ぐつぐつぐつ、と心地良い音が、静かに耳に流れてくる。
それとともにやってくるのは、甘い、ふんわりとしたミルクとバターの香り。
氷の妖精チルノは、足をぱたぱたとさせ、完成を今か今かと待ちわびている。
チルノの輝かんばかりの視線を一身に受けるのはレティ・ホワイトロック。
彼女はシチューを作っていた。
冬。
木々はその寒気に葉を散らし、動物たちは追い立てられるように棲家に籠もる季節。
空からは真綿のような、しかし、ひんやりと冷たい冬の結晶が、はらはらと舞い落ちている。
そんな中、一人の妖怪と一匹の妖精は、元気よく、とても楽しそうに冬景色の中を踊っていた。
「ねえ、レティ。冬って最強ね! こんなにキレイで、こんなに気持ちいいんだもの!」
「ええ。そうね」
誰もいない、白の世界を舞台に、二人は手を繋ぎ合い、くるくると回る。
「こんなに冬は最強なのに、誰もあそばないなんて、人間ってばかだね!」
「ええ、本当にね」
何も道具を使わずに、ただ飛ぶ、回る、笑う。
それが二人の『遊び』だった。
ステップもリズムも何も関係ない。ただ二人でいる。それが二人のダンスなのだ。
「あはははは! たのしいね、レティ!」
「楽しいわね」
レティはにこやかに、まるで自分の子どもに向けるかのような笑顔をチルノに見せた。
たのしいな。
こんな時間が、いつまでもつづけばいいのに。
そんなことをチルノは思った。
しかし、自由気ままに遊び続けた子どもの行き着く先は、空腹。
くー。
チルノのお腹は、これ以上ないほど似つかわしい、可愛らしい音を立てた。
「おお? レティ、おなかすいたよ!」
「あら、じゃあ私の家に行きましょうか。ご飯にしましょう?」
「うん!」
そうして二人は舞台から降り、ひと時の休息に向かった。
「今、シチューを作ってあげるわね」
「レティ、あたいもなんかてつだう!」
「あらそう? じゃあ人参とジャガイモの皮むきをお願い。できるかしら?」
「できるよ! ばかにしないでよ!」
ぷー、と頬を膨らませるチルノを見て、レティは微笑む。
「あらあら、ごめんなさい。じゃあ、よろしくね?」
「まっかせて!」
そう自信満々に言い放ったチルノが剥いた人参とジャガイモは実に前衛的なフォームに落ち着き『家庭的』や『味のある』という言葉で済まされるレベルを大きく逸脱した代物となっていた。
チルノが皮むき機を使った未来工作をしている間に、レティは手際よく他の食材を切りそろえ、鍋の準備を進めていた。
さっと湯通ししたほうれん草を水に浸して冷まし、玉ねぎとマッシュルームをバターで炒めた。そこに、チルノが痛めた食材を混入し、大きさという観点からの調和を大幅に乱す。
「……他に染まらない。最強のあかしね」
「……ありがとう。助かったわ」
「他になんかあるー?」
「ううん、もう大丈夫よ。煮込むだけだから。テーブルで待っててね」
「わかった」
ある程度食材に火が通ったところで、ミルクと、あらかじめ下準備しておいた鶏肉、チキンスープを入れる。
しばらくすると、コトコトコト、という音が聞こえてきた。
その音を待っていたかのように、レティはレードルを掴み、鍋の中を乱暴にかき回した。
「レティ、そんならんぼうにしていいの?」
「いいのよ。こうすることによって、ジャガイモが全体に溶け込んで、とろっとしたシチューになるの」
「ほえー」
コトコトコト、という音が、ぐつぐつぐつ、という鈍い音に変わったあたりで、塩コショウで味を調え、生クリームとほうれん草を入れる。これで完成だ。
完成したシチューをうつわに注ぐ。少し(?)ばらばらだけど、色とりどりの野菜が、雪原のように真っ白なシチューの中で輝いている。
ふわり、と漂ってくるのは、食欲を掻き立てるバターの匂いと、甘く、優しいミルクの香り。
レティは、テーブルに自分とチルノの分のシチューを置き、言った。
「おまちどおさま。手伝ってくれてありがとね。助かっちゃった」
「ほ、ほんと?」
チルノは、自分がした行為が『野菜を切る』という枠から飛び出している事に気付いていたのか、不安げにレティに訊ねた。
「うん? もちろんよ」
「野菜、ばらばらになっちゃったよ?」
「あら、味があっていいじゃない。家庭的よ、家庭的」
レティは使えない言葉を強引に使った。
「そ、そっかぁ」
へへ、とチルノは笑い、明るい笑顔で言った。
「レティ、大好き!」
「――――」
「レティは優しいし、やわらかいし、料理もうまい! だから、あたいはレティが大好き!」
二つ目は余計じゃないかしら? と思いつつも、レティは優しい笑顔で返した。
「私もチルノのことは大好きよ。明るくて、元気いっぱいで――――最強だからね」
ぱち、と最後の部分で可愛らしくウィンクを決めたレティには、雪女とは思えない暖かみがあった。
「……へへへ」
「ふふふ」
冬の権化とも言える二人がいる部屋は、しかし、確かな温もりがあって、レティとチルノの胸にほんわりとしたものを灯した。
「さあ、いただきましょう?」
「うん!」
冷たい二人の、暖かい夕食が始まった。
皮むき機を使った未来工作
最後のチルノとレティのほのぼのした空気が素晴らしかったです
イモは煮崩れするくらいが、んまいよな
確かに似てるなぁと思ったことはありますけどねwwその為に溶かしてやるなよとwww
煮崩すといいって言うレティさんの優しさに惚れた。
レティさんに究極に似合う料理はクリームシチュー。他に何かあったら誰か教えて。
カレーは煮崩れして味がぼやけるから入れるときは後入れにしてるけど、シチューは入れて煮崩したほうがいいのか。
いいこと聞いた。
チルノが痛めた
は良い表現ですね。
厄介なあとがきでした。
……うん、家庭的なんだよね。
俺は溶けた。
誰がうまいこと言えとwww
・・・氷点下くらいにな。
笑撃のラストに全俺が溶けた
笑撃のラストに全俺が溶けた
あとがきには「おぃぃぃぃぃぃぃィ?!」と叫んでしまいましたw
ああ分かってたとも、死亡フラグのシチューエーションだって事はな! シチュー的に!
それでも……それでもっ……レティチルときたら読まずにおられんだろう。
むしろ煮込む時の熱さに負けて、レティがシチューになるのかとハラハラしながら読んでいたら
ほのぼのな終りでいいなーって思って、裏切られたwww
今回のレティチルは、実に(シチューに)和(えられ)ました。
大事なことなので二回(ry?
それでも笑ってしまうのがOYAKUSOKU。
クリームシチューと聞いてびくびくしながら読み進めてオチでずっこけましたww
二人のつくりだすゆったりした空間を楽しんでいたら、まさかの裏切りっ
もう何も信じられなくなりました。
私の純心を返してっ
当たっちゃいましたね……。
>3
ありがとうございますー。
ありきたりな表現からの脱却を目指してみました。
まだまだこれからー。
>4
公式ではそんなに仲は良くないらしいですが、やっぱりこの二人は仲良い方がいいですよね。
>7
んまいですよね。
いもやわらか委員会でも立ち上げましょうか。
>夕凪さん
あとがきオチってのをやってみたかったんですw
>ずわいがにさん
こんばんはーづき!
ふっくらしてるとことか……ね。
>ぺ・四潤さん
いやまあ、私の好みなのであまり当てにしないほうがいいかもw
>勿忘草さん
チルノどんまい! ですね。
>15
まず最初にタイトルが浮かんで作った作品です。
ありがとうございますー。
>16
ふふふ、果たして本当にそうですかね。
>17
大・成・功!
>20
……味のあるってことですよね。
>リバースイムさん
私も溶けた。
>23
どうしてこうなった!
A、やりたかったから。
>26
大丈夫! 来年の冬に復活します。 たぶん。
>27
アニーおばさんにも似てるかも。
なんにしてもおばさんなんですねw
>28
う、上手いこと言ったつもりですか!
……上手いorz
>31
現実を見るんだ!
>32
ねー。
>36
ふふふ。成功してよかったです。
>39
シ、シチューアイス?
おいしそうかも!
>41
全私も溶けた。
>47
もにょもにょしましたか?
>名前も財産もない程度の能力さん
ありがとうございました!
楽しんでいただけたようで何よりですw
>58
上手いこと言う人が多いw
>Takuさん
立つんだTakuー!
>62
とみたけー
>H2Oさん
こんばん葉月ー!
二転三転はSSの基本!(一転しかしてないけど)
>67
フラーッシュ!
>71
それ二回言ってない!
>賢者になる程度の能力さん
ですよね。何もおかしいところなどない。
>75
これぞお約束の魔力!
>76
こんばん葉月ー!
いずれ怖い話なんかも……無理かなあ。
いや、挑戦してみなければわからない!
>77
爆発オチに通じるものがあるかもしれませんね。
>78
坊や、そうやって裏切られて、涙を流して大人になっていくのよ……。
……私は何者だw