割れそうなほど薄い命が今日も運ばれていく。
扉を空けると涼やかな鈴の音が鳴り響いた。
「こんにちは、珍しいものは入荷しましたか?」
「おや、今日は一人かい?」
「お嬢様は良い子だから寝てるんですよ」
咲夜はそう言いながら店内を見渡した。
珍しい物を集めるのが趣味な咲夜はたびたび香霖堂に赴く。
外の世界の物、魔法の道具、雑貨等。
幅広く扱っているのは幻想郷では此処しか無い。
「そうだなぁ。外の世界から流れてきた変わった食器と台車があるよ」
店主はそう言うと、店の一角示した。
皿には口を大きく開けている鬼が描かれていた。
台車は燃えている鬼が彫ってあった。
「皿の用途は手間を省く。台車の用途は物の温度を保持する。
どうだい、メイドの君にはピッタリの品物だと思うけど。
ただしワンセットじゃないと効果が発揮されないみたいんだ」
「手間を省くとは一体なんですか?」
「文字通り、試してみれば分かるよ」
「そうですね」
咲夜は軽く思案している様子だった。そして頷いた。
こうして何の問題も無く商談は成立した。
紅魔館に帰った後、咲夜は早速料理を始めた。
香ばしい匂いが立ちこめた。
咲夜は完成した料理を皿に盛ろうとした。
すると皿に描かれている鬼が手を伸ばし料理を盛りつけた。
「なるほど。手間を省く程度の能力ね」
咲夜は皿を台車に乗せ、廊下に出た。
カツカツと固い靴の音が響く。
カラカラと鳴る台車を押して行くメイド。
メイドは笑みを堪えながら誰も居ない紅の廊下を歩いている。
「今日はいい料理ができました」
楽しそうに独り言を言うメイドは大きな扉の前で止まった。
重々しい音共に扉が開かれた。
「お嬢様、お食事が用意出来ましたよ。
今日のは自信作です」
レミリアは不思議そうな顔した。台車に乗った空の皿を指さす。
「ちょっと、咲夜。私は仙人じゃないのよ。霞でも食べろって?」
咲夜はきょとんとした。
「おかしいですね。神隠しでしょうか?」
「隙間がこんなショボイ悪戯するかしら?まあ、良いわ作り直して頂戴」
「直ぐに作り直して来ますわ」
咲夜の姿が消えた。残ったのは料理を載せていた皿と銀の台車。
そして、機嫌が悪そうなレミリアだけだ。
ちらっと悪趣味な皿と台車を見て顔を歪めた。
「しかし、どういうセンスしてんだアイツは」
咲夜が再び現れた。
手に持つお盆には美味しそうな料理が乗っていた。
「お待たせいたしました」
今度の料理は消えずにテーブル上に乗った。
「待ちくたびれたよ。それじゃ、頂きます」
レミリアは美味しそうに食べている。
咲夜は嬉しそうにそれを眺めた。
「それにしても、先程のは何だったんでしょうか?」
「さあね、どうしても気になるんだったら知識人にでも聞けば良い」
そう言ったきり、レミリアは食事に戻った。
咲夜は腑に落ちなそうだ。
「ということがあったんですよ」
咲夜は昨日のことを掻い摘んで本に埋れた知識人に説明した。
「ふーん。不思議ね。でも大した害は無いんでしょ?ほっとけばいいのよ」
パチュリーは本から顔を上げずに気の無い返事を返した。
咲夜はコーヒーを入れながら、頭を傾げた。
あれは一体なんだったんだろうかと。
あの時、確かに皿に料理を載せ台車に置いた。
そして、料理が無くなったのは通路もしくは部屋の中でだ。
咲夜に疑問が降ってわいた。咲夜は時を止め走った。
パチュリーはコーヒーを飲んだ。
「咲夜、コーヒーお代わり」
パチュリーの声は虚しく響き渡った。
咲夜は昨日と同じ行動をした。咲夜は理解した。昨日何が起こったのかを。
「お嬢様、見てください。新しい手品です」
いきなり現れて、手品を見ろという従者をレミリアは怪訝そうな目つきで眺めた。
しかも、やたら楽しそうだ。
昨日、咲夜が買ったセンスの悪い皿と台車があった
咲夜はそれに出来立ての料理を乗せた。
そして、白い布で覆った。
「ワン・ツー・スリー。はい、なんと料理が消えてしまいました!!」
「それって、時を止めただけじゃないの」
「いいえ、違うんですよ。お嬢様」
やけに楽しそうな様子で喋る従者。
「種はですね。こうすれば」
咲夜は皿の上にパンくずを落とした。
すると、皿の鬼の口がパンくずを飲み込んだ。
呆気に取られるレミリア。
「なんと、生きてるお皿だったんです。」
「どう美鈴、すごいでしょ?芸の肥やしが増えたわ」
「時を止めれば出来るじゃないですか。
つか、その皿なんなんですか?」
「食べる手間も洗う手間も要らない魔法のお皿よ。いい買い物したわ」
という訳で欲をいえばもうオチにもう一捻り欲しかった
しかも面白いっていう……なるほどなあ
あ、誤字報告も一緒に
>そういった言ったきり、レミリアは食事に戻った。