも留まり続けて欲しいと願う巫女だった。

 ※
 
 顔合せ 憎まれ口を 叩けども 母の面影 彼女に重ね

 ※

 これは、二人の話。
 ふたりの
 ちょっとした
 看病の
 おはなし。

 ─了─
こちらでは初の投稿になります、コストルです。
今回は初投稿という事で、落ちも山も無いありがちな話をありがちに調理してみました。
アイディア勝負なんて私のような凡夫には無理というもの。
ぼちぼちありがちなネタを自己流で調理して行こうかと思います。

母ちゃんって大事ですよね。
あとふたりってひらがなでかくと、ふたなりって読んじゃうのは私だけじゃないはず。
コストル
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コメント



0.630簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
あとがきの最後の1行でふいたwww
8.100名前が無い程度の能力削除
これはよいゆかれいむ。
暖かい気持ちになれました。