東方二次創作
魅魔×幽香
百合表現あり
ーーーーーーー
「ねえ、なんでそこにいるの?」
「封印された恐怖の悪霊—とでも言えば、きまりがいいかしら」
あんたはそう言って、湯飲みに口をつけた。
花呪霊
馬鹿なことをした妖怪がいる、ということは前から耳にしていた。
人類を滅ぼそうと巨大な力を使い、挙げ句人間に封印された間抜けな奴。
地獄出身の化け物はこうもおかしいのかとそのときは思っていたが、こうして会ってみるとますますおかしい。
その馬鹿な悪霊であるあんたは、いまこうして子分である人間の子供の頭を撫でている。
「魔理沙は、最近口が悪いね。友達にやんちゃなのがいるのかい?」
「出会い頭に田舎者呼ばわりする人形使いはいるがな。魅魔さまこそ、外にでないのかよ。まえまでちょっとへんなことおきると霊夢ほっぽりだして異変解決に行ってたじゃないか」
「そこの平和ボケ妖怪と同じように、もうトシなのよ。—あたり全体紅い霧だろうがなんだろうが、若いあんたらがなんとかしてくれるしね」
あんたは私の顔を見て笑った。大きなお世話だ。それに、私はあんたと違って外に出ている。巫女にやられてすっかり浄化されたのはそっちだというのに。
気付けば私達はわりと仲が良くなっていた。
あんたの飄々とした性格は私の性に合っていたし、なによりこの神社周辺の花が気になっていたから、自然と足は神社に向いた。
境界にあるところだから、周りに咲いているものたちの存在も希薄なのだろう。弱々しく咲いている花たちはみていて悲しく、私の能力に腕をふるわせた。
あんたは優しい笑みを浮かべ、子分の話を聞く。私達の時間は大抵こうやって流れていく。たまに巫女がお茶を持ってきたりするくらいで、邪魔する者もなく、時間はゆったりと過ぎて行く。
稀にやって来た巫女が、お花はと訊くけれど、私は絶対に花を持ってきたりはしなかった。生命に興味を示していなかったあんたは、花を枯らすのが得意だったからだ。
「じゃあな、魅魔さま。幽香も早く帰れよ」
「はいはい。用心して帰るんだよ」
気付けば辺りは鮮やかな夕焼けに覆われていた。巫女が外に出るのが、音でわかる。賽銭を期待してのことだろうが、おそらく今日も見込めないだろう。
「やー、今日も良い日和だった。けど、なんかおかしいわね」
「奇遇ね。私も同じ考えよ」
「近々、異変が起きるだろう。おまえさんが好きな花が被害者ってとこかしら」
「わかってるなら、原因突き止めなさいよ」
「やだね。私は見物しておきたいんだ」
あんたは拗ねたように言って、下半身をぶらつかせる。私は少し息を吐いて、平和な空を見上げた。
彼岸花のような鮮やかさはだんだんと消え失せ、淡い群青色が混ざっている。人の気持ちもこの空のようなのだろう。私は妖怪だけど、なんとなくそう思った。
「…ねぇ」
朱色が薄くなっていく。雲までもが夜の帳に染まり、やがてうっすらと浮かび上がっていた月が冷たく煌めく。
私の細い声は、あんたの鼓膜を震わせたようだ。
「…どうか、したのかい」
あんたは人間の子分に見せた笑みとはまた違った笑みを浮かべ、私の肩をそっと掴んだ。そのまま、ゆっくり抱き寄せられる。
私はその手を拒み、大分暗くなった空をまた見る。
「…なんでもないわ。…じゃあね」
縁側から腰を浮かし、地面に立つ。怖いくらいに美しい満月を背にした私は、あんたの瞳にどういうふうに映っているのだろう。
「…花」
あんたは察しがたい表情のまま口を開いた。
「持ってきなよ。そろそろあれが見ごろだろう?黄色くて立派な、太陽の畑に咲いている」
「馬鹿ね。向日葵は夏の花よ。季節外れにもほどがあるわ」
私がそう言うと、あんたは苦笑した。私は再び別れを告げて、夜を迎えた幻想郷を歩いた。
ーーーーーーー
—ねぇ、
あんた、消えちゃうんじゃないの
言えなかった。あんたの優しさに漬け込んだ私には、言える勇気がなかった。
辺りが紅い霧に包まれたころから、あんたはだんだん神社から出なくなった。
穢れが過ぎると転じて神聖なものになる、と聞いたことがある。外の世界では、あまりにも強い悪霊に畏れを覚えその霊を学問の神として祀ったということがあったらしい。
一度は本気で人類を滅ぼそうとしたほど強力な力を持っているあんたが、祀られてもないのに勝手に神と天に認められていたら。
信仰のない神はだんだん忘れ去られていずれ消えてしまうという噂が、本当だとしたら。
実のところ、私はそれが心配でならなかった。
あんたがいなくなる、そう聞いただけで、私は強い衝動を胸に感じた。この感情の正体は知っている。けれど、伝えるのが怖い。あんたが私を、私があんたを想っているような感情で見ているのも知っている。
だけど怖かった。思いが通じてしまうのが。もし私たちがいまより親密になったとしたら、私は耐えられないだろう。—あんたを失ってしまったときの喪失感に。
だから私は臆病だった。時として、あんたの全てを悟った瞳が恐ろしくもなった。
甘えている。あんたといる日々に。不安を覚えながらも、私は満足していた。—あんたといると、小さな喜びが何倍も嬉しく感じられるから。
それが間違いだとわかるのに、そう時間はかからなかった。
魅魔×幽香
百合表現あり
ーーーーーーー
「ねえ、なんでそこにいるの?」
「封印された恐怖の悪霊—とでも言えば、きまりがいいかしら」
あんたはそう言って、湯飲みに口をつけた。
花呪霊
馬鹿なことをした妖怪がいる、ということは前から耳にしていた。
人類を滅ぼそうと巨大な力を使い、挙げ句人間に封印された間抜けな奴。
地獄出身の化け物はこうもおかしいのかとそのときは思っていたが、こうして会ってみるとますますおかしい。
その馬鹿な悪霊であるあんたは、いまこうして子分である人間の子供の頭を撫でている。
「魔理沙は、最近口が悪いね。友達にやんちゃなのがいるのかい?」
「出会い頭に田舎者呼ばわりする人形使いはいるがな。魅魔さまこそ、外にでないのかよ。まえまでちょっとへんなことおきると霊夢ほっぽりだして異変解決に行ってたじゃないか」
「そこの平和ボケ妖怪と同じように、もうトシなのよ。—あたり全体紅い霧だろうがなんだろうが、若いあんたらがなんとかしてくれるしね」
あんたは私の顔を見て笑った。大きなお世話だ。それに、私はあんたと違って外に出ている。巫女にやられてすっかり浄化されたのはそっちだというのに。
気付けば私達はわりと仲が良くなっていた。
あんたの飄々とした性格は私の性に合っていたし、なによりこの神社周辺の花が気になっていたから、自然と足は神社に向いた。
境界にあるところだから、周りに咲いているものたちの存在も希薄なのだろう。弱々しく咲いている花たちはみていて悲しく、私の能力に腕をふるわせた。
あんたは優しい笑みを浮かべ、子分の話を聞く。私達の時間は大抵こうやって流れていく。たまに巫女がお茶を持ってきたりするくらいで、邪魔する者もなく、時間はゆったりと過ぎて行く。
稀にやって来た巫女が、お花はと訊くけれど、私は絶対に花を持ってきたりはしなかった。生命に興味を示していなかったあんたは、花を枯らすのが得意だったからだ。
「じゃあな、魅魔さま。幽香も早く帰れよ」
「はいはい。用心して帰るんだよ」
気付けば辺りは鮮やかな夕焼けに覆われていた。巫女が外に出るのが、音でわかる。賽銭を期待してのことだろうが、おそらく今日も見込めないだろう。
「やー、今日も良い日和だった。けど、なんかおかしいわね」
「奇遇ね。私も同じ考えよ」
「近々、異変が起きるだろう。おまえさんが好きな花が被害者ってとこかしら」
「わかってるなら、原因突き止めなさいよ」
「やだね。私は見物しておきたいんだ」
あんたは拗ねたように言って、下半身をぶらつかせる。私は少し息を吐いて、平和な空を見上げた。
彼岸花のような鮮やかさはだんだんと消え失せ、淡い群青色が混ざっている。人の気持ちもこの空のようなのだろう。私は妖怪だけど、なんとなくそう思った。
「…ねぇ」
朱色が薄くなっていく。雲までもが夜の帳に染まり、やがてうっすらと浮かび上がっていた月が冷たく煌めく。
私の細い声は、あんたの鼓膜を震わせたようだ。
「…どうか、したのかい」
あんたは人間の子分に見せた笑みとはまた違った笑みを浮かべ、私の肩をそっと掴んだ。そのまま、ゆっくり抱き寄せられる。
私はその手を拒み、大分暗くなった空をまた見る。
「…なんでもないわ。…じゃあね」
縁側から腰を浮かし、地面に立つ。怖いくらいに美しい満月を背にした私は、あんたの瞳にどういうふうに映っているのだろう。
「…花」
あんたは察しがたい表情のまま口を開いた。
「持ってきなよ。そろそろあれが見ごろだろう?黄色くて立派な、太陽の畑に咲いている」
「馬鹿ね。向日葵は夏の花よ。季節外れにもほどがあるわ」
私がそう言うと、あんたは苦笑した。私は再び別れを告げて、夜を迎えた幻想郷を歩いた。
ーーーーーーー
—ねぇ、
あんた、消えちゃうんじゃないの
言えなかった。あんたの優しさに漬け込んだ私には、言える勇気がなかった。
辺りが紅い霧に包まれたころから、あんたはだんだん神社から出なくなった。
穢れが過ぎると転じて神聖なものになる、と聞いたことがある。外の世界では、あまりにも強い悪霊に畏れを覚えその霊を学問の神として祀ったということがあったらしい。
一度は本気で人類を滅ぼそうとしたほど強力な力を持っているあんたが、祀られてもないのに勝手に神と天に認められていたら。
信仰のない神はだんだん忘れ去られていずれ消えてしまうという噂が、本当だとしたら。
実のところ、私はそれが心配でならなかった。
あんたがいなくなる、そう聞いただけで、私は強い衝動を胸に感じた。この感情の正体は知っている。けれど、伝えるのが怖い。あんたが私を、私があんたを想っているような感情で見ているのも知っている。
だけど怖かった。思いが通じてしまうのが。もし私たちがいまより親密になったとしたら、私は耐えられないだろう。—あんたを失ってしまったときの喪失感に。
だから私は臆病だった。時として、あんたの全てを悟った瞳が恐ろしくもなった。
甘えている。あんたといる日々に。不安を覚えながらも、私は満足していた。—あんたといると、小さな喜びが何倍も嬉しく感じられるから。
それが間違いだとわかるのに、そう時間はかからなかった。
話は好きですけどちょっと短いかな~、と思いました。
ところで魅魔様の行方をですねry
確かに読み返すと短いですね‥参考になりますありがとうございます。
あとがきにも書いてある通り続きを明日あげるのでよろしければそちらもよろしくお願いします。
魅魔様は私が信仰しております故k(ry