Coolier - 新生・東方創想話

メリー&エリーのワンダースペース

2010/03/09 02:04:22
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「メリー! これで対戦しましょう!」

 その日蓮子が私の部屋に持ってきたのは、今や電源すら入るかどうかも怪しい機械だった。
 
「なに、それ」
「なにって……ファミリーなコンピュータに決まってるじゃない。 見たことない?」

 獲物をガラスのテーブルに広げながら、蓮子は意外そうな顔をして見せた。
 知らなくはない。
 多分、蓮子の国の人たちならば大部分が知っているであろう、ビデオゲームの本体。
 ハードとも言うらしいそのベージュ色の物体は、ただでさえ独特だった色合いを、さらに汚れで悪化させていた。

「知らないわけじゃないけれど……どこから持ってきたのよ、そんなの」

 どうにもゲームショップなどで買ってきたとは思えなかった。
 なにせ、汚い。
 ところどころシールがベタベタ貼ってあったり、煙草のヤニだらけなわけで。

「拾ってきたのよ。 アパートの近くにね、大きなゴミ」
「ストップ。 私たちの友情の為にもそれ以上言わないで」

 親友のセリフに、そこそこキレイ好きな私は一息で拒否の姿勢を示して見せた。
 できれば当たってほしくはなかった予想。
 そうやって私が見えない涙を流しているにも関わらず、蓮子は私のテレビにコードを繋ぐのに夢中だ。

「レトロゲームは娯楽に飢える貧乏学生の味方よねっ」
「……蓮子、今度一緒にリサイクルショップ行ってこようか」
「あら、デートのお誘い?」

 デートでもなんでもいいから、もうこういうのはこれっきりにしてほしい。
 スーパーでファミリーなコンピュータならば野口英世が三人もいれば足りる昨今に、ゴミ漁りをしてまで娯楽を手に入れるワイルドな親友はできればほしくない。

「よしっ、これで大体準備完了ね!」
「ワー……」

 パチパチパチ。
 ……あとであのテーブル拭いておこう。
 その時、蓮子の周りには拍手喝采の幻が、私の周りには憂鬱な空気が存在していたのかもしれない。
 私が持っているテレビはかなり古いものだったのが幸いしたのか、数本のコードはちゃんと正しい位置に接続されていた。

「さあメリー! 今日は朝までレッツプレイ!」
「ゲームは一日三十分までだそうよ」

 現在の時刻は、夜の八時。
 まさか六時間以上するつもりか。

「さあさあさあ、レースゲーム!? パズル!? それとも格ゲーかしら!?」

 そちらも拾ってきたのであろう、小ぶりな箱に入った数本のゲームを手にとって目を輝かせる蓮子。
 ……どうでもいいが、FCの格闘ゲームなんてあるのだろうか。
 そういうのに詳しい友人がいれば教えてくれるのだろうが、あまり興味はない。
 新たな問題が発生した。

「……これ全部一人用じゃないかしら?」
「あ、ホントだ……」

 ドラゴンだのファイナルだのエムブレムだの、勇ましいものにはじまり。
 『母親』とかミシシッピ云々、魔界の村など、面白そうなタイトルのものもあったのだけれど。
 ソフトと一緒に収められていた説明書を見た限りでは、明らかに友人同士でしのぎを削り、時には友情すらガリガリと削ってしまうような仕様ではないようだった。
 
「バンゲリング……マイクがないから却下」

 どうやらコイツは友情を削る気満々だったようだ。

「もー! せっかくメリーと熱い夜を過ごそうと思ったのにー! 捨てたやつ絶対友達いないっていうか空気読め!」

 別の意味での熱い夜なら割と歓迎なのだけれども。

「そんな過ぎたことを言っても……ほら、二人で協力して同じソフトをプレイすればいいじゃない、ね?」

 せっかくだからそのままずっとプレイしていてもらおう。
 多分横から蓮子を観察してるだけでも楽しいだろうし。
 
「むー……何か飲み物ちょうだい! 今日中にクリアしてやるわ!」
「はいはい。 オレンジでいい?」

 台所で見物料をグラスに注いで戻ると、蓮子はあるRPGをプレイすることに決めたようだった。

「せっかくだし、主人公の名前をメリーにして、恥ずかしい台詞言わせてやるわ……」
「えー」

 この世界は俺が守る! とか言っちゃうのかしら。
 それはちょっと遠慮したいと考えていると、少し蓮子の頬が染まった。
 
「ヒロインの名前は私ね」
「承認」

 ツンデレ最高。
 世界はどうでもいいけど蓮子は死んでも守るわ。
 とりあえずソファーに座りながら、クッション片手に蓮子を応援することにした。


『ああ こきょうの むらが …』

 割と序盤からシビアな内容だった。
 村の狩人めりーは、幼馴染のれんこを謎の騎士にさらわれ、自らの故郷を焼き払われてしまった。
 というか序盤はいちゃいちゃはお預けなのね。
 終盤でちゅっちゅできるなら別にいいけど。

「意外とっ……敵が……強いってあああああ……」
『ぜんめつ してしまった …』

 どうやら故郷の村の北は強さがけた違いの魔物とエンカウントするらしかった。
 そのことに私はすぐ気付いたのだけれど、コマンドを入力したり、ダメージを受ける度に体全体でリアクションを起こす蓮子が面白かったので黙っておくことにした。
 なんとか北はタブーであることに気付いた主人公めりーは、西にある都を目指すことになったようだ。

『れんこ まっていてくれ … !!』
『かならず きみを … !!』

 うわ……熱血な主人公だとは思ったけど、結構恥ずかしい……。
 私の名前を借りてるのにそんなこと言わないでほしいわ。
 でも蓮子を照れさせたのはグッジョブ。
 順調にレベルを上げていくめりーの前に、ある人物が現れた!

『おまえも あのきしを たおしに いくんだろう !?』

 なにやら仲間になってくれるようだ。

『なまえを にゅうりょく』
「げ、もう名前考えるの面倒くさくなってきたのに……」
「まだ私と蓮子だけじゃないの」

 ネーミングの手助けをしようと、説明書の登場人物紹介を開いてみた。
 男勝りな女戦士で、ちからとまりょくが高いバランスタイプらしい。
 そして、この手のマニュアルにありがちらしいネタバレが掲載されていた。

「あら、この子主人公のこと好きになっちゃうのね」

 幼馴染と恋の鞘当てを演じる、らしい。

「ふぅん」

 面白くなさそうに蓮子は、思いついたらしい名前を入力していく。

『もりおか でいいですか?』

 聞き覚えがある名前だった。

「え、森岡?」
「うん」

 私と同じゼミの学生。
 最近話すようになったが、趣味が合うので結構仲がいい。
 将来は世界中を飛び回る仕事をしたいんだとか。
 ただ、その女戦士につける名前としては少し違和感があった。

「えっと、森岡『くん』は男なんだけど?」
「名字だから問題なし」

 う、なんか蓮子がそっけない。
 もりおかは意外に強かった。
 現在唯一の回復魔法の使い手なせいか、ボス戦でも活躍していた。
 ただ、蓮子の顔からはいまいち感情は読み取れず、先ほどのそっけなさの原因はわからずじまいだった。
 セーブして、進めて、セーブして、バグが発生して、やり直し。
 それを繰り返していくうちに、ついに謎の騎士がいるらしい、都の怪しげな館の近くまでやってきた。
 仲間も増え、主人公めりーのレベルも二十を超えるほどになっていた。
 ちなみに一番レベルが高いのはもりおかで、戦闘での貢献度を如実に表していた。
 蓮子は相変わらずオーバーなリアクションで、夢中になってプレイしていたが、私はそろそろ飽きが来ていた。
 というか、眠い。

「うー……目がしょぼしょぼするぅ」
「んー?」
「なんでもなぁい……」
『ここは kjoあaなまえ1さまの やかた …』

 またバグだ。
 ゲームの進行に支障はなさそうだが。

『わたしは もんばんを している えりーです !』

 怪しい館の前では、大きな鎌を持った女が門番をしていた。
 しかし、結構女の子多いわねこのゲーム。
 普通こういうのは男の子向けだから、男の人だらけだと思ったのだけれども。
 もしかして謎の騎士の正体も美少女だったりして。
 気になるところだが、そろそろ私も限界だ。

「おやすみぃ……」
「んー?」

 意識が完全に落ちる直前に、ゲーム機に結界が見えたような気がした。



「……また?」

 自宅に居ながら夢旅行なんて、心の休まる暇がないわ。
 今回はまた、いつにも増して妙な場所に出たみたい。
 私はどこかの建物の中にいるようだ。
 しかし、窓から空を見上げれば、蓮子が持ってきたゲーム機よりもひどい色合いの空間が広がっていた。
 つるやらコケやら増え放題のままにしてあったのか、壁はもうボロボロだ。

「うわっ、きたない……」

 手近な家具の表面をこすれば、たちまち指は真っ黒になってしまった。
 ここは寝室のようだ。
 ほこりだらけだが、ベッドやクローゼットもある。
 背後にあったドアを開けて、廊下を過ぎ、階段を降りていく。
 最初は、ここを幽霊屋敷のようだと思っていた。
 しかし建物の中を進むうちにその認識は間違っているような気がしてきた。
 なんの気配もないのだ。
 寒気もしないし、怖いとも思えない。
 どちらかといえば、そう。

「寂しい場所ね」

 埃が多いだけで、装飾品などは大して破損していないから、余計そう感じるのだろうか。
 そうして歩いて行くうちに、エントランスらしき場所にたどり着いた。
 天井にある豪勢なシャンデリアが、外からの光をわずかに反射していた。
 大きな扉を開けると、少し体感温度が下がった気がした。
 外だ。
 先ほど窓から覗いた不可思議な空が、直に私を見下ろしていた。
 広大な庭園に挟まれた通路を進んでいく。
 昔は色とりどりの花が咲き、美しく彩られていたのだろう花壇には、一切の命も感じ取れなかった。
 そして、最後に私を待ち受けていたのは立派な門と。

「何、これ……切断されてる?」

 門から数メートル離れたところには、はさみか何かで空間を断ち切ったような断面があるだけだった。
 この場所は、一体何なのだろうか。
 外からの来訪も、外への脱出も拒み続けているのだろうか。

「そこから先は行ったらダメですよ」
「あ、はい……?」

 突然、背後から声をかけられた。
 驚きよりも、人に出会えた安堵が勝ったのか、きちんと返事はできたと思う。
 その人は、なんというか変だった。
 真っ赤な洋服を着て、つばの広い白い帽子を被っていたのはまだいいとして。
 大きな、逆刃の鎌を持っていた。
 しかも柄が曲がっていた。

「あなたは、どちらさま?」

 むしろ、逆に聞き返したかったが、我慢した。

「メリー、です」
「あ、わたしと似てますね、名前」
「?」
「わたしは、エリー。 この夢幻館の門番です」

 なぜだか、その台詞に既視感を覚えた。

「あ、本当……」

 夢幻館。
 エリー。
 変な色の空。
 わけのわからないことだらけだ。

「ねえ、メリーさん」
「はい?」
「あなたは、どこにも行かないよね?」

 ゾクリ、とした。
 薬物中毒者が仲間を見つけたかのような、愉しそうな表情。
 大鎌の鈍い光。
 この人、ヤバいかもしれないと、直感が警鐘を鳴らしている。

「例えば、ですね」

 鎌が物理法則を無視して変形した。
 逆刃の、逆刃。
 人の首を狩るのに適した武器が、私の首にかけられた。

「大事な人に残されて、その人が飛び出して行ったまま帰ってこないとか」

 また鎌が変形する。
 殺傷力のない刃が、首筋に押しあてられる。
 そのまままた変形すれば、私はデュラハンにでもなるのだろうか。

「しかもその大事な人が、別の誰かに興味を持って、触発された結果だったりとか」

 品を吟味するかのように、優しく私の顎を指で押し上げるエリー。
 その目はまるで、この空のように不可思議で。

「そういうのって嫌いなんですよね」

 なに、を言っているのか。

「さっぱ、り、わからないです、よ……」
「でしょうね」

 楽しそうに、エリーは私を解放した。
 首筋にまだ鉄の冷たさが残っていて、生きた心地がしない。

「でも本当に、ダメですからね、そういうの」

 でも本当に、私にはエリーがわからない。
 どうして今度は狂気の欠片も感じさせない寂しそうな表情をするのよ。

「好きな人に私みたいな想いさせたら」

 エリーの顔が私の眼前に迫る。

「むかえに、行きますよ?」
「一体何のこと」

 ニヤリ、とエリーは笑った。

「『もりおか』」

 息が止まったかと思った。

「なんで、知って」

 この前、告白されたけど。
 一緒に世界をまわろう、とか言われたけど。

「まあ、結局どうするかはあなたの自由ですけどね。 でも」

 私の言葉をさえぎって、エリーは勝手に言葉を続ける。
 でもね。
 ちゃんと振り返ってあげてね。



「……ん」

 気付けば、私はクッションに口づけしていた。
 うわ、よだれだらけになっちゃった。

「なんだっていうのよ、エリー……」
「くー……」

 蓮子も睡魔に敗北したらしい。
 仰向けになって眠っていた。

「風邪ひくわよ、もう」

 エリー、大丈夫だよ。
 私はどこかに飛び出す暇なんてないもの。

「こんな子から目を離せるわけ、ないでしょ」

 寝室から毛布をとってこようとして、ふと画面を見れば、門番を倒したところで力尽きてしまったことがわかった。

「……あそこってゲームの世界だったのかしら」

 ゲーム機に結界が見いだせなくなった今となっては確かめる術もないけれど。

『れんこを しあわせに してあげなさい !!』
「いわれなくてもわかってるわよ、もう……」

 あんな怖い思いは勘弁。
 寂しい思いも、ね。
 とりあえず、セーブぐらいはしてあげよう。
 などと考えつつ、私は『えりー』ともう少しだけ話すことにした。
 『しかたないじゃない しかたないじゃない ぶらんく あったんだもの』
 「……負け惜しみ?」

 前回のエリー話の続きというわけでもないけれど、死神みたいなエリーを書きたかった。
 そんなリーオです。
 ファミコンはやったことないのでソフトのラインナップとか知識がかなりびみょんです。
 ああっ石投げないで!!

 長々とお付き合いいただきありがとうございました!

 追記:リーオ(リーオ ◆Y1l..MJs7w)です。
    コメントありがとうございます。
    また、作家スレの皆さまも感想ありがとうございました。
    ひとまず、書式を変えてみました。
リーオ
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コメント



0.1040簡易評価
7.80名前が無い程度の能力削除
もりおかを見てもりそばを思い出した
蓮子は嫉妬してたんですかねえ
めりーと一緒に冒険するのは、やっぱり もりおか よりも れんこ ですね

あとゆうかりん。たまには夢幻館に帰ってあげて
10.100名前が無い程度の能力削除
なるほど、そう絡めてきましたか。
実際のところエリーが死神なのかはわかりませんが、そうでなくとも一人の少女としてしっかり描かれていたので良かったです。
名前が似てるって言うだけの一発ネタじゃなくて、あくまでそれはおまけ程度にしか感じさせない展開に感心しました。
11.100名前が無い程度の能力削除
これは面白い。エリーさんかわいい。
ゆうかりんが帰ってあげる話に期待
13.70名前が無い程度の能力削除
あぁん、このエリーさん可愛いわぁ……。
16.80名前が無い程度の能力削除
何が悲しいって、蓮子の懐具合が……。
話自体は楽しめましたよー
17.80名前が無い程度の能力削除
二人のやりとりは面白かったです
けどちょっと唐突だったかなぁ
テンポももう少し早いほうがいいかも