―――逢魔ヶ時、永遠亭中庭。
魑魅魍魎達が動き出す黄昏交じりの二色の空。月の姫君が隠れ住むと云われる日本屋敷。奴らは集まり、恐怖の集会を開こうとしていた……
* * * * * * *
「揃ったわね?」
化け物達は頷く。
「では……193回」
「チルノちゃん。それ前々々回」
「……」
こほんと一息。
「兎に角! 最強会会議を始めるわ!」
氷精―――チルノが宣言した。
「大ちゃん。出席を」
クスリと笑い、翠髪の大妖精が会員達の出欠を取った。
「会員番号3、ルーミアちゃん」
「うい」
「4、リグルちゃん」
・・・
一通りの出欠を確認。
参加者は会長のNo.1、チルノ。副会長(チルノが勝手に決定)のNo.2、大妖精。
その他一般会員……No.3、ルーミア。No.5、ミスティア。No.6、橙。No.9、萃香。No.10、メディスン。
No.11、諏訪子。No.12、こいし。No.13、キスメ。No.14、空。No.15、ぬえ。
チルノはふむと顎を撫で、一同に問うた。
「リグルとフラン、てゐは休みか……理由は?」
「仕方ないねー」
ルーミアが団子を頬張りながら呟く。
「何が仕方ないのよ?」
「フラン」
会員番号7番、吸血鬼―――フランドール・スカーレット。
「ん……家庭の『しじょう』ね」
「チルノ。それを言うなら事情でしょ?」
「『私情』よ、レミリアの。難しい事情なんかじゃないわ」
「ククク。言うねえ」
ミスティアの突っ込みにヤレヤレと首を振る氷精。それを楽しそうに笑うルーミア。
多くは『?』顔だが、数名は『ほう』と不思議そうにチルノの顔を見つめていた。
フランドールは紅魔館『領内』から出る事が出来ない。
一種の軟禁状態とでも言うのだろう。それは彼女自身の心身の事情によるものだが……チルノの考えは違った。
「フランを外に出せない? 莫迦じゃないの? どんだけ過保護なのよ」
「そう言ってやるなって。レミリアも考えあっての事だし。あの子(フラン)の意志とは別に『もしも』があったら大変でしょ?」
萃香が苦笑しつつ、チルノを説得した。
「だったら、アタイ達が『止めてやればいいだけ』よ」
「……もういいや」
自分を曲げようとしない『さいきょー』さんに何を言っても無駄だった。
まあ、一同彼女の其処に惚れ込んでいるのだが。
「で、リグルは?」
会員番号4番、蟲姫―――リグル・ナイトバグ。普段なら絶対に欠席する事の無い、『最強会』古参のメンバーだが。
静かにキスメが手を上げる。
「今朝、ヤマメが、お話有るって……何処かに、連れてったよ」
「ありゃ? 誰か知ってる?」
誰も知らない風。何でも屋のルーミアの方を見るが、何時もの様に『面倒臭い』とは言わず、ただ首を振っていた。
「無断欠席は頂けないわね」
「まぁ、後でお話聞こ。ちょっと最近、リグルちゃん様子が変だし」
「うむぅ」
大妖精に宥められ、チルノは渋々納得した。
「んで、てゐだけど……永遠亭(此処)、アイツん家じゃない! なんで不参加なのよ?!」
会員番号8番、妖兎―――因幡てゐ。こちらも割と古参で休みは少ない。
ダルそうに、諏訪子が手を上げた。
「昼頃、天魔のとこで見かけたね」
「天魔? ああ……天ちゃんか」
「『大事』な話なんじゃない? 興味無いけど」
『山』の大将と、幻想郷兵力数現存2位の妖兎の長の話し合い。なにやら物騒な香りがする。
「知ったこっちゃないわ。『会議(こっち)』の方が大事に決まってるでしょ!」
それはない。
「ま、まあ、チルノちゃん。いないものは仕方が無いよ」
「ったく、もう」
橙に鎮められ、チルノは会議に戻った。
「兎角! いない奴らは次回、嫌と言うほど絡んでやるわ! 皆、質問考えておきなさい!」
「やれやれ、『つんでれ』だねぇ。チルノは」
「んな!? べ、別に構ってやるとか寂しい思いしてるんじゃないかとか、そんなんじゃないわよ!」
ニヤニヤ。可愛いなぁ、もう。といった感じの面々。
「むきー! いいから始めるわよ! 今日の顧問はけーねと……特別顧問のレティよ」
「仲良くな」
「永遠亭にご迷惑かけちゃダメよ」
『はーい』
顧問二妖が礼をする。
雪女―――レティ・ホワイトロックは期間限定で『最強会』の特別顧問を行っている。
特に理由は無いが、強いて言うならチルノがやたら彼女を引っ張り出すからだ。無論紹介の際、これまた一同ニヤニヤするのだが。
真っ赤なチルノはそれから、縄でフン縛った兎の耳を掴んだ。
「今日は準会員のれーせん君を参加させます」
「……チルノ。覚えてなさいよ」
「あー。聞こえない聞こえない」
何故か準会員扱いされている月兎―――鈴仙・優曇華院・イナバ。諦めたように肩を落し、会員達に頭を下げた。
「それでは、最強会! 始めるわ!」
最強達の会議が今、始まる……
* * * * * * *
上白沢慧音は妖兎から出されたわらび餅を頬張りながら、彼女達のやり取りを見つめていた。隣には同じくわらび餅を食べているレティ・ホワイトロック。
流石永遠亭の和菓子。文字通り頬が落ちそうなほどの甘味だ。
「貴方も大変ね。毎度毎度、子守りみたいな事を」
「ん? ああ、まあ『子守り』と言うには語弊があるけど」
二妖して苦笑。『顧問』と言えば聞こえがいいが、要は態の良い監視だ。
この最強会……初めはチルノが「カッコいいから作る!」と言ってスタートしたものの、今や、何故か組織一つで国一つ落とせる戦力になってしまっていた。
加え、各所の『御令嬢』や『頭(かしら)』が所属している。いろんな意味で『もしも』があっては大変だ。
故にこれを按じたある組織が、監視がてらに顧問を置くよう各所に通達したのだ。
今日の担当(ローテーション)は自分。
「本当は寺子屋での会議だったのだがな」
「え?」
「色々あって、永遠亭(此処)を借りた」
「何かあったの?」
「……」
慧音は眉間に皺を寄せ説明を始めた。
なんでも昨今、里の人間達の中に妖怪らを嫌悪する団体が発束(はっそく)しているらしい。
本来、人間と妖怪は相見えぬ存在であるが、幻想郷ではその均等が成り立っていた。仮初めではあるだろうが。しかし、それを『善し』としない人間も必ずしもいるのである。
「例えば、妖に親しい者が殺された者」
「……又は、根本からして妖を『悪』と決めつけている者。ってとこかしら」
中にはそういった『人間』達も少なくなかった。其処の所に詳しい宵闇(ルーミア)に言わせれば……
『霊長類の抑止力ってヤツだねぇ。どっかの心理学者だか哲学者が名前付けてたけど、忘れたよ。
潜在的・無意識下で其れは働いちゃうから仕方ないよ。妖怪(私)達だって似たようなのいるし』
……だそうだ。
「難しい哲学は分からないが、要は幼くても妖は妖。快く思って無いらしい」
「それで、『万が一』が起らない様、永遠亭を借りたわけね」
守矢の一柱や元鬼の四天王らといえど、『万が一』が無いとも言えない。あった場合は最悪……幻想郷の人妖バランスが崩れかねないのだ。
人里で、更に人間から仕掛けたとなれば尚の事。
「ああ……命蓮寺も頼んでいたんだがな。そうだ。オマエさん、知ってるか? 去年の春頃にできた新参寺」
「ええ。チルノが自慢げに教えてきたわ」
なんとも、一年間の内に話したい事が沢山あったのだろう。
さておき人里の最早新参では無い命蓮寺だが、此方は先と打って変って人妖平等を謳っている。
慧音は始め命蓮寺(あそこ)なら大丈夫だろうと住職―――聖白蓮にお願いしていたのだが……急に法事ができたらしい。
「誰か亡くなったの?」
「……」
「私が話しましょうか?」
振り向く。
其処には亭主―――蓬莱山輝夜が立っていた。
「之は姫様。久しゅう御座います」
「よいよい、白岩」
「ふふふ。せめて名前で呼んでよ」
「『レティ』を大和言葉で、如何直すか教えて頂戴。そう呼ぶから」
駄目だ。口でこの姫に勝てない。
「で、さっきの続きだけど……慧音」
「ん、ああ。話していいぞ」
「そ」
其処から輝夜がレティへ説明を始めた。
聖達は今日、『山』へ葬儀に向かったらしい。亡くなったのは……多くの、蟲妖。
「……だから、リグルがいないのね」
「そう。彼女も『姫』だから」
レティが幻想郷に『渡ってくる』少し前に、『事件』が起きた。その時、犠牲になったのが蟲達だった。
「でも、『山』なら守矢の管轄じゃ?」
「天狗が、ね」
「……そう」
地位の高い天狗達の多くは守矢信者である。理由は単に現在の『山』の頂点が二柱であるからというものだ。
純粋に守矢二柱を崇拝している者もいれば、建前の裏、二柱の甘い汁を吸おうという下衆もいる。
兎角如何いった形であれ、地位の高い妖達が低い蟲達と同じ宗派にいるのは嫌だという事で、信者として認めていないのである。
余談だが、天狗頭領―――天魔は『博麗』信者だ。『山』実力者の一妖である鴉天狗―――射命丸も微妙なラインで『博麗』信者。
ただし『個人的』には(天満、文として)、神奈子や諏訪子と仲は良い。
話を戻す。
「それを神奈子や諏訪子が許してるのかしら?」
「許して無いわよ。でもね……政が絡んじゃうのねぇ」
「残酷だがな。リグルが、一番苦しんでいるよ」
蟲達は縋る(すがる)モノが欲しかった。其処で、選んだのが『聖母』だったのである。
「命蓮教なんて過去の産物……まあ、だから幻想入りしたのかしらね」
「其処はどうでもいいのだろう、縋れれば。それに聖は良い人格者だ。安心して蟲達を任せられる」
「『縋る』かぁ……嫌ね」
「仕方なかろう。輝夜だって宗教者じゃないのか?」
「んー……私は破門された身だから」
「……すまない」
月(神道)から堕とされた。
「気にしないで、どうでもいいことだし」
「ふーん……で? 命蓮寺が駄目になったのは分かったけど、如何して永遠亭になったの?」
「丁度人里にいた鈴仙とてゐに駄目元で頼んだら、OKだった。これだけだ」
「へぇ」
勿論、輝夜もOKした。
基本暇人である。お守りだろうが監視だろうが、暇潰しになれば万々歳だ。
「てことで、私も『顧問』ね」
お茶目にウィンクする姫。二妖は苦笑。
「時に、てゐはどうした? 永琳も」
「てゐは天魔と話し合いでしょ。私が『幻想入り』する前からやってるみたいだから、口は出さないわよ。
永琳は……ちょっと、ね」
「「え?」」
真逆(まさか)、あの天才医師が。病気は有り得ないし、一体何が……
「ま、あの堅物でも其れ相応に女性らしい悩みが―――」
―――スコーンッ。
「「……」」
「―――……ない、わ、ね。あぅ」
何処からともなく飛んできた矢に頭をブチ抜かれ(見事に貫通)、バタリと倒れる輝夜。数秒後には『復活』するが、子供達が見てなくてよかった。
「痛ちぃ。とりあえず……色々あったのよ。詮索しないでおいて」
「あ、ああ」
笑えない。
……何はともあれ、慧音達は顧問活動に戻る事にした。
会議場では、丁度チルノが鈴仙の縄を解いて議題に入ろうとしている所だった。
* * * * * * *
「今日は既に議題を決めている!」
『おお!!』
氷精が鼻高々に一同へ告げた。
以前、会議の議題をまったく決めていない状態で会議に臨んだ経験のある彼女。無論、周りから呆れられたが……経験が生きているようだ。
腰に手を当て、胸を張るチルノは声高らかに告げた。
「今日の議題は……『海』よ!」
『……うみ?』
何を言うかと思えば、幻想郷に『在りえない』モノを討議すると言いだした。
大妖精は元から知っていたのかチルノの隣でニコニコ微笑んでいる。皆言いたい事はあるが、敢えて口にはしなかった。
「さて諸君。この中で、海を見た事がある者は手を挙げたまえ」
唐突。中には『海』の概念さえわからない妖もいるだろうに。
一同の呆気に取られた顔を見てまずいと感じた大妖精が、チルノに小さく耳打ちした。
「―――……」
「む。そうね……れーせん君」
「へ?」
「『海』とは、なんぞや」
いきなり話を振られた鈴仙。なんと答えればいい。簡単にでいいのか?
いやしかし、最強会(ここ)には其れなりに学が有り、長い年月を生きた妖怪・神様だっている。多少、哲学的に答えた方がいいのか?
だが議題を提示したのは、所詮妖精。小難しい事なんか要求してないだろう。
……そもそも、自分が答える必要があるのだろうか。
「えっと、う」
「時間切れ。まったく、マダマダね」
「……」
なんか、納得いかない。
鈴仙を莫迦にするように笑い、チルノは彼女の膝上へ腰掛けた。
「アタイが教えてあげるわ! いーい? 『海』っていうのはね……でっかい湖よ!」
『……』←(『海』を知ってる者)
『へえ』←(『海』を知らない者)
誰か突っ込めよ、間違って無ぇけど。といった漢字で、学の有る者達は目を泳がせていた。
「あのね!
みずうみというのは、もともと『うみ』からはせいした『ことだま』で、とうじ、『うみ』のしおみずを『みず』とよんでいなかったものたちが」
「……チルノ。待って」
「その棒読み、何?」
ミスティアとぬえが冷静に突っ込む。
「ん? 霖之助が教えてくれたの」
「……みすちー。ちょっと香霖堂まで煙草買ってくる」
「我慢なさい。少なくとも、会議中は……後で私も行くから」
勿論、オツムの弱い妖精ちゃんに神様もドン引きな、トンデモ妄想知識を植え付けた阿呆店主の粛正に。
二妖と同じくヤレヤレと頭を掻き、横の一柱が溜息交じりに告げた。
「チルノ。それ『間違い』よ。海をまったく知らないだろう、お空やメディスンでさえ違うってわかるから」
「なんと!」
しかし残念。二妖は『え?』といった風。諏訪子は心底呆れたが、話を続けた。
「第一……なんで店主になんか聞いたの」
「本を貰ったからよ。コレ!」
バッと何処からか本を取り出す。写真集の様だ。
皆に見える様に数ページ捲らせるチルノ。一同はそれを覗き込む。様々な顔をした『海』が載っていた。それを見て感嘆の声を上げる者もいる。
「へへへ。アタイの宝物の一つよ!」
「わかったから。で? 何で店主に聞いたの?」
「聞いたんじゃなくて、勝手にベラベラ話しかけてきただけ。なんか楽しそうだったから聞いてあげた」
『……』
なんだか、可哀相になってきた。
「ま、兎に角。大きな水溜りよ!」
「もういいや、それで」
神様が折れた。
「で、だ。始めの討論に入るわよ。この中で『海』を見た事有る妖、手を挙げなさい。
あ! 顧問も混ざっててね!」
傍から見ていた慧音、レティ、輝夜に声を掛ける。
三名は顔を見合わせ苦笑しつつ、円の中に入って行った。因みに―――
『海を見たこと有る』……大妖精。ルーミア。橙。萃香。諏訪子。ぬえ。レティ。
『見たこと無い』……チルノ。ミスティア。メディスン。キスメ。空。慧音。
『不明』……こいし。鈴仙。輝夜
―――となった。殆どが疑問に思った事。『不明組』について、萃香が尋ねる。
「なんだそりゃ?」
「んーとね、判断が微妙なの」
「多分、私達(輝夜と鈴仙)は同じ理由ね」
「んじゃ、こいしから」
「ちょ! 議長はアタイよ!」
萃香が勝手に司会をするが、誰も気にしない。こいしは頬を掻きながら首を傾げて答えた。
「記憶が曖昧っていうか……お父さん(ベアード)に連れて行って貰った事がある気もするけど……
でも、そんなことは無かったぜっていう気もするし……」
「……わかった。あんまり深く考えるな」
「うん」
最強会の中で最も行動言動思考が読めない娘。古明地こいし。多分、幻想郷内でも彼女の頭の中を読める人妖はいないだろう。
「じゃあ、輝夜達」
「だからアタイが!」
「チルノちゃん、少し黙ってよう?」
「……おぅ」
大ちゃん。怖い。
輝夜はお構い無しに、話を続けた。
「『月の海』と『水の惑星』なら、腐るほど見ていたわ」
「同じくです」
「成程……」
一部の者達からすれば、よっぽど興味深い話題だ。
「チルノ」
「……何よぉ」
「あはは。拗ねないでよ。この二妖からは最後に話を聞こう。なんか、面白そうだから」
「ふん! 言われなくてもそうするつもりだったわよ」
頬を膨らませ、上目遣いで萃香を睨むチルノ。可愛い。
「ごめんごめん。ささ、話を続けて下さいな。『最強議長』殿」
「む……まぁ、いいわ。それじゃあ……どうしよ」
また考え無しかい。ヤレヤレと慧音が助言を入れた。
「ではチルノ。『海』を知ってる者達の話を一妖一妖聞き、それ最後に皆で質問していくというのは如何かな?」
「成程! いいわね、流石『けーねせんせ』だ。褒美に妹紅か霖之助を××××していいぞ!!」
「だだだだ、誰だァッ!! チルノに、は、は、破廉恥な事教えたのォッ!!」
茹でダコけーね。空かさず、チルノは呟く。
「文が、こう言えばけーねが喜ぶよって」
「あ・の・弩助平年増天狗ゥッ!!」
「きゃっ。流石、文屋ね」
「あらあら」
何処からか大きなクシャミの音が聞こえた。
* * * * * * *
チルノの進行の下、討論というなの質問会が始まった。
「まず大ちゃん」
「あ、はい。そうだなぁ……私の『故郷』なんだけど」
「はい!」
輝夜が、手を挙げた。
「ぐーや君。自重しなさい」
「大妖精の『故郷』って何処?」
「……で、『海』に囲まれた島で」
「無視っ?!」
大妖精は微笑み、輝夜に言った。
「……『月』よりは、良いとこです」
「くっ……意地でも教えない気ですか。そーですか。ぐやぐれちゃうもん」
「はいはい。質問は最後に、大ちゃん続けていいよ」
膝を抱えて地面に『もこたん』と書き綴る輝夜。
少々可哀相に思った大妖精は微妙に暈しつつ、話を続けた。
「私の故郷は北欧・西方の果てに在るの。だから此方(東方)と違って日が最後に落ちていく。
その時……海は赤く、金色に輝くんだ」
『へえ』
気付いている者もいるが、大妖精の故郷―――妖精郷は『黄金郷』や『理想郷』とも云われる場所だ。
『賢者』達から言わせると、『西の幻想郷』らしい。妖精が住み、神が住み、英霊達が住むと云われる郷。
其処は、手に入らないモノが無いと伝えられるほどの『理想郷』。
……故に、権力者・実力者達から狙われる。
(東に幻想、西に理想有り……か)
慧音は嘗て友に教わった言葉を思い出した。
「皆優しくて、皆笑ってる。幻想郷みたいな場所だよ」
「清い者しか住めない郷……なんか天人思想みたいね」
「うーん……そうなのかな」
レティの呟きに苦笑する大妖精。
「でも、なんで東方(コッチ)に来たの?」
「……来ざるを得なかった。ぬえちゃんだって、『地底に潜った』時の話、ベラベラ喋れる?」
「うっ、ごめん」
詮索屋は嫌われる。暗黙の了解だ。
大妖精の話が一通り済んだところで、チルノが会を進めた。
「うしっ。大ちゃんありがと。アタイも『光る海』見てみたいね」
「ふふ、『何時か』ね」
「うん。んじゃ、次はルーミア」
「んが?」
ちゃっかり笹饅頭を口いっぱいに頬張っていたルーミア。
「まっふぇ……んぐっ。ぷはァ……そうだなー、私色んな『海』見てるからなー」
「すげぇ。それじゃ、今までで一番心に残ったヤツを!」
「んー」
ルーミアは暫く考え、ボソリと答えた。
「まだ、海が一つだった頃……」
『?』
何を言ってるのだ。
「私意外と眼が良いからさ、大陸の逆端が見えた」
「ルミャ、何言ってるか分からないわ」
ミスティアが説明を求めた。
「うーん……『穢れ』とか『崇高』とか、そういったものが全く無かった頃の海。
兎に角、澄んだ水が一繋ぎとなっていたよ。大陸も一繋ぎに」
「おいおい……何時の話だ?」
「忘れちった」
殆どが、話についていけてないのだがルーミアは続ける。
「どっかの学者さんは『パンゲア』とか言ってたかな」
「ッ?!! に、二億年以上前?!」
『えええっ!?』
ざっと計算した慧音の発言に一同驚愕。ルーミアは口を尖らせ、ジト目で告げた。
「……何よ。悪いの?」
悪いというか、なんというか……
「永琳以上……」
「紫様より上……」
「あ、紫はいたよ」
『ゲェ!?』
もう、何がなんやら。しかしまあ、参考にならない。話が脱線してしまう。
「る、ルーミア。其処まででいいわ」
「ん、そ」
これ以上参考にならない。宵闇は二返事で再び、饅頭を摘まみ出した。
チルノはオーバー寸前の頭を切り替え、次の妖に移る。
「じゃ、橙」
「うん。えっとね、去年の春。藍様と紫様とその御友人でディ○ニーシーに」
「其処まで!」
言わせちゃいけない。というか、何をやってるんだ。八雲家は。
「えっと……それじゃあ、私も妖になる前の記憶で。うろ覚えだけど」
「始めからそうしなさいよ」
橙が何時『妖怪』に化った(なった)かはわからないが、故郷ということだろう。
「私は東北の方にいたんだけど、断崖絶壁の海岸が多くてね」
「『だんがいぜっぺき』って、何?」
空が首を捻った。
「えっと、リアス……じゃなくて」
「入組んでる滝の下が大きな湖になっているイメージよ」
「にゅ。なんとなく、わかったかも」
「レティさん。ありがと」
橙は話を続けた。
「それでね海と空が『交わってる』所がはっきり見えるんだけど……ある時、海が空に『飲まれる』の」
「『飲まれる』っていうと?」
「数秒足らずで、黒い雲が覆うんです。そして、野分き(台風)のような雨が降り出します」
「ほぉ」
橙は全身を使い、ジェスチャーでその様子を顕わした。
「海が怒り狂った様に荒れます」
「海が怒るの?」
「怒るっていうか、波が荒げるっていうか」
「波?」
……成程。根本から教える必要があるようだ。
慧音が分かって無い連中(主にチルノ、メディスン、キスメ、空)の為に、軽く説明を入れる。
「『波』というのは水が揺らいだ時に出る迫上がりの様なモノだ」
『へ?』
「お風呂や湖で水面が揺れているだろう。アレが『波』だ」
流石、教師。分かり易い。
「海に波が立つのは地球の自転・公転によるものだが……ここまでいくとパニくるだろう。
様は水の中に手を突っ込み、力強くかき混ぜる。すると、どうだ。水面がいつも以上に揺れたり跳ねたりするだろう。
それが『荒げて』いる状態だ」
『へえ』
コクリと頷く4名。しかし、チルノが喰いついた。
「じゃあ、れーせんの能力で抑えれるね」
『は?』
「……『波』長を弄るからかしら?」
「うん」
輝夜が気付き、チルノに問うた。
成程、確かに鈴仙は波長を操る事が出来る。しかし、『波』自体を如何こうしようなんて考えた事も無かった。
「イナバ。できるの?」
「いやぁ……試した事無いですから」
「じゃ、そのうちやってみましょう。諏訪子。お宅の湖貸してね」
「ざけんな」
何故か鈴仙の実験を行う約束を取り付け(無理やり)、橙の話に戻った。
「えっと、まあ海は優しい顔だけじゃないってことだよ」
『はーい』
ある者は海の様々な様子を想像し、ある者は実際海に顔が付いている様を想像する。
ただ……ルーミアは「呆け茄子ポセイドンの野郎思い出しちまった」と舌打ちし、輝夜は「大綿月(ワダツミ)のオジ様元気かしら」と呟いた。
さておき、慧音が幾らか説明を入れた。
「うん。因みに解説だ。橙が見た黒い雲。それは多分、『ヤマセ』だろう」
「『やませ』、ですか?」
「ああ。東北地方の沿岸部では見られるらしい。暴風雨(スコール)程ではないが、急激に天候が変化する。それはそれは壮大だと聞くな。
兎角、その所為で海が荒れたんだろう。私も見てみたいが……まぁな」
自分は、幻想郷から出れない身だから。という言葉を呑みこんだ。
「チルノ。次の話を聞こう」
「ん、おう。じゃあ、萃香」
「えっと……―――」
* * * * * * *
暫くして、残りの萃香、諏訪子、ぬえの話が終わった。
「―――……てな感じ。ムラサの方が海には詳しいと思うから、こんど命蓮寺(うち)で話を聞くといいさ」
「へえ。しかし、萃香さんも諏訪子さんもぬえも、色んな海見てるのね」
「って言っても、『日本』のね。長く生きてるとブラブラするもんだよ」
されど、海を知らない者からすれば憧望の眼差しを向けられる事に、違いは無い。
特に先の4名の眼がコレでもかというほどに光っていた。
では最後にと、レティの方を向いた。
「そうね……北の海の話をしましょうか」
レティの故郷だろうか。
「故郷というわけじゃないけど。海がね、凍って『いた』のよ」
海が凍る?
「とっても寒い所でね。夜空に『虹』がかかるの」
「すごい! 魔法使いがいるの?」
「ふふふ。どうかしら」
無論、外の世界に魔法使いがいるとも思えないが、子供達の想像は広がる。
「アタイ知ってるよ! オーロラでしょ、それ!」
「正解。夜の空に弾幕が広がるみたいで綺麗なのよ。
でもね、一番美しいのは……それが海一面に写った様子を眺める事かしら」
「ほぇえ」
海に写るオーロラ。これまた雅なものである。一同が感動している最中、姫が口を開いた。
「見てみたいものね……でも、昔って?」
「ええ。今は、まあ今も凍ってはいるのだけれど、昔に比べたら溶けてしまったわ。氷」
首を傾げた。
「『外』の世界ではね、海が『上がって』来ているの。勿論、人間の所為でね」
「人間って、そんな力、持ってるの?」
キスメが身を乗り出して驚く。レティは苦笑して、首を振った。
「違うわ。人間一人一人にそんな力は無い……
なんて言うのかしらね、温暖化って言ってわかればいいけど、幻想郷(此処)には無い『概念』だから。
兎に角、人間『達』が自然を壊した結果、海の氷や夜の虹(オーロラ)が歪みかけてるのよ」
「人間は、悪い奴だね」
「……メディ。一概に纏めてはいけない。良い人間だっているのだから」
「……」
元々、人間に関して良い感情を抱いていない妖だって少なくない。メディスンなんかは、その最たる例だ。
今の話だけ聞けば、確かに、人間が『悪』であろう。
「ま、といってもそんな人間達に負けるほど『地球(自然)』は弱くないわ」
「……早く人間は皆、宇宙に上がればいいんだよ」
「「ッ?!」」
ルーミアのトンデモ発言に、元月の住民が目を丸くした。
殆どは分かっていない風だが、幾許か眼を細める者もいる。
「ルーミア。莫迦なこと言わないの」
「みすちー……冗談だよ」
時たま、彼女の冗談は冗談に聞こえないから困る。本気で何かしでかしそうで、怖い。
「……とりあえず、私の話はこれまでよ」
「うん。ありがと……不明連中は置いといて。じゃあまず、質問ある妖は?」
一区切りつき、チルノは質問タイムに話を進めた。
「あ! はい!」
「うい。空」
元気良く地獄鴉が手を挙げた。
「海の果てはさ、滝みたいに落ちて行くって聞いたことあるんだけど本当!?」
海を、いや『外』を知らない少女ならではの質問だ。
さて、どうしようかと海を知る者達が顔を見合わせ、じゃあと大妖精が答えた。
「それは違うよ。そうだね……まず地球は丸いの」
「え!? そうなの?」
「お空。前、お姉ちゃんに同じ事教えて貰ったじゃん」
「うにゅ?」
こいしがヤレヤレと首を振る。一同も苦笑した。
「あはは。まあ、つまり地球をグルっと回ればまた同じ場所に出るの。わかったかな?」
「うん、りくつは」
大丈夫だろうか。空は忘れないよーに、となにやらメモを始めた。
空に続いて、小さい妖が手を挙げた。
「はい」
「キスメ、どーぞ」
ヒョコリと釣瓶落としが手を挙げる。
「海って、神様の涙って、ホント?」
『神様の涙?』
「うん」
これはまた珍妙な表現だ。確かに、海の塩水を涙と例える神話は少なくないが、非科学的だ。
視線が一斉に諏訪子の方へ向く。多少、気まずかったが神様は答えた。
「うーん、確かに時々そういった文献はあるよ。でもなぁ……」
そう言って、輝夜の顔を見、助けを求めた。
「……そうね。もしかしたら御爺さ、じゃなくて、イザナギ様の涙とか、ゼウス様の涙とか。
ありえなくも無いわ。そもそも、原初の海云々を考え出したら限が無いのだけど」
苦笑する。
「ククク。ま、哲学で考えるか、科学で考えるかで異なってくるよー。キスメは如何だったら良いと思う?」
ケラケラ笑うルーミアが純粋無垢な妖に問うた。キスメは一寸考え、答える。
「涙だったら、素敵、かなぁ」
「ふふふ。そうだな」
慧音が微笑み、キスメの頭をポンと撫でた。
一段落し、チルノは次の質問を確認する。するとまた別の妖が手を挙げた。
「うい。ぬえ」
「この前、ムラサの話で出てきたんだけど……『ローレライ』って、何かな?」
『え?』
「……」
一斉にミスティアに視線が行く。
「私を見られても、知らないよ」
「ふーん……」
「まあまあ、互いにそう暗くなるな。私が知ってる限りで教えよう」
そう言って、慧音が説明を始めた。
ローレライ。
本来は、ドイツのライン川沿岸に存在する岩山で、川下りでの観光名所でもある。
このあたりはかつて航行の難所でよく遭難が発生していたことから、その岩に佇む少女の美しさと『歌声』に船頭が魅せられ、船が渦の中に飲み込まれるという魔女伝説が生まれた。
それから、伝言ゲームの要領により河・海で遭難沈没する謂れを、ローレライの所為にする事が増えた。
川の魔女だが、セイレーンと同一視される事も少なくない。
「あ、いや、ミスチーの事を言ってるんじゃなくて……まあ、そうなんだけど。気になって」
「別に、私は幻想郷の『山』生まれの『森』育ちの妖怪だから、何とも」
素っ気無い風にミスティアは応える。それにピンときたこいしが突っ込んだ。
「じゃあ、なんでミスチーは『ローレライ』なの?」
「……さあ」
「ふぇ?」
「知らない。というより、名前なんて飾りよ。あくまで私は『夜雀』であって、名前は後付け。
人間やこいし(古明地)やフラン(スカーレット)みたいな『血統』じゃないから、誰かが適当に付けたモノ」
何処となく、自虐的な笑みを浮かべ、ミスティアは告げた。それに気付いたのか、チルノが呟く。
「でも……きっと、良い事なんだと思うよ」
「え?」
「名前。アタイは『チルノ』だし、ミスチーは『ミスティア』だ」
「よくわかんないわ」
「それでもだ。加えて、『歌魔女(ローレライ)』の性を貰ってるなんて、ミスチー恰好良いじゃん!」
よくもまあ、歯が浮きそうなセリフをスラスラと。それでも、何故か、嬉しかった。
「……ありがと」
「へへ」
二カッと笑う。
「ま、ぬえ。今のけーねのでわかった?」
「あ、うん。ありがとう」
「いえいえ」
一応解決。では、次。
「メディスンは何か無い?」
「えっと、どうして……幻想郷には、無いの?」
「海?」
「うん」
……
「えっと……誰が、答える?」
「ルーミアちゃん?」
「知らん。橙、スキマ呼んで」
「え、あ、いや、忙しいと思う」
「チッ」
これまた難題だ。多分、管理人にしか分からない答えだろう。安易に答えられない。
「内陸だから……って答えにならないか」
「なんで、沿岸にしなかったのって聞かれるね」
萃香と諏訪子が苦笑する。
一同が頭を悩ませている最中、ルーミアがボソボソ、何かをぼやいた。
「―――、……~~、―――……。―――……言うぞ?」
誰も聞き取れない声。しかし……
―――ブオォンッ!!
ルーミアの頭があった場所が『爆ぜた』。何事かと一同は身構える。しかし、そこには見知った顔。
「……前が、見えない」
「乙女の純情を踏みにじろうとした罰よ」
ルーミアの首から上が、別の者になっていた。驚愕の余り声が出せなかったが、辛うじて輝夜が告げる。
「ゆ、紫」
「あらあら皆さん。御機嫌麗しゅう」
『……』
何事も無かったかのように、紫が微笑んでいた。
「何か御用かしら?」
「え、あ、えっと……メディスンが聞きたいことあるって」
「へぇ。何かしら、お人形さん」
驚きながらも我に返り、メディスンは先の疑問を賢者に問うた。
「ふーん。海、ねぇ」
「何で無いの?」
「必要無いからよ。それに『外』で増えているモノを、幻想入りさせる気はありませんわ」
「……成程ね」
数名が納得する。
確かに、先のレティの話と照らし合わせれば理にかなっていた。
「じゃあ、私達は海を……見れないの?」
『……』
純粋というものは時として残酷。
「……そうね。幻想郷は全てを受け入れるけど、万能ではないのですわ」
「そっか」
シュンと項垂れる。
「でも、今後……何かしらの理由でそれらしいものが入る『かも』、ね」
『え?』
「まあ、占・予知云々は私の十八番じゃないから、レミリアにでも聞きなさいな」
これまた、胡散臭い。が、希望ある胡散臭さだ。
「それじゃ、私は忙しいからまったねぇ」
あっと言う間に消えて行くスキマ妖。ルーミアの首から上が元に戻っていた。
「……今度、幽香辺りと一緒に『スキマ塞ぎ』しようと思うんだ」
「止めときなさい」
ミスティアが冷や汗を掻きながら宵闇を制す。
一同は暫く呆気に取られていたが、ふと自分達が何をしていたかを思い出し、話題に戻った。
「オホン。め、メディスン君。わかったかね?」
「うーん。もしかしたら海が見れるかもしれないし、もしかしたら見れないまま一生終わるかもしれないってことでいいの?」
「ま、まあそうね……海が無い理由は、さっきのレティの話と紫の話を足せばOKよ」
「わかった」
コクリと頷く。
さて、一通り質問が出終わったようだが。
「んじゃ、不明組」
「……チルノちゃんは質問無いの?」
「ん? ああ、いいのいいの」
大妖精の疑問にカラカラ笑い、チルノは進めた。何処かこう、自信有り気に。
「じゃ、こいし」
「んーとねぇ……―――」
* * * * * * *
結局、こいしの『海』は不明瞭なものだった。
何せ擬音やら意味不明な例えが多すぎる。聞いている側が混乱する一方で理解ができなかった。
「―――……で、ザッパーン。ゴゴゴゴゴなドドドドド!」
「……うん。こいし、ありがと」
「え? あと十以上有るよ」
「なんとなく、すげぇってことは分かったから。また今度ね」
「ブー」
口を尖らせ、不満そうにジト目になる覚妖(イレギュラー)。
チルノは苦笑しながら、月の民に話を振った。
「最後、宜しく!」
「はいはい。そうね、じゃあ私は『水の惑星』の話をしようかしら」
輝夜は静かに語り始めた。
「月から見た地球海ってね、生き物みたいなの」
『生き物?』
「ええ。まるで生きているかのように『動く』の」
流石の宵闇や神様も目を丸くしていた。
「雲を産み、陸を呑み、波を揺らす。巨大な生物みたいだわ」
「じゃあ、海って妖なの?!」
「ふふふ。もしかしたら、そうなのかもね」
空が目を輝かせながら、うんうん頷いた。
「月のお偉いさんは、地上を穢れと云うけれども、私はそうは思わないわ。
地球には海、山、川……素晴らしいモノが沢山あるのだもの。キスメの言葉を借りれば『素敵』ね」
「えへへ」
照れ臭そうに、はにかむキスメ。
「……成程。やはり、お前さんは月の姫には向いて無いよ」
「同感」
「あらあら、失礼ね」
萃香と諏訪子が苦笑する。ただけして貶しているわけでは無い。寧ろ、褒めているのだろう。
続けて、慧音が尋ねた。
「それは、永琳の教えか?」
「違う違う。ま、いないから言えるけど、彼女も何処か『穢れ』を信じている節はあるから。あ、イナバ。告げ口したら死刑よ?
そうね……私の母様の教え、かな」
「輝夜の、お母さん?」
「そ」
以前、母親について話し合ったことがある。
特にメディスンは知らない事ばかりだったので、興味が妖一倍強かった。
「お母さんが教えるの?」
「あはは。教えてくれたんじゃなくて……そうね。
いつも『地球や海は私達を創り出してくれた素晴らしい存在だ』って謳ってたのよ。覚えちゃったって感じね」
「へぇ……輝夜のお母さんってどんな妖?」
「妖、ねぇ。妖怪じゃないわ。人でも無い……多分、月人(神)でも」
『え?』
鈴仙までもが声を挙げる。
確かに、自分は姫と師匠については知らないことが多い。しかし、蓬莱山といえば月では銘家だ。なのに肝心の輝夜が月貴族では無いというのか。
「なんかねぇ。そういうのも超越しちゃってるかな。母様は」
「……確かに」
「あら、ルーミア知ってるの?」
「まぁねー」
頬を掻きながら、呟いた。
「アイツは確かに、クリスに似て何か一線を超越してる感じだね。真の『カリスマ』なんだろうよ」
「キリスト様と同等かぁ。ふふ、言えてる」
何がなんだか分からなくなってきた。
「か、輝夜。話を戻して」
「あ、ごめんごめん。ま、月からだと海の表情の変化が分かりやすいってことね。
さっきのこいしの『表現』も強ち間違いじゃないのかも。言葉で表せない表情って所かしら」
「だから言ったじゃん! ザブーンってピシャーなんだよ!」
「あはは……」
まあ、無意識という事で。
ではではと、チルノは最後の鈴仙に向き直った。
「じゃ、れーせん君」
「はいはい……『月の海』は……」
・・・
「……」
『……?』
途端、鈴仙が黙り込んだ。
「イナバ?」
「……あ、えっと、その……ちょっと」
「鈴仙? 大丈夫か?」
顔が、真っ青だった。
「ご、ごめんなさい……」
「あ、おい!」
心配して手を伸ばした慧音を振り払い、脱兎の如く何処かへ消えてしまった。
輝夜は立ち上がり、皆に詫びをした後、鈴仙を追いかけて行った。
『……』
唖然。
どうすればいいのだろうと、議長のチルノは無言で顧問に助けを求めた。
「そ、そうだな。最後に今日の話を復習を兼ねて纏めてみると良い。きっと為になるだろう。
レティ、後を頼む。私は……」
「任された。さ、チルノ」
「お、おう」
そう言って、慧音も二妖の後を追っていった。
チルノは混乱しながらも、レティに助けて貰い会議を纏めることにした。
* * * * * * *
「―――……まあ色々あったけど、今日の会議は此処までよ! 何かある妖いる?」
『ありませーん』
「よし。んじゃ、今日は解散! 一応竹林でるまでは、もこーが送ってくれるらしいから気を付けて帰るよーに」
『はーい』
わいわいがやがやと一同は散って行く。迷いの竹林から、帰り途が分からない者は妹紅(ガイド)に案内して貰い、帰路に就くこととなった。
残ったのはチルノ、ミスティア、ルーミア、萃香、諏訪子、そしてレティ。
ミスティアは何時もの如く、会終了後その場で屋台を開き始める。既に習慣と化していた会場屋台。ふと、女将が呟いた。
「センセはまだ?」
「待ちましょ……ミスティア、適当に摘まむモノお願い」
「……はい」
不安が籠るミスティアの問いに、平静を装ったレティが答える。他の者も連られて、屋台のカウンターに腰かけた。
何時の間に酒を出したのか、萃香が瓢箪をラッパ飲みしている。
「ンパァッ……しっかし、海とはねぇ」
「スキマも意味深な発言するもんだよ。まあ、当分は幻想入りしないとは思うけど」
鬼と神が苦笑する。夜空を見上げながら煙草に火を点けた宵闇が、ふと氷精に尋ねた。
「そういやチルノ。なんで海の話題なんか持ってきたの?」
「ん?」
水から精製した氷をグラスに入れ、冷を啜っていたチルノは目線をルーミアへ向けた。
「別に、深い理由は無いわよ」
「へ?」
「まぁ……強いて言うなら―――」
その時、足音が二つ。
「悪い。おや、もう終わっていたか」
「慧音。姫さん」
チルノが全て言い終わる前に、慧音と輝夜が戻ってきた。
カウンターに座っていた3名は二妖分の席を空け、彼女達の話に耳を傾ける事にした。レティが問う。
「で、兎さんは?」
「病気よ。持病ね」
『持病?』
顔を見合わせ首を傾げる。
輝夜が続けた。
「まぁ……臆病兎のトラウマ病ってとこかしら」
「トラウマ、ねぇ」
「何でも、『月の海』で思い出したくない事まで思い出した……だったか?」
「ええ。ホント、下らない。誰もあの娘の事怨んじゃいないっていうのにね。月はそんな場所じゃないわ。もっと明るい場所なのに。
過去の柵(しがらみ)、自責の念とでも言うのかしら。そいつが膨張して枷になってしまっているのね。
兎角、安定剤は飲ませてきたわ」
そう言って、慧音と輝夜はミスティアに摘みを頼んだ。
今この場にいる者は幻想郷に居る刻が其れなりに長い。若しくは、中途であっても権力者。永遠亭の内部事情の『さわり』程度は理解している。勿論、『脱兎』の件もだ。
妙な沈黙が流れる中、宵闇が皮肉を入れた。
「今、永遠亭を襲ったら二日で鎮圧できるね」
「ふふっ。やってみる?」
永琳、寝込み。鈴仙、戦闘不能。てゐ、不在。妖兎軍、長不在の為行動不能。
実質、この姫だけ。
だがしかし、このキレ者(輝夜)に駆け引きは通じない。
「……冗談。束ならまだしも、サシで輝夜(アンタ)とやったら互いに無事じゃ済まないからねー。鬼さん、神さんが手伝ってくれるなら別だけど」
「バーカ」
「誰が望んで均衡破るかってーの」
永遠亭は重要なバランスの一つだ。
コレが崩れたりしたら……『山』か『反乱軍』辺りが、里や地上に攻め入ってくるだろう。
「ルーミア。冗談でも止めてくれ。戦になれば人里が一番に損害が出る」
「センセは人間よりだねぇ」
「私も怒るよ。チルノも、レティさんも」
「OK、ミスチーは敵にしたくない。止めだ、タダ飯が食えなくなる」
皆苦笑。さて、と姫様が二三手を叩き、妖兎を呼んだ。小さな兎達は野菜や魚、酒を運んでくる。
「女将さん、お代は私持ちで。これで足りるかしら?」
「ええ、充分過ぎるほどに」
輝夜は妖兎達を労い良い子良い子と頭を撫でてやる。
私も私も褒めて褒めて、とやってくる若い兎達に姫様は包まれ、まさに白ダルマになっていた。
「ふふふ。この子(兎)達にも何か出してあげて……あの娘(鈴仙)の分と永琳、因幡の分も」
「はいさ。たんまりと」
中庭はまるで例月祭の如く盛り上がっていた。ただ……首脳陣不在で。
ふと先程から静かなチルノにレティが気付いた。
「……チルノ?」
夜空を、月を見上げながら……いや、睨みながら佇む氷精。皆がコップ片手に彼女を見る。
「どうしたの? 月でも落ちて来そう?」
「ハハっ。オッカナイねぇ」
諏訪子と萃香が莫迦にする。がしかし、チルノは無言だった。そして……
「ちょっと行ってくる!」
「え? ちょ、おい! チルノ!」
刹那、亭内に向けて駆け出した。一同は唖然するしかなかった。
* * * * * * *
『月の海』。
一見、静かなに思える月のクレーター。
しかし、実際は月軍と地上軍が争い続けていた戦跡である。仲間達の中では『墓場』と揶揄する者もいた。
勿論、鈴仙―――レイセンも彼の地に立っていた事もある。
「……」
部屋の隅で布団を被って震える。
聞こえる銃声。妄(み)えるマズルフラッシュ。血潮の味。感じる戦風。臭う硝煙。
負傷者。死体。味方。敵。男。女。神。人。兎。妖。先輩。同僚。後輩。上司。部下……
『逃げた』『仲間を置いて』『地上に堕ちた』『脱兎』
頭に響く妄言―――
「ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい…………」
―――亡者への謝罪。
ジャラリと戦場で拾ったタグを握る。そして……目線を手首に移す。無数の、切り傷。
「だ、駄目」
衝動を抑え、クスリ―――胡蝶夢丸・特別調合(ファンタジア)タイプに手を伸ばす。
このクスリ、永琳が鈴仙の情緒不安定改善薬として造ったモノである。尤も、症状が出てしまった状態では一妖では一丸も飲めないわけで……
「ひゃっ!! うぅ……」
このように手を伸ばしても、震えて中身ごとビンを引っ繰り返してしまう事があるのだ。
普段、この禁断症状が出た際、永琳かてゐが彼女の自傷が収まるまで面倒を見る。
ただ、最近は安定傾向にあり誰もが油断していた。無論、先程数錠飲ませた輝夜でさえ。
「はぁ……はぁ……んっ」
瞬間、手首を噛んだ。
それはもう、噛み千切るほどに。
「んっ! ぐぅっ……んはっ!!」
血が。
永琳曰く、鈴仙のこの状態は彼女が『狂気』に呑まれていると表現している。
人間(彼女は人間ではないがそれを模している為)、自力で手首を噛み切ろうとしても、そう簡単にはいかないモノである。妖なら、尚の事。
加え、無意識下のうちに自己防衛が働き、力が減少する。
故に、彼女は刃物を握った。
「……」
そして―――
カキンッ……
―――ナイフが弾け飛んだ。
「……あ」
「何やってんのよ……」
目の前に、氷の弾。扉には息を荒げた氷精。
「ち、ちる……ちる、の」
「アンタ」
部屋の隅に居る鈴仙へ近寄るチルノ。
「こな、来ないで……っ! 嫌ぁ……みな、見ないでぇ……」
「ッ……莫迦!」
空かさず再びナイフを掴もうとする鈴仙。チルノはその手を蹴り上げた。そしてそのまま手首を握り上げ、冷やす。
「ひぅ!」
「……ったく。信じられないわね。信じたくも無い」
無論、妖精に『死』の概念など理解できない。理解できないが……『チルノ』は違った。
この愚かな兎が自刃しようとしていたことぐらい、さも当たり前かの様に気付いたのである。
チルノはそのまま鈴仙を引き寄せ、静かに抱いた。
「ふぇ」
「……アタイの所為ね。ゴメン」
「ち、ちが……」
ギュッと、抱きつく力は強まった。鈴仙も次第に震えが、収まる。
冷たいが、何処か……温もりある抱擁。兎型獣人で基礎体温の高い鈴仙にとって、不思議な感覚だった。
「……落ち着いた?」
「え、あ……ぅん」
「そ」
そして、チルノは笑った。
「何か食べれる? 持ってくるわよ?」
「……いい」
「うん。わかった」
そう言って、鈴仙の隣に座り込んだ。
「……もど、らないの?」
「戻ったら何しでかすか分からん奴置いて、戻れないわよ」
「大、丈夫、だから」
「ダイジョブじゃ無い」
真剣な眼差し。そして、暫しの沈黙が走った。
大分落ち着き、何とも言えない静けさに耐えられなくなった鈴仙が、意を決してチルノに告げた。
「『月の海』、ね……」
「うん」
「そんなに、綺麗なとこじゃない、わ」
「ふーん」
「『死』の臭い、亡者の影で……十億万土」
「へぇ。興味無いね」
さも如何でもいいかのように言い放つ氷精。脱兎は呆気に取られた。
「多分、今のアンタから何聞いても綺麗な情景は浮かんでこない」
「……」
「でも下んない事があった。これだけは分かったわ」
二妖、肩を寄せる。
「冷たい」
「うるへぇ」
クスリと笑う。
「チルノ」
「ん?」
「……あり、がと」
「ん」
凍るほどに熱い肩。互いに何の感謝か分からないが、深い意味は必要無かった。
「アタイは仲間を助けただけよ」
「仲間?」
首を傾ける。
「れーせんも最強会の一員でしょ。準会員だけど」
「……うん」
「だったら仲間よ。アタイは全力で仲間を助けるわ」
「そっか」
苦笑。
「それに準会員だからアンタは半妖前」
「な……それを言うなら、半人前、でしょ?」
「妖怪だからいーの。四の五の言わない。まぁ、れーせんは黙ってアタイに連いて来なさい!」
「……はいはい」
まるで師匠みたい。勝手なんだからと再び苦笑した。今度はチルノも微笑んだ。
そして、二妖は大声で笑った。
臆病兎は赤い目を擦りながら少しだけ、幸せになった
* * * * * * *
「なぁに、笑ってんだか」
「あっちはあっちで楽しそうだねぇ」
屋台(此方)も屋台で盛り上がっているのだが。ふと慧音が呟いた。
「しかし、チルノは……妖精らしくないな。今更だが」
「如何でもいい事よ、んなこと」
諏訪子が杯を傾け、横目で答えた。
真面目気質な慧音は酒に口を付けずに、しかしと眉を顰める。
「如何なのだ? レティ」
「……さぁ。別にあの娘の保護者じゃないし」
「冷たいねぇ」
萃香がレティの豊満なスイカを突っつく。無論、バシンと叩かれた。
それを傍目で見ていたルーミアは紫煙で輪っかを作りながら、何となくごちる。
「ま、彼女が私達と違う何かを……いや、私達が『忘れた』何かを永遠に保有している事は確かかな」
「そうね。あの娘の『永遠』、欲しくても手に入らない品物よ」
『永遠』を司る姫が、静かに答えた。
一同は、ほうと感嘆の声を挙げてしまった。次いで、萃香が述べる。
「美徳かどうかは知らないけど、鬼より嘘は付かないからね。チルノ」
「まるで、自分は少しでも嘘を言ってますよみたいな発言じゃないか」
「別にそういう訳じゃないさ。ただ広く見て……鬼の中には『道』を外れた『邪鬼』だっているからさ」
「『天邪鬼』とか?」
レティが問う。萃香は笑って首を振った。
「ははは。いや、アイツはハナからそういう妖だからね。真を言わない分、『外れた事』も言わないよ」
成程と皆、笑う。
そういえば、とミスティアが首を傾げ呟いた。
「でも……チルノが海の話題を出した理由なんだったのかしら」
『ああ』
忘れてた。
がしかし、一妖、ふふふと笑い自分のコップを眺めていた。
「あの娘、昨日ね」
『ん?』
雪女。
「本開いて『アタイ、海に行く!』って」
『……』
「莫迦よねぇ。ホント」
唖然。
「でもね……嫌いじゃないわ、そういうの」
「ククククク、アハハハハ!! 最っ高!!」
「ハハハ! 流石我らがリーダーだ!」
「惚れ惚れするねぇ」
レティは何処か嬉しい様な寂しい様な表情をし、ルーミア、諏訪子、萃香は恍惚そうに笑う。
慧音とミスティア、輝夜はヤレヤレと顔を見合わせ苦笑した。
自分の目標に対し、人妖を引き寄せる不思議なカリスマ性。チルノにはそれがあった。
ふと、下向きのレティに輝夜が気付いた。
「浮かない顔して」
「ん……まぁ、ちょっと嫌な噂を耳にしてね」
「噂?」
ポツリと語り出す。
「『封印指定妖等』って知ってる?」
「封印……あの地底に閉じ込めるだかってヤツ?」
「それ」
子指で氷を掻き混ぜながら、レティは続けた。
「聖輦船メンバーやぬえが喰らってたヤツ。聖とかいう尼僧は別口らしいけど」
「確か、聖輦船主要メンバー達がA級で、ぬえがS級だったか」
「そうね。私も閻魔とスキマ達管理者の内情は詳しくないけど」
慧音が混ざってきた。因みに聖は法界封印なので別件扱いである。
「で? それが?」
「……近々、数名『指定』されるとの噂があったわ」
「……成程」
賢い彼女達は其処から先を言わずとも理解した。
昨今、周りから見て目に余る力を保有している夭―――チルノがマークされているのだと。
例え、背伸びのお遊戯会であっても『上』は見逃すつもりが無いらしい。
「ふざけてるわね」
「……なんともなん」
グイッと冷を呷った。
「大丈夫だよ」
「ルーミア?」
何時から聞いていたのか、宵闇が煙草を揉み消しながら告げた。
「チルノに何か仕出かそうってんなら……『死んでも、殺す』」
「……」
「私もだね。ま、殺しはしないまでも」
「え? 私はルーミアと同じで殺すけど」
「萃香、諏訪子……」
それはそれは妖怪、祟り神らしい笑みで怒気を放出していた。其の笑みを見た女将が溜息をつき、皆の空いた杯に酒を注いだ。
「莫迦なこと言わない。あくまで『噂』でしょ? 閻魔様も分かってらっしゃるわ」
「そうだな」
慧音が相槌を入れる。
まったくと一同は杯を持ち、軽く掲げた。
「何に乾杯?」
「我らがリーダーと、その夢に」
「いいね」
杯をカウンターに寄せる。あ、と輝夜が、付け足しお願いと頼んだ。
「あと、ウチの臆病『師弟』にも景気づけに、お願い」
「ククク、あいよ」
誰か分からぬ、音頭が入る。
「永遠亭の不景気回復を祝って」
『祝って』
「そして、我らがリーダー(チルノ)と彼女の『海』に!」
『チルノと海に!』
『乾杯!!』
キンッ……
冬の枯れ笹の揺れる音と、小粋な妖の喉の音だけが、下弦の月夜に響き渡った。
魑魅魍魎達が動き出す黄昏交じりの二色の空。月の姫君が隠れ住むと云われる日本屋敷。奴らは集まり、恐怖の集会を開こうとしていた……
* * * * * * *
「揃ったわね?」
化け物達は頷く。
「では……193回」
「チルノちゃん。それ前々々回」
「……」
こほんと一息。
「兎に角! 最強会会議を始めるわ!」
氷精―――チルノが宣言した。
「大ちゃん。出席を」
クスリと笑い、翠髪の大妖精が会員達の出欠を取った。
「会員番号3、ルーミアちゃん」
「うい」
「4、リグルちゃん」
・・・
一通りの出欠を確認。
参加者は会長のNo.1、チルノ。副会長(チルノが勝手に決定)のNo.2、大妖精。
その他一般会員……No.3、ルーミア。No.5、ミスティア。No.6、橙。No.9、萃香。No.10、メディスン。
No.11、諏訪子。No.12、こいし。No.13、キスメ。No.14、空。No.15、ぬえ。
チルノはふむと顎を撫で、一同に問うた。
「リグルとフラン、てゐは休みか……理由は?」
「仕方ないねー」
ルーミアが団子を頬張りながら呟く。
「何が仕方ないのよ?」
「フラン」
会員番号7番、吸血鬼―――フランドール・スカーレット。
「ん……家庭の『しじょう』ね」
「チルノ。それを言うなら事情でしょ?」
「『私情』よ、レミリアの。難しい事情なんかじゃないわ」
「ククク。言うねえ」
ミスティアの突っ込みにヤレヤレと首を振る氷精。それを楽しそうに笑うルーミア。
多くは『?』顔だが、数名は『ほう』と不思議そうにチルノの顔を見つめていた。
フランドールは紅魔館『領内』から出る事が出来ない。
一種の軟禁状態とでも言うのだろう。それは彼女自身の心身の事情によるものだが……チルノの考えは違った。
「フランを外に出せない? 莫迦じゃないの? どんだけ過保護なのよ」
「そう言ってやるなって。レミリアも考えあっての事だし。あの子(フラン)の意志とは別に『もしも』があったら大変でしょ?」
萃香が苦笑しつつ、チルノを説得した。
「だったら、アタイ達が『止めてやればいいだけ』よ」
「……もういいや」
自分を曲げようとしない『さいきょー』さんに何を言っても無駄だった。
まあ、一同彼女の其処に惚れ込んでいるのだが。
「で、リグルは?」
会員番号4番、蟲姫―――リグル・ナイトバグ。普段なら絶対に欠席する事の無い、『最強会』古参のメンバーだが。
静かにキスメが手を上げる。
「今朝、ヤマメが、お話有るって……何処かに、連れてったよ」
「ありゃ? 誰か知ってる?」
誰も知らない風。何でも屋のルーミアの方を見るが、何時もの様に『面倒臭い』とは言わず、ただ首を振っていた。
「無断欠席は頂けないわね」
「まぁ、後でお話聞こ。ちょっと最近、リグルちゃん様子が変だし」
「うむぅ」
大妖精に宥められ、チルノは渋々納得した。
「んで、てゐだけど……永遠亭(此処)、アイツん家じゃない! なんで不参加なのよ?!」
会員番号8番、妖兎―――因幡てゐ。こちらも割と古参で休みは少ない。
ダルそうに、諏訪子が手を上げた。
「昼頃、天魔のとこで見かけたね」
「天魔? ああ……天ちゃんか」
「『大事』な話なんじゃない? 興味無いけど」
『山』の大将と、幻想郷兵力数現存2位の妖兎の長の話し合い。なにやら物騒な香りがする。
「知ったこっちゃないわ。『会議(こっち)』の方が大事に決まってるでしょ!」
それはない。
「ま、まあ、チルノちゃん。いないものは仕方が無いよ」
「ったく、もう」
橙に鎮められ、チルノは会議に戻った。
「兎角! いない奴らは次回、嫌と言うほど絡んでやるわ! 皆、質問考えておきなさい!」
「やれやれ、『つんでれ』だねぇ。チルノは」
「んな!? べ、別に構ってやるとか寂しい思いしてるんじゃないかとか、そんなんじゃないわよ!」
ニヤニヤ。可愛いなぁ、もう。といった感じの面々。
「むきー! いいから始めるわよ! 今日の顧問はけーねと……特別顧問のレティよ」
「仲良くな」
「永遠亭にご迷惑かけちゃダメよ」
『はーい』
顧問二妖が礼をする。
雪女―――レティ・ホワイトロックは期間限定で『最強会』の特別顧問を行っている。
特に理由は無いが、強いて言うならチルノがやたら彼女を引っ張り出すからだ。無論紹介の際、これまた一同ニヤニヤするのだが。
真っ赤なチルノはそれから、縄でフン縛った兎の耳を掴んだ。
「今日は準会員のれーせん君を参加させます」
「……チルノ。覚えてなさいよ」
「あー。聞こえない聞こえない」
何故か準会員扱いされている月兎―――鈴仙・優曇華院・イナバ。諦めたように肩を落し、会員達に頭を下げた。
「それでは、最強会! 始めるわ!」
最強達の会議が今、始まる……
* * * * * * *
上白沢慧音は妖兎から出されたわらび餅を頬張りながら、彼女達のやり取りを見つめていた。隣には同じくわらび餅を食べているレティ・ホワイトロック。
流石永遠亭の和菓子。文字通り頬が落ちそうなほどの甘味だ。
「貴方も大変ね。毎度毎度、子守りみたいな事を」
「ん? ああ、まあ『子守り』と言うには語弊があるけど」
二妖して苦笑。『顧問』と言えば聞こえがいいが、要は態の良い監視だ。
この最強会……初めはチルノが「カッコいいから作る!」と言ってスタートしたものの、今や、何故か組織一つで国一つ落とせる戦力になってしまっていた。
加え、各所の『御令嬢』や『頭(かしら)』が所属している。いろんな意味で『もしも』があっては大変だ。
故にこれを按じたある組織が、監視がてらに顧問を置くよう各所に通達したのだ。
今日の担当(ローテーション)は自分。
「本当は寺子屋での会議だったのだがな」
「え?」
「色々あって、永遠亭(此処)を借りた」
「何かあったの?」
「……」
慧音は眉間に皺を寄せ説明を始めた。
なんでも昨今、里の人間達の中に妖怪らを嫌悪する団体が発束(はっそく)しているらしい。
本来、人間と妖怪は相見えぬ存在であるが、幻想郷ではその均等が成り立っていた。仮初めではあるだろうが。しかし、それを『善し』としない人間も必ずしもいるのである。
「例えば、妖に親しい者が殺された者」
「……又は、根本からして妖を『悪』と決めつけている者。ってとこかしら」
中にはそういった『人間』達も少なくなかった。其処の所に詳しい宵闇(ルーミア)に言わせれば……
『霊長類の抑止力ってヤツだねぇ。どっかの心理学者だか哲学者が名前付けてたけど、忘れたよ。
潜在的・無意識下で其れは働いちゃうから仕方ないよ。妖怪(私)達だって似たようなのいるし』
……だそうだ。
「難しい哲学は分からないが、要は幼くても妖は妖。快く思って無いらしい」
「それで、『万が一』が起らない様、永遠亭を借りたわけね」
守矢の一柱や元鬼の四天王らといえど、『万が一』が無いとも言えない。あった場合は最悪……幻想郷の人妖バランスが崩れかねないのだ。
人里で、更に人間から仕掛けたとなれば尚の事。
「ああ……命蓮寺も頼んでいたんだがな。そうだ。オマエさん、知ってるか? 去年の春頃にできた新参寺」
「ええ。チルノが自慢げに教えてきたわ」
なんとも、一年間の内に話したい事が沢山あったのだろう。
さておき人里の最早新参では無い命蓮寺だが、此方は先と打って変って人妖平等を謳っている。
慧音は始め命蓮寺(あそこ)なら大丈夫だろうと住職―――聖白蓮にお願いしていたのだが……急に法事ができたらしい。
「誰か亡くなったの?」
「……」
「私が話しましょうか?」
振り向く。
其処には亭主―――蓬莱山輝夜が立っていた。
「之は姫様。久しゅう御座います」
「よいよい、白岩」
「ふふふ。せめて名前で呼んでよ」
「『レティ』を大和言葉で、如何直すか教えて頂戴。そう呼ぶから」
駄目だ。口でこの姫に勝てない。
「で、さっきの続きだけど……慧音」
「ん、ああ。話していいぞ」
「そ」
其処から輝夜がレティへ説明を始めた。
聖達は今日、『山』へ葬儀に向かったらしい。亡くなったのは……多くの、蟲妖。
「……だから、リグルがいないのね」
「そう。彼女も『姫』だから」
レティが幻想郷に『渡ってくる』少し前に、『事件』が起きた。その時、犠牲になったのが蟲達だった。
「でも、『山』なら守矢の管轄じゃ?」
「天狗が、ね」
「……そう」
地位の高い天狗達の多くは守矢信者である。理由は単に現在の『山』の頂点が二柱であるからというものだ。
純粋に守矢二柱を崇拝している者もいれば、建前の裏、二柱の甘い汁を吸おうという下衆もいる。
兎角如何いった形であれ、地位の高い妖達が低い蟲達と同じ宗派にいるのは嫌だという事で、信者として認めていないのである。
余談だが、天狗頭領―――天魔は『博麗』信者だ。『山』実力者の一妖である鴉天狗―――射命丸も微妙なラインで『博麗』信者。
ただし『個人的』には(天満、文として)、神奈子や諏訪子と仲は良い。
話を戻す。
「それを神奈子や諏訪子が許してるのかしら?」
「許して無いわよ。でもね……政が絡んじゃうのねぇ」
「残酷だがな。リグルが、一番苦しんでいるよ」
蟲達は縋る(すがる)モノが欲しかった。其処で、選んだのが『聖母』だったのである。
「命蓮教なんて過去の産物……まあ、だから幻想入りしたのかしらね」
「其処はどうでもいいのだろう、縋れれば。それに聖は良い人格者だ。安心して蟲達を任せられる」
「『縋る』かぁ……嫌ね」
「仕方なかろう。輝夜だって宗教者じゃないのか?」
「んー……私は破門された身だから」
「……すまない」
月(神道)から堕とされた。
「気にしないで、どうでもいいことだし」
「ふーん……で? 命蓮寺が駄目になったのは分かったけど、如何して永遠亭になったの?」
「丁度人里にいた鈴仙とてゐに駄目元で頼んだら、OKだった。これだけだ」
「へぇ」
勿論、輝夜もOKした。
基本暇人である。お守りだろうが監視だろうが、暇潰しになれば万々歳だ。
「てことで、私も『顧問』ね」
お茶目にウィンクする姫。二妖は苦笑。
「時に、てゐはどうした? 永琳も」
「てゐは天魔と話し合いでしょ。私が『幻想入り』する前からやってるみたいだから、口は出さないわよ。
永琳は……ちょっと、ね」
「「え?」」
真逆(まさか)、あの天才医師が。病気は有り得ないし、一体何が……
「ま、あの堅物でも其れ相応に女性らしい悩みが―――」
―――スコーンッ。
「「……」」
「―――……ない、わ、ね。あぅ」
何処からともなく飛んできた矢に頭をブチ抜かれ(見事に貫通)、バタリと倒れる輝夜。数秒後には『復活』するが、子供達が見てなくてよかった。
「痛ちぃ。とりあえず……色々あったのよ。詮索しないでおいて」
「あ、ああ」
笑えない。
……何はともあれ、慧音達は顧問活動に戻る事にした。
会議場では、丁度チルノが鈴仙の縄を解いて議題に入ろうとしている所だった。
* * * * * * *
「今日は既に議題を決めている!」
『おお!!』
氷精が鼻高々に一同へ告げた。
以前、会議の議題をまったく決めていない状態で会議に臨んだ経験のある彼女。無論、周りから呆れられたが……経験が生きているようだ。
腰に手を当て、胸を張るチルノは声高らかに告げた。
「今日の議題は……『海』よ!」
『……うみ?』
何を言うかと思えば、幻想郷に『在りえない』モノを討議すると言いだした。
大妖精は元から知っていたのかチルノの隣でニコニコ微笑んでいる。皆言いたい事はあるが、敢えて口にはしなかった。
「さて諸君。この中で、海を見た事がある者は手を挙げたまえ」
唐突。中には『海』の概念さえわからない妖もいるだろうに。
一同の呆気に取られた顔を見てまずいと感じた大妖精が、チルノに小さく耳打ちした。
「―――……」
「む。そうね……れーせん君」
「へ?」
「『海』とは、なんぞや」
いきなり話を振られた鈴仙。なんと答えればいい。簡単にでいいのか?
いやしかし、最強会(ここ)には其れなりに学が有り、長い年月を生きた妖怪・神様だっている。多少、哲学的に答えた方がいいのか?
だが議題を提示したのは、所詮妖精。小難しい事なんか要求してないだろう。
……そもそも、自分が答える必要があるのだろうか。
「えっと、う」
「時間切れ。まったく、マダマダね」
「……」
なんか、納得いかない。
鈴仙を莫迦にするように笑い、チルノは彼女の膝上へ腰掛けた。
「アタイが教えてあげるわ! いーい? 『海』っていうのはね……でっかい湖よ!」
『……』←(『海』を知ってる者)
『へえ』←(『海』を知らない者)
誰か突っ込めよ、間違って無ぇけど。といった漢字で、学の有る者達は目を泳がせていた。
「あのね!
みずうみというのは、もともと『うみ』からはせいした『ことだま』で、とうじ、『うみ』のしおみずを『みず』とよんでいなかったものたちが」
「……チルノ。待って」
「その棒読み、何?」
ミスティアとぬえが冷静に突っ込む。
「ん? 霖之助が教えてくれたの」
「……みすちー。ちょっと香霖堂まで煙草買ってくる」
「我慢なさい。少なくとも、会議中は……後で私も行くから」
勿論、オツムの弱い妖精ちゃんに神様もドン引きな、トンデモ妄想知識を植え付けた阿呆店主の粛正に。
二妖と同じくヤレヤレと頭を掻き、横の一柱が溜息交じりに告げた。
「チルノ。それ『間違い』よ。海をまったく知らないだろう、お空やメディスンでさえ違うってわかるから」
「なんと!」
しかし残念。二妖は『え?』といった風。諏訪子は心底呆れたが、話を続けた。
「第一……なんで店主になんか聞いたの」
「本を貰ったからよ。コレ!」
バッと何処からか本を取り出す。写真集の様だ。
皆に見える様に数ページ捲らせるチルノ。一同はそれを覗き込む。様々な顔をした『海』が載っていた。それを見て感嘆の声を上げる者もいる。
「へへへ。アタイの宝物の一つよ!」
「わかったから。で? 何で店主に聞いたの?」
「聞いたんじゃなくて、勝手にベラベラ話しかけてきただけ。なんか楽しそうだったから聞いてあげた」
『……』
なんだか、可哀相になってきた。
「ま、兎に角。大きな水溜りよ!」
「もういいや、それで」
神様が折れた。
「で、だ。始めの討論に入るわよ。この中で『海』を見た事有る妖、手を挙げなさい。
あ! 顧問も混ざっててね!」
傍から見ていた慧音、レティ、輝夜に声を掛ける。
三名は顔を見合わせ苦笑しつつ、円の中に入って行った。因みに―――
『海を見たこと有る』……大妖精。ルーミア。橙。萃香。諏訪子。ぬえ。レティ。
『見たこと無い』……チルノ。ミスティア。メディスン。キスメ。空。慧音。
『不明』……こいし。鈴仙。輝夜
―――となった。殆どが疑問に思った事。『不明組』について、萃香が尋ねる。
「なんだそりゃ?」
「んーとね、判断が微妙なの」
「多分、私達(輝夜と鈴仙)は同じ理由ね」
「んじゃ、こいしから」
「ちょ! 議長はアタイよ!」
萃香が勝手に司会をするが、誰も気にしない。こいしは頬を掻きながら首を傾げて答えた。
「記憶が曖昧っていうか……お父さん(ベアード)に連れて行って貰った事がある気もするけど……
でも、そんなことは無かったぜっていう気もするし……」
「……わかった。あんまり深く考えるな」
「うん」
最強会の中で最も行動言動思考が読めない娘。古明地こいし。多分、幻想郷内でも彼女の頭の中を読める人妖はいないだろう。
「じゃあ、輝夜達」
「だからアタイが!」
「チルノちゃん、少し黙ってよう?」
「……おぅ」
大ちゃん。怖い。
輝夜はお構い無しに、話を続けた。
「『月の海』と『水の惑星』なら、腐るほど見ていたわ」
「同じくです」
「成程……」
一部の者達からすれば、よっぽど興味深い話題だ。
「チルノ」
「……何よぉ」
「あはは。拗ねないでよ。この二妖からは最後に話を聞こう。なんか、面白そうだから」
「ふん! 言われなくてもそうするつもりだったわよ」
頬を膨らませ、上目遣いで萃香を睨むチルノ。可愛い。
「ごめんごめん。ささ、話を続けて下さいな。『最強議長』殿」
「む……まぁ、いいわ。それじゃあ……どうしよ」
また考え無しかい。ヤレヤレと慧音が助言を入れた。
「ではチルノ。『海』を知ってる者達の話を一妖一妖聞き、それ最後に皆で質問していくというのは如何かな?」
「成程! いいわね、流石『けーねせんせ』だ。褒美に妹紅か霖之助を××××していいぞ!!」
「だだだだ、誰だァッ!! チルノに、は、は、破廉恥な事教えたのォッ!!」
茹でダコけーね。空かさず、チルノは呟く。
「文が、こう言えばけーねが喜ぶよって」
「あ・の・弩助平年増天狗ゥッ!!」
「きゃっ。流石、文屋ね」
「あらあら」
何処からか大きなクシャミの音が聞こえた。
* * * * * * *
チルノの進行の下、討論というなの質問会が始まった。
「まず大ちゃん」
「あ、はい。そうだなぁ……私の『故郷』なんだけど」
「はい!」
輝夜が、手を挙げた。
「ぐーや君。自重しなさい」
「大妖精の『故郷』って何処?」
「……で、『海』に囲まれた島で」
「無視っ?!」
大妖精は微笑み、輝夜に言った。
「……『月』よりは、良いとこです」
「くっ……意地でも教えない気ですか。そーですか。ぐやぐれちゃうもん」
「はいはい。質問は最後に、大ちゃん続けていいよ」
膝を抱えて地面に『もこたん』と書き綴る輝夜。
少々可哀相に思った大妖精は微妙に暈しつつ、話を続けた。
「私の故郷は北欧・西方の果てに在るの。だから此方(東方)と違って日が最後に落ちていく。
その時……海は赤く、金色に輝くんだ」
『へえ』
気付いている者もいるが、大妖精の故郷―――妖精郷は『黄金郷』や『理想郷』とも云われる場所だ。
『賢者』達から言わせると、『西の幻想郷』らしい。妖精が住み、神が住み、英霊達が住むと云われる郷。
其処は、手に入らないモノが無いと伝えられるほどの『理想郷』。
……故に、権力者・実力者達から狙われる。
(東に幻想、西に理想有り……か)
慧音は嘗て友に教わった言葉を思い出した。
「皆優しくて、皆笑ってる。幻想郷みたいな場所だよ」
「清い者しか住めない郷……なんか天人思想みたいね」
「うーん……そうなのかな」
レティの呟きに苦笑する大妖精。
「でも、なんで東方(コッチ)に来たの?」
「……来ざるを得なかった。ぬえちゃんだって、『地底に潜った』時の話、ベラベラ喋れる?」
「うっ、ごめん」
詮索屋は嫌われる。暗黙の了解だ。
大妖精の話が一通り済んだところで、チルノが会を進めた。
「うしっ。大ちゃんありがと。アタイも『光る海』見てみたいね」
「ふふ、『何時か』ね」
「うん。んじゃ、次はルーミア」
「んが?」
ちゃっかり笹饅頭を口いっぱいに頬張っていたルーミア。
「まっふぇ……んぐっ。ぷはァ……そうだなー、私色んな『海』見てるからなー」
「すげぇ。それじゃ、今までで一番心に残ったヤツを!」
「んー」
ルーミアは暫く考え、ボソリと答えた。
「まだ、海が一つだった頃……」
『?』
何を言ってるのだ。
「私意外と眼が良いからさ、大陸の逆端が見えた」
「ルミャ、何言ってるか分からないわ」
ミスティアが説明を求めた。
「うーん……『穢れ』とか『崇高』とか、そういったものが全く無かった頃の海。
兎に角、澄んだ水が一繋ぎとなっていたよ。大陸も一繋ぎに」
「おいおい……何時の話だ?」
「忘れちった」
殆どが、話についていけてないのだがルーミアは続ける。
「どっかの学者さんは『パンゲア』とか言ってたかな」
「ッ?!! に、二億年以上前?!」
『えええっ!?』
ざっと計算した慧音の発言に一同驚愕。ルーミアは口を尖らせ、ジト目で告げた。
「……何よ。悪いの?」
悪いというか、なんというか……
「永琳以上……」
「紫様より上……」
「あ、紫はいたよ」
『ゲェ!?』
もう、何がなんやら。しかしまあ、参考にならない。話が脱線してしまう。
「る、ルーミア。其処まででいいわ」
「ん、そ」
これ以上参考にならない。宵闇は二返事で再び、饅頭を摘まみ出した。
チルノはオーバー寸前の頭を切り替え、次の妖に移る。
「じゃ、橙」
「うん。えっとね、去年の春。藍様と紫様とその御友人でディ○ニーシーに」
「其処まで!」
言わせちゃいけない。というか、何をやってるんだ。八雲家は。
「えっと……それじゃあ、私も妖になる前の記憶で。うろ覚えだけど」
「始めからそうしなさいよ」
橙が何時『妖怪』に化った(なった)かはわからないが、故郷ということだろう。
「私は東北の方にいたんだけど、断崖絶壁の海岸が多くてね」
「『だんがいぜっぺき』って、何?」
空が首を捻った。
「えっと、リアス……じゃなくて」
「入組んでる滝の下が大きな湖になっているイメージよ」
「にゅ。なんとなく、わかったかも」
「レティさん。ありがと」
橙は話を続けた。
「それでね海と空が『交わってる』所がはっきり見えるんだけど……ある時、海が空に『飲まれる』の」
「『飲まれる』っていうと?」
「数秒足らずで、黒い雲が覆うんです。そして、野分き(台風)のような雨が降り出します」
「ほぉ」
橙は全身を使い、ジェスチャーでその様子を顕わした。
「海が怒り狂った様に荒れます」
「海が怒るの?」
「怒るっていうか、波が荒げるっていうか」
「波?」
……成程。根本から教える必要があるようだ。
慧音が分かって無い連中(主にチルノ、メディスン、キスメ、空)の為に、軽く説明を入れる。
「『波』というのは水が揺らいだ時に出る迫上がりの様なモノだ」
『へ?』
「お風呂や湖で水面が揺れているだろう。アレが『波』だ」
流石、教師。分かり易い。
「海に波が立つのは地球の自転・公転によるものだが……ここまでいくとパニくるだろう。
様は水の中に手を突っ込み、力強くかき混ぜる。すると、どうだ。水面がいつも以上に揺れたり跳ねたりするだろう。
それが『荒げて』いる状態だ」
『へえ』
コクリと頷く4名。しかし、チルノが喰いついた。
「じゃあ、れーせんの能力で抑えれるね」
『は?』
「……『波』長を弄るからかしら?」
「うん」
輝夜が気付き、チルノに問うた。
成程、確かに鈴仙は波長を操る事が出来る。しかし、『波』自体を如何こうしようなんて考えた事も無かった。
「イナバ。できるの?」
「いやぁ……試した事無いですから」
「じゃ、そのうちやってみましょう。諏訪子。お宅の湖貸してね」
「ざけんな」
何故か鈴仙の実験を行う約束を取り付け(無理やり)、橙の話に戻った。
「えっと、まあ海は優しい顔だけじゃないってことだよ」
『はーい』
ある者は海の様々な様子を想像し、ある者は実際海に顔が付いている様を想像する。
ただ……ルーミアは「呆け茄子ポセイドンの野郎思い出しちまった」と舌打ちし、輝夜は「大綿月(ワダツミ)のオジ様元気かしら」と呟いた。
さておき、慧音が幾らか説明を入れた。
「うん。因みに解説だ。橙が見た黒い雲。それは多分、『ヤマセ』だろう」
「『やませ』、ですか?」
「ああ。東北地方の沿岸部では見られるらしい。暴風雨(スコール)程ではないが、急激に天候が変化する。それはそれは壮大だと聞くな。
兎角、その所為で海が荒れたんだろう。私も見てみたいが……まぁな」
自分は、幻想郷から出れない身だから。という言葉を呑みこんだ。
「チルノ。次の話を聞こう」
「ん、おう。じゃあ、萃香」
「えっと……―――」
* * * * * * *
暫くして、残りの萃香、諏訪子、ぬえの話が終わった。
「―――……てな感じ。ムラサの方が海には詳しいと思うから、こんど命蓮寺(うち)で話を聞くといいさ」
「へえ。しかし、萃香さんも諏訪子さんもぬえも、色んな海見てるのね」
「って言っても、『日本』のね。長く生きてるとブラブラするもんだよ」
されど、海を知らない者からすれば憧望の眼差しを向けられる事に、違いは無い。
特に先の4名の眼がコレでもかというほどに光っていた。
では最後にと、レティの方を向いた。
「そうね……北の海の話をしましょうか」
レティの故郷だろうか。
「故郷というわけじゃないけど。海がね、凍って『いた』のよ」
海が凍る?
「とっても寒い所でね。夜空に『虹』がかかるの」
「すごい! 魔法使いがいるの?」
「ふふふ。どうかしら」
無論、外の世界に魔法使いがいるとも思えないが、子供達の想像は広がる。
「アタイ知ってるよ! オーロラでしょ、それ!」
「正解。夜の空に弾幕が広がるみたいで綺麗なのよ。
でもね、一番美しいのは……それが海一面に写った様子を眺める事かしら」
「ほぇえ」
海に写るオーロラ。これまた雅なものである。一同が感動している最中、姫が口を開いた。
「見てみたいものね……でも、昔って?」
「ええ。今は、まあ今も凍ってはいるのだけれど、昔に比べたら溶けてしまったわ。氷」
首を傾げた。
「『外』の世界ではね、海が『上がって』来ているの。勿論、人間の所為でね」
「人間って、そんな力、持ってるの?」
キスメが身を乗り出して驚く。レティは苦笑して、首を振った。
「違うわ。人間一人一人にそんな力は無い……
なんて言うのかしらね、温暖化って言ってわかればいいけど、幻想郷(此処)には無い『概念』だから。
兎に角、人間『達』が自然を壊した結果、海の氷や夜の虹(オーロラ)が歪みかけてるのよ」
「人間は、悪い奴だね」
「……メディ。一概に纏めてはいけない。良い人間だっているのだから」
「……」
元々、人間に関して良い感情を抱いていない妖だって少なくない。メディスンなんかは、その最たる例だ。
今の話だけ聞けば、確かに、人間が『悪』であろう。
「ま、といってもそんな人間達に負けるほど『地球(自然)』は弱くないわ」
「……早く人間は皆、宇宙に上がればいいんだよ」
「「ッ?!」」
ルーミアのトンデモ発言に、元月の住民が目を丸くした。
殆どは分かっていない風だが、幾許か眼を細める者もいる。
「ルーミア。莫迦なこと言わないの」
「みすちー……冗談だよ」
時たま、彼女の冗談は冗談に聞こえないから困る。本気で何かしでかしそうで、怖い。
「……とりあえず、私の話はこれまでよ」
「うん。ありがと……不明連中は置いといて。じゃあまず、質問ある妖は?」
一区切りつき、チルノは質問タイムに話を進めた。
「あ! はい!」
「うい。空」
元気良く地獄鴉が手を挙げた。
「海の果てはさ、滝みたいに落ちて行くって聞いたことあるんだけど本当!?」
海を、いや『外』を知らない少女ならではの質問だ。
さて、どうしようかと海を知る者達が顔を見合わせ、じゃあと大妖精が答えた。
「それは違うよ。そうだね……まず地球は丸いの」
「え!? そうなの?」
「お空。前、お姉ちゃんに同じ事教えて貰ったじゃん」
「うにゅ?」
こいしがヤレヤレと首を振る。一同も苦笑した。
「あはは。まあ、つまり地球をグルっと回ればまた同じ場所に出るの。わかったかな?」
「うん、りくつは」
大丈夫だろうか。空は忘れないよーに、となにやらメモを始めた。
空に続いて、小さい妖が手を挙げた。
「はい」
「キスメ、どーぞ」
ヒョコリと釣瓶落としが手を挙げる。
「海って、神様の涙って、ホント?」
『神様の涙?』
「うん」
これはまた珍妙な表現だ。確かに、海の塩水を涙と例える神話は少なくないが、非科学的だ。
視線が一斉に諏訪子の方へ向く。多少、気まずかったが神様は答えた。
「うーん、確かに時々そういった文献はあるよ。でもなぁ……」
そう言って、輝夜の顔を見、助けを求めた。
「……そうね。もしかしたら御爺さ、じゃなくて、イザナギ様の涙とか、ゼウス様の涙とか。
ありえなくも無いわ。そもそも、原初の海云々を考え出したら限が無いのだけど」
苦笑する。
「ククク。ま、哲学で考えるか、科学で考えるかで異なってくるよー。キスメは如何だったら良いと思う?」
ケラケラ笑うルーミアが純粋無垢な妖に問うた。キスメは一寸考え、答える。
「涙だったら、素敵、かなぁ」
「ふふふ。そうだな」
慧音が微笑み、キスメの頭をポンと撫でた。
一段落し、チルノは次の質問を確認する。するとまた別の妖が手を挙げた。
「うい。ぬえ」
「この前、ムラサの話で出てきたんだけど……『ローレライ』って、何かな?」
『え?』
「……」
一斉にミスティアに視線が行く。
「私を見られても、知らないよ」
「ふーん……」
「まあまあ、互いにそう暗くなるな。私が知ってる限りで教えよう」
そう言って、慧音が説明を始めた。
ローレライ。
本来は、ドイツのライン川沿岸に存在する岩山で、川下りでの観光名所でもある。
このあたりはかつて航行の難所でよく遭難が発生していたことから、その岩に佇む少女の美しさと『歌声』に船頭が魅せられ、船が渦の中に飲み込まれるという魔女伝説が生まれた。
それから、伝言ゲームの要領により河・海で遭難沈没する謂れを、ローレライの所為にする事が増えた。
川の魔女だが、セイレーンと同一視される事も少なくない。
「あ、いや、ミスチーの事を言ってるんじゃなくて……まあ、そうなんだけど。気になって」
「別に、私は幻想郷の『山』生まれの『森』育ちの妖怪だから、何とも」
素っ気無い風にミスティアは応える。それにピンときたこいしが突っ込んだ。
「じゃあ、なんでミスチーは『ローレライ』なの?」
「……さあ」
「ふぇ?」
「知らない。というより、名前なんて飾りよ。あくまで私は『夜雀』であって、名前は後付け。
人間やこいし(古明地)やフラン(スカーレット)みたいな『血統』じゃないから、誰かが適当に付けたモノ」
何処となく、自虐的な笑みを浮かべ、ミスティアは告げた。それに気付いたのか、チルノが呟く。
「でも……きっと、良い事なんだと思うよ」
「え?」
「名前。アタイは『チルノ』だし、ミスチーは『ミスティア』だ」
「よくわかんないわ」
「それでもだ。加えて、『歌魔女(ローレライ)』の性を貰ってるなんて、ミスチー恰好良いじゃん!」
よくもまあ、歯が浮きそうなセリフをスラスラと。それでも、何故か、嬉しかった。
「……ありがと」
「へへ」
二カッと笑う。
「ま、ぬえ。今のけーねのでわかった?」
「あ、うん。ありがとう」
「いえいえ」
一応解決。では、次。
「メディスンは何か無い?」
「えっと、どうして……幻想郷には、無いの?」
「海?」
「うん」
……
「えっと……誰が、答える?」
「ルーミアちゃん?」
「知らん。橙、スキマ呼んで」
「え、あ、いや、忙しいと思う」
「チッ」
これまた難題だ。多分、管理人にしか分からない答えだろう。安易に答えられない。
「内陸だから……って答えにならないか」
「なんで、沿岸にしなかったのって聞かれるね」
萃香と諏訪子が苦笑する。
一同が頭を悩ませている最中、ルーミアがボソボソ、何かをぼやいた。
「―――、……~~、―――……。―――……言うぞ?」
誰も聞き取れない声。しかし……
―――ブオォンッ!!
ルーミアの頭があった場所が『爆ぜた』。何事かと一同は身構える。しかし、そこには見知った顔。
「……前が、見えない」
「乙女の純情を踏みにじろうとした罰よ」
ルーミアの首から上が、別の者になっていた。驚愕の余り声が出せなかったが、辛うじて輝夜が告げる。
「ゆ、紫」
「あらあら皆さん。御機嫌麗しゅう」
『……』
何事も無かったかのように、紫が微笑んでいた。
「何か御用かしら?」
「え、あ、えっと……メディスンが聞きたいことあるって」
「へぇ。何かしら、お人形さん」
驚きながらも我に返り、メディスンは先の疑問を賢者に問うた。
「ふーん。海、ねぇ」
「何で無いの?」
「必要無いからよ。それに『外』で増えているモノを、幻想入りさせる気はありませんわ」
「……成程ね」
数名が納得する。
確かに、先のレティの話と照らし合わせれば理にかなっていた。
「じゃあ、私達は海を……見れないの?」
『……』
純粋というものは時として残酷。
「……そうね。幻想郷は全てを受け入れるけど、万能ではないのですわ」
「そっか」
シュンと項垂れる。
「でも、今後……何かしらの理由でそれらしいものが入る『かも』、ね」
『え?』
「まあ、占・予知云々は私の十八番じゃないから、レミリアにでも聞きなさいな」
これまた、胡散臭い。が、希望ある胡散臭さだ。
「それじゃ、私は忙しいからまったねぇ」
あっと言う間に消えて行くスキマ妖。ルーミアの首から上が元に戻っていた。
「……今度、幽香辺りと一緒に『スキマ塞ぎ』しようと思うんだ」
「止めときなさい」
ミスティアが冷や汗を掻きながら宵闇を制す。
一同は暫く呆気に取られていたが、ふと自分達が何をしていたかを思い出し、話題に戻った。
「オホン。め、メディスン君。わかったかね?」
「うーん。もしかしたら海が見れるかもしれないし、もしかしたら見れないまま一生終わるかもしれないってことでいいの?」
「ま、まあそうね……海が無い理由は、さっきのレティの話と紫の話を足せばOKよ」
「わかった」
コクリと頷く。
さて、一通り質問が出終わったようだが。
「んじゃ、不明組」
「……チルノちゃんは質問無いの?」
「ん? ああ、いいのいいの」
大妖精の疑問にカラカラ笑い、チルノは進めた。何処かこう、自信有り気に。
「じゃ、こいし」
「んーとねぇ……―――」
* * * * * * *
結局、こいしの『海』は不明瞭なものだった。
何せ擬音やら意味不明な例えが多すぎる。聞いている側が混乱する一方で理解ができなかった。
「―――……で、ザッパーン。ゴゴゴゴゴなドドドドド!」
「……うん。こいし、ありがと」
「え? あと十以上有るよ」
「なんとなく、すげぇってことは分かったから。また今度ね」
「ブー」
口を尖らせ、不満そうにジト目になる覚妖(イレギュラー)。
チルノは苦笑しながら、月の民に話を振った。
「最後、宜しく!」
「はいはい。そうね、じゃあ私は『水の惑星』の話をしようかしら」
輝夜は静かに語り始めた。
「月から見た地球海ってね、生き物みたいなの」
『生き物?』
「ええ。まるで生きているかのように『動く』の」
流石の宵闇や神様も目を丸くしていた。
「雲を産み、陸を呑み、波を揺らす。巨大な生物みたいだわ」
「じゃあ、海って妖なの?!」
「ふふふ。もしかしたら、そうなのかもね」
空が目を輝かせながら、うんうん頷いた。
「月のお偉いさんは、地上を穢れと云うけれども、私はそうは思わないわ。
地球には海、山、川……素晴らしいモノが沢山あるのだもの。キスメの言葉を借りれば『素敵』ね」
「えへへ」
照れ臭そうに、はにかむキスメ。
「……成程。やはり、お前さんは月の姫には向いて無いよ」
「同感」
「あらあら、失礼ね」
萃香と諏訪子が苦笑する。ただけして貶しているわけでは無い。寧ろ、褒めているのだろう。
続けて、慧音が尋ねた。
「それは、永琳の教えか?」
「違う違う。ま、いないから言えるけど、彼女も何処か『穢れ』を信じている節はあるから。あ、イナバ。告げ口したら死刑よ?
そうね……私の母様の教え、かな」
「輝夜の、お母さん?」
「そ」
以前、母親について話し合ったことがある。
特にメディスンは知らない事ばかりだったので、興味が妖一倍強かった。
「お母さんが教えるの?」
「あはは。教えてくれたんじゃなくて……そうね。
いつも『地球や海は私達を創り出してくれた素晴らしい存在だ』って謳ってたのよ。覚えちゃったって感じね」
「へぇ……輝夜のお母さんってどんな妖?」
「妖、ねぇ。妖怪じゃないわ。人でも無い……多分、月人(神)でも」
『え?』
鈴仙までもが声を挙げる。
確かに、自分は姫と師匠については知らないことが多い。しかし、蓬莱山といえば月では銘家だ。なのに肝心の輝夜が月貴族では無いというのか。
「なんかねぇ。そういうのも超越しちゃってるかな。母様は」
「……確かに」
「あら、ルーミア知ってるの?」
「まぁねー」
頬を掻きながら、呟いた。
「アイツは確かに、クリスに似て何か一線を超越してる感じだね。真の『カリスマ』なんだろうよ」
「キリスト様と同等かぁ。ふふ、言えてる」
何がなんだか分からなくなってきた。
「か、輝夜。話を戻して」
「あ、ごめんごめん。ま、月からだと海の表情の変化が分かりやすいってことね。
さっきのこいしの『表現』も強ち間違いじゃないのかも。言葉で表せない表情って所かしら」
「だから言ったじゃん! ザブーンってピシャーなんだよ!」
「あはは……」
まあ、無意識という事で。
ではではと、チルノは最後の鈴仙に向き直った。
「じゃ、れーせん君」
「はいはい……『月の海』は……」
・・・
「……」
『……?』
途端、鈴仙が黙り込んだ。
「イナバ?」
「……あ、えっと、その……ちょっと」
「鈴仙? 大丈夫か?」
顔が、真っ青だった。
「ご、ごめんなさい……」
「あ、おい!」
心配して手を伸ばした慧音を振り払い、脱兎の如く何処かへ消えてしまった。
輝夜は立ち上がり、皆に詫びをした後、鈴仙を追いかけて行った。
『……』
唖然。
どうすればいいのだろうと、議長のチルノは無言で顧問に助けを求めた。
「そ、そうだな。最後に今日の話を復習を兼ねて纏めてみると良い。きっと為になるだろう。
レティ、後を頼む。私は……」
「任された。さ、チルノ」
「お、おう」
そう言って、慧音も二妖の後を追っていった。
チルノは混乱しながらも、レティに助けて貰い会議を纏めることにした。
* * * * * * *
「―――……まあ色々あったけど、今日の会議は此処までよ! 何かある妖いる?」
『ありませーん』
「よし。んじゃ、今日は解散! 一応竹林でるまでは、もこーが送ってくれるらしいから気を付けて帰るよーに」
『はーい』
わいわいがやがやと一同は散って行く。迷いの竹林から、帰り途が分からない者は妹紅(ガイド)に案内して貰い、帰路に就くこととなった。
残ったのはチルノ、ミスティア、ルーミア、萃香、諏訪子、そしてレティ。
ミスティアは何時もの如く、会終了後その場で屋台を開き始める。既に習慣と化していた会場屋台。ふと、女将が呟いた。
「センセはまだ?」
「待ちましょ……ミスティア、適当に摘まむモノお願い」
「……はい」
不安が籠るミスティアの問いに、平静を装ったレティが答える。他の者も連られて、屋台のカウンターに腰かけた。
何時の間に酒を出したのか、萃香が瓢箪をラッパ飲みしている。
「ンパァッ……しっかし、海とはねぇ」
「スキマも意味深な発言するもんだよ。まあ、当分は幻想入りしないとは思うけど」
鬼と神が苦笑する。夜空を見上げながら煙草に火を点けた宵闇が、ふと氷精に尋ねた。
「そういやチルノ。なんで海の話題なんか持ってきたの?」
「ん?」
水から精製した氷をグラスに入れ、冷を啜っていたチルノは目線をルーミアへ向けた。
「別に、深い理由は無いわよ」
「へ?」
「まぁ……強いて言うなら―――」
その時、足音が二つ。
「悪い。おや、もう終わっていたか」
「慧音。姫さん」
チルノが全て言い終わる前に、慧音と輝夜が戻ってきた。
カウンターに座っていた3名は二妖分の席を空け、彼女達の話に耳を傾ける事にした。レティが問う。
「で、兎さんは?」
「病気よ。持病ね」
『持病?』
顔を見合わせ首を傾げる。
輝夜が続けた。
「まぁ……臆病兎のトラウマ病ってとこかしら」
「トラウマ、ねぇ」
「何でも、『月の海』で思い出したくない事まで思い出した……だったか?」
「ええ。ホント、下らない。誰もあの娘の事怨んじゃいないっていうのにね。月はそんな場所じゃないわ。もっと明るい場所なのに。
過去の柵(しがらみ)、自責の念とでも言うのかしら。そいつが膨張して枷になってしまっているのね。
兎角、安定剤は飲ませてきたわ」
そう言って、慧音と輝夜はミスティアに摘みを頼んだ。
今この場にいる者は幻想郷に居る刻が其れなりに長い。若しくは、中途であっても権力者。永遠亭の内部事情の『さわり』程度は理解している。勿論、『脱兎』の件もだ。
妙な沈黙が流れる中、宵闇が皮肉を入れた。
「今、永遠亭を襲ったら二日で鎮圧できるね」
「ふふっ。やってみる?」
永琳、寝込み。鈴仙、戦闘不能。てゐ、不在。妖兎軍、長不在の為行動不能。
実質、この姫だけ。
だがしかし、このキレ者(輝夜)に駆け引きは通じない。
「……冗談。束ならまだしも、サシで輝夜(アンタ)とやったら互いに無事じゃ済まないからねー。鬼さん、神さんが手伝ってくれるなら別だけど」
「バーカ」
「誰が望んで均衡破るかってーの」
永遠亭は重要なバランスの一つだ。
コレが崩れたりしたら……『山』か『反乱軍』辺りが、里や地上に攻め入ってくるだろう。
「ルーミア。冗談でも止めてくれ。戦になれば人里が一番に損害が出る」
「センセは人間よりだねぇ」
「私も怒るよ。チルノも、レティさんも」
「OK、ミスチーは敵にしたくない。止めだ、タダ飯が食えなくなる」
皆苦笑。さて、と姫様が二三手を叩き、妖兎を呼んだ。小さな兎達は野菜や魚、酒を運んでくる。
「女将さん、お代は私持ちで。これで足りるかしら?」
「ええ、充分過ぎるほどに」
輝夜は妖兎達を労い良い子良い子と頭を撫でてやる。
私も私も褒めて褒めて、とやってくる若い兎達に姫様は包まれ、まさに白ダルマになっていた。
「ふふふ。この子(兎)達にも何か出してあげて……あの娘(鈴仙)の分と永琳、因幡の分も」
「はいさ。たんまりと」
中庭はまるで例月祭の如く盛り上がっていた。ただ……首脳陣不在で。
ふと先程から静かなチルノにレティが気付いた。
「……チルノ?」
夜空を、月を見上げながら……いや、睨みながら佇む氷精。皆がコップ片手に彼女を見る。
「どうしたの? 月でも落ちて来そう?」
「ハハっ。オッカナイねぇ」
諏訪子と萃香が莫迦にする。がしかし、チルノは無言だった。そして……
「ちょっと行ってくる!」
「え? ちょ、おい! チルノ!」
刹那、亭内に向けて駆け出した。一同は唖然するしかなかった。
* * * * * * *
『月の海』。
一見、静かなに思える月のクレーター。
しかし、実際は月軍と地上軍が争い続けていた戦跡である。仲間達の中では『墓場』と揶揄する者もいた。
勿論、鈴仙―――レイセンも彼の地に立っていた事もある。
「……」
部屋の隅で布団を被って震える。
聞こえる銃声。妄(み)えるマズルフラッシュ。血潮の味。感じる戦風。臭う硝煙。
負傷者。死体。味方。敵。男。女。神。人。兎。妖。先輩。同僚。後輩。上司。部下……
『逃げた』『仲間を置いて』『地上に堕ちた』『脱兎』
頭に響く妄言―――
「ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。
ごめんなさい…………」
―――亡者への謝罪。
ジャラリと戦場で拾ったタグを握る。そして……目線を手首に移す。無数の、切り傷。
「だ、駄目」
衝動を抑え、クスリ―――胡蝶夢丸・特別調合(ファンタジア)タイプに手を伸ばす。
このクスリ、永琳が鈴仙の情緒不安定改善薬として造ったモノである。尤も、症状が出てしまった状態では一妖では一丸も飲めないわけで……
「ひゃっ!! うぅ……」
このように手を伸ばしても、震えて中身ごとビンを引っ繰り返してしまう事があるのだ。
普段、この禁断症状が出た際、永琳かてゐが彼女の自傷が収まるまで面倒を見る。
ただ、最近は安定傾向にあり誰もが油断していた。無論、先程数錠飲ませた輝夜でさえ。
「はぁ……はぁ……んっ」
瞬間、手首を噛んだ。
それはもう、噛み千切るほどに。
「んっ! ぐぅっ……んはっ!!」
血が。
永琳曰く、鈴仙のこの状態は彼女が『狂気』に呑まれていると表現している。
人間(彼女は人間ではないがそれを模している為)、自力で手首を噛み切ろうとしても、そう簡単にはいかないモノである。妖なら、尚の事。
加え、無意識下のうちに自己防衛が働き、力が減少する。
故に、彼女は刃物を握った。
「……」
そして―――
カキンッ……
―――ナイフが弾け飛んだ。
「……あ」
「何やってんのよ……」
目の前に、氷の弾。扉には息を荒げた氷精。
「ち、ちる……ちる、の」
「アンタ」
部屋の隅に居る鈴仙へ近寄るチルノ。
「こな、来ないで……っ! 嫌ぁ……みな、見ないでぇ……」
「ッ……莫迦!」
空かさず再びナイフを掴もうとする鈴仙。チルノはその手を蹴り上げた。そしてそのまま手首を握り上げ、冷やす。
「ひぅ!」
「……ったく。信じられないわね。信じたくも無い」
無論、妖精に『死』の概念など理解できない。理解できないが……『チルノ』は違った。
この愚かな兎が自刃しようとしていたことぐらい、さも当たり前かの様に気付いたのである。
チルノはそのまま鈴仙を引き寄せ、静かに抱いた。
「ふぇ」
「……アタイの所為ね。ゴメン」
「ち、ちが……」
ギュッと、抱きつく力は強まった。鈴仙も次第に震えが、収まる。
冷たいが、何処か……温もりある抱擁。兎型獣人で基礎体温の高い鈴仙にとって、不思議な感覚だった。
「……落ち着いた?」
「え、あ……ぅん」
「そ」
そして、チルノは笑った。
「何か食べれる? 持ってくるわよ?」
「……いい」
「うん。わかった」
そう言って、鈴仙の隣に座り込んだ。
「……もど、らないの?」
「戻ったら何しでかすか分からん奴置いて、戻れないわよ」
「大、丈夫、だから」
「ダイジョブじゃ無い」
真剣な眼差し。そして、暫しの沈黙が走った。
大分落ち着き、何とも言えない静けさに耐えられなくなった鈴仙が、意を決してチルノに告げた。
「『月の海』、ね……」
「うん」
「そんなに、綺麗なとこじゃない、わ」
「ふーん」
「『死』の臭い、亡者の影で……十億万土」
「へぇ。興味無いね」
さも如何でもいいかのように言い放つ氷精。脱兎は呆気に取られた。
「多分、今のアンタから何聞いても綺麗な情景は浮かんでこない」
「……」
「でも下んない事があった。これだけは分かったわ」
二妖、肩を寄せる。
「冷たい」
「うるへぇ」
クスリと笑う。
「チルノ」
「ん?」
「……あり、がと」
「ん」
凍るほどに熱い肩。互いに何の感謝か分からないが、深い意味は必要無かった。
「アタイは仲間を助けただけよ」
「仲間?」
首を傾ける。
「れーせんも最強会の一員でしょ。準会員だけど」
「……うん」
「だったら仲間よ。アタイは全力で仲間を助けるわ」
「そっか」
苦笑。
「それに準会員だからアンタは半妖前」
「な……それを言うなら、半人前、でしょ?」
「妖怪だからいーの。四の五の言わない。まぁ、れーせんは黙ってアタイに連いて来なさい!」
「……はいはい」
まるで師匠みたい。勝手なんだからと再び苦笑した。今度はチルノも微笑んだ。
そして、二妖は大声で笑った。
臆病兎は赤い目を擦りながら少しだけ、幸せになった
* * * * * * *
「なぁに、笑ってんだか」
「あっちはあっちで楽しそうだねぇ」
屋台(此方)も屋台で盛り上がっているのだが。ふと慧音が呟いた。
「しかし、チルノは……妖精らしくないな。今更だが」
「如何でもいい事よ、んなこと」
諏訪子が杯を傾け、横目で答えた。
真面目気質な慧音は酒に口を付けずに、しかしと眉を顰める。
「如何なのだ? レティ」
「……さぁ。別にあの娘の保護者じゃないし」
「冷たいねぇ」
萃香がレティの豊満なスイカを突っつく。無論、バシンと叩かれた。
それを傍目で見ていたルーミアは紫煙で輪っかを作りながら、何となくごちる。
「ま、彼女が私達と違う何かを……いや、私達が『忘れた』何かを永遠に保有している事は確かかな」
「そうね。あの娘の『永遠』、欲しくても手に入らない品物よ」
『永遠』を司る姫が、静かに答えた。
一同は、ほうと感嘆の声を挙げてしまった。次いで、萃香が述べる。
「美徳かどうかは知らないけど、鬼より嘘は付かないからね。チルノ」
「まるで、自分は少しでも嘘を言ってますよみたいな発言じゃないか」
「別にそういう訳じゃないさ。ただ広く見て……鬼の中には『道』を外れた『邪鬼』だっているからさ」
「『天邪鬼』とか?」
レティが問う。萃香は笑って首を振った。
「ははは。いや、アイツはハナからそういう妖だからね。真を言わない分、『外れた事』も言わないよ」
成程と皆、笑う。
そういえば、とミスティアが首を傾げ呟いた。
「でも……チルノが海の話題を出した理由なんだったのかしら」
『ああ』
忘れてた。
がしかし、一妖、ふふふと笑い自分のコップを眺めていた。
「あの娘、昨日ね」
『ん?』
雪女。
「本開いて『アタイ、海に行く!』って」
『……』
「莫迦よねぇ。ホント」
唖然。
「でもね……嫌いじゃないわ、そういうの」
「ククククク、アハハハハ!! 最っ高!!」
「ハハハ! 流石我らがリーダーだ!」
「惚れ惚れするねぇ」
レティは何処か嬉しい様な寂しい様な表情をし、ルーミア、諏訪子、萃香は恍惚そうに笑う。
慧音とミスティア、輝夜はヤレヤレと顔を見合わせ苦笑した。
自分の目標に対し、人妖を引き寄せる不思議なカリスマ性。チルノにはそれがあった。
ふと、下向きのレティに輝夜が気付いた。
「浮かない顔して」
「ん……まぁ、ちょっと嫌な噂を耳にしてね」
「噂?」
ポツリと語り出す。
「『封印指定妖等』って知ってる?」
「封印……あの地底に閉じ込めるだかってヤツ?」
「それ」
子指で氷を掻き混ぜながら、レティは続けた。
「聖輦船メンバーやぬえが喰らってたヤツ。聖とかいう尼僧は別口らしいけど」
「確か、聖輦船主要メンバー達がA級で、ぬえがS級だったか」
「そうね。私も閻魔とスキマ達管理者の内情は詳しくないけど」
慧音が混ざってきた。因みに聖は法界封印なので別件扱いである。
「で? それが?」
「……近々、数名『指定』されるとの噂があったわ」
「……成程」
賢い彼女達は其処から先を言わずとも理解した。
昨今、周りから見て目に余る力を保有している夭―――チルノがマークされているのだと。
例え、背伸びのお遊戯会であっても『上』は見逃すつもりが無いらしい。
「ふざけてるわね」
「……なんともなん」
グイッと冷を呷った。
「大丈夫だよ」
「ルーミア?」
何時から聞いていたのか、宵闇が煙草を揉み消しながら告げた。
「チルノに何か仕出かそうってんなら……『死んでも、殺す』」
「……」
「私もだね。ま、殺しはしないまでも」
「え? 私はルーミアと同じで殺すけど」
「萃香、諏訪子……」
それはそれは妖怪、祟り神らしい笑みで怒気を放出していた。其の笑みを見た女将が溜息をつき、皆の空いた杯に酒を注いだ。
「莫迦なこと言わない。あくまで『噂』でしょ? 閻魔様も分かってらっしゃるわ」
「そうだな」
慧音が相槌を入れる。
まったくと一同は杯を持ち、軽く掲げた。
「何に乾杯?」
「我らがリーダーと、その夢に」
「いいね」
杯をカウンターに寄せる。あ、と輝夜が、付け足しお願いと頼んだ。
「あと、ウチの臆病『師弟』にも景気づけに、お願い」
「ククク、あいよ」
誰か分からぬ、音頭が入る。
「永遠亭の不景気回復を祝って」
『祝って』
「そして、我らがリーダー(チルノ)と彼女の『海』に!」
『チルノと海に!』
『乾杯!!』
キンッ……
冬の枯れ笹の揺れる音と、小粋な妖の喉の音だけが、下弦の月夜に響き渡った。
待ち切れず八雲とかみさまシリーズetcを読み直しちゃいましたww
読み直すことによってさらに新作が待ち遠しくなるという自分には悪循環でしたww
今回の最強会も、チルノのカリスマっぷりとか、ルーミアの胡散臭さとかが相変わらずで面白かったです。
橙の発言が危険すぎるwwwハハッ!!www
こいしちゃんの例えがなんとなくわかる自分がいるwww
次は天子が出てくる話みたいなのでさらに楽しみです。
ちなみに最強会を一発変換したら祭協会って出ました。イミフwww
あと読み直してて思ったんだけど、タグに「オリ設定含」って付けるだけどあまり気にせず読んじゃって、
「何これ?」みたいな感じのコメを○○シリーズってついてない作品でちょろっと見かけました。
○○シリーズってつけない作品には「設定が投稿作品全部に共通してるよー」ってな感じ注意書きを入れた方がいいかもしれないね。
…困ったもんだ。
さてさて、こっからどうなるか、ただただ楽しみですw
・4番様> ウチのルーミアは「キャールミャサーン!」ってキャラですw リグルは……降ご期待!
・9番様> なんともマンキョウ中毒者とは、拙いなw
チルノとかルーミアとかカリスマってわけじゃないけど、自分に忠実なのかなって感じですかね。
橙は本物の海に行くと式がアレなので、観光で蓮子お姉さんらと八雲家として行きましたw
あ、最後の御意見めっさ参考になります! 感謝です!
・14番様> 怖くないよ、グへへw まったく、困ったもんですね!
・16番様> 感謝の極みでっさぁ!
つまり大きな水溜まりと言う表現は海が雨によって生まれた事を表していたんだ!!!
それはともかく今回の作品も楽しませてもらいました。
リグルの悲劇は心配ですが、最強会のメンバーが何とかしてくれるはず。
人間が宇宙に上がったってろくなこたぁねぇ
コロニーが落ちて地球が汚染されてしまうぞ
・ずわいがに様> \ぱねぇ!/ 宇宙に出た人間の恐ろしさを知らないのもまた、幻想郷の住人故です・・・
貴方の作品凄い好きです!
貴方の書くルーミアが好きすぎてやう゛ぁい
ただ勘違いしないで欲しい。ルーミアは莫迦です。ベクトルが歪んでいるという意味で……それでもおk?