Coolier - 新生・東方創想話

寝起きの行動って怖い

2010/03/10 18:09:32
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嫌な予感というのは、当たるものである。
人間よりも遥かに長く生きてきた妖怪でさえそう思うのだから、それは事実なのであろう。


「ただいま戻りました…と?」
太陽もすっかり昇り、里も活気づいてくる時間帯。
ナズーリンが野暮用を終えて寺に戻ってくると、玄関先にあって彼女を迎えたのは小さな虎柄の財布だった。
「……ご主人様の、だろうね」
落ちているそれを拾い上げて、眺めること数秒。ある種の予感を感じて、ナズーリンは頭を抱えた。



嫌な予感というのは、当たるものである。
ご主人様の話題に関して言うならば、絶対をつけてもいい。
長年使えてきた私が言うのだ。間違いない。

間違えたい。



「ご主人様、失礼します」
だが、もしかしたらあの財布は『出掛けに落とした』のではなく『帰ってきたときに落とした』のかもしれない。
そんな淡い期待をほんの少し持ちつつナズーリンは星の自室を訪れた。
本堂から少し離れた一室。簡素な畳部屋で、部屋の中央におかれた小奇麗な茶碗と奥にかけられた『失物注意』と書かれた掛け軸を除けば特に目を引くものもなく、生活感の少し薄い空間である。
しかしそこに、部屋の主はいない。
(…やっぱり)
落胆を見せることなくナズーリンは部屋を後にする。主人の行き先を確認する必要があった。

「―――ああ、聖! ご主人様がどこに行ったか知らないかい?」
「あら、どうしたの? あの子ならご飯を食べに出かけたと思うんだけど」
幸いその行方を知る者を探すのに手間はかからずにすんだが、そのかわりに把握した状況は最悪だった。
「いや、何でもない。少し出てくるよ」



まずい、すごくまずい。
土産屋の類ならば支払いの時点で誤って品物を返せば事は済む。
だが食事処となると話は別だ。気づいたときにはもう遅い。
せっかく里側の好意で里に居を構えられているというのに、寺から無銭飲食をする輩が出たとなっては信用がガタ落ちである。
布教に影響が出るのは勿論だが、それ以上に俗物的な問題があった。

命蓮寺は今財政難なのだ。
無銭飲食のフォローとなると、ローリングタイガー土下座とお詫びの手紙だけでは心もとない。
謝罪の品(別名袖の下)を調達しなければならないが、それを生活費の上からそんなものを捻り出す余裕は今寺にはないのである。

元々、聖についていくとなれば金銭的余裕というものとは縁遠い事になるのは予め分かっていたし、布教を利用した金策などあるはずもなかった。
だがそれに加えて、最近はムラサ船長が朝寝ぼけてアンカーを振り回して寺のあちこちを破壊するせいで、修築費が家計を圧迫していたのである。

…まあ、兎に角。
意地でも私はこの財布を届け、寺の財政と名誉を守らなければならないのだ。
ついでに目指せご褒美。



このままでは、主人が無銭飲食して店主に睨まれてそのあまりの凄みに逃げ出して千の風になって奇跡の風が吹いて桶屋が儲かって船長が起きて光の速さでアンカーを振り回してお前の錨でお寺がヤバイことになるかもしれない。
そんな予感をナズーリンが思い描いてすぐに振り払い、全力で主人を捜索しようと決意するまで僅かゼロコンマ数秒。

ナズーリンは子ねずみを駆使して星の行きつけの店を片っ端からあたり、数分にして星の居場所を突き止めて店に入った。
「ご主人様!」
星は食事を終え、今にも会計に席を立とうとしているところだった。
間一髪である。
「どうしました、ナズーリ…あ!」
ナズーリンが懐から取り出した財布を見ると、星は店内の注目を集めないように小さく悲鳴を上げた。



状況を察した店員には苦笑いされたが、なんとか大事なく二人は帰途につくことができた。
「やれやれ、間に合って良かったです」
「ええ、本当に。ありがとうございました」
「そろそろ財布を服に縫いつけることを考えた方がいいかもしれませんね」
「ぐぅ」
軽口をたたきながら、一方でナズーリンは不安を拭いきれずにいた。
何かを、忘れている気がする。
だがそれは、今朝の不安の一端が教えてくれる形になった。
「ああ、そういえばナズーリン」
「なんでしょう」




「今朝のムラサの寝起きは良かったんですか?」
「あ」




寺に帰ると、そこは瓦礫の山だった。
「星、ナズーリン…おかえり」
「一輪! これは一体どうしたんだ!?」
雲山を傘のようにして、ボロボロになった一輪が山の中から出てきた。
「今朝のムラサの血圧がすごく低くて…」
「なんと」
目の前の大事件の原因究明に、それ以上の言葉が要らないことに星は涙していた。
「それより、姐さんがまだ中に…!」
「!」
船長の素敵な寝坊とその寝覚めに関してツッコミを入れている余裕もなく、ナズーリンと星は聖の部屋(があった場所)に走った。
「聖!」
「聖、大丈夫かい!?」
声に反応して、聖は顔だけをなんとか瓦礫の山から出した。
「なんとか、平気です。怪我もしていないと思いますが…」
「良かった…動けますか?」
星が手を差し出すが、聖は全く反応しない。
ナズーリンが心配そうに声をかける。
「どうした? やはりどこか痛めて…」
「いえ、そうではなく。瓦礫に挟まれてしまって」
そこまで言って聖は一呼吸おき、震える声でその後を紡ぎ出した。






「首が、回りません」
「まあそうだろうなぁ」


寺はしばらくそのままだったという。
その後、ムラサ専属起床係が出来て初代係長にぬえが就任した。
すごくにやけていた。しかも鼻息が荒かった気がしたが気のせいだろう、多分
軟骨魚類
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コメント



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6.無評価名前が無い程度の能力削除
ぬwwwうぇwww
12.80名前が無い程度の能力削除
うまいねどうも


ぬうぇは自重
23.100名前が無い程度の能力削除
だれうまwww
31.90名前が無い程度の能力削除
なんぞこれwwwww
35.80ずわいがに削除
やべwwおもろいwwww
ていうか財布よりまずムラサなんとかしろwww
38.90名前が無い程度の能力削除
なん…だと…
39.90名前が無い程度の能力削除
>まあそうだろうなぁ
何という冷静な台詞www