季節は巡り、また春が近づく。
少し暖かくなってきた幻想郷、守谷神社の境内の掃除をしながら早苗は思う。
この胸のトキメキは、何時から感じるようになっていたのだろうか。
初めて霊夢に出会ったとき?
それとも……。
考えてみるが答えは出ない。
この気持ち、おそらく現実世界では常識外の枠に当てはめられるだろう。
しかし、早苗はこの気持ちを抑えられなかった。
なにより幻想郷の女性は魅力的だ。
その魅力に惹かれないわけがない。
「ふぅ……」
ため息が出る。
考えごとをしていたため、掃除をする手も何時しか止まっていた。
その時、ふと天を仰ぐと、そこに人影を見つける。
紅と白を基調とした、腋が空いているのが特徴的な巫女服を着ている少女。
噂をすればなんとやら、なのだろうか。
「やっほ、早苗」
「霊夢さん、どうしたんですか」
「いや、特に用事はなかったんだけど、気まぐれ?」
「気まぐれですか」
突然の訪問者に、早苗の胸は高鳴った。
目の前にいる美少女の姿に、見とれてしまう。
「どうしたのよ」
「あ、いえ、ちょっと霊夢さんに見とれてしまって」
「恥ずかしい言葉禁止」
早苗の言葉に、霊夢はそう言いながら照れ隠しをしながら、目線を逸らす。
さすがに、博麗の巫女とはいえ年相応の反応はするようだ。
その姿を見て、早苗の胸はさらにときめく。
「霊夢さん、神奈子様と諏訪子様に会っていかれますか?」
「ああ、別にいいわ」
「そうですか」
「まあ、適当にあんたを観察してるから気にしないで」
「観察、ですか」
意図が読めず、疑問が脳を駆ける。
何が目的で観察をしようというのだろうか。
「あの」
「何?」
「気になります」
「大丈夫、そのうち気にならなくなるから」
そう言うが、中腰で足に肘を付きじっと見つめられると、早苗でなくても気になるというものだ。
「やっぱり気になりますって」
「しょうがないわね」
早苗の言葉に、霊夢は中腰のまま早苗の視界から消える。
「……」
「……」
ザッザッ、と箒で地面を掃く音が境内に響く。
その音には、同じように地面を擦る音が混ざっていた。
早苗の視界に入らないよう、器用に中腰で、ちまちまと動く霊夢の足音だ。
全く視界に入らないように動いているのは、さすがは博麗の巫女というところだろうか。
何がさすがなのかは分らないが……。
「あの、霊夢さん」
「ん、何?」
「逆に気になります」
「むう、早苗ったら注文の多い子ね」
ぷぅ、と頬を膨らませながら、霊夢は早苗に抗議する。
「ちょっと早苗、血が出てるわよ」
「あ、すいません」
霊夢に言われ、早苗は空いている手の方で、持っていたハンカチを取り出すと鼻を拭う。
自然に、極自然に、鼻を拭う。
ぷぅ顔を見て血を出したなどと、気づかれたくはなかったのだ。
「ねえ早苗」
「なんですか?」
中腰だった霊夢は立ち上がり、早苗の顔を覗いた。
「キスしようか」
「え?」
突然の申し出に早苗の思考は停止する。
そんな早苗にお構いなしに、満面の笑みを浮かべながら、霊夢は早苗の目をじっと見つめていた。
思考は停止し、何も考えられなかった早苗は、霊夢の瞳の美しさに吸い込まれそうなる。
「キス……しようか」
「あ、あの」
二度目の申し出で、早苗は我に返った。
我に返ったといっても、目の前に霊夢がいることはさっきから変わっていないので、思考は乱れっぱなしなのだが。
霊夢の表情が、笑顔から真剣な表情へと変わっていき、手のひらが早苗の頬に触れる。
「早苗……」
「あ……」
早苗は嬉しかった。
何でこんなことになったのかは分らないが、霊夢からキスされるなんて、光栄の極みだったのだ。
霊夢の顔がどんどん近づき、覚悟を決めた早苗はそっと目を閉じた。
「……」
「……」
しかし、早苗がいくら待っていても、霊夢からキスがされる様子はなく、時間だけが過ぎていった。
実際どれほどの時間が経っていたのかは分らない。
数秒だったのか、数分だったのかもだ。
しかし、そんなただ待つだけの時間に不安が過ぎる。
そして同時に早苗の心に去来したのは、漫画やアニメ、ドラマでよくあるシーンだった。
キスをしようとしながら、実はキスをするつもりなどなく、『冗談だよ』なんて言って笑うのだ。
限界だった。
早苗は目を開ける。
そこには……、
頬を真っ赤に染めて、狼狽している霊夢の姿があった。
目を閉じる前までの、冷静な表情からは想像もできない姿だった。
「あっ……」
早苗が目を開けたことに気づき、いたたまれなくなったのか、霊夢は視線を外す。
「霊夢さん」
「早苗……」
呟いた後、申し訳なさそうに、頬に触れていた手を離し一歩下がる。
「本当はさ、気まぐれでここに来たわけじゃなかったのよ」
「え?」
「この幻想郷には現実離れした奴ばかりが多いから、あんたみたいな奴が珍しかった。最初は本当にそれだけだった。でもいつの間にかそんなあんたに惹かれていたのよ。とはいえ最近のあんたも幻想郷に染まりつつはあるけどね。それでも……」
早苗は驚いていた。
突然の告白だったが、これは告白というより、溜まったものをぶちまけるような感じだった。
諦めの境地とでもいうのだろうか。
誰にでも、もうだめだと思ったとき、何かを吐き出したくなることがある。
まさにそんな……。
「ごめん、帰るね」
言うだけいって、霊夢は踵を返し空に上がろうとした。
「待ってください!」
早苗は、そんな霊夢の腕を掴み抱き寄せる。
このまま帰すわけには行かなかった。
女は度胸。
早苗はキスを待っていたときよりも、強く覚悟を決める。
「キスしましょう」
「え?」
立場逆転。
「キス……しましょう」
「あ……」
息が掛かる距離。
やっと今の事態を理解したのか、霊夢はそっと目を閉じた。
目を閉じた霊夢は可愛かった。
少し、目尻に涙が溜まっていたのは、嬉しさか悲しさどちらの涙だったのだろうか。
嬉しさであって欲しい。
早苗はそう思いながら、霊夢を抱き寄せたままそっとキスを交わした。
こう言う直球勝負のSSも、いいですねぇ~
ただ、ちょっとボリュームが足らなかったのが残念。
でももうちょっと長くしてもよかったかな?
霊夢サイドで早苗さんを意識していく過程があるともっとよかったかも。
だがそれがいい!!
もう少しボリュームがほしかったけど
糖分は多めでバランス良かったと思う。
続きは期待して良いのかね?